超次元サッカーへの挑戦   作:黒ハム

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今年最後の投稿です。皆様よいお年をお過ごしください。


VSオルフェウス ~理想の結末~

「あれ?そもそもの疑問だけどさ。滅王の眼(アバドン・アイ)って個人しか見えなくてフィールドの未来は視えないんだよね?」

「えぇ、そうね」

「それなのに、何でフィールドの未来を作ることが出来たの?どうしてパスが繋がったの?個人しか見えないなら味方の位置も見えていないと思うけど……」

「別にあの眼は常時発動じゃない……意識して発動するもの。言ったでしょう?目の前の相手に照準を合わせているって。目の前の相手が居なければあの眼は使わないし、複数居ても発動しない。1人だけでもその1人によって発動の有無を変えればいい。そして、発動していない状態なら、フローに入っている集中しきった彼が残る」

「なるほど、フローバージョンの未来視と滅王の眼(アバドン・アイ)を使い分けているんだね。それなら納得だよ」

「そうそう、滅王の眼(アバドン・アイ)は目の前に相手が居ないと視野が狭くなっているだけだからね」

「相手が居ないと意味が無い眼……性質上、どうやっても未来視と併用は出来ないけど、片方からもう片方への切り替えは出来るわけか。でも、未来視の特性上、それだとラグが酷いんじゃ……」

「だから不動明王が必要なのよ。十六夜綾人が滅王の眼(アバドン・アイ)を使う度、一々ゼロから構築するのではなく、不動明王が予めある程度彼の思想にあった未来を作り上げておくことで、十六夜綾人はそれを基に構築すればよくなる。ゼロから作るよりもかかる時間は格段に短くなる」

「……なるほど。それが出来るのは不動明王に十六夜綾人の描きたい未来が理解できているから。それを十六夜綾人が理解してある程度は不動明王に託しているから」

「良いコンビね」

「いやぁ、それにしても追いついたね。6-6……これで試合終了かな?」

「どうでしょうね。でも、まだ1分もあるわ」

「え?まだ何かあるって言うの?」

「さぁ?視ていないから分からないわ。でも……」

 

 彼らが時計を見ると確かに時間は残り1分。解説はまだ決着が突いていない、見逃せないと言ってはいるがもう試合は決まったようなもの。ここから何か動くほど時間が残っていない。

 そして、双方のチームの選手もそのことを理解している。凌げば同点で終われる、或いは逃げ切れば同点で終わる。もしも点を決められようものなら逆転など不可能……それならばリスクを冒さず、引き分けでの決着という結末がベターだと。

 

「とりあえずここからどうします?俺も守り気味にしますか?」

「確かにここで失点するのは流石に痛い……って十六夜?聞いているか?」

「…………」

「……って!おーい!聞こえてますか!?」

 

 自分のポジションに戻る過程で十六夜に話かけるチームメイト。だが、その声に反応することはなく、目は味方を見ていない。ただただ相手チームを……その中の2人の選手を見ていた。

 

(ナカタにフィディオ……やはりパラメータは高水準。必殺技頼り、身体能力頼りの選手たちじゃねぇ。思い描ける王道じゃ全て潰されるのは相変わらず。この覇道の基準にも気付かれているかもしれない。オレだけじゃ絶対に勝てないって思わせてくるようなヤベェ奴ら)

 

 十六夜綾人はここで勝つことしか考えていない。残り時間は僅か、次のプレーがラストになる可能性もあり、相手のキックオフでのスタート。相手は強く、十六夜以外に大きな変化はない……ここで同点に追い上げただけでも賞賛されるべきこと。だが、そんなことは関係ない。勝つことを一切諦めていない様子が、観客にまで伝わってくる。

 

(ハッ……なるほどなぁ。どうやら、この世界に来てこの重圧に慣れ過ぎて忘れてた。誰かを目標に、誰かを超えたいと思って……それでいて、その誰かには負けてもしょうがないって負け犬根性が無意識に染みついてた。でも、もうぶっ壊した。そんな自分は破壊した。オレの前に立つなら好きにしろ。オレより強いなら大歓迎。……お前らがくれるプレッシャーはオレを奮い立たせる最高のエサだ。そのエサを喰らい、テメェらの喉元にある勝利を食いちぎってやるよ)

