本年もどうぞよろしくお願いいたします。
ガルシルド邸潜入を終え、翌朝……
「おはよー……八神?」
「…………」
「あのー八神さん?」
「…………」
八神の機嫌が悪かった。……あれ?もしかして、抜け出したことバレた?
「ああ、十六夜か」
「そうだけど……どうした?なんかあったか?」
「別に。なにもない」
怒ってるんですけどこの人……!?朝からマジでやらかした……?え?思い当たる節が大量にあってヤバいんだけど?どうする?今までのやらかしを誠心誠意込めて謝罪をするべきか?
「練習に付き合え」
「……はい?」
そう言うとそのまま歩いて行く。こっちの返答を待たずにだ。
「……一体、何があったのやら」
心当たりはあるけど。いや、ありすぎるけども。ありすぎて正解に悩むけど。……でも、よく考えれば八神はオレが裏で動いてること知ってると思うし……多分。それじゃなければなんだ?一体、何が原因だ?
『負けたんだよ、昨日の夜ね』
と、頭の上に乗っかったペラーがそう答えた。
「……負けた?」
『うん。Lって名乗る男が現れてね。姐御とサッカーの勝負をしたんだ』
「それで?」
『Lが姐御を軽くあしらえる実力者でね……あっさり負けちゃったんだ』
「……っ!?」
おいおい……あの八神が簡単に負けるだと?練習相手になってもらっているオレから見れば、今の彼女は贔屓目抜きでもかなりのレベルだぞ?少なくともジェネシスに居たときよりはレベルが上だし、もしFFIが少年の大会じゃなく、少女もオッケーな大会なら日本代表に選ばれていてもおかしくないレベル。下手しなくても、今のイナズマジャパンのメンバーとほぼ同格だぞ……?
『何度も挑んでいたけど、一度も勝てなかったんだ』
「Lって何者だ?」
『分からないけど……少なくともこの島に居る10ヶ国のいずれの代表選手でもない』
「代表選手って……」
『うん……綾人たちと同年代だよ』
同年代……代表でもないのに、その実力か……
『それと、綾人が最近行動している相手をシスターって言ってた』
「……おいおい、心当たりは……あるとしたら、アイツくらいしか……」
Aと共にオレたちを助けてくれたフードの少年……Lと名乗っていることからもあり得ない線ではないだろう。
「それで、八神がアレか……負けず嫌いだもんなぁ……」
『綾人も人のこと言えないけどね』
「うっ……」
『ただ……Lってヤツは綾人よりも強いと思う。……ううん。この大会に出ている誰よりも……』
「……少なくとも大会参加者じゃないんだったら、オレたちと試合する……みたいなことはねぇんだろ?立ちはだかる相手ではない。とりあえず行こうぜ、八神に怒られる」
もし、Aと共に居たヤツなら、今は味方なはずだ。だから倒す……ってことは考えなくていいはずだ。……ただまぁ……
「
相手は同年代で、直接相対してないのに、その評価を下されていることにはムカつきを覚えるな。
『……それに、Lは……ううん、いっか。彼から敵対心は感じなかったしね』
日中は八神の特訓に付き合ったり、個人練習をしたりして過ごして、夜になった。
「なるほどねぇ……こっちのデータもヤバいな」
昨日盗んだ2つのデータをAと一緒に見ている……が、ガルシルドって男は予想以上に危険な男らしいことが分かった。
「RHプログラム……強化人体プログラムか。……複製プログラムの比じゃねぇだろこれ……」
諸々の身体能力アップは当然として、精神すらプログラムの授けた人間が操れるとんでも代物。
「……RHプログラムで人間兵器を造り出して、そいつらを兵士にして戦争を優位に進める……とんでもねぇことをやろうとしてるな。デモーニオはこの実験台ってことかよ……」
誰かのコピーを作るなんて次元じゃない。ただの人間を兵器に変える。ジェネシスのハイソルジャー計画を凶悪にさせたようなプログラム。しかも、このプログラムを完成させるまでに既にかなりの人間が犠牲になっている。そんな犠牲の山の上に作られた最悪のプログラム……か。
「……やっぱりつまらないわね」
「…………」
「ただの人間をいくら強化しても、人智を超える力を持つ特別な存在には勝てないというのに……」
「…………?」
よく分からないがAがとても冷めた目をしていた。
「で、この後はどうするの?これをこの島の警察に出す……なんて愚かな真似はしないでしょ?」
オレの視線に気付いたのか話を進めようとしてくる。
「まぁな。この島に在住する警察は恐らくガルシルドの手の者だ。全員が全員そうとは言えないが、トップが買収されていて出したとしてももみ消される可能性は十分ある。それに、大会運営者が真っ黒なら、運営委員会も真っ黒だろう」
「よく分かっているじゃない」
「その辺は考えがある……明日からしばらく出掛ける日々が続くな」
「そうね」
「それと……これだな。RHプログラムと一緒に奪ったデータ……これが事実かどうかを確認する」
「ブラジルエリアへ潜入でしょ?ザ・キングダムの選手たちが人質を取られている……それを確かめるために」
