超次元サッカーへの挑戦   作:黒ハム

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VSオルフェウス ~正しさって何ですか?~

「なぁ、ヒロト。さっきの十六夜の分かっててやったとはどういうことだ?」

 

 オルフェウスの面々が話す中、私はヒロトに質問をぶつけた。もちろん、それ以外にもさっきの得点に至るまでのプレーには疑問が多いが、他の面々にも答えが分からない以上、せめて分かっていそうなものだけは解決しておきたかった。

 

「向こうの選手のボーラスマッシュって技は対象との距離が大事なんだ」

「距離だと?」

「うん。あの技は彼のスピードが大事な技。猛スピードで駆け寄って、その駆け寄ったときに生まれる風を利用している」

「そうだな……その原理は分かった」

「つまり、あの技に必要なのは対象に一気に近付く速さと風を集めるための走る距離……だからあの場面。避けようと進路を変えたり、パスを出したりしても、向こうが走るコースを変えるだけで対処されてしまう」

「なるほど……って待て待て。いや、まさかとは思うが……」

「十六夜くんがやったのはその対象との距離を潰すこと。普通なら警戒して減速したり避けようとしたりで十分な距離が生まれるところを、十六夜くんは加速し突っ込むことでその距離を潰した」

 

 十六夜には多くの必殺技は通用しない。正確には一回目は通用することが多いが、二回目以降は攻略されて通用しなくなる。今回の相手の必殺技も初見だったらやられていたんだろうが、既にこの試合何度も見ていた。だから、どうすれば攻略出来るか分かっていたことに疑いはないし、納得の出来るような解決策だったんだが……

 

「……一歩間違えれば正面衝突待ったなしだろうが……」

「多分それでも良かったと思う。距離が潰れれば、向こうのスピードが最高速に達する前にぶつかることになる。ダメージはあるけど、続行不可能と言うわけではない。それに何より、そんなことになればファール……下手すればカードが出るからね」

「ディフェンダーがドリブラーの身体に真正面から激突するからか……」

「そうなれば、ゴールエリア手前からのフリーキックが貰える。ゴール前にかなりの人数が密集し、その影響で向こうの必殺技は悉く使えなくなる」

「ぶつかってもぶつからなくても得点出来る可能性が高い……どちらに転んでもゴールへの道筋が出来る悪魔みたいな策だな」

 

 その悪魔みたいな策を迷うことなく実践した……あのワンプレーだけを切り取ってもがむしゃらに突っ込んだわけじゃなく、どのような結末になっても自分が勝てるような必勝の策を取ったということ。ただ、その背景は凡人には読めない。たったワンプレーの意図すら完全に理解できる者は圧倒的少数派。

 

「まぁ、多分だけどぶつかる可能性は低かったと思うよ。向こうは世界大会に出るほどの選手なんだ。最低限、自分の必殺技のリスクは分かっているはずだからその辺りのケアは出来る。それにぶつかってもファールどころか向こうが弾き飛ばされる可能性すらあったから、やっぱり大丈夫だったと思うよ」

「そんな相手を弾き飛ばすとか……いや、やりかねないな。ユニコーン戦でもっとがたいのいい相手の必殺技のタックルを弾き返していたな」

「そういうこと。だからそれらを全て考慮してやったと思う」

 

 ここまで噛み砕いてくれれば、多くの者が理解出来る。もちろん、怪我の可能性云々とか言いたいことはあるが、それでも納得はした。だが、その後のシュートは?その前のフィディオを倒したプレーは?その前のドリブルは?ナカタとの1対1は?今の十六夜のプレーには理解がまるで追いついていない。

 しかし、そんなことをゆっくり考えている時間があるわけではない。フィールドではオルフェウスのキックオフで試合再開し、ボールはフィディオが運んでいる。

 

「……っ!?」

 

 しかし、十六夜の近くに来たときに足を止め、バックパスをした。

 

(このまま行っていたら取られていた……!彼から感じる空気……異様なプレッシャー……!俺が知っているアヤトじゃないみたいだ……!)

 

 その表情は驚愕の色を含んでいた。出したパスではなく出させられたパスということなのか?

