超次元サッカーへの挑戦   作:黒ハム

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過去編その7。
ライバルとの再会と暴走と大敗……それを経てここからどうなるのか。


過去編 ~敗北の先~

「ボクが思うにこの試合で勝てなかった原因はただ1つだよ」

「ああ?」

 

 試合終了後。挨拶を終え、グラウンドの一画で一人座り込む十六夜に陽向が声をかける。

 

「それは十六夜綾人……キミさ!キミがチームの足を引っ張ったからだよ!」

「……っ!?はぁ?何言ってるんだテメ――」

「キミに怒る資格なんてないよ!それとも、このボクの分析に間違いがあるとでも?」

「間違いだろ!オレが天王寺に勝てなかったのは事実だ!オレが敗因なのも事実だ!だが、オレが足を引っ張った!?何を言っていやがる!そこはゴミどもが足を引っ張ったの間違いだろ!」

 

 思わず立ち上がり、そう口にする十六夜。いつになく語気が強いが、その言葉を正面から受けて尚、陽向は十六夜に正面から言葉をぶつける。

 

「確かにチームメイトのレベルがキミより低いことは知ってるし、見れば分かる。プレーを見てても、チームメイトにミスが目立っていたのはよく分かる」

「だったら……!」

「でも!それでもキミがチームを放棄したから負けたんだよ!チームを見限ったから負けたんだよ!キミが仲間を捨てて、1人でやったから負けたんだよ!」

「知るかよんなこと!仲間なんて最初からいねぇんだよ!あんな使えないゴミども仲間だと思ったことねぇよ!あんなゴミども、いない方がマシだろうが!」

「いい加減にするんだ愚か者!ボクが見たいのはそんなプレーじゃない!分からないのか!キミの力を最大限発揮するには1人じゃ絶対無理なんだ!一緒に居る仲間が必要なんだよ!どんな形であれ、キミにはチームメイトが必要なんだよ!」

「……黙れよ……!そういう綺麗事はマジで反吐が出る……!チームメイト?仲間?そんなのが必要って、くだらねぇこと抜かすんじゃねぇよ!オレは独りで十分だ!足手纏いのゴミどもなんざ必要ねぇんだよ!」

「思い上がるのも大概にするんだこの分からず屋!キミの言う綺麗事が必要なんだよ!環境が生んだバケモノめ!このモンスターが!そんなんだから自分の才能にすら気付けないんだよ自称凡人!一生その檻に囚われていればいい!勝手にするんだ!」

 

 そう言うと陽向は振り向き、そのまま走って行く。その目には涙を浮かべているが、今の十六夜は頭に血が上って冷静になれない。

 

「ちょっ、まだ終わってねぇぞ!」

「うるさいわよ、十六夜綾人」

 

 トンッ

 

 脳天にチョップが振り下ろされる。

 

「ってぇな……誰だよ……!」

「私よ」

「美空……!来てたのかよ……悪いけど、今……」

「試合に負けたいらつきで彼女に当たったって?最低のクズ野郎ね」

「ああっ!?」

「頭を冷やしなさい。アンタの負けず嫌いは知っている。あの大きな人に敵わなかったのも観てたから分かる。……でも、そのままじゃ昔と一緒よ。悔しさを吼えていた昔と何も変わらない。いいえ、それで人に当たるようではそれ以下に成り下がっているわね」

「…………っ!」

「陽向さんは私が追い掛ける。だから、アンタは冷静になって考えなさい。そういう知能くらいは身に付けたはずでしょう?バケモノさん?」

 

 そう言って美空は陽向の走り去った方へ追いかけていく。

 

「……クソ」

 

 そのまま座り込んでしまう十六夜。

 

「…………」

 

 そして、ポツポツと雨が降り始める。だが、十六夜が動くことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、涙目で走る陽向を無事に捕まえることに成功した美空。近くの喫茶店にて、2人向き合い話をしていた。

 

「だいぶ落ち着いたみたいね」

「ごめんね……ボクもちょっと感情的になっちゃった」

「いいのよ、気にしないで」

 

 そう言って雨に濡れた窓を見る。外は本格的に降り出してしまい、雨足は少しずつ強くなっている。

 

