超次元サッカーへの挑戦   作:黒ハム

243 / 254
過去編その11……十六夜綾人、成長中。

スパイ教室最新刊、推しが推しがぁ……いや、きっと彼女主役の巻で何か起きるはず……早く続きを読みたい……!以上です。ネタバレを防止するためこのような表現になりましたが、押さえられませんでした。ちなみにスピンオフもしっかり読みました。この作品の構成には脱帽しかない……本当に凄い作品です。
次話の最初も別作品の話をしていたら察してください。

また、今は主に旧コルニアの王太子とミアレシティのトレーナーを往き来して、ピンクの悪魔になって私立月光館学園に編入する予定ですが、近いうちに超次元のサッカー選手にもなるはずなのでしばしお待ちを。

では本編どうぞ。


過去編 ~六体の最高傑作~

 その日は十六夜が天王寺に負けてから初めての試合の日だった。

 

「……な、何なんだよ……お前……!?」

 

 後半30分。既に試合は終盤である。スコアは1-0で十六夜たちのチームがリードしている。ただ1点差……試合時間もまだ残っている以上逆転は可能。まだ諦める時間ではない……はずだった。

 

「全然、夏前と別人じゃねぇか……!?」

「それ前半も言っていなかった?別人も何も、お前が知っているヤツが合っているか知らんけど?」

 

 相手のフォワードの驚く声に軽く答える十六夜。

 

6(シックス)はc4、8(エイト)はf4へ。サイドへのラインを切れ。7(セブン)はd3に下がりつつ牽制」

 

 十六夜から淡々と指示が飛ぶ。

 

「今だ。6(シックス)8(エイト)はそのまま当たりに。7(セブン)はこちら側を切れ。そしたら、4(フォー)5(ファイブ)は両サイドbとgのラインを2までサイドの選手に合わせて後退」

 

 相手は3人の間からパスを通そうとする……が、4番の選手にパスカットされ奪われた。

 この試合の観客たちはその光景を見て絶句している。なぜなのか?

 

「お前には何が見えているんだよ……!?」

「さぁ?何だろうな。それにしても観客も可哀想に。この試合、シュート数0で終わるとか、逆転の希望も何もないじゃん」

「そ、そんなことさせるかよ!何とか奪ってくれ!」

 

 それは十六夜の相手側のチームのシュート数がここまで0なことである。じゃあ、何故そんなことが起きているのか?

 

「取られたか……んじゃ、指示出しますか」

 

 最終ラインで淡々と指示を出していく十六夜。十六夜の指示で動かした味方たちによって、相手チームはシュートを打つ前に悉くボールを奪われている。

 

「何でも良い!俺にパスを出してくれ!」

 

 相手のフォワードがそう叫びながらボールを受け取りに下がる。そこに通るパス。ワントラップして振り向くと……

 

「読み通り」

 

 既にそこに居た十六夜にボールを奪われる。そのまま十六夜はポンっと前線へとパスを出す。

 たとえ、指示した味方たちを突破されたとしても十六夜が刈り取る。この試合で一度も十六夜はドリブルで突破されていなければ、裏も取られていない。難攻不落の要塞となっている。

 

「なぁ、気付いている?今のパスの価値。もう残り時間もないし、最後のパスだったかもしれねぇんだけどさ。そんな簡単に奪われて……これで負けたら戦犯はお前かな?」

「は、はぁ……?」

「だってお前がそっちのストライカーなんだろ?」

「そ、それはそうだが……」

「ストライカーは点を取ることが仕事だろ?仕事できないストライカーとかただのゴミじゃん。あーあ、こんなヤツに期待しているとか可哀想に……希望を託したらその希望を奪われて……」

「お、お前……!」

「あ、取られているわ。これはまだ分からないかもな」

 

 十六夜の挑発に簡単に乗る相手。ボールをもらいに行こうと下がって十六夜から距離を取る。

 そして、受け取って正面から十六夜と相対する。

 

(コイツ……!なんてプレッシャーだよ……!全く隙がねぇ……は?どうやって勝つんだよこんなヤツに……!?)