 

「ラファエレ!」

 

 そのバックパスを受け取ったデモーニオは11番(ラファエレ)へとパスを出した。

 

「……っ!マズいラファエレ!それ以上進むな!」

「は?」

 

 フィディオの唐突な言葉に11番(ラファエレ)は理解が出来ない様子。

 

「遅ぇよ!」

「なっ……!?」

 

(あのレンジが今のアヤトのテリトリーなのか……なんて広さだ……!)

 

 理解できずそのまま進むと、十六夜がボールを奪い去った。あまりにも呆気ない。駆け引きなんて行われる前に終わっていた。

 

(見えているいくつもの王道……ゴールへと繋がって見える輝かしい道。だが、そんな選択はオレの作りたい未来じゃない!)

 

 十六夜が首を振って周りを確認すると、迷うことなくそこに向かってドリブルをしていく。

 

「また、わざわざこっちに……!今度こそ止めるよ!」

「いいな!破壊しがいがある!」

 

 フィディオが十六夜の行く手を遮る。

 

(だからオレはこの覇道を突き進む!オレの心が一番熱くなれる、オレの為の道を行く!)

 

 いや、敢えてアイツから突っ込んだのか?どちらかは分からない。

 

(思考に一切の迷いがない……いや、思考すらしているのか分からない程の早さ。……反射……恐らく一瞬で思考と判断と行動を繋げている。だから思考時間が存在していないように思える……だけどそれだけじゃない……今のアヤトの未来が、取る選択肢がまるで見えない……!)

 

 2人のレベルはかなりのものだ。互いのチームのトップクラスの激突……十六夜のフェイントに紙一重でついて行くフィディオ。

 

「……っ!」

「ぶち抜く!」

 

 その戦いの決着はすぐについた。十六夜がフィディオを股抜きで突破すること幕を閉じたのだ。

 

(アンクルブレイクが出来なかった……?アレには条件があったのか?いや、きっと違う。彼はソレを封印して……それで勝ったのか)

 

 首を振って素早く状況を確認する十六夜。先ほどと違うのは、フィディオは転んでいない。純粋なテクニックだけで圧倒してみせたことだろうか?

 

「なるほど。やはり、俺も標的(ターゲット)ってわけか」

「バレた?」

「確実性を求めるならこちらに突っ込まないだろう?」

「ハッ!じゃあ、お相手願おうか!」

 

 続いて阻むのはナカタだ。いや、次に突っ込んでいった相手がナカタと言うべきなのか?最早何を考えているのか理解不能な行動。わざわざ強敵相手に突っ込んでいくなど正気の沙汰とは思えない。

 

「……っ!」

「ここだろ!」

 

 しかし、フェイントを仕掛けるだけで、ナカタが転んでしまった。

 

(彼の技術が急に上がったわけじゃない。技術自体はほとんど変わってない。変わったことがあるとすれば、彼の仕掛けるタイミングと方法が、こちらの逆を突くように嵌まっていること……!重心を崩され、そのまま転ぶという形で倒れてしまう……やはりだ。やはり、彼は狙ってやっている……!)

 

 首を振って素早く状況を確認する十六夜。

 ベンチから見ている限り、十六夜の技術が急激に上がったようには思えない。と言うより、ヤツのドリブルやフェイントと言った1対1の強さは元々トップレベル。今も、急に今まで見たこともないような凄いフェイントが出来るようになったわけでも、動きが目で捉えられないほど凄く速くなったわけでも、まして見たことない必殺技を使っているわけでもない。……それなのに、今まで勝てなかったはずの相手たちを圧倒している……一体、何が起きているんだ?