「そう言えばさ、一つ聞いても良い?」

「いいよ、何?」

「何で美空ちゃんは綾人にあんな勝負をふっかけたの?」

「……どうしてその質問を?」

「わざわざ勝った方が負けた方に命令できると条件つけていたからね。それに目的が点数で競うことなら、綾人に断られてもあそこまで食い下がる必要はない。後で点数を比べれば済むだけだからね。だから、どうしてそこまで勝負に拘ったのかなって」

「…………流石に強引すぎたみたいね。裏があるって思われちゃったかな」

「綾人は気にしないと思うよ。でも、多分気付いている。そこまで鈍くはないはずだよ」

「そうね。……私は、十六夜綾人に謝りたいのよ」

 

 その言葉は陽向にとって衝撃的だった。

 

「謝りたい?美空ちゃんがあの綾人に謝るようなことをしたとは思えないんだけど……」

「えぇ。していないわ。していないから謝りたいのよ」

「???」

 

 陽向の中で疑問が生まれる。何かをしたから謝るのではない。何もしていないから謝りたいと言っているのだ。

 

「私ね、十六夜綾人と小学校から一緒なのよ」

「あ、やっぱり?」

「やっぱりってことは気付いていたの?」

「うん。小学校か中学校……どっちかは一緒だったんだろうなって。だって、美空ちゃんはそこまで好戦的な性格じゃない……自分より上の人なら誰でも噛みつくような人じゃない。もしそうなら、テストでの勝負はボクにも吹っ掛けていいはずだからね」

「ああ、狙いが十六夜綾人ってこともバレていたわけね。……アイツとは、何度もクラスが一緒になってね。昔……それこそ、小学生のときはアイツは何でも自分が勝てなきゃ悔しがって叫んで、でも、相手が手を抜くともっと怒って面倒くさがられていた印象が強いわね」

「そうなんだ……あれ?美空ちゃんも絡まれたの?」

「ううん、私はアイツに絡まれていない。目立つような子じゃなかったからね。でね、それが段々と成長するにつれ、勝たなくていいものと、勝ちたいものが分かれるようになった。ただ、勝ちたいもので負けるとやっぱり負けず嫌いを発動して面倒くさがられていた」

「それは確かに面倒くさそうだね」

「……でもね、凄いのは、アイツは2回目に戦うときは大体勝っていたこと。一部例外はあったけど、再戦すればどんなことでもアイツが勝っていた。相手が経験者でも、熟練者でも、学校とかで1番を自負していたとしても、下手すれば大人でも……だから余計に面倒くさい。アイツに勝てるのは初回だけ。2回目以降勝てる人間は少ない。本物の天才じゃなきゃ、アイツに勝ち続けられない」

「…………」

「……まぁ、どっちにしても私には凄く好ましかったけどね」

「そうなの?」

「うん。これでも私は、何でもそつなく熟せるって自負している。大抵のことはちょっとやれば平均より上のレベルには行けるわ。……でも、上位層には絶対に勝てない。すぐに限界が来てしまう。……だからというか、私にはそういう負けて悔しくなれるほど、本気で打ち込むことがなかったの。だってそうでしょう?平均レベルの人にはちょっとやれば勝てる。上の人には勝てない。それだけだったもの」

「確かにね……どんなことでも、負けて心の底から悔しがれるのは凄いことだと思うよ」

「上っ面の悔しさを口にする人間は多い。でも、その中で心の底から吼える人間は少ないし、本当の意味でその悔しさを生かせる人はもっと少ないと思うわ」

 

 ある意味で少年団のコーチの指導の賜物なのだが、それを美空は知らない。

 

「中学に上がるとまた変わった。アイツは程々を覚え始めた。多分、言われるのが面倒だったんでしょうね。……程々に流して周りに合わせることが多くなった。もちろん、サッカーとか勉強とかは違ったけどね。……そんな中、1年生の終わりのこと。ある決定的な事件が起きた」

「綾人の初の公式戦出場とサッカー部退部だね」

「あれ?知ってたの?」

「うん、実は観てたからね」

「そうなんだ……そこから2年生になってね。いじめが行われかけたの。かけたってのは……まぁ、なんというか……全部十六夜綾人が自分で未然に防ぎ解決したからなんだけど……うん。その頃は毎日のように生徒指導の先生が、問題を起こした生徒を連れて行って……十六夜綾人は被害者とは思えないほど涼しい顔をしていたわ」

