超次元サッカーへの挑戦   作:黒ハム

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VSダークエンジェル ~悠久の時をただ1人で~

 それは試合開始直後の出来事だった。

 イナズマジャパンのキックオフで試合が始まる。豪炎寺がディランにボールを渡したタイミングでそれは起きた。

 

「必殺タクティクス――」

『ヘルアンドヘブン!』

 

 フィールドに降り注ぐ黒い雷とダークエンジェル側のゴールから差し込む白い光。

 

「セイントフラッシュか……って、は?」

 

 気付けばボールはディランの足下から消えていて、セインとデスタが視界から消えていた。豪炎寺やディランをはじめとした、悪魔側と戦っていたメンバーが自陣ゴールへと振り返るので、オレも振り返ると……

 

「ここだ、愚かな人間たちよ」

「これで1点目だ」

 

 セインとデスタはボールを持ったままゴールの中にいた。スコアを見るとダークエンジェル側に1点が入っている…………はい?

 

「ブラックサンダーか……!」

「え?何だそれ?」

 

 どうやら悪魔側と戦っていた奴らには思い当たる節があるようだ。ということで近くに居るテレスに説明を求める。

 

「悪い、時間が無くて共有していなかったな。ブラックサンダー、魔界軍団Zが使っていた必殺タクティクスだ。簡単に言えば、あの黒い雷が落ちた範囲に居る選手たちの時間を止める代物だ」

「クソチートじゃねぇか。ふざけんのも大概にしろや」

 

 思わず口に出てしまった。いや、こっちの時を止めるだと?無茶苦茶強力じゃねぇか。……つぅか、今の説明を聞く限りヤバいのは……

 

「選手たちの時間って言っていたけど……まさか、それ以外の時間は普通に進むとか言わねぇよな?」

「フィールド外の時間は正常に動いているらしい。砂時計も僅かに下に溜まっているだろ?」

「…………マジかよ」

 

 オレの使うイビルズタイムは全世界の時に干渉する。だから、使っても試合時間は経過しないが……こいつらのは使われた分だけ体感では試合時間が短くなっていく。連発されようものなら試合にならねぇ。ゲームが成り立たなくなる。つまり、サッカーというスポーツそのものを壊しかねない必殺タクティクス……今までの必殺技が可愛く思えるほどのルールブレイカーな代物だ。

 

「……よく圧勝できたな、お前ら」

「ブラックサンダーの効果時間はそんなに長くないらしい。だから、タチムカイが効果が切れる瞬間にボールに飛び込んで止めていたな」

「なるほど……よくやるわ……って、ん?」

 

 あれ?今の話だと……何かおかしいような……

 

「ゴメン!次は反応してみる!」

「まずは1点!取り返しに行くぞ!」

「「「おう!」」」

 

 イナズマジャパンのキックオフで試合再開。ボールは豪炎寺からディランに渡り……

 

『ヘルアンドヘブン!』

「イビルズタイム!」

 

 時を止める必殺タクティクスに、時を止める必殺技をぶつける。これならヘブンズタイムと同じ要領でオレだけは影響を受けずに動けるはず……

 

「よし……」

 

 目論見が上手く行ってひとまず動ける状況になる。周りを確認すると、確かにこっちのフィールドの選手は動けていない。だが、ベンチ側には影響がなく動けているのは見えた。後は向こうの選手たちを……

 

「え……?」

 

 見えない。向こうの選手が誰も見えない。そう思って背後を見ると既にボールはゴールの中にあった。同じステージに立ったはずなのに、気付けば失点をしていた。

 

「2点目だ」

 

 そして、時間は正常に動き出す。他の選手も2点目が入ったことに気付く。

 

「おいおい……冗談キツいだろ……」

 

 今見た光景、そしてそこから導き出してしまった最悪の解答(現実)……そんなことあっていいのか?

 

「アヤト、何か使ったようだが……ん?どうした?」

「こんなの試合にならねぇだろ……」

「そりゃ、時間を止めている中で点を決められる、なんて繰り返されたら試合にはならねぇけどよぉ」

「違う、それだけじゃないんだ」

「ああ?どういうことだ?」

「セイントフラッシュ……天使側が使っていた、分かりやすく言うと視認するのもやっとなくらい高速で動ける必殺タクティクスがあるんだが……」

「……っ!おいおいまさか、時間を止めている中で高速で動いている……なんてシャレにならねぇこと言うんじゃねぇだろうな?」

「ハッ……どうやら、そのシャレにならねえことが起きているみてぇだ」

 

 フィールドに出ている選手たちにも今の状況の恐ろしさが伝わっていく。それはそうだろう。お互いのチームは天使と悪魔を圧勝出来たとは言え、その凶悪な必殺タクティクスに苦しめられたのは否定できないはず。だからこそ、それらが掛け合わされたとなれば…………ん?掛け合わせた?

