超次元サッカーへの挑戦   作:黒ハム

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過去編はその6ですね。
今週中に7も投稿したい願望はあります。


過去編 ~王との再会~

 そして、春の終わりのある日曜日の昼。空には厚い雲が覆っていて、いつになくどんよりしている中、

 

「十六夜じゃないか!」

天王寺(てんのうじ)か。久しぶりだな」

「いかにも。しっかり勝ち上がってきて我は感激だぞ」

 

 とある大会にて、試合前に十六夜は対戦相手であり彼の旧友でもある天王寺と再会を果たしていた。

 

王様(キング)……この男を存じているので?」

「我の旧友(とも)よ。貴様らは準備でも始めていろ」

「「「御意」」」

 

 そう言って下がっていく天王寺のチームメイト。その姿はまるで王様に従う家来のよう。

 

「で、デカい……!?何だよこの巨漢……!?」

「ビデオで見たより迫力がある……!」

「本当に同じ高校生かよ……!?」

「……先行ってください先生。ちょっと友達(ダチ)と話してきます」

「分かった。なるべく早く終わらせるんだぞ」

 

 一方の十六夜側もチームメイトが下がっていき、残ったのは2人だけ。

 

「さて、お前さんと会うのは小6以来かのう。確か卒団式が最後だったか?」

「だな。あの頃もデカいと思っていたが……にしても、デカくなりすぎだろ」

「今や身長は190を越え、体重も100はある。対してお前さんはあんまり変わってないな」

「いや成長したからな?一応オレも170は超えているから。お前がデカくなったせいで相対的に変わらねぇんだよ」

「なるほど、そうであったか」

「全く……だが、高さだけじゃねぇな。ジャージ越しにも筋肉が見て取れる」

「そうだろそうだろ?我が自慢の筋肉だ」

 

 そう言って腕まくりをして、力こぶを見せつける天王寺。そんなことをしなくても腕が丸太のように太く、がっちりしているのは分かるのだが……

 

「見せつけなくていいわ。改めて近くで見るとお前のヤバさが伝わる」

「ハッハッハッ、お前さんも鍛えてはいるようだが、我ほどではないな。そんな柔い身体で大丈夫か?ちゃんとご飯を食べているか?」

「うるせぇ。テメェみたいな筋肉バカにはならねぇよ」

 

 十六夜も鍛えているため決して痩せ細っている訳ではないが、それでも天王寺と相対すると細く、そして小さく見えてしまう。

 

「……というか、テメェは相変わらず王様気取りか」

「気取りとは相変わらず失礼なヤツだな。我は奴らに仕事を与えてやっているだけのこと」

「それを王様気取りって言うんだよ……」

「ハッハッハッ、ただ我も退屈よ。あの頃はお前さん以外にも真正面から反発してくれる奴らがいたが、今は誰もおらぬ。全員が我とは違う学校に進んでしまった」

「あの頃の最後まで残ったメンバーの中に、誰かの下に何も考えずつくようなバカはいねぇからなぁ……一緒の学校じゃなくて残念だな」

「違いない。まぁ、あの頃は誰かの下につくヤツは消える運命にあったからな」

 

 あの頃……小学校時代から天王寺は王様気取りだった。だが、従順な(しもべ)はチームメイトの中には居なかった。それも当然なことであり、誰もが負けず嫌いなため、上から目線であれこれ言うのに反発しかなかったから。だが……

 

