超次元サッカーへの挑戦   作:黒ハム

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VSダークエンジェル ~ドッグラン~

 ダークエンジェルのキックオフで試合再開。

 

「頭使わずさっさと行ってこい、アンダードッグ」

「誰が負け犬じゃゴラァ!」

 

 と、十六夜が何処かキレた様子で全力疾走。もはや、この試合で十六夜が感情を剥き出しにしているのは今更なんだが、脇目も振らずボール保持者に突撃していく。

 

「何だコイツ……!?」

「じゃんけんで負けた恨み……!ここで晴らす……!」

「それは八つ当たりじゃねぇか!?」

 

 相手は若干……いや、かなり引いた様子でバックパスをする……が、

 

「ちょっ!?何だコイツ!?バカなのか!?」

 

 パスされた相手に向かって方向転換。そのままボール保持者へと脇目も振らず全力疾走。

 

「負け犬って言うか……いや、犬みてぇな戦略だな……流石の俺でもやらねぇよ……」

 

 そのあまりの戦略に何処か引いた様子の不動。

 

「え?何しているんだ?十六夜のヤツは」

「単純だ。ボールを追いかけている」

「「「は?」」」

「何も考えず、ボールを追いかけているだけだ」

「…………それって意味あるんですか?」

「想像してみろよ。ボールを持った瞬間、バケモノが自分に標的を変えるんだぜ?」

 

 改めてフィールドを見ると……

 

「どこまで来るんだよ!?」

「何だこの人間は!?」

「ちょっ……!?」

「狩る……奪う……!」

 

 魔王側がパス回しをしているが、困惑を隠せていない。どこにパスが出されようとただただ、ボールを追いかけていく。

 

「こんなの冷静にパスを回していればどうにでもなる。……だが、魔王様は技術が足りねぇし、メンタルもムラがあるからな」

 

 追いかけているのは1人。対して11人でパスを回せばいいし、スペースは十分ある。こんな体力を使うだけの愚策、冷静になれば対処は容易だろう。

 

「しかも、これの厄介なところは……」

 

 ボールを受け取った選手の前にはエドガーが立ち塞がる。

 

「他の選手は置物じゃない。ああやって、ちょっと妨害するだけでも相手には相当なプレッシャーになる」

 

 エドガーが立ち塞がったことでボールを止めて、どうするか考えようとする。だが、それを許さないバケモノが居た。

 

「徐々にパスが乱れ、相手側にプレッシャーがかかっていく。他の選手は前線でシュートを撃たせないようにするだけでいい。そうすれば、あのバケモノが勝手に乱してくれるから。……まぁ、欠点はバケモノの体力をバカほど使うことと、相手にとって脅威ではない選手がやっても効果がねぇことだがな」

 

 その点、十六夜なら申し分ないだろう。アイツの能力を考えると、軽くあしらえる選手は向こう側に存在していない。十六夜に追いつかれたらゲームオーバー。

 

「……つぅか、アイツってホントどんな反応速度しているんだよ。人間じゃねぇだろあれ」

「え?どうしてだ?」

「よく見てみろよ。アイツ、相手がパス出す時には既にパス先へと走り始めているんだよ」

「「「は?」」」

 

 よく見ると、相手選手がパスを出す……ボールに足が当たる瞬間には、十六夜は足を地面につけ、別の方向へと向きを変える。そして、十六夜が反対の足を別方向に向けてつけると、パスが出される。それを受け取るのは、十六夜の向いている延長線上にいる相手選手で……は?何でお前の方が先に動き出しているんだ?