 

「どうした?あっちにパスコース空いてるぞ?」

 

 十六夜が指をさして、わざわざそれを教える。

 

「…………っ!」

 

(ど、どうする?絶対コイツには勝てない……それならパスを出した方が……)

 

「はぁ……」

「え……?」

 

 相手はフェイントを仕掛け、十六夜に挑みに行くと見せかけてパスを出す。悟られていない……そんな淡い期待を裏切るように、十六夜は足を伸ばしてパスが出された瞬間にボールを弾く。

 

「戦うことを恐れて、相手が用意した逃げ道から逃げようとするとか……ストライカーの素質ねぇよ」

「……っ!」

「ごめんな、つまらない遊びだったわ。ああでも、こんなに遊んどいてアレだけど、君の顔分からないから思い出せる気しないや」

 

 そう言い残し、十六夜は前線へと歩いて行く。

 

(な、なんだよアイツ……一度も俺のことを見なかった……一度も俺のことを敵と……いや人とさえ認識されなかった。人のことを見る目じゃない。アイツにとって俺は暇潰しのおもちゃだって……)

 

 後ろで膝をつく相手を残して。

 そして、試合終了のホイッスルが鳴り響く。1-0とロースコアに反して、圧倒的な差を見せつけて十六夜たちは勝利したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「反省会だな。まずはちゃんと約束を守ったようだが……お前たち、もっと点数を取れたというのは共通認識でいいな?」

 

 試合後の反省会。監督が前に立ってそう口にする。

 

「守備に関しては新たな戦い方が嵌まっている。そのおかげか相手からのシュート数は0と完封している。煽ってワザと隙を生み出す舐めプをする余裕があるくらいにはな。だから、問題は攻撃面だな。夏前までのウチと比べて格段に攻撃力が下がり、点数もたったの1点」

 

 何故終始圧倒していた試合で1点しか取れなかったのか。相手が守備型のチームだったからか?

 

「十六夜が攻撃参加しなかっただけでこのレベルだ。これがウチの本来の実力だ」

 

 この試合はある約束をしていた。十六夜は守備に専念し、攻撃に関しては干渉しない。そして、試合終了10分前まで0-0だったら、十六夜が点を決めるというもの。

 

「チャンスはかなりあったはずだ。こちらの守備はボールを外に出す……みたいな逃げをほとんどしていない。安定して中盤以降に送れていた。この攻撃力ではこの先も厳しいぞ」

 

 この後、監督からの言葉を受け、今回の試合の反省会を終えて解散する部員たち。

 

「お疲れー綾人。ちゃんと味方を動かせていたし、良かったと思うよ」

「お疲れ。そう言っても完璧ではなかったな。雑魚相手だったからシュート数0に押さえられたけど、実力が少しでもあればシュート数は増えていた。やはり、チェスの駒と違って、完璧には応えてくれない。そして、試合中に常に同じパフォーマンスを発揮出来ない。生きている駒って言うのを実感したが、そういう無機物に劣る要素があることを計算に入れないとダメだな」

「……君は本当に人を人だと認識していないな」

「あ、監督。お疲れ様です。約束は果たしましたよ」

「ああ、お疲れ。やはり君は優秀だ。……優秀ではあるが、確実に反発を招く、トラブルを引き起こす側の人間だとも再認識した」

「酷い言われようですね」

「学校では問題を起こさないでくれよ?」

「善処する方向性で務めさせて頂きたいと願いますね」

「まるで反省するつもりがないことが分かったよ……まぁいい。君が強さを示してくれている限り、何か起きても余程君に非が無い限りは不問とする」

「最高の後ろ盾感謝です」

「……一応聞いておくが、君がやり過ぎて、他の部員にボイコットされる可能性は考えているか?」

「……さっきの相手を見て思ったんですけど、心をへし折ればもっと簡単に操れるんじゃないかって。だから、ボイコットとか反発とかそういう余分なことを考えることすら起こす気をなくし、ただの従順な駒としてしまえばいいんじゃないかって。思考も感情も何も要らない……操り人形(マリオネット)として踊ってくれればそれでいいなって」

「君は悪魔か。そういうことを笑顔で言うんじゃない」

「あはは、冗談です」

「目が本気だったぞ?」

「どうせ、元々戦力としてはゼロとしてカウントしている状態なんです。プラスになることなんて期待していない。駒どもでも出来るような仕事を淡々と熟してくれればそれでいい。そして、それすらも失敗して多少マイナスになるくらいなら正直どうでもいい。ああこの程度かって下方修正するだけです。…………ただまぁ、行き過ぎた場合、どうするかは知りませんが」