「それでもお前はその実力で多くのヤツをねじ伏せ服従させた」

「そうだったか?まぁ、我らの代で最後まで残ったのは、我、お前さん、速水(はやみ)加々美(かがみ)犬塚(いぬつか)星崎(ほしざき)の6人しか居ないからのう」

「懐かしいな……そういや、6人しか残らなかったっけ。最初はもっと居ただろ」

「全員何故か辞めたからのう」

「どう考えても何故かじゃねぇと思うけどな」

「まぁ、そんな消えた奴らに興味は無い。我にとって大事なのは目の前の試合。お前さんが今大会最初の相手なのだ。光栄に思うと良い」

「ハッ、何が最初だ。最初で最後の間違いだっての」

「その言葉そのまま返そうじゃないか」

「まぁ、テメェの身体能力は総合的に見てナンバーワン。一部を除き、身体能力に関するものだけはお前がトップに立つことが多かった」

「所々トゲがあるのう……だが、このフィジカル、このパワーこそが我の最大の武器。どんな相手もこのフィジカルの前に潰してやるぞ」

 

 そう言って上のジャージを脱ぎ捨てる。予想通りと言うべきか、ユニフォーム越しにでも分かるくらい筋肉が盛り上がっている。サッカー選手と言うよりは、ラグビーやアメフトと言ったスポーツの選手だと言われた方がしっくり来るほどだ。

 

「昔も言わなかったか?フィジカルだけじゃ勝てねぇって」

「ハハッ!そんなことも言っていたかのう……だが、お前さんのプレーを見させてもらったが……十六夜、お前弱くなってないか?」

「……っ!」

「お前さんの前の試合……我ならお前さんの倍は取れたな。いやはや……チームプレーなんてゴミみたいなモノに感化されたか?チームメイトなんて、我にボールを集めるだけの存在。……もっとも、それすら出来ないものは必要ないがな」

「そうかよ王様(キング)。……別に感化されてねぇよ。進化するために色々とやってるだけ。もっと先を見据えているんだよこっちは」

「進化のためにレベルを下げるとは面白いことをやるヤツだ!では、その進化とやらを見てやるとするかの!ハッハッハッ!」

「ぶっ壊してやるから覚悟しておけ」

「そっちこそ、ケガには気をつけるんだぞ」

 

 そう言って十六夜と天王寺は別れる。そして、チームメイトの下に戻ると……

 

「てい!」

 

 陽向からチョップを貰った。

 

「何するんだよ神奈」

「衝動は封印!」

「へいへい……」

「ほんとに分かってる?流石の綾人でも、彼と真正面からぶつかり合うのは分が悪い。それは納得しているでしょ?」

「分かっている。アイツ以上のフィジカルを持っている高校生なんてほとんどいねぇだろう。トップレベル中のトップレベル……流石にフィジカルで勝てると思える程バカじゃねぇよ」

「天王寺将馬(しょうま)。中学時代はラグビー部に所属し、チームの勝利に貢献。歴が浅いながらも、圧倒的なまでのフィジカルを武器に戦い、名を全国に轟かせ、将来を担う選手としても注目されていた」

「でも、高校ではサッカー部に。周りからすれば、何故ラグビーのスターがサッカーに来たか分からない状態だろうが、逆だな。オレからすれば、何故中学でラグビーをやっていたのか分からん」

「とにかく彼の特筆すべきはそのフィジカル。上半身だけでなく、下半身の筋肉もかなりのもので、正直彼と真正面からぶつかり合える高校生なんてそうは居ない」

「その上でヤツには瞬発力もある。下半身の筋肉を鍛えている証拠。流石に最高速度で負ける気はしねぇが、甘く見ていたら初速で置いて行かれる」

「中学時代のデータと比較するに、彼はストイックだね。筋肉量が更に増えているけど、無闇につけているわけではない。必要な分をつけていて、能力面は更に研ぎ澄まされている。現時点でも最高レベルに調整しているけど、まだまだ発展途上中……あそこまで将来も楽しみな選手を直接見たのは綾人に続いて2人目だよ」

「彼女からの甘い評価どうも。……だが、アレは天性の肉体ってだけじゃない。その肉体を磨き続ける努力があるからこそ、アイツは強い。才能頼りで王様気取りのただの天才ならどれだけよかったか……」

「そうだな。向こうは彼主体のチームになっている。それなのに、誰も彼に不満を持っている様子がない」

「先生……」

 

