気付けば何処かのスタジアムに漂っていた。
「ここは……?」
見覚えのないスタジアム……そこには12人の選手がいた。1人は見覚えのある……と言うより自分自身だった。だが、残りは見覚えのない……何やら緑色を基調とした制服のようなものを着ているが……
ただ、友好的ではないことだけは分かる。何処か機嫌の悪そうな自分自身と、残りの11人が向き合っている。そのまま別れると、向こうの制服は一瞬で赤を基調としたユニフォームに変化して、スコアボードにはまるで赤い鬼のようなエンブレムが……
「王牙……?」
その下にはそう書かれていた。聞き覚えがないチーム名だな……と、そんな中、オレは1人でその11人とサッカーの試合を始めていた。
「ああ……」
そして、瞬きをすると視界が切り替わる。何処かのスタジアムではなく、目に見えるのは自分の部屋で……ああ、きっとあの後皆が運んでくれたのだろう。流石にあんなフィールドで寝てしまったし……
「何か前にもあったな……」
前世の記憶を追体験する感覚とはまた違う、夢だというのに夢ではないこの感覚……この前もあったな。……そのときのことを考えると、ただの夢ではないような気がするが……
「とりあえず……よく寝た気がするなぁ……お腹空いたし夜ご飯食べに行こう」
魔王との激戦の後、眠るように意識を手放した。不思議な夢を見ていたが、思いのほか目覚めは良好だった。…………ん?ところで、夜なのに何で外が明るいんだ?きっと、自主練習中に誰かが眩しく光る技でも使ったんだろう。
起き上がりながら思い返すと、夢の内容はともかく、今日は物凄い濃かったと思う。病院に行って、エドガーたちと合流して、天使に捕まって、天使叩きのめして、魔王ぶっ飛ばして……あれ?こうやって思い返すと何しているんだオレは?取り敢えず言えるのは、チームK戦とアルゼンチン戦の連戦があった日も濃かったが今日の濃さと疲労度はそれを上回っていたな。
「今度、改めてお礼に行かねぇとな……」
一緒に戦ってくれた彼らに感謝しに行くことを決めながら部屋を出る。
「おはよう十六夜。よかった、目が覚めたんだな」
「おはよう?ああ、寝起きだからか。おはよ、八神。何だか大袈裟な言われような気がするが……ん?八神だけなのか?」
「何を言っているんだ?時間見てみろ」
よく分からないけど時計を見ろと言われたので見ると……
「9時?……時間の割に寝た気がするな。それに思ったより夜だった……そりゃぁ食堂にはいねぇか」
「???お前、寝ぼけているだろ」
「はい?」
「朝の9時だぞ」
「…………え?……寝坊した?」
「……一応、言っておくと、お前は昨日丸1日起きていないからな?」
「昨日起きていない……?」
寝ぼけているのかイマイチまわりきらない頭。そこに何か不思議なことを言われたので、携帯を取り出して日付を確認する。
「嘘だろおい!?1日以上経ってるんだけど!?何時間寝てんだオレは!?」
それを見た瞬間、一瞬で頭が覚醒した。
「40時間近くってところか?」
「寝過ぎだろ!?え!?起こしてくれなかったのか!?」
「起こしたに決まっているだろ。一昨日の夜も昨日も今朝も一切起きなかっただろうが」
「お、おう……それはゴメン。いやまぁ、それだけ疲労は凄かったんだが……」
「とにかく、朝ご飯の余りを準備するからシャワーでも浴びに行け」
「へーい」
流石に40時間近く寝続けるとか……え?前世でも今世でも経験した記憶ないんだが?え?そんなに疲れていたのか……
「うわぁ……すり傷とか打撲とか全身傷だらけなんだけど……」
思い返すと試合中に相手から執拗な痛めつけにあっていたっけ?道理で染みるし、痛いわけだ。あれ?自覚すると全身痛い気がするぞ?なんだこのボロボロさ。オレ、こんなボロボロなのに戦っていたのか?冷静になって思い返すと何しているんだ?