 

「……いや、それだけじゃ説明つかねぇことが……」

 

 気付けば審判が催促していたので、イナズマジャパン側のキックオフで試合再開。ボールは豪炎寺からディランに渡り……

 

『ヘルアンドヘブン!』

「イビルズタイム!」

 

 再び相手の必殺タクティクスに必殺技をぶつける。

 

「やっぱり……!」

 

 この時点でおかしい。セインだけが見えないなら分かる。しかし、相手選手が誰も見えないのはおかしい。だが、風を切る音を始め、何かが居る音が聞こえる……気配だけは奴らはすぐそばに居るって……いや、まさかな。まさかそんな……

 

「全員がセイントフラッシュの効果を受けているのか……!?」

「「「正解だ」」」

「……っ!?」

 

 瞬間、キーパーを含めた11人の選手に囲まれる。その動きが一切見えなかった。

 

「ハハハッ!この中で動ける人間が居るとはな!」

「フッ、貴様がいくら規格外であっても、この状況はどうにもならないだろうな」

 

 冷や汗が流れる。ヤバい……!これはマジでヤバい……!これは流石にやっちゃダメなラインを超えてやがる……!

 

「凶悪過ぎだろ……!ヘルアンドヘブンは強化されたセイントフラッシュとブラックサンダーが融合された必殺タクティクスってとこか……!」

「正解だ」

 

 セイントフラッシュでは、セインしか恩恵を受けなかった。しかし、強化されたそれは11人全員が恩恵を受けることが出来、それでいて恩恵を受けた時のスピードが格段に上がっている。

 

「貴様は知らないだろうが、ブラックサンダーの効果も強化されている。具体的には止める時間の延長……それに、11人全員がこの中で動けて必殺技まで使えるおまけ付きだな」

「……マジ最悪だな……!」

 

 つまり、ブラックサンダーも今までよりも凶悪に……隙が無いものになっているってわけか。最悪な強化×最悪な強化……どちらかだけでも凶悪な強化をされているのに両方とも強化されているとか……これが魔王の力か。想像以上に最悪過ぎて思わず笑ってしまいそうになる。

 そして、再び11人の選手が消える……

 

「何処に……あぐっ……!?」

 

 シュートかパスか判別できなかったが、何かがぶつかったと思い、それを見るとボールで……

 

「ぐっ……!?」

 

 目の前にあったボールを思い切りぶつけられる。

 

「貴様には先の試合で遊ばれたからな」

「ハッ、先に吹っ掛けてきて、その上牢に鎖付きで閉じ込めたのはテメあがっ!?」

「だから、次は我らの番だ。精々壊れてくれるなよ?」

 

 シュートかパスか分からない。魔王様の復讐ってところだろうか、ボールが四方八方から飛んでくる。いやボールだけじゃねぇ。ドリブルしてきた魔王自身もぶつかってきている。もちろん、本当にドリブルをしているのか堂々とタックルしているのかは知らんが……

 

「十六夜!」

 

 ベンチから声が聞こえてくる。だが、耐えるので精一杯……ダメだ。流石に答える余力なんてない……!

 嵐はどれだけ続いたのだろうか。体感では数時間にも及んだ気がしたが……そんな嵐が止むと、ボールはゴールの中に入っていた。

 

「これで3点目だ」

「「「なっ……!?」」」

 

 そして、フィールドの選手たちが動き出す。彼らからすれば、試合が再開したと思えばボールはゴールの中にあり、オレは傷だらけで仰向けに倒れている。

 

「大丈夫か!?十六夜!」

「ケホッ、ケホッ……あ……ああ……!」

「一体、何が起きている……!」

「ちょっと……遊ばれただけだ……っ!」

 

 鬼道に肩を貸してもらって立ち上がる。全身がいてぇが……早く打開策を見出さねぇと勝ち目どころか勝負にならねぇ……

 

「ヤツらは完全にもて遊んでいる……だが、このままだと……」

「そもそも勝負にならない……か。だが、あの必殺タクティクスはさっき言っていたように、ブラックサンダーとセイントフラッシュの掛け合わせ……」

「いや、どちらも魔王になったことで強化されているらしい」

「何だと!?……それは最悪な状況だな……!」

「……サッカーの試合中で、切実にタイムが欲しいと思ったのは初めてかもな……!」

 