「あはは……」

「だから、こんな噂が流れたの。十六夜綾人に近付くと破滅する……本当は自滅しているだけなんだけど、皆が事情を知っているわけじゃない。その上、サッカー部が停部に追い込まれるほどの事件を起こした元凶とも言われはじめ……十六夜綾人に近づく人は居なくなった。正確には愚かなバカ以外居なくなった」

「……えっと……それと謝りたいとの関係は?」

「……私は何も出来なかったのよ。いじめって、一番数が多く最低なのって傍観者だと思うの。知っていたのに何もしなかった。見ていただけ……アイツが被害者って言われると、クエッションが残るけど、それでも私はアイツが誰も彼も潰す最低な人間じゃないって知っていたのに、声をかけられなかった。孤立していたのに、関われなかった」

「そう……」

「……あなたを見ていると思うの。アイツに必要なのは、真正面から言葉をぶつける存在だって。臆することなく、逃げることなく、目を見て対等に話をする存在だって。だってそうでしょう?誰もアイツに対して、何も言えなかったから。陰で言うだけで正面から言えなかったから。アイツの周りに味方が居なかった。誰もアイツを止められなかった」

「…………」

「確かにアイツの性格は凄い面倒よ。でも、決して悪いヤツじゃない。寧ろ尊敬さえする。もしかしたら知っているかもしれないけど、アイツって、サッカー部を辞めた後もずっとずっと1人でサッカーの練習を続けていたんだよ。毎朝登校するとグラウンドでは既に練習していて。放課後もさっさと練習を始めて……雨が降ろうが自主練をして、テスト期間だろうがボールを蹴って部活禁止と怒られて……そんな凄い努力家で……ああ、こんなに1つのことに打ち込める人間が居るんだって」

「…………」

「性格が面倒で問題児な側面があったのは否定しない。アイツが全く悪くないとは言えない。でもさ……きっかけとなったあの試合は、アイツは悪くないと思う。それは色々と事情があったかもしれないけど……でも、アイツはアイツの出来ることを貫いた。アイツは周りに敵しか居なくても自分を貫いた。それで負けそうだったチームを勝たせた。……何でそれでアイツはいじめられかけなければならないの?何でそれで周りはアイツを避けてしまうの?ムカつき?嫉妬?怖さ?空気感?アイツの努力の跡を見て何でそんなことになるの?何で誰もアイツを見ようとしないの?あそこまで悪化したのは、孤立したのは、アイツのせいじゃない。私のせいでもある。アイツに私は何か言えたはずなのに、向き合う機会はいくらでもあったのに……何も出来なかった。動けず流されただの傍観者に成り下がった最低な存在になってしまった。そのことがずっと引っかかっている」

「……罪悪感……それが美空ちゃんの中にあるものなんだね。でも、凄いと思うよ」

「どこも凄くなんてないわよ」

「……ううん。だって、それを謝りたいって思って行動しているんでしょ?美空ちゃんは直接綾人に害を与えたわけじゃない。悪いことはしていないし、そんなの多くの人は気にしないようなこと。でも、それをある意味で罪だと捉え背負う人間はそうはいないよ」

「……正直、時間がかかり過ぎたと思う。今更過ぎるし、アイツの記憶に私の存在は何も残っていない。……それに、結局アイツは何も思わないだろうしね」

「そうだね。だけど、それでも良いと思うよ。綾人は無関心なことが多くて、周りなんてどうでもよくて、自己中心な面が強い」

「そこだけ聞くと本当に性格最悪ね」

「そ、そんなことないよ!誰よりも努力家で、一途でまっすぐで、不器用ながら色々と気にかけてくれて、何だかんだ付き合ってくれて……」

「はいはい」

「……だから、美空ちゃんも自己満足で良いと思う。それくらい強く行かないと、綾人には決して響かない」

「自己満足……確かにね。なら、アイツには私の自己満足に付き合ってもらうわ」

「その息だよ!」

「ふふっ、流石は十六夜綾人を動かした人ね。……それに、もう大丈夫そうで安心したわ」

「あ……」

 

 陽向の調子はいつもの感じに戻りつつある。それを見て安心する美空。

 