「ほんと、大寝坊だな……」
「そうだな。前代未聞の寝坊だよ」
「すみませんでした」
「……だが、お前が体力を使い果たしているのは皆知っていたからな」
「ありがとう……じゃあ、いただきます」
ということで朝ご飯を食べ始める……早寝早起きとは行かないが、寝坊することはほとんど無いからな……よく深夜に抜け出しているけど、寝坊していないから見逃されている感じがあると勝手に思っているし……
「……食べ始めたらクソ空腹なことに気付いた」
「だろうな。ちゃんと用意してやるから好きなだけ食べろ」
「ありがとうな」
そして、八神からオレが眠った後の話を聞く。試合終了後、無事洗脳が解けた天使たち。悪魔たちは取り逃がしてしまったものの、円堂によって説得されなんだかんだで天使側とは和解したらしい。
で、その後はオレを始め、何人かが動けなかったのでキャラバンまで運んでもらい、ジャパンエリアに戻る前に各国の代表エリアの宿舎に選手たちを送り届けたらしい。送り届けられた5人も限界であのまま5人とも倒れたそうな。そのまま、キャラバンの中でも爆睡だったらしく、まともな別れの挨拶やお礼を言うことが出来ていなかったそう。
そして、オレと円堂は病院へ運ばれる。付き添いで何人か来たらしいが、とにかくオレは全身の傷と円堂は右腕とそれぞれみてもらったらしく、幸いなことに骨折みたいな長期に渡って影響が出そうな怪我はないらしい。その後は宿舎に運ばれて寝かされたが、夜ご飯のタイミングも朝ご飯のタイミングも声をかけても起きることはなく、あまりにも起きなさすぎて医者に来てもらったが特に異常はなかったようで、今夜までに起きなければ病院で精密検査からの入院コースになる話でまとまっていたそう。何だか壮大な話になりかけたんだなぁ……あぶね。あと少しで目が覚めたら知らない天井コースだった。
「お前にも限界があるんだなって改めて思った」
「人のことを何だと思っていますか?」
「ああいや、体力的な話じゃないんだ。一昨日のラスト、お前ペンギン使えなくなっていただろ?」
「そうだな……って、試合が一昨日なことにびっくりだよ。オレにとっては寝る前に起きた出来事なのに……」
「お前が起きる前に既に1日経っているんだ。諦めろ」
「あい」
「てっきり、試合中に限定すれば無制限に使えるんじゃないかって思っていたんだが、流石に限りがあるって分かった」
「ふむ……」
と、ペラーを呼び出そうとしても、現れる気配がない。有給休暇でも取ったのだろうか?でも、うちに有給休暇なんて制度あったっけ?
『有休なんていらないよ!』
「あ、ペラーじゃん。あれ?もしかして、さっきは無視された?」
『違う違う。えっと、綾人も薄々感じていると思うけど……今の綾人はペンギンが呼び出せなくなっているんだ』
看板で八神にも伝わるように伝えてくれるペラー。相変わらず配慮が出来たペンギンだなぁ。
「あーやっぱり?一度にというか一日にというか……どちらにせよ使い過ぎたせいか呼べる気配がしねぇんだよなぁ」
『そうそう。言うなれば反動だね。限界を超えちゃったから……』
「ヘブンズガーデンからの移動に、ヘルアンドヘブン封じ、そこにテレスとの連携での得点……常人なら無理なレベルの量をポンポン出していたからな」
「あはは……」
やっぱり、常人じゃあり得ないわけか……
「使いすぎると、ペンギンが呼び出せなくなる後遺症みたいなのがあるんだな」
「それは治るのか?」
『あくまで一時的にだからね。今回は見た感じ、後3日くらいしたら治ると思うよ』
「へぇー」
『と言ってもあまり、過去の例がないから正確には分かんないけどね』
「過去の例……それならアルゼンチン戦のときはどうだったんだ?あのときも限界超えていただろ?」
『あのときも使えなくなったと思うけど……多分、自覚していないね』
「確かに……どうだったかな?あんまり覚えていない」
四六時中ペンギンを呼び出しているわけでもないし、そもそもペラーに至っては勝手に出てくるから意識していなかった。でも、ペンギンを呼び出そうとしても呼び出せないなんて久し振りだな。……というか、呼び出せる方がおかしかったんだよな?昔の方が正しいんだよな?
