再建工事2日目。朝日を一杯に浴び、朝食を取ったオレたちは張り切って工事を始めた。今更ながらこんなこと中学生の、しかもサッカー選手にやらせるなと思うが、この事態を引き起こした元凶らしいので……うん、気にしたら負けだな。
「十六夜くん、これでどう?」
「おぉ、流石。次の仕事は……」
「これも終わらせたよ」
「あ、マジで?早いな」
お昼前、昼食を作っているとヒロトから仕事の報告を受ける。
「それとこっちはこういう人員配置の方が良いと思うけどどうかな?」
「え?そうなのか?」
「うん。彼はこの仕事の方が能力を発揮できるだろうし、彼女はこちらのサポートに回した方が仕事が進むと思う。もちろん、こっちのメンバーの特訓の負荷の調節も問題ないよ」
「へぇ……よく見ているな」
「流石にこんなに広いところで、十六夜くんとセインくんだけじゃ指揮するのは足りないでしょ。八神のサポートにも限界があるし、自分の特訓を緩めるつもりもないけど、手伝える部分は手伝うよ」
「ありがとな、ヒロト。凄い助かるわ」
やはり、ヒロトは周りを見ると言うのが自然に出来ている。そして、こちらの意図を汲み取って、その上で最適解を出す……
「助かるついでで悪いんだけど、他にも相談乗ってくれないか?ああ、こっちは昼食作りながらになってしまうけど……」
「いいよ。それと、俺も手伝うよ」
「ありがと」
そう言ってヒロトと今後も含めた相談をしていく。
「後でセインにも伝えておく。凄い助かった」
「気にしないで。少しでも役に立てたなら良かったよ」
「どうにも記憶が戻ってきたせいか、新しく他の人を覚えたり、見分けたりするのが苦手になってきてさ。すげぇ助かったよ」
「大丈夫?それ記憶が戻るというか何か別の……こう、人を認識するのに関わることの病気とか?」
「あー認識障害ってやつか。どうだろう……記憶を失う前の自分は、他の人に対する認識がある意味で終わっていたからな……」
「と言うと?」
「皆、男子トイレのあのマークに見える感じ?」
「…………え?」
「ああ、でも友達とか家族とか一部の人はちゃんと認識できていたんだよ。だから大多数の人間がそうやって見えていたって感じだな」
「今は?」
「イナズマジャパンのメンバーやこのFFI本戦に出場している各チームの主要メンバーは分かるし、後は記憶が戻る前……ライオコット島に来る前に出会って知り合った人間もちゃんと識別出来ている。……ただ……記憶が戻り始め、いつからかは分からないんだけど、他の人にもやがかかって見え始めている。そのもやは記憶を思い出すたびに濃くなって……」
「…………」
「っと、ゴメンゴメン。何というか、興味のないことに無頓着過ぎた弊害なんだよきっと」
ただ昔に比べればまだマシな見え方だ。いや、見え方がマシと言うより、この世界に特徴的な人が多いと言うべきだろうか?少なくとも、昔よりは区別が出来ている。
(……これは何というか……また闇が深くなりそうな種だね。記憶を失った理由もそうだけど……多くの人の認識が出来ない……か。確かにFFIでの彼は強者やトッププレイヤーと言った特定の相手に目を向けることが多い。そして、それが本来の彼なら、昔の彼はそれが極端すぎて、その他大勢のことが文字通り映っていなかった)
うーん……そう言えば昔はこのことについて病院に行ったことあったっけ?と言っても、ここ最近も病院通いだけど……うーん、一度は死んだこの身体で、しかもFFIの前はちゃんと見えていたんだったら原因は精神……興味のないことに割くリソースがどんどん減っていっているということか。……けどまぁ、いいか。多分、何とかなるだろうし。
(……もしかしたら彼は、一度は覚えた人でも、その人に対する思いや感情が薄くなってしまえば見えなくなるかもしれない。相手に対する興味が一定のラインより下回ると見えなくなる……)
「困ったことがあったら頼ってよ?」
「え?あ、うん。もちろん、頼らせてもらうぞ」
流石に記憶喪失の件はバレたとは言え、心配させる種にはなっているか。早く全てを思い出した方が楽か、それとも現状維持の停滞が楽か……なるべく余計な心配をさせたくはないんだが。と言っても、自分じゃ決められない以上なるようになることを祈るしかないか……
そんなこんなで昼食も一通り完成して、後は時間になるのを待つだけ。
