キーパーが何処からか発せられた緑色のオーラに包まれると目を覚まして立ち上がる。そして、ゴールの方も謎の力で組み立てられて元通りの場所に置かれた。流石にキーパー負傷退場、ゴール破損で試合強制終了という展開はないようだ。こちらとしては正直、それで向こうが敗走する展開でも問題はなかったが……
そんなことを思っている中、ダークエンジェルのボールで試合再開。
「豪炎寺!ヒロト!」
デスタがボールを持ったところに、鬼道の指示で豪炎寺とヒロトがブロックに向かう。もう試合も終わりに近い。出し惜しみなしで行くつもりのようだ。
「クソ……!しつこいのが増えやがって……!」
やっていることはさっきまでと変わらない。だが、5人が復活したお陰で、隙らしい隙は出来ていない。若干2名ほど最終ラインで死にかけているが、それでも人数差がなくなったのは大きいようだ。
「おい、フブキ……お前らはベンチでアイツらのプレーを見ていただろ?」
「そうだね」
そんな中、死にかけの片方であるテレスが吹雪に話しかけていた。
「ディフェンス……相手とのマッチアップでは何を意識して守備をするのか。そして、どういう守備をするのかが大事になってくる」
「何を意識してって言うと、目的みたいなもの?」
「ああ。シュートを撃たせない、ドリブルで抜かせない、特定の相手にパスを出させない、味方が整える時間を稼ぐ……ボールを奪うことだけが大事ってわけじゃねぇ。ボールを奪えなくても、仕事を果たすことは出来る」
「確かにね……ボールを奪うことだけがディフェンスじゃない。たとえ、ボールを奪えなくても、役割は果たせる」
「じゃあ、その役割を果たすのに、どういう守備をするのかを考えないといけないが……そこで大事になるのは自分の強みの理解と相手の強みの理解だ。お前の強みは何だ?」
そう言うとチラッと死にかけのもう片方である十六夜を見る吹雪。
「やっぱり、この足かな」
「ああ。お前の速さは世界基準でも強みになるものだ。じゃあ、今回の相手の強みは?」
前線ではパスを出された相手に対し、引き続き豪炎寺とディランがブロックに向かう。
「パワーとスタミナかな。彼らはこの試合中、体力をほとんど消耗していない。それに、身体能力も高く、真正面からのぶつかり合いは例外たちを除いて彼らに分がある」
「そうだな。だから、今回の相手に対し、フィジカル勝負を挑むのは愚策も愚策。自信家か身の程知らずかアホがやる行いだ。……まぁ、相手の強み、相手のステージで勝負をするのはお勧めしねぇって話だ。目的を果たすためなら自分のステージに持ち込んだ方が達成しやすい」
「なるほどね……ありがとう、テレスくん」
「礼を言われる覚えはねぇよ」
「あはは……DFでトップレベルの人たちは素直じゃないのかな?」
「そこの死にかけと一緒にするんじゃねぇ」
「うるせぇ。お前も変わんねぇだろうが」
……なるほど。テレスの言う強みの理解……確かに自分の武器を理解することは、ディフェンスだけでなく、全てのプレーの大事な基板になるだろう。
「フッ……君なりのアドバイスかい?テレス」
「フン、そんなつもりねぇよ。ここで勝つためにはこいつらにも正しく働いてもらわねぇと困る。働いてもらうために言語化して現状を再確認して共有しただけだ。アドバイスなんて大層なモノをしたつもりはねぇよ」
「素直になればいいものを……まぁ良いでしょう。私も私なりに彼らにエールを贈りましょうか。ミスターキヤマ、少しいいかい?」
そう言ってエドガーはヒロトに声をかける。
「素直じゃない彼の話は聞こえていただろう?君の武器はなんだい?」
「俺の武器は……よく分からないです」
「……そうかい。……確かに君のように周りの誰が見ても分かるような、明確に突出したモノがない選手は、そう答えるかもしれないな」
そのままエドガーはボールを持った選手のブロックに向かう。そして、対峙しながら話をする。