「反動かぁ……ペンギンを呼び出せない反動とかあるんだな。初めて知ったよ」
『うーん……普通の人間はそんな反動で済まないんだけどね……』
「え?違うの?」
『うん。普通だと二度とサッカーが出来なくなる』
「は?」
『身体中に激痛が走って病院送り。下手すればまともに生活することすら困難になって、そのまま何ヶ月、何年とその後遺症は残る。日常生活は愚かサッカー選手に復帰するとかは絶望的だね』
「……マジ?」
『マジマジ。だって綾人さん、本来は3回撃ったら選手生命が終わると言われている皇帝ペンギン1号を何十回と撃ったでしょ?しかも、あんな僅かな間に。そんなことを常人がやったらサッカー選手としてどころか下手すると人間としての生命が終わっちゃうよ』
「激痛に耐えきれずってことか……」
『まぁ、アレだよ。今回の一件でまた綾人は自分の器を破壊して、強引に器をデカくした。今はその器の補強中ってところだね』
「つまり、元々あったのを破壊し、その場で即興で作り上げた。でも、即興で諸々不完全だから、今はそれを完全にしている最中だと」
『そうそう。そして、その間は使えなくなっているわけ。工事中のモノが使えないイメージだね』
「ふむ……つまり、その過程が試合中に起きたから、最後はペンギンが呼び出せなくなったと」
『そういうこと。だから気を付けてね。試合中に自分の器を破壊したら、その後はペンギンを使えなくなるんだよ』
「うへぇ……と言っても、自分の器の破壊なんて無自覚だし、そもそも自分の器の大きさなんて分からねぇんだけどなぁ……」
『今の綾人は前の例えを使うなら2.3~2.5GBくらいかな?この修復でもう少し大きくなるだろうけど……』
「……あれ?前聞いたときは1.5GBって言ってなかったか?」
『あそこから1.5倍以上の成長です』
「それって普通なのか?」
『ううん、異常』
「あぁ、異常なんだ……」
まぁ、そんなにすぐに大きくなるのなら苦労はないよな。しかも、何倍だと凄さが分かりにくいが、単位がギガ……1年経たず器がそんなに大きくなるなら、多分、皇帝ペンギン1号とか禁断の技扱いされないと思う。
「……ん?ちょっと待て。今更だが、ペンギンが使えなくなるのにお前だけは使えるのか?」
『まぁ、オレは綾人が呼び出せなくても勝手に出てこれるからね。綾人の修復中の器を勝手に使う……イメージは昔と一緒かな』
「ああ、まだお前しか呼び出せなかった頃か。なるほど、修復中はオレからは呼び出せないけど、ペラーからは勝手に出て来ることが出来る、と」
『そういうことだと思う』
「思うって……どういうこと?」
『だって、常人じゃ一度壊れた器をこんなに早く直せないからね。その上で、壊してここまで大きくしていくというのは……前例が殆どないんだよ。だから流石に推測の域を出ない部分が多いんだ』
「な、なるほど……」
『オレを呼び出す分にはさっきみたいにラグはあっても問題なく出来るはず。ただ、今のオレも弱体化はされてるかな。いつもが100%なら、今は30%が良いところだと思うよ』
「少なからず影響があるわけか……まぁ、何かあったら呼ぶよ。ただ、器の工事が終わる?までは無理しなくていいよ」
『ほーい』
「なんなら家族団らんの時間に充ててくれ」
『そんな心配されることはな』
『話は聞かせてもらったわ!』
と、ここで登場したのは……
『ね、姉さん!?どうしてここに!?』
『流石は我が弟候補筆頭よ!よく分かっているじゃない!そうと決まればペラー!アタシもメハトに休みを貰いに行くからその後お出かけね!』
「いってらっしゃい」
『綾人さん!?オレ、家族よりご主人様と過ごしたいなぁ~って』
「主人命令だ。行ってこい」
『綾人さーん!』
そのままペラーの首根っこを掴んで消えていくアリア。何というか……
「相変わらず仲の良い姉弟だな」
5人兄弟の下から2人……仲が良さそうで何よりだ。真ん中2人は分からないけど、家族の仲が良いのは一番だからな。
そして、そのまま朝食も終わり一息つくことに。
「今から練習に混ざりに行くか?監督からは一昨日のことを踏まえ、オフにしても構わないと言っていたが……」
「うーん……自由人過ぎて制御できないから、放っておこうって感じか?」
