病院から宿舎に帰ってきて、夕食が終わった後。オレは円堂の部屋を訪ねていた。
「円堂、今時間あるか?」
「十六夜?お前から声をかけてくるなんて珍しいな」
「ちょっと話がしたい。付き合ってくれないか?」
「おう!いいぜ!」
そう言って円堂を誘ってグラウンドに降りる。誰も練習していない無人のグラウンド。ここなら、話すには丁度良いだろうな。……何故か、円堂は手にグローブを嵌めているけど……
「よし!来い!」
「いや待てやコラ」
「え?どうした?」
「話がしてぇって言って、何でお前はゴール前で構えているんだよ。何でボールとグローブ持ってきてんだよ」
普通に話がしたい的なニュアンスだったはずだ。何故こうなった?こっちはスパイク履かず普通にトレーニングシューズなんだが?何でお前はスパイクまで履いて準備万端なんだ?
「お前と試合以外でボールを蹴ることがほとんどないからな。久し振りにやろうぜ!十六夜!」
「……そういや、そうだったな……」
この島に来てからは円堂たちと試合以外でサッカーをほとんどしていない気がする。いや、正確には……
「確かに、留学から帰ってきて以来ほとんどやってねぇな」
その時その時で事情があって、オレはイナズマジャパンの全体練習に混ざることはほとんどなかった。日本代表になってから全体練習への参加なんて皆無と言ってもいいレベル。それどころか、自主練習も前までは八神を始めとした一部メンバーとは一緒の時もあったけど、最近は専ら1人か部外者であるAと一緒。全体も個人も合わせ、イナズマジャパン関係者と一緒に練習することが少ない。……ここまで来るとオレはイナズマジャパンの選手と言うより助っ人ではないだろうか?そう思えてしまう時点でダメなんだろうな。
「うーん、それは違うぞ!」
「え?事実だろ?」
「多分だけど、フットボールフロンティアで優勝してからほとんど蹴ってないと思う!」
言われて記憶を呼び起こす。そう言えば、エイリア学園が襲来してさっさとスパイ活動していたな。それで戻ってきたのは試合中だし、その後すぐに富士山で最終決戦。時間をそんなに空けず、雷門中でダークエンペラーズと戦って、そのままイタリアへ……あれ?もしかして、半年以上まともに向き合っていなかった?記憶の封印が解ける前から続く話だった?え?本当にオレっていつからこいつらと向き合うことをしていないんだ?流石に予想以上過ぎて、自分で自分に引いてるわ。
「……あー……はい。そうでしたね……」
「さぁ、行くぞ!」
円堂から投げ渡されたボールを胸トラップで地面に落とすと、そのままシュートを放つ。
「やっぱ、良いシュート撃つよな!」
「それほどでもねぇよ」
本気でゴールを決めるつもりではない、どちらかと言うとパス交換に近いような空気感のシュート。オレが蹴ったのを円堂がキャッチする。そして、投げ返してまた蹴るの繰り返し。
それが何回か行われた後、オレは頭を下げる。
「ごめん。この前の試合後、お前の手を振り払ったことを謝らせてくれ」
本題はこの後に控えているが、どういう結果になろうとあの手を振り払ったことに対しての謝罪はしないといけない。色々と思うところがあったとは言え、流石にあれはラインを超えていた。やってはいけないことだったから。
「そんなこと全然気にしてない。だから頭なんて下げなくて大丈夫だ!」
「そうか……ただ、謝罪した後で言う話でもねぇが、この際だ。はっきり言うけど、オレはお前の考え方、理解できねぇわ」
「と、唐突だな……」
「試合に負けても最高とか楽しいとかそんな戯れ言吐ける意味が分からねぇ。一生懸命やろうが何だろうが、勝たなきゃ意味ねぇ。勝負ってのは勝たなきゃ意味がない。少なくともオレはそう思っている」
「そうか……」
「オルフェウス戦は試合に負けて内容でも負けた。完全敗北ってやつだ。なのに、お前が見せた試合後のやりきったって顔が、お前らが見せたその感情が、その思いが全く理解できねぇ」
「…………お前がそうやって思っていることを言ってくれるのって、あんまりないよな」
「ああ。ねぇと思っている」
「俺もさ!十六夜の言う勝たなきゃ意味がない、って言うのはあんまり分かってない!」
そう言ってボールを思い切り投げてくる。
「だってそうだろ!負けた試合が全部意味が無いなんて思わない!自分たちが全力でぶつかって、相手も全力でぶつかって……全力と全力の最高の試合をすれば、勝っても負けても楽しかったって言える!この試合に意味があったって胸を張って言える!結果はそうやって全力でぶつかった後に来るものだろ!」
「ちげぇよ。全力でやったとか頑張ったとかどうでもいいんだよ。そんなお気持ちなんざ知らねぇ。そんな過程より結果が重要。最後に勝ったか、勝てなかったかが大事なんだよ」
「そんなことない!勝ち負けの結果よりも大事なことがたくさんあるんだ!」
相変わらずの平行線。過程を重視するアイツと結果を重視するオレでは、やはり考え方が異なっている。だが、ここで分かり合えない……その一言で済ませては何も変わらない。ここで結論を出してはいけない。大事なのは対話を重ねること……だから、
「……分かった。もっと深掘りしていくぞ」
「深掘り?」