「そう言えば十六夜くん。聞いてもいいかな?」
「何?」
「……十六夜くんが連れて来た人たちって明らかにプロだよね?」
「そうだな。流石に建築ド素人集団が建物を作れるわけねぇし」
彼らを呼ぶためにオレはド早朝から古株さんに協力してもらい、彼らを迎えるために空港に行っていたりする。ついでに食器を宿舎に持って行って洗い物を頼んで、洗濯物もまとめて宿舎で回してきた。
「……日本人ではないよね?一体、どういう繋がりで……?」
「ただの依頼人と仕事人の関係だよ。昨日、久遠監督と話し合っている最中に手配した。ああ、コレの心配ならいらねぇよ」
そう言って指で丸を作る。
「お友達価格である程度安く済ませた。セインたちの要望も全部伝えたし、昼過ぎには設計図が出来る手筈だ」
「…………」
幸い、お金に関しては何とかした。オレの手札に解決するのにピッタリなものがあったし、何より向こうも快く了承して既に話はつけてある。
(……何というか……こんな場所のしかも神殿の工事という莫大な資金が必要なはずなのに、すぐさま用意したこともだし、何より昨日の今日で決まった話のはずなのに、向こうの人たちが嫌な顔1つしていないどころか、もの凄いやる気で働いてくれているのが不思議なんだけど……)
ヒロトが疑問を隠しきれていない。聞きたいことは山のようにありそうだが、こちらがあまり答える気がないのを見て自分の中に押し込んだ様子だ。
「この大会が終わったら、何かしたいことってある?」
「へ?」
そんなとき、ヒロトが話題を振ってくる。
「急にどうした?」
「十六夜くんとは何だかんだで知り合ってからは長いでしょ?でも、今も昔も、サッカーに関すること以外話していなかったし、1対1で話すことがほとんどなかったでしょ?」
「確かに……」
ヒロトとはあのエイリア学園の事件の序盤から出会っている。出会った順で考えるなら吹雪たちよりは先になるし、イナズマジャパンの中でも真ん中かそれより早いんじゃないか?
そして、エイリア学園のときはその関連の話しかしていないし、今もサッカーの話が多い。その上、八神を始めとした誰かと一緒が多くて2人で話す機会は多くなかった。
「昨日も2人の相談を受けていたでしょ?」
「ああ、見ていたのか……」
「正確には見かけたかな?当然、話の内容は分からないけど……この特訓の人選的にも、相談を受けていたのかな?って」
「人選……お前は気付いていたか」
「そうだね……何となくの予想だけど、染岡くん、風丸くん、立向居くんの3人は君に相談、話をしやすくするため。壁山くんと土方くんはフィジカル面の強化で……俺自身も君と話をしやすくするためかな」
「解答としては及第点は貰えるだろ。……って言ってもヒロトは既に色々と吹っ切れた感じがするがな」
「そうだね。正直、どうすればいいかは迷っているところもあるし、答えを出せていないことも多いと思う。ただ、そんな迷いを抱えながらでも、俺は今の俺が出来る最大限のことをする。……それに、十六夜くんと比べてどうとか言い始めたらキリがないって分かったしね」
「そう」
「ああでも、だからと言って今のままで満足はしないよ。強くなりたい思いは前と同じ……いや、あの試合の後からもっと強くなっている。不安も迷いも消えてはいないけど、でも、それらも抱えて前に進む」
「……いいと思うぞ。何の不安も迷いもない人間なんて居ない。それにヒロトはちゃんと弱さと向き合っている……だったら、後は進むだけだ。その進みが時には間違うことも遠回りになることもあるかもしれないけど、それでもお前なら心配していねぇよ。周りにはお前のことを支えてくれる仲間が居るからな」
「十六夜くんもその一人だけどね」
「そっか。それならよかった」
「って、サッカーの話になっちゃったね」
「そう言えば……この大会が終わった後にしたいこと、だったか?」
「うん」
そうだな……そうやって考え始め、1つの答えが出てくる。
「……オレは円堂を倒したい、かな」
「えっと……それはどういう意味で?」
「世界一になったイナズマジャパン……円堂が率いる世界一のチームを、オレが率いるチームで真正面から叩き潰したい」
「……それが今の君の夢なんだね」