 

 円堂から発せられるオーラが太陽のようなオレンジ色の温かいものだとしたら、今の十六夜からはその太陽すら飲み込まんとする黒色。それも、漆黒のような綺麗な黒じゃなく、いくつもの色を重ねてできた綺麗とは程遠い黒色。円堂と並ぶとその醜悪さが際立つが、そんなのおかまいなし。全てを浸食しようとその存在感を放っている。

 

「十六夜綾人……彼は間違いなく天才側の人間。圧倒的な才能を持っているだろう。そして、その才能を十全に生かせる精神性(メンタル)を身につけた」

「そうですね。アヤトの強さはよく知っています。凄い選手ですよ……本気で戦って、さっきはアンクルブレイクを抜きにして負けました。この試合の中で、今の俺よりも一段上に上り詰めた」

「確かにな。この試合……いや、今大会を見ても、現時点で個人最強はあの男だと言える」

「それに彼が前に言った理想のプレー……1人で戦える選手になる、彼自身の思う未来を作る。今の彼はそれを体現出来ている」

 

 対するオルフェウス側もナカタとフィディオが話している。十六夜が留学期間で彼らに語った理想……形はあの時描いたものと異なっているかもしれないが、それを現実のものにしていると感じているフィディオ。

 

「なるほど、そんなことを言ってたのか。今までの彼は我々相手に勝てるビジョンが見えず、押し寄せてくる敗北のイメージに囚われていた。だから自分だけでは勝てないことを悟り、何処か弱気になっていた」

「相手を分析する力が長けているが故のこと……でも、その囚われていた鎖を壊し、仲間とじゃなくてあくまで直接対峙する道を選んだ……ただ」

「ただ?」

「手に入れた視野の広さや、相手チームの最適を見る力……そういう自分の手に入れた武器を、遠慮無く捨てられる。そして、一緒に戦う仲間さえも……目的のために必要ないものを容赦なく切り捨てられるのは、正直、怖さを感じますね」

「怖さ……か」

「ごめんなさい。この状況で相手に対して、怖く思っているなんて情けないですかね?」

「いいや、そんなことはない。その怖さは彼の強さ……王道とはかけ離れた覇道を突き進む彼を、理解して対峙しているからこそ来るもの。その恐怖は決して間違っていないし、情けなくもない」

「キャプテン……」

「ゲームで例えるなら彼は一度は死んだものの、復活して完全に目覚めたラスボス。……さて、どうするフィディオ?残り時間を考えると、無理に攻めず、ラスボス()と対峙しなければ引き分けで終われる。ゲームと違って、倒す必要はないと思うが?」

「…………」

 

 ナカタの言葉に対し、フィディオは一度目を閉じる。

 

「…………いえ、ここは攻める一択です」

 

 そして、数秒の沈黙の後、静かにそう口にした。

 

「へぇ、何でだい?」

「俺は勝ちたい……イナズマジャパンに勝ちたいんです。最後の最後に同点ゴール決められて、このまま逃げて、引き分けで終わらせる……そんなことをしたくない。そんな結末を俺は望んでいない」

「フィディオ……」

「それに、あの状態になったアヤトに俺は勝てていない。確かに勝算はないし、正直まだまだ理解の及ばないような恐怖すら感じる存在です。でも……たとえ、そんな相手と対峙することになっても俺は勝ちたい。皆でこの試合に勝ちたいんです。この試合は譲りたくない……いえ、譲れないんです」

 

 まっすぐとした迷いのない眼差しでそう宣言する。

 

「いいんじゃないか?……ここで気を抜いたら負ける。引き分けでいい……なんて言っていたらキミに失望していたところだ」

「……っ!」

「1分あれば試合は動く。まだ試合は終わっていない。互いに勝つチャンスが十分ある。その勝ちたい気持ちを大事にするべきだ。幸い監督も了承してくれているしね」

「……キャプテン……はい!」

「行こうか。俺たちがこの試合の最後を飾るとしよう」

「行きましょう!」

 