「それは最終手段に取っておいてくれよ?君の言う駒の数は限りがあるんだから」

「そうします。減りすぎたら戦う場を奪われてしまいますからね。それに、今は駒のことより、自分を鍛える方が優先なので。では、失礼します」

「あ、ま、待ってよ!」

 

 颯爽と歩き出す十六夜を追いかける陽向。

 

「本当に前とは別人クラスの強さを手に入れている……とんでもない指導者も居る者だ。圧倒的な指導力に感服するしかない。……ただまぁ、アイツの悪い部分……悪癖みたいなところも出始めたのは少々問題だが」

 

 そう言って監督はある紙を見つめる。

 

「そんな問題よりも残りの部員のレベルが低すぎることの方が問題か。もしこのまま勝ち進めば、彼と当たる可能性が高い……そうなったとき、また暴走させないためには残りの部員のレベルアップは必須か」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「コーチ、今週は誰が相手だ?」

 

 コーチとの特訓18週目……気付けば夏は終わり、気温が落ち着き過ごしやすくなる。そんな秋の週末、試合終わりの十六夜はグラウンドでコーチに尋ねていた。

 

「まずは現状確認だな」

 

 そう言ってこの特訓を振り返るコーチ。

 

「6月頭からお前はオレが用意する相手と1対1を繰り返してきた。そして、8週目……8人目にしてお前は勝利をおさめることが出来た」

「そうだったな。今となれば懐かしい話だ」

「そこから9人目、10人目にも勝利を収める。そのまま11週目……そこでお前は1人目のヤツとリベンジマッチ。163勝37敗という結果で無事リベンジに成功した」

「そんな結果だっけ?」

「そのまま2人目、3人目にも順調にリベンジを果たしていき、先週では7人目に192勝8敗という圧倒的な勝利で幕を閉じる」

「急に過去の話をはじめて……ネタ切れって感じか?」

「いいや?少々方針を変えるって話だ」

「はぁ……?」

「ここまでお前は1対1で戦うことだけをやってきた。だが、残念なことにサッカーでの戦いは1対1ばかりとは限らない。1対複数、或いは複数対複数の局面も存在するのが事実」

「まぁ、1対複数でも、相手の方が人数が多いから卑怯……なんて、そんな頭の悪いこと言われても困るし、言う気もないしな」

「幸い、今のお前は1対複数でも勝つことが多いだろう。だが、それはあくまで超がつくほど格下がただ群れているからに過ぎない。ゴミが集まってただの大きなゴミになっているだけだ」

「なんて酷い言いようだ。まぁ、カスが集まったところで一掃してやるが」

「だが、格下には格下の、弱者には弱者の戦い方ってヤツがあるらしい。奴らは群れで戦うことで弱肉強食の世界を生き延びている」

「そうだな。そうじゃければ今頃生きていない生物がこの世界には何千何万と居るだろうな」

「ああ。奴らは自分が弱者だと自覚し、弱者なりに頭を使って立ち向かう。それがこの弱肉強食の世界における弱者の生き方だ。個じゃ生きられないと自覚した者たちの生き残る術……お前はそいつらを破壊する存在だ。弱者が群れて頭を使って戦おうと、絶対的な強者には勝てないと知らしめる存在になる必要がある」

「つまり、真っ向からねじ伏せろと?」

「もちろん、圧倒的な力でねじ伏せてもいい。だがまぁ……テメェは頭も立派なんだ。弱者の浅知恵程度、頭脳だけでねじ伏せられるだろ。ねじ伏せてテメェの理想の盤面を作ってから戦うことぐらい出来るだろ?」

「なるほどな……」

 

 と、話している2人のところに3人の男が現れる。その男は十六夜が8人目、9人目、10人目に戦った男たちだった。

 

「今日は1対2、1対3、2対2を繰り返してもらう。適当なところで切り上げさせるから好きにやってくれ」

 

 そう言ってそのまま去って行くコーチ。

 

『やろうか。まずはどうすればいい?』

『ああ。コイツと俺がお前と1対2で戦う』

『分かった』

 

 コートでは早速サッカーを始めている。

 

「今日はもう帰るが、お前はどうする?」

「え?あ、もう帰るんですね。しかも、カメラとかも置いていないし……」

「ああ。今回はお金を賭けていない。ヤツらはサレンダー……勝負から降りたからな。わざわざカウントする必要がない以上、確認のために撮る必要もないし、ヤツらがサボろうものならちゃんと耳に入るから監視って意味でも必要ない」