「ここで、お互いに言葉を吐き出し合うだけでは、分かり合えないという結論が出ることくらい目に見えている。それじゃほとんど変わらねぇ……だから、もっと解像度をあげる」
「か、改造をあげる?」
「……もっと具体的に細かく見ていくって感じでいいよ。なるべく小難しい話は抜きにするからそこは心配するな」
「お、おう」
「取り敢えず大まかな方針、立場として、お前は勝負の内容を、オレは勝負の結果を重視しているというのは問題ねぇか?」
「そうだな……確かに試合内容の方が最後の勝敗より大事だと思う」
「オーケー。じゃあ、結果でただ勝っても意味がねぇ……そこのところは一緒で良さそうだな?」
「ただ勝つって?」
「例えば、お互いが適当に流したクソみたいな試合で勝っても意味あるか?ってことだ」
「それは……あんまり意味がないかもな。全力でやって負けた試合と、お互いが力を抜いて適当に戦って勝った試合……うん。それだったら、負けた方が楽しかったって言える。お互いが力を出し尽くさないと意味無いかな!」
「……なるほどな。やっぱり、中身は違うか」
「中身?」
「確かにオレが勝負の結果を重視するのは認める。だが、勝負って言うのは対戦相手が居るもの。当然ながら対戦相手についても一つの要素になる」
「そうだよな。相手が居るからサッカーは出来るし……」
「相手が力を出そうが適当に流そうが、相手が弱いなら勝ったところで正直どうでもいい。もちろん、相手が本気を出せさえすれば負けていたのにって言うんだったらムカつきはする。だけど、それもひっくるめてそんな奴らに勝っても思うことはほとんどない」
「な、なるほど……つまり、相手の強さが大事なのか?」
「そうだな」
その点でも大きく違うのだろう。円堂は気持ち……相手も味方も本気でやっていれば、きっと結果はそこまで重要じゃない。全員が全力を出して本気でやってさえいれば、多くの試合は勝っても負けてもどちらでもいい。
その点、オレは実力……本気でやっていようと手を抜いていようと相手が弱ければ勝ったところで思うことは特にない。もちろん、手を抜いていても強いヤツは大歓迎で、その状態で負けたらそれこそクソ最悪だが……とにかく、内面の気持ちを重視して見ているアイツと、実力という外に現れる数値を見ているオレでも考え方が異なっている。
「極論、お前は相手の気持ちが大事で強さは二の次、オレは相手の強さが大事で気持ちは二の次ってところだな」
「……相手が強ければ気持ちなんてどうでもいいってことか?」
「極端に言えばそういうことだ。そんなの間違っている……ってお前なら言うだろうが、まだ深掘りの最中だ。一旦、その感想はスルーでいいか?」
「……っ!わ、分かった……」
「オレの考えをもう少し具体的に伝えるが、サッカーという勝負においてはもう1つ重要な要素があると考えている」
「えっと……最後の何対何って結果と相手の強さ以外にか?」
「そうだ。例えば、誰かとの1対1みたいな試合中の勝負には負けたけど、試合としては勝ったみたいなケース。試合としては勝てているからオールオッケー……なんて思わねぇ。オレがサッカーにおいての勝負に勝つって言うのは相手との個人的な勝負に勝って、全体の試合にも勝つ。両方の意味を持っている」
サッカーの試合は確かに大きな1つの勝負だ。それも大事だが、その大きな勝負の中にある細々とした小さな勝負。こちらの結果を無視することは出来ない。そういう意味ではオレもサッカーにおいて、試合という勝負の内容を重視していることになる。もっとも、重視の仕方は全然違うが。
「どちらかだけじゃダメだってことか?」
「そうだな。ただ、比重は前者……勝負で勝つことが優先だな。勝負に勝っていれば試合に負けてもまだ飲み込めるところがあるだろう」
もっとも、勝負に勝って試合に負ける状況が頻発するとも思えないし、試合に負けていたら大体の場合は勝負にも負けているだろうしな。
「えっと、じゃあ、お前の言う結果というのは試合での勝敗だけじゃなくて、勝負の結果もってことか?この前の試合ならフィディオやナカタとの勝負の結果も大事……って感じか?」
「そういうことだな。アイツらに負けたからラストゴールを奪われ、試合にも負けた。アイツらに勝てなかったのに、満足なんて出来るわけがねぇよ」
「な、なるほど……」
うーん、と腕を組んで思考する円堂。ここまで違う考え方を、彼なりに咀嚼しているのだろう。理解しようとしてくれている、話を聞こうとしてくれている。だったら、彼が次の言葉を発するまで、オレは催促することなく待つとしよう。
「…………なぁ、十六夜。何でお前はそこまで勝ちに拘るんだ?」
「はぁ?」
「いや……純粋な疑問なんだけどさ。お前って、世界大会だから勝たなきゃって言ってるわけじゃないんだろ?どんな勝負であっても勝つって話をしているんだよな?」
「当たり前だ。世界大会だから、何とかだからみたいなそんな背景は一切考えてねぇ」
「お前って昔さ。サッカーを始めたのは面白そうだからって言ってたよな」
「言ったと思う」
「……今のお前はサッカーをやっていて楽しいのか?」
「…………」
サッカーが……楽しい?楽しいか楽しくないか……?