 試合でこうやって止まる時間は何度かあるが、それも1つ1つは決して長くない。だから、大体は試合中……動いている時間にも分析を進め、打開策を練り、共有することをする。

 だが、これは別だ。キックオフで試合再開と同時に失点する。そして、その間はフィールドの選手たちと共有できない。それに相手のスピードから、分析を進めるなんて悠長なことが出来ないだろう。だから、主な思考時間は失点からキックオフで試合再開までの間になる……が、やっぱりその間の時間がたくさんあるわけじゃない。それなのに、こんなクソチート必殺タクティクスを早くなんとかしないと、取り返しのつかないレベルで失点しまう。今なお勝率は目に見えて下がっているが、これ以上は勝ち目がなくなってしまう。

 

「どうすれば……どうすればいい……!」

 

 恐らく対策できるのはオレだけだ。フィールドの選手たちからすれば試合が始まって体感では1分も経っていない。キックオフから失点が一瞬な以上、彼らはまだこうした試合の止まっている時間の方が長いくらいだ。……だから、分析は愚か対抗策を立てるなんて難しいし、そもそも伝聞だけで、見たわけではない。あのヤバさを実感している選手が他に居ない……共有している間に何点取られる?試行錯誤している間に何点取られる?一体、勝負出来る土俵を作るまでに何点取られる?

 

「早く始めたまえ」

 

 豪炎寺がギリギリまでキックオフを遅らせて時間を稼いでくれているが、最悪なことに審判は向こう側と言って良い。いや、向こう側じゃなくてもあからさまな遅延行為だと判断されたらマズいだろう。クソ……!結局対抗策が出せなかった……!ヤバいヤバい早く穴を見つけねぇと……!

 

「十六夜!何でも良い!テメェが死ぬ気で時間稼げ!」

「不動……?」

 

 イナズマジャパンのキックオフで試合再開。ボールは豪炎寺からディランに渡る。

 

『ヘルアンドヘブン!』

「イビルズタイム!」

 

 放たれる必殺タクティクスと同時に必殺技を発動する。時間を稼げって……そんなことしても意味なんてあるわけ……

 

「その必殺タクティクスはフィールドの選手にしか影響しねぇんだ!」

「……っ!」

 

 その言葉が聞こえた瞬間、オレはオレのやるべき事を理解する。

 

「後託す!イビルズタイム!」

 

 イビルズタイムの()()()()をする。何が起きるか分からないが……良かった。

 

「お前らと同じステージに立てたわ」

 

 目の前には11人……正確には止まっているイナズマジャパン側の面々も見えているが、魔王11人全員を捉えられた。

 

「ハハハッ!おいおい、まさか、俺たちと同じステージに立つ人間が居るとはな!」

「怪物め……だが、どうしようもあるまい。こちらは11人全員揃っている」

「そうだな……」

 

 ただ、問題はこの状況だとベンチの時間も止まっているから時間を稼ぐことになっていない。このままブラックサンダーの効果が切れるまで耐え忍ぶ?いや現実的じゃないな……一体、体感時間でどれだけになるか見当もつかない。

 

「……っ!?また……!」

 

 と、相手からボールを奪ったときにそれは起きる。相手選手の動きが一切見えなくなったのだ。

 

「イビルズタイム!」

 

 再び発動すると、通常のスピードで走る彼らの姿が見える。

 

「クソ使い勝手悪っ!?」

 

 今度はボールを奪う瞬間に前線に向かって思い切り蹴ることに。

 

「イビルズタイム!」

 

 そして、キックオフから通算4度目の発動。相手DFがボールを取りに行く中、今の現象を振り返る。この必殺技は自分の意思での解除以外に、ボールに触れると自動的に解除してしまう特性がある。試合中に使う機会がしばらくなかったせいなのと、切羽詰まり過ぎていたせいで失念していたが……

 

「いや……でも……」

 

 オレは一瞬、あることを思い、次のイビルズタイムが切れるタイミングでそれを実行することを決める。

 

「それはそうとして……」

 

 時間を稼ぐという意味でもオレの体力を持たせる意味でも、オレはここから殆ど動かず相手の攻撃を刈り取り、失点を防ぐか……

 

「鬼畜モード過ぎて笑えねぇわ」

 

 だが、やらないと……出来なければ出来ないだけ失点する。流石に点差が開きすぎては逆転が難しくなる。

 

「テメェはボールに触れると速さが戻るらしいな?」

「だったらどうした?」

「なら、先ほどより少しは抵抗してくれよ?我々が遊んでやると言っているんだからな」

 

 これは、この必殺タクティクスを打開する術を考える方にリソースを割けなさそうだ。後は信じて託すしかねぇようだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 十六夜がペラーを召喚してから、消えては現れてを繰り返す。