「そうなんですね……」

「それに、そろそろコイツらを使ってあることを起こす。そのための準備が必要だからな」

「あることって……彼女としては彼氏に危険なことはさせたくないんですが……」

「ははっ、心配いらねぇよ。せいぜいやることは…………潰して乗っ取ることだな」

「……え?」

 

 あまりにも不穏なことを呟いて去って行く。グラウンドではそんなことを知らない十六夜が喜々として戦っていた。

 

『クソ!もう1回だ!』

『ハッ!1対2でも余裕で勝てると思ってるんじゃねぇぞガキが!』

『相手は2人居るんだ。マッチアップのときも視野を常に広く、目の前の相手以外も見て……』

『そら次行くぞ!戦いの中で身体に覚えさせろ!』

 

 何度も何度もぶつかっていく。最近はそのレベルの相手に慣れたとは言え、それでも周りよりも遙かに高く潰しがいがあるのは事実。その笑みは部活の中では決して見られないものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「綾人、確かもうすぐよね?」

「何が?」

 

 ある日の放課後。美空と陽向と十六夜は教室で勉強会をしていた。そして、現在は休憩中である。

 

「あなたの試合。今度の土曜日でしょ?」

「ああ……って、先週も戦ったんだが」

 

 圧倒的な実力差を見せつけた初戦から十六夜のチームは勝利を積み重ねていた。順調に勝ち進んだ次の相手は……

 

「春のリベンジマッチでしょ?」

「何だ、知っていたのか……」

 

 天王寺率いるチーム。彼らとのリベンジマッチがすぐそこまで迫っていたのだ。

 

「今週の土日は暇だし見に行くわ。またあなたが暴走しないようにね?」

「……少なくとも神奈と雪には当たらない。それくらいの自制心は身につけたつもりだ」

「そうだとしても拘束具は必要でしょう?あなたというバケモノは暴走しかねないんだから」

「……正直助かる。ストッパーは多く居てくれるに超したことはないからな」

「……で?これ、どういう状況?」

 

 と美空が後ろでスマホでチェスをしている陽向に尋ねる。

 

「え?休憩中だからチェスを……」

「違うわ、あなたのことじゃない。私たちの下に居る男よ」

「え?どこに居るんだ?」

「あなた以外いないわよ」

 

 十六夜がキョロキョロと辺りを見渡すも2人の足しか見えない。

 

「お前らの下僕になりたい変わり者なんて見当たらないが?」

「誰が下僕と言ったのよ。物理的に下に居る男のことよ」

「ああ、それならオレのことか」

「何で私たちを乗せて腕立て伏せをしているのよ」

「え?筋トレ」

「……いや、何で私たち乗せているのよ」

「負荷をかけるための重り。危なくはねぇだろ?」

「ゆっくり動いてくれるから、落ちそうにはならないけど……」

「ふぅ……最近は神奈だけだと負荷が足りなくなったからな。正直助かる」

「ああ……神奈さんを乗せてやっていたのね」

「お前、重いから良い感じだな」

 

 スパーン!

 

 持っていたノートで頭を思い切りはたかれる十六夜。

 

「いてっ……何するんだよ」

「重いってストレートに言われるとむかつくのよ」

「いや、神奈より重いの事実だし」

 

 スパーン!

 

 持っていたノートで頭を思い切り以下略。

 

「いてっ……あの、両手も足も使えなくて抵抗出来ないからやめてくれない?」

「やめて欲しいならデリカシーゼロ発言を直すことね。いい?親友でも言って良いラインがあるからね?」

「この姿はどう考えても主人と下僕なんだけどな……」

「あなたがオレの上に乗ってくれって言ったからやっているのよ。そう、これは仕方なく。親友の頼みだから仕方なくやっているだけよ」

「その割にはノリノリに見えるんだけど……」

「ほら、口より身体を動かしなさい」

「へーへー」

 

 ガラッ

 

「十六夜、居るか?ちょっと動かして欲しいものが……」

 

 と、入ってきたのはサッカー部監督。一度両目の目頭の辺りを揉むと一言。

 

「特殊プレイなら家でやってくれるか?」

「だってよ雪。お前の性癖晒す場所を考えろだって」

 

 スパーン!