「夢って言うか……野望?……オレと円堂はやっぱり対極だ。今は同じゴールを背にしているけどさ……正直、アイツの思考は理解出来ねぇし共感もできねぇ。……だからさ、いつかオレは本気のアイツと、本気のお前らと敵として向き合いたい。向き合ってぶつかって……全身全霊を持って叩き潰したい」
「何というか……聞く人が聞いたら勘違いしそうだね……」
「ハハッ。でも、ぶつからないと分からないこともある……そう教えてくれた人が居るんだ。だから、オレは敵としてぶつかりたい。この戦場で死力を尽くして殺し合って……そうすれば分かるものもあるかもしれないだろ?」
「なんて物騒なことを……十六夜くんって熱くなると言葉のチョイスが物騒になるよね」
「それはオレに影響を与えた人たちのせいだな。前みたいにお行儀の良い言葉しか言えないオレじゃなくて悪かったな」
「ううん、それが本来の君なら良いと思うよ。ただ、魔王戦みたいなことを他ではあまりやらないでね?君の印象が必要以上に下がるし、何より言葉だけで退場させられたとか笑えないからね?」
「…………」
「え?まさか、過去にやったことあるの……?」
「いや、ないはずだ。うん、少なくとも今ある記憶ではないな」
「……本当に気をつけてよ?」
流石のオレでも、そんな暴言吐きまくってレッドカードもらって退場なんてやっているわけがない。いくら味方が雑魚で相手がカスでもそんなことしたことない……よな?ちょっと不安になってきた。
「……とにかく、オレにその価値があると認めさせてくれ。オレが潰したいと思えるようになってくれ。もっと強く、もっと高い壁として、ちゃんとオレの敵として立ちはだかってくれよ」
「……そんな約束は難しいけど、その前提にあるイナズマジャパンが世界一になること。それは俺のやりたいことでもある。だから、世界一になるための協力は惜しまないよ」
「ああ。それで十分だ」
「それに、その野望ならちょっとだけ手伝えるかも」
「ん?どういうこと?」
「……俺はこの大会が終わった後、正式に吉良家の養子になって、事業を継ごうと思う」
「え?養子に?」
「そうだね。やっぱり、吉良の事業を次ぐには、親子関係が必要かなって」
「まぁ、事業の規模的にも親子関係があった方が便利だろうな」
それにしても養子とは……中々思い切った決断をしたものだ。……ん?そう言えば、オレの戸籍ってどうなっているんだ?
「ああ、もちろん、サッカーはやめないよ。やめたら君の野望が欠けちゃうでしょ?」
「そうだな。相対するときにお前は円堂のチームに居て欲しい」
「……だから、正式に社長として働く……悪い言い方をするなら色々と権力や融通が利くようになるからね。その君の思う野望の舞台を叶えるスポンサーになれるんじゃないかな?」
「ハッ、何だそれ面白そうだな」
「そうだね。これも言い方が悪いけど、世界一になったチームのキャプテンと副キャプテンの激突……日本のサッカーの熱を考えると、これはかなりの効果があると思うよ」
「そうだろうな。宣伝に経済効果もばっちりだろうよ」
「それで?すぐには出来なさそうな野望だけど具体的な時期とかは考えているの?」
「10年以内……ってところかな。早ければ早いに越したことはないが、それでも中途半端にはしたくねぇ。オレの率いるチームに数合わせなんて居たら興醒めだし、お前らが弱かったら喰らいがいがないだろ」
「そうだね。じゃあ、俺も君の希望の舞台が整えられるように、事業を立て直さないといけないね」
「ああ。頼んだぞ」
「最大限の努力はするよ」
ヒロトは既に先を見据えている。たとえ、サッカーがあまり関係ないことだとしても彼には既にやりたいことがある。そういう長期的なモノを持っているのって大事だよな。
そして、ヒロトは近い将来、少しだけ後悔することになる。この話をオレにしてしまったことに……それはまだ誰も知らない話。
「あの、十六夜さん、今良いですか?」
「構わねぇよ、どうした?立向居、壁山、土方」
プロが入り、本格的な工事が始まったそんな夜。グラウンドの中央にて、ボールを蹴っていると三人がやってきて声をかけてきた。
「えっと……その……俺って代表としてどう見えますか?」
「……はぁ?」
立向居がおずおずとそう言葉を紡ぐ。だが、何を言っているか理解出来なかった。
「あー十六夜。コイツは、自分が本当に日本代表として戦えているか、日本代表として必要とされているかが不安なんだと」
