超次元サッカーへの挑戦   作:黒ハム

209 / 254
VSオルフェウス ~君がくれたもの~

 オルフェウスのスローインで試合再開。ボールはナカタが持った。相対するのは十六夜。

 

()ろうぜ!ナカタ!」

「……っ!?」

 

(……何だこの空気は?目といい、さっきまでとは別人に感じる……)

 

 十六夜の空気が一変している……それはベンチに居る私にも伝わってきた。さっきまでの十六夜とは違い不安を感じない……どころか、寧ろナカタとのマッチアップを楽しんでいるように感じる。

 

「おいおいこんなもんじゃねぇだろ!本気で潰しに来いよ!」

「遠慮無く行かせてもらうが、キミはスイッチが入ると荒れるタイプかい?」

 

 普段では絶対に口にしないような、相手に本気を出させるための煽り。相手は強敵だと言うのに、その本気を引き出そうとしている。その言葉に乗っかったのか、それともレベルを上げないと倒せないと悟ったのか、ナカタのフェイントは今までよりキレが増している。

 

(……格段に対応スピードが上がっている。彼のスタイルはあらゆる情報を手に入れ、そこから動きの先読みをするもの。圧倒的な分析力を生かした頭脳で勝負するようなDF……そう思っていたんだが……違う。これはそれだけじゃ説明がつかない……つかないんだが……何が起きているか分からない……)

 

 この試合で初めて見る動きも織り交ぜていて、とてもじゃないがレベルが高すぎる……そのはずなのに、十六夜はその動きに紙一重で喰らいついている。一見するとギリギリの攻防……今までの十六夜なら必死な表情でついて行くのがやっとのはずなのに、今のアイツは何処か嬉しそうで楽しそうで……

 

「怖い……」

「え?」

「あ、ごめん……えっと、なんて言ったら良いんだろう……凄い楽しそうなんだけど、凄く怖く感じると言うか……」

「うーん、普段とは確かに違うと思いますが……」

「感情が表に出ているからそう感じるんじゃ……?」

「……いや、怖いって感覚は正しいと思う。俺も今の十六夜くんは怖いと思っている……多分だけど、この怖さは理解出来ないことからくる怖さだと思うんだ」

 

 ヒロトがそう口にする。確かにそうだ。残り10分2点差と敗色濃厚なこの状況で、絶対に阻止しなければ勝ち筋が消えてしまうこのタイミングで、攻略法どころか実力さえ正確に判断できない高みに居るような強者を相手に、嬉しそうで楽しそうに戦うその精神(メンタル)がまるで理解出来ない。そして、人は未知へ恐怖を感じることがあるようだが……まさに、今感じているのはその恐怖というヤツなんだろう。

 

「……っ!?」

「ここだろ!」

 

 そして、ナカタと十六夜の攻防に決着がつく。ナカタがフェイントを仕掛け突破しようとしたのだろう。そこを、足を伸ばしてボールだけをピンポイントで弾く十六夜。迷いなく弾かれたボールは不動の下へと転がる。

 

(こちらが確実に突破できると確信したタイミングでの奪取……!まさか、全て()()()()()()というのか……!?)

 

 十六夜が奪ったことに驚きを隠せない……そんな表情を見せるナカタ。この試合で初めて、彼の表情から余裕が消え失せる。だが、その表情を引き出した本人は、首を振って、周りを見たかと思うとすぐさま走り始めていて、その表情を見ることはなかった。

 

(見える……!()()()未来が……!ゴールが()()()未来がいくつも光の道筋となって……!)

 

「…………」

 

 既に十六夜の表情には嬉しさも楽しさも感じない。真剣そのもの……空気が変わったのか?と、そんなことを思っていると一瞬だけ不動の方を見た。

 

「……ハッ」

 

(……元々出すつもりだったが、完全に()()()()()()な……やってみろよ、バケモノ。テメェの答えを見せてみやがれ)

 

 不動は十六夜へパスを出す。ボールを貰うとやって来たディフェンスと対峙し、一瞬で抜き去った。

 

「早っ!?」

「まだだ……イメージをもっと上げろ。これじゃ全然足りねぇ……」

 

 フェイントを仕掛けたかと思うと、次の瞬間には抜き去っている。今までより突破のタイミングが速くて迷いがない。相手が釣られて反応しようとした一瞬をついたのか……?