 

「十六夜さん!フリーです!」

「…………」

 

 宇都宮が声を掛けるもやはり届いていない。他の仲間も何度も何度も声をかけるが、聞こえているはずの声に反応していない。

 

「通さないぞ、十六夜!」

「僕たちが相手するよ!」

 

 十六夜の前にデモーニオと6番(アンジェロ)の2人が立ちはだかる。それによって、十六夜は足を止めた。十六夜の後ろからは、フィディオと立ち上がったナカタが追いかけ、4人に挟まれる形になる。

 

「監督、十六夜くんがまた暴走しているんじゃ……」

「そうですね……味方を無視して……」

「と、止めないとマズいのでは……?」

 

 相手もパスはないと判断したのか、別の選手たちも十六夜が突破したときに備えて動きを見せる。十六夜のところに人が集結していく……流石にあの人数を相手に1人で突破するのは、いくら何でも無謀だろう。

 

「止めるつもりはない」

「好きにさせる……そういう約束だからですか?」

「で、でも暴走しているんじゃ止めないと……」

「そもそもが違う。十六夜は暴走していない」

「それなら、さっき言っていたフロー状態というもの?でも、それって一体……?」

「簡単に言うと、十六夜の集中が最大まで高まっている状態だ。……この状態は前にも見たことあるはずだ」

 

 フィールドでは十六夜がボールをキープしている。パスを出す……そんな素振りは一切見えない。あくまで1人で戦っている……それでも監督は暴走していないと断言する。集中が最大まで……前にもと言われると確か……

 

「ナイツオブクイーン戦、試合終盤のエドガーとのマッチアップ……ですよね、監督。あのときの十六夜くんは、何かを掴んで急激に進化しているように感じました」

 

 確かにそうだ。あの試合終盤……今のような理解不能な動きはしなかったものの、それでも普段とは違うプレーをみせていた。

 

「正解だ基山。もちろん、今の方がフローに完全に入ったと言ってもいいだろうが」

 

 つまり、前はフローというものに入ってはいたが、まだ完全ではない……浅かったということだろうか?

 

「フローに入っている十六夜は、情報を得ること、その情報から思考すること、思考を行動に移すこと……その一連の流れをほとんど反射的に、一瞬で繋げている」

「つまり、情報処理能力が普段の何倍にもなっているってことですね」

「それは凄まじいな……普段からその能力は高いのに。ただ、それでも限界はあるはずだ」

「その通りだ。全部の情報を得る……未来視を使うときは、フィールドの得られる限りの全ての情報を得て処理していた」

「全ての情報を得て処理して、フィールドの未来を構築していたわけですね」

「……ああ。今までのアイツはフィールドの最適解を選んで進んでいた。いくつも見える道筋から、一番勝算の高い、チームにとって最適な道筋を選んでいた。だが、それではフィディオやナカタに勝てないことを悟った」

「え?勝算が高くて最適なのに……?」

「勝算が高いからこそ、相手からすれば読みやすい。王道だからこそ、それが分かってしまえば対処は容易だ」

「でも、その動きを踏まえて最適な道を作り直せば……」

「相手も読まれていることを前提に組み直す。どちらも相手に読まれていることを前提に作っている状況になる以上、終わりはないだろうな。それに、それぐらいのことはフローに入っていないときも既にやっていただろう」

「だから、そんな王道を切り捨てた……と?」

「でも、あんなパスを一切出さないような、チームメイトを一切見ていないプレーなんて間違っていますよ……」

「そうですよ!彼の選んでいるプレーにはチームメイトが絡んでいない……チームが不必要だと言っているものですよ!これでは、ファイアードラゴン戦での暴走と変わりませんよ!」

「…………」

 

 目金の言葉に監督は無言になった。……確かに、アイツの選んだ道筋がアイツ一人で突き進むもの……チームメイトの絡んだ道筋を全て切り捨てているのなら、誰の声かけも反応しないのも頷ける。

 でも、私の直感は、アイツはただ一人で戦う道筋を選んでいるとは思えない。確かに、十六夜綾人という男は、協調性や調和と言うものから遠い存在だし、あの状態の男が味方をどう思っているのかなんて分からない。だが、それでもチームのことを不必要だと完全に切り捨てているとは思えない。もしかしたら、そう思いたくないだけかもしれないが……それでも、間違っているなんて結論を、今のアイツを否定する結論を出すのはまだ早いと思っている。

 

(十六夜の選んだ道筋は確かに、まともな神経じゃ考えられねぇような、意味の分からねぇものだ。だが、アイツの創りたいルート……俺には理解できる。今のアイツなら……)

 

「アホペンギン!()()()!」

「…………」

 

 不動の声が響くが、十六夜がその声の方を向くようなことはない。やはり、アイツには誰の声も届かない……

 