「自分たちはちゃんとしているって言ったんッスけど……」
「…………」
恐らく、何かしら思うところがあった立向居が壁山と土方に相談をして、それでもあまり晴れなかったからオレのところに来たって感じだろう。
「オレのところに来た……励ましを期待しているならオレは最悪の人選だって分かっているのか?」
「も、もちろんです!率直な意見を教えて欲しいんです!」
「……あっそ」
そう言ってオレは3人を連れて場所を変える。立ちっぱなしで話すものではないから、適当に座れる場所へと移動する。
「さてと、じゃあ答えるが、お前は日本代表に必要な存在ではあると思っている。……そして、厳しく言わせてもらうなら、お前はベンチに居るだけで仕事を果たしている。そんな存在だと思っている」
「ん?それって、厳しいことなのか?」
「そうッスね……?どういうことッスか?」
「…………」
オレの発言の真意を理解しようとする立向居。かなり厳しいことを言っているつもりだが……まぁ、折れたらそこまでだし、最低限のフォローは2人がやってくれるだろう。
「……それって、俺がサブキーパーだから、ということですか?」
「そうだな」
「そして、十六夜さんはそうとしか見ていないってことですよね?……俺はあくまで円堂さんに何かあったときの保険であり、交代枠を使い切ったときに出てくる最後の選手……つまり、戦う選手としては見てくれていないってことですよね?」
時間を使って考え辿り着いた答え。
「そ、そんな風には流石に……」
「正解だ」
「……ってええ!?そ、そうなんッスか!?」
正解と言っても相違ない……オレから見た立向居はネガティブな側面があるように思える。好意的に考えるなら全てをポジティブに受け取らず、その言葉の裏を考えられる……だからだろうか。オレの言葉に含まれていた最悪な裏を見抜けたのは。
「日本代表になって、お前が出場した試合……どれも監督が立向居を使いたいから使ったわけじゃない。何かがあって結果的にお前が出ていただけだ」
オレが記憶する限りでは、デザートライオン戦やナイツオブクイーン戦は他に交代出来るやつがいない……もちろん、デザートライオン戦は不動も選択肢にあったが、彼をそのタイミングで出すわけには行かないという事情があったため、立向居以外に交代できるヤツが残っていなかったからフィールドプレイヤーとして出たもの。ジ・エンパイア戦は円堂が欠場していたため、あの場面でキーパーの選択肢として立向居しか残らなかったからだ。
練習試合や天使悪魔の例外もあるだろうが、これまでの試合で立向居は彼を使いたい……積極的な出場ではなく、彼しか使えない……消極的な出場しかしていない。
「そ、そんな言い方は流石にねぇだろ!?」
「そうッスよ!いくら何でも酷すぎるッス!」
「……いえ、十六夜さんの言う通りだと思います」
その言い方に土方と壁山が噛みつく。確かにこんな言い方をすれば他のヤツでも噛みついてくるだろう。だからこそ、言われた張本人がショックを受けるわけではなく、冷静にそれを受け取っていたことに心の中で少しだけ驚いた。
「……思ったよりショックを受けてねぇんだな?」
「…………それは俺がずっと感じていた……見ないようにしていた現実です。誰も口にしなかっただけの現実……十六夜さんならそれを気付いて、ちゃんと言葉にしてくれるって思ったんです」
「立向居……お前……」
「そうか」
なるほどな。それならアドバイス……なんて格好良いことは言えないが、話をする価値はありそうだ。
「イナズマジャパンとしての公式戦は後2試合。正直、お前はベンチに居てくれればそれだけでいいと思っているが……不満か?」
「…………」
「まぁ、不満が全くないのならオレのところに来るわけねぇよな……だが、はっきり言う。今のお前が出場出来るとしたら、今までと同じ状況になったときだ。後はお情けで出してもらえる……記念出場くらいだな」
「そこまで厳しいことを言わなくてもいいと思うんだが……」
「聞くけど、コイツが代表として戦えているアピールのために出たとして、それで負けるようなことがあったらお前らはコイツを責めないか?日本で観ている、応援しているヤツらはコイツを責めないか?」
「そ、それは……」