 

「十六夜!こっちだ!」

「加速して突っ込む。減速しない切り返し。タッチ数とボール運びの意識を……」

「……十六夜?」

 

 鬼道がパスを要求するが、パスを出す素振りは一切無い。ぶつぶつと何かを言っているようだが……聞いていない?いや、多分違う……あの空気はエドガーとやりやっていた時に近い……

 

「……入ったか」

 

 久遠監督が何かに気付いた様子だ。入った?一体、何を言っているんだ?

 

「嘘だろ!?」

「えぇっ……!?」

 

 2人目、3人目もあっさり突破する。突破することに迷いが一切感じられない。普段より判断が早く、いつもならもっと待つところだが……何だ?焦っているようには思えないのに、突破の仕方は何処か強引さを感じる。でも、無理矢理には思えなくて、繊細さと確実さを兼ね備えた感じもして……取られる気配を感じない。そして、その動きは何処かで見たような……

 

「十六夜!フリー!」

「十六夜さん!こっち空いてます!」

「90%と言ったところ……次は減速し翻弄……想定より2秒早い。時間を稼ぐ……」

 

 聞いていないのではなく聞こえていないのか?十六夜綾人には味方の声が届いていないというのか?……もし、そうだとしても、その理由は暴走しているからじゃない。

 

「没頭している……誰の声も届かないくらい集中しているのか……!?」

 

 と、そんな状態の十六夜が4人目を突破すると、続いて立ちはだかったのはフィディオだった。

 

「一体何故ここに……いや、ここで止める!」

「さぁ、()り合おうぜ!フィディオ!」

 

 立ちはだかった本人が何故か驚いているが、それでも彼のブロックは十六夜を先へと進ませない。十六夜のフェイントはさっきまでより一段階ギアを上げていて、その速さに着いていくフィディオ。また何処か楽しそうな空気を出しているが……それでも、やはり世界トップレベル同士の1対1。高いレベルの戦いが繰り広げられていて、常人では目で追うのがやっとだ。

 

(分からない……!何故わざわざ俺の居る方へ突っ込んできたんだ……!?この選択肢はどう考えても最適解じゃない……!一体、何を考えているんだ……!?)

 

「ぶち壊す!」

「っ!?」

「「「フィディオ!?」」」

 

 突如、フィディオがバランスを崩して倒れ込む。倒れ込むフィディオの横を十六夜が突破することで幕を閉じた。

 

「「「え……?」」」

 

(嘘っ……今、何が……!?)

 

 フィールドでは突破した十六夜が首を振ってフィールドの状況を確認している。また、空気が変わったのか楽しさを感じないように見えるが……何をしたんだアイツは……?一切接触はしていない。ファールは当然ないのだが……何が……一体何が起きた?

 

「バランスを崩した……いや、崩させた?」

「崩させたってそんなのあり得るのか……?」

「じゃあ、新しい必殺技……?でも、そんな感じしないけど……」 

「だ、ダメです……!必殺技だとしたら、原理が分からなくて、最適な名前をつけることが出来ません……!」

「お前は何を言っているんだ?」

 

 もし必殺技だったら、相手に触れずに吹き飛ばすくらい容易だろう。風を起こしたり、幻覚を見せたり……だが、あれは必殺技ではない。私の直感は、十六夜綾人は必殺技を使っていないと告げている。だが、そうだとしたらなんだ?抜き去る瞬間、纏う空気だけでなく目もナカタとのマッチアップと同様、いつもとは違う色を見せていたような気がしたが……何が起きている?必殺技であろうとなかろうと、原理が分からなさすぎる。

 

「ここで止めてやる!」

 

 フィディオの次にブロックに来たヤツらを最短最速で突破し、キーパーとの間に割り込んだのは2番(ベント)。彼を抜けばキーパーと1対1に持ち込めるが……

 

「ボーラ――」

「パスだ!流石に無茶……っ!?」

 

 両腕を広げて十六夜へと突撃しようとする。十六夜がターゲットになっている以上、今からではあの必殺技は流石に避けられない。パスしかない……そう思うこちらの予想に反して、十六夜は相手選手の方へと軽くボールを蹴って加速して突っ込んでいく。

 

「――スマッ……っ!?」

 

 相手も突っ込んでくることは想定外だったようで、驚きのあまり目を見開く。

 