 

「純粋な反応速度かそれとも天性の嗅覚か……」

 

 十六夜は2種類のプレースタイルがある。理性でのプレーと本能でのプレー……今のアイツは恐らく本能のみで動いている。……理性が圧倒的な分析力で未来を読むなら、本能は嗅覚と反応速度で相手より先に動き出す。そして、その2種類を最大限使った状態まであるとか……アイツってほんと、理不尽の塊みたいな選手だな。何でもできる万能型選手……しかも2種類のプレーと連動できる選手が居ればいよいよ止められないことがさっき分かった。たった1人でも十分だが、それを引き出せる選手が居れば脅威度は1人の時の比じゃない。

 

「ご苦労さまだ、アヤト」

「なっ……!?」

 

 テレスが相手選手を封じ、パスカットをする。

 

「カウンターだ」

 

 そして、前線へとボールを送る。既に十六夜とテレス以外の4人は前線へと駆け上がっていた。

 

「バケモノが散々破壊し尽くし、グチャグチャになったフィールド。その状況を冷静に見極め、自分たちが有利な方向に持って行く。そして、それを全員がやっている」

 

 敵陣は乱れている。4人がパスワークで攻めていき、フィディオがダイレクトでシュートを放つ。

 

「フン!」

 

 そこをキーパーが飛び込んでキャッチ。この程度じゃ通用しない、ゴールを破らせないと表情で訴えかけてくる。

 

「カウンターだ!」

 

 キーパーがボールを投げる。

 

「もう一回、よろしく」

「え?」

 

 相手選手がそのボールを受け取る寸前で、十六夜がかっ攫う。そして、前線へと送り返した。

 

「ディラン!」

「とう!」

 

 それを受け取ったマークがディランに渡し、ディランがダイレクトでシュートを放つ。

 

「なんの!」

 

 それをキーパーが飛び込んでキャッチ。

 

「フン!通用するものか!」

 

 そして、キーパーがボールを投げる。

 

「んじゃ、もう一回だな」

「は?」

 

 そのボールを受け取ろうとした相手選手を背中で押さえつけるテレス。そのボールをワントラップすると、マークへと渡す。

 

「エドガー!」

「はい!」

 

 そのボールをダイレクトでエドガーに渡しシュートする。

 

「やらせない!」

 

 キーパー飛び込んでキャッチ。ボールを投げる。

 

「はい」

 

 十六夜、相手選手がトラップしたところをかっ攫いマークへとパス。

 

「はい」

 

 マーク、前線にいるフィディオに渡す。

 

「はい!」

 

 フィディオ、ダイレクトでシュートする。

 

「この!」

 

 キーパー飛び込んでキャッチ。ボールを投げる。

 

「はいよ」

 

 テレス、相手選手より先にボールを確保。マークへとパス。

 

「はい」

 

 マーク、前線にいるディランにパス。

 

「ハイ!」

 

 ディラン、ダイレクトでシュートする。キーパー止める。十六夜奪う。マーク前線にパス。エドガーシュート。キーパー止める。テレス奪う……

 

「いやいや何回やるねん!?」

 

 ベンチで浦部が痺れを切らして叫んだ。

 

「作業ゲーやん!どうなっとるん!?」

「もう3人はずっと最前線に居るし、マークくんも最小限しか動かないし……」

「十六夜とテレスがハーフラインより手前でカットするから、ハーフコートでしか戦っていないな」

 

 十六夜とテレスの読み能力で悉くパスをカットしていく。しかも、近くのディフェンダーに渡しても、最前線の3人がブロックに行って、全ての選択肢がシュートという結果に繋がる。

 

「だいぶ、精神的に追い込んでいるわね……」

「それもあるが、狙いはそれだけじゃねぇな」

「ええ、そうね」

 

 相手側は何とか翻弄しようとするも、最小限の動きで食い止められる。パスを封じようとしても貰い手が最小限の動きで抜け出してパスを出す。どんな選択をしても通用しない……相手からすれば絶望的だろう。

 

「そろそろいっか。お前ら!決めてこい!」

 

 テレスがボールをマークに渡す。ここまではさっき何回も見た流れだ。

 

「じゃあ、俺が決めるよ」

「いいや、ミーだね!」

 

 フィディオとディランが同時に動く。フィディオは左サイドへ走り、ディランは中央に向かって走る。

 

「いい加減飽きたんだよ!」

 

 と、キーパーが吠えながら、怒り心頭の様子でディランとフィディオを交互に見やる。その間、マークはドリブルで左サイドを駆け上がり、フィディオとワンツーで左隅へと走って行く。

 

「なら撃つのは貴様か!」

「オフコース!構えなキーパー!」

 