「「「なっ……!?」」」

 

 そう思った次の瞬間、フェイントを仕掛けている十六夜が唐突にパスを出す。ノーモーションで一切蹴った先を見ていないような鋭いパスがフィールドを横断する。そんなパス、いきなり出されても誰も反応できない……

 

「そこだろ!」

「「「…………っ!」」」

 

 そう誰もが思っていた。だからこそ、驚きを隠せない。そのボールの着地地点には不動が走り込んでいて、ダイレクトで十六夜の走り込む先へと返した。

 

「パスが……!」

「繋がった……!?」

 

 声が聞こえていたのか?それとも十六夜は不動の位置を、動きをちゃんと見ていたのか?そうなると……今までの声も全て聞こえていて、声を掛けて来たヤツ全員の位置を把握していて、その上で無視していたことか?

 

「言っておくがこのバケモノ!俺はテメェの手足として動くんじゃねぇぞ!テメェが俺にとって()()なんだよ!テメェが描く程度のつまらねぇ未来(もの)より、テメェをもっと楽しませる理想(プレー)を見せてやるよ!」

 

 そして、不動は十六夜に向かって叫ぶ。 

 

「……ははっ!」

 

 そんな叫びをうけた十六夜は、不動の方を見ると楽しそうな笑いをあげる。

 

「やってみせろよ不動(ジョーカー)!テメェのその優秀な頭脳をオレに捧げろ!このバケモノ(オレ)が勝つために、テメェの全能力寄越しやがれ!」

「上等だクソ自己中(エゴイスト)()()理想のためにテメェをこき使ってやるよ!」

「いつでもこいよ、ブレーン様!つまらねぇ理想に付き合う気はねぇぞ!」

 

 不動も口角を上げて笑みを浮かべ答える。互いを自分のために利用すると宣言し合っている……歪に見えるはずの関係なのに、2人とも何処か楽しそうだ。

 そして、十六夜は目の前の相手と向き合い、相手を突破したかと思うと次の瞬間にはパスが出されている。それを拾うと十六夜に返す不動。そのままダイレクトで返す十六夜に対して、ワントラップして溜を作ってからパスを出す。出された場所はきっとアイツらにとってベストなものなんだろう……唯一にして致命的な欠点はそのパスを私たちでは理解できないこと。十六夜の出すパスの先も、アイツの向かうポイントも何一つ分かっていない。

 

「十六夜はチームを不必要なものとして切り捨てていたわけではない。自分の描く理想とはかけ離れた王道で読まれやすいものを。自身の描いた道筋よりレベルが低いものを。何より、今のアイツの心が乗らないような選択肢(未来)を切り捨てていただけだ」

「……つまり、十六夜くんの未来視で声をかけた仲間を使った未来をいくつも作り上げていた。だけど、そのどれもが切り捨てられ……結果的にその仲間を無視して、1人で突破する形になっていた」

「なるほど……十六夜綾人という男の描く覇道……そこに適応しないものを切り捨てた。そして、不動以外は誰も適応しなかったから、今までパスという選択肢がヤツの覇道に存在していないように思えた」

「と、ということは不動さんには覇道が理解出来ているんですか!?」

 

 1つが理解できても新たな疑問が生まれる。結局、私たちではまるで分からない十六夜の覇道……一体、どういうことなのか。それを知るのはあの場にいる2人だけなのだろう。

 

(やっぱり、コイツは1人で全員を突破して1人で決める……そんなプレーがしたいわけじゃない。もっと、別の分かりやすいルールを持って道筋を立てている。その譲れないモノ以外はそこまで興味がねぇ)

 

 他の選手が自分も貰おうと声を出すが、まるで相手にしていない。誰でもいいわけではないのは相変わらずのようだ。

 

(だから、そのルールに則ればコイツの覇道は何となく見える。だが、それ以上にコイツの能力をもっと引き出せそうな道筋が見えるのに……!クソがっ!その道筋を進む為には、俺の技術が足りねぇ!レベルが不足してやがる!コイツが俺の理想を叶えるのに、俺がコイツの理想を叶えられねぇ!)