「潰す!」

 

 衝突寸前に相手がブレーキを掛けて慌てて止まる。そのお陰で真正面からの激突は避けるが、十六夜はそれを見越していたのかスピードを落とすことなくボールをさらに蹴って股抜きで突破する。

 

「あ、危な……危険すぎますよ!?」

「いや……あれは分かっててやったと思う」

「……ってそんな事よりキーパーと1対1ですよ!?」

 

 ヒロトが今の十六夜のプレーに何か気付く中、当の本人はキーパーと1対1になる。

 

「来いよアヤト!」

「行くぜブラージ!」

 

 相手キーパーが構えるが十六夜は撃たない。そのままゴールへと突っ込んでいく。撃たないと見るに前に出て止めようとするキーパー。

 十六夜とキーパーの距離が近づいていく……十六夜のシュートコースはどんどん消されていく。一瞬の判断が大事な局面。

 

「……っ!まだ!」

 

 十六夜がシュートを放とうとした瞬間、キーパーが膝を地面につけ、シュートコースを掻き消す。だが、それはフェイク。シュートを撃つことなく、キーパーの横を突破しに行く。そこを、体勢を崩しながらもボールを取ろうと飛び込むキーパー。

 

「何処まで冷静なんだよ……!?」

 

 しかし、それすら今の十六夜にとっては想定内なのだろう。動揺は愚か焦りの一つ見せること無く、冷静に右足のインサイドで軸足にボールを当てると、そのまま左足の踵でボールを高く浮かせる。

 

「フィニッシュ!」

 

 そして、横になっているキーパーを避けるように走ると、落ちてくるボールをボレーでゴールの中に叩き込む。ボールは勢いよくゴールの中に入り、ネットを揺らした。

 

「しゃおらぁぁあああああああああっ!!!」

「「「…………」」」

 

 十六夜の咆哮が轟くが、スタジアムからは歓声が起きなかった。あまりのことに呆然としてしまい、静かになってしまったのだ。

 

「「「うぉおおおおおおおおお!!!!」」」

 

 そして、一拍遅れてスタジアムからは割れんばかりの歓声と悲鳴が巻き起こる。このゴールはこの試合一番の衝撃をもたらす。今までのゴールよりも遙かに異質で、あり得ない奇跡みたいなゴール。

 しかし、盛り上がっているのは観客のみ。フィールドやベンチに居る私たちの多くは、素直に喜ぶよりも先に様々な感情が押し寄せてきてしまった。

 

「これが十六夜のフロー状態……予想以上に狂っている……か」

 

 その中で監督は思案顔で何かを考えているようだった。フロー状態……?何を言っているんだ?

 

『…………ハッ!ご、ゴール!衝撃のゴールだ!何と十六夜が1人でオルフェウスの選手たちをごぼう抜き!圧倒的なテクニックでゴールまで道をこじ開けました!』

『十六夜選手の個人技はかなりのものですが……これは恐ろしいですね。まさか、ここに来てこんな神業を披露するとは……!』

 

 一体何をしたのか分からない。何が起きているのかも分からない。解説の言うように人智を超えた、常人の理解を超えた神業。

 

『この得点で1点差に縮めたイナズマジャパン!残り時間は刻一刻と減っていますが……ど、どうでしょう?』

『そうですね……キャプテンであり、世界でもトップクラスであるヒデナカタ選手の参加。副キャプテンであるフィディオ選手もその力を遺憾なく発揮してくれ、他の選手もこれまでの試合以上のパフォーマンスを発揮しています。そこに、今まで以上に監督がチームのために献身的な姿を見せるなど、チームとしての仕上がりが最高潮となっているイタリア代表オルフェウス』

『ふむふむ』

『対するは、これまでの試合もトップクラスの選手に喰らいつき、現在進行形で圧倒的なプレーを魅せ覚醒中の十六夜選手。そして、キャプテンである円堂選手をはじめ、そんな最高以上のパフォーマンスを発揮する彼らに呼応する形で、何度も何度も進化を繰り返す日本代表イナズマジャパン。これは最後の最後までどうなるか読めなくなりましたね……!』

『誰にも結果が読めなくなったぞ!試合終盤に来て更なる盛り上がりを見せる、オルフェウスVSイナズマジャパン!6-5で点差はたったの1点!この激闘の決着を見逃すな!』