 相手チームは無理やり従わされている訳ではない。チームプレーが苦手なのは十六夜と同じで、チームメイトに対する認識も大差は無い。決定的な違いがあるとすれば……

 

「彼は認めさせたんだろうね。その高い能力でチームを認めさせた。彼自身が自由にやることを。そしてその彼自身がチームの方針になっている……かなりの難敵だな」

 

 監督含めたチーム全員が天王寺という男を認め、彼のために働く意思が統一されていること。天王寺中心……と言うより彼のためのチームと言ってもいい。

 

「だけど、先生。そういうチームの穴はただ一つ……柱をぶっ壊す。そうすれば勝手に崩壊するだろ」

「エース対決という訳か。陽向、勝算は?」

「うーん……データを見るに30あれば良い方だと思います。相性はそこまで良くないですね」

「どうせやることは変わらねぇよ。じゃあ、行ってくるわ」

 

 整列をする十六夜。挨拶も終え、各々のポジションに着く。

 

「向こうは天王寺の1トップ。今までの試合通りなら彼は全く守備をしないはず。対する十六夜はCB……彼の攻撃力を最大限警戒し、止めてくれると思いたいが……」

「綾人との相性の悪い点は、天王寺クンは駆け引きをしない。テクニックではなくフィジカルで解決しようとする点にあります。タックルをされようものなら勝てる見込みはゼロ。腕を使われればそれを振り払える可能性も低い。正直、並みの相手なら脅威ではないような接触プレーの一つ一つが、天王寺クンにとっての凶器になっている。しかも、あのデカさから圧倒され、並のディフェンダーじゃ萎縮して満足にプレーも出来ずに終わるだけ」

「確かにそうなるか。ただ、うちの十六夜が萎縮して終わりとは思えないがな」

 

 相手チームのボールで試合開始。ボールは天王寺が持ち……

 

「さてと、軽く行くとするか」

 

 前線からボールを奪おうと立ちはだかる選手たち。ボールを後ろに下げると、前線の選手たちの間を強引に突破し、

 

「行け!」

 

 ボールを受け取るとそのままシュートを放った。十六夜たちの陣地には居るがまだまだセンターサークルに近い。そんな距離から放たれた超ロングシュート。パワー任せの凶弾はゴールの右隅へと飛んでいき……

 

「ここ!」

 

 十六夜が跳び上がりヘディングで弾く。弾かれたボールはゴールを超えて後ろへと飛んでいった。

 

(痛ぇなクソ……コントロール無視パワー全振りのシュート。コースも運良く完璧……理想は前に弾きたかったんだが……)

 

「コーナーキック。まずは予定通り行く。マーク確認、陣形を整えろ」

 

 十六夜から指示が飛ぶ。ゴールの真正面、ゴールエリアの外側に立つ天王寺には十六夜を含めた3枚のDFがつく。

 

「ほう?3枚か」

「お前らのところの戦術は理解している。お前以外にはボールは来ないだろ?」

「そうだな。我のところにしか来ない」

「ほんと、頭脳(こっち)で勝負させてくれれば楽なんだが……」

「ハハハ!そんな駆け引きなどせんわ。精々、止めてみるんだな」

 

 コーナーキックを蹴る選手が手を挙げ、助走をつけて蹴る。そのボールは天王寺の頭上を行くコース……

 

「小細工など通じぬ!」

「「……っ!?」」

「マジか!?」

 

 十六夜以外の2人が天王寺を飛ばせないように抑えようとしていたものの、そんなのを無視して跳び上がる。一拍遅れて跳び上がる十六夜。だが、天王寺の方が最高到達点が高く……

 

「ふんっ!」

 

 空中でのヘディングによって叩きつけられるボール。そのボールはゴールの左下隅を貫くようにしてゴールの中へと突き刺さる。

 先制点を奪われる十六夜たち。

 

