超次元サッカーへの挑戦   作:黒ハム

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『心』

「作戦は上手く行ったようね」

 

 オルフェウスエリアのグラウンドにて。夜の散歩をしているとAと出会う。

 

「ああ、無事に捕まったな」

 

 速報と言うことで、少し前にガルシルド逮捕のニュースが全世界中に流れた。

 

「何も知らない人たちからしたら、唐突にとんでもないニュースが流れた感じね」

「そうだろうな。しかも、各国の首脳陣まで関わっている超ビッグニュース。世界一を決める大会でまさかの展開だからな」

「そうね」

 

 Aグループ、Bグループそれぞれの予選全日程が終わったタイミングで流れた、大会運営委員長の逮捕というニュース。しかも……

 

「ブラジルの選手たちのことも流れたな。その関係で決勝トーナメントは延期だってよ」

 

 Bグループ1位のブラジル代表の選手たち、並びに家族たちに対する非道な行いに関しても情報として流れている。彼らの安全や精神面のケアが第一であることや諸々の事情を踏まえ、4日後に予定されていた決勝トーナメントは延期される運びになった。

 しかも、当然ながらこの問題はブラジル代表だけに留まらない。決勝トーナメントに進出する4チームはそれぞれが今回の問題と直接的、或いは間接的に関わっている。その辺りの調査も本格化されるだろうし、大会運営チームを始め、この島に居る住人たちの調査など、やることは盛り沢山。いくら世界の首脳陣が協力する姿勢を見せているとは言え、まだ表面化されていない問題があることを考えると、それらの解消には時間がかかる。延期という措置は妥当なところだろうな。

 

「まぁ、この大会そのものは中止にならないでしょうね。チームの不正ではなく、運営委員会側の不正。ここまで来た以上、決勝トーナメントはやると思うわ」

「流石にここまで来てお預けってオチは方々から不満が爆発しそうだ。あくまで、多くのチームは純粋に戦い抜いていた大会である以上、誰が頂点に立つのか……表向きの大会の役割は果たしてもらわないと困る。ただ、この混乱を収めることや問題の解決が先なのは間違いない」

 

 一晩経てばより大勢に伝わる。混乱することは手に取るように分かる。誰もが予想していなかった敵の登場と逮捕。もしもSNSが普及していたなら今頃、とんでもないことになっていただろうな。

 

「とりあえず、私たちの協力関係は一旦終わりね。ここからは私たちの出る幕ではないわ」

「そうだな。オレたちの仕事はここまで……ありがとうな。すげぇ、助かった」

「どういたしまして」

 

 手を差し伸べられたので握手し返す。歪な協力関係に一区切りがついた。

 

「まぁ、あなたを鍛える使命が残っているから、普通に会いに来るけどね」

「勝手に使命にすんな。つぅか、Lも八神のところに顔出しているらしいな」

「そうね。ブラザーが八神玲名を鍛えたいみたいだから、好きにさせているわ」

「上からだな……相変わらず」

 

 恐らく変えたい未来のため……とやら何だろうな。

 

「ただ、鍛えてくれるって言うんだったら、精々利用させてもらうわ」

「へぇ……断らないんだ。もう二度と顔も見たくねぇ!って言うと思ったのに」

「ああ?」

「だって、オルフェウス戦は私たちが関わらなかったら、少なくとも負けはなかったもの」

 

 クスクスと笑うA。そう言えば、こいつらがオルフェウスを強くしたんだっけ?いやまぁ、良いんだけど……

 

「負けは負けだろ。あの試合に不正は一切無かったんだ。お前らが何をしていたとしても、純粋な実力で負けたのはオレだ。勝てなかったのは、オレが弱かったからだ。……それなのに、お前らに敗北の責任を擦り付けるとか、クソ甘い無能がすることだろ」

「そう」

「寧ろ感謝しているくらいだ。お前らがアイツらを強くしてくれたおかげで、オレは試合中に自分の弱さと向き合えた。クソ甘い自分が居たことが分かり、それを壊すことが出来た」