「私は大きく2種類の人間が居ると思う。まずは、強みと弱みが明確になっている人。その人の中で出来る、強い、得意なものと出来ない、弱い、苦手なものの差がある。だから、そういう人間は武器を自覚しやすいし、伸ばす方向も分かりやすい」
「分かりやすく言うのなら、学校の筆記テストで得意教科は満点近く、苦手教科は赤点ギリギリみたいな教科間での差が激しい感じのヤツだな」
不動が補足でイメージを伝える。ベンチの面々に向けての補足だな。不動の言ったテストの点数をその人のパラメータに置き換えればエドガーの話が理解しやすい。つまり、彼の言う1つ目の人とはその人の中でも差があるのは自覚しているし、他の人が見ても分かりやすいような人ってことだろう。
「次に、全てが大体平坦な人……先のタイプと違い、苦手なことも得意なこともそんなにない。あるいは苦手なことや得意なことを本人がそう思っていても、そこに大きな差がないタイプ」
つまり、学校のテストで言うと、教科間で点数に差がないタイプか。もちろん、完全な一致ではなくズレがあるものの、周りから見れば突出している訳ではないから得意とも苦手とも一概には言いにくい。
「私が君たちの他の試合も見ていて思ったのは、君は後者だ。だから、身近なイザヨイという存在を見て、どうしても君の能力が劣っている……そう感じているところがあるんじゃないか?」
「……っ!」
そして、十六夜綾人という男はエドガーの言う後者……しかも、例えるなら全教科90点以上取ってくるような、全てのレベルが高いタイプ。苦手なことでも点数が高いから周りからすると苦手とは思えないタイプだろう。そして、そんな男が身近に居るからこそ、自分の強みがあっても十六夜より出来なければ強みと思えなくなってしまう。
「……だが、君とイザヨイは全くタイプが異なる。それは気付いているかい?」
「タイプ?」
「さっきはあくまで能力値のみを見て分けたもの。ただ、人には数値に表れないものがあるだろう?例を挙げるなら性格や個性と言えるもの……能力値にそういうものを加えると、より細分化することが出来る」
「確かに……」
「例えるならエンドウは団長。王を守り、仲間を鼓舞するリーダー。ゴウエンジは先鋒。相手の王を狩るため、自ら最前線で戦う。キドウは指揮官。状況を見て仲間たちの指揮を取る。フブキは奇襲。相手の部隊を時には相手の王でさえその速さで狩り取る。……さて、君とイザヨイは何だと思う?」
「十六夜くんは何でも屋ですか?どの役割をさせても、全て熟せる万能型……」
「違う。イザヨイは破壊兵器だ」
「オイコラ人じゃねぇのかよ」
思わず十六夜からのツッコミが飛ぶ。エドガーなりの例え方で、他の皆は騎士団とか部隊とかで例えられていたが、何故か一人だけ兵器になっていた。
「キミが人なわけないだろ」
「ふざけんなコラ」
フッ、と鼻で笑うエドガーにああ?と十六夜が反応する。いや、お前は人側ではないという意見に割と賛同できてしまったぞ?主にこの試合の暴れようを見て。……と、エドガーが抜かれ、ヒロトがブロックに向かう。
「アレは敵部隊を単身で破壊出来るが、使い方を誤れば味方部隊すら破壊する劇物。そんな彼に対し、君はバランサーだ」
「バランサー?」
「君には戦況を冷静に見極め理解する力がある。そして、バランスが欠いたときに、君が潤滑油となって、バランスを取ることが出来る。そう私は勝手に評価しているよ。……何でも出来るとしてもイザヨイは扱う者を、敵を、戦場を選ぶ。……だから、君のようなどんな状況でも安定してチームにプラスの影響を与える、強すぎるクセがない存在は、チームとしてかなりありがたいだろうね」
「…………」
「自分の武器が何なのか……今すぐに分からなくてもいい。ここから先、どんな成長を遂げてどんな武器を手にするのかはまたじっくり考えればいいさ。……じゃあ、武器が分からない今は何をすればいいのか?そんなの、今の君に出来ることをすればいい。今の君が考え抜いて、どんなに地味に見えることをやったとしても、私は君を称えるだろう」