「ふはははは!どうだ見たか十六夜!」

「ッチ……お前らのチームのコーナーキックからの得点率は4割超……天王寺にボールが行く確率は9割超……」

「そうだったのか?よく調べたなぁ……もっとも、知っていても止められないがな!」

 

 そう言って自分のポジションへと戻る天王寺。その後ろ姿を見て、ベンチの方を一瞥する。顧問は仕方ないと言う感じで伝えてくる……コーナーキックを与えた時点で防ぎようがなかったと。

 

(無駄だな。オレたちじゃあ、アイツとの空中戦は成立しねぇ。ゴール前に人を固め、ボールをゴールの中に入れさせないようにする方で行くか?アイツへのマークは人数を掛けるだけ無駄……と言いたいが、さっきの感じやめた方がいいな。ソレを見越してワントラップして撃たれる方がどうにもならねぇか。まだヘディングでのシュートだから止められる可能性や外させられる可能性が残っている)

 

 十六夜たちのチームのキックオフで試合再開。ボールをチームメイトが運ぶ中……

 

「やっぱり、凶悪過ぎだろ……」

「そうか?」

 

 天王寺は十六夜のすぐそばにやって来る。相手チームの最終ライン……最前線に天王寺を残し、残りのメンバーだけで守備をする。天王寺が前線に1枚残っているだけなのに、存在感が凄まじい。

 

「ボールを奪うと基本は10人で攻めてフィニッシャーのお前に献上する。ただ、余裕がなければ取りあえずお前に渡すのが、そっちのチームの考え方」

「うむ。間違っておらんぞ。後は我が求めた場合も追加だな」

「……自分で言うのも何だが、ここまでの試合。前線に残っているヤツは悉くオレを避けていたはずなんだがな?」

「何故避ける必要がある?我はお前さんより強い。その必要はないだろう?」

「…………(ピキッ)」

 

 安い挑発に乗りそうなところを理性が踏み止める。深呼吸をして前線を見るが……

 

「攻めあぐねているな。意思の統一がしっかりしてやがる」

「だろうな。正直、お前さん抜きでは突破出来ないぞ」

 

 声を出し合い、ポジションを調整しつつ誰が当たるのかを全員が共有している。誰かがやるのではなく、全員が声を出して共有している。

 

「そっちはお前のワンマンチームだが、自己を持っている辺り面倒だ」

「そうだろう?我が居なくてもちゃんとやるぞ。特に守備はほぼ任せているからな!」

「はぁ……」

「それに引き換え、お前さんたちの方はやはりダメだな。あれじゃあ、何度やっても無理だ。頭は少々良いかもしれないが、技術もコミュニケーションも何もかもが足りない」

「だろうな」

 

 ボールが相手に奪われ、攻撃と守備がスイッチする。

 

「ほう?パスカットを狙うか」

「そもそも、お前に行かなきゃいいしな」

「じゃあ、走ろうか」

「面倒くせぇなおい……!」

 

 天王寺が十六夜を振り切るためにコートの端まで走り始める。十六夜はそれを追い掛ける。

 

(マークの引継ぎなんてしようものなら、容赦なくパスは通る。コイツについて行くしかねぇ……が)

 

 方向転換。天王寺は逆方向へと向きを変えて走り始めたので十六夜も方向を変える。

 

(問題はCBのオレがコイツに連れ回されている点。こちらのチームはこの動きに対して、穴が生まれないようにするしかねぇ……が、対応が遅い。向こうは天王寺の動きに慣れているのか、コイツがボールを受け取れるまでパス回しで翻弄してくる。フィニッシャーはコイツだが、残りのメンバーも攻撃力はそこそこある……クソ、流石にこいつらを動かさねぇと……)

 

「ここですね、王様(キング)

「うむ。良きパスだ」

「しまっ……!」

 

 天王寺の動きにより空いたスペース。そこにパスが通り、走り込んで受け取るのは天王寺。

 

「とりあえず放つのみ!」

「い……っ!」

 

