超次元サッカーへの挑戦   作:黒ハム

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過去編その13……ちゃんとした試合はもう少し後にやります。


過去編 ~強制敗北イベント~

 天王寺との再戦翌日。あの後は神奈による反省会と雪によるお小言を貰いながら帰宅をした。

 そして、昨日集められたメンバー含む11人の選手がそのグラウンドのベンチにいた。

 

「定刻になったな、さっそくミーティングを行う。まず、フォーメーションと方針を伝える」

 

 そう言って見せられたボードには、12個の磁石。6つには選手の名前が貼ってあって、それ以外は何も貼っていない。

 

「キーパーはユース側のサブキーパーを借りる」

 

 ボードにはサッカーコートの絵が描かれていて、そこに並べられた磁石たち。フォーメーションは5-4-1の1トップ。オレはDMF(ディフェンシブミットフィルダー)だな。そして、宣言通りベンチスタートの星崎、CF(センターフォワード)の犬塚、OMF(オフェンシブミットフィルダー)の加々美に、RSB(ライトサイドバック)の速水。そして……

 

「コーチよ。何故我がCB(センターバック)なのだ?」

「あくまで実験的なフォーメーションだ。まずは聞け」

「むぅ」

 

 天王寺がCB……コイツの体格なら妥当と言えば妥当ではあるが本人は不満そうだ。

 

「DF陣には2つルールを与える。1つ目は最低2人が後ろに残れ」

「要はDF陣の前線参加は2人残ればご自由にと?」

「ああ。それに、5人中2人ってわけじゃない。今回なら十六夜がポジションを下げれば4人上がっても咎めはしない」

「ほう……2人残るってルールを守れば誰が残っていても良いのだな」

 

 なるほど……実質8人が攻撃参加しても怒らないと。まぁ、ルールを決めておかないとオレたちなら全員で攻撃しかねないし、何も連携を取らないからか。

 

「それと2つ目。最終ラインの決め方だ。このフォーメーションだと天王寺。お前が最終ラインで、他のヤツは天王寺より前に居ろ」

「む?それだと我が攻撃参加出来ないではないか?」

「ずっと後ろに居ろってことだろ?王様(キング)

「ただ、あくまでそれは平常時……天王寺が前線に上がるなら十六夜。お前がラインキーパーになれ」

「要は、上がるなら此奴に仕事を押しつけてからってことだな。よし、十六夜、我は上がるから任せたぞ」

「早すぎるし、つぅか、押し付けんな。何故DFじゃない人間がラインキーパーを……」

「速水は都合上、ラインキーパーにさせるわけにはいかない。残った中で信用できるヤツに任せるためだ。そして、前線は好きに暴れろ。以上だ」

 

 と、あまりにもざっくりとした指示だがこの方が気楽だ。好きなやつが点を取って良いってことだな。……天王寺のせいでオレの攻撃の出番は少なそうだが……

 

「あの……監督、自分たちは?」

「ん?ああ、お前らはこの磁石のどっかにいろ」

「「「はい……?」」」

「どれでも一緒だろ。好きにしろ」

 

 そう言えば星崎はベンチで、キーパー固定な以上、5枠空いているのか……本当に数合わせなんだな。まぁ、ぱっと見どれでも一緒なのは同意見か。早くゼッケンつけて違いを強調して欲しい。本当に分からないから困る。

 

「次に注意事項だ。キーパーは使えないものとして考えろ」

「向こうのサブキーパーだもんな~まぁ、一切信じてねぇけど」

「それでいい。シュートは撃たれたら入るものとしてカウントしておけ。止めてくれるなんて甘いこと思うな。それとゴールキックは天王寺か十六夜がやれ」

「おう!」

「へいへい」

「フリーキックとコーナーキックは基本加々美。行けるな?」

「お任せを」

「スローインは好きにしろ。あと、こちらが指示することはないと思え。わざわざ指示を出すまでもないだろ」

 

 そう言ってコーチはオレたち全員を……否、オレたち6人を見てその言葉を告げる。

 