 そして、お互いにポジションにつく。この試合を決める最後の攻防がもうまもなく始まる。

 

「……勝利を諦めていない選手がいる。勝ちに貪欲になっている選手がいる。そういう選手は他の選手に比べ、何かを起こしてくれるかもしれない」

「へぇ……確かに。じゃあ、注目は十六夜綾人とフィディオ・アルデナの2人だね。うんうん、まだ楽しめそうだね」

 

 オルフェウスのキックオフで試合再開する。最後の1分が始まった。

 

「勝負だアヤト!この試合、俺たちが勝つ!」

「ぶっ壊してやるよ、フィディオ!」

 

 ボールはフィディオが持ち、ナカタとのワンツーで切り裂いてくる。

 

「なっ……!?」

「動きが更に……!?」

 

 その動きはこの試合の中で1番良いものになっている。ここに来て1段階上のプレーを見せてくる。相変わらずあの2人は実力の底が一切見えてこない。

 

「潰す!」

 

 迷うことなくブロックに行ったのは十六夜。目には黒い何かが広がっている十六夜は、フェイントを仕掛けるフィディオの動きを先読みして潰している。

 

(クッ……やっぱり、アヤトの間合いでは分が悪い……どちらのプレーを使っても今のアヤトに通じない……!今の俺じゃ1対1では勝てない……!)

 

「一旦戻せ!」

「分か……っ!?」

 

 と、フィディオはパスを出そうとして動きを止める。

 

(危な……今、パスを出していたら完全に取られていた……!ダメだ!このままじゃ時間切れ……!)

 

「いいね、今のは完全に取られていた。パスを出そうとしたところを、十六夜綾人が弾いていた」

「それに対応できたのは流石の一言だね」

 

 再び睨み合う両者。そして、一呼吸つくと十六夜が仕掛ける。

 

「へぇ、十六夜綾人が先手を打つんだ」

「先手じゃないわ。最速で後手を打っているのよ」

「はぁ?」

滅王の眼(アバドン・アイ)でフィディオ・アルデナの動きのポイントを潰している。その動きがあまりにも早く、先手を超える早さで後手を打っているのよ」

「それは最早先手だよ……」

「でも、彼も気付いている。やり合っている彼と、一部の強者にはその状況が分かっている」

 

(やっぱり……!アヤトには俺の動きの全てが見えている……!先手を打っているんじゃない!俺の動きを見て予見し、最速で後手を打って封じてくる!どんなプレーも通じない……なんて異次元なプレーを見せてくるんだ……!流石にこんなバケモノ相手に1()()じゃ勝てない……)

 

「…………」

「潰す!」

 

 十六夜がフィディオからボールを奪うことに成功する。

 

「まぁ、持った方じゃない?普通なら一瞬で奪われるところがよく耐えたと思うわ」

「でも、その耐えに意味はあるの?」

「あるわ。言ったでしょ?一部の強者には分かっているって」

 

 十六夜の目にあった何かが消え失せる……そして、周囲を見るために首を左右に振ったその瞬間だった。

 

「なっ……!?」

「言ったよね?君の覇道を潰すって。……悪いけど、ここで奪わせてもらう」

 

 素早いフォロー。フィディオからボールを奪ってからまだ僅かな時間しか経っていない。十六夜からボールを奪ったのはナカタだった。

 

「キャプテン!」

 

 ナカタが奪うのとほぼ同時、フィディオは声を出す。十六夜にボールを奪われた瞬間からゴールの方へと走って行たのだ。

 

(だから認めよう……俺じゃ今のアヤトを突破できない。今の俺では正面での戦いは彼に勝てないことを認めよう。だけど、試合は違う!アヤトとの勝負じゃない、点を取ることを……試合の勝利を優先する!)