 そう言って、ディランは中央でトランザムマグナムの体勢を取る。それを見てキーパーは掌をディランの方に向け、必殺技の体勢を取った。

 

「ディラン!」

 

 マークからのクロスが上がる。ボールは空中にいるディランの下へと飛んでいった。

 

「トランザムマグナム!」

「ジ・エンドV3!」

 

 ディランが足を振り抜くと同時に相手キーパーが必殺技を発動する。見てから間に合わない以上、ほとんど同時に発動したのだろう。

 

「……は?」

 

 だからキーパーは目を疑う。何故かボールが目の前にないことに。何故かボールが潰されていないことに。慌ててゴールの中を見るも、ボールはゴールの中に入っていない。

 

「相変わらずの視野の狭さだな」

 

 キーパーがその声の方を向いた瞬間、見えたのは大剣が斜めに振り下ろされる姿。

 

「エクスカリバー改!」

 

 そして、ボールが剣の刃のところではなく、面の部分で打たれたこと。そのまま、打たれたボールはゴールの右上隅を通過する。

 

「私を忘れてもらっては困る」

「ヒュー!ナイスシュートだね!エドガー!」

「ディラン、君こそナイススルーだ」

 

 ディランとエドガーがハイタッチをかわす。

 

「エクスカリバーでスマッシュするとか、アイツも考えたな……」

「ああ。ナイスハエ叩きだ」

「イザヨイ、ハエ叩きは美しくないからやめてくれないか?」

「ハハッ、いいじゃねぇか、ハエ叩きで。剣にしなやかさがあったら完璧だぜ?」

「……君こそ、その前は負け犬らしく走り回っていたくせに」

「負け犬言うんじゃねぇ。じゃんけんで負けて仕方なくやっただけだっての」

「いや、お前がじゃんけんで負けた雑魚だっただけだろ」

「ああん?だったらもう一度勝負してやろうか?」

「ハッ、一発勝負で負けたからって見苦しく足掻くんじゃねぇよ」

「運だけのクセになんか言ってんなぁ?」

「運すらねぇクセになんか言ってやがるなぁ?」

「はいはい、子どもみたいなしょうもない言い合いをしないで下さい。全く……この私を見習って寛大な心を持つべきですね。余りにも幼稚すぎて君たちのチームメイトが哀れですよ」

「パーティー蹴っただけでキレてた紳士様が何か言ってやがる」

「英国の騎士(ナイト)を自称する痛いヤツが何か言ってやがる」

「……よろしい。ならばここで二度とそんな口を開けないようにしてあげましょう」

「落ち着きなってエドガー。そんな安い挑発に乗ってどうするんだい?」

「そうそう!ミーのような広い心があれば些細なことなんて全てノープロブレムさ!」

「あはは……」

 

 十六夜、エドガー、テレスの3人が言い合っていて残りの3人がそれを止めようとしている……が、そんなことは置いておいて今のゴールで6-6の同点。

 

「凄い……追いついちゃった」

「このまま行けば、やっぱり逆転も出来るのでは?」

 

 このゴールでやっぱり行けるんじゃないか?という空気になるが……

 

「いや、厳しいことには変わらねぇ」

「えぇ、そうですね」

 

 やはり、不動や雷門と言った一部の面々は厳しい表情を向ける。もちろん、監督たちも厳しい顔のままだ。

 

「でも、どうしてですか?このペースなら逆転できそうですけど……」

「アイツらをよく見てみろ」

 

 そう言ってフィールドの選手たちを改めてみる。今にも怒りのあまり暴れそうな魔王と、さっきまでとは一転して作戦会議をしているのか真面目に意見をぶつける6人の姿がある。

 

「余裕そうに見せているが、アイツらの体力はほとんど尽きている。ゴールシーン前後然り、時々バカなことを言ったり、アホな戦法も取ったりするのも、疲れているのを悟らせないようにしているだけ。相手にまだまだ余力があるって言うアピールと、俺らに心配させねぇために過ぎねぇよ」