 ワントラップすると、すぐさまシュートを放つ天王寺。全体のことを意識しすぎて、反応が遅れたもののスライディングをして足を伸ばし、シュートに足を当てコースを変えた十六夜。

 

「キーパー前出ろ!」

 

 シュートが当たった痛みを堪え声を出す十六夜。弾かれたボールは前に出たキーパーが確保した。

 

「よし、次だな」

 

 十六夜はキーパーが確保したのを見ると、そのままベンチの方を見る。そこでは、顧問が頷き……

 

「ようやくお前さんが攻めるか!」

「ちょっ、おまっ!守備しねぇんじゃねぇのかよ!」

 

 十六夜が前線へと駆け上がるが、併走しているのは天王寺。

 

「そりゃあ、お前さん相手だからな!守備もしたくなるというもの!」

「自由人!たちが悪いなおい!」

「結構結構!我は守備をやりたいときに守備をするからな!」

 

(なんて厄介なんだコイツ……!しかも、特別足が遅いわけじゃないから振り払えねぇ……!昔より厄介になってやがる……!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「前半は0-2……まぁ、相手のチームを考えれば抑えている方だな」

 

 前半の40分間が終了し、ベンチに下がる両チーム。

 

「だが、こちらのシュート数は十六夜の1本のみ。一方的に攻められる展開が続いているな」

「「「…………」」」

「向こうのシュート数は天王寺の9本。ただし、枠内に入っている割合は低め。シュート数も少なく済んでいる。他の試合に比べると天王寺が安定してボールを持てる時間が少ないお陰だな」

「「「…………」」」

「勝つための鍵は十六夜以外のメンバーだけで向こうの守備を崩せるか。天王寺は十六夜以外に興味は無い。十六夜が攻めなければ、天王寺は守りに動かない」

 

 前半戦の分析を静かに聞く十六夜側。一通り終わった後で後半戦の動きを確認する。

 

「お疲れ、綾人」

「ああ……悪い、アイシングを頼めるか」

「そうだね。足に来ているよね」

 

 そんな様子を少し離れた位置で眺める陽向と十六夜。十六夜の足は部分的に赤くなっていた。

 

「流石に至近距離であの威力のシュートを受けてるから……大丈夫?痛くない?」

「試合続行は問題ねぇよ。ちょっと赤くなっているだけだ」

「それもだけど、前半だけで、ここまで綾人を消耗させるとは中々強敵だね」

「こんなの消耗の内に入らねぇ……が、結構走り回されたな」

「向こうも同じくらい走っているけど疲れた様子はない。普段の試合の運動量が少ないから、体力はそこまでだと思っていたけど……」

「それは分析ミスだな。アイツも同じ思想の下で育てられたんだ。周りに頼らないんだったら、1試合常に走れるだけの体力は必要不可欠。王様ムーブして、温い環境に居る今も、ちゃんと努力を怠らなかった」

「……普通のチームだったら大差がついている」

「…………顔に出ていたか?」

「そうだね。向こうは天王寺クンしかシュートしない。そういう約束なのかな?……だから、状況以上に点差が開いていない。他の選手がシュートして良ければ、一層シュート数は増えていた」

「天王寺抜きの攻撃の連携は、オレ抜きのこっちの守備を軽く突破してくる。シュートを撃つ相手が分かっているのに止められねぇ現状じゃ、正直向こうのチームのやり方に助けられている」

「そうだね。しかも、綾人のマンマークで辛うじてドリブルでの突破はないけど、ボールを受け取ったら何処でも撃ちにくる。2点目は綾人がコースを限定していたけど……」

 

 と、陽向は言葉を止める。

 

「いいよ。コースを限定するだけではダメだったんだから」

「……そうだね」

 

 2点目の失点は十六夜がコースを限定したもののキーパーの反応が遅れ、指先が触れたものの呆気なくゴールの中に入ったもの。

 