「帰りましょうか。十六夜綾人とは、今はお互いに感情的になるかもしれないし、一晩置いてからもう一度話すべきね。強く行かないと響かないけど、強すぎてお互いに反発していたら進まないでしょうし」

「そ、そうだね……うん、そうするよ」

「会計に行ってくるわ」

「ちゃ、ちゃんと自分の分は自分で払うから……あ」

「どうしたの?」

「そう言えば……雨降ってるけど、綾人はちゃんと帰ったのかな……?」

「ちょうど良いんじゃない?この雨で頭冷やせるでしょ」

「うっ……そ、そうかな……?結構降っているんだけど……」

「あの男はそんなに柔じゃない。それに、今回のことはアイツが悪い。あなたが優しさを見せて折れる必要はないわ」

「な、中々厳しいことを……」

「当然よ。寧ろ、向こうから謝るまで関わらなくていいんじゃないかしら」

「お、おぉ……で、できるかな……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何ですか、先生。呼び出しとは……というか、部活はいいんですか?」

「部活の一環だよ。……昨日の試合の事だ、十六夜くん」

「…………」

 

 放課後……英語準備室にて、十六夜はサッカー部顧問兼英語の教科担任である先生に呼び出されていた。

 

「……昨日の試合……今後はチームプレーをしろとでも言いたいんですか?もっとチームメイトと協力していればあの試合は勝てたとでも言いたいんですか?」

「???君は何を言っているんだい?」

「はぁ……?」

「お小言は、昨日の試合後に陽向くんに言われたんだろう?」

「……聞いていたんですか?」

「いやはや、若いっていいね~青春だね~20代の私でもうらやまし……コホン。眩しく見えたよ」

「……で?」

「冷たいね、君は。まぁ、いいんだけど……私の意見を言わせてもらうなら……君は確かに変わる必要がある。……だが、その変わる必要っていうのはそこまで大きな変化じゃない。本当に些細な変化で良いんだ」

「はぁ」

「生憎と私は、陽向くんの言う君の才能はよく分からないし、彼女の考えすべてが分かるわけでもない。だけど、私なりに考え……そして、これだけは陽向くんの言葉と矛盾しないと思ったことがある」

「何ですか?」

「君はチームメイトを使わなさすぎる」

「……それ、結局チームプレーしろって事ですよね」

「そうじゃない。君は熱が入ってしまう……スイッチが入ってしまったとき、君には味方がゼロ……いや、チームメイトでさえ、敵に思うような極端な状態になってしまう」

「…………」

「いいかい?チームメイトってのは敵ではないんだよ。君は1対21をしなくていい。最高でも1対11なんだよ……で、君の問題点ははっきり言ってそれだけだよ。チームメイトを見捨てて……いや、敵とさえ思って、1人で戦ってそれで負けた。熱くなっても、君はチームメイトを見捨てるべきではないんだよ」

 

 昨日の試合で言われた言葉を十六夜なりにも考えていた……確かに、今までもスイッチが入る、本能に従うと誰にも頼らないプレーになる。それどころか、味方を敵とさえ思うところがある。だが、それは相手の中に自身と同格以上が居たときに通用しない。天王寺に勝つためには、全ての能力を彼相手に捧げなければいけない。残りの10人を相手にしている余裕があるほど自分は強くない。だから、今のままじゃダメだと言うことは痛いほど理解している。だが……

 

「……正直、アイツらのレベルに合わせる気はないです。低いレベルに合わせ、和気藹々と楽しくなんてできねぇです」

「別にしなくていいよ。そんな無駄なこと」

「はぁ……?」

 

 十六夜は何度目かの戸惑いを口にする。中学時代の顧問は特に酷かったが、去年の顧問も協力が大事とかもっと味方と連携をとかそういうことを口うるさく言っていた。だから、目の前の先生も勝利すること、勝つことを重視すると言ってはいるが、どうせ同じだと思っていた。

 

「君は自己主張が強いんだよ。それこそ、昨日戦った天王寺くんもだけど……君たちは日本人では珍しいくらいの自己主張の塊なんだよ。でも、私は決してそれを悪いこととは思わない」

 

 だが、この人は今までとは何かが違う。話をしてきて、少しずつそれが分かってくる。

 