 

 持っていたノートで頭を以下略。

 

「ち、違うんです!これはそう!この男の趣味なんです!」

「は?オレにそんなマゾみてぇな趣味があるわけねぇだろ」

「女子2人を乗せて人間ベンチになっているお前が言ってもなぁ……」

「違います監督。オレはただおもり大と小を乗せて筋トレしているだけです」

「……あのな、十六夜?いくら何でも女の子のことをおもりって言うのは感心しないからな?」

「ちなみに綾人。どっちが大でどっちが小?」

「ああ?そんなの重いお前が大に決まって」

 

 スパーン!

 

 持っていたノートで以下略。

 

「今のは罠過ぎる……」

「せめて大きいって言いなさい?」

「胸が?」

 

 スパーン!

 

 持っていた以下略。

 

「あなたね……後ろで神奈ちゃんが自分の胸を見ているわよ?」

「そ、そんなことないもん!これから大きくなるから!」

「これ以上悪ふざけするなら……分かってる?」

「…………あい」

 

 と、乗っている女子の圧力に負ける十六夜。

 

「コントは終わったか?」

「先生、暴力事件です。自分は被害者です。生徒指導室で注意して、謝罪文を書かせてください」

「この程度で謝罪文を書くのなら、君は毎日謝罪文を書く事になるな」

「そんな、生まれてこの方暴力なんてただの一度も振るったことないですよ」

「言葉の暴力が酷すぎるんだよ。部内とは言え自重して欲しいものだ」

「オレは言葉で人を罵ったことなど一度もありませんよ?」

「何を寝ぼけたことを……この前の試合でも相手の選手を言葉とその実力で泣かしていただろ?」

「え?そうなんですか?なんか言ったっけな……?」

 

 あまりにも無自覚過ぎる男。とぼけているわけではなく、この男は本気で覚えていない……そのことを改めて理解する監督。

 

「気をつけてくれよ。言葉が過ぎてレッドカードで退場みたいなことが起きた日には、笑えないからな?」

「あはは、そんなことあるわけないじゃないですか。オレは言葉で相手を傷つけようだなんてつもりないですし。そんな人がカードを出されるなんてあるわけないですよ」

「……これは教師としての発言でもあるが、無自覚で発した言葉が人を傷つけることもある。自分は何とも思わなくても、相手を傷つけてしまうこともある。賢い君なら分かってくれよ?」

「分かりました、善処します。あ、運んで欲しいものでしたね。神奈、雪、降りてくれると助かる」

「はいはい」

「うん……」

 

 と、そのまま降りる2人。そして、

 

「よっと」

 

 そのまま立ち上がるのではなく逆立ちをする十六夜。

 

「では行きましょう」

「ああ、そうだな」

「いや、先生?この男の奇行を止めなくて良いんですか?」

「もう諦めたよ。この程度の奇行に一々言っていたらキリがないからね」

「じゃ、ちょっと行ってくるから。先始めておいてくれ」

 

 そのまま逆立ちで歩き始める十六夜。何事もないように先生と会話しながら教室を出て行く。

 

「……ねぇ、神奈ちゃん。綾人のヤツ、バカになっていない?」

「綾人さんはストイックだからねぇ」

 

 と、何処か遠い目をする神奈。

 

「筋トレのし過ぎで、脳まで筋肉で出来始めたかもしれないねぇ」

「……あり得そうなことを言わないでちょうだい。あの男、授業中は空気椅子しているし、休み時間は天井の出っ張りを掴んで懸垂しているし、昼休みは先生たちの雑用を手伝って走り回っているし、というか今もだけど最近は片足に2キロずつおもりつけて過ごしているし。というか平然と逆立ちで歩いて行ったけどおもりが4キロ分足についているのよね?何やっているの?」

「うーん、コーチの指導の熱と迫るリベンジに燃えている……のが、火力高すぎてあらぬ方向まで飛んでいった感じかな?」

「生徒会まで目撃証言やら投書での報告やらがもう何回来たか分からないわよ?」

「でも、最近は減ったんでしょ?」

「もう諦めたんだって。先生たちはアレでいて成績落としていないし、学業に支障をきたしていないから奇行のいくつかは目をつむるって言っていた。生徒は綾人が悪目立ちしすぎて、自分たちのちょっとしたことが問題にならないから良い存在だって」