「…………そういうお前はサッカーが楽しいか?」
「楽しいさ!皆が1つのボールを追いかけて夢中になれて熱くなれる!仲間で協力して乗り越えられなかった壁を越えたり、皆で繋いでゴールを決めたり……今だって、世界大会に居るんだぜ!世界から集まってきた最高の奴らとの熱い試合……!ここまでの戦いもすげぇ熱かった!こんなの楽しくないわけがないだろ!」
「……それがお前の考えか?」
「そうだけど……不満だったか?」
「いいや。もし、それがお前の言う『楽しい』って考えならオレは多分、『楽しい』って思えていない。いや、思わないんだろうな」
「それって……」
「心躍るような強者との戦いは楽しいし面白い。世界から集まってきた同世代のトッププレイヤーたちとのしのぎを削るようなヒリつく戦いは心の底から熱くなる。そんな激闘、死闘を超えて強者を倒せたときなんかは最高だろうな」
「それなら……!」
「だが、お前の言う皆とか仲間とかは知らない。オレには仲間なんて居なくても、熱くなれる相手が居ればそれで十分だ」
「……っ!……それじゃダメだと思う。そんなの本当のサッカーじゃない!」
「…………」
「それじゃあフィールドに11人居る意味が無い!ベンチで備えてくれる、応援してくれる仲間が居る意味が無い!サッカーは1人でやるスポーツじゃない!チームが一丸となって戦うスポーツなんだ!」
そうだな。何て教科書通りで、何て予想通りで……何て甘い解答なんだろうか。
「……じゃあ、聞くけどさ。同じチームに居るヤツって全員が仲間なのか?」
「…………え?それはそうだろ?何を言っているんだ?」
「辛いときには協力して、手と手を取り合う。試合でもお互いをカバーしてフォローして声を掛け合って、全員でゴールを決めて全員でゴールを守る。そして、試合に勝ったときの喜びや感動を分かち合う……こんな模範解答がお前の言うチームメイトか?」
「も、模範解答って……」
「はっきり言う。そこまでで済むんだったら、オレもそんなに文句はない。別にそれでもいいとは思うし、そこまでだったら、オレはお前の言うチームメイトになるための努力をしようとは思う」
「だったら、何が……」
「負けてもやり切っただの頑張っただの次があるだのまだこれからだの、そういう甘ったるい言葉を掛け合い受け止め合い慰め合い、敗北という絶望に叩き込まれた現実を忘れ、互いの傷を舐め合うようなクソ反吐が出ることをするのもテメェのチームメイトだって言うなら、オレはテメェのチームメイトになる気はねぇ」
「……っ!」
目を見開く円堂。そうだろうな、オレが言っていることはお前が……お前らがこの前やったことそのもの何だから。
「……じゃあ、お前の言うチームメイトって何なんだ?」
「レギュラーという11席を奪い合う相手。競い合い、ぶつかり合い、奪い合い、喰らい合いながら、互いが自身を高めるために、次のステージに進むために戦い続ける
「何で……違う!違うんだよ!そんな目的や利害なんておかしいだろ!」
「何処がだ?何も間違っていないだろ?」
「違う!確かにチームメイトのことを競う相手って言うのは良いと思う!今だってこうやって一緒に寝泊まりして、皆で世界一を目指して頑張っているじゃないか!そんな目的だとか利害だとか言うなよ!利害なんて関係ないだろ!」
「何言っているんだ?それは違うだろ」
「え?」
「利害なんて関係ない?何を言っているんだお前は。特にこのチームなんて、利害の一致で生まれたチームだろうが」
「……どういうことだ?」
「そうだな……確かにさっきの話じゃ利害関係が不足していた。試合中のみに焦点を当てすぎて狭くなっていたし、それはオレの言葉不足だろう」
「だから、どういうことだ?」
「いいか?このチームはそもそも、日本がこの大会で優勝するために作られたチームだ。そして、集められたのはその目的を達成するために必要だと判断されたメンバー。日本を優勝させたい大人たちと、世界を相手に戦いたい勝ちたい、優勝したい選手の利害が一致して生まれている。どちらかが欠けていれば成り立たないんだよ」
もちろん、選手の中にはその思いの強弱はあるだろうし、ここまでの戦いで変化は生まれているだろう。だが、今のチームに優勝したいと思っていないヤツは居ないはず……少なくともオレはそう思いたい。
「そ、それは……」
「お前だってそうだろ?この大会で優勝したいって思っている。世界一になりてぇんだろ?オレだって、他の奴らだってそうだ。監督も日本に居るサポーターも優勝して欲しいと思っている。このチームの存在そのものが、日本を世界一に……世界大会で優勝させるというゴールを達成するためのものだろ?そして、そんなチームのチームメイトの関係を考えたときに、利害って言葉は簡単に結びつけられる」
「……………………」
このチームはサッカーを楽しむためのチームじゃない。世界で頂点を取りに行くための、日本が勝つためのチームだ。利害関係とは切っても切り離せないチームだ。
「いや、やっぱり違うぞ十六夜」
「あ?」
少しの沈黙の後、円堂が言葉を発する。
「お前の言うことは多分正しいんだ。でも、やっぱり違うと思う」
「はぁ?」
「確かにこのチームはそうやって出来たのかもしれない。でもさ、やっぱりお前の言うことは間違っている」
「だから、何処が……」
「だって、俺たちはもう何試合も乗り越えてきただろ!アジア予選も!本戦のリーグ戦も乗り越えてきた!高い壁を一緒に乗り越えてきたんだ!それなのに、利害が一致しているとか目的が一致しているだけなんて冷めた関係であるはずがない!それ以上の関係であるはずなんだ!」
「…………」
「それに、よく考えればお前はチームメイトそのものをそうやって言っていた!このチーム……イナズマジャパンのチームメイトに限っていないんだ!雷門サッカー部も、お前の前のチームも!そうやって、チームメイトとの関係が利害だけのはずがないんだ!」
「…………お前、雷門中サッカー部がどうやって出来たか、忘れてねぇか?」
「え?」
「お前がサッカーをやりたいという思い。そこにオレのサッカーがしたい思いや木野を始めとしたサッカーをやりたいという思いが集まってきた」
「そうだよな……?あれ?何処かおかしかったか……?」
