超次元サッカーへの挑戦   作:黒ハム

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竜とペンギンと風

「お疲れーお前ら」

 

 日が沈み、設置したライトで照らされたヘブンズガーデン。そこには疲れ切って倒れている6人の姿があった。

 

「飯でも食べながら今日の確認でもするぞ」

 

 そう言って八神と共に配膳をしていく。

 

「腕がもう上がらないッス……」

「ああ……だが、まだまだ瓦礫の山が見えるんだよな……」

「お前ら呼びに行くときに見た感じ、2人は後2日は今日と同じ感じだな。頑張って砕いて、運んで、撒いておいてくれ」

「ここまでの力仕事は久々だ……」

「はい……もう腕も足も筋肉痛待ったなしです……」

「2人は明日中に全て運ぶのが目標だな。ペースは悪くない。明日も、無理に一回で運ぼうとはせず、こちらの決めた量までで頼むよ」

「あはは……その点、俺は明日からは変わりそうかな?」

「そうだな。ヒロトにはテントなり諸々の設営を片っ端からしてもらったが、明日からは業者の人も来て建設の方が本格的に始まっていく。また明日指示を出すからよろしく」

「俺は明日もか?」

「そうだな。今日も走り回ってもらったが明日以降もだな。指示の種類が増えると思うが、この調子で頼むよ」

 

 6人は食べながらゆっくり話を聞く。ちなみに料理担当はオレである。

 

「八神、今日のペースは想定通り進んでいるか?」

「ああ。後でまとめておいた紙渡すから確認しておいてくれ」

「ありがと。セインと共有して、明日のプランに役立てる。ああそうだ。使い終わった食器はここに入れてくれ。まとめて洗っておく。後、着替えを持ってこい。ここから、近くの浴場に行くぞ。疲労を残さないためにも……ああそれと、各々ストレッチは怠るな。筋肉痛は覚悟してもらうが、余計な疲労まで溜め込むと明日以降が辛いからな」

 

 そのまま食器を持って籠に入れていく。

 

「セイン、それにお前らも。風呂行こうぜ」

「そうだな。また明日もあるしな」

 

 天使たちにも声をかけていく。

 

「それにしても、まさか天使が普通に銭湯に行くことになるとは……」

「いいじゃないか。付近に良い感じのところがあるって調べたんだ。それに、お前らのところ風呂ねぇし」

「誰が壊したと思っている」

「……まさか、オレだと言いたいのか?」

「貴様以外に誰がいる」

「と言うか昨日はどうしたんだよ」

「……川で水浴び」

「……それは何というか……ゴメンな。大浴場は前より立派なものにしてやるから」

「期待しないでおく」

 

 そう言ってセインと先頭を並んで歩く。

 

「でも、何で昨日来なかったんだ?まぁ、来ても寝ていたからどうしようもなかったんだが……」

「ああ。我々も試合後、円堂たちと分かれた後に色々とあって、起きたのは昨日の日が落ちた頃なんだ」

「色々と、ねぇ」

「その辺りは今はいいだろう。それで、流石にそんな時間は迷惑だと思ったから日を改めたわけだ」

「それはそれはお優しいことで」

「……まぁ、君たちに迷惑を掛けたのに、その上更にだからな。流石に最低限の配慮はさせてもらうさ」

「まったくだ。それで昨日来ていたらどれだけ迷惑を掛ければ気が済むんだって追い返していたところだ」

「貴様は昨日丸一日寝ていたのだろう?追い返すことが出来ないだろうに」

「起きたらまた天使様に捕まっていたってか?」

「やめておくさ。次は何を壊されるか分かったものじゃない」

「勝手に破壊キャラにすんな。次はマグニード山を更地にしてやろうか?」

「やはり貴様は人間じゃないだろ。それは本当にやめろ」

「ハハッ、そうすればこの工事も必要ねぇな」

「この男が言うと冗談に聞こえなくて怖いな……」

 