「やっぱりこのチームの問題は……」

「処置ありがとうな。そろそろフィールド戻るわ」

 

 そう言って十六夜はフィールドへと戻っていく。

 

「十六夜と話して打開策は見出せたか?」

「ちょっとこの試合は厳しいですね……」

「そうか。やはり浮き彫りになってしまった……そう言えるな」

「…………」

「陽向。2点目の失点はどうやったら防げたと思う?」

「綾人とキーパーが意思疎通を取れていれば……ですね」

「そうだな。十六夜がコースを限定したことをキーパーに伝えていれば、足りなかった1歩分を埋められただろう。向こうもこちらもエースのワンマンチーム。10人と1人の構成は共通で、10人と1人の間にコミュニケーションの乖離があるのも同じだろう」

「でも、だからこそ勝てない。1人同士の戦いも分が悪く、10人での戦いも敗戦濃厚な状況。11人にならないと彼らには勝てない」

「その鍵は十六夜。10人をお前が使わないとこのままでは勝てないぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドサッ!

 

 後半が開始して10分が経過したところで、試合は大きく動き出す。

 十六夜が止めようとするところを強引に突破し、ダイレクトでシュートを放つ天王寺。十六夜が倒れる中ゴールが決まり、点差が3点に開いた。

 

「ああ、居たのか。すまんのう、軽すぎて気付かなかったわ」

「テメ……放せ」

 

 倒れ込んだ十六夜の腕を掴み、強引に立ち上がらせる天王寺。振りほどこうとするも、上手く振りほどけず……

 

「弱い、弱すぎるぞ十六夜」

「あぁ?」

「どうした?我が戦いたいのはお前さんだが、そんな理性的なお前さんじゃない。もっと野蛮で衝動に任せた獣みたいなお前さんだ。はっきり言って、今のお前さんじゃ我の相手は務まらん」

「……っ!」

「つまらない男に成り下がったな、十六夜」

「…………わりぃ、神奈」

 

 ボソッと呟く十六夜。そして、その目は……

 

「じゃあ、お望み通りぶっ壊してやんよ……!潰して壊してグチャグチャにしてやるよクソ王様(キング)が!」

「ハッハッハッ!何だ出来るではないか……来い十六夜。我の全力を以て相手をしてやろう」

「抜かせクソが」

 

 天王寺が腕を放す。急に放され、バランスを崩す十六夜。両手を地面について着地したが……

 

「綾人の……本能が……バケモノが……」

 

 2本足で立つ人間ではなく、4本の足を持つバケモノを彷彿とさせた。そして、試合が再開する。

 

「正面から来るか!面白い!」

「壊す!ぶっ壊す!」

「ハハッ!よき戯れだ!もっと踊れ十六夜!」

「うっせぇんだよクソが!」

 

 理性を吹っ飛ばし、本能のみで突破を図る十六夜。その動きは荒々しく、知性はない。その動きに強靱なフィジカルのみで強引に追い付く天王寺。

 

「……っ!?」

「壊れろ!」

 

 天王寺の動きの逆を突き、その隙に突破をする。

 

「まだだ……なっ!?」

「ぶっ壊すって言ったろ!」

 

 そして、その突破に反応した更に逆をつく。

 

「これで……あぁっ!?」

「これで我のボールだな」

 

 完全に体勢を崩した……そう思っていたが、崩し方が不十分だった為に、体勢を立て直され、ボールを奪われる。

 

「ッチ……このやろ……!」

「攻守交代だな!と言っても我はお前さんのように小手先の技術は優れておらぬ。このパワーで沈めてくれよう!」

「パワーパワーうるせぇ!」

「圧倒的なパワー……それで終了だ」

「あぐっ……!?テメ……!さっきまで……!」

「さっきまでは6割……ここから10割で行く。精々、壊れるなよ?」

 

 肩と肩がぶつかり合うと同時に、十六夜が弾かれる。そして、その勢いのまま突撃していく……

 