「雷門中サッカー部が大きくなった要因は何だった?帝国学園との練習試合……サッカー部を廃部にしようとした大人たちが居て、それでも続けたいと思っていたからだろうが。あのとき、お前にはサッカー部を廃部にさせたくない思いがあった。サッカー部を廃部にさせないためにお前は奔走した。その姿にオレたち既存の部員が賛同し、助っ人の奴らがそのために協力をした。サッカー部を続ける……廃部にさせないというゴールのために、雷門中サッカー部の面子は集っていた」
「……で、でも……」
「それが結果的にその後のフットボールフロンティアに繋がっただけ。そこで新たに加わった仲間たちも、各々の掲げるもののために加わった。利害が一致したから加わった。だがら、雷門中サッカー部にも確かに利害関係はあった。つぅか、その後なんてもっとだろ?オレは殆ど居なかったが、エイリア学園と戦うための日本巡り……あれもエイリア学園を倒すという目的達成のために出来たチーム。その目的を各々の事情で目指せなくなったヤツが去り、賛同したヤツが乗る。ゴールは一緒なのに、各々の持っている思いは違った……そうだろ?テメェのチームも……オレが昔居たチームも、利害関係は存在している」
そして、試合中は至ってシンプル。勝つというたった1つの目的を達成するために動く。極論、その目的さえ一致していれば、感情も思いもどうでもいい。だが……
「はっきり言ってやるよ。今のお前とは試合で勝つ……その最低限の、そして一番重要な目的すら一致している気がしねぇ。それが前の試合で嫌というほど思い知った」
「……っ」
「確かにこれが日本であるような練習試合程度の試合なら、正直オレが行き過ぎているって言われても否定はしねぇし、テメェらがどういう思いでやろうが勝手だ。お前らが負けても喜んでいようが、オレに干渉しなければ、ああこいつらはこういう奴らなんだ……その程度で済ませるし、ぶっちゃけそんな興味もねぇからどうでもいい。…………だがな、楽しみたい?全力でやり切った?熱い試合だった?寝言は寝て言えここは世界大会だろうが。お遊びのサッカーじゃねぇんだ。結果が全ての世界なんだよ。結果を出しているヤツが認められて、結果を出していねぇヤツは全てが戯れ言と一蹴される世界、勝ったら賞賛、負けたら非難が当たり前の世界なんだよ。そして、そんな世界一を決める大会で頂上を目指している奴らが、負けても全力出したからオッケー?楽しかったし全力でやったから負けても最高?……そんなこと言うヤツが世界一を目指すなんて片腹痛いんだよ。ふざけんなよクソが。マジでいらつくんだよ。甘いこと言ってここで戦ってるんじゃねぇよ。テメェは裏に何人居るか知ってんのか?この場で戦えない、世界一を目指す資格さえ貰えなかったヤツらが何人居るのか、これまでに負けて既に世界一という夢を叶えられなくなったヤツらがどれだけ居るのか知った上で舐めた発言をしてんのか?」
「…………」
「……ああだこうだ言ったが、お前の思うチームメイトにオレがなれねぇのと同じなんだよ。円堂守。テメェはオレの思うチームメイトになれていねぇんだよ」
「……………………」
目的が達成されていない……それなのに過程を誇り、次があると前を向く。ただでさえ、そんなゲロ甘い考えに賛同は出来ないが、それを日本代表になって世界大会でもやるような連中だ。こんな沈み行く船には付き合いきれない。こんなどうしようもないヤツらを仲間だと認められない。………………認められないが、ここで昔みたいに切り捨てては意味が無い。この結論を出してしまうのはまだ早い。
「……それでもやっぱり違う」
沈黙の末、円堂が言葉を発する。
「ああ?何処がだよ」
「確かにお前の言うことは正しい。前の試合は負けても、決勝トーナメントに進出できるって分かっていた試合だった。そうだとしても、俺たちは試合に負けたことを……日本代表が負けたという現実をそんな風に考えることが出来ていなかった……甘いって言われても否定出来ない」
「で?何処が違うんだ?」
「お前は世界大会だから、日本代表のチームメイトだからそれを言っているわけじゃないんだろ?お前が思うチームメイトは試合に勝つことが一緒で、試合に勝つが何よりも一番大事で、それさえ一緒だったら後は何でも良い。だけど、違うものを一番に思っているやつはチームメイトだって思えない……そういうことだろ?」
「そうだな。少なくとも負けて満足出来るヤツをチームメイトなんて思わねぇよ」
「じゃあ、やっぱり違う!全国大会を戦っているとき、確かに全国大会で優勝したい!頂点を取りたいって思いは一緒だった!最後の目的が一緒だったのは認める!だけどそれだけじゃなかったはずだ!そんな最後のゴールが一緒なだけの関係ではなかったはずだ!」
「…………」
「エイリア学園のときもそうだ!確かに、あのときのチームはエイリア学園を倒すためのチームだったかもしれない。でも!利害関係なんて冷めた関係じゃなかった!負けても皆で励まし合いながら、次の試合を勝ちに行く!皆で意見を出し合って強くなるために協力する……もっと熱いものがここにあったんだ!」
そう言って胸を指さす円堂。
「そもそもおかしいんだよ!そのときのお前は!昔のお前はチームメイトのことをそんな冷めた感じで見ていなかった!利害関係なんてそんなの考えていなかった!勝つことが一番なんて考えていなかった!勝つことが一番に思っていない仲間のことを否定なんてしなかった!そもそもだ!お前が今まで見せた表情には、俺の思う『楽しさ』が確かにあった!チームメイトと手を取り合って、協力して強大な相手に立ち向かっていた!皆で1つのゴールを目指して一緒に歩いていた!お前にも、俺たちと同じ雷門魂が確かにあったんだよ!!」
「…………」
そうだろうな。だって、その時の自分はお前の言う仲間……ある意味での模範解答を心から信じていたんだから。
「……なぁ、十六夜。俺さ……正直、分かんないんだよ……エイリア学園が来た頃からお前が何を考えているのか分からない。ずっとずっと分からないんだ……あのときはお前の好きなサッカーを見て、一緒にサッカーをやって、俺たちと変わらないって思って、それでまた信じて……そしたら、すぐに留学に行っちゃってさ。そこから帰ってきたお前は凄い変わった。もちろん、すっげぇサッカーが上手くなったのは分かる。だけど、性格も雰囲気もどこか変わって……何より、日本代表になって、お前からサッカーが楽しいって思いを感じられなくなって……お前の好きなサッカーが分からなくて……でも、きっと、これは良い変化なんだって。お前はお前の道を見つけてきたんだって。それを俺が理解しきれていないんだって。……それで、いつか俺たちと一緒に、またサッカーを楽しめるって、そう思っていた」