 けらけら笑いながら、ふと後ろを振り返ると天空の使徒の面々とイナズマジャパンの面々が和気藹々と話していた。

 

「労働で絆でも芽生えたのかね?いやまぁ、友好的に超したことはないんだが」

「そうみたいだな。……ふっ、下界の人間と並んで風呂に行くとか、少し前の自分たちに言っても信じないだろうな」

「こっちの台詞だ。天使と風呂に行くとか間違いなく信じねぇよ」

「全ての元凶は貴様だがな」

「ひでぇ。最初に襲撃してきたのはお前らだろうが」

 

 セインと軽口を叩きながら歩いて行く。

 

「……なぁ、十六夜。今度、お前に話がある」

「あぁ?何だよ、今言えば良いだろ?」

「……いいや、日を改めて欲しい。事と次第によっては……私たちの全てが変わってしまうからな」

「そうかよ……分かった。適当なタイミングで捕まえて話をしてくれ」

「ありがとう」

 

 ……ん?もしかして、新たなトラブルの種の予感?今度は一体何なのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ、十六夜。今時間あるか?」

「このままでいいなら聞くけど……」

 

 風呂から帰ってきての自由時間。自主練習ということで体幹トレーニングをやっている最中に染岡が声を掛けてくる。

 

「自主練習か?」

「ああ」

「…………」

 

 そう答えると隣に並んで染岡もやり始める。

 

「ちょっ、これキツくねぇか……!?」

「普段からやってねぇとキツいだろうよ。それに日中の特訓で身体使ってキツいだろ?同じレベルでやろうとすると死ぬぞ」

 

 そう言ってある程度負荷が掛からない体勢を教える。

 

「さっきよりは楽だけど……それでもキツいな……!」

「お前らはそういう基礎練とか筋トレとかの時間が少ねぇんだよ」

「お前……いつもこんなのを……?」

「基本毎日だな。オーストラリア戦前からやるようにはしている」

 

 もっとも、忙しいときもあるため、あの時みたいなほぼ一日中ってわけにはいかないが。時間は短くてもほぼ毎日続けている。……まぁ、もちろん無理なときもあるけど。昨日なんて起きてすらいなかったんだし。

 

「次は……つぅか後何秒この体勢だ……」

「10秒。終わったら反対もあるがやるか?」

「やってやるよ……!」

 

 20分後……

 

「日中の工事終わりにこれとか……しんどさがいつぞやの砂浜での特訓とは段違いだな……」

「あったなぁ、そんなことも。ほらドリンクだ。水分補給は大事だぞ」

「わ、悪い……」

 

 渡したドリンクを一気に飲み干す染岡。余程疲れたのだろう。寝転がったまま起き上がれていない。

 

「そりゃ……お前だけ今まで別メニューなのも頷けるわ……しかも、今日のお前は上に下に飛び回っているけど、それもおもりをつけてなんだろ?」

「そうだな」

 

 こっちに来てからも基本的にはおもりをつけて動いている。そうじゃないと負荷が足りないからな。

 

「バケモノだな……ほんと。この前も吹雪連れての地獄の島一周ダッシュだろ?」

「地獄って……」

「知ってるからな?ちょっとでも遅くなったら、お前のペンギンが後ろからつついてきたって」

「あれはペンギンたちなりの触れ合いだっての……んで?本題は何だ?」

「……そう言いながら、リフティングをはじめたお前にどう言えばいい?」

「安心しろ。このまま縄跳びも同時にやるけど、話は聞くから」

「何を言ってるんだお前は……たく。記憶が戻ってきてるんだったか?ここまで自由人とは思わなかったわ」

「そりゃどうも」

 

 そのまま縄跳びの縄を持って縄跳びを始める。

 

「あ、思ったより難しいわ」

「だろうよ……なぁ、十六夜。どうすりゃお前からパスが貰える?」

「…………」

「天使たちのゴタゴタの前にあった練習……そこでの試合形式での練習でお前は一部のヤツにしかパスを出さなかった」

「そうだな」

 