「ああ。そして事実なら、早急にガルシルドを失脚させないとマズい。……ほんと、予選リーグでザ・キングダムと一緒じゃなくてよかった。こんな事が起きているなんて知ってたら、アイツらが戦えたか分かったもんじゃねぇ」
「グループBで今のところザ・キングダムは全勝……決勝トーナメント進出はほぼほぼ決定しているものね。あなたたちも上がって、このまま戦うことになったら、イナズマジャパンは戦えなさそうだからね」
「まぁな。だから、その前に食い止める」
ブラジルエリアへ潜入と、手に入れた武器を使える人たちへのお願い……間に合うといいんだが……とりあえず、明日から行動開始だな。……で、Aが居るうちに……
「ん」
「……サッカーボール?どうした急に?」
「次にあなたが言うことは『そういや、昨日の夜に日本エリアに来たLと名乗る少年はお前の知り合いで合ってるか?』で、『お前も強いのか?』という流れになる」
「…………」
前々から感じてはいたんだが……コイツ、オレの行動、言動をどこまで見透かしているんだ?ここまで来ると恐怖でしかねぇよ。
「あなたは勝負を受けないと引き下がらない……そのやり取りが面倒。だから、勝負してあげる」
「へぇ……随分自信があるな」
「自信?だって、あなたが私に勝てないのは必然……決定事項なんだから」
「…………言ってくれるじゃねぇか」
「私、1対1なら無敵だから」
そう言って線を引き始める……これは……
「フィールド?」
「一応ね」
「ルールはどうする?」
「オフェンス側とディフェンス側に分かれて1対1をやる。オフェンス側はそこに引いた線からドリブルを始めて、反対側のあの線をドリブルで超えたら勝ちになる」
そう言ってAは指をさす。長方形のフィールドの端から端までドリブルしろってことか。
「ただし、サイドの線は超えてはダメ。その線をボールが超えるかオフェンス側の足がついたらディフェンス側の勝ちになる。もちろん、ディフェンス側がオフェンス側から奪っても、ディフェンス側の勝ちね。後、必殺技は使用可能。ただし、試合でファールになるようなプレーの禁止。……こんな感じでいい?」
「ああ」
「あなたがオフェンスで1本やって、その後ディフェンスで1本。それを3セット繰り返す。オフェンスで勝ったら1点。ディフェンスで勝っても得点は入らない。3セットやって最後に得点が多い方の勝ち」
「分かった。もしも引き分けなら?サドンデスでもやるか?」
「意味のない質問。面倒だからあなたの勝ちでいい。……そして宣言してあげる。この勝負は3-0で私の勝ち」
「…………」
オレはボールを受け取りスタート位置につく。
「その言葉、後悔させてやるよ」
「御託はいいからやってみたら?」
ボールを足裏で転がしながら状況を整理する。フィールドのサイズ感的に、サイドの間隔は広すぎず狭すぎずという感じ。基本的には相手とマッチアップして正面からぶち抜くことが想定されている。足下が砂浜だからボールが止まる可能性を考慮しないといけないが……
「様子見?」
「まぁな」
大前提として、オレはコイツに関するデータが揃っていない。どんなプレーをするかさっぱり分からない以上、無策で挑むのは危険だ。
「そう」
しかも、Aのヤツは構えていない。ただそこに立っていて、隙だらけに見える。それなのに、オレの中のセンサーが警戒レベルを上げろと催促している気がする。
「焦らしてる?時間制限でもつければ良かったかしら?」
「それは必要ねぇよ。そろそろ腹括るから」
大体の感触は掴めた。この一本はとりあえず……
「無駄」
「……っ!?」
フェイントを仕掛け、相手の出方を伺いつつ隙を見出して突破する……そう思っていた。
「これで私の勝ち」
Aの横を突破する瞬間、彼女は足を伸ばすと横からボールに当て、ボールだけを外へと弾き飛ばす。そして、伸ばした足をオレに当てないようにオレの進行方向にあわせて一回転した。
「フェイントのキレは申し分ないし、タイミングも良かった。私以外には通用したと思うよ」
くるっと回り伸ばした足を地面につけるとそう言う。そのまま茂みの方に飛んでいったボールを取りに歩いていった。
「……何だ今の……?」
オレとしてはミスしたわけでも、隙を作ったわけでもないはずだ。いや、そう思っているだけか?そう思っているだけで何かミスをしたのか?……なんだこの気味の悪さ……あんなにあっさり奪われた……?あんなタイミング完璧で、ピンポイントにボールだけを弾き飛ばしてきた?タイミングが少しでもズレていれば、オレの足に当たっていただろ。避け方まで完璧で……
「準備できた?」
「……っ!ああ……」
切り替えろ、次はディフェンスだ。この勝負の後に考えればいい。まずは様子見だな。
「……目に紫色の炎?が灯っている……のか?」
「ああ、これ?炎じゃなくてオーラだけど……まぁ、気にしないで」
相対して気になるのは、彼女の目には紫色のオーラが炎のようにゆらゆらと揺らめいている。そう言えば、さっきもこんな感じで紫色のオーラが出ていたな。必殺技なのか?彼女は何か必殺技を使っている?でも、そんな目に現れる必殺技なんて今まで見たことねぇし、必殺技だとしたら一体何なんだ?