少なくともイナズマジャパンの多くのメンバーはそんなことを考えもしないだろう。だが、世間は違う。結果が全てであり、敗北したときに責められる対象は果たして誰になるのか。個人かチーム全体かは分からないが、少なくとも試合に勝つための最善な策として出されていない、試合に勝つためとは異なる理由で出されたヤツが責められることは避けられないだろう。
「別にオレはコイツを過小評価はしてねぇよ。同年代の日本のキーパーとしてならナンバー2……低く見積もっても日本だったら5本の指に入る実力者だと思っているし、ゴールキーパーとしてなら将来、日本ではトップになれる器、円堂を超えることが出来る才能を秘めていると思っている。これは慰めじゃなく、オレがお前に抱く純粋な気持ちだ」
将来的に日本一のゴールキーパーになれる可能性を秘めた原石……悲しいのはその花が開く前にこの世界大会が開かれていること。求めているのは未来の可能性じゃない、今戦える実力だ。
「そんなに……ん?じゃあ、十六夜は立向居のことを嫌っているわけではないんだな?」
「ああ?何で好きだとか嫌いだとか言う話になるんだよ」
「言い方があまりに厳しかった気がしたが……なるほどな。十六夜、お前ってかなり口下手で不器用なんだな」
「うるせぇ。もうお前ら相手に着飾るマネはしねぇって決めたし、それに今の立向居が欲しいのは気休めの言葉じゃねぇだろ」
「十六夜さんなりに考えてくれているってことですよね?」
「向き合うって決めたしな。話を受けた以上、半端な真似はしねぇよ」
「ハハッ、十六夜ってちゃんとしたヤツなんだな」
「よかったッス。十六夜さんは頼れる人のままッス」
「そうかよ。……で?お前はどうしたいんだ?」
「どうしたい……」
「ああ。お前にとって、今の一番の望みはなんだ?お前が試合に出ることか?イナズマジャパンが勝つことか?それとも別のことか?そして、その一番の望みを叶えるためにお前はどうしたいんだ?」
「もちろん、イナズマジャパンが世界一になること……それが俺の今の一番の望みです」
……もちろん……ねぇ。そして、主語が自分じゃなくてイナズマジャパン……か。まぁ、他のメンバーに聞いても、このチームが試合に勝つや日本が優勝するって感じの似たような解答が帰ってくるか。
「だったら、その望みを叶えるためにお前はどうしたいんだ?さっきの話からも、お前は今のままでいい。オレから言えるのはお前はそのまま円堂のサブとして研鑽だけは怠るなってことだが?」
「…………」
それが一番の望みなら彼は変わる必要がない。彼はこのまま置物であり続けたとしても、イナズマジャパンにとってなくてはならない存在であることは変わらない。居るだけでチームに貢献しているし、居なければ困る存在であることは誰もが分かることだろう。
「……悔しいんです」
「何が?」
「たとえ、居るだけでいいと言われたとしても、俺はサッカー選手なんです。日本代表の一員なんです。これまでの試合……俺はずっとベンチで観てきました。確かにジ・エンパイア戦は皆と戦いましたし、他の試合も出させてもらったことが何度かあります」
「そうだな」
「でも、ジ・エンパイア戦は俺がもっと守れていれば勝てていました。俺が弱かったから、俺が気付くのが遅くて2失点もしてしまったから、勝つことが出来なかった」
「そうかもな」
「他の出た試合は勝てました……ですが、それは俺じゃなくて良かった。誰でも良かった。たまたま、選ばれたのが俺だっただけなんです」
「そうだろうな」
「この前のオルフェウス戦……あの敗北した試合で俺は唯一戦うことさえ許されなかった。皆が力を尽くして戦って、それでも通用しなくて……俺はそれをベンチで観ていることしか出来なかった。そのフィールドに立たせてもらうことすら許されなかった」
「そうだな」
「でも分かっているんです。あの試合で俺が円堂さんの代わりにキーパーで出ていたら、誰かの代わりにフィールドプレイヤーとして出ていたら何か変わったのか?って」
「その答えは?」
「変わらなかった……いえ、もっと惨敗していた可能性が高いです。円堂さんの代わりにキーパーとして立っていたらもっと失点していました。誰かの代わりにフィールドにいたら、自分が足を引っ張っていました」
「……立向居……お前……」
「そんなことを考えて……」
「良い分析だ。これでお前が出ていれば好転していた、お前が出ていれば負けなかった、なんて下らなくて都合の良い