「綾人さんが問題児過ぎて、都合の良い隠れ蓑にされているねぇ」

「後は、先生方の雑用系を昼休みに片っ端から熟してくれる。それがなくてもグラウンド整備しているから先生方もありがたがっているし、生徒会もそういう雑用が減って大助かりよ」

「まぁ、綾人さんの場合は全部自分のためなんだけどね」

「そうね。雑用系をやっているのもタスクを一気に抱えることで、頭の中で一瞬で整理し判断することとそれぞれを効率化することを鍛えるためでしょ?先生たちを楽させたいみたいな他者への思いが一切出てこないのが凄いわ」

 

 夏休みが明け、十六夜は優等生の仮面をつけることをやめた。そして、自由人なところを表に出し続けた結果……

 

「ただ、全部私に報告が来るようになったのは解せないわ」

「雪ちゃんが最後の砦だからねぇ」

「なんとかしてよ、彼女でしょ?」

「無理無理。綾人さんは破天荒なバケモノ……他人を振り回し我が道を行く怪物ですから。制御なんてとてもとても……」

「そうやって神奈ちゃんが甘やかすからあの問題児は……」

「えへへ」

「……優等生の仮面をつけていた頃が懐かしいわ」

 

 何処か遠くに目線をやる美空。十六夜綾人が問題を起こすことなど、小学校から何回もあった。最早日常レベルであるし、中学で部活を潰し、毎日のように生徒指導のお世話になっていたことに比べれば断然マシではある。あるが、この男の制御はどうしたら出来るか未だ分からずに居た。

 

「さっきも思ったけど綾人って、前より筋肉がついたよね?」

「これが約1年前の綾人さんです」

 

 と、陽向がスマホで十六夜の写真を見せる。

 

「いや、昔も決して細いわけではないけど……何というか締まったって言うの?今の方が腕とか脚とか、筋肉ついてますよって筋が見るからに出てるもの」

「ちなみに腹筋もちゃんと割れて、胸筋や背筋を含めた全身の筋肉も前より遙かに仕上がっている。体脂肪率も10%くらいかな」

「何かもう、ここまで来ると美しさを感じそうよね。アイツって地味に顔も悪くないから、体操服から腹筋がチラ見えしたときとか割と声上がっているわよ」

「ふふん、なんせ自慢の彼氏ですからね」

「えぇ。この学校はどちらかと言うと体育会系は少ないから、際立っているわね。そして、学力は学年2位、身体能力圧倒的な1位。文武両道で顔も悪くなく良い方で、身長も平均身長を超えていて、低いわけではない。普通だったらもっと女子から一目を置かれていて、近くに居る私たちなんて嫉妬の標的にされても不思議じゃない……けど」

「それらのプラスをマイナスにするレベルで言動と性格と行動が終わっていますからねぇ」

「とことん自己中心的で自由人でマイペース。優等生の仮面が消え、他の人の名前を覚えていないことが露呈されたけど、言い間違いなんて誰も気にしなくなったし、文字数とか1文字合っていただけでいっかって言われるほど諦められているレベル。更にはサッカー部が部活中の綾人の悪いところを流しても、実際はそれ以上に酷いというなんともいえない話つき。そのせいで私たちが綾人の保護者とか制御役とかバケモノを人間世界で生きさせている調教師とか散々な言われようをされて同情されているのよ」

「あはは……まぁ、綾人の良いところを知っているのはボクだけで十分なんで。ボクは訂正も更生もする気ないけどね。えっへん」

「はいはい。もう彼女がこんな感じだから何しても無駄よね。一応、私も本当に少しくらいは綾人の良いところを知っているけど?それはいいの?」

「雪ちゃんは良いんです。ボクの親友ですから」

「それなら良かった。まぁ、そんなマイナスなせいで、近づく人なんて居ない。中身さえ見なければって遠巻きに見ている人が多いわね」

「ほんと、あの綾人さんに近づく変人の気が知れないのです。頭おかしいんじゃないんですかね?」

「特大のブーメランが刺さっているわよ……はぁ。ほんと、もっと早くから私が矯正するべきだったわ……神奈ちゃん含めて」

「なぬ?何故にボクまで……?」

 

 既に十六夜綾人の奇行は学校でも有名になっていた。そして、それだけの奇行を許容する……というとアレだが受け入れてしまっている陽向神奈。

 親友2人が社交性やらなんやらを失っているのを見て、美空雪は嘆くことしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、試合当日の土曜日。その試合前に2人は並んで歩いていた。