「もちろん、無理矢理テンションを上げて疲れを実感させないようにしている側面もあるでしょうね。疲れを実感してしまえば足が動かなくなってしまうから。足が動かなくなってしまえば、次の一歩を踏み出すことが出来なくなってしまうから。……それに、さっきの十六夜くんがバカみたいに追いかけるのも、フィディオくん、ディランくん、エドガーくんの3人がひたすらシュートするのも、もっと早く得点が出来た」

 

 言われてみれば確かにそうだ。特に後者なんて、最初からやっていればすぐに点を取れただろう。わざわざそんなことをする必要はない。

 

「でも、しなかったのには理由がある。試合のペースを上げさせないことと、息を整える時間を確保すること」

「試合のペースを……あげさせない?」

「ああ。あの6人は魔王に点の取り合い合戦を仕掛け、試合をハイペースにしている……ように見える」

「ように見えるっていうか、実際そうだろ?4点目まではそうしていたんだし……」

「そりゃ、大差で負けていたからな。だが、ここからは試合のペースを上げたくない」

「どうしてですか?もっと点を取り行けば余裕で勝てるのは……?」

「よく見てみろ。魔王たちは一切息が乱れていないし、汗一つかいていない。対してこっちの6人の汗の量は相当だし、涼しい顔をしているが息も乱れているところがある。これ以上、ハイペースな点取り合戦なんてしたら、先にぶっ倒れるのはこっちだ」

「で、でもあの6人は前半を休んでたんじゃ……?」

「そんなの、下がって休んでいる4人と違って、普通に戦いながら無理やり休む時間を確保していたに過ぎねぇ。質としてはないよりはマシ。でもベンチに下がることに比べりゃ圧倒的に悪い。それを知っているから、後半もローテーションを組んで各自が休む時間を確保しているが、それでも各々が限界……いや、既に超えているところもあるだろうな」

「そ、そんな風には見えないですけど……」

「そうですよ!普通に走れているじゃないですか!」

「だから凄いんだよ。注目して観ているはずの俺らにさえ、限界を感じさせないのは」

 

 改めて落ち着いて見れば全員が立っているのもやっとじゃないか?って空気を感じる。それは細かな表情や仕草然り、流れている汗の量然り、随所で感じる。だが、それを悟らせないよう、まだまだ余裕があると思わせるように振る舞っている。そのせいで、不思議とまだ大丈夫だと思えてしまう。行けると信じてしまう。彼らが自分自身を騙し、その騙しは私たちをも

 

「でも、どうして……」

「意地だと思う」

「円堂……?」

「前にエドガーが言っていたんだ。世界で戦うチームは自分の国の数え切れない人々の夢を託されている。それを裏切ることは出来ない。その夢を背負って戦うのが代表の使命だって」

「確かに言っていたッスね」

「だからじゃないかな。エドガーだけじゃない。他の皆もそれぞれが背負ってきたものがある。背負っているもののために、アイツらはたとえ限界を迎えたとしても、それを隠してプレーする。いつも通り……いや、いつも以上に戦う。自分たちが限界だって姿を見せたら、託してくれる人々が心配してしまう、不安にさせてしまう。……今だってそうだ。自分たちが疲れ切ってダメそうな空気を出したら、俺たちが不安になる。そんなことはさせたくない……いや、させない。だからどんなに限界でもアイツらは、何でもないように戦う」

 

 ダークエンジェルのキックオフで試合再開。ボールを持った選手にディランが向かう。

 

「それに凄ぇって思うんだ!こんな状況だけどアイツらのプレーは凄いわくわくさせてくれる!俺も早く戻ってあそこで戦いたい!アイツらとサッカーしたい!って気持ちが溢れてくるんだ!」

「…………ラスト、行けるか?お前たち」

 

 久遠監督が5人に問いかける。特に4人は限界ギリギリまで体力を使い果たしていたせいで、後半はほぼ喋っていなかったが……

 

「行けますよ。監督」

「うん。これだけ休ませてもらったしね」

「ああ。アイツらの前で限界とか言えないよな」

「それに、俺も早く混ざりたくてしょうがない」

「だよなだよな!」

 

 5人が動く準備を整え始める。11人が揃うときはもう間もなくだった……




 次回 自称魔王VS自称人間
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