「おっと、感謝されるとは思わなかった」

「オレは変わらなければならない。世界一になるために、今のオレじゃ弱すぎる。だから、使えるモノは使って強くなる。お前がそのための踏み台になるって言うのなら、遠慮無く使わせてもらう」

「踏み台……ね。ある意味でお互い様か。あなたが私にとって、最高に最悪なラスボスとして立ちはだかってくれないとつまらないもの」

「ラスボス?」

「ううん、こっちの話。ああそうだ、良い機会だし質問させて」

「何だ?」

「あなたの目の前には2つの道がある。1つは平坦で短い道。一瞬でゴールにたどり着けるもの。もう1つは茨道で迷路みたいに入り組んでいる。ゴールにいつたどり着くか分からない。あなたならどちらに進む?」

「状況によってだが……平坦で短い方だろうな。あえて困難な方を挑む理由はねぇし」

「そうよね。私でもそう答える。じゃあ、変えるわ。1つは明日にでも世界最強になれる力が手に入る道。全然辛くないし、すぐに私以外の世界中の誰にでも勝てるようになる。もう1つは地道に続け、いつ世界最強になれるか、そもそもなれるのかさえ分からない辛くて険しい道。そんな2つの道なら、あなたはどちらを選ぶ?」

「……そうだな。もし、1つ目の道が本当にあるなら、多くのヤツがそっちを選ぶだろうな」

 

 当たり前だろう。楽に世界一になれます、力が手に入ります……なんて、そんな甘い選択肢を選ばないヤツなんてほぼいない。もう1つの選択肢が過酷すぎるなら尚更だし、強くなりたいという目的を達成することだけを考えれば、前者の方が楽で確実だ。

 

「それに、お前の言い方だと明日にでも世界最強に出来る……そこに嘘はないだろ?」

「うん。あなたの持っている2つの力を引き出すだけで、この時代なら負けなし。ううん、先の時代でも戦える人間なんて限られてくる」

「そうか…………だが、お断りだな」

「どうして?」

「別に苦労した方がとも、そんな力まやかしとも思わない。それも1つの手段だろう。……だから、単純な理由だ。そんなのつまらないから。そんなのオレの望む最強じゃないから」

「ほう」

「過程を楽しむまではいかないが、楽に最強?んなのつまらねぇだろ。過酷な選択肢を選んでいるなんて重々承知。その過程で折れる可能性だってあるだろう。けどな……オレは強いヤツと戦ってそいつらを喰らう。もし、負けて絶望することがあろうと、その絶望すら力に変える。強くなるには強さへの飢えが必要だ。勝利への飢えが必要だ。満たされることのないこの飢えがオレを強くする……だから、オレは過酷な選択肢を選ぶ。そして、最後は楽な道を選んだ世界線より強くなってやる。つぅか、楽な方選んだらテメェに勝てねぇんだろ?だったらその選択肢意味ねぇよ」

「……本当に過酷な選択をするんだね。途中で折れてしまうかもしれないよ?」

「結構。挫折して立ち直れないならそこまでの人間(ヤツ)だったってことだろ?」

「あっそ。いいよ、それなら私も一切気を使う必要なく利用できる。一切気負うことなくへし折れる」

「やってみろマイペースモンスター。ちゃんとテメェは喰らい潰すリストに入ってる。テメェを喰らい尽くして壊してやるから覚悟しろよ」

「……可愛くないあだ名。心配しなくても、あなたのことは壊したいランキングナンバーワン。あなたこそ私にぐちゃぐちゃにされる覚悟をしておいて」

 

 もしも視線が可視化されていたら今頃ここは火花バチバチで熱かっただろうな。ただ、その火花の色はこの夜にも負けないような黒な気がするが。

 

「さて、それなら私たちの関係は更新。互いが互いを使い潰し、喰らい尽くし、完膚なきまでに倒したいと思う歪で素敵な関係を結びましょうか」

「そうだな。構わねぇよ」

 

 1つの目的に区切りがついたので、それぞれの目的のために相手と関係を結ぶ。歪な関係は新たな形で続いていく。

 

「あ、今日はいいよ。抜け出してきたんでしょ?そろそろ戻らないと怪しまれるよ」

「ああ、そうだな。また今度な」

「うん、またね」

 

 そのまま宿舎に戻ることにする。ただ……

 

「妙に引っかかる感覚があるな……」

 

 影山が死んだ……何となくその状況を見ていたような……知っていた感覚がある。……よく分からない感覚だが……もしかしたら、影山が消されることを心のどこかで覚悟していたのだろうか?