確かにヒロトは……いや、このチームの面々の中には多少なりとも劣等感を感じる者もいるだろう。十六夜に勝てるところがない。誰かに勝てるところがない……それは世界レベルになれば、尚更だろう。それでも自分が出来ることをすればいい。焦らず、今の自分が出来ることを考え、ベストを尽くす。そして、それを認めてくれる者の存在が居る……
「エドガー、最初は君のことを嫌なヤツだと思っていたよ」
「私も君たちのことを見くびっていましたからね。仕方ない評価だと受け取っておきます」
「……ありがとう。ちょっとだけ自信が持てたよ」
「ゴチャゴチャうるせぇ!」
そう言って、ヒロトが抜かれてしまう……だが、
「なっ……!」
「ナイスだよ、ヒロトくん!」
「流石だよ!」
吹雪がそのスピードで奪い去っていく。
「えぇ、良い判断です。自分が無理に取りに行くのではなく、仲間が力を発揮し取りやすい位置へ自然に誘導する……相手のことを見て、仲間を理解している。自分がするべき仕事を見つけ、熟している……十分な働きですよ」
「ハッ……アヤトじゃあ、あんな献身さはねぇよな」
「うっせぇ。……でも、ああいう光が当たっていない影から支えてくれる存在のありがたさは痛感している」
「鬼道くん!」
ボールは吹雪から鬼道に渡った。
「うーん、じゃあ、俺もアドバイスを贈る流れかな?」
「貰えるならありがたいな。今のアドバイスはあの2人だけじゃない。他のメンバーにも響いているからな」
「あはは……俺としては、決勝トーナメントで当たる可能性があるから敵に塩を送る行為だけど……よし。キドウ、君はイナズマジャパンの強みは何だと思う?」
「強みか……そう言うフィディオはどう考えている?」
「俺はね、選択肢の多さだと思うんだ」
鬼道とフィディオがワンツーで突破していく。
「君たちには強力なシュートを撃てるフォワード、全体を見て指揮を執れるミットフィルダー、攻撃参加出来るディフェンダーにゴールキーパー……攻撃面においての選択肢の数は他のチームよりも多いだろうね」
「フッ……確かにな。少なくとも、他の世界大会の試合でキーパーが前線でシュートを撃つ姿は見ていないな」
「ディフェンダーの攻撃参加もピカイチだね……だから、それを指揮し導く君は、世界でも優秀な司令塔だろう。もちろん、フドウもね」
「……ふん」
「アッキー照れてるー」
「テメェは試合に集中しろ!アホペンギン!」
ベンチとフィールドのやり取りに苦笑しながらも、話を続けるフィディオ。
「でも、君たちは主張が少ない。組織の一員として、司令塔の指示に従う大人しい選手が多いかな」
「それは……確かにな。一部強烈な例外が居るが」
と、皆が自然と1人の男を見る。その男は自覚があるのか、オレか?って首を傾げていた。
「チームプレーをするなとか、勝手なプレーをしろってわけじゃない。ただ、一個人として思うのは、もっと主張して良い。今の状態でも主張しているつもりかもしれないけど、もっと必要だ。君たちの主張がもしかしたら、司令塔の想定を超え、新たなアイデアを生み、戦術のレベルが上がることに繫がるかもしれないんだから」
自分の想定した動きしかしない駒も、読みやすく動かしやすくて助かるだろう。だが、そんな指示待ち状態では生み出せないものもある。
「確かに一人一人が主張を……それこそ、アヤトレベルばかりだと、司令塔的には大変だと思う。でも、主張しないと何も生まれないのも事実。他人の主張を待つ状態じゃ、生み出せないものがある。……だから、もっと主張して良い。君たちの司令塔ならそれで失敗したとしてもリカバリーしてくれるはずだからさ。ゴールにはマモルも居るしね」
「おう!」
「えぇーオレ、そんなに主張しているかな?」
「俺らと同じくらい騒げるなら十分だろ」
「えぇ。寧ろ自重すべきです」
「主張して失敗したら……そんなことを考えると一歩を踏み出すのは怖いと思う。でもね、失敗なんて日常茶飯事だよ。俺もあの5人も、主張した結果失敗していることなんて何度もある。何度も失敗して時にはその失敗を咎められ……それでも、失敗が怖くて主張できなくなったら、どんどん選択肢が減っちゃう。どんどんサッカーが小さくなっていく。……それは凄くもったいないかな」