「道を空けよ。さもなくば、轢き殺す」

「「「……っ!?」」」

 

 まるで戦車が突っ込んでいくようにも思える突進。ぶつかればひとたまりもないことが否応なしに理解させられる。

 

「……何という男だ……天王寺か」

「監督……」

「あの男……前の試合まで……いや、前半さえも本気を出していなかったか」

 

 そして、センターラインを超えた辺りで、フルパワーでのシュートを放つ。しかし、それはゴールの枠を大きく逸れていく。

 

「むぅ。警戒しすぎて早まったかのう?まぁ、よい。次だ次」

 

 ただ、外した落胆はない。次のプレーに備えて動き出す。

 

「シュートレンジは40mを超える。パワー任せの凶弾だから、離れれば離れるほどコントロールは落ちている……現に枠内に入る確率は決して高くない。だが、それを一切気にしない。外したらまた放てば良いという思考。しかもデタラメなパワーのせいで、ディフェンダーが萎縮してシュートコースに割って入れない。そして、その高身長のせいで最高到達点は彼が一番で、その巨漢故動かせない。空中戦はヤツの独壇場……クロスが上げられようものなら抑えられない。その上、あそこまでのフィジカルだと、生半可なテクニックやスピードじゃ通用しない。全て挽き潰されてしまうだろう……無茶苦茶だな。十六夜もバケモノだが、同等以上のバケモノ……アイツの友人はバケモノしか居ないのか?」

 

 十六夜のチームのゴールキックで試合再開。

 

「ここだ!出しやがれ!」

 

 天王寺が近くに居るが、そんなことは構わずボールを要求する。

 

「……っ!」

 

 しかし、キーパーは別の選手へとパスを出す。

 

「ッチ!へい!ここ出せ!」

「……っ!」

 

 そして、その選手はまた別の選手へ……

 

「ははは!何だ、信用されておらんじゃないか。威厳が足りてないんじゃないか?」

「何してやがる……!使えねぇ無能が……!」

「そうじゃな。お前さんの下僕(おなかま)は最低限も果たせぬただのゴミ……何故、そんな底辺(ヤツら)にあわせようとしているのだ?」

「…………」

「どうでもいい石ころごときに何を期待しているんだ?お前さんが居なければ、ここまで勝てなかったであろうただの寄生虫どもに期待するなんて無駄。自分たちじゃ解決する能力がないくせして、頼っていた寄生先が勝てそうになくなったら手のひらを返す。そんな奴らにお前さんは……いつまで期待しているんだ?」

「……そうだな……テメェの言うとおりだなぁ……!」

 

 そして、十六夜はボールに向けて走り出す。

 

「おぉ、寄生虫(ゴミ)から奪いに行くか。なら、我も行こうかの」

 

 そのまま天王寺も十六夜について走り出す。

 

「ちょっ……!?」

 

 そして、味方にタックルをした十六夜がボールを強引に奪う。

 

「パスが来るなんて思っていたのが間違いだった。テメェらが多少は働いてくれると期待したのが馬鹿だった。全部全部……ぶっ壊してぶっ潰してやんよ!」

 

 ボールを奪った十六夜は吠える。自身の過ちを再確認し、ただ独り走り始める。

 

「あちゃぁ……こうなってしまったか……」

 

 その様子を見て顧問は頭を押さえる。

 

「これが中学時代にもあったと言う暴走……恐れていた事態が起きてしまったか……」

 

 何度目かの天王寺との衝突。フィールドではフェイントで翻弄する十六夜と、そのフェイントにフィジカルのみで強引についていく天王寺。そして、それを遠巻きに見る20人の選手に分かれた。

 

「ふむ……だが、やはり、残りの選手たちの動きも差が出るな。右往左往して邪魔な位置に居るこちらと、王の補佐として最適な位置に居る向こうか……」

 

 そんな天王寺を突破すると、相手選手が時間を稼ぐべく動き出す。

 