 

「ついでに……何というか……」

 

 前も思った気がするが、Aって何か雰囲気というか何というか……オレと似ている気がするんだよなぁ……気のせいか。気のせいだな。流石にあそこまで周りをかき乱すマイペースじゃねぇし。

 

「別の世界線の十六夜綾人に比べたら、既に強すぎるくらいなんだけどね」

「ブラザー。見ていたんだ」

「そうだね。それにシスターが引き出すって言ってた2つの力……それは化身とセカンドステージチルドレンとしての力でしょ?」

「正解。……まぁ、その2つは十六夜綾人の意思関係なく、引き出させてもらうんだけどね」

「おっかないなぁ……で、今度は何をするつもり?」

「するって人聞きが悪いね。ちょっと()()で遊んぶだけだよ」

「客人?」

「そう、本来はここに来るはずのない客人。でも、その客人は今のままじゃ物足りないからね」

「……これじゃ、シスターが黒幕って言われても納得しちゃうよ……」

「ふふっ、まぁ、正確にはその客人以外も足りていないからね。いい強化素材になってもらうためには惜しまないつもりだよ」

「強化素材言いやがったこのシスタ-。相手のことを何だと思っているのやら」

「うーん、ラスボス育成ゲームに登場する強化素材?」

「ら、ラスボス育成ゲームって……オレからすればどっちも凶悪なラスボスだけどなぁ……」

「何か言った?」

「何にも。でも、分かってるの?客人もだけど、他の奴らも一歩間違えれば、この世界は終了。ゲームと違ってコンティニューもリトライ機能もないよ?」

「別にいいんじゃない?終了したら終了したで、そのときはそのとき。この世界線は諦めて、次の世界線に行くわ」

「…………発言が世界を壊そうとする魔王のそれだよ……というか、サラッと世界線を諦める発言しないで欲しいんだけどなぁ……」

「良いんじゃない?寧ろ、この世界が終われば、この世界の私たちは救われるんだから。最低限の目的達成ありがとうございました」

「それはこの世界のオレたちが生まれないからだよね……なんて救い方だよ……余りにも最悪すぎるよ……」

「うん、最悪。だって、ラスボスが育つ前に終わっちゃうもの」

「そういう事じゃないんだよ……」

 

 楽しそうな笑顔を浮かべるAとお腹が痛くなってくるL。既にAに尽くすことを後悔し始めた様子だ。

 そんなことを知らないオレはルシェが眠りにつくまで、フィディオと共にサッカーを教えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「というわけで、これがじいちゃんの最後のノートなんだ」

 

 翌日、宿舎に帰るとオレの部屋にノートの束が置かれていた。どうやら影山が遺してくれたノートらしく、パラパラと見ると必殺技の構想が書かれたノートらしい。何故か0巻だけに十六夜専用と書かれた紙が貼られているのは不思議だけど……まぁいいか。

 そんなわけで影山の遺した最後のノートの束……それらに目を通していると、召集がかかり強引に連れて行かれた場で、円堂がそんなことを言い出した。あのー……お前のじいさん生きてるんだけど……しかも、この島に居てお前も会ったことあるんだけど……と、近くに居る夏未に視線を送ると黙っていなさいという視線が帰ってきた。はい、黙ります。

 

「読むぞ」

 

 冬花が確認し、冬花の父が何度も読んでいたノート……らしい。え?どうしてそんなものを探しに行ったのか、まるで状況が掴めていないのオレだけですか?

 

「技を生み出す根源は『心』の強さにある。新たなる必殺技を生み出すには新たなる『心』を身につけること」

 

 ……結局、必殺技の話ってことか?