「…………」
「だけどそうならないんだよな……じゃあ何で!……何でそこまで、心まで変わったんだよ……何があったんだよ、お前には……」
円堂の吐露……何処か痛々しさを感じるそれを聞き思わず……
「…………戻っているんだよ」
「へ……?」
「オレはさ……記憶が無かったんだ」
「…………」
思わず、そう言ってしまった。何か言葉を考える前に打ち明けることがないと思われた秘密を口にしてしまった。それを聞き、俯く円堂。沈黙という名の静寂がこの場を支配する。
数秒か或いは数分か。俯き固まった円堂は顔を上げると……
「ええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!???」
その驚きを口に出していた。声の出力がバグっているだろ、時間も時間だしもう少し落とせよ……そう思ったが仕方ないか。いきなり、そんなことを言われたら誰でも驚きはする。あなたが前と比べて大きく変わりましたが何がありましたかという質問に、実は記憶喪失でしたって返しは余りにも斜め上から過ぎる。誰が予想できるんだそんなこと。
「ちょっ、おま……!?え?えっ!?で、でも……!」
流石に冗談ですとは流せないだろう。事実ではあるし、説明になっているかって言われたらアレだが……ここまで来たら話せるところまで全部打ち明けるしかない。
「正確には記憶が欠けているんだ。……その欠けた記憶も日本代表になってから少しずつ戻っている」
「いやいやいや!?えっ!?ええっ!?そんな大事なこと、何で黙っていたんだよ!」
「いやまぁ……」
その欠けた記憶が前世のものだし……そもそも、昔は欠けていたことさえ気付かなかったし……
「だから……まぁ、なんて言うか。フットボールフロンティアやエイリア学園の時は、今よりもっと欠けていて……忘れていたんだよ。本来の十六夜綾人って選手の考えを……だから、お前の考えに、雷門ってチームの色に染まっていたんだよ」
「えっと……ちょっ、ちょっと落ち着くわ」
「そうしてくれ」
と、腕を組み色々と考えること何分か。その後に、彼はこう言った。
「つまり……どういうこと?」
「だと思ったよバカ野郎」
何も理解できねぇことぐらい分かってたよ。話しても無意味なことくらい分かってたよ。でも、何かつい言ってしまったんだよ。冗談……みたいに流すことも出来なかったんだよ。
「なるほどな……それなら理解できる」
「そうだな」
「鬼道……豪炎寺……お前らどっから湧いてきた?」
「お前が珍しく円堂を連れて行ったからな」
「何かあるだろうってな。安心しろ、皆居るぞ」
見るとイナズマジャパンのメンバーが彼らの背後から出て来た……いや、監督まで出てくるのかよ。何処が安心しろだ。何処も安心できねぇよ。
「……いつから聞いていた?」
「『まずはごめん』って辺りには全員居たぞ」
「大事なところ全部じゃねぇか。それ、最初も最初だぞ?」
おかしいだろ?いや、おかしくねぇのか?オレと円堂がこっそり(?)話そうとしている時点で気になっても……いや、やっぱりおかしいだろ?何でチームメイト同士の会話に全員集まるんだよ。プライバシーの欠片もねぇのかよ。
「確かに、元が記憶喪失で、今が記憶を取り戻しているってなら話は分かる。昔のお前は、必殺技のことをまるで知らないみたいな素振りがあったしな」
「…………」
それは前世の記憶どうのが関係ないと思うが、黙っておこう。
「それに異様に自分のことを話さない……サッカーを始めた理由を答えるときも何処か濁していたからな。記憶が欠けていて、それを誤魔化していたのなら頷ける」
「…………」
それも前世のことしか話せなくて、今世との繋がりを色々考えないといけなかったし、何よりボロが出たり、矛盾が起きたりするかもだったからなのだが、黙っておこう。
「一気にプレーの質……と言うより、考え方が変わったのにそういう背景があるなら納得はできる。記憶喪失……なるほど、それなら今までの違和感にも説明がつきそうだ」
「そうだな。ある意味で闇堕ちしたと思ったが、元が闇堕ち気味だったなら分かる話だ。記憶が無くて光に染まっていただけってことだな」
「…………」
え?納得されたんだけど?自分でも言っていて、納得できるか怪しいと思っていたんだけど?もしかして、冬花って前例があるせいですかね?もしかしなくともそうかな?と言うか、さらっと元々闇堕ちしているって言われた?え?闇堕ちしてたのオレって?ちょっと酷くないですか?
「つまり、今のお前が本当の十六夜綾人ってところか?」
「……まぁ、そんなところだろうな」
正確にはまだ欠けている……が、これ以上大きく変わることはないだろう。あの人の
「ああもう!だったらやめる!」
「え?何を?」
「昔のお前と比較して、変わったとかよく分かんないとかどうしてって思うことをやめる!俺は今の十六夜とサッカーをしているんだ!お前が前と変わったとか昔に戻ったとか正直よく分からない!だから、もう疑問に思わないことにする!俺はここに居る十六夜とサッカーをしているんだ!」
「……それって結局、何も理解してねぇだろ」
「ああそうだ!さっきまでの話を聞いてもお前の考えはよく分からなかった!でも、分かったこともある!」
「何だ?」
「正直、俺たちは分かり合えないところがあると思う!」
「そこは大いに同意する」
「俺はお前の言っていることがほとんど分からない。この先、何度聞いても全部は分からないかもしれない。でも、俺は!十六夜の思うサッカーを否定しないようにする!自分の思うサッカーを押し付けないようにする!」
「それで?どうするんだ?」
「俺はお前のことを仲間だと思っている!考え方が全然違っても、記憶がごちゃごちゃでも仲間だ!チームが違ったり、遠くに行ったりしても、大切な仲間なんだ!だから、今のお前を理解するために頑張りたい!今のお前とちゃんと仲間になりたい!」