 オレの運動禁止が解除されてから天使と悪魔が襲う前の数日間の練習は、全体での練習に混ざっていた。そのときのゲーム形式の練習では、染岡の言うようにパスを出すヤツを選んでいた。

 

「なら、どうすれば俺はお前からパスが貰える?」

「……1ついいか?」

「何だよ」

「いや、これは勝手なイメージだが……お前なら何と言うか、何で他のヤツにも出さねぇんだ!って言うと思ってた」

「昔だったら言ってただろうよ」

 

 そう言って起き上がる染岡。

 

「……オルフェウス戦を見て痛いほど分かった。もし、交代せずに後半も出ていて、あのフィールドに立っていたとき、俺はお前からパスが貰えたかって」

「その答えは?」

「貰えなかった……いや、違うな。俺だからじゃねぇ。吹雪や不動以外だったら一部のヤツ以外は貰えていなかった」

「それで?」

「……でも、怒るのは違う。だってそうだろ?お前らの連携を見ていて分かったのは、俺たちが加わっていたら間違いなく足を引っ張っていたってことだ」

「なるほどな。パスを貰えない原因が分かっているから怒らないってことか」

「ああ。それに、最近のお前を見ていると分かったことがある」

「何だ?」

「お前は自分が認めていないヤツにはパスを出さない。そう決めたんだろ?違うか?」

「うーん……半分正解だな」

「半分?」

「オレが何とも思っていないときは、誰にでもパスを出す。例えばこの前の天空の使徒戦だな。あのときは、誰々に出すとか何とか考えていなかった。興味が無かったって言えばいいか?正直、どうなろうがどうでも良かったからパスを出した」

「どうでも……確かにあの試合はお前は誰にでもどういう状況でもパスを出していたな。何とも……つまり、お前が本気を出していないときはってことだろ?本気を出したらパスを出す相手は限定されるんじゃないのか?」

「そこもちょっとだけズレがあるな。認めていないヤツに出さないんじゃない。オレが思う最適、あるいはそれを超えるところにパスを出しているだけ。相手によって選んでいるわけじゃない」

「ということは、パスを貰えないのは、俺が認められていないからじゃないってことか?」

「まぁな。お前の実力を低く見ているわけじゃねぇよ。実力自体は及第点……パスを出すに値する実力を持っていることはしっかり認めている」

 

 そう言ってオレは、跳ぶのをやめるのと同時にボールを上げて背中でトラップ、縄を置きつつ、そのまま転がして踵でボールを上げて頭でリフティングを始める。

 

「じゃあ、そんなお前がオレからパスを受けられるようにするにはどうすればいいか。そうだな……オレがお前に求めているのは何だと思う?」

「……さっきの話だと、お前の思う最適なポジションに居ることか?」

「不正解。そこに居ればいいだけだったら、オレはイナズマジャパンのメンバーの誰が居ても出すぞ。鬼道や不動が動かせばいいんだから、居るだけなら誰にでも出来る」

「……じゃあ、何だ?」

「逆に考えようか。この前の練習中、オレがよくパスを出した相手は誰だ?」

「不動と吹雪か?アイツらにはオルフェウス戦でも出していたし……」

「質問、何で不動には出していると思う?」

「そりゃ、お前の思考が理解できているからだろ?」

「そうだな。不動はもう1つの頭脳だと思ってる。オレの思考を共有し、その思考以上のものを見せてくれる」

 

 不動はオレの思考の理解者で、オレの思い描くものをチームに対して繋げてくれ、オレの思考以上の選択肢を提案してくれる存在。技術面もそこそこあるからこそ、彼との連携が一番取れているだろう。

 