「……自己主張の塊……ねぇ」

「サッカーは絶えず動くスポーツだ。オフェンスとディフェンスがたった1プレーで切り替わる。ボールを持っている時、持っていない時……常にボールを、相手を意識しないといけないスポーツだ。……だからこそ、1人1人の自己主張が大事だと私は考える。はっきり言って、他のメンバーはおとなし過ぎる。こうしたいプレーがあっても主張できない。誰かが指針を見せてくれたらそれに乗って、指針が消えたらどうにも出来ず立ち往生。しかも、厄介なことにそれで自分が指針になるわけでもなく、誰かが次の光を見せてくれるまで動かないし、そのくせ無駄に賢いからダメになれば途中で勝手に降りてしまう。人の主張は如何にもって顔で正しい間違ってる行けるダメそうと判断するのに、自分は主張を出そうともしない」

「ズバズバ言いますね」

「さぁ?私は事実しか言っていないよ。……まぁ、陽向くんはおそらく分かっているだろうね。分かった上で……君に考えて欲しくて強い言葉を使ったと思う」

「…………」

「私からすれば、十六夜綾人という選手に全部任せているようなこんな空気が敗因だと思っている。だってそうだろう?君が天王寺くんに付きっきりで、いつも通り君に出して良いのか迷ってミスをする。奪っても、君の近くには天王寺くんがいて出せるか迷ってミスをする……このチームは十六夜綾人という絶対的な才能に依存しているチームだ。それなのに、依存先に不安を覚え、躊躇し、解決する力も無く狼狽え……その結果依存先から見限られる。……誰かに頼り切りの、たった一人に全てを賭けて背負わせている碌でもないチームだよ」

「……だが、天王寺のところも……」

「いいや、彼らのチームはウチとは違う。最後には確かに天王寺くんに渡すが、ディフェンス時は天王寺くんは指示をしていない。どう動けばいいのか1人1人考えているんだよ。彼らは10人が天王寺という絶対的な才能(タレント)を活かす駒……彼風に言うなら(しもべ)になっているってところかな。ただの妄信者と自己犠牲の僕……どちらがいいかなんて分かるだろう?」

 

 もっとも、本来は両方ともダメだと思うと付け足す。

 チームメイトの意識の差……同じような絶対的な才能を有するチーム同士でも、依存の仕方や空気感がまるで違う。

 

「君は少なくともこうしたいプレーを強く持っている。そして主張もしている。そこまでは良い。だが、そのプレーは味方を使わない……いいか?彼女の言うようにどんな形でもいいんだ。どんな形でも、君は味方を使うべきだ。味方を使うプレーを考えるべきだ」

「味方を使うプレー……本当にどんな使い方でもいいんですか?」

「不満があるなら自己主張するだろう。それすら出来ない、ただ従うしか出来ないようでは、申し訳ないが、このチームに未来はない。ここのサッカー部は楽しむことを目的とする……サッカー同好会にでも改名し、活動方針の変更を勧めるよ。そうなれば、私は放任するだろうし、君はこの部を辞めるだろうね」

「……そうですね。後、神奈もやめますね」

「いいかい?君の絶大な力は適当なチーム相手なら一人で蹂躙できる。でも、それじゃ、上に行くほど通用しない。君の為にも、ある程度は君の嫌いなチームプレーを受け入れる必要がある。だけど、君がレベルを下げる必要は無いんだ。君はフィールドで暴れ回るバケモノのままでいい。暴れたことで生じる綻びを見つけ、その綻びを使えるものが居なければ……君以上の怪物には()()勝てない。このままじゃ、君は破滅する」

「破滅か……確かに今のオレじゃ弱い。アイツに……アイツらに勝つには今のままじゃダメだ。でも、だからって誰かと力を合わせて勝つなんて輝かしくて反吐が出ることはしねぇ」

「これで一人じゃダメだから皆で協力して次こそ……みたいな思考だと普通はいいんだけどな。まぁ、そんなこと君に期待する程、私はバカじゃない」

「ハッ、本当に話が通じていそうで助かりますよ。レベルを下げ、アイツらに頼るサッカーなんてしねぇ。確かに昨日は天王寺に負けた……だが、次はねぇよ、()()

「君が私を監督って言うのは初めてだな」

「後、誰かが綻びをうまく使ってくれるなんて……そんな誰かに頼り切るプレーなんてしねぇ。誰かじゃなくてオレが使う。誰かに頼るサッカーなんてしない。やるなら、誰かを使うサッカーだ。それで、自分以上の怪物相手にも、勝ち切ってやりますよ」