「最終確認だ。いいか?この試合、勝利は目標じゃない。……ノルマだ。いいな?」

「「「はい(ああ)(おう!)」」」

「行ってこい。そして、見せてみろ」

 

 ということで普通の試合同様挨拶を交わす。キャプテンが決まっていなかったがじゃんけんに負けた3番のゼッケンをつけたヤツに決まった。そして、なんだかんだで相手のキックオフで試合を始めることになった。

 

 ピー

 

 試合開始のホイッスルが鳴り響く。一応、観客も居る様子だが……うん。ほぼ全員が相手側で完全アウェイ。それだけならいいんだが、オレたちはそもそもロクにウォーミングアップすらしてない。辛うじて最低限のストレッチをしたくらいだし……集合時間1時間ぐらい間違えているんだよな……。

 

「ほいっと」

「は……?」

 

 そんなこと考えながら目の前の相手からボールを奪う。あまりにも読みやすくてあっさり奪えてしまった。

 

「んじゃ、行こうか。3(スリー)はg4へ。加々美はd5へ進め」

 

 そして、3番にパスを出す……が、何故かそこに3番は居なかった。そのままボールはラインを割って外へと転がる。

 

「……え?反抗期か?」

「何だい?今のは?」

「加々美も反抗期?何で指示に従わねぇの?事と次第によってはぶちのめすぞ?」

「君の言葉が理解できなかったのだが?ぶちのめされたら訴訟を起こしてもいいかい?」

「そんなわけ……あ、ごめんごめん。普段の感覚で指示を出していたわ……うーん、感覚で理解してくれない?」

「無理だね」

 

 そんなことを悠長に話していると相手のスローインで試合が再開している。

 

「呑気にお喋りしているんじゃねぇ!」

 

 ただそこは速水の領域。彼が速攻で詰めると……

 

「うむ。仕方あるまい、働いてやるぞ」

 

 正面から天王寺が挟み込む。天王寺のタックルを避けた隙を速水が刈り取る。

 

「ぬぅ、我のボールを……!」

「おせぇよ王様(キング)

 

 そう言って走り始める速水。ボールを前に蹴ると自分でそれに追いつく……足の速さがあるから出来る芸当。

 

「……へぇ」

 

 相手選手がスライディングをしてボールを弾く。ボールはラインを割っているが……

 

「速水の足に一発で対応……ねぇ。あの人、相手にオレたちの情報を流したか?」

 

 あの位置でいきなりドリブルを始めることも、そもそもその足の速さも知っていなければあんなに即対応なんてできないだろう。現にオレの計算よりも速かったその足にドンピシャで追いついたとなると、情報を持っている線が濃厚……

 

「ふむ……我がスローインをやろうじゃないか!」

「はぁ?今のお前、一応CBだぞ?」

「そんなこと構わんのだろ?行ってくるから最終ライン任せたぞ」

「へいへい。いってらいってら」

 

 と、そんなことを考えている間にたったったと小走りでボールを取りに行く天王寺。そして……

 

「オラァッ!」

 

 雄叫びと共に、まるでレーザービームのようにゴールへと向かうボール。

 

「はぁ?」

 

 勢いよく飛んでいくボールの行く先を眺めていると……

 

「ナイスパスだボケ!」

 

 レーザービームのように飛んでいったボールにボレーを合わせたのは犬塚。そのままゴールの中へとボールは入っていった。あまりの光景に相手が動揺している中……

 

「何やってんだお前さんは!我がゴールを決める予定だったんだぞ!?」

「はぁ!?何言ってるんだバカ王様(キング)!俺様が決めれば全て解決だろうが!」

「なわけあるか!我が決めるのが一番だろ!何言ってるんだこの駄犬が!」

「知らねぇよ!今の1点は俺様のものだ!お前は俺様に華麗なアシストをしたんだよ!」

「我が華麗なアシストだと!?我のゴールを奪った泥棒犬が!」

「つぅか犬犬うるせぇ!犬塚って塚を略すな!」

 