「……まだ変わるかもしれねぇぞ?記憶が完全には戻っていないから……」
「そんなの知らない!変わるんだったらまた理解できるように頑張ればいい!こうやってぶつかってぶつかって、少しずつ分かりたい!何度ダメでもお前と向き合うことをやめない!……だってさ、それが仲間だろ?」
「…………ははっ」
思わず笑ってしまった。多分、笑うべきところではないのだろうが、それでも笑いが出て来てしまった。
「……お前って、マジで光みたいな男だよ」
人は他人を変えることは出来ない……いつでも、変わろうとする自分があるだけ。でも、コイツは多分例外だ……人を変えてしまうことが出来る人間で……それでいて、変化した後を受け入れてくれる人間だ。
「ああ……分かったよ。もう一度だけテメェらに賭けてやる」
「へ?」
クソみてぇに眩しい……そして、その眩しい光に影響されて、光っているアイツらが眩しい。ああ……だけど、眩しくて鬱陶しいくらいの光だけど……
「はっきり言うけど、オレもお前の考えは理解できねぇ。いや、頭で言っている意味は分かっても心が受け入れねぇ。そして、ここにはそれに影響された奴らしかいねぇ……お前らとは合わねぇよ。負けても温いことしか言わねぇような、ゲロ甘でお花畑みたいな思考を持っているお前らとは価値観も考えも何もかも合わねぇ」
「十六夜……」
「…………でも、お前らのことはお前の言うチームメイトって思う努力はする。分かり合う努力ってやつをしてみる。何度でもぶつけてぶつかって、それで合わないからって逃げて終わらせない。それで諦めない……そんな風に頑張ってみる」
こいつらの光はそこまで嫌じゃない気がする。煩わしい光と言うよりは、太陽のような温かさを感じさせるようなもの……なるほど。心が向き合うことを選ばなかったから、こいつの光を必要以上に鬱陶しく感じたんだろう。
「おう!あ、でも、俺はやっぱり、お前の言うチームメイトって思うことはちょっと難しいかも……」
「いいよ別に。つぅか、お前にオレの考え方は合わねぇよ。お前がチームメイトのこと利害がどうのとか言い出したら、救急車呼んで病院に連れて行くわ」
「そ、そうか?」
「ただ勘違いすんなよ。お前と向き合う努力を、その考えをちゃんと理解する努力はする。だが、受け入れることまでするつもりは更々ねぇ。このチームがお前の色で染まっていようとも、オレまで染まるつもりねぇぞ」
「おう!俺だってお前を理解するため何度もぶつかってやる!お前が正しいかは分かんない!分かんないけど、お前が自分を貫くなら俺は否定しない!だけど、もし本当に間違えて道を外したと思ったら、その時は全力でぶつかって止めてやる!だって、それがチームメイトだからな!」
「そっか。じゃあ、オレもお前をなるべく否定しないようにする。身勝手に切り捨てて終わりにしないようにする。だが、こっちもお前らが本当に間違っているって思ったら、遠慮なく、全身全霊を持って叩き潰す。覚悟しておけよ?道を外してると思ったら強引に連れ戻す……それが仲間、なんだろ?」
「おう!お前とは真正面からぶつかってぶつかって、何度でもぶつかってやる!遠慮しないからな!」
「絶対しつけぇだろテメェは。……言っておくが、次ライン越え発言したら、容赦なく叩き潰す。二度はねぇし、忠告はしたからな」
「その時はこうやって、またぶつかり合うんだ!第一、お前も俺の中の言っちゃいけないことを言ったら、ガツンと言ってぶつかってやるからな!」
「じゃあ、お互い様ということで」
「おう!何度だって喧嘩して、何度だって仲直りするってことだろ!」
「……やっぱり、お前とは合わねぇ」
ただ、合わないって分かってるから避けてばかりはダメだな。合わないと分かっていても、対話しないと何も始まらない。完全に分かり合えないとしても、考え方が対極だとしても、それでも今は同じチームなんだから……ともに戦う仲間なんだから。大介さんはもしかしたらこうなるって見越してアドバイスをくれたのかな。
「何かようやく本当の仲間になれそうな感じがするな!十六夜!」
「そんなこと興味ねぇよ。つぅか、疲れたしそろそろ寝てぇから戻る。おやすみ」
「えぇっ!?こうほら、周りもせっかく盛り上がってきたからさ……」
「知らねぇよ。つぅか、周りは勝手に来て勝手に盛り上がっているだけだろ」
何か知らんが宿舎前に居るメンバーたちからは改めて歓迎する空気を感じる。なるほど、彼らも円堂に焚きつけられたのか、オレと真正面から向き合うことにしたって感じだろう。……どうしようか。改めて円堂の影響力がこのチームは凄いな……つぅか、すげぇ面倒くさくなり始めたんだけど……はぁ。逃げないって決めた以上、向き合いはするつもりだが……
「そうだ!3本勝負をしよう!」
「はぁ?」
「必殺技でのPK対決3本勝負!全部止めたら俺の勝ち!止められなかったらお前の勝ちだ!」
「いや、何でそうなる?」
「ここで俺の進化した必殺技がお前に通用するか試したい!」
「えぇ……面倒くさ。明日にしてくれよ……もう疲れたよ……」
「こんなに周りも盛り上がっているし、良い機会だからやろうぜ!」
「遠慮ねぇな、おい」
「遠慮しないって決めたからな!」
「ほんとめんどくせぇ……眠い帰りたい」
「お前も遠慮しなくなったな!」
「もう、お前にそういう遠慮はどうでもいいって思い始めたからな……はぁ。いいよ、これ以上の問答が面倒だし受けてやる」
「よし!」
「ただし、勝利条件変更だ。1本でも止めたらお前の勝ちでいい。ハンデなんざいらねぇ」
と、円堂からボールが投げられる。
「オレが勝ったら、宿舎戻ってさっさと寝るからな」
「じゃあ、勝つまで毎日挑み続けてやる」
「面倒くせぇことすんじゃねぇ。この1回で終わりだっての」
「じゃあ、明日は5本勝負な!」
「勝手に増やすんじゃねぇ!ちゃんと負けたならその敗北を刻んで……」
「よし、来い!」
「……ッチ。先に言っておくが、この技しか撃たねぇ。オーバーサイクロンP!」
「真イジゲン・ザ・ハンド!」
渾身の必殺技が進化した円堂の必殺技と激突する。しかし、貫通力に優れた必殺技であるので……
「これで1本」
いくら進化しようと相性の差を覆すには至らず、ボールがゴールの中へと入った。
「そんな……進化したイジゲン・ザ・ハンドをあんなにあっさり……!」
「やっぱり、相性の差は覆せない……か」
