天空の使徒のキックオフで試合再開。ボールはセインが持った。
「人間よ。貴様らのことを侮り過ぎていた。少しは認めようじゃないか」
センターライン付近でセインはそう告げる。
「だが、神の祝福を受ける我らが負けるわけには行かないんだ!」
『必殺タクティクス、セイントフラッシュ!』
セイン以外の10人が祈りを捧げる。すると、天空の使徒側のゴールから強く眩い光が溢れる。
「眩しっ……!?」
「目が開けられない……!」
「目潰しか!?」
「そんな卑怯なことはしない。それが目的の必殺タクティクスではないからな」
強烈な光を前面から受けてしまうイナズマジャパン側。腕で目を覆うもの、目を閉じて顔を背けるものなど、誰一人、天空の使徒の選手たちを見ることが出来ない。
「光が……止んだ?」
「ボールは……?」
「動いていない?本当に何もしていないというの?」
ベンチでもあまりの眩しさに誰もボールの行方も、セインたちが何をしたのかも分かっていない。だが、得点板を見ても変化はなく、ボールもセインも他の選手も光が溢れる前から一切動いていない。
「視界は回復したか?人間たちよ」
「わざわざ待って、何がしたかったんだお前は……?」
「今に分かるさ。あの光の中で動かなかったのは我々の慈悲だよ」
そう言ったセインは一歩踏み出す。すると次の瞬間、
「消えた!?」
「セインはどこだ!?」
セインとボールは忽然と姿を消した。
「いや、違う!猛スピードでドリブルしている!」
と、風丸が声を上げる。見ると辛うじて方向転換をするために足を止めた瞬間だけが、残像として見ることが出来ていた。
「これが神の加護……それを一身に受けた私の力だ」
「「「えぇ!?」」」
そして、円堂の背後から声がかけられる。全員が一斉にそちらを見ると、そこにはライン際に立つセインの姿があった。
「これでまずは1点だ」
そのまま踵でボールをゴールの中へと転がす。ボールはコロコロとゴールの中へと入り、ネットに引っ掛かって止まった。
「な、何てスピードだ……あんなの目で追うことすら困難……」
「これが天使の本気のスピードということ……?」
「いやいや、感心している場合ちゃうで!?あんなのやられたらどうしようもないやん!」
あまりにも圧倒的な力を前に、余裕を見せていたリカはここに来て焦りを見せる。
「た、確かにヤバい……!どうすりゃいいんだよあんなの!?」
「どうにも出来ないわ。セインが……そうね。風丸君の疾風ダッシュ以上の速さで動いている。それだけでも厄介ですが、あの必殺タクティクスに関してはそれ以上の情報がない」
「そうだね……後は発動時に強い光が溢れること?……お父さん、これって……」
「情報が足りなさすぎる。セイン以外のメンバーが動いていない以上、あの必殺タクティクスはセイン限定なのかそれとも……」
「全員があのスピードを出せるって!?そうなったらいよいよ終わりだぞ!?」
「エイリア学園の戦いを思い出すわね……もっとも、あのときの比ではないようだけど」
イナズマジャパンのキックオフで試合再開。ボールは染岡が持った……が、
『セイントフラッシュ!』
「「「くっ……!?」」」
再び光が溢れ、思うように動けなくなってしまう。流石にベンチを含めて全員が相手ゴールの方を見れないのでは攻めようがない。
「こういう意図ではないのでね。お前たちの視界が回復するまでしばし待つとしよう」
宣言通り、再び光が止み視界が回復するまで動く素振りをみせない天空の使徒のメンバー。イナズマジャパン側の視界が回復し、前を見て動けるようになったところで、ようやく双方が動き出す。
「……彼らの意地か、それとも制約か。前者ならかなり厄介でしょうけど」
「え?どういうこと?」
「1回目も2回目も彼らはあの光が出ている最中に動かなかった。それは、彼らにプライドがあるから動かなかったのか、それとも本当は動けないのを誤魔化しているのか……どちらなのかって話よ」
「つまり、動けないなら大きな隙がある……けど」
「動けるのなら、あのスピードがなくても厄介ね」
「なっ……!?」
ベンチで必殺タクティクスへの考察をしている中、フィールドでは染岡の足元からボールが消えていた。
「あんなスピードでかっ攫われたらどうしようもなくねぇか!?」
「ディフェンス!守備固めろ!」
「守備固めろって言われても……」
「ど、何処に居るんッスか……?」
もはやドリブルも出来ず、パスも奪われることがほぼ確定の状況。その上で奪われてもほとんど姿が見ることは叶わず、追いつくことなど不可能。
「……っ!」
「円堂くん?」
そんな中、円堂が目を閉じる。その不可解な行動に気付いたのはベンチに居るものだけだった。
(どんなに速くても飛んでいるわけじゃない……目で追えないなら耳で聞き取る……!セインの足音を、ボールを蹴る音を聞くんだ……!)