 こっちでは味方2人が馬鹿みたいな言い争いをしていた。いや……ゴールまで40mは離れていたのにあんな殺人級のスローインをしたバカも、打ち合わせも何もなしに合わせたバカも凄いとは思う。凄いとは思うんだが……

 

「アホだろあいつら。つぅか、一応、スローインで直接決めてもノーゴールだから、やったことは正しいんだが……」

 

 おそらくあのバカ王は相手キーパーにでもぶつけてゴールに入れる算段だったのだろう。あの王様はスローインを殺人級に変えるとか、つくづく恐ろしいヤツだ……

 

「ああ、何と醜い言い争いだろうか……だが、今のゴールは美しい。その美しさ、このゴールには特別に50点をあげようじゃないか」

「お前が他人に付ける評価にしては高いな、加々美。ちなみに残りの50点は?」

「ワタシが決めていれば100点だった。犬では美しさが足りないよ」

「…………」

 

 懐かしいなぁ……こいつらとやるサッカーってこんな空気感だったな。うん、完全に思い出したわ。

 不満たらたらな天王寺がポジションにつく。一方向こうでは、今のはたまたま……そうやって自分たちを鼓舞している選手たちが見え、周りには今のは仕方ないから切り替えろという観客の声援が聞こえる。

 開始早々1-0となった状態での相手のキックオフ。

 

「おい、十六夜」

「何だよ」

 

 何故か隣にいる王様(キング)に声をかけられる。お前、CBって何処に居るのが普通か知っている?何で平然と隣に居るの?

 

「我にスローインをやらせろ。大至急だ」

「えぇーめんどくさ」

「ちなみに射程は40~50m。短いと邪魔が多く、遠いとコントロールができない。いいな?」

「へーへー。後でオレの言うことも聞けよ王様(キング)?」

「聞く義理はない!」

「いや聞けよ!折れてやってるんだから聞きやがれこの自己中!」

「お前さんも自己中だろうが!」

「うっせぇぞバカども!さっさとボールを奪いやがれ!そして俺様に献上しろ!」

「テメェは黙って前線にいやがれ犬!」

「ハウスだ犬!」

「犬塚だ!人を勝手に犬扱いすんじゃねぇよ!」

 

 ギャーギャー言い合っている間にも相手が迫ってきてる。ああもうこのクソ自己中どもが……

 

「見え見えのドリブルだっての!このクソ王様(キング)!貸し1だオラァッ!」

 

 ボールを奪うと、そのままドリブルでライン際に向かって運び、シュート性の強烈なパスをライン際(丁度良い位置)に居た相手に出す。ボールは相手に当たってそのままウチのスローインになる。

 

「速攻じゃ!」

「おっしゃあ!これでもう1点だ!」

「誰がお前さんに渡すかぁ!」

 

 レーザービームのようなスローインが再び相手ゴールを襲う。しかし、2回目のせいか、相手の対応は早く犬塚には2枚のディフェンダーがついていて……

 

「ッチ、コーナーキックしか取れなかったか」

 

 理不尽なスローインは相手選手に激突し、コーナーキックになった。本当に理不尽だと思う。

 

「なぁ、十六夜」

「何だよ速水。と言うか、何でお前も隣にいるんだよ」

 

 ペナルティーエリアから少し外れたところで、こぼれ球を狙おうとしていると何故か速水が隣にいた。君たちDFってどこに居るか知ってる?え?もしかして、オレの味方ポジションをご存知ない?

 

「何処に居てもいいだろ。で、このコーナーキックだけど、誰が点取ると思う?」

「蹴るのが加々美ならアイツが……って言いたいけど、犬じゃねぇの?アイツの嗅覚と反応速度やべぇし」

「そうか?僕は加々美が直接決めると思うな。あいつのコントロールのエグさは知ってるだろ?犬では届かないところから決めるんじゃないか?」

「そう思うと悩むな……というか、お前は参加しなくて良いのか?」

「バカ言え。あんな密集地帯じゃ僕のスピードは活かせない。精々、こぼれ球を狙うさ」

「オッケ-。もし、こぼれ球来たら右サイドはお前が、左サイドはオレが取りに行く。これが一番合理的だろ?」

「ハッ、僕は競争してやってもいいんだぜ?」

「あぁ?平和的に解決してやろうとする優しさが分かんねぇのかよ」

「はぁ?ノロマなお前に任せたら日が暮れるだろうが」

「走ることしか脳がねぇテメェと違ってこっちは頭使えばその差は埋まるんだよ」

「ああ?だったら、それじゃ埋まらない差を見せてやろうか?生憎、走ることしか脳がないからな」

 