「ああ。威力が高いのは当然だが、何より貫通力に優れている以上、いくら進化しても止められない……」
「それに十六夜自身のキック力も少しずつ上がっている。技そのものが進化していなくとも、シュートの威力が上がっているんだ」
ゴールに入ったボールを円堂は回収し、オレへと返す。ギャラリーとしてイナズマジャパン関係者の全員がこの戦いを観ていた。と言うか、さっきまでの小っ恥ずかしい話全部聞かれていたんだよな……まぁ、いいか。聞かれていたってことは遠慮しなくていいってことだろうし。そういう意味では聞かれて良かったのか?そういうことにしておこう。
「やっぱりすげぇな!」
「そりゃどうも……準備はいいか?さっさと終わらすぞ」
だが、ギャラリーが盛り上がっていようと、こちらが何かするつもりはない。円堂との対決にギャラリーがどうのこうのは関係ない。
「オーバーサイクロンP!」
「いかりのてっついV3!」
今度は進化させたいかりのてっついでボールを叩きつけることにしたよう……だが、
「うわぁ!」
その勢いを止めることは出来ず、吹き飛ばされてしまったようだ。
「で、2本目だ」
「へへっ、嬉しそうじゃねぇな!」
「決着ついてねぇからな。ほら、準備しろよ」
そう言って立ち上がる円堂。
「進化したはずなのに……技の相性もそんなにないのに……!」
「技の相性は関係なく、気持ちの面は円堂の方が上だろう。だから、残るのは純粋な実力差……必殺技の差が大きいだろうな」
「十六夜のあの技は世界レベルのもの。未だイナズマジャパンでの単独シュートではトップの威力を誇る。だが、対する円堂の技のレベルはアレを止めるのに足りていない」
「新必殺技か、既存の技のレベルアップか……少なくとも世界トップレベルのキーパーが単独で止めた以上、無敵ではないからな」
ギャラリーが各々感想を共有している。確かに円堂のキーパーとしての能力はブラージに大差で負けているわけではない。だが、単独で止めたブラージと止められていない円堂に差があるとすれば、強力な必殺技の存在だろうな。少なくともブラージのあの技は、あの試合でブラージのコンディションが良かったから……なんてものじゃない。10回撃っても全部止められるだろう。
「十六夜?」
「ああ、悪い。ちょっと考え事していた」
だから必要なのはもう一段階上の必殺シュート。ブラージ相手はフローに入った状態で確かに決めた。だが、あれはあくまでオレのステージに持ち込んで決めたに過ぎない。この世界の基準ではオレはアイツに勝てなかったのは事実。アイツの……この世界のキーパーたちの土俵で、彼らを真正面から叩き潰すにはもっと強力な武器を身につけなければならない……か。
フィディオがあの試合で進化したように、オレも今のレベルで満足している場合じゃない。足踏みしていたら置いて行かれるだろう。それはフィディオだけじゃなく、こいつらの誰かにも。いやまぁ、それでもいいんだろう。オレを置いて行くくらいのヤツじゃなきゃ張り合いがなくてつまらない。
「行くぞ、3本目。オーバーサイクロンP!」
そして、3本目を放つ。すると円堂は……
「えぇ!?ここでマジン・ザ・ハンドですか!?」
「しかもエイリア学園との戦いで身に付けた早く放てる方じゃない……ギリギリまで力を溜めるつもりか」
「なるほど……イジゲン・ザ・ハンドの逸らす、いかりのてっついの叩きつけるがダメだから、真正面から受け止めることを選んだわけか」
「で、でも……!それなら正義の鉄拳でも……!」
「相手があの技を参考に止めたからだろうな。きっと円堂もあのシュートを真正面から向き合って、受け止める方を選んだんだ」
「真正面から向き合って受け止める……アイツらしい選択だな」
なるほど。確かにブラージが止めたときの技もマジン・ザ・ハンドの派生形……真正面からぶつかり受け止めるもの。実績はあるわけか。それに最近のコイツのキーパー技は、パンチ、鉄槌、よく分からん半球……真正面から受け止めるものがなかったか。
「うぉおおおおおお!真マジン・ザ・ハンド!」
そして、円堂の魔神がオレのシュートを受け止めるべく真正面からぶつかる……が、
「ぐぅうううう……!」
吹き飛ばされそうになり、今にも消えそうな魔神。そして、そのままズルズル押されてしまう円堂。両手を突き出し、踏ん張ろうとするも地面に跡を残して下がっていく。
「……決まったな」
既に円堂の足はゴールラインにかかっている。オレは勝利を確信し、さっさと戻るべく宿舎の方へ歩き出す。
「独りにしてしまったんだな……」
「……円堂?」
「お前は強い……俺たちよりも遙かに強い。強すぎるお前からすれば、今の俺たちはまだまだ弱い。お前が頼れるほど強くない……ゴメンな。俺たちが強かったらきっと、こんな問題は起きなかったんだ」
足を止め、円堂の目を見ると、その目は死んでいない。言葉は弱気というか本音で話していて静かな感じだが、目には熱い炎が灯っているように見える。
「俺たちは弱い……世界一になるのに、俺たちはまだまだ弱いんだ。それなのに自分たちの弱さと向き合えず、お前1人に全てを押し付けた。強いお前が全てを背負い、弱い俺たちはお前に全てを押しつけていたことに気付けなかった。バカだよな、お前なら俺たちと協力するより1人の方が強い……それなのに、協力しないお前を責めてばかりで自分たちの弱さを正しく見つめることをしなかった。俺がキャプテンとして、お前と真正面から向き合えなかったから、自分たちの弱さと向き合えなかったから今まで分からなかったんだ。……だから、ゴメン!」
「…………別に、お前だけのせいじゃねぇよ。寧ろ謝るのはオレの方だ。オレがお前と……いや、お前らと向き合うことを避けていた。お前らの光とは相容れない……勝手に分かり合えないって決め付けて、勝手にチームから身も心も離れていたんだ。目の前の相手しか見ていなくて、身近に居るはずのお前らのことを見ていなかった……お前らがオレの欲しいレベルにないことを知っていたのに、お前らの弱さを知っていたのにそれを伝えもせず身勝手に切り捨てた。……そこは本当に悪かった」
「だからさ!ここに誓うぞ十六夜!俺は……いや、俺たちは!もうお前を独りにさせない!お前が心の底から頼れるように、お前の隣に立つために……お前を超えるくらいに強くなってやる!もっともっと強くなって、お前が頼れる本当の仲間たちになってやる!」