「じゃあ吹雪は?」

「それもお前の思考を理解しているからだろ?」

「それは違うな。確かに不動や鬼道を除けば、このチームでも理解できている側ではある。だけど、それが理由じゃない」

「じゃあ……何でだ?」

「足だよ」

「はぁ?」

「不動を頭脳だとするなら吹雪は足だ。そのスピードは、オレたちに新たなる選択肢を与えてくれる」

「でも、スピードだけなら風丸もいるだろ?」

「ああ。だから風丸と吹雪の差別化……オレが思う違いは、オレたち相手に主張してくれる存在かどうかだ」

「主張……?」

「良くも悪くも、イナズマジャパンには大人しい選手が多い。普段も鬼道や不動の指示に従うヤツが多いしな。無視しろってわけじゃないが、率先して新たな選択肢を掲示してくれる存在が少ないんだよ」

「そういう風に見えているのか……」

「ああ。ただ、風丸はある意味で雷門らしい……鬼道が使うのに使い勝手がいい武器だな。吹雪の場合は、オレたちに応えるだけじゃなく、その先を見せてくれる。ただの使い勝手の良い武器じゃ終わらないってことだ」

 

 足が速ければ誰でも良いわけじゃない。まぁ、風丸の場合は陸上部からの助っ人とか諸々あって、本格的なサッカー歴が短いのもあるためか、吹雪よりは戦術面の理解や新たなる選択肢を見せるという意味で劣っているだろう。ただ、風丸の場合は不動より鬼道の方が相性もいいだろうし、全く使えないわけではないがな。

 

「じゃあ、染岡……お前に求めているのは?求めるとしたらなんだ?」

「……頭脳は不動には劣るし、スピードも段違い……俺がやれるなんて精々、シュートくらいしか……」

「正解だよ」

「は?」

「別に、お前にパス回しだの戦術理解だのテクニックだの色々と求めねぇよ。お前はストライカーだろ?だったら、オレが求めているのは点を取ること。それ以外ねぇな」

「それ以外ねぇって……でも、お前それなら……」

「足りてるって?点を取ることも出来ているし?……それじゃ足りねぇよ。オレがストライカーに求めているのはそんなレベルじゃねぇ。オレにゴールが決まるところをイメージさせることだ」

「……っ!」

「そうだろ?ストライカーって呼ばれるヤツらはさ。チームからも、コイツがボールを持てば決めてくれる……そういう信頼があるだろ?お前だって感じたことあるだろ?」

「確かに……」

「もちろん、ポジショニングもあるけどそんなものの前に、まずはオレにゴールをイメージさせろ。お前がボールを受ければ、オレよりゴールを決めるって思わせろ。どんなに良い位置に居ても、テメェが撃つよりオレが撃った方が決まると思うなら、わざわざパスなんて出さねぇ。違うか?」

「……何だよ。じゃあ、やってることは間違いじゃないってわけか」

「ん?」

「要は、お前が託したくなるような存在になれってことだろ?つまり、この前の魔王戦でディランたちが言ったことを求めている」

「そうだな。だから、パス回しに混ざろうなんて思わなくていい。フィニッシャーになってくれれば、純粋なストライカーにはそれしか求めねぇよ」

 

 それ以上を求めるとしたら別の何かが必要になる。彼に対するアンサーとしては、ストライカーとしての能力以外に求める必要はないだろう。

 

「……ありがとうな。今に見てろ十六夜。お前からパスを引き出させてやる。お前が託したくなる選手になってやるよ」

「期待しているぜ?お前の這い上がる力と精神力がすげぇことくらいは知っている。……ゴールの景色を見せてくれ、ストライカー。そうすれば、どんな状況だろうがストライカー様へ最高のパスを献上してやる」

「言ったな!絶対に見逃すんじゃねぇぞ!」

「ハッ、もしもそんな景色を魅せてくれるのなら、絶対にその瞬間を見逃さねぇよ。約束する」

「よっしゃ!今からシュート練習してくるわ!」

「怪我だけはすんなよ。後、明日も工事だからな」

「おうよ!聞いてくれてありがとな!」

 