 オレとスピードバカがメンチを切る。そんな中、ゴール前には見覚えのある巨漢の姿が見えた。

 

「ところでさ……気付いたか?」

「ああ、今気付いた……」

「「王様(キング)がゴール狙って前に居るんだけど」」

 

 おい、最終ラインの伝達を忘れてんじゃねぇ。そう思っていると、あげられたコーナーキックは美しい放物線を描きながらゴールへと向かう。しかし……

 

「オラァッ!」

 

 誰も届かないはずのそのキックにヘディングを強引に合わせた天王寺。これで2点目だが……

 

「あの王様(キング)。ディフェンダー3人吹き飛ばしたぞ」

「だな。アイツの突進とジャンプの勢いだけで吹き飛ばしやがったな」

 

 あまりにも暴力的な入れ方に敵のDFは恐れを抱く。だが……

 

「ああ、折角のワタシの美しいゴールが……こんな泥臭いゴールは認められない!こんなのノーゴールだ!」

「ハッハッハッ!お前さんのゴールは我が頂いたぞ!光栄であろう?」

「おいコラバカ加々美!何でコイツにパス出してんだよ!」

「戯けが!シュートに反応するこの王様(キング)が意味不明なのだ!」

「んなもんコイツが取れる所を通ったら終わるに決まってんだろ!」

「くぅ……もっとカーブをかけて、もっと頭上から……」

「次も期待して居るぞ演出家。我の舞台を輝かせてくれよな!」

 

 嘆く加々美、笑う天王寺、怒る犬塚。点を決めたのに喧嘩を始めやがった。

 

「ッチ、来なかったな」

 

 喧嘩する味方を置いてさっさと自陣へと帰る速水。ギャーギャー言い合っている3人と我関せずって感じでポジションのところで走るフォームを確認し始めた速水。

 

「こいつらダメかもしれねぇ……」

 

 オレはこんな仲間たちの姿を見て天を仰ぐことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい」

「ひゃい!?……ってコーチ?何でここまで?監督は良いんですか?」

「この程度のチームに監督は必要ねぇよ」

 

 フィールドでは2点目をあげている中、コーチは観客として見に来ていた陽向の下を訪れていた。

 

「神奈ちゃんの知り合い?」

「うん……今、綾人のチームを率いているコーチさん」

「ああ?十六夜の新しい女か?」

「違います」

「何でもいいが、お前らそこからじゃ見にくいだろ?もっと近くで見ねぇか?」

「へ?」「はい?」

 

 と、そのまま陽向と一緒に来ていた美空の2人を連れてベンチに戻るコーチ。

 

「もぉ~アタシ1人にするなんて寂しいじゃん……ってコーチ!?誘拐してきたの!?」

「なわけあるか。綾人の女その1と2だ」

「あややんの女!?」

 

 ベンチに座っていた星崎が目を輝かせながら2人に近付く。陽向は急に近付かれてか美空の陰に隠れようとして……

 

「ほほぅ。あややんも隅に置けないじゃん♪まさか、女の子を2人も侍らせているなんてね♪」

「私は付き合っているわけではないのだけど……」

「え?そうなの?」

「そうよ。彼とは親友だけど、彼女ってわけじゃ……」

「良いじゃん♪あ、アタシは星崎夏樹!よろしくね!えっと……」

「私は美空雪。こっちの隠れているのが正真正銘綾人の彼女の陽向神奈。ほら、神奈ちゃん、自己紹介して」

「あ、あわわ……ひ、陽向神奈です……よ、よろしくお願いします……」

「よろしくね♪なーちゃん!」

「な、なーちゃん!?て、手が……」

 