「……ははっ」
思わず笑ってしまった。ああ、ダメだな。記憶が戻ってきても、どうしてもこの……こいつなら、こいつらならオレの居るところまで追いついてきてくれる。オレを超えてくれる……そんな甘い思考が捨て切れていない。ほんと、すごいヤツだよお前は。分かり合えないはずの存在なのに、昔の自分だったら絶対に拒絶していた存在なのに、何でお前はこうもオレに影響を与えるんだよ……ああほんと、
「じゃあ、魅せてくれよキャプテン。お前の言葉が口先だけじゃねぇってことを」
そんな甘い自分が嫌になる。でも、嫌なのに何処か嫌じゃない。……きっとこれは、記憶を失っていた自分が得ていた大切なものだろうから。だけど、もしも願いが叶わないならそれすら捨てよう。きっと、ここでダメだったら二度とこの願いを魅せてくれる存在は現れないのだから。枷になるくらいならこんな自分は必要ない。
「もちろんだぁ!」
円堂の思いが何かを起こす。消え去りそうだった魔神は一際強く光を放ち……
「…………は?」
円堂の魔神が2体に増えた。しかし、円堂は自身の変化に気付いていないのかボールを見ている。
「うぉおおおおおおおおおお!」
「おい待て待て円堂……見せてみろとは言ったが、何でお前の魔神が増えてるんだ……?そういう意味で言ったんじゃないんだが……?」
その光景に頬を引きつらせる。周りに居るギャラリーも円堂の魔神の変化に驚きの声が上がるも、彼自身は集中しているためか気付かない。そして……
「よし!止めたぞ!」
ボールは円堂の手中に収まった。……しかし、
「ボール……ゴールライン割ってるぞ?」
「え?って、ああああああああっ!」
円堂自身はゴールの中に居る。そして、ボールはゴールラインを割り、止めはしたものの判定はゴール。オレの勝ちなんだが……
「いや……お前、今何した?」
「何した?……そう言えば今、すっごい力を感じた気がする……!よし、十六夜!この感覚を忘れないうちにもう一度だ!」
「は?やらねぇけど?勝ったから寝る。豪炎寺にでも付き合ってもらえ」
「えぇ……でも、そういう約束か……うっ、わ、分かった!」
「思ったより早く引き下がってくれて安心したわ」
「約束は約束だ!ここで守らないのは何か違う気がしたからな!」
「じゃ、また明日」
「おう!また明日な!」
と、そのままイナズマジャパンの他のメンバーが道を開けてくれたので、そのまま戻ってシャワーを浴びに行く。
「よし!豪炎寺!付き合ってくれ!」
「ああ、もちろんだ」
「俺たちもちょっとやっていくか!」
「だな!」
他のメンバーは円堂の下へ駆け寄り自主練習をするようだったが、シャワーを浴びてそのまま寝た。
翌朝、話を聞くにあの後円堂の魔神は増えなかったようだ。というか魔神が増えるって何だよ。意味が分からねぇよ。
円堂は昔の十六夜がサッカーを皆と『楽しんでいた』ことを知っていた。だからこそ、今の十六夜が何故皆と『楽しめない』のか分からなかった。だが、きっと昔みたいに戻れる、大丈夫だ、信じて待とうという思いと、話すタイミングがなかったのもあり、踏み込むことがなかった。そして、踏み込むことがなかったからこそ、彼が二度と円堂の知る昔の十六夜に戻ることがない現実が分からなかった。
十六夜は今の自分や前世の自分が円堂と対極に居ることは分かっていた。だが、彼はそれを知っていたのに向き合うことをしなかった。互いのすれ違いは、彼らが十六夜の中の地雷を踏み抜くまで擦り合わせようとせず、理解ある大人たちが居なければ、その致命的なズレを埋めようとはせず、彼らを切り捨てていた。二度と彼らが一緒に歩くことはなかった。
決して2人は分かり合ったわけでも、片方が片方に染まったわけでもない。ただ、2人の考えが違うことをお互いに分かり、その上で互いを本当の意味で理解するために向き合う。イナズマジャパンという1つのチームになるために歩み寄ろうとする……その小さな第一歩を踏み出した。
賛否両論あるでしょうし、それぞれが思い描くようなベストな形ではないかもしれませんが、ベターな形に落ち着いたかと。
作中時間ではエイリア編の時間経過によりますが半年かそれ以上。我々の時間だと数年……話数にして100話以上、円堂と十六夜の2人はお互いに対して思っていることをぶつけることがほとんどなかった。
オルフェウス戦での敗北による亀裂と、周りの大人たちの支えもあり、ようやく2人が話す回が出来ました。長かった……ここまで長かったな……ちなみに一歩間違えていたら、十六夜離脱ルートやらイナズマジャパン崩壊ルートやら色々とヤバいルートが待っていそうです。……やっぱり、この主人公がイナズマジャパンでダントツの問題児?
以下、ちょっとした雑談です。飛ばしたい方は飛ばしてください。
まず、次回まで1ヶ月近く投稿が空くと思います。今回はすぐに帰ってくる予定ですのでしばしお待ちを(ちょっと来週再来週は投稿している暇がなさそうなので……尚、これで3月以降になったら普通にごめん)。宣言しておくと次回から過去編を挟んで、そして本編で諸々やったらアイツらが来ます。
次に第2話に投稿しているおまけは今月だけでいくつか増えています。もし気になる方はどうぞ。ちなみに、個人的な感想として十六夜くんって実はフル出場した試合少なくね?ベンチとかベンチ外の時間主人公として考えると長くね?って思いました。うちの主人公、オリ主の中で試合に出ていない時間ならトップ取れるかも……(何を目指しているんだ?)
そして、この作品も合計文字数が100万字を超え、話数は純粋な本編(過去編含む)で200話を突破……ほんと、気付けばこんなに大きくなってました。今年はどこまで進められるか……2024年は実質オルフェウス戦だったので、今年中にはアイツらの試合が終わることを祈って。出来ればブラジル戦まで行けたらいいなーと言う願望があります。
ちなみにこの作品、実は高3の夏から投稿し始めて(おい受験生)、気付けば大学院の修士課程修了目前です。……あまりの現実にこの作品、本当に完結するのか不安になりましたが、今後もマイペースに投稿すると思いますのでよろしくお願いします。
では、また次回。一日も早い帰還を祈ります(他人事か)。