 

「心の其の一、どんな時も諦めない、ガムシャラガッツ。

心の其の二、どんなに強い敵も恐れない、タチムカウユウキ。

心の其の三、大切なものを守りたいと思う、ソコナシノヤサシサ。

心の其の四、仲間の全てを信じられる、ゼッタイテキシンライ。

心の其の五、どんな事態にも動じない、コオリノレイセイ。

心の其の六、隠された真実を見抜く力、ミヌクシンガン。

心の其の七、人の過ちを許す心の強さ、ユルスツヨサ。

心の其の八、他人の喜びと悲しみを分かつ、ワカチアウナミダ。

心の其の九、高き志を持つ者だけが見る、ハテシナキユメ。

心の其の十、自分の力を信じる心、マヨワナイジシン。

心の其の十一、どん底でも消える事のない、センシノホコリ。以上」

 

 ……?…………???

 

「『心』を身につける……か。やっぱり、じいちゃんはすげぇことを言うぜ。よぉし皆!この『心』を意識して特訓だ!」

「「「おう!」」」

 

 そう言って立ち上がる他のメンバー。そのまま外へと特訓しに出て行った。

 

「十六夜くん、ちょっといいかしら?」

「何だ、雷門?」

「時間を貰える?監督には許可を貰っているわ」

「分かった」

 

 オレはゆっくり立ち上がり、雷門についていく。そして、そのままバスに乗り込んだ。

 

「あなたにはさっきの言葉が響いていなさそうね」

「響いていないって言うか……いまいちピンと来ないだけだ」

「そう……まぁ、あなたはそうかもしれないわね」

 

 何となく理解できるような理解できないような……まぁ、足りていないのは分かる。4とか8あたりで言っていたことなんて全然足りていないだろうし。でも……うーん?

 

「ところで、気付けばバスに乗せられて、連れて行かれてるんだが?」

「あら、人聞きの悪い。ついてきたのはあなたでしょう?」

「コトアールエリアに向かっているってことは大介さん絡みか?」

「えぇ、会ってお礼がしたいとのことよ」

 

 バスに揺られながらコトアールエリアにたどり着く。

 

「つぅか、ここにテレビとかラジオとかあるのか?」

「流石にあるわよ。あくまでコトアールの国々の街並みを反映しているだけなんだから」

「そうか……まぁ、ないと情報収集とか大変そうだしな」

「そうね……ほら着いたわよ。失礼します、雷門夏未です。十六夜くんを連れてきました」

「失礼します、十六夜綾人です」

 

 中に入ると、前と同じように赤キャップのおじさん……もとい、円堂大介さんが座っていた。

 

「感謝したい。ありがとう……!」

 

 そう言って頭を下げる大介さん。

 

「いえいえ、オレの方こそありがとうございます。大介さんの協力のお陰ですよ」

「儂が協力できた事なんて些細な事……お前さんのお陰で解決出来たものだ」

「その些細な事のお陰で話がスムーズに進んだんです。本当に感謝しています」

 

 流石のオレでも首脳陣と交渉できるほど信頼がない。財前総理だけはいろいろあったから話が出来てもこれは世界問題だし、ガルシルドの方が信用という面では上手だった。だから、大介さんを通し、理事長や鬼瓦刑事を動かし、総理を動かした。そして、集めた物的証拠や被害に遭った大介さんの証言などを用いて、総理が世界各地の首脳陣を動かし、今回のガルシルド逮捕に至った。

 大介さんという被害者だから……何十年もガルシルドから身を隠し、反撃の機会を窺っていたこの人だから話が進んだ。些細な事……でも、それがなければもっと遅くなっていたかもしれない。手遅れになっていたかもしれない。

 

「これで、肩の荷が下りた」

「えぇ、それは良かったです」

「何かしてやりたいが……こんな爺さんにできることなんて限られているな」

「いえいえ、そんな気にしないでください。これはオレが始めたことでもあります。あなたはあくまで協力してくれた立場であり、直接被害を受けた立場ですから気にすることはないですよ」