 

 解説を始め、観客たちが盛り上がっている中、ゴールを決めた張本人はボールをゴールから取り出し、フィールド中央へと歩いて行く。咆哮をあげたものの、その顔には浮かれた感じはなく、既に喜びもない。次のプレーへと意識を向けているように思える。

 そんな十六夜に、ゴールを決め喜ばしいことなはずなのに、誰一人声をかけようとしない。いや、声をかけられないのだと分かる。確かに凄い……それはそうなんだが……本当に喜んでいいのか分からない。喜ばしいはずなのに……一体、何なんだ?この感じは……

 

「ねぇ、アヤト。聞いていいかい?」

 

 と、ただ一人フィディオが声をかける。その声に足を止める十六夜。

 

「どうして君は俺に突っ込んできた?……ああ、ごめん。責めているわけでもないし、これは純粋な疑問だから無視してもいい。もちろん、集中を途切れさせたい意図はないからね」

「問題ねぇよ。今のプレーの振り返りになるからノイズにはならねぇ」

「そう……じゃあ、言うけど最初からだろうね。キャプテンからボールを奪い、フドウからパスを受けた時点で君には見えていたはずだ。君が取るべき最適な選択が、最善のゴールまでの道筋が。……でも、何でそれを()()()()()()んだい?」

 

 ……選ばなかった?聞き間違いではなかったようで、周りにも動揺が見受けられる。

 

「確かにあの瞬間、勝てる未来が、ゴールが決まる未来が、いくつも光の道筋となって見えていた。……だから、そんな未来を選ばなかった理由なんて一つしかねぇだろ」

「一つ……ごめん、ちょっと分からないかな。その理由は?」

「そんなのオレの作りたい未来じゃねぇから」

「…………は?」

 

 …………は?いや………………は?聞こえている全員があまりにも意味の分からない理由のせいで混乱しているんだが?

 

「理性100%で出された合理的で確実な道筋。フィールドの全てを分析した結果割り出された最適解。正しくて、真っ当で……そんな輝かしくて、眩しく温かい光のような未来。今までのオレはあくまでこちらをベースで未来を作り上げ実行していた。だが、こんなのオレが心の底から作りたい未来じゃねぇ。だからぶち壊した」

「……そう。それで、ぶち壊してどうしたんだ?」

「本能100%で出した非合理的で不確実な道筋。フィールドの状況なんてどうでもいい最悪の解答。間違ってて、狂っていて……そんな混沌とした、暗く冷たい闇のような未来。そっちの方がオレに合っている。だからコイツをベースに新しい未来を作った」

「新しい未来……一体、どんな未来を作ったんだい?」

「本能で作った未来を、理性がもっとパフォーマンスを発揮出来るように、心が乗るように洗練させた。より凶悪でより狂気的な自分のことしか考えていない最低最悪な未来……そんなフィールドにとってでもチームにとってでもない、十六夜綾人とっての最適解を作り出した」

 

 理解が出来ない。こうやって少しずつ言語化されても、なお意味が分からない。そうして生み出されたアイツにとっての最適解がフィディオと勝負すること?そもそも、見えていた確実な道筋を潰して不確実な道筋を作り上げたって……何を言っているんだアイツは?一体どういうことなんだ……?

 

「ははっ……そりゃ読めないわけだ」

 

 そのまま自陣に戻ろうと歩き出す十六夜。

 

「世間的には間違っている。端から見れば狂っている。理解不能で、自己中心的で、どう考えても最悪で選ばれるはずがないような、テストで言えば0点の解答。……でも、君にとってはそれこそが真理。王道を壊して覇道を突き進むことこそが、君の力を最大限発揮出来るってわけか」

「覇道……いいなその表現、使わせて貰うわ。……本気で潰しに来い。もっとオレに熱をくれ。まだまだこんなものじゃねぇだろ最強ども」

「…………っ!」

 

 ゾクッ……決して、威圧するような感じで言ったわけではない。もちろん、こちらに向けて言ったわけでもない。それなのに、寒気を感じる。得体の知れないバケモノが牙を剥く姿が鮮明に映し出される。

 

「今のオレはどうしようもなく、お前らと()り合いたくて、ぶっ壊したくて、滾ってしまってしょうがねぇんだからさ!」

 