「え?話が進めやすい?」
「ああ。お前は正直、自分に自信が無く、物事に対してネガティブな発想が先に来るようなタイプだと思っている。そして、メンタルも傷つき折れやすくそこまで強靱ではないと見ていた」
「ズバズバ言うな……普通そういうことを面と向かっては言わないだろ……」
「お前は自分の弱さをちゃんと見ることが出来ている。誰もが分かっていて、誰もが口にしない残酷な現実を見ている。人ってのはどうしてもそういう都合の悪いものは見たくない。でも、お前はそれをちゃんと見ている。ちゃんと見て、受け止めて、自分が弱いのも分かって、自分だけが日本代表として戦えてないことに悔しさを感じて、戦わなくてもいい甘い弁護があるのも分かった上で、それでも世界一になるために、叶えたい望みのために自分も何かをしたくて、何かを変えたくてオレに話をしにきた。まぁ、1対1では勇気が出ないから2人についてきてもらっているが、それでもその一歩を踏み出せたお前は凄い」
「あ、ありがとうございます……」
「そんな後輩の道を示すのも先輩の務め。先駆者の務めだ。……立向居、これは前提だがお前のキーパーとしての能力は落とすな。むしろこんなところで満足せず上げていけ。それは
「も、もちろんです!」
「その上で伝えるが、お前はキーパー以外の何かに特化しろ」
「「「…………はい\は\え?」」」
3人が首を傾げる。そりゃそうだ。キーパーの能力を上げろと言っているくせに、キーパー以外に特化しろって言っているんだ。何を言っているんだ、って話だろう。
「えっと、キーパーをしながらキーパー以外のことをする……と?」
「キャプテンみたいになれってことッスか?」
「いいや、もっと限定的だ。まず前提として、今の立向居にはキーパー以外のポジションで出場させる価値がない」
「初っ端からひでぇな!?ちょっとは包めよ!?」
「それは何故か?フォワード、ミットフィルダー、ディフェンダー……もっと細かいポジションはあるが、立向居はキーパー以外だとどのポジションでもチーム内ランキング下位に位置するだろう」
「チーム内ランキング……?」
「何ッスか?」
「そのポジションの適正や強さって話だ。例えばフォワードなら豪炎寺、虎丸、染岡、吹雪と言った面々が上位にいる」
「ミットフィルダーだと鬼道さんや不動さん、ヒロトさんですかね?」
「そうそう。キーパーだと円堂に続いて2位だが、他だと下から数えた方が圧倒的に早い。もちろん、久遠監督がデータ主義でスタメンや交代メンバーを選んでいるわけではないが、それでもお前はキーパー以外だと途端に平凡以下の選手に成り下がってしまう」
「それが価値がない……俺が出るくらいだったら、他のベンチに居る選手の方が使える……」
「そういうことだ。そして、唯一価値のあるキーパーも、試合になればたった1枠しかない。その1枠を争う相手である円堂と比較したとき、お前が能力値や必殺技などで円堂と差別化出来ているところや、円堂と比較したときに明確に超えていると言えるところが殆どない」
「そ、そんなこと……」
「……いえ、あると思います。もちろん、俺が円堂さんに憧れてキーパー転向した……円堂さんと似たキーパーになっているのは自覚しています。しかも、円堂さんが新たな必殺技を身に付けた以上、今の俺じゃ必殺技面でも円堂さんの下位互換……そう言われても仕方ありません」
「そういうことだ。別に円堂と似た系統のキーパーであることそのものは悪いことじゃない。ただ、更に残念なこととして、円堂のフィールドプレイヤーとしての能力も他の奴らに勝っているとは言い難い。世界大会の終盤戦まで来た現状なら尚更、アイツのフィールドプレイヤーとしての能力値が相手に通用するとは言い難いだろう」
エイリア学園終盤で見せたリベロ円堂……だが、円堂の守備力では世界トップチームのドリブルを止められるかは怪しいし、彼のドリブルやテクニックは現状、世界トップチームの守備陣には通用しないだろう。持ち前のシュートたちも撃たせてもらえなければ意味がないしな。
「だが、アイツには精神的支柱として、皆の熱を上げる選手として久遠監督も出したいと考える。そう考えると、仮に立向居をキーパーに置くのなら、円堂はフィールドプレイヤーに、そして誰かが抜けることになるが……」
