『さぁ、まもなく後半戦が始まります。現在、4-3でオルフェウスが1点リードの状況です』
ハーフタイムは色々とあったものの、あれから後半の指示を受け、時間になったので両チームポジションにつく。
『さて、ここで選手交代があるようです。イナズマジャパンはFWの染岡に代わり宇都宮。また、MFの十六夜とDFの風丸のポジションを入れ替えて、前半最初の形に戻してきました』
フィディオをマンマークするためにMFに上がっていたが、その作戦を後半最初からやるのは危険とのことで、一旦前半最初と同じ形に戻すことにする。流石にナカタの情報が少なすぎる……が、フィディオをおさえてオルフェウスのキャプテンになっている以上、その実力は決して低いものではないだろう。
『そして、オルフェウスはMFのジョルジョに代わってキャプテンのヒデナカタが入ります』
『特にオルフェウスのキャプテン、ヒデナカタ選手の参戦……彼がこの試合にどんな影響を与えるのか。今から楽しみですね』
『さぁ、オルフェウスのキックオフで試合開始です!』
ピー!
そして、後半開始のホイッスルが鳴り響く。オルフェウスボールで試合が始まった。ボールはナカタに渡り、フィディオ、デモーニオ、ダンテ、またナカタとパスを繋いでいく。
「おいおい……マジで言ってるのか……」
前半と比べてパスワークが上がっている。各々の選手が空いたスペースに迷わず走り込み、最適なタイミングでパスが出されている。パススピードや正確性は前半より上がっていて……それを彼らは声かけなしでやっているのが恐ろしい。
前半と同じチームとは思えない……まるで別のチームのような動き。そして、その中心に居るのは間違いなくナカタだ。彼が入ったことで、チームの動きが格段に良くなっている。
「…………」
イナズマジャパン側は対応できていない。前半とは別のチームと思えるようなレベルの鮮やかな連携……その感覚の差を埋めれていない。かく言うオレ自身も完全に埋めれているわけではない……が、
「相手が最適解を進んでくれるなら……読める」
彼らは最適解を動いている。その瞬間における彼らにとっての最適な場所に、最適なタイミングでパスを出している。後手を取っていては間に合わないだろう。だから……
「先読み……ここ!」
狙うはパスカット……ボールと選手の流れを読んで、先んじて封じる。流石に変な回転もかかっていない普通のボールだ……やはり、途中で奪われることは想定されていない。これは奪え……
「キミならこのタイミングで取りに来ると思っていたよ」
「はぁっ!?」
パスコースに割り込んだオレの前にナカタが現れる。嘘だろお前……!?何でお前がここに居るんだよ……!
「最適解で進んでいればキミなら読める……だから、それを逆手に取らせてもらった」
「ッチ……!」
ワンタッチでパスコースを変えてボールをフィディオに託すと、オレとすれ違うようにしてこちらのゴールへと走る。
「キャプテン!」
そいて、フィディオからのダイレクトパスを受け取るとそのままボールを持ち込み、壁山と吹雪を突破する。クソ、テクニックも普通にあるのかよ……!
「来い!」
そして円堂との1対1。ナカタはボールを足裏で止めると、そのままつま先を地面に付けることで、回転させながらボールを上げ……
「ブレイブショット改!」
オーバーヘッドキックを叩き込む。ボールには青いオーラが溜め込まれ、蹴りを加えたと同時に、サッカーボールの縫い目と同じ形を取って広がり、ボールは青いオーラを纏ってゴールへと飛んでいく。
「イジゲン・ザ・ハンド改!」
円堂の必殺技が発動する。だが……
『ゴール!後半開始早々!オルフェウスキャプテン、ヒデナカタが再び2点差に広げたぞ!』
円堂の生み出した半球を呆気なく破り、ゴールを決めた。……やべぇな……とんでもねぇ選手だ……
「指揮能力、盤面把握能力にパス精度。読み、足下の技術に加え決定力まで……パラメータの底が見えねぇ。間違いなく世界トップレベルのプレイヤー……いや、フィディオを超えるってなったら……」
頭の中でナカタの立ち位置が更新される。現時点でオレの知っている同年代の中でトップに立つ選手たち……トッププレイヤーを超える立ち位置の選手。そう考えるとマジでヤバいな……流石にこんな怪物が参戦することなんて想定できてねぇって。……どうにかしねぇと、このままじゃ大差で負けるぞ……この試合……!