 そして、好戦的な笑みを浮かべる。今のアイツは世界大会が始まってから一番楽しそうで、いつもより感情剥き出しで、それでいて理解がまるで出来ない。常人の理解からかけ離れた存在……本当にアイツに何が起きたんだ?一体、何がどうなっているんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一体どういうこと?アヤトは一体何を言っているの?」

「全く理解に苦しむ……確実な未来を壊して不確実な未来を作る?常人と逆じゃないのか?」

「そうだね……俺も完璧には理解していない。でも、部分的には分かったよ」

「どういうこと?」

「……確実な未来じゃ、俺やキャプテンに読まれてしまうから」

「恐らくそうだろうね」

「キャプテンは分かったんですか?」

「いや、俺も完璧には理解出来ていない。だが、それは断言できるだろう」

「……2人でも理解出来ない……って……」

「それでも、読まれる理由は分かる。アヤトの作る未来と言うのは、フィールド全体の動きを把握し、次に起こることを予測。それを踏まえ、自身もしくはチームが取るべき最適解を実行し、自分たちにとって有利な方向へと進むようにする。つまり、同じ視点を持っていれば、彼のプレーは模範解答を行くから読みやすいんだ」

「ああ。必殺技が絡むと時々突拍子もないことをするが、それでも彼のプレーは分かりやすいだろう」

「わ、分かりやすいんだ……止めるの結構難しいけど……」

「それはアヤトのレベルが高いからだね。……だから、彼の思考に追いつき、彼と同等以上の技術を持つ選手からすれば、対処することは難しくない」

「うちで言うとキャプテンとフィディオの2人だな。アイツがサプライズを仕掛けない限り、2人なら対処できる……のがさっきまでの話。…………いや、待ってくれ。いくら考えても、常人ならそんな思考にならないし、なったとしてこんな大事な局面で選ばないだろ……狂っているのかアイツは」

「デモーニオも気付いたの?」

「ああ。チームにとっての最適解……つまり、フィールド上の皆が思考を積み重ねればたどり着くことが出来るような100点満点と言って良い解答では読まれてしまう。だから、アイツはそれを捨てた。そして、常人じゃ絶対に選ばない解答を選ぶことにした」

「だから、その常人じゃ選ばないって一体……」

「……アイツはキャプテンやフィディオと真正面から対峙して、倒しに行く解答を選んだ。見えている選択肢から一番危険で不確実で勝算の低く真っ先に切り捨てられるような0点の解答を選んだ」