「ありがとう、フィディオ」
「どういたしまして。まぁ、君の実力は知っているから何を言えばいいのやらって感じだったよ」
確かに、吹雪とヒロトと違って、鬼道とフィディオはチームK戦でも共闘していたか。それにもしかしたら、十六夜が話に出していたかもしれないし、2人と違って個人に向けたアドバイスって感じではなかったな。
「じゃあ、残るはミーたちがゴウエンジへ贈る番だね!」
「そうだな。俺たちもちょっとばかり話すか」
「テメェら……!試合中に呑気に雑談してるんじゃねぇ!」
ボールを受け取ったマークに対し、我慢の限界を迎えたのか相手が吠えながら突っ込んでいく。
「雑談じゃないさ!エールとアドバイスを送っているだけだよ!」
「そんなの外でやれよ!」
「実戦の中でこそ、響く言葉もあるだろ?」
「嫌なら実力で黙らせてみるんだね!」
その突進をディランとの連携で突破していく。
「さて、ゴウエンジ。キミはストライカーには何が必要だと思う?」
「……さっきのフィディオの話をするなら、主張か?」
「そうだね!主張しないストライカーにはパスなんて来ないね!」
「もちろん、主張だけじゃなく、得点能力やポジショニングなんかも大事だな」
「つまり、パスを出されるだけの理由が欲しいってことか?」
「そういうこと!」
「ディランなんかは、分かりやすいだろ?コイツのシュートは相手キーパーが反応できないレベルの速さを誇る。その上で相手との駆け引きが上手い。正直、トランザムマグナムがなくても、一癖二癖あるような厄介な点取り屋だと思うよ」
「褒めすぎだよ!まぁ、そうでもあるかな!」
「あまり勘違いをして欲しくはないんだが、今の状況だと俺は確実にディランにパスを出すだろう。いや、俺だけじゃない。アイツらも多分ディランに出す」
そう言ってフィディオやエドガーの方を向くマーク。
「俺には決定力が無い……と言うことか?」
「少し違うかな。ストライカーと言っても色んな選手がいる。点の決め方、ゴールに対する考え方……唯一無二の正解なんてない。一人一人違う考え方を持っている……そこに正解も不正解もない。だけど、ストライカーの役割は単純明快。ゴールを決めること……この一点に尽きる。そして、俺が……俺たちがパスを出さないのは単純な話で、君からは引力を感じないんだ。ゴールを俺が決める、俺が一番決められる……ってね」
「ゴウエンジ!それからイナズマジャパンも!ユーたちの中で一番主張が足りないのはフォワード陣だよ!」
「イナズマジャパンは皆で協力して戦う、個々の不足を補い合うような連携重視のチーム。もちろん、皆で1点を取っていくって考えは凄く良いと思うし、否定はしない。……だけど、あくまでフォワードはその最前線に立つべきだ。ゴールを決める……1点を取るときは、君たちストライカーが率先して先頭に立ち選択肢を啓示するべきだ」
「そうだよ!それに、パスは味方に出してもらうんじゃない!味方からチャンスを貰って撃つのがストライカーじゃない!味方から引き出す、自ら引き寄せるのが真のストライカーさ!」
「……っ!」
「そういうことだ。パスを出してもらって、味方からチャンスを貰って満足するストライカーじゃ、この先通用しない。パスを引き出させる引力……これはゴウエンジやストライカーがパスを貰うためだけに必要じゃない。俺たちパサーも、土壇場の状況では、思考より先にその引力に従ってパスを出させられることもある。不思議と、出させられた後はコイツなら心配ないと思うし、外してもコイツで無理ならその前の形が悪かったって思えるしな」
「でもユーたちはラッキーね!引力を身につける上で簡単な目標がある!それはあのアヤトからパスを引き出させることだよ!」