「ありゃりゃ……流石にヒデナカタ参戦じゃ分が悪いでしょ。彼が参戦したことで、オルフェウスのチーム力は前半の比じゃないっての」
「そうね。確かにイナズマジャパンは窮地に追い込まれている。……でも、こういう窮地でこそ、あのチームは進化すると思うわ」
「進化……ねぇ。その進化がオルフェウスに届けばいいんだけど」
イナズマジャパンのキックオフで試合再開。ボールは鬼道が持った。
「カテナチオカウンター!」
カテナチオカウンターが発動する。フィディオを突破する鬼道。そして、フィディオの陰から現れたデモーニオを不動とのワンツーで突破する……その予定だった。
「「なっ……!?」」
デモーニオの陰から現れたのはナカタ。彼が不動から鬼道へのパスをカットする。
「カテナチオカウンターも進化したね。フィディオ・アルデナ、デモーニオ・ストラーダ、ヒデナカタの三段構え。普通の選手であれば第一の壁であるフィディオ・アルデナを越えられないというのに……あまりにも鉄壁過ぎるね」
「そうね。でも弱点はある」
「弱点?」
「カテナチオカウンターは相手選手を囲うのに6人の選手が必要。そこに三段構えで3人追加されれば、キーパーと1人しか残らない。突破出来れば確実にシュートまで持って行ける」
「……いやいや、それって弱点?シスターならともかく、他の選手は突破なんて出来ないよ」
「でも、完璧な必殺技も必殺タクティクスも存在しない。不可能じゃない……まぁ、イナズマジャパン側で出来るかは知らないけど」
「そこが重要なんだよ……」
ナカタが奪うと同時に、オルフェウスの選手たちは一気にイナズマジャパンゴールに向けて攻め上がっていく。
「さぁ、苦しい時間の始まりね」
(どうする……!?人数少ねぇし、読めねぇというか読まれるというか……マジでどうする……!どうやって止める……!流れは読める……!読めるが……)
何処か楽しそうなAとは対照的に、フィールドに居る十六夜は頭を必死に回転させていた。十六夜がパスカットに動こうと動きを見せると、ナカタとフィディオが動きを変えてズラしていく。
(読めているのはオレだけじゃねぇ……!少なくともフィディオとナカタは読めている側の人間……!アイツらの前だと下手に動けば殺されて終了だ……!)
「十六夜綾人にヒデナカタの未来が見えない。理由は単純、データが圧倒的に足りていないから。一方のヒデナカタは十六夜綾人の動きが読める。だって、十六夜綾人のデータをしっかりと入れているから」
「圧倒的に不利ってことだね」
「えぇ」
悩んだ末に十六夜は動き出す。狙うのはパスカットではなく……
「そう来るんだね」
「そう行くしかねぇんだよ……!」
ボールを持った選手に持った瞬間詰め寄る。パスカットを狙って割って入られるのなら強引に1対1に持ち込むしかない。もっとも、向こうも分かってかフィディオをぶつけて来たが。
「でも良い判断だよ。パスカットに動くより、よっぽど可能性のある選択肢だね」
「ハッ……マジで可能性が低くて笑えてくるわ」
十六夜とフィディオの1対1。前半は同じようなシチュエーションで、必殺技を使われて抜かれたが……
「そして、十六夜綾人はフィディオ・アルデナの未来も見えない。何故なら、彼は二つのスタイルを使って戦っている。そのプレースタイルと対峙した回数が少なすぎてデータが不足してる。特に、前半の途中から彼がボールを持っていないため、最低限すら集まっていないでしょうね」
「なるほど……イナズマジャパン側の作戦が、ある意味で裏目に出た。少しでもデータが欲しいなら、彼にボールを持たせたプレーをさせるべきだったわけだね」
「もちろん、失点というリスクがつきまとうけどね。しかも、下手に決めつけて動けば、その逆を突かれる。ほら、今みたいに」
十六夜の逆をつき、突破するフィディオ。
(ッチ……!フィディオのプレーの未来を読んだのに……!影山東吾のプレーに切り替えやがった……!自分のプレーに他人のプレーを織り交ぜられたらいよいよ読めねぇっての……!)
(中々難しいな……今のは上手く行ったけど、どちらかのプレーだけでは彼に勝てる確率はそんなに高くない……もっと二つのプレーを織り交ぜて、昇華させないと……)
「わりぃ、円堂!」
「今度こそ止めるぞ!フィディオ!」
「行くよマモル!オーディンソード改!」
フィディオのシュートがゴールに向かって飛んでいく。
「イジゲン・ザ・ハンド改!」
それを円堂は半球を生み出すことで止めようとする……だが、貫かれてしまった。
「まだ……!」
「間に合った……!」
シュートはゴールに向かう……それを吹雪と風丸が割って入って止めに行く。ボールは二人に当たり軌道がそれてバーに直撃、跳ね返ったボールを円堂が確保した。
「十六夜!」
不動が十六夜の名を呼ぶ。十六夜は頷くと……
「円堂ボールくれ!風丸守備頼む!」
「おう!」
「分かった!行ってこい!」
円堂と風丸に声をかけると、ボールを受け取って前線へと駆け上がっていく。
「カテナチオカウンター!」
そして、相手の必殺タクティクスの中に入った。
ピー!