「中々のキレだな」
「どうも」
必殺技の正体は分からないが、彼女の技術レベルはそこそこ高い。……だが、何かがおかしい。1対1なら無敵と言う割には、彼女の技術レベルはそんな高すぎるほどじゃない。フィジカルもオレよりあるとは思えないし、スピードで突破なら今こうしてフェイントを仕掛けている理由が分からない。
見て分かるパラメータだけだと、オレは彼女に負けているとは思えない。能力値だけで見たらコイツに負けていないはずだ。……だからこそ、この気味の悪い感覚が拭いきれない。
「……おっと」
そんな疑問と分析を進めながら突破させないように相対する。そんな中、フェイント中にボールが砂に取られて転がらなくなる。フィールドが砂だから予想はできていても、それが起きたときに即反応出来るかは別。見せた隙……仕掛けるなら今……!
「なっ……!?」
「ごめんね。本当だけど嘘だから」
ボールと彼女の間に割り込むため、足を伸ばして身体を割り込ませようとする。対してAは冷静にポンとボールを蹴って、オレの股下を通過させ、自身もオレを躱す。
「クッ!まだ……!」
伸ばした足を地面につけ、反動をつけて勢いよく反転。まだ線を超えていないこととドリブルのスピードからギリギリ追いつく……
「追いつい……は?」
「このタイミングで来るって知ってたから」
オレが彼女の前に出たと同時にボールはオレの顔の前を通り、頭上を超えていく。Aはオレを躱して直進し……
「私の勝ち」
「…………」
振り返ったときには彼女はラインを超えていた。……いや待て、どうやって分かった?アイツは振り返っていない、こっちを見なかった。それなのにオレが目の前に現れるタイミングをどうやって計った?どうやってオレの現れる位置まで把握していた?あの瞬間、どうしてオレの目の前にボールはあった?
「さぁ、2ターン目だね」
一体、何をしたんだこのバケモノは……?
「これでいいでしょ?3-0で私の勝ち」
「……何者だよ、お前?」
「あなたの協力者で、サッカーが上手い女の子」
「…………」
「ああ、悔しがらなくていいよ。どうせ、この世界に私に1対1で勝てる人なんていないんだから」
あの後もオフェンスは2回ともボールを弾かれ、ディフェンスでも止められなかった。
「何かの必殺技か?」
「さぁ?それならあなたの得意分野でしょ?」
「可能性があるとすればお前の目のオーラの正体……今は見えないことからアレが何か関わっている。だが、結局見破れなかったし、対策も出来なかった。オレの負けだ」
「潔いわね」
「……次は勝つ」
「面倒……勝負はこの一度きり。もう一度受けて欲しかったら、さっさと問題を解決することね」
「分かったよ。解決したら相手しろよな?」
「覚えていたらね……ただ、1つだけ不要だと思うけどアドバイスしてあげる。あなたの使える未来視は便利なモノじゃないから」
「……と言うと?」
「答えは自分で見つけて。……じゃ、私はこれで。明日の午前9時、ここで会いましょう」
そのまま帰るA……なんというか……
「必殺技……それだけじゃ説明がつかないんだよな……」
アイツが呼び出せる透明なペンギンも居なかったし、目からあのオーラを感じただけで、動きに特別なものは感じなかった。オフェンスもディフェンスも技量は確かにある。……だが、敗因が説明できない。必殺技だけでも、技量だけでもない。ただ、感じたのは……
「久々に感じた……この感覚は
言い方は置いといて、Aがこんなヤベぇレベルのヤツなら、一緒に居るLとやらもヤバいレベルなのは頷ける。
「こんなヤツがまだ居るとか……この世界ヤバすぎだろ」
上には上がいる……その言葉を体現しているな、マジで。……だが……アイツに今のままだと勝てるビジョンが見えなかったのは事実。
「もっと、強くなるしかねぇ……か」
そう宣言してオレは戻るのだった。それにしても、未来視は便利なモノじゃない……か。
「……そういや、準備よすぎじゃねぇか?アイツ……まるで、今日この展開になると分かっていてサッカーボールを持ってきていたような……」