「アイツは自己主張が激しく、自然とパスを出させられたことがあるだろ?……アイツを超えろ。ゴール前ではアイツよりも自分に来るようにパスを引き出せ。アイツからパスを引き出せ。それが君たちストライカーが次の段階に進む鍵だ。……ということで、今回はチャンスをあげるよ」
そう言ってボールは豪炎寺に渡る。
「え?オレって当て馬?」
「いいだろ。テメェは本職がディフェンダーだから、ストライカーの当て馬になるくらい」
「えぇ……でもまぁ、豪炎寺ーそれから他のヤツらも」
軽い雰囲気から一変、何処か挑発するような真剣な雰囲気に変わる。
「テメェらが不甲斐ねぇならオレが決める。このチームのストライカーの座を奪ってやるよ」
「……そうだな、バケモノ」
「見せてみろよ、エースストライカー」
「真爆熱スクリュー!」
豪炎寺のシュートが炸裂する。
「ジ・エンドV3!」
対して相手キーパーの必殺技が発動する。
「ふん!効かないな!」
前半でも止められた必殺技……確かにこのままでは勝てない……だが、
「真爆熱スクリュー!」
「なっ……!」
着地すると同時に前方へとダッシュ。斜め前に跳びながら、再び必殺技を放つ。ゼロ距離から放つ一撃。
「俺にはまだ、お前たちのような世界トップレベルでの個人シュートはない。他国のエースストライカーたちと比べて見劣りしているところは多いだろう」
「貴様……っ!」
「主張もお前たちほど多くはない。お前たちから見たらまだまだ頼りない甘いストライカーだ。……だが、皆が繋いでくれたボールを、紡いでくれたチャンスを無駄にするようなストライカーのつもりはない!」
「ぐああああああああああぁぁっ!」
その思いに答えるように炎が爆発するように噴き出す。そのまま、相手の必殺技を真正面から燃やし尽くす。
「やっぱり、熱いじゃねぇか。エースストライカー」
「フッ、お前が認めるエースストライカーならこれくらいするんだろ?」
「そうだな。泥臭く真正面から突き破る……どんな形であれ1点決める仕事を果たしてくれたな」
「でも、まだ足りない。出してもらったパスを決めて喜ぶだけじゃ世界一のチームのストライカーとは言えない……そうだろう?」
「いいねいいねそのハングリーさ!その熱さを持っているのなら心配はないみたいだね!」
「満足してしまってはそこで成長は止まってしまう。キミが単独でディランや各国のエースストライカーを超える日も来るかもしれないね。期待しているよ、日本のストライカー」
他の選手たちも盛り上がる……ついに勝ち越しの1点を決めたイナズマジャパン。試合時間はもう殆ど残っておらず、ホイッスルがいつ鳴っても不思議ではない。精々、次のワンプレーで終了だろう。
「クソ……!人間が……!調子に乗るなよ!」
「ああ!我らが負けるなど許されない!」
「こっちはテメェらの練習台じゃねぇんだ……!」
「我らの恐ろしさ!今一度味わうといい!」
ダークエンジェルのキックオフで試合再開。ボールはデスタが持った。
「ユーのブロックは……ぐっ!?」
そして、ブロックに行ったディランにシュート性のパスを当て吹き飛ばす。ここに来て前半と同じように相手を潰すプレーを見せ始めた。
「ディラン!?ぐあっ!?」
弾かれたボールをセインがダイレクトでマークに当て、その身体を吹き飛ばす。
「なりふり構ってられねぇってことかよ……!」
豪炎寺に、エドガーに、ヒロトに、鬼道に、フィディオに……次々とシュート性のパスを当て、身体をぶつけて吹き飛ばす。
「くっ……!」
「ガハッ……!」
「吹雪!テレス!」
吹雪とテレスにもシュートを当て、身体をぶつけてて吹き飛ばす。残るのは十六夜と円堂だけ……
「貴様には散々いらつかせてくれたからな……!」
「ここでぶち壊してやる……!」
「特別扱い?超いらねぇんだけど」
「纏めて葬ってくれる!」
「地獄で後悔しな!」
デスタとセインが必殺技の体勢に入った。
「殺意高過ぎだな……なぁ、円堂。オレはこんな奴らに負けたくねぇ」
「十六夜……」
「こんなクソみてぇな奴らに負けたら死んでも死にきれねぇ。……でも、わりぃがこっちは限界も限界。情けねぇ話、もう立つだけでやっとなんだよ」