 

 十六夜からパスを引き出せる条件は、今の十六夜の覇道を理解し、そこに関与出来るポイントに居ること。もちろん、他にもあるかもしれないが、少なくともこれらは間違っていないだろう。

 

「ほら!」

「しまっ……!」

 

 次の瞬間、トラップミスしてしまう不動。

 そもそも今の十六夜の出すパスは全てがキラーパスと言って良いレベルのもの。受け取る側からしたらレベルが高すぎるのだ。アイツはパス先を見ず、パスを出すモーションがない。それでいて針の穴を通すような、エグい精度による理解不能のパスコースを中々のスピード、威力で飛んでくる。常人ならいつ何処に来るか分からないのに、それが分かったとしてもトラップする難易度が高い……相手に合わせず、相手に取れという傲慢なパス。思考が理解できていても技術が追いつかなければパス交換なんて出来ない。今のイナズマジャパンの選手の中に、それらを両立出来る選手はいない。

 ボールはそのまま外に出てしまう……不動の悔しげな顔と、相手の何処か安堵の顔が伺える。誰もがオルフェウスのスローインでリスタートになる……そう思ったとき、

 

「まだだよ!」

 

 一陣の風が駆け抜けた。ラインギリギリでボールをフィールドの中に……不動に返した選手がいた。

 

「マジで助かった。吹雪」

「どういたしまして」

 

 吹雪だった。彼は十六夜と不動を見据えて言った。

 

「僕じゃ今の君たちの思考は理解できない。覇道も分からないし、君たちの思考スピードに追いつけない」

 

 この瞬間、イナズマジャパンの多くの選手、関係者が思っていることを口にする。

 

「……でも、この足がある!この足で追いつけない分を埋められる!君たちだけじゃ見えない理想(未来)を僕なら見せられる!」

 

 だが、彼はそこで終わらない。自分の武器があれば、もっとより良い未来を見せられると宣言する。

 

「ハッ!魅力的な提案だな吹雪(プリンス)!」

「前に言ったでしょ?一人で戦う必要はない。僕らが一緒に戦うって。だから、僕は君を一人にしない!君たちだけに戦わせない!僕も一緒に戦うよ!」

「着いてこいなんて言わねぇぞ!オレの為に動け!テメェのスペック全部オレの為に捧げろ!」

「それがチームの勝利に繋がるなら喜んで差し出すよ!」

「俺の指示に従え!俺がお前をこの覇道に組み込んでやる!」

「任せたよ、不動くん!」

 

 十六夜というバケモノ、不動というブレーン……そこに吹雪というスピードが加わった。吹雪が加わったことで、不動が吹雪を動かして、十六夜からのパスを受け取らせる。そして、一度不動に返し、そして十六夜の下へ送ると言う基本の流れが出来ている。

 

(ハッ!いいなおい!不動の思考が、吹雪のスピードが、インスピレーションを与えてくれる!この覇道に磨きがかかる!オレ1人じゃ見えない、もっと暴れられる道が見える!)

 

 ……いや、ちょっと待て、さっきよりパスを出すスピードや威力が上がっていて……まさか、あれでも一応、相手によってパスの質を変えているのか?受け手のギリギリを試し続けるパス……最高の一歩先を求める、限界以上を引き出し続けるパス。一見すると自己中心的で傲慢に見えるパスだが、実際は相手のことを最大限分析した上で成り立っているパス……

 

「……十六夜という怪物を、不動という頭脳が導く。そして、吹雪がその足で2人だけでは見られない、それ以上の景色を魅せる。圧倒的なスピードがブレーンの戦術の幅を広げ、バケモノが呼応するように破壊的なプレーを魅せる。……破壊、速度、頭脳……それがお前たちの連携か」

 

 不動からボールが渡る。すると……

 

「なっ……!?」

 

 地面に思い切り叩きつけ、相手の頭上を越える。十六夜を止めようと前のめりになっていたのが、急に頭上を越えるボールに反応しようとして、背中から地面に倒れ伏す。

 

「ブラインド・ハデス!」

「っ!あの技は流石にマズい!」

 

 そんな中、9番(ダンテ)の姿が消えて見えなくなってしまう。透明人間の強襲……今の十六夜でも流石に見えない相手にどうしようも……

 