 

「行け十六夜!俺が稼いでやる!」

「頼む!」

 

 ナカタの前に立ち塞がるは不動。それにより、十六夜は数歩遅れてフィディオを追い掛けることにする。

 

「君も視えていたのか?」

「ハッ、あのアホはどうやらあの状態だと視野が狭いらしいんでね。アンタのことが視えてねぇって思っただけだ」

「なるほど……十六夜綾人にとっての相棒は君か……いいコンビだ」

「気持ちわりぃこと言うんじゃねぇ。精々、利用し合う関係だっての……それに……」

「……っ!」

「もう1人居るからな」

「なるほど……これは手強い」

「ごめん!取れなかった!」

「気にすんな!1秒で良い!1秒でも長く稼ぐぞ!」

「うん!フォローは任せたよ!」

「たく……俺はお前らの尻拭い役じゃねぇっての!」

 

 現れたのは吹雪。吹雪が果敢に仕掛け、不動がそのフォローをする。即席の連携にしては十分な力を発揮している。

 

(相手の位置を見て……空いてる位置はそこ!アヤトの位置は数歩後ろ……次のパスは……!)

 

 フィディオが先を走り、十六夜が追い掛ける。

 

(まず、ラストパスのカットは諦めろ。あのナカタがそんな優しいパスを出すわけがねぇ。だが、このまま後ろを追いかけてもダメだ。この短時間でこの距離は追いつけない。だから……!)

 

 首を左右に素早く振ると、フィディオとは別のルートを走り始める。

 

「行け!」

「ッチ!行ったぞ十六夜!」

 

 一方の吹雪と不動はナカタからボールを奪うまでには至ることはなかった。最後のパスが出され、そのパスの行く先には……

 

(よし!やっぱり、アヤトより先に到達する……!アヤトが後ろに居るならダイレクトで撃てばマモルとの勝負だけになる!アヤトに追いつけさせない!)

 

 ディフェンダー陣の間を切り裂くように走っていたフィディオが居る。ダイレクトで放つべく、必殺技の体勢に入った。

 

「オーディン……なっ!?」

 

 しかし、必殺技を中断し撃つのを止める。ボールはフィディオの足下に到達し、トラップして止めることに。

 

「ッチ……気付きやがったか!」

 

 シュートコースを遮るように滑り込んだのは十六夜だった。数歩後ろに居たはずの十六夜が自身とゴールの間に現れたのだ。

 

(シュートコースに割り込んでくるとは……!ギリギリで気付けて良かった……でも、ダメだ……オーディンソードじゃアヤトにぶつかって威力が削がれ、マモルを越えられない……!かと言ってあの状態のアヤト相手にキープは出来ない……!)

(流石に撃たねぇか……!なら、シュートコースをかき消す!)

(撃つしかない……!ここで決める……!決めなきゃ勝てない……!)

 

 ボールに力を溜めるフィディオ。足下にはオーディンソードを撃つときに現れる紋章が生み出されている。対して十六夜は体勢を立て直すとフィディオとの距離を詰めていく。2人の距離が近くなればなるほど、フィディオのシュートコースはなくなり、無理やり正面から来ても威力を削げると判断してのことだった。

 

(決めるんだ……!この試合に勝つために……!)

(ここで潰す……!潰して1点取りに行く……!)

 

「「勝つのは――」」

「俺だ!」「オレだ!」

 

 次の瞬間、フィディオがシュートを放つ。彼の足下の紋章の色が変わっていたが、誰も気にとめることはない。剣のオーラを纏うシュートは十六夜へと向かっていく。

 

「止める!」

 

 十六夜は両手を後ろに組み、足を止めて衝撃に備え踏ん張ろうとする。しかし……

 

「はぁ!?」

 

 その剣は十六夜に突き刺さることはなく、十六夜を避けるように曲がった。

 

「いけぇっ!」

 

 直線ではなく自由自在な曲線を描くようにしてゴールへと向かっていく。

 

「真イジゲン・ザ・ハンド!」

 

 そのシュートに対して、円堂が必殺技を放つ。しかし、そのシュートは正面から力で破るのではなく、半球を斬りつけるような軌道を描く。

 

「うわぁ!?」

 

 半球は斬りつけられ、そこには大きな穴が空く。そこをボールは通り、円堂を避けてゴールに刺さった。

 

「よしっ!」

 

 ガッツポーズをし、喜びを表すフィディオ。

 

『ご、ゴール!オルフェウス、フィディオ・アルデナの土壇場のシュートがゴールに刺さったぁ!』

 

「くっ……まだ……!」

 

 ゴールまでボールを取りに行こうとする十六夜。

 

 ピ、ピー!