「…………いや、流石に一昨日ぶっ倒れるまで戦っていたからな。そこから脅威の爆睡だし、怪我も完治していないのに起きたら即練習参加しろは鬼だと判断したんだろう」
「妙な間があったな」
「お前ならあり得そうだと思ってな。嫌なら自重しろ」
「……善処させていただく方針で誠心誠意努力を重ねていきたいと心の底から思います」
「まるで改めるつもりがないということが分かったよ」
「何故そうなる?」
「おっ、十六夜!起きたのか!」
と、移動しようと腰をあげると円堂が入り口に姿を現す。
「ん?円堂か……って練習は?」
「あはは……」
そう言うと右腕を見せてくる。包帯ぐるぐる巻きで……あぁ、
「確か一緒に病院に送られたんだっけ」
「5日は安静にしていろ!って言われて暇なんだよ……」
骨折はしていない……とは聞いていたがそれでも2日で完全回復からの既に練習しています!って程、甘いケガでもないか。
「それなら大人しくしてろ。お前、グラウンドに出ると絶対練習したくなるもんな」
「くぅ……久し振りの外出禁止と練習禁止はきつい……!」
「今回は冗談抜きで練習禁止だからな?」
「わ、分かっているよ……」
「……で、冬花が見張り役ってわけか」
「おはよう、十六夜くん。ずっと寝ていたけど、十六夜くんは身体大丈夫そう?」
「寝たら治った。心配してくれてありがと」
「どういたしまして」
「うぅ……!あの必殺技を早く完成させたい……!」
「あのって……ああ、あの魔神が2体に増えたやつか。前にも見たアレな」
「おう!風神雷神……今度こそコツは掴んだんだ!」
「それがあの技の名前ね」
2体の魔神をそれぞれ風神と雷神に例えているのだろう。オレとのPK以来誰かが考えていたヤツを採用したんだろうな。知らんけど。
「ああ!マジン・ザ・ハンドのときより更に力を溜めて、一気にゴォオオオ!って感じで解放したらドンッ!と2体の魔神が……」
「分かんねぇよアホ。言語化するなら擬音語を使わず具体的に言え」
「それは俺じゃ無理だ!」
「自信満々に答えるな」
これは将来、円堂守のノートが残されたとしても大介さんと良い勝負をしそうだ。書いてある内容がと言うより、字の汚さと読めたときの理解のしやすさという意味で。
「うぇ、今度こそお前のオーバーサイクロンPを止められるって思ったのになぁ」
「言っておくが、今はオレもペンギンが満足に呼び出せねぇよ。無茶した代償だな」
「えぇ!大丈夫なのか!?」
「多分、大丈夫。……つぅか、アドバイスしておくなら、あの技なら多分止めることが出来る」
「おぉ!分かるのか!?」
「実際、最初に発動したときも止められたしな。……だが、アレじゃ溜めが長すぎる。今回みたいにシュートブロックで時間稼いでくれるヤツが居ればいいが、1対1の場面だと溜めている間に点を取れる。要検討だな」
あの技はフットボールフロンティアで最初に出来たマジン・ザ・ハンドのモーションをもとにしている。心臓に気やら何やら溜めていたが、それをマジン・ザ・ハンド以上に溜める都合上、発動までに時間がかかり過ぎる。しかも、その間はボールを見ていないと来た。強力な技ではあるかもしれないが、まだまだ弱点が多い技、ある種の未完成な技と言えるのが現状だな。
「そうなんだよ……!その辺も踏まえて練習したいんだよ……!」
うずうずしている円堂……ある意味でオーストラリア戦のときと近い状況。決定的に違うのはあのときと違って本当の意味で練習禁止なことだろう。そして、それを円堂も分かっているはずだから無茶はしない……が、コイツのことだから分からないし見張りがついているのだろう。やれやれ、なんて手のかかるキャプテンだよ……
「しばらく大人しくしていろよ。暇ならオレが勉強見てやろうか?」
「うぐっ……い、いや大丈夫です……」
「ははっ、知ってた」
「十六夜くんは今から練習?」
「どうしようか悩み中。流石にもう少し休んだ方がいいかもと思いつつ、最近休んでばかりだなとも思いつつ……」
「0と100が極端だからだろうが」
そんなことないだろ……そう反論しようとしたとき、
『十六夜綾人!あの怪物は居るか!』
何か事件の予感を感じさせる声が聞こえたのだった。