これは偶然か、或いは必然か……まぁいい。明日も早いし、今日は帰って寝よう。
「まぁ、シスターは世界最強だからね……誰も勝てるわけないってのに。でも、シスターがあわせて6本も相手するなんてね。シスターの勝利は決定していたんでしょ?」
「ただの気まぐれよ」
「もしかして……十六夜綾人ならシスターに勝てる可能性があったから?覆して、勝てる未来が存在したかもしれないから?だって、同じ力を持っているんだから……」
「……ブラザー。力ってのは持つ人次第よ。自分の力をまだコントロール……いえ、認識すらしてないなんて、力を持つだけ無駄よ」
「厳しいね……仕方のないことだとは思うけど?……それで?何度も接触して、十六夜綾人を早く覚醒させて、一体何がしたいの?」
「いずれ分かるわよ」
「いずれ……ね。出来れば教えて欲しいんだけど……」
「面倒」
「はいはい。じゃあ、これだけ答えてよ。十六夜綾人の未来視が便利なモノじゃないってどういうこと?」
「まず、アレが効果的に発揮できるのは1対1じゃなくて、もっとゴチャゴチャした戦場。こういう1対1では十分な力を発揮できない」
「そうなの?相手の取る選択を読めたら強いと思うけど……」
「そうね。でも、相手が実力者だったら読み合いになるだけ。お互いの先を読む、突破のために思考する……こんなこと感覚派以外、皆やっていることだわ。だから、ちょっと読み合いに強いだけであって、絶対に勝てるわけじゃない。相手にタネが知られていたらなおさらね」
「確かに、未来が読まれている前提で動く……なんてし始めたら終わりがないもんね」
「それに、もう1つの方が致命的。未来視が使えるのは相手のことを分析出来ているときだけ。つまり、分析できていない間は未来視を使えない」
「……なるほど。確かに初対面の相手の未来は見えない……か」
「えぇ。未来を見ると言うのは十六夜綾人の場合、相手の能力とフィールドの状況を踏まえて、相手が取る確率の高い選択肢を見ているだけ」
「だから、実際に未来を見ているわけではない。相手が手を抜いたり、隠していたりして実力を詐称されたら確実に騙される」
「だから彼の使っている未来視は便利なモノじゃないし、万能なモノでもない。まぁ、いいわ……そんなこと言わなくても気付いているだろうし」
「でも、仮にその弱点を克服する新しい何かを見つけたり身に付けたりしたところで、シスターには絶対に勝てないのにね」
「さぁ?勝てる可能性は他の人よりあるんじゃない?……負ける気はしないけど」
「何気にシスターも負けず嫌いだからね……」
と、新年一発目からですが、しばらく投稿お休みします。
理由としては凄く単純で、ストックが尽きたからが大きいですね。
一昨年の夏から始めたこの週1投稿。ストック分を推敲・手直し、余裕があると新しい話を書くという形で投稿を続けていましたが、流石に追いつかれました。いやぁ……始めたときはファイアードラゴン戦終わりまでを見ていたのですが、まさかここまで行くとは……(もちろん、一昨年の夏の段階ではここまで書いていない)。去年一年間毎週投稿出来たのが恐ろしいです。
一応、8月頭まではお休みになりそうです(理由は8月頭に資格の試験があるため)。そう言っておいて3月くらいには再開しているかもしれませんし、この話が今年最後かもしれません。つまり、未定ですね。(特に今年は修論とか就活とかやばそうで割と執筆時間厳しめ……)
投稿はしばらく休むと思いますが、感想はそこそこの頻度で返すようにします。また、活動報告も随時募集していますので、遠慮なく質問とかアイデアとかあれば送ってください。質問は都度返したいと思います。(必殺技の案とかも全て目を通していますので、返せていないのはご容赦を……!)また、この作品関係なく話したいって人も個別でメッセージを送っていただければ返していきます。
こんな感じですが2024年もよろしくお願いします。