「「「はぁ!?」」」

「っ……何故!?」

 

 次の瞬間、十六夜が何もないところで右腕をやり、ボールを左足の上に置いてキープする。そして、右腕の先に9番(ダンテ)が現れた。適当に右腕を振っていたわけじゃない。ピンポイントでそこに居ると分かって距離を取るために右腕を使って牽制した。

 

「もっと静かに来ねぇとオレは殺せねぇよ!」 

 

 アイツ……静かにってまさか音だけで位置を……?いや、流石に推測とかもあるんだろうが……と、驚きをよそに、左足でボールをあげると、左足の踵でボールをサイドに送る。パスをするとは思えないタイミングでボールが飛んでいく。

 

「本当にギリギリのパスを出してくれるね!」

「それくらい応えられねぇとバケモノは満足しねぇからな!次は……」

 

 そんなキラーパスを吹雪が受け取ると不動に渡し、不動がダイレクトで十六夜の一歩先へと返す。そして、吹雪は不動の指示に従い走り出す。ボールを受け取った十六夜も自身の思う場所へと走って行く。フィールド全てを飲み込み破壊しようとしているように思えてしまう動き。まっすぐゴールへ向かっているわけではない。だからこそ、常人ではヤツの覇道がどこを辿ろうとしているのか全く読めない。

 既にイナズマジャパンの他の選手たちはパスを貰おうと声をかけることはない。それは決して、彼らが言うことを聞かないから、自分の声を聞いていないから……そんなことじゃない。

 

「レベルが……高すぎる」

 

 彼らの求めているレベルが高すぎる。十六夜と不動と吹雪の連動……吹雪が3人目として加われたのは、あくまであの2人が求める基準に達していたから。あの2人にはない武器を持っていたからだ。だから他の者が簡単に加われるわけではない。彼らの求めるスピードに、技術に、思考に、自分たちでは不足してしまっていることが分かってしまう。

 

「これが十六夜綾人が切り捨てた理由だ。自分が勝つために、使えるモノは使う。使えないモノは容赦なく切り捨てる。暴走が周りを何も見ずに個人でただ暴れるのなら、今のアイツは周りを見て全てを考えた上で使える者を使い、使えない者を切り捨て暴れている」

「「「…………」」」

「これを見ても尚、お前たちが十六夜のことを完全に間違っていると言うのなら、アイツの居場所はここにはない」

 

 半ば傍観者のような気持ちになる……このレベルをアイツは求めている。自分がもっと上の次元に到達できる相手を求めている。それに当てはまらないから切り捨てた。至ってシンプルな答えだ。足手纏いはアイツにとって必要ない。だって、足手纏いを抱えるくらいならアイツは単騎で突っ込んだ方が何倍も強いのだから。それは誰が見ても明らかな事実であり……それは残酷なまでに十六夜と……世界トップクラスのプレイヤーとの差を突きつけてくる。

 だが、全員が全員、立ったまま何もできないようなそんな選手じゃない。

 

「虎丸、道を空けておけ!あの3人の位置より下がるんだ!」

「……え?あっ!はい!」

「佐久間!吹雪の穴埋めでサイドのケアを頼む!」

「分かった!」

 

 もう1人の司令塔である鬼道は彼ら3人の邪魔をさせないようにしつつ、カウンターに備えさせる。彼も分かっているのだろう。ここで、あの3人の中に自身が加わる・他の選手を加えようとするのは悪手だと。だからこそ、加われない選手はフォローに回すのが賢明だと。

 

「不動!他の奴らのことは気にするな!」

「言われなくても気にする余裕なんざねぇよ!」

 

 不動には余裕があるわけではないのだろう。十六夜というバケモノの思考を理解し、その上でヤツの考える道筋以上の未来を構築する。そして、吹雪がその構築した未来に合わせたプレーが出来るよう補助をする……そこに残りの選手の面倒なんて見られるわけがない。

 だから、残りは全部鬼道に任せた。これで不動はあの2人に注力できる。余計なことを考えることなく、3人の連携に注力できる。

 

即興(アドリブ)での攻撃。連携の練習はほとんどしていないみたいだね」

「…………」

 