 

 しかし、ここでホイッスルが鳴り響いた。

 

『ここで試合終了のホイッスル!7-6!この激戦を制したのはオルフェウスだぁ!』

『素晴らしい試合でした。最後の最後まで目が離せませんでしたね』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ロッキングソード。オーディンソードが力での突破……剛の剣なら、ロッキングソードは柔の剣って言ったところね」

「土壇場で進化……十六夜綾人を超え、円堂守の必殺技を破らなければ得点は出来なかった。そして、破れなければ勝利はなくなるような、ある種の極限状態だからこそ編み出された必殺技」

「中々、面白い試合だったわ」

「って、ちょっと待ってよ」

 

 そう言って立ち上がるA。会場を出て行こうとする彼女を引き止めるL。

 

「何よ?」

「いや、あの攻防は全然分からない点が多すぎたから解説して欲しいんだけど……」

「いいよ。ただし、帰りながらね」

 

 改めてその場から立ち去る2人。

 

「で?何処から聞きたいの?」

「十六夜綾人とフィディオ・アルデナの最初の攻防は分かった。でも、その後だね。どうしてあっさりヒデナカタにボールを奪われたの?」

「そうね……ヒデナカタ。彼にはフィディオ・アルデナが取られる結末が視えていた。だから、十六夜綾人が奪い、一拍空いたタイミングで奪うことが出来た」

「いや、そのタイミングって……何?十六夜綾人が油断していたってこと?」

「ううん、違う。滅王の眼(アバドン・アイ)の弱点でもあるけど……気付かない?十六夜綾人はあの眼を使った後、毎回首を左右に振って周りの状況を把握しようとするのよ」

「そう言えば……でも、何で?」

「あの眼は対峙する個人しか見えない。だから、その個人との1対1が終わった直後は、滅王の眼(アバドン・アイ)を解除し、普通の視界に戻る。でも、十六夜綾人は普通の人間……だから、解除した瞬間は正面しか見えないのよ」

「そりゃそうだね……って、あ、そうか。そこから未来視に切り替えるために、全体を見る必要がある。さっきも話していたラグがある……今回はそのラグが致命的だったわけか」

「そういうこと」

「でも、不動明王が十六夜綾人の前に居れば解決だったのでは……?」

「勝算は低いわね。そもそも、あの状態の十六夜綾人は不動明王と吹雪士郎にしかパスを出していない。つまり、あの2人がもし前線に残っていたとしても……」

「オルフェウスの面々がマークにつく。それで他のコースを探そうとすれば……ああ、ダメか。奪って一瞬でパスを出せなきゃ取られるのか」

「そういうこと。だから、あの2人がやったことはあの場に置いての最適解。もし居なければ、この先の攻防が生まれず、良いようにやられていた可能性さえある」

「なるほど……」

「でも、敗因の1つがすぐにパスを出せる相手が居なかったってことは間違いないわね」

「あの2人以外で?」

「そうね。もちろん、ただパスコースが空いているだけではダメ……攻撃の意識があって、ポジショニングも完璧。そして、あの状態の十六夜綾人が迷うことなくパスを出せる相手ね」

「その三要素……最後がなくても難しいだろうね。イナズマジャパンの面々は十六夜綾人より自陣側に居たか戻ろうとしている人がほとんどだったから」

「そもそも、イナズマジャパン側は守れば時間が来る……攻める意識がそこまで高くなかった。攻めても時間切れになってしまうのでは?という思考がちらついたせいで、守備的なポジショニングになってしまったのが原因」

「そう言えばこの試合って、そもそも勝つ必要性ってそこまでないもんね。だから、ラストギリギリ、土壇場で強敵相手に追いついた……勝てなくても、守り通せば負けない。引き分けでもよくやった方……」