気持ちでは一切負けていない。相も変わらず烈火のごとく燃えさかっている……だが、身体は悲鳴をあげている。体力はとうの昔に限界を超え身体は見るからにボロボロ……ここまで無理に無理を重ねてきた男が、そんな弱いところを初めて口にする。
「だからさ……手ぇ貸せ円堂。勝つために、この一撃止めるぞ」
それでもなお、十六夜は逃げることなく迎え撃つようにその両足を大地につける。睨みつけるように鋭く相手の方を向いている。
「お前の思い伝わったぞ!俺もここで負けたくない!皆で一緒に帰るために!明日も皆で楽しくサッカーをするために!協力してくれ十六夜!」
「オーケーキャプテン。……やるぞ」
「おう!」
円堂が身体を捻って十六夜たちから背を向け、右手を心臓の付近にやって力を溜める。
『シャドウ・レイV3!』
そして、進化した相手の必殺シュートが放たれ、十六夜のもとへ飛んでいく。
「アイギスペンギンV2!……っ!?」
十六夜がペンギンを呼ぼうとするが何も現れない。
「ッチ!」
舌打ちをしながら十六夜は、生身でシュートを真正面から受け止める。
「骨も残さず砕け散れ!」
「地獄に堕ちろ怪物!」
「十六夜!大丈夫か!?」
「流石にマズいですよ!」
「十六夜さん!」
デスタとセインの声が掛かり、ベンチでも心配する声があがる。だが、円堂は十六夜の方を一切見ることなく、力を溜めることに集中する。
「テメェら……!マジいい加減にしろよな……!」
そんな中、十六夜はシュートを生身で受けて尚粘りを見せる。もう耐える力もないはずなのに、それでもまだその両足は大地から離れていない。
「サッカーってのはなぁ……!ボールを相手にぶつけるものでも、相手にラフプレーを仕掛けて怪我させるものでも、相手を痛ぶって楽しむものでもねぇ……!」
「十六夜……」
「オレは!この戦場で強者と純粋に戦いてぇ!心の底から熱くなれる相手と真正面から戦いてぇ!しのぎを削るようなヒリつく戦いで自分より強いヤツをぶちのめしたい!倒したい強者どもを蹴散らしたい!だから!テメェらみてぇなふざけたクソ野郎どもは邪魔なんだよ!目障りなんだよ!ムカついてイラついてもう我慢ならねぇんだよ!」
十六夜の背中には今までも何度か見た黒い影のようなもの現れる。それはまるで不安定に揺らめく炎のように、十六夜の炎はまだ消えていないと表すように背中から出ていた。それが何なのかは分からない。だが、あの影は何か力を持っているのか、限界の身体でシュートを受けているというのに脅威の粘りを見せている。
「クソが……!何なんだこの人間は……!ただの人間如きが何故ここまで抵抗出来ている!?」
「震えている……だと?何だこの感情は……クソクソクソ!お前は一体何なんだ!?」
その様子を見て魔王側に動揺が走る。何度も何度も彼らをへし折ってきた怪物が、最後の最後まで彼らの前に立ちはだかる。
「諦めろ!諦めて吹き飛べ!」
「貴様ごときじゃ無理だと思い知れ!」
「諦めろ?無理だ?誰がテメェらの命令なんか聞くかよ!」
地面が少しずつ削れて、後ろに下げられているものの諦めようとしない。その影は十六夜の咆哮に答えるように勢いよく溢れ出る。そして、そんな十六夜の後ろでは円堂の右手にオレンジのオーラが集まっていく。
「くっ……!円堂!」
だが、十六夜の驚異的な耐えも限界を迎える。足が地面を離れ、くの字になってボールとともに吹き飛ぶ。気付けば黒い影も霧散していた。
「ありがとう……真マジン・ザ・ハンド!」
円堂の背後に現れる魔神。その魔神はいつもより力を溜めたお陰か今までより力強く見える。しかし、シュートは十六夜と共に来ているため、今のままじゃ止められない。
「スカイウォーク!」
そんな状況下で十六夜は空中で蹴りを入れ、自身の軌道のみを変える。ボールから離れた……が、
「ダメだ!あのままじゃポストに激突する!」