 と、十六夜の前に現れたのはナカタだった。

 

「確かに君たちのプレーは凄い……けど、それはイナズマジャパンのレベルからかけ離れてしまった。だから、誰がついて行けて誰がついて行けてないか一目瞭然。ついて行ける人間しか見なくてよくなってしまった」

 

 確かにそうだ。フィールドは11人居るはずなのに、半数以上はどうせ使われない選択肢。だったら、見る必要さえなく、オルフェウス側は残ったメンバーだけを相手すれば良い。そして、十六夜たちが真っ直ぐゴールに向かわなかったせいで、最初の方に突破した彼が余裕を持って戻ってきている。フィディオも気付けば、最終ラインまで戻っていて、他の選手も少しずつ戻り始めている。

 

「それでもキミが恐ろしいよ。この連携がもっと完璧だったら俺は追いつけなかった。いや、最初から3人での連携で、ゴールだけを考えて攻めていたら既にゴールは決まっていたんだろうね」

「…………」

 

 十六夜が受け取る……が、ナカタに背を向けるようにキープしていて、ゴールの方を向けない。正面から相対しないナカタのディフェンス……あと少し……ゴールまで20mと少し……ここを超えて、フィディオの居る最終ラインを超えれば、ペナルティーエリアに入れるのに……

 

「おっと前は向かせないよ。恐らく君は、厄介な眼をもっている。今までとは違う何か……アンクルブレイクを狙って起こせるのはその眼が関わっているだろう。……だから、君とは正面から相対しない」

 

 オルフェウス側の守備陣が徐々に自陣へと戻りつつある中、ここで吹雪ではなく不動自身がボールを受け取りに行く。今までよりも受け取りやすいパス……そんなパスを不動が受け取るものの、十六夜はナカタを背負ったまま動かなかった。

 

「オラよ!」

 

 不動が十六夜の左足に向けてパスを出す。

 

「あざっ!」

 

 それを十六夜は左足でトラップ。ポンと軽く自分よりも手前に上げ、左足を前に出して地面を踏みしめる。そして、振り向くようにして一瞬、ゴールの方を見たかと思うと……

 

「はぁ!?シュートだと!?」

「あの状態から強引に!?」

 

 イナズマジャパンのベンチで驚愕の声が上がる。左足に力を込め、前へと跳び上がりながら半回転。ナカタとの距離を取ると、そのまま自身の右足を思い切り振り抜いた。

 

「「「なっ……!?」」」

 

 相手の選手たちの反応が遅れ、敵味方双方から驚愕の声が挙がる。誰があの状態からシュートを撃つなんて思えるか。ゴールまでまだまだ距離がある。ディフェンダーも背負っていた。いくら何でも無茶苦茶で無謀……そのはずなのに、コースは完璧。最終ラインに居たフィディオの顔スレスレを通って、ゴール左隅まで飛んでいく。……まさか、一瞬でゴールまでのコースを見抜いたのか……!?というか、アイツのところからシュートコースなんてあったのか……!?

 

「撃つならここしかねぇよなぁ!アヤト!」

 

 ガンッ!

 

 だが、相手キーパーはそれに反応していた。飛び込んでキャッチ……は流石に出来なかったようでボールに手を当て、コースを逸らしバーに直撃させる。今の十六夜のエグいシュートもだが、それに反応できるとは……恐ろしいキーパーだ。

 

「ッチ……!」

「こぼれ球……っ!?」

 

 弾かれたボールに走り込んでいたのは2人のストライカー。

 

『クロスファイア改!』

 

 走り込んだ2人のストライカーの連携必殺技をダイレクトで放つ。キーパーは着地したばかりで反応できず、そのシュートはゴールに刺さった。

 

『同点!同点ゴールだ!何と十六夜の驚愕シュートをキーパーブラージが素晴らしい反応で弾く!しかし、弾かれたボールを豪炎寺と吹雪の2人が押し込んだ!ここで追いついたぞイナズマジャパン!』

『十六夜選手と不動選手が中心となった攻撃……今までのイナズマジャパンの攻撃パターンでは見たことがないですね……』

『さぁ、試合時間は残り僅か……1分くらいでしょうか?この勢いでイナズマジャパンが逆転するか!オルフェウスが最後に決めて勝つか!それとも引き分けか!最後の瞬間まで目が離せません!』