「つまり……試合に勝つために強敵との戦いを避けるんじゃなくて、自ら進んで強敵に突っ込んだってこと!?」

「そうなるな。……いや、ある意味で合理的か?強敵を倒してしまえば、その後のゴールが確実に……でも、結局それは勝算を捨てて……」

「……今まででは考えられない思考の変化だね。……でも、勝算は捨てていない……いや、考えてすらいないと思う」

「ど、どういうこと?」

「今のアヤトの中に、誰々には勝てるとか負けるとかそういうものは一切考えていない」

「そうだろうね。彼には本気で戦いたい・倒したい相手が居るが、避けたい相手が居ない。勝算度外視の破壊的な道筋……今までの彼の情報を得ても計算できないだろうね」

「だけど、それでも今の彼に対する理解は浅い。分からないことだらけなのは否めない」

「王道を壊した理解不能な存在……ある意味で元々の十六夜くんの天敵のような存在だ。理解出来ない存在の出す答えや未来なんて読めるはずもない」

「……つまり、その理解不能な存在のせいで、この試合は読めなくなったわけ……か。試合の行方を握るのは間違いなくあのバケモノ……」

「そ、そんな!?どうするの!?」

「もちろん、思考にも謎が多くてそれを読むのは大変だろう。ただ、それ以外にも大変な要素として、あの見たことない眼とアンクルブレイクが挙げられる」

「た、確かにアヤトの眼は時々怖くなっていたけど……あんくるぶれいくって何?」

「簡単に言うと、ディフェンスの重心を崩して転ばせる技のことさ。フィディオ相手にやってみせたあのワンプレーだよ」

「あのプレーだね……ってえぇっ!?そんなこと出来るの!?」

「今のアヤトは出来る……狙ってやってみせた。受けたから分かる……あの時の感覚は偶然じゃなくて必然だよ」

「つ、つまり、必殺技ってこと?」

「いや、俺たちがイメージするような一般的な必殺技ではない。彼の技術やタイミングなど、あらゆることが綺麗に嵌まった最悪の技ってところだ」

「必殺技じゃない技……ちなみに、キャプテンは出来るの?」

「出来ない。あらゆる条件が重なったときに偶発的に出来る……そんな認識だ。だから狙って引き起こせるものじゃない。もし、彼が100%どんな状況下でもアンクルブレイクを引き起こせるのなら……誰も彼に1対1では勝てない。文字通りの必殺技。最悪の技をこの場で身に付けたと言って良いだろうね」

「「「…………っ!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大盛り上がりを見せる観客たちの中に2人は居た。

 

「なるほど……十六夜綾人が作り上げている未来が今までのものと根本的に異なる。確かに、それなら今までの彼を知っている程、理解に苦しむのは納得できる。もちろん、今までの彼を知らなくても明らかに狂っているけどね」

 

 自分から強敵に突っ込んで戦いに行くとか戦闘狂かよ……と真っ当なことを口にするL。

 

「ただ、アンクルブレイクの方は……うーん?イマイチよく分からないなぁ……」

「そう?」

「あれは思考が変化して出来るようになるものじゃない。他に何かが起きているはずで、その鍵があの眼の変化……ちなみに、シスターはアンクルブレイクを引き起こせるの?」

「100%は無理ね。狙ってやれて……10回に1回出来ればいいとこかな」

「シスターが()()()を持っていてもそれでしょ?あの場で10%以下の博打に賭けて勝ったならこの話は終わり。……でも、もしそうじゃないなら、未来視だけじゃ説明がつかない。一体、何をしたんだ?」

「そうね……十六夜綾人は周囲の状況を把握し、その優れた分析力からフィールドの未来を視る。これが彼の未来視と呼ばれているものの正体で、自分が介入することで自分たちにとって有利な未来を構築するのが基本スタンス。このことはあなたも彼らも知っている共通認識」

「そうだよ。でも、今の十六夜綾人の未来視はシスターとは違って、未来を()()()視たわけではない。あくまで、現在の手持ちから分析して割り出した高精度な予測に過ぎないはず……」

「うん。だから、アンクルブレイクを成立させた眼は私が持っていない眼が関わっている」

「え?」

 

 驚いた表情でAの方を見るL。

 

滅王の眼(アバドン・アイ)……十六夜綾人だけが持つ超チート級の武器」

「チートって……一体どういう……?」

「発動すると破壊のポイントが見えるそうよ」

「破壊の……ポイント?」

「相手のパス、ドリブル、シュート、フェイント、間合い……そして、必殺技に至るまで。相手のやりたいことの、相手の行動の肝をどうすれば潰せるか。潰すべきポイントが見える」

「…………は?い、いやいやいや!?何を言ってるのさ!そんなバカな話……!」

「十六夜綾人の分析力……そこに視力を合わせている。十六夜綾人の未来視は周りの状況を把握……周辺視野から情報を得ようとしている。ある意味で、何処か1点にフォーカスしないで、全体を視ようとしている。対して、滅王の眼(アバドン・アイ)は目の前の相手にフォーカスを合わせ、それ以外の情報を全てシャットアウトする」

「それでどうしてそんなポイントが……」

「フローに入って普段の何倍もの情報収集力と処理能力を手にした十六夜綾人が、たった1人以外のあらゆる情報を遮断する。即ち、たった1人の持つ僅かな情報さえも見逃さずに取り込んでいる。相手の視界、呼吸のタイミング、筋肉の収縮、骨の動き、重心の移動……相手のすべてが見えている」

「い、いやいや骨とか透視じゃあるまいし……と言うか重心?そんなのどうやって見るんだよ……」

「ちょっと大袈裟だったかもしれないわね。でも、言いたいのは丸裸じゃ足りないくらい全てを見透かしているってことよ。それに視力って一言で片付けるのは簡単だけど、具体的には動体視力、深視力、立体視力、瞬間視力……あらゆる視力に関するものを調べ、色々やってたしね」

「色々……ねぇ。……でも、それがどうして破壊のポイントを見ることに……」

「相手の身体の動き……その全てが見えれば次の動きが分かる」

「そうか……そこに持ち前の分析力を組み合わせれば、何処を潰せば良いのかが分かるわけか」

 