 ぶんぶんぶん、星崎が陽向の手を取って上下に振る。友好の握手だが、陽向は呼び方含めて混乱が先に来ている。

 

「ゆっきーもよろしくね♪」

「よ、よろしく……」

 

 ぶんぶんぶん、同じく美空の手を取って上下に振る。余りにも距離を詰めるのが早い彼女に美空は混乱を隠せない。

 

「こ、これが陽キャのギャルの力……ぶるぶる……」

「初対面とは思えない……理解出来ないわ」

「え?だって、あややんの彼女と親友でしょ?じゃあ、アタシの友達だよ!」

 

 星崎の笑顔を直視出来ない陽向と美空。友人が少ない彼女たちにとって、星崎の存在はあまりにも眩しかった。

 

「でも、コーチ。よく覚えていたね?あややんの彼女って言っても、興味の無い人間の顔を覚えられないと思うけど……」

「その1の方はその界隈じゃ有名人だからな。十六夜の昨日の指揮官のプレーを叩き込んだのはこの女だ」

「えぇ!?そうなの!?凄い凄い!」

「そ、そんなことは……」

 

 きらきらと目を輝かせ陽向を見る星崎。その眩しさから顔を背けつつ声を出す。

 

「確かこの人たちが綾人の言っていた仲間……」

 

『テメェ!今、僕のゴールを横取りしたよな!?』

『その通りですが何か?あのままあなたが決めるのでは美しくなかったので』

『つぅか、全部俺様が決めるつもりだったんだぞ!お前らは俺様にボールを集めればそれでいいんだよ!』

『そんなわけあるか!我が決めるのが確実だ!我にボールを献上しろ!』

『あーもう、はいはい。喧嘩はそこまでにして……』

『黙ってろ腑抜け!お前は関係ねぇんだよ!』

『そうだ!貴様は守備だけしていればいいんだ!』

『全く、これだから美しさが分からない人間は……』

『お前は黙って守備だけしていろ!』

『上等だコラァ!売られた喧嘩は買う主義なんだよ!』

 

 5人の男たちがギャーギャー言い合いながら戦っていた。現在、スコアは3-0である。

 

「アハハ☆懐かしいねぇ~昔もあんな感じでサッカーしていたっけ」

「何部外者面しているんだ。お前もあそこに混ざっていただろうが」

「ふふ~ん、アタシはお姉さんだからね♪お子様たちとは違うんだよ☆」

「そうかい」

「……っていいのアレで。仲間割れ勃発しているんじゃないの?」

「何も縛らなきゃああなることぐらい想像に難くない。前半は好き勝手遊ばせるつもりだったし、どうでもいい」

 

 そう言ってコーチは足を組み、肘置きに肘をついて、ふああとあくびを1つ。

 

「でも、凄いわね。綾人とある意味で張り合っている」

「そりゃそうだろ」

 

 そう言ってコーチは指をさす。指をさした先では十六夜がボールを強引に奪っていた。

 

「十六夜綾人。テメェらも知るように実質元帰宅部。吸収力なら断トツで、習得スピードは間違いなくナンバーワン。ステータス的には全てを伸ばした万能型選手で、どんな色にでも染まれるジョーカー。まだまだ無自覚なところが多すぎる問題児」

「あはは♪確かにあややんって昔から物覚えはいいんだよね~」

「まぁ、アイツが問題児なのは知っているわ。我が校で間違いなく一番よ」

「そうなの!あややんやるじゃん!」

「やるじゃんって……」

 

 その十六夜の後ろを走るのは天王寺。

 

「天王寺将馬。元ラグビー部の筋肉バカの巨漢。恵まれた体格を最大限活かす身体作りをし、パワーに特化したフィジカルモンスター。だが、本気でぶつかると相手を壊すと知っているため無自覚にセーブしてしまっている問題児」