十六夜の吹っ飛ぶ先にはゴールポストが。このままじゃ激突は免れない……!しかも、力を使い果たしているのか、体勢が変えられず軌道も変えられていない。
「十六夜!」
「テメェはゴールを守れ!ゴール最優先だ!」
「……っ!」
円堂も十六夜も、それに気付いている。円堂が差し出そうとする手を拒む十六夜。確かにそうだ……十六夜を守ろうに、その間もシュートは来ている。ここで同点に追いつかれ、延長戦をやろうものなら状況的に確実に負ける。だが、シュートを止めようとすれば十六夜は犠牲になる。試合の勝利か、十六夜の身か。
「ダメだ!それじゃダメなんだ!」
「はぁ!?テメっ、そんなこと言ってる場合じゃ……!」
「俺はお前を守る!シュートも止める!」
「夢見るのも大概にしろバカ!勝利優先に決まって……」
瞬間、円堂の強い思いに応えるように魔神が咆哮をあげ、強い光を放つ。
「嫌だ!俺は両方守るんだぁぁああああああああ!!」
光が止んだそこには魔神が2体に増えて、円堂の後ろに控える。そして、片方の魔神の片手が伸びて十六夜がポストに激突する寸前でキャッチする。そして……
「うぉおおおおおおおおおお!」
2体の魔神がそれぞれの手を重ねるようにシュートを止めようとする。少しの拮抗の後、ボールは円堂の手におさまった。
「……クソワガママキャプテンが……」
「へへっ、やったぜ!十六夜!」
ピ、ピー!
十六夜がゆっくり魔神の手から降ろされる近くに寝かされると、鳴り響く試合終了のホイッスル。8-7……激戦を制したのはイナズマジャパンだった。
「…………ありがとな、円堂」
「おう、気にすんな!」
倒れている十六夜を起こそうと右手を差し伸べる円堂。
「っていってぇ!?」
「ちょっ!?」
手を取って立ち上がろうとすると、円堂が叫んで十六夜を放してしまう。
「テメェ……右腕痛めてたの忘れてただろ……!よくその腕で取れたな……!」
「さ、さっきは夢中で……!うぅっ……」
放されて地面に背中からぶつけ、そのまま倒れ込んだ十六夜。何というか……しまらない終わりだな。
「たく……もう動けねぇよ……寝るわ」
「寝るぅ!?ここで寝るのかよ!?流石にやめとけって!?」
そう言って目を閉じる十六夜。
「ほ、本当に寝てる!?起きろ十六夜!流石にここで寝るのはやめとけって!」
円堂が駆け寄って揺するも反応がない。全てを使い果たした男は静かな寝息を立てていた。
「たく……自由人過ぎだろ、アイツ」
「ですね……まぁ、私たちも動けそうにありませんが」
「でも勝った!ちゃんと勝ったからオールオッケーさ!」
「そうだな。俺たちは守れたんだ」
「そう思うと、俺も眠くなってきたかな」
他の海外勢5人も倒れたまま動けそうになかった。皆ボロボロの中ではあるが、私たちは無事に生還したのだった。
「ふぅ、もう念動力は大丈夫そうだね」
「そうね。ありがとう、ブラザー」
「いいって。ゴール破壊で試合強制終了じゃシャレにならないから。それにしても、凄いギリギリじゃん。勝てて良かった……」
「もう少し身体能力上げておいても良かったわね」
「良くないから。彼らの性格をまともにしなかったのもあって、勝てたんだからさ。流石にやり過ぎだから」
「そうね……連戦じゃなかったら良かったんだけどね」
「んじゃ、取り立てに行こうか。力の代償ってヤツを」
「行きましょう」
この試合は7失点していますが、円堂は実質1失点なんだよなぁ……(最初の4点はチート必殺タクティクスで、終わり2点はそもそもフィールドに居ない)
無事?天使悪魔戦と魔王戦が終わりましたね。いやぁ、何故かは分かりませんが、ちゃんと試合終了による決着が出来ない可能性があったので本当に良かったです。
習得必殺技紹介
風神雷神
アレス円堂の必殺技。実に22話ぶりの登場でシュートを完封してみせた。何気にこの世界線だと十六夜が習得のキーマンになっている(当然、前提のマジン・ザ・ハンドがあっての技なので円堂大介は言うまでもない)。
何気にこの技を登場させるためにイジゲン・ザ・ハンドの進化スピードが上がった裏話があったり。