「空は走らせないぞ」
デモーニオがペンギンを呼び出し、その上に乗って十六夜の真上を飛んでいる。
(なるほどねぇ……飛ぼうとすれば、その瞬間ボールを奪うってか?クソ、それじゃ前の攻略法は使えねぇ……)
「だったら、正面突破しかねぇな!」
「来い!」
十六夜とフィディオの1対1が再び起こる。
(やはり、カテナチオカウンターの中限定だったら、フィディオの動きは読みやすい……これなら……!)
フィディオを突破する十六夜。
「やっぱり来るよな……!」
「よく反応した」
次の瞬間、ナカタが現れボールを奪おうとするも、読めていたためしっかり反応して、ボールをキープすることに成功する。
(問題はここだな……!やっぱり、ディフェンス能力も一定以上あるらしい……!クソ、隙らしい隙が見当たらねぇ!揺さぶって崩すしかねぇ……けど……!)
「くっ……やっぱりか!」
十六夜はキープしていたボールを軽く浮かせる。ボールを上げた後には伸ばされた足が現れる。
「これも反応するとは、流石だね」
「ほんと、冗談キツいって……!」
その足を出したのはフィディオ。ナカタを前にキープしている十六夜の背後から奇襲をかけたのだ。前後をナカタとフィディオに挟まれ、上はデモーニオが待機し、そもそも動けたとしても、オルフェウスのメンバー6人が作る檻から抜け出せない以上スペースは限られている。
「フォローはいい!カウンター警戒!」
自身の包囲網を突破できる確率が限りなく低いことを察した十六夜は、イナズマジャパンの選手たちに守りに動くよう指示を出す。もちろん、勝てることに超したことはないし、そもそも勝てるならそのまま単独でシュートまで持って行ける。諦めた……というより、負けたときのことを考えた予防策。だが……
「まぁ、そりゃ取られるでしょ。前後を世界トップクラスの選手に挟まれ、上も封じられた状況。パスコースは存在せず、更にオルフェウスのメンバーにより、動けるスペースも限られている。まさに四面楚歌。あんな八方塞がりで、希望すら見えない状況で勝てるほど、今の十六夜綾人は強くない」
「字面だけで絶望感がヤバいね。と言うか、そんな絶望の中で、十手くらいまでは耐えられた十六夜綾人の能力には脱帽するよ。ほんと、キープ能力も高いね」
「その耐えのお陰でイナズマジャパンの守備は固まっているようね。しっかり、鬼道有人と不動明王が指示を出していたようだし」
取られて流れるようにカウンターを仕掛けるオルフェウス。鬼道と不動のお陰で守備は固まっていたものの、素早いパス交換に翻弄されてしまう。そして……
「エローエ・ピングイノ!」
フリーになったデモーニオがシュートを放つ。
「ザ・マウンテンV2!」
壁山がシュートブロックを試みる。……が、数秒耐えた後に山は砕かれてしまった。
「真空魔V2!」
壁山の後ろに待機していた飛鷹が必殺技で少しでも威力を削ごうとする。そして……
「イジゲン・ザ・ハンド改!」
そのブロックを貫いたシュートは円堂の生み出した半球と激突する。ここまでのシュートブロックで威力がかなり殺がれていたため、ボールは半球に沿って進んでいき、バーに直撃する。弾かれたそれをキャッチし、何とか防ぐことに成功する。
「大丈夫か!壁山!飛鷹!」
「は、ハイッス……」
「うっす……」
「円堂!こっちだ!」
「分かった!」
ボールを鬼道に預けつつ、息も絶え絶えな二人に声をかける円堂。
「取り敢えず防いだみたいだね。でも、ヒデナカタが参戦してから攻められっぱなしだね」
「そうね。まぁ、そろそろイナズマジャパンの監督さんも動くみたいよ」
イナズマジャパンのベンチでは動きが見られていた。
「それが打開するきっかけになればいいわね」
3-5と2点差に広げられ、更には得点への活路が見えない状況……
「相変わらず上からだね」
「だって、別にこのままイナズマジャパンが負けても一向に構わないし」
「あはは……」
打開することは出来るのか。
次回、10と1