「気を使わなくてもよい。気にせず言ってくれていいんだぞ?」

「…………そうですね。脅威がなくなって、あなたが身を隠す理由もなくなった。落ち着いてからでいいので、円堂と……あなたの孫と会ってやってください」

「そうか……確かにな。と言っても何度か会ったぞ?」

「あのバカは気付いていないんで、円堂大介として会ってください」

「そうじゃな……色々と落ち着いたら会おうか」

「えぇ。そうしてください」

 

 そこから話はオレから見た円堂守の話に変わる。ほとんど会っていない孫の成長が気になるのだろう。夏未も混ざって、散々アイツに関する話をした。

 

「そういや、そんなノートもあったな」

 

 と、今日の……と言うより、ついさっきあった話になる。

 

「あなたの最後のノートだ!って色々と騒がしかったですよ。書いた本人ご存命ですが、って何度思ったことか……」

「ハッハッハッ、確かに儂の最後のノートと言う割には随分昔だな」

「えぇ……でも、良かったんですか?イナズマジャパンにそんなノートが渡りましたけど……」

「よいよい。上手く使ってくれれば、儂は何も言わん」

「そうですか……」

「そうじゃな……十六夜よ。そのノートでお前さんに1番足りないのは、『心の其の十、自分の力を信じる心、マヨワナイジシン』……イタリア代表との試合前だったらそう言っただろうな」

「はぁ……ん?」

「そもそも、あれに書いたのは何も必殺技を生み出すためだけの教えじゃない。お前さん自身が強くなるためにも、そのノートに書かれていることは役に立つ。もちろん、ただの爺さんの言葉だ。無理に受け取る必要はない」

「……大介さんから見て、オレは自信を持てていないって感じでしたか?」

「そうじゃな……お前さんは十分強い。強いのに自分の力に自信がない。だから、必要以上に格上や同格の者たちを自分より上だと認識し、自分との差を測り間違える。……儂にはそう見えていたぞ」

「…………」

 

 過去形で語られるが確かにそうだったかもしれない。フィディオをはじめとした世界トップクラスだと思っているヤツら……自分の思う彼らとの差と周りの思う差に大きな隔たりがあったのは間違いない。

 

「でも今、こうして十六夜綾人と会って話して確信した。お前さんは、自分の殻を破ったとな」

「そんな殻を破ったみたいな自覚はありませんが……ただ、戻ったんだと思います」

「戻ったとな?」

「はい。誰が相手でも勝つ……負けるとか不安とかがなかった昔の気持ちを取り戻した。でも、それは決して退化でも蛮勇でもない。……今の自分は昔よりも相手を正しく捉え、その上で勝つ以外の思考を全て捨てる。だから、誰が相手でも逃げないし、むしろ強敵なら好んで戦いに行って勝ちきる。それくらいの気概はあります」

「淡々とした言葉の中に確かな熱がある……か。あの敗北はお前さんを変えようとしているのかもな」

「敗北という絶望を正しく刻み、勝つために死に物狂いで足掻くこと……オレのサッカーの師から教わった大切なことですので」

「ハッハッハッ、中学生に教えるには過激だな」

「いえいえ、小2からですよ」

「なんと、そんな時からそんな教えを?それはスパルタじゃな」

「周りから見たらそうかもしれませんし、きっと周りは理解出来ない……でも、何でですかね。オレにとってはそれが一番しっくり来るんですよ」

 

 少しずつ昔の自分を取り戻していく……でも、ただ戻るんじゃない。今目の前に居るヤツらに勝つため、オレは過去の自分を取り込んで強くなる。もう迷わない……たとえ、一人になったとしても……

 

「ところでお前さん……必殺技が嫌いか?」

 

 と、この世界に来て初めて、そんな質問を受ける。あまりのことに一瞬言葉が詰まるが、何とか絞り出す。

 

「き、嫌いというか……受け入れてはいるんです。いるんですが……ああ、もちろん、ペラーのことは好きですしボスのことも……でも、やっぱりどうしても……」

「お前さんは必要以上に必殺技を使わない。手札が多いのにそれを切らない傾向にある」

「…………」

 

 言われてその通りだと思う。1対1で相手を止めるために、突破するために必殺技を使うってことはほとんどしない。もちろんケースバイケースではあるが、それでも使わないプレーが根底にあるのは変わらないだろう。