 理解が出来るようで出来ない。理解がまだ浅い中、ただ1つ言えるのは……

 

「そんな無敵の眼……誰も止められないでしょ」

 

 そんなの使われようものならどうしようも出来ない。チート中のチート、無敵の眼……こんなの使えば試合なんて一瞬で蹴りがつく……いや、成立すらしないだろう。

 

「ううん、弱点が大きく3つある」

「え?3つも?」

「1つは没頭状態……フローに入っていないと使えない。だからフローが解ければ使えない」

「なるほど……そりゃ、通常状態で使えたらいよいよ無敵だよな。他に何も入らないくらい高い集中が必要なのは納得できるな」

「それが2つ目」

「え?どれのこと?」

「他に何も入らないってのが2つ目。1対1には関係ないけど、対複数にはあまりにも弱すぎる。そして3つ目……あの眼は未来視なんて比にならないレベルで眼を酷使する。あまりの重すぎる負荷によって、すぐに限界を迎えてしまい見えなくなるわ」

「見えなくなるって……それってまさか……!」

「もちろん一時的にだけどね。未来視どころか、通常の視界すらぼやけてしまう……プレー続行は困難でしょうね。休めば回復はするでしょうけど、その試合に復帰は絶望的」

「本当に見えなくなる……のか。つまり、集中って意味でのタイムリミットか、眼という意味でのタイムリミットか……どちらにせよ1試合なんて持たない。使用時間はかなり限られているのか……」

「えぇ、そうね。だから、さっきはヒデナカタからのボール奪取、フィディオ・アルデナへのアンクルブレイク、ベント・ガリアーノへの必殺技潰し、ジジ・ブラージとのゴール前勝負しか使っていない」

「なるほど。タイムリミットがあるから最小限に留めているわけだね」

「もちろん、本人が使っている自覚があるかは別問題だけど……それにあの眼はフィールドの未来を視ることができなくなっている。同時使用は不可能だからね」

「そっか、対フィールドに使う未来視と対個人専用の滅王の眼(アバドン・アイ)……相反する2つだから併用は不可能か」

「ええ、だから滅王の眼(アバドン・アイ)を使うとフィールドの未来が見えなくなるのも、使う相手を限定している理由の1つね」

「と言うか、使われなくても1対1で止めるのは難しそうだけど……でも、何でそこまで知ってるの?」

「そんなの十六夜綾人の出場した試合は()()()記憶しているからに決まってるじゃない」

「……事情を知らなければ狂気の沙汰だよ……いや、知っていても十分狂っているとは思うけどさぁ……とんでもないストーカーの所業だよ……」

「さぁ、見届けましょう?あの十六夜綾人(バケモノ)がこの試合を終わらせるのか、それとも他の選手(勇者)がどうにか対抗(討伐)するのか」

「最早レイドボス扱いだよ……間違いなくラスボス級だよ……そして、それを上から見届けるシスターが裏ボスかな……」

 

 フィールドでは固まって話していたオルフェウスの面々が散り散りになっていく。試合はもう間もなく再開するのであった。




 神様による肉体×フローによる極限集中×本人の持つ分析力と破壊衝動……これらを掛け合わせたものが、十六夜の滅王の眼(アバドン・アイ)です。なお、周りの認識はともかく、イナズマイレブンの世界で言うところの必殺技ではないことを明言しておきます。また、あくまでシスター視点での説明なので、不足や間違いがあったりなかったり?
 一応、これは十六夜くんが『再会と進化と秘密と』で神様に聞いていた超人的なプレーの話が大きく関わっています。『深まる謎』でも視力について調べていましたが、形としてはこのようになりました。
 イナイレの世界には「シーフ・アイ」とか「パーフェクトコース」「スーパースキャン」みたいな必殺技もあるので、文字通り見ることが出来てもおかしくはなさそうですね。ちなみに、元にしたのは黒子のバスケやリボーンです。

 一応補足しておきますと、Aは自身が一切関わらなかった世界線の十六夜綾人の試合を非公式戦まで含めて全部見ています。いやーとんでもない存在の出来上がりですね。ただし、それでも前世のことは分からないため、思考の根底は理解出来ていないようです。

次回、正しさって何ですか?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。