視覚が無理なら聴覚で場所を捕捉しようとする。円堂の直感から生まれた行動でセインの居場所を見つけ出そうとする。
(……っ!そこ!)
円堂が目を見開き、一歩前に踏み出す。しかし、セインは円堂の手前で一瞬止まり、右サイドに流すとシュートを放った。
「よく私の居場所を見つけた。そこは素直に賞賛しよう。だが、人間よ。お前たちの速さでは私を捕らえることなど出来ない」
「……っ!」
たとえ、居場所が分かったとしても彼に追いつけなければ何も変わらない。圧倒的な速さがイナズマジャパン陣営に牙を剥く。
「さぁ、次だ」
そのまま3度目のイナズマジャパン側によるキックオフ。
『セイントフラッシュ!』
三度光が溢れ、誰一人相手ゴールを向くことが出来ない。
ピ、ピー!
そんな光が止んで少し、前半終了のホイッスルが鳴り響く。
「おや、待っている間に前半が終わったか。まぁ、良いだろう。後半も本気で倒しに行く。神の加護を受けた我々が負けることなどあり得ないからな」
スコアは3-2でイナズマジャパン側が1点リード。しかし、彼らの必殺タクティクスがイナズマジャパンを苦しめることになっているのは火を見るより明らかだった。
ベンチに戻ってきたフィールドの選手たち。そんな彼らを見て、久遠監督は冷静に現状を振り返る。
「お前たちの力は彼らに勝っている。連携は即席のチームと言うことで粗はあるが、1人1人の能力は彼らに劣ってはいない」
天空の使徒のメンバーとここに居る選手たちの実力。どちらが上かと言われると後者だと告げる。
「あのキーパーから点を取ること、相手のシュートを真正面から受け止めること。どちらも今までの戦いに比べればハードルは低い。フィディオやエドガー以外も十分に点を取れるチャンスがあるのはよく分かる」
予選リーグの相手に比べれば、点を取ることも防ぐことも簡単だと言う。それはフィールドの選手も実感していたことで……
「だが、あのセイントフラッシュを突破しない限り、敗北必至だろう」
……同時にあの必殺タクティクスをどうにかしないと勝てないことも分かっていた。
「逆に言えば、あの必殺タクティクスさえなんとかすれば勝機は十分あるということよ」
「そうだね……でも、あんなスピードじゃ誰も止めれないんじゃ?」
「風丸、吹雪。スピードと言えばアンタらだけど、どうにかならないの?」
「無茶言うなって。あんなの人間超えてる。僅かに残像が見えるくらいだ」
「そうだね……追いつくなんて不可能。先回りしても簡単に躱されるだけ」
「それって詰みじゃねぇか!?」
「エドガー!フィディオ!何か対策はねぇのか!?」
「流石に厳しいでしょうね。それに、あの必殺タクティクスはまだまだ分からない点が多い」
「そうだね……例えばあの光が出ている最中は動けないのかとか、セイン以外の他の選手は速くならないのかとか、持続時間がどれだけなのかとか、後は使用回数に制限があるのかとか……そういう分析がまるで出来ていない以上、アレを破ることは難しいと言わざるを得ない」
「確かにセインのスピードが徐々に落ちている……とは思えなかったな」
「だね……恐らく発動中はそんなにスピードは変わらないんじゃないかな」
選手たちによる考察が行われるがこれと言った策が思いつかない。会議も煮詰まってきた状況で……
ドンッ!
突如、建物の一部の壁が爆発したように吹き飛ぶ。
「「「何だ!?」」」
音が鳴り響いたところから降り注ぐ瓦礫の雨。幸い、両陣営のベンチから遠く、サッカーのフィールドには一切影響がなかったが、両チームが一切想定しないことが起きたため驚きが隠せない。
「おい人間!我らの神聖な建造物を破壊するとは……!」
「いやいやいや!?俺たちじゃないって!?」
「……む?お前たちの驚きを見るに演技ではないようだな。ならば一体……」
と、天空の使徒のメンバーもイナズマジャパン側も全員が破壊されたところを見る。すると……
「あぁ、外に出ちゃった」
そこから空を優雅に歩き、降り立つ人影が1つ。その傍らにはペンギンが2匹飛んでいた。
「き、貴様は……!?」
「「「十六夜!?」」」
「よっ、元気そうだな」
軽く手をあげ、何事もなかったかのように応じるその男。男は周りを見渡すと一言告げる。
「じゃ、先帰ってるわ。夕飯までには帰ってこいよ」
「「「何を言っているんだお前は!?」」」
十六夜綾人、無事に円堂たちとの合流に成功するのだった。
主人公、帰還。コイツが大人しく捕まっているわけがなかった。
登場必殺タクティクス紹介
セイントフラッシュ
アニメ未登場の必殺タクティクスである。一応この欄に載せておいた。流石に、ここまで来たら使わざるを得ないだろう。なお、アニメ版のブラックサンダー並みにチートだったりするが……
次回、お茶目な過ち