「え?あれでセーブしているの?」

「そうだと思うよ。ほら、雪ちゃんももし幼稚園児と遊ぶってなったら、本気は出せないし、相手の怪我のことを心配してしまうでしょ?それと一緒だよ」

「その例分かりやすいね!流石なーちゃん!」

「え、えへへ……」

 

 そのまま別のところに指をさす。そこでは加々美が悠々と歩いていた。

 

「加々美徹。元弓道部、現美術部のパサー。繊細なボールコントロール技術と独創的な発想でフィールドにアイデアをぶち込むアーティスト。ただし、モチベーションのムラが一番激しく、やる気を出さないときはとことんやる気を出さない問題児」

「まぁ、とーるは無気力ってわけじゃないけど、やる気を出さないと何もしないからね~」

「あの人、さっきから美しいとか美しくないとか言っていない?」

「うん。とーるにとってはサッカーは一種の芸術。自分の作りたいものを表現するためのツールに過ぎないからね」

「中々、クセがありそうね……」

 

 そのまま別のところでは速水がクラウチングスタートの体勢を取っている。

 

「速水俊一。元陸上部の長距離走の選手でうちの飛び道具。無尽蔵のスタミナと安定した足の速さで最後までペースを落とさずに走りきるスピードスター。ただし、1人が強すぎて、他人との連動が一番出来ない問題児」

「確かに、あの人今まで見た人の中で一番足が速いわ」

「昔からいっちーは足が速かったからね~もうアタシじゃ勝負にもならないよ」

「勝負って……綾人よりも速いんでしょ?それならうちの学校単位でも勝てる人は居ないわ」

「そうなんだよ!長距離走の選手って言っても短距離走もダントツで速かったからね!スタミナも一番あるし、走らせたら誰にも止められないよ!」

 

 そして、オフサイドラインギリギリの最前線では犬塚が待機をしている。

 

「犬塚直人。元バレー部のリベロでウチの特攻隊長。脳を介さないことが得意な野生児で反射神経、反応速度はトップクラス。ゴールに対する嗅覚は誰にも負けない野生児。ただし、バカすぎるせいでこっちの戦略を理解しない問題児」

「なんて酷いことを……」

「まぁまぁ♪ぽちは頭脳と引き換えに反射神経に特化しているからさ♪」

「でも、努力すれば頭の方は少しでも改善されるわよ?勉強も頑張れば……」

「無理無理。ぽちほどじゃないけどアタシも勉強はあんまり出来ないし」

「えぇ……」

 

 と、ここまで十六夜含む5人の特徴を伝えられ頭を抱える美空。

 

「今のところ問題児しか居ないわね……他の人は?」

「他?数合わせの名前や特徴なんて分かるわけねぇだろ」

「…………」

 

 あまりにもドストレートな物言いに美空が頭を抱える。

 

「そもそも、コーチは見分けついてないもんね♪」

「当たり前だろ。目が2つで鼻と口が1つずつとか一緒じゃねぇか」

「へいコーチ。あの人たち、耳もちゃんと2つあってそこも一緒だぜ☆」

「なおさら違いがねぇ。オレはクローンを5体集めてきたのか?」

「あはは☆人への認識が終わってるね♪」

「…………」

 

 およそ常人では理解出来ないことを言っているコーチに対して更に頭を抱える美空。そして、理解する。十六夜綾人はこの人の影響を色濃く受けたためにあんな感じになったのだと。一応、陽向の方を見るが苦笑いをしている。

 

「いやぁ、問題児と問題しかないコーチのお世話は手が掛かるぜ☆」

「テメェも問題児に決まってるだろうが。何でオレのコマどもは問題を抱えているヤツしかいねぇんだ」

「そんなの集めた人が問題だらけだからでしょ♪ほらほら、子は親に似るって言うからさ♪」

「テメェらの親になったつもりはねぇ」

 

 あははと笑う星崎と不機嫌そうに鼻を鳴らすコーチ。

 