「言い切ったな」

「二言はねぇ。こんな絶望、一回で十分なんですよ」

「そうか……まぁ、反省もいいんだが、さっさと陽向くんと仲直りしてこい。どうせ、あれから全然話せていないだろ?」

「もちろんです。あれは全面的にオレが悪いのですから」

「そうだな。君たちがこれで拗れないことを祈るよ」

「というわけで、部活は用事が出来たので欠席しますね」

「私は私で彼らと話さないといけないのでね。もう行っていいぞ」

「はい」

 

 そう言って飛び出すように出て行く十六夜。

 

「さてさて。教師としては、ちょっとマズいことを言ったかな?どんな使い方をしてもいいとは言ったが……どうなることやら」

 

 そのまま手元の書類を改めて見直す。

 

「あくまで人を使うサッカー……か。孤独なサッカーからは一歩成長だが……もし、この先もサッカーを続けるのなら、アイツが頼れる仲間が現れることを願うばかりか。使うサッカーには限界があるだろう……誰かと力を合わせるサッカーが出来るといいが……このチームじゃ無理だな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぅ……」

 

 放課後、陽向は自分の部屋のベッドの中で後悔していた。

 

「……あ、綾人とどう話せばいいんだ……!?」

 

 原因は昨日の試合。そのことで十六夜と言い合いをした……まではいいのだが、その翌日で気まずくなり、学校でも避け、剰え部活をサボって帰ってきてしまったのだ。当然、美空の言うように謝るまで関わらない……と言うことも思ったのだが、それにしても自分が逃げすぎて向こうの話す機会を奪ってしまった。これでは、向こうが謝ろうに謝れない……そもそも、こういう形で喧嘩をしたことがなく、仲直りの方法がいまいち分からない。いざ向こうの話を聞こう思っても怖さが出てきてしまい逃げてしまう。

 

「対話しないと……でも」

 

 一晩経ち、冷静に状況を分析する。美空と話したように自分も感情的になってしまっていた。それは紛れもない事実。だから、必要以上に強い言葉を使い過ぎたのではないかと。もっといい言葉選びが出来たのではないかと。もっと上手く言えたのではないかと。

 

「……あんな言い方したら、綾人が怒るに決まってるよね……でも」

 

 悔しかったのは十六夜だけではない。陽向も同じだった。心のどこかで自分と十六夜が組めば最強だと思い込んでいた。立場は違えど、自分たちが協力すれば誰にも負けないと驕っていた。だが、先の試合で自分たちのやってきたものが通用しなかった。圧倒的な力を前に、今の自分たち程度では勝ちきれなかった。暴走させてしまったのは自分にも原因がある。だから……

 

 ピンポーン

 

 と、そんな思考を中断させるような音が響く。

 

「あれ?何か宅配でも頼んでいたかな?」

 

 現在家には一人。来客か配達か分からないが、確認するべく自室から出てリビングに赴き……

 

「はぁーい」

 

 インターホン越しに画面と音声を乗せる。相手を特に見ず声を出したが……

 

『十六夜です。神奈さん居ますか?』

「ちょっ……!?あ、綾人さんや!?」

 

 その相手がまさに思考の中心にいた人物で驚きの声をあげる。

 

(うぇっ!?なんで綾人がボクの家に!?ボクの家に来る理由なんて……)

 

 と、陽向は思い出す。明らかに今日一日避け続け、放課後も部活をサボるどころか逃げるようにして家に帰ってきたことに。

 

(……も、もしかして理由しかない……!?いや、でもこういうのって大体連絡してから……ん?綾人の行動力と、ボクの性格と行動範囲からすると、ストレートに(ここ)に来るって意外と理に適ってる?もしかして、最適解だったりする?)