 

「お前さんのプレーは圧倒的な基礎練習の積み重ねで出来ている。特にイタリア戦後半途中からの覚醒……周りからすれば、お前さんがとんでもない才能に目覚めた!今度はどんな必殺技を!?それを超えた何か凄いモードチェンジを!?……みたいな感じだが、それは間違っている。地道な積み重ね……そうして今までに積み重ねた出来ることを集約しただけ。お前さんが自分の中にあったものに気付き、心の底から目の前の壁に挑んで乗り越えたいと思ったから出来たプレー」

「知っているんですか?別の人にフロー状態とかゾーン状態とか言われたんですが……」

「そんな言葉もあるらしいな。必殺技が受け入れられないならそれでもよい。お前さんは必殺技なんかなくても十分強いからのう。お前さんのフローには……やりたいプレーには必殺技が邪魔になるのだろう?」

「……っ!」

「図星じゃな。心の底から受け入れていない武器を考え、集中の妨げになるくらいなら、必殺技なんて忘れてしまえ!」

「忘れて……凄いことを言いますね。必殺技に関するあれこれを残した人とは思えない……というか、この世界の人の考え方じゃないみたいですね」

 

 この世界の人は必殺技が当たり前なものになっている。その当たり前が受け入れきれていないなんて普通は考えない。何だろう……その前もだが、この人の観察眼は侮れない。全てを見透かされているような……それでいて思考も測り切れないか。やっぱり、ただの爺さんじゃねぇな。

 

「そういうお前さんこそ、普通の人間は必殺技のことを一切躊躇することなく、未練無く捨て去るなんて不可能。どんな状況でも、身に付けた必殺技は選択肢に入ってくる。まして、沢山の必殺技を身に付けているのなら尚更な」

「そうですかね……でも確かに、あの時、必殺技という選択肢は思考の片隅にも存在していなかった」

「そうだろう?無理に必殺技を使う必要はどこにもない。必要なときに必要な技を使う……それぐらいの認識がお前さんにとっては良いかもな」

「そうですね。フローに入っていなかったら、今まで通り使えると思いますし、今後も今まで通りの使い方をすると思いますよ」

 

 ペラーたちを呼び出せるのは変わらないし、空も飛べるし足から炎も出せる。今後の試合も、自分が使いたいと思ったタイミングで使うのは前と変わらないところだろう。

 

「良いか?フローに入れた鍵は『心』だ。『心』はどんな状況でも、お前さんのプレーの原動力になる。ノっていれば無敵に思えるような強さを与える反面、落ちてしまえば力を殆ど発揮できなくなる弱さをもたらす。お前さんはその差が激し過ぎる。このままではこの先も苦しむことになる。心技体……お前さんの課題は心だな」

「心……か」

 

 そう言われると何も言い返せないな。精神面が安定せず波があり、それによってプレーの質まで左右されてしまう。弱点としてあげられるのは否めない。ただ技術だけを身に付け、身体を磨くだけではオレは強者たちに本当の意味では勝てないだろう。これは諦めでも嘆きでもない、ただの事実だ。

 

「それと、お前さん。人それぞれ考え方が違うのは当たり前、誰に影響されるのも自由だ。だから、無理に染まらなくてよい。でも、違うからと言って敵だと思わなくてよい。チームの仲間は敵じゃないぞ、十六夜」

「……何でそんな……」

「ハハッ、お前さん。大方、イタリアに負けても笑顔を向けていた守たちにいらついたんだろう?この敗北を受けて何故やり切った顔が出来るのか……理解できない、分かり合えないって思ったんだろう?」

「……っ!」

「無理に理解しなくてもよい。分からなくてもよい。……だが、切り捨てるのは違う。分かり合えないと決め付け、向き合おうとすらしないのは間違っている。分かり合う努力ぐらいはせんといかん。お前さんのことだ。一人で歩む道を選ぼうとしている。周りに敵しか居なくても、切り捨てられようとも、一人を貫こうとするだろう」