 

「何だよ緊急招集って。試合終わってからにしろよ」

「ああ。全く、試合前の我らを呼び出すとは」

 

 十六夜綾人と天王寺将馬の2人……今日の試合で激突する2人のバケモノが試合前にも関わらずチームから離れていた。

 そのまま会場の一画へと歩みを進めていく。そこには4人の姿が既にあった。

 

「これで2人も来ましたか」

「おせぇぞお前ら!」

「うるせぇ。試合直前の人を呼び出すんじゃねぇ」

「それは正論だね~」

「でも、ちゃんと来たんだな」

「そりゃあ、あの人の召集を断るわけには行かないだろう」

 

 そこに居るのは十六夜と天王寺と同年代の4人。

 

「この面子が集まるのって何年ぶり?」

「あの少年団の卒団式以来だろうな。約5年ぶりってところだ」

「全員中学校違ったからね~あれ?高校もだよね?」

「うむ。ただまぁ、全員が同じ学校は無理だろう。特に2人がな」

「十六夜と犬塚の学力差が酷すぎる」

「うるせぇ!大体何で十六夜が頭良いんだよ!コイツから頭の良さを感じたことねぇけど!?」

「あぁ?るっせぇぞ。お前がバカ過ぎて感じれなかったんだろ?」

「我も此奴からは知性を感じたことはなかったがな」

「そうだな……まぁ、そういう意味では昔は全員そんな感じだったけど」

「あの頃はまだ青かった……で?いつになったら来るんだろうね」

 

 速水俊一、犬塚直人、加々美徹、星崎夏樹……十六夜と天王寺と同じ少年団出身にして、いずれもあのコーチに最高傑作と言わしめる存在。全員が一癖も二癖もあるような集団に……

 

「よぉ、ちゃんと揃ったようだな」

 

 コーチが悠々と歩いて合流を果たした。

 

「何だぁ?昔話にでも花を咲かせていたのか?」

「アンタが遅いって話だよ。で?本題は?オレと天王寺、時間ねぇんだけど?」

「うむ。流石に時間を取られすぎると支障が出てしまう……我が下僕が相手を蹂躙しかねない」

「そうだな。うちのゴミどもがテメェのところに勝てるわけがねぇし、大虐殺で対戦ありがとうございましただな」

「分かってるよ。んじゃ、本題だ。テメェら明日は暇だろ?オレに付き合え」

「「「はぁ?」」」

 

 その言葉に星崎以外が異を唱える。

 

「一応、今日コイツに勝ったオレのチームは明日試合があるんだが?」

「うむ。我は明日も試合があるぞ?なんせ、十六夜たちに勝つのだからな」

「こいつらほどバチバチじゃないけど、ウチも明日は犬のチームと試合らしいんだけど?」

「犬って略すな!……って対戦相手速水たちだったのか!?」

「ワタシは明日、芸術に向き合う予定なのでね。暇ではないのだよ」

 

 口々に暇じゃないことを伝える。

 

「どいつもこいつもめんどくせぇ野郎どもが……一応聞くが星崎。テメェは?」

「アタシ?アタシは特に何もないよ~」

「テメェら、星崎を見習え。素直にオレに従うって言っているぞ」

「そんなこと言ってないんだけど!?」

「つぅか、何するつもりなんだよ。ぶっちゃけ、それ次第なんだが?」

「ああ?電話で伝えなかったか?」

「「「全く」」」

 

 用件を特に伝えることもなく、ただただ集められた6人。その姿を見てようやく腑に落ちた様子のコーチ。

 

「ああ、言ってなかったか。テメェらの試合を組んだ」

「「「は?」」」

「正確には星崎はベンチスタートになる予定だが……明日はとあるユースチームと試合をする。お前らを使うからそのつもりで準備しておけって話だ」

「「「…………」」」

 

 サラッと大事なことを口にするコーチ。淡々と話を進めているが……

 

「以上、解散。明日は現地集合な。時間と場所はメールで……」

「待てやコラ。詳細を教えろ。この6人で試合だと?オレたちが何故ユースチームと試合をすることに?」

「数合わせは確保してある。歴とした11対11のフルタイムだ」

「試合の目的を教えろって言ってんだよ」

「目的……か。そんなものを教えてもお前らは惹かれない。だから、惹かれる答えを言ってやる」

 