 

「か、覚悟を決めよう……」

 

 そう思い、リビングから出て玄関に。そのドアを開ける。

 

「えっと……」

「ごめんなさい」

 

 ドアを開け、陽向の姿が見えた瞬間、頭を下げて謝罪する十六夜。

 

「神奈の言ってたことが正しいって分かってる。分かってるのに強い言葉で反論して、当たってごめん。お前に強い言葉を使わせてごめん。試合中、約束を守れなくてごめん」

「あ、綾人……顔を上げてよ。……ボクの方こそごめんね。あの試合で一番悔しかったのは綾人なのに、責めることばかりして……寄り添えなくてごめん。それに、今日一日無視して、スルーしてごめんね」

「いや、いいんだ……神奈がそうやって言ってくれないと、オレは気付けない。間違ったオレを、必死に戻そうとしてくれたんだ。寄り添うんじゃなくて、正面から言ってくれる。本当に感謝しているんだ」

「……えへへ、珍しく素直なんだね」

「……うるせぇ。意地張って拗れるのが嫌なんだよ。それになんて言うか……今日一日、お前が無視したせいでつまらなかったし」

「ふ~ん、綾人って構わなくても関係ないって感じで、今日も他の人と楽しく談笑しているように見えたけど、ふ~ん。実はボクに構ってもらえて嬉しかったんだ~」

「…………」

「珍しく顔紅くしてるね~へーボクがいつも話し掛けてくれることに嬉しさ感じていたんだ……」

 

 と、顔を上げてる十六夜の胸に自身の頭を当てる陽向。

 

「……ボクもつまんなかった。なんだかんだで綾人はボクにかまってくれるし、ボクを本気で突き放すことはしない。無視することもしなくて、分かりにくいけど反応してくれて……でも、それがなくて退屈だった。話を聞かないと進めないのに昨日のことが引きずって向き合えなかった……うん!これで、終わり!謝る時間は終了だよ!」

「ああ……ありがとな」

「えへへ……とりあえずあがってよ。ずっと玄関で立ち話もアレだからさ」

 

 そして、自分の部屋にあげる陽向。着いていった十六夜は彼女が用意したクッションに座り、向き合うことにする。

 

「まず、反省だな。どうにも昨日は、重要なことすら忘れていたらしいし」

「重要なこと?」

「ああ。端から見ればオレは独りよがりなプレイヤーだ。そして実際、オレは仲間を使わないし、頼らない。個人プレーが基本スタンスで、数人で協力するプレーなんて、やる気もねぇしやりたくねぇ」

「そうだね」

「だから、そんなヤツが負けたとき、都合の良いときにそれを仲間のせいにするとか最低のドクズだなって。サッカーって本来11人居るところを1人で好き勝手やっているんだ。それで負けたらソイツのせいなのは当たり前。敗北の責任を全部背負いきれねぇようなヤツが好き勝手やるなんて百年早い」

「うん。仲間が足を引っ張ろうが何しようが、そんなの一切関係ない。君は彼らを頼っていないんだ。だから、それを敗北の理由にするのは間違っている」

「足を引っ張った……まともなプレーを相手に求めている時点で、オレは自分の選択を貫き通せていなかった。相手に何かを期待しているのは選択の意味を分かっていない愚か者のすること。結果を受け止め切れていなかったのはオレが自覚できていなかった弱さがあったからだ」

「……ちゃんと、分かって言ってるようで良かった」

「ああ。こういう形での敗北は経験無かったからな。この敗北はオレが1人で背負い込むべきものだ。……そして、次はねぇよ。このクソみてぇな絶望を味わうのは1回で十分だ」

 

 十六夜の言葉と表情に安心と僅かな心配をする陽向。

 

「……今は無理だけど、いつか綾人が頼れる仲間が見つかるといいね」 

「頼れる……ねぇ」

「……あ、ごめん。口に出てた?」

「そうだな。……でも、やっぱりそうか」

「やっぱり?」

「いや、神奈って昨日もだけど、チームメイトを見限ったとか捨てたとは言ったけど、頼らないからとは言ってねぇなって」

「まぁ……これは運動神経皆無のボクが言うのはちょっと気が引けるけど……頼れる要素ってないでしょ。頼るって、相手に全部任せるところもあるじゃん?」

「助けてもらうわけだしな」

「聞くけど、綾人は任せられる?今のチームメイトに一切心配することなく任せることが出来る?」

「無理」

「そういうこと。だから頼るプレーは求めていない。求めているとすれば、使うプレーだね」

「それなら監督に宣言したのと相違ないようで良かったわ」

「監督……ああ、先生ね。良かった、先生はある程度理解ある側と思っていたからね。顧問の先生の運は、中学と違って良かったみたいだね」

「今の先生のことは認めた。と言うか、中学がクソ最悪。アイツだけは二度とゴメンだわ」

「あはは……」

「となると、後はどうやって天王寺に勝つか。オレがもっと強くなるために必要なことは具体的に何なのかだな。無闇やたらに練習をすれば勝てる……なんて、そんな単純な話じゃない。そんなことじゃ、再戦の機会があっても結果はほぼ同じ」