「釣られた」

「……っ!」

「クソ邪魔!」

 

 その選手を突破するとそこには棒立ちになっている味方。向こうの肩に自身の肩をぶつけることで相手を排除するも、ロスが発生してしまったことで、天王寺が追い付く。

 

「ハハッ、ほんと、今の十六夜には全員が敵に見えるみたいだ。容赦のないタックル。普通、味方が相手なら避けるだろうに」

「でも、避けるくらいなら倒した方が手っ取り早い」

「それはそうだ。それに向こうが賢い。勝てないことが分かっているから、負け方を考えた。そして、向こうの用意した負け方に釣られ、味方を壁に使われた。その対処のせいで僅かな遅れが出て天王寺が追いついた」

「……先生ってよく状況が分かっているんですね」

「ん?ああ、これでもサッカーをある程度嗜んだ顧問だからね。でもまぁ……」

「オラァッ!」

 

 ガンッ!

 

 フィールドでは天王寺のタックルを受けながらもシュートを放つ。地面を2、3回転がる中、シュートは大きな弧を描きゴールの右上隅のバーに直撃させ、そのままゴールの中に入った。

 

「ハッハッハッ!この状態で決めるか!」

「後3点……!3点取って勝つ……!」

 

 立ち上がるとそのまま自分のポジションに戻る十六夜。

 

「……あんな状態でも点を決めてしまうのは恐ろしいね。流石は別格……吹っ切れたお陰か天王寺とも互角か」

「…………」

 

 天王寺とのマッチアップ。パワーによる突破を併走してシュートを撃たせないように専念する十六夜。

 

「……ダメだよ綾人……このままじゃ……」

 

 試合は十六夜と天王寺のバケモノ同士の戦いとなる。ボールの所有権が自分以外なら全部奪いに行く十六夜とそれについていき何度も何度も激突する天王寺。2体のバケモノが放たれ、フィールド中を暴れ回る。

 

 ピ、ピー

 

 そして、それは試合終了の時刻まで続いた。

 最終スコア2-6で十六夜は大敗したのだった。




天王寺(てんのうじ)将馬(しょうま)(フィジカルモンスター)
 少年団時代の友人。身長190越え体重100キロオーバーと言う大型選手で、持ち前のフィジカルとパワーによるプレーが得意。コーチの思想に適応した人物の1人で、手掛けた作品の1つ。中学時代はラグビーで一目を置かれたようだが……?
 自分を倒そうと藻掻く勇者には興味があるが、下手に出て自分に勝とうと思って挑まない人間には興味が無い。そのため、今のチームメイトのことは自分にボールを集めるだけの存在と思っている。少年団時代は同じ少年団の中に自分に勝とうとする人間が居たため退屈しなかったが、中学、高校に行くにつれ誰も対立しようとしないため、つまらないと感じている。
 十六夜を始め、自分に対し本気で勝ちに行く人間を好み、彼らをその実力でねじ伏せることを望んでいる。

速水、加々美、犬塚、星崎
 少年団時代の友人たち。十六夜の代では彼らと天王寺の6人しか残っていない。彼らもコーチが手掛けた作品で、この6人がコーチの最高傑作たち。6人全員が違う中学、高校へと進学した。ちなみに、6人ともが中学時代サッカーで無名だったとか。

 彼ら5人のことも封印された記憶の中にいる。中学・高校時代のチームメイトは記憶を封印されていなくてもほとんど覚えていないが、彼らのことは忘れていなかっただろう。何れも十六夜と同等……あるいはそれ以上のヤツらなのだから。

 過去編その5の後書きで書きましたが、あくまでどの時点まで思い出しているかは本編とリンクしていますね。ただ、全てを思い出している訳ではないです。例えば、彼ら5人の存在はユニコーン戦までは靄がかかっている形です。何故、そんなことがあるのか。そして、全てを思い出すのはいつになるのか……
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