「そこまでして俺をキーパーに置く価値がない。それなら最初から円堂さんをキーパーにしておけばいい」
「そういうことだ」
少なくともこのチームに居る選手たちのパフォーマンスを限界突破させるには間違いなく円堂が必要だ。このチームは円堂守という絶対的な柱があることで、最大限の力が発揮できていることが分かっている。ここまで来るとこのチームが円堂に依存していると言うよりも、円堂守という男にそういうバフを与える力があると言った方が良いレベルだ。そんな円堂バフと言うべきものも肝心の彼がベンチに居ては効果も半減以下だ。
結局のところ、立向居と円堂にキーパーとして大きな差別化が出来ないのであれば、どっちがキーパーでも大差は無い。だが、円堂の方が出場したときにチームに与える良い影響が大きいのなら、彼がキーパーに収まるのは自然とも言え、わざわざるのだ。
「正直、今から決勝トーナメントまでに、お前が何処かのポジションでスタメン入り出来るほどの強さを身につけるのははっきり言って無理だ。圧倒的なまでの時間不足。もしも、残された短い時間でそれが出来るなら、今頃お前はオレみたいな万能型の選手として世界トップレベルの選手になっている。違うか?」
「それは……そうですね」
「だから特化させろ。何でも良いから何かに特化させてみろ」
「あー十六夜。そこまでは分かったんだが……お前の言う特化って具体的には何なんだ?」
「例えばパサー。ワンタッチで最適な場所に最高のパスを届けるような完全な中継役。例えば誰かの黒子。特定の選手を輝かせることに特化した、その相手を引き立てるための死に役」
「つまり、何かのポジションを極めるよりも更に限定的……たった1つの仕事だけに特化させ、その仕事を認めてもらう……ということですか?」
「そういうことだ。その仕事が出来るなら、それがそいつの価値になる。キーパー以外だと何も残らない選手から、フィールドでこの仕事だけは出来る仕事人に変わる」
「仕事人に……」
「これ以上は自分で見つけろ。ただし、1つだけ忠告しておく。何かに特化したからと言って試合に出られるとは限らない。仮にうまく行ったとしても、お前はその仕事しか求められない。お前という存在が輝けるとは限らない」
「……ありがとうございます。たとえそうだとしても、フィールドに出ても何も出来ない今の自分よりはずっとマシです。これが、少しでもイナズマジャパンが世界一になるために役に立てるのなら、頑張ってみます!」
「そうか。ただし、お前はあくまでキーパ-だ。何度も言うが、メインを疎かにするな。お前という選手からキーパーという価値がなくなってしまえば、お前はこのチームに居る意味はねぇ」
「はい!」
立向居が立ち上がって、こちらに頭を下げると寝るところへ戻っていく。少しは悩みも晴れたのか、目にはやる気が満ちていた。
「んじゃ、フォローは任せたぞ。壁山、土方」
「はいッス!……って、十六夜さんは?」
「これ以上面倒見るつもりはねぇよ。最近はそんな相談ばかり受けているが、オレ自身は1から10まで面倒を見るほど優しくはねぇ。潰れるか何かを為すかはアイツ次第。……ただ、本当に何かで仕事ができるようになったら……もしも、利用価値が出たのなら。アイツの活躍の場を整え、精々使わせてもらうだけだ」
「つまり、立向居が化けることに期待しているってわけか」
「好きに捉えろ。オレはあくまで使える駒を使うだけだ。……ああそれと、お前らも自分の特訓は疎かにすんなよ」
「はいッス!」
「おう!よしっ、じゃあ立向居と相談だな!」
「そうッスね!」
そのまま立ち上がって去ることにする。あの2人なら、彼が間違った方に行きそうだったら止めるだろうし、他のメンバーも巻き込んで何とかするだろう。化けても化けなくても、立向居という選手の価値は失われない。その価値が更に増すかどうかだけだ。
「こちらに送る人選にはあまり口出ししなかったが……やっぱり、久遠監督はこうなることを見越していたんだろうな」
染岡、風丸、立向居……イナズマジャパンの中でも思うところがありそうな面子を、オレと話しやすい場にぶち込んだ。ヒロトが推察していた通り、ここでの生活が何かを見つけるきっかけになることを祈って……
「オレはオレで出来ることをするか」
そのままオレは道具を片付け就寝の準備を整えて寝るのだった。