 

 パンッ……フィールドでは豪炎寺と吹雪がハイタッチを交わしていた。

 

「いや、あんなのどうやって反応したんですか!?」

 

 宇都宮がそう2人に声をかける。それもそうだ。十六夜のあのシュートは、相手どころか味方からも不意打ちの一撃。

 

「「撃つ気がしたから走っていた」」

「……はい?」

「そのままだ。アイツは撃つ……そう思ったから、こぼれ球狙いで走った」

「僕の場合は、あのタイミングでわざわざ十六夜くんがボールを保持していたからね。何かしでかすと思って走っていたんだよ。今思うと不動くんの指示がなかったのは撃つのを悟らせないためってところかな?」

「豪炎寺はストライカーの嗅覚で、吹雪は十六夜の思考と行動から直感的に、各々が十六夜がシュートを撃つことを感じ取ったのだろう。だから、相手より早く走り始め、そこにやって来たボールを押し込むことが出来た……ということだろうな」

 

 そこに加わった鬼道がそう補足する。

 

「そんな感じかもな」

「だね。結局、あのタイミングではあれこれ考えずに走ったから」

「……な、何かストライカーとして差が開いたような……」

「まぁ、あのバケモノに合わせるのはかなり難しいだろうな」

「だね。正直、ハードモードだよ」

 

 そう言って、4人は十六夜の方を見る。

 

「……コースは完璧。威力も十分。並大抵のゴールキーパーなら反応が遅れて決まっていただろう。まぐれでも偶然でもない、狙い澄ました一撃。この状況でそんなシュートを放つとは恐れ入った」

「そうかよ」

「君はストライカーに向いているんじゃないか?確かなキック技術に加え、自身のゴールのために周りを利用でき、迷いなく撃ち抜けるその精神。必要な資質も能力も備わっているだろうね」

「ハッ、ストライカー……ねぇ。確かに、ゴールを奪うことは試合に勝つには必須だし、そういう欲がゼロかと聞かれたら嘘になる。今のだって決められなくて悔しくてむかつくのは事実。だが、オレはそれ以上にテメェらみたいな最強と戦って負かしたい欲の方が強い。ゴールかお前らとの戦いか。どちらかを選べって言われたら迷わず後者を選ぶ」

「へぇ、まるで戦闘民族のような考え方だね。つまり、もしも君の理想に合うストライカーが居れば、ゴールは譲ってもいいわけだ」

「もちろん。オレの認めるストライカー様に最高のラストパスを献上することに不満はねぇよ。まぁ、キーパーと戦いたかったらその限りじゃねぇけどな」

「確かに。今までの試合も思い返せば、君はゴールよりそのチームのエース級の相手との戦いの方に執着している節がある。……ああ、そういうことか。それが君のプレーの根幹にあるものか」

 

 その十六夜はナカタと何か話している様子だった。

 

「何か理解している風だが、話ついでだ。一つ訂正しておくぞ最強」

「あまり、それに答えると自負しているようで嫌なんだが……なんだい?」

「あそこでテメェと相対したのは、連携が完璧じゃなかったからじゃねぇよ。オレにとって、あそこでテメェと相対するのが選んだ道だからだ」

「君はゴールという結果よりそこに至る過程での戦いの方が重要。だから、わざと攻撃のテンポをこちらが追いつくまで遅くしていた。……やっぱり、君の選ぶ道は王道からかけ離れている。そして、彼もそれを分かってパス交換をしていたか……。なるほど、かなり厄介だ。でも、君の計算違いはブラージがアレに反応したこと。アレは君の中では決めるつもりで撃ったシュートだから……」

「正直、入ったと思ったが甘かったようだな。だが、アイツの反応はもうインプットした。次はねぇよ」

「なら、一つ言っておくよ。……君の言う次はもう来ない。君の覇道は俺が潰す」

 

 バチバチの火花を散らす両者。何はともあれこれで同点。試合は最終局面を迎えるのであった。




次回、理想の結末……オルフェウス戦決着。
尚、作者の都合により来週(年内には)投稿予定。
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