「……よく分かりましたね」

「お前さんの試合でのプレーを見て、こうして話をしていれば分かる。今までも、そういう危ういモノを持っている者は何人も見てきたからな!ただただ歳を重ねた爺さんではないぞ?」

「危うい……ですか。……それなら、そういう若者にあなたはどういう声をかけますか?」

「お前さんは誰でも知っている単純な話を忘れておる。いいか?一方通行で一方的なだけじゃどんなに頑張っても届かない。お前さんが向き合って歩まない限り、その距離は遠くなるばかり……縮まることはない。お前さんは勝手に決め付け、心を遠ざけ、向き合おうとしていない。それでは何も変わらない。それは余りにも身勝手で傲慢で……虚しく哀しい話だ」

「…………」

「サッカーは11人が奏でるハーモニー……そうワシは考えている。お前さんの音が原因で不協和音となっている状態じゃ、お前さん1人がどれだけ凄い音を轟かせても、周りの10人がどれだけ素晴らしい音を奏でても、噛み合わずにチームとして負けてしまう。本当の意味でお前さんがチームを敗北に……破滅に導く。このままじゃ、お前さんがどんなに強くなろうとワシらに……いや、黒幕の居なくなったブラジルにも勝てず、世界一にはなれないだろうな」

「…………じゃあ、どうしろと。オレにはアイツらの……いや、アイツの考えは心底受け入れられない。余りにもオレとアイツは考え方が違いすぎる。……仮に向き合ったとしても分かり合えない。それが分かりきってしまっているんですよ?じゃあ、向き合うことなんて無駄でしょう?」

「勝手に決めつけるなと言っただろう?お前さんは賢い……そういうことを頭の中で考え、完結させて結論を出すことが出来る。……でも、思考する過程で致命的なことを間違えた」

「致命的なこと?」

「ああ。分かり合えない仲間が居てもいいんじゃよ」

「…………は?それじゃ意味が……」

「それも、サッカーというチームスポーツの醍醐味だ。ぶつかってぶつかって……分かり合えずとも、理解できずとも、それでも仲間だ。だから何度もぶつかるんじゃ。お互いを少しでも理解するため、お互いを知るために、心をさらけ出してぶつかる。それで一回や二回ダメでも、逃げてはダメだ。背を向けてはダメだ」

「…………」

「たとえ考え方が相容れない者同士でも、心の奥底に眠っているモノを見せ、ぶつかることが大事だ。いいか?ワシはお前さんの考えを否定しない。変えろとも染まれとも思わない。凄い思想を持った中学生もいたんだと感心しているんだ」

「…………」

「だからワシが咎めるのは、お前さんがぶつかることを避けること。勝手に決めつけて、勝手に切り捨てていることだ。そもそも11人全員が違う考えを、思いを持っているなんて当たり前のことだ。同じチームに居るからって、思想も感情も同じである必要はどこにもない」

「…………」

「バラバラでもいいんだ。全員が普段はバラバラの方を向いていても、1つのことに違う思いを、感情を持っていてもいいんだ。そんなバラバラな者たちがサッカーを通じてお互いを理解し、尊重しあい、最後は同じユニフォームを着て、同じゴールを目指して突き進む。お互いの音を重ね、その11人にしか出せないハーモニーを奏でる。そのチームにしか出来ないサッカーを体現する。いいか?チームに居るのはただの倒すべき敵じゃない……ともに戦う仲間なんだ」

「…………正直、ともに戦うとかあんまり好きじゃない言葉です。バラバラなのに理解や尊重が生まれる……って言うのも正直、よく分からないですし、チームメイトというものの考え1つとっても、あなたの考えるチームメイトとオレの考えるチームメイトは違うものだと思います」

「……そうか」

「だけど、ただの敵じゃない……そうですね……確かにただの敵ではない。競い合って奪い合って潰し合って……所属が同じで利害が一致しているライバルたち。……そのライバルたちと向き合うことを避けていては、何も生まれないし、何も変わらない」