「そうだね。それで勝てるなら、こんな反省会するより練習した方いい。練習量が足りないなんて、単純明快で逃げみたいな反省に意味は無い。キミの言う絶望と正しく向き合い、深掘りし、分析しないと次はない」

「ああ。人を使うプレーは最低限だろ?ただただそれを身に付けただけで勝てるほど甘くもねぇしな」

「そうだね。それで?」

「まず聞きたいんだが……お前の言っていたオレの才能ってなんだ?」

「…………」

 

 と、ここで暗い顔になる陽向。

 

「いや、才能に気付かないって言われたし、何か才能があるならそれを活かせるように

するってのが分かりやすい道標になると思ったんだが……神奈?何か暗くなってるけど……」

「綾人は……ボクのこと捨てない?」

「はぁ?」

「キミの才能はまだ眠っているんだ。きっと、真価を発揮できていない。でも……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キミの才能が開花したら……ボクがいらない子になっちゃう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その言葉に固まる十六夜。何で、才能が開花すると陽向がいらなくなるのか……

 

「どういう意味だよ……それ」

「だって、キミの才能は……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「奪う才能だから」




美空雪
 小・中・高と十六夜と同じ学校に在籍し、クラスも何度も一緒だった少女。流石に少年団でのあれこれは知らないが、学校でのあれこれは大体見ていた傍観者。高校2年生になってようやく本格的に関わるようになった。
 記憶力高めで、あらゆる事に対する成長が爆発的に速いがすぐに止まってしまうある種の天才。そのせいで本気で打ち込むものがなく、サッカーに本気な十六夜のことを羨ましく思っていた。正義感も強い側面があるため、中学時代の十六夜に何もできなかったことを引きずっているところがある。それはそれとして、十六夜に対し勉強で負けていることは純粋に悔しいし、自身のことが記憶に一切残っていないところはちょっとムカついている。

監督
 2年生から変わった女監督。英語の教科担任でもある。自身も学生時代はサッカ-に費やしており、費やしすぎて恋愛とは無縁だった。そっちの意味の青春も送りたかったと密かに嘆く二十何とか歳である。
 十六夜自身は中学の件もあり、前の顧問含め認めていなかったが、話が通じる大人だと知り、監督として認めるようになった。尚、前世でサッカーの監督として言葉をしっかり聞く相手はコーチと彼女しか居ない。お前はジムバッジが足りなくて言うことを聞かないポケモンか……?また、普通の先生としても気を許すようになる。本当に気を許している先生も中学時代の担任含め2人しか居ない。お前はなつき度が上がりにくいポケモンでもあるのか……?
 十六夜の中学でのサッカー部関連の諸々を知っているが、十六夜の考え方には肯定より。チームが勝つために、十六夜を起用している。彼のことを気に入り、将来を楽しみにしていたが、その将来が絶たれてしまったためショックを受ける。

十六夜綾人
 中学以降公式戦初の敗北を味わった(そもそも、出場機会が少なすぎるため)。ようやく自分の才能と向き合い始めた天才。この先も、まずは自分自身と向き合うことが鍵な様子。
 なお、小・中学校時代の学校の同級生は冗談抜きで誰も覚えていない。先生が1人プラス辛うじて数人分かる程度で記憶の欠片にも残っていない。そもそも、学校の友人もいなかった(孤立していた)ため、仮に成人式や同窓会があっても絶対に参加しない。
 孤独なサッカーから人を使うサッカーを覚えようとしている。ただ、周りからは頼れる仲間が出来ることを願われている。





 本編の描写とリンクしたように、最初の出来事は十六夜の中でも印象の強い出来事になっていますね。
 そして、才能発覚……この才能がどんな才能かは次の過去編で明らかになりますね。ただ、名前と今までの本編や過去編の描写からも想像できる人は居そうですが。
 次回は本編に戻りオルフェウス戦開始ですね。
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