 そう言って走り出す染岡。アイツのこういう諦めの悪さというか……突き落としても這い上がってくるって思えるのは円堂の影響もあるが、元々の本人の気質でもあるのだろう。

 

「アイツは豪炎寺や吹雪をエースストライカーと認めはしても、それで全てを諦めるような男じゃない。ストライカーとして着実に上のステージへと進んでいる。……もしかしたら、お前が最初にパスを引き出してくれるのかもな」

 

 お前はオレがこの世界に来て一番最初に出会ったストライカーだ。見せてくれよ、お前というストライカーが魅せてくれるゴールってヤツを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「十六夜、今時間あるか?」

「ん?風丸か?」

 

 染岡との話も終わり、自主練習にきりをつけたころ。崖際に座っていると風丸が声をかけてくる。

 

「何か話か?」

「ああ……ちょっとお前に聞いてもらいたくてな」

「そうか。……隣、座るか?」

「…………怖くないのか?」

「心配するな。崩れて落ちるようなことがあっても、オレが助ける」

「そ、そうか……」

 

 怖ず怖ずと隣に腰掛ける風丸。落ちたら無事では済まない……そんなところに普通は座りたくないか。勧めて座った手前、今から移動するのはちょっと遅すぎか。

 

「それで?話って?」

「……俺の武器の話だ」

「武器……あー」

 

 武器の話……そう言われてピンとくるものがあった。

 

「吹雪が関わる話か?」

「……よく分かったな」

「前の試合を受けてって考えれば、この答えに行き着くだろ」

 

 風丸一郎太という選手は足の速さが強みの選手だ。これは彼を知っている人なら誰もがそう答えるほどの共通認識であることは間違いないだろう。だが、イナズマジャパンの中には足の速さに関してもう一人、吹雪士郎の名前が挙がるのは間違いない。彼の武器もまた足の速さであることは間違いない。

 

「お前ならもう俺の話が分かると思うが、俺は正直、足の速さに絞っても吹雪に勝てていると自信を持っては言えない。サッカー選手としては尚更、アイツには勝てていない」

「……そうか」

「慰めは要らないんだ。正直に答えてくれ……俺という選手はどうすればいいと思う?」

「……あー……オレの言い方がきつかったらゴメンって先に謝っておくわ」

「心配するな。厳しい意見が欲しくてお前に相談している」

「なるほどな……じゃあ、まずストレートに言うけどさ。お前は世界一速い選手じゃない。お前より足の速いヤツは世界中に居る。それは現実だ」

「……っ。そうだな……ああ、その通りだと思う」

「それどころか日本でもそうだろうな。吹雪という存在が居るように、オレやお前が出会っていないだけで、もっと足の速い選手が居るかもしれない」

「確かに……陸上でも俺は日本一足が速かったわけではないしな」

「上には上がいる。お前の足の速さは確かに武器だ。それは認める。だが、オンリーワンの特別な武器ではない。ある意味、ありふれた武器の一つに過ぎないんだよ」 

 

 足の速さ……足が速い選手なんていくらでも居るし、その中で足の速い順に並べたとき、風丸も吹雪もどちらも上位に行けたとしても世界トップになれるとは限らない。

 

「そうだな……」

「だけど、オレはそれで十分だと思っている」

「は?」

「ありふれた武器って言ったが、お前が極めたその武器のレベルは世界で通用しているだろ?現に今まで戦ってきた相手の中に、お前と同等以上の速さのヤツは各チームに1人か2人程度。オレが世界トップクラスだと思うアイツら相手でも、もちろんオレ相手でも、純粋な足の速さの勝負に持ち込まれたら正直勝てねぇよ」

 

 オレもアイツらも足の速さが突出している訳じゃない。直線遮蔽物なしの純粋な一本勝負に持ち込まれれば、何か使わない限りは置いていかれて終わりだろうな。

 

「そうか……それはありがとう。そこまで評価してくれていたんだな」

「ああ?それだけお前が凄いんだろうが。お前をヨイショするための適当な言葉じゃなくて、事実を述べているだけだ」

 