「それに、もし攻めても点を決める前に時間切れになるかもしれない。だったら、攻める選択は存在していない。……ほんと、誰にも責められず誰も不幸にならない甘くて素敵な選択肢が転がり込んできてしまった。でも、その甘い誘惑に乗ったから、勝ち筋を失った」

「無理ないよ……って思えてしまう時点で、本当にあの場でイナズマジャパンが最後まで勝ちに行けなくても仕方ない状況が完成しているんだね」

 

 もしも、勝たなければ決勝トーナメントに進出できない状況だったら。もしも、引き分け以下ではダメで勝つしかない状況下だったら。もしかしたら、何かが違っていたかもしれない。

 

「そう言えば、敗因の1つって言ってたけど、他にもあるの?」

「そうね……シンプルにレベル差があったからよ」

「は?あの状態の十六夜綾人とヒデナカタにそんなレベル差があるようには……」

「そこじゃない。十六夜綾人とイナズマジャパンによ」

「それも納得いかないけど?そんなの元からじゃん」

「そうね……元々差があった。それなのに、十六夜綾人の唐突な覚醒でその差はさらに広がった。そして、そのギャップを全員が埋めることが出来なかった」

「……え?」

「プレーレベルや精神面、考え取り得る戦術に見える景色……挙げたらキリのないいくつもの要素。元の状態でさえ、チームメイトは全員が着いて行けるわけではない。それなのに、急にレベルが上がったら着いて行けるのは極少数になる」

「それは確かに……」

「イナズマジャパンのような調和を重んじる、チームプレーを重んじるチームから、十六夜綾人という異分子はほぼ孤立した。孤立している十六夜綾人は最強であるが、同時にチームの穴でもある」

「そうか……3人での連携のシーンと同じ。今の十六夜綾人は協力できる人間が限られる。つまり、フォローできる人間も限られるってことか」

「下手なフォローはピンチを招く……イナズマジャパンのメンバーは何度かその光景を見ているからね」

「だからこその穴か。イナズマジャパンの色とかけ離れ過ぎたからこそ、考え方が対極に突出したからこそ読みやすくなる面がある」

「そういうこと。だから色々と仮定の話をしたけど、ぶっちゃけ、あの場面は良くて五分五分。都合の良いイフを考えたとしても、同じ結果になった可能性は十分にある」

 

 それ程までにヒデナカタが強力な選手であり、どれだけ想像を膨らませても、彼をどうにか出来ていないと安定した勝ち筋などなかったのだ。

 

「それで?他にもあるんでしょう?」

「そうそう、十六夜綾人が何故シュートコースに割り込めたか。どうやったのかなって」

「単純よ。最速の経路を描いて実行しただけ」

「は?」

「あの場での目標は至ってシンプル。失点を防ぐこと」

「そりゃそうだけど……」

「あの場面、誰もがフィディオ・アルデナがシュートを撃つと分かっていた。だから、イナズマジャパンの面々は少しでも阻止しようと動いていた」

「そうだね……それをフィディオ・アルデナが避けて進んでいった。そして、突破したところでダイレクトシュートを撃つ……」

「そこよ。まずやったのはフィディオ・アルデナは何処から撃つのか?そのポイントをいち早く割り出したのよ」

「そっか。十六夜綾人は彼の後ろに居たから、彼が持つ情報は全て持っていた。その上でディフェンダーの動きを計算に入れれば……」

「シュートポイントが分かる。そこが分かれば後はその地点からゴールまでの何処にどの経路で行けば最速で辿り着くかを考える。ただ走る距離が短いのではダメ。考えるべきは時間だけよ」

「そうか……いくら切迫しているとは言えノーマルシュートは撃たない。円堂守を倒すために必殺シュートを撃つ。そして、あの場面で撃つならオーディンソード……一直線に進む技だからこそ、彼とゴールの間であれば問題ないのか」

「えぇ。それを反射的に導き出して、迷うことなく走ってちゃんと間に合った。……結局はフィディオ・アルデナの進化が十六夜綾人の計算を上回ったから、失点したけどね」

 