 そう言って一呼吸置いてコーチは告げた。

 

「テメェら、溜まってんだろ?チームへの不満、対戦相手への不満。低レベルでつまらなくて飽き飽きしているだろ?……そろそろ、お前らを相応しい舞台で戦わせる。お前らを好きなだけ暴れさせてやる。そんな戦場へあがるための必要なステップだ」

「「「…………っ!」」」

「つぅか、明日試合だぁ?テメェら、今のチームなんてどうでもいいだろ?ゴミとカスの溜まり場みたいな連中なんざドブに捨てろ。そんな価値のないクズどもよりもっと潰しがいのある連中が隣に居る。どっちが面白そうか手に取るように分かるだろ?」

「……それ言われたら乗るしかねぇだろ」

「うむ。確かにこっちの方が面白そうだ」

「確かに!お前らとやる方が楽しそうだ!」

「ま、あのチームに尽くす義理ないし」

「やれやれ。あなたたちがそう言うのなら久し振りに戦いましょうか」

「お!ようやくやる気になったね~でもさ、コーチ。アタシ、ベンチスタートなの?」

「流石にな」

「流石にって?」

「お前、女だからな。向こうも野郎しか居ねぇし、ベンチスタートだ」

「ぶーぶー!性別で差別は今どき問題だぁ!」

「むくれるな。……いいか、お前はリーサルウェポンだ」

「りーさるうぇぽんってなんだ?」

「秘密兵器、切り札ってとこだろ」

「おぉ……何か格好良いね♪それなら文句ないよ♪」

 

 と、うまいこと乗せられ言いくるめられた6人。

 

「改めて解散だ。テメェらはさっさとゴミどもの下へ帰れ」

 

 シッシッと手を払って2人を催促する。

 

「んじゃ、今日は前哨戦ってところか」

「うむ。明日のためのウォーミングアップくらいにはなってくれるか?」

「ハッ、それはこっちの台詞だ。夏前のオレだと思ったら火傷するぞ?」

「そうか……悪いが我も寝ていたわけではないのでな。捻り潰してくれよう」

 

 そのまま2人は戦場へと向かう。まもなく、試合が開始するのだった。




十六夜綾人
 問題児、本領発揮し始める。試合を重ねる度に挫折している選手が現れても当の本人は認知していないし、興味も無い。彼の言葉が追い打ちをかけていても、当の本人はまったく覚えていない。
 ついに高校でも暴走し始めた。理解ある周りのお陰で辛うじて問題になっていないという綱渡り状況。どこまでもマイペースで自分と認めている存在のことしか眼中にない。そもそも、多くの人のことを人として認識していないため……ただ、人と認識している相手に対しては割と素直に従っている。
 なお、研究授業や高校見学と言った外部が関わるときは十六夜の存在を隠すべく、生徒会室に幽閉するようになったのは別の話。

陽向神奈
 こちらも割とマイペースより。十六夜が問題を起こすのはいつものことなので、その横で平然と談笑している。なお、自分の言うことを十六夜が聞くことが多いと分かっている上で黙っているので、十六夜の奇行が減らないのは彼女のせいだったりする。

美空雪
 苦労人ポジション。相変わらず、十六夜のことをもっと早く矯正するべきだったと後悔している。そして、陽向のことももっと早くから関わって矯正するべきだったと後悔し始めた。相変わらず十六夜の尻拭い担当である。

監督
 こちらも割と苦労人。十六夜が優等生の仮面をつけることが出来ることを知っているので、よほどの問題が起きない限り止めはしないが、いつそのよほどの問題が起きるか分からず内心ハラハラしている。自分の言うことは割と素直に従ってくれるので、可愛い生徒と思っているが、他の先生は1人を除いて言うことを聞くどころか認識すらしていないのでどうしたものかと頭を抱えている。

コーチ
 十六夜の問題児なところの原因と言える存在その1。この人の思想言動行動が十六夜に影響を与えたのは言うまでも無い。よく考えなくてもこの男は現代社会で全うに生きるのに向いていない。そして、その男の影響を受けた教え子たちはそれぞれが癖があるよう。

次回、割と過去一レベルで酷いサブタイトルがつきます。まぁ、本編でこのサブタイトルを超えることは割と確定していますが……
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。