 この本戦やアジア予選を通して、風丸と同等以上に足の速いヤツなんて片手で数える程度。ただ、その数えた中に同じチームメイトが居るんだから、こうして悩みが深くなっているんだろうけど。

 

「だから、オレはお前のその足の速さという武器を伸ばす、或いはその武器が死なないような強化は勧めるし応援するが、お前がその武器を殺そうとするのなら止めるか、それでダメそうなら諦観する」

「……分かった」

「さてと、じゃあ簡単な質問だ。何故、お前にとって吹雪という存在がそんなにも上に感じてるんだ?」

「そりゃあ、俺の一番の武器である足の速さは吹雪とそんなに変わらない。……だけど、アイツはそれ以外の全てにおいて俺よりも上に行っている。選手としてアイツの方が強いからだな」

「そうだな。じゃあ、それは何故だ?」

「何故って……俺よりもサッカーをやってきたからか?」

「そうだな。吹雪は幼少期からサッカーを始めていたのに対して、風丸は中2のフットボールフロンティア前……イナズマジャパンで見てもサッカー歴が浅い方なのは事実。そして、お前は早熟型の天才って訳じゃない。お前という選手は足の速さという要素と必殺技という要素を除いたとき、一気に平凡以下に成り下がるような選手だ」

「面と向かって言われると堪えるな……」

「それがオレの思う風丸って選手だ」

「つまり、足が速い以外に価値がない……と?」

「あくまでオレにとってはな」

 

 オレが風丸を使いたい……オレがやりたいことをするとき、彼という選手は足の速さで使うことを考えることはするだろう。それ以外は?と聞かれれば、ほとんど考えないと言える。もちろん、ある程度俯瞰して状況を見られるようになっているし、チームの中でも引っ張る側には立てる存在だとは認めている。認めているが、あくまでオレとしては彼には足の速さ以外求めないし、それが活かせる場面以外で使う気は殆どない。

 

「じゃあ、質問だ。オレの中で吹雪と風丸は同一の立ち位置だと思うか?」

「それは違うだろ。お前は吹雪に足の速さ以外の面でも一定の信頼を置いている」

「そうだな。ディフェンダーとして、或いはストライカーとして、オレがやりたいことをやるときの使える駒として、オレのやり過ぎを止めるストッパーとして……イナズマジャパンの中でも、今まで一緒に戦ってきた奴らの中でも、吹雪という選手は総合的にかなり評価している。それは間違いない」

 

 イナズマジャパンだと不動もそうだろう。ヒロトも今は他二人に及ばないまでもかなり評価はしていると言える。そうやって各々評することは出来るだろうが、今はこの辺りで良いだろう。

 

「そうか……そんなにも」

「もちろん、総合面ではなく、一点に絞れば高評価のヤツは何人も居る。当然、お前のスピードはかなり高い評価をしているつもりだ」

「それは……でも、吹雪とは違うんだろ?俺のことは足の速さしか見ていないが吹雪は違う」

「……なるほど、少し伝え方が悪かったか」

「どういうことだ?」

「確かにオレはお前に足の速さ以外求めていない。そして、吹雪にはそれ以外も求めている。だが、これは下手とか上手いとかの話じゃないんだ」

「は?違うのか?」

「違う。そうだな……これはオレの勝手な想像も含んだ話だが、オレはイナズマジャパンの中だと不動と吹雪の2人が組むときにやりやすい相手だと感じている。何故だと思う?」

「それは……お前のプレーを理解してくれるから?」

「そうだな。この2人は理解のスピードが早い方だろう。……だが、それなら鬼道が何故そこに挙がらない?」

「……確かに……何でだ?」

「単純な話だ。鬼道は味方を活かすプレーの方が長けている。だから、オレのプレーとはそこまで相性が良くない」

「なるほど」

「その点、2人は味方を駒のように扱うプレー、或いは自分1人で全てを完結させるプレーを通っている」

「そうなのか?」

「そうだと思うぞ?不動は言わずもがな。吹雪もエイリア学園が襲ってくる前……白恋時代はそういう選手だったと勝手に思っている。明らかに周りより1人だけ飛び抜け、エースストライカーとしても、ディフェンダーとしてもチームから頼られていた」