 負けたのは本当に僅かな差。フィディオ・アルデナがあのシュートをあの場面で撃てた……撃てなければ結果が変わっていた可能性が高い。

 

「次にあなたはこう言う。でも、十六夜綾人が必殺技を使っていたら結果は変わったんじゃないのか?って」

「……今ここで()()のか……で?その答えは?」

「あなたはどう思う?」

「どう思うって……そりゃそうでしょ?イビルズタイムでもミサイルペンギンでもボスペンギンでも。どれでも結果に影響したでしょ」

「そうね……でも、答えはノー」

「ノー?……ああ、イビルズタイムは自身に使用の制約を課しているんだっけ?でも、他の技なら……」

「ううん、そうじゃない。あの場面で十六夜綾人は必殺技を使えないから、使っていたらって言う仮定が間違い」

「は?何で?」

「これは前提なのだけど、十六夜綾人のフロー状態において、必殺技の存在はノイズなのよ」

「…………はぁ?」

「だから、フロー状態の十六夜綾人の思考に自身が必殺技を使う事は入っていない。思考の片隅にも存在していないわ」

「えっと……つまり、フロー状態中の十六夜綾人は必殺技が使えないって認識で大丈夫?」

「そういうこと」

「……え?それって、フロー状態に入れなくない?だって、必殺技なんて当たり前の存在じゃん。どんな状況でも必殺技は常に選択肢の1つでしょ」

「さぁ?それはよく分からないわ。1つ言うなら、十六夜綾人のフロー状態は必殺技を代償に入っている。もし、使えたなら既にフロー状態が切れているってことになるわ」

「なるほど……切れていないと発動できない……没頭すればするほど、十六夜綾人は必殺技を使えなくなるのか……」

「そうね。とても大きな代償を支払っている。無くてはならないと言ってもいい必殺技が使えなくなるんだから」

「……それでも脅威になっているのは純粋に凄いけど」

 

 ある意味でこの世界に来る前に戻る……十六夜綾人にとっては、自分が必殺技を使える状況こそ異質。使えないことが当たり前の環境の方が長いからこそ、新たに手に入れたものを捨てるだけでいいのだが、この世界の住民にはその感覚が分からない。

 

「最後の質問だけどさ。そもそもこうやって、わざわざオルフェウスを強くしたのは何で?イナズマジャパン負けちゃったけど……」

「時に敗北は、勝利よりも価値がある」

「はい?」

「だけど、その価値に気付けるのは一部の人。多くの人は敗北という事象に対して、勝利以上に価値を感じることはない」

「……はぁ」

「イナズマジャパンにこの敗北の価値を気付けるかは分からない。でも、十六夜綾人はこの敗北に価値を見出してくれる。……今のところ、十六夜綾人は内容で負けても結果まで負けた試合がないの」

「あれ?そうなの?」

「正確には今の十六夜綾人がってところね。……彼にはもっと強くなって欲しいから。この試合は勝利や引き分け以上に、敗北することが彼にとって大きな価値がある……そう思ったから強くした。……まぁ、あのオルフェウスに引き分けや勝ってもそれはそれで何かは得られたでしょうけど」

「最後は覚醒していたしね…………でも、ほどほどにしてよ?相手を強くしすぎて、イナズマジャパンが優勝しないなんて事態になったら……」

「別にいいんじゃない?だって、私たちが関わってなければ優勝していた……なんて、知る由もないんだから。彼らが優勝しようがしまいがどうでもいい」

「おいおい……ほんとにやるぞ、このシスター……」

「壁を乗り越えられずに敗れるならその程度よ」

「……このシスター、ヤバいかも。十六夜綾人を()()()()って言っていたのに、救うどころかただただ彼の人生をベリーハードモードにしているだけなんだけど。救うはずの相手をとことん追い詰めているんだけど」

「私はね……ただただ彼に救済を与える存在じゃないわ」

「だろうね。……じゃあ、そろそろ教えて欲しいんだけどさ。何のために救おうとしているの?そもそも、ただ救うだけならこんな相手を強くするとか回りくどいことをしなくても良いはず。もしかして、オレたちと一緒に戦うためにこんなことを?」