「うむ」

「…………でも、向き合ったところで結局合わないと思いますよ」

「合わなくてもよい。完全に合う人間なんていないんだからな!」

「……確かに、そうですね。それに合わなくても、何かはあるかもしれない……向き合ったことは無駄にならない」

「そうだ。まだお前さんたちは青い。何度失敗したって良いんだ。大事なのは言葉にしなければ伝わらないこと。声に出して、自分の思いを相手にぶつけること。全部うまく必要はないんだ。もしも、ぶつけて大失敗して、気まずくなったのならここに逃げてくればいい。……お前さんがもう一度、その一歩を踏み出せるまでこの爺さんが話を聞いてやる。傍にいてやる。……お前さんは一人じゃない。安心して行ってこい!」

「…………ほんと、円堂の爺さんですね」

「そんなに似ていたか?」

「えぇ。ちゃんと血を感じますよ」

 

 そういえば最近、アイツと……アイツらとまともに話したことなかったっけ?アルゼンチン戦が終わってからは、最低限の交流しかしていなかったな。……いや、下手をすれば日本代表になってからか?いつからだろう……それすら思い出せないほど、オレは向き合うことを諦めていたんだろう。ぶつかることをしなかったんだろう。ずっとずっと、オレはこの距離を縮める努力をしなかった。そっか……そうだな。何も話さなくても分かってもらえると思ったら大間違い。だけど、何も話していないのに分かり合えないと決めつけるのも大間違い。対極に居るからこそぶつからなければ始まらない。そして、ダメだったときはまた考えれば良い。本当にどうしようもなくなったらその時考えれば良い。

 

「ありがとうございます、そろそろ帰りますわ。向き合うことをしてみます。……ただ、あまり人と向き合うことをしなかったので、こういうときどうすればいいか分からないんですけどね」

「大事なのは心の内を曝け出すこと……お前さんが思っていることをお前さんなりに話すこと。そして、すぐに諦めない、すぐに結論を導かないことだ。結論を出しそうになったら一歩踏みとどまって、もっと対話を重ねる。早く答えを出すことが良いことではない。お前さんたちのペースで答えを出せばいいんだ」

「気を付けます。また何かあれば呼んでください。自分が力になれることがあれば、いつでも貸しますよ」

「うむ。お前さんも何かあれば遠慮無く訪ねて来るといい。儂に出来ることがあれば、いくらでも力になろう」

「はい。色々とありがとうございました、失礼します」

「こちらこそ、ありがとうな、十六夜」

「では、見送りしますわ」

 

 そう言って雷門と共に出て行く。他愛ない話をしながら、コトアールエリアの入口に差し掛かったところで……

 

「……っ!?」

 

 突如、映像が流れ込んでくる。

 

「ちょっと!?急にどうしたの!?しっかりしなさい!」

 

 右目をおさえて、地面に膝をつく。なんだコレ……!破壊されるコトアールエリア……破壊しているのは襲撃者たち……それに……

 

「ガルシルド……!」

 

 彼らを引き連れ、指示を出しているガルシルド……っ!

 

「あれ……?」

「大丈夫なの?」

「あ、ああ……最近、時々見るんだ……」

 

 幻覚……だと思うが何か違う。何かの映像……?でも、響木監督は倒れてねぇし、ガルシルドも脱獄してねぇし……何の映像だ?……いやでも、影山の映像は……それに夢も最近は昔の夢か変な夢が多いし……何が起きているんだろうか?

 

「病院行ってきたら?疲れが溜まっているのかもしれないわ」

「そうだな……ちょっと久遠監督に連絡して、行ってくるわ」

「ついて行きましょうか?」

「いや、そこまでは大丈夫だ。ありがとな」

 

 だが、この不気味な感じは何だ?アレを……いや、一連の見えた映像をただの幻覚で済ませてはいけない気がする……気がするけど……どうにも……

 

(今、彼の右目から緑のオーラを感じたような……なんだったのかしら?)

 

 結局この後、病院に行ったが検査結果に異常は無い。採血をしたので、日を改めて検査結果の確認で来て欲しいとのことだが……精神的な疲労や肉体的な疲労のせいというのが現状の結論だった。




 次回、十六夜VS円堂 ~ぶつかり合う~
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