「そうだったな」

「でも普通おかしいだろ?何で1人の選手が攻撃と守備の両方の中核を担っているんだ?普通はどちらか片方だろ?」

「それをお前が言うかって話だが……確かにそうか……普通のチームではおかしいな」

「ああ。だから吹雪は孤独なプレーにある程度の理解と慣れがある……それに円堂たちに染まる前は1人で完璧を目指していたらしいしな。一歩違えばオレと近い選手になっていた」

 

 ただ、彼が1人で完璧を目指していた理由はオレとは大きく異なる。だから今の彼にはそんなことを求めないし、今の彼の強さは彼が仲間と出会って見つけ出した完璧の答えを体現している。そんな男にもう一度孤独を強要するつもりはない。彼が見つけた答えを、そしてその強さを認めているからだ。

 

「なるほど……そう考えると吹雪とお前って似ているところがあるのかもな。そして、そういうプレーに一定の理解があるから受け入れやすい……」

「その点、お前がサッカーを始めたときの環境を思い出してみろ。円堂がいて、皆がいて……そういう温かいサッカーをずっとやってきただろ?」

「途中で闇堕ちした時期もあったがな……」

「そういやそうだったな。でも、一度闇に堕ちたからこそ分かることもあるんじゃねぇのか?」

「そうだな……今もあの頃も戦える強さを求めている。でも、もう二度と道を外す真似はしない。俺は俺の力で強くなりたい。ドーピングに頼るのはゴメンだ。本物の強さでお前たちと並びたい」

「良いじゃねえか。挫折し、力に取り込まれたお前を、円堂たちはボロボロになりながら向き合って救い出した」

「円堂たちはって、お前もボロボロになっていた記憶があるんだが……」

「さぁ、どうだったかな?……昔よりも強い意志を持ち、正しく強さを求めている。そういう選手をどうでもいいって思うほどオレは腐っていない」

「そっか……あの頃の力が欲しかった自分と今の力が欲しい自分は似ているようで全く違うな」

「弱肉強食のこの世界で、強さを求めることは自然のことだ。違うのは、求め方が正しいかどうかってだけ。得られた強さに意味があるかってだけ。……お前はオレの思想より円堂の思想の方が染みついている。言っただろ?オレはお前に足の速さ以外に価値を見出していない。だけど、あくまでオレはって話だ。他の奴らからすれば、お前は足の速さだけじゃない。仲間のための献身さや声かけはもちろん、自分の必殺技や武器の理解とその応用に関しても出来ているし、指示を確実に遂行する安心感もある。オレのような選手が扱うより、仲間のことをちゃんと考えている鬼道や円堂の方がお前と相性が良い」

「……何か照れくさいな。なんだかんだでお前もちゃんと見ているんだな」

「そんなことねぇよ。円堂とか鬼道とか他の奴らならもっとお前の美徳を言えるだろうよ。お前も他のヤツが似たようなこと質問してきたら、オレよりも沢山そいつの美点を言って、真摯に向き合うことが出来るだろ?」

「そうか……」

 

 あくまで彼は円堂たちとのプレーの方が合っている。その事実は間違いない。

 

「さてと、じゃあ話を戻そうか。風丸という選手がどうすればいいか?という話について、オレの解答を言う。先に言っておくが、無理に受け取らなくてもいい。あくまでオレというバケモノがお前という駒を自分の都合良く使うために示す道だ。数ある道の1つとでも思ってくれ」

「それでもいいんだ。頼む、教えてくれ」

 

 風丸の目を見てオレは告げる。

 

「お前、勝利のために死ぬ覚悟はあるか?」

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