「ううん。救うのは、本来の世界線で生まれるいくつもの悲劇を防ぎ、この世界線の私たちを守るため。強くしているのは私が潰すため」

「…………は?救う理由も完全には分からなかったけど、それ以上に潰すために強くしているのは……え?どういうこと?」

「万全で最強な彼を叩き潰して、私の方が上だと示す。それだけよ」

「……い、いやいやいや、そんなの前から分かっている話。どう考えてもシスターの方が強い。何言ってるの?」

「まだ彼は未熟だから。ここから強くなった最強な彼よりも私が強いことを証明したい。……私にとって、十六夜綾人は最大の敵なの」

「……えっと……悲劇の元凶だからってこと?」

「違う。私は十六夜綾人の形質を子孫の中でも強く引き継いでいる……だからかな。私の中で騒いでいるの……十六夜綾人を、オリジナルをぶっ潰したいっていうバケモノの声が」

「…………」

「その声の主は今の十六夜綾人じゃ満足しない。だから強くしている。でも、悠長にしている時間は無い。私も彼も時間は多く残されていない」

「そうだね……だから救おうと……」

「でも、救うと彼は弱くなってしまう。私の望む万全で最強な彼が死んでしまう」

「それは……そうだろうけど……」

「だから、徹底的に強くして、徹底的に潰す。それで満足したら勝手に救わせてもらう」

「……ほんと、シスターって何処までもマイペースだよ。十六夜綾人本人の意思は無視だし、周りも滅茶苦茶巻き込んでいるし」

「知っている」

「……でも、まぁオレも自分の意思で関わっているところもあるから、人のことは強くは言えないね。それに……シスターの救う理由が、この世界線の十六夜綾人を救うことでこの世界線のオレたちがちょっとでも幸せになるということなら……それはオレにとっても動く理由になる」

「それは約束する」

「……いいよ、何処までも付き合う。オレの残っている時間も捧げるよ」

「ありがとね、ブラザー。頼りにしている」

「任せて。だって、唯一の家族なんだからさ」

「それ、この時代で言うとややこしいね」

「そこは何か格好良く締めさせて欲しかったなぁ……」




 何てネタバレを……!2人が関わらなければ、FFI優勝していたなんて特大なネタバレをしやがったな……!(多分、全くネタバレになってませんね。と言うより、他のことの方がやばいような……皆様の予想はあっていましたかね?いや、それよりも情報量多いなこの話)

 ということでかなりの強化を受けたオルフェウス戦でした。
 一応、AとLが関与したことによる変化は……
・デモーニオの強化&参戦
・試合開始時点でカテチナオカウンター習得済み&チーム内のゴタゴタ解消
・オルフェウスメンバー微強化(ただし、ナカタを除く……と言っても、彼自身はオルフェウスのメンバーが強くなっている影響で強化されているんですけどね。ちなみに微とつけたのは、大半の原因は十六夜綾人本人だからです)
・十六夜綾人、スカイウォークを習得(2人が関わらない世界線だと習得はもっと先らしい)
・十六夜綾人、滅王の眼(アバドン・アイ)開眼(どうやら、2人が関わらない世界線だともっと先になるよう?)
 ですかね。ちなみにAとLが関与していなければ、引き分けに終わっていました。2人が関与していなくても、十六夜くんのせいで強化はされていたのと、2人が関わらないと十六夜くんが弱体化されるので……

オリジナル必殺技紹介
ロッキングソード
使用者 フィディオ
シュート技 属性.林
進化タイプ.改
モーション
マボロシショットみたいにオーラをためてから、ゲーム版オーディンソードみたいに地面にオーディンソードと色違いの紋章を生み出してからチャージし、チャージし終えたらシュートする。成功すると、オーディンソードみたいに剣のオーラを纏っている?ボールがある程度自由自在に曲がりながら相手ゴールへ突き進む。
オーディンソードは力だとしたらロッキングソードは技の剣。
名前の由来は北欧神話の神.ロキから。

やまちゃん様よりいただきました。ありがとうございます。
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