 

「何でお前がこのタイミングで?」

『綾人が引っかかったことがあったからって。それを代わりに伝えてくれって』

「それは一体何だ?」

『えっと、姉御の知っているイビルズタイムの仕様を共有しろって』

「私の知っている……?」

「イビルズタイムの仕様だ?」

 

 共有しろ……相手は不動だろうな。と言っても、記憶が正しければチームK戦の後にアイツはイビルズタイムを使用したと聞いた。つまり、不動も使っているところを見たことがあるはず……

 

「えっと、あの技は十六夜くん以外の時間の流れをゼロに近付ける技ですよね?」

「それに、体力の消費が激しいって前に教えてくれた……よね?」

「んなことは知っている。……だが、アイツはわざわざこのペンギンを呼んでまで伝えたのには意図があるはず。お前と十六夜しか知らない仕様があるんじゃないのか?」

 

 問題はそこなのだ。あの必殺技の基本仕様は多くのメンバーが知っているはず……何故、私を指定して伝えろと?私が知っていて、他のメンバーが知らない可能性のある仕様なんて……前に話していないことか?その中にあるのか?いやでも……

 

「何でも良い。何かねぇのか?」

「分かっている。だが、今のところ解除のことぐらいしか思い当たらないんだ……」

「解除だと?イビルズタイムの解除方法ってことか?」

「ああ」

「え?そんなの十六夜くんの意思で解除するんじゃないの?」

「そうですよ。動いてって思えば……」

「……っ!いや、それだけじゃねぇはずだ!もしかして、ボールに触れてしまうと解除するんじゃねぇだろうな!」

「ああ、その通りだ」

「…………っ!」

 

 不動が顎に手をやって、いつになく真剣な表情で頭を回す。他の面々はそんな仕様だったんだって感じで、大なり小なり驚いていた。

 

「なるほど。それなら納得いくわね」

「納得ですか?」

「ええ。だって、十六夜くんは何回もイビルズタイムを解除している。本来ならそんなことしなくてもいいのにね」

 

 私たちが十六夜の動きを捉えられる間はイビルズタイムを解除している。実際、何度も十六夜の姿が見えるから何度も解除している。解除している場所も毎回変われば、体勢も酷ければ後ろに吹っ飛びながら……そんなギリギリの状況で、何回も何回もたった独りで攻撃を防いでいることになるわけだが……

 

「た、確かにそうですね……!自分の意思で解除する手段と強制的に解除してしまう手段があるわけですか……!」

「……そうか……!これなら行けるはず……!おいペンギン!アイツを止めろ!」

『分かった!』

 

 不動がペラーにそう伝える。すると、汗を大量に流し、傷だらけの十六夜が姿を現した。

 

「はぁ……はぁ……!」

 

 体力の消費が激しい技を、いくら短い時間とは言え既に何回……いや何十回と使っているだろう。そのせいで息もあがって限界寸前という感じがする。

 

「これで4点目だな」

 

 ゴールにはボールが入っていて、他の10人が動き出す。他の面々はボールがゴールに入っていることより、十六夜の消耗具合に驚きを見せるが……

 

「もう少し……早く気付いて……欲しかったな……!」

「悪かった。だが、確実に封殺出来る手段を1つ思いついた」

 

 フラフラになりながら十六夜がベンチの近くまでやって来て不動と話をする。

 

「ふぅ……オッケー。信じる」

「ああ。これで行けるはずだ」

 

 そう言うと十六夜はよろよろと倒れそうになりながらフィールドへと戻っていく。

 開始5分少々で0-4。試合にすらなっていない現状で既に1人がダウン気味。絶望の中から一筋の光を見つけることが出来るのか……




 チート必殺タクティクス×チート必殺タクティクス×Aによる鬼強化の恩恵……それが今作品どころか、きっと全作品トップクラスに最強最悪な必殺タクティクス、ヘルアンドヘブンです。
 必殺タクティクスの使用回数に制限がないため、下手すると使われている側はあり得ないくらいの大差をつけられる上、体感試合時間1分ないくらいで試合が終わりますね。
 さて、この必殺タクティクスをどう攻略するんでしょうかね?

登場必殺タクティクス紹介
ヘルアンドヘブン
 アニメ未登場の必殺タクティクスである。こちらも一応この欄に載せておいた。前述の通り、ゲーム版とは比較にならないレベルのチート必殺タクティクスである。
 というかコレを使うためにセイントフラッシュを登場させたと言っても過言ではない。

 次回、危急存亡の秋
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