『テメェ速水コラァ!オレのボール奪いやがったな!?』

『僕の走るコースにボールを置いたお前のミスだな!』

『これで4点……そろそろ帰っていいか?』

『加々美、お前さんは最後までフィールドには居ろと個別に釘を刺されていただろ?』

『お前ら……!俺様が決めるって言ってるだろうが!どいつもこいつもゴールを奪いやがって!』

 

 フィールドではお互いに言い合う5人。仲間割れがデフォルトで、他の味方は数合わせ、敵は遊び道具で眼中にない。

 観客からは必死の応援が相手に飛ぶが一切気にしていない。相手の実力が低いと見るに、すぐさま矛先を内側に向けた面々の様子を見てコーチは……

 

「前半終わったら起こしてくれ」

 

 アイマスクをつけて寝始めた。あまりにも無法地帯。あまりにも無法すぎる彼らの蹂躙劇は前半終了まで続くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、ハーフタイム。ベンチには11人の選手が揃っていた。

 

「お前ら5人は個々で突出している。だが、所詮個の力には限界がある。いいか?他の突出しているヤツを自分のために利用しろ。自分の理想のために他の奴らを使え。自分1人じゃ見えない景色を、他人を踏み台にして叶えてみせろ。あんなヤツら程度、テメェらの実験相手に過ぎねぇぞ。ただの勝利に価値はねぇ。この程度で満足してるんじゃねぇぞ」

 

 そう言って、コーチはボードを見せる。4-3-3……右から速水、天王寺、犬塚が3枚フォワードとして前線に立ち、加々美と星崎がOMFとして中央に、その後ろDMFに十六夜がいる。

 

「後半は星崎も参加させる」

「よっ!待ってました☆」

「お前ら6人は状況に応じてポジショニングを変えろ。あくまでこれは基準だと思え。そして、星崎が入る都合上相手キーパーは解雇し返却した。以上だ」

「えっと、キーパーは……?」

「んなの数合わせのテメェらで勝手に埋めとけ。残り時間はダッシュな」

 

 そのまま立ち上がるコーチは笛を持って選手たちを引き連れフィールドへ。

 

「はじめ」

 

 選手たちがエンドラインに立つとそのまま反対側のエンドラインに向けて全力で走り始める。

 

 ピッ

 

 笛を鳴らすと選手たちはその場で反転し、逆方向へと走り始める。

 

「流石だね」

「え?何が?」

「綾人さんが一番じゃないところ。うちのサッカー部でやらせたら綾人が一番距離を走ることになるし、速さもダントツ。だけど、そうなっていない」

 

 速水が涼しい顔で先頭を走り、次点で十六夜、犬塚、加々美、天王寺、星崎と続く。

 

「……前半、星崎さん以外は出ていたはずなんだけど……それでも全然余裕そうね」

「うん。一応、残りの人たちもうちの部員に比べれば速いけど、あそこだとついて行けていないようだね」

 

 ピッ、ピッ、ピッ……ホイッスルが鳴るたびブレーキをかけて逆方向へと走り始める。一応ハーフタイムではあるが誰一人休んでいなく、消耗をほとんど見せていない主力陣。後半もあるはずなのに……そう観客も相手選手も思っている。

 

「ただまぁ、何というか……あれが綾人の言う仲間なの?正直、喧嘩しかしていないと思うんだけど……」

「あはは……」

 

 あの後、犬塚のシュートモーション中に十六夜が割り込んで1点をあげて5-0。その後は内輪揉めが加速した結果、ゴールは決まらなかったが、たった5人で圧倒しているのは誰が見ても分かる事実だった。

 

「ただ、綾人さんと真正面から殴り合える時点で、ある種対等だとは思うけどね」

「そうね……ちゃんと反抗できるだけの実力を示しているもんね……」

 

 あの5人はお互いからは奪われることがあるが、それ以外からは奪われることがなかった。相手からも数合わせからも奪われることがなく、寧ろ奪いに行く。見ているのは彼らだけで他はただのモブ。点差が5点で押さえられているのは単に彼らが手を取り合うことなく敵対しているからに過ぎない。

 

「これがあの人のサッカーなの?」

「うーん、まだ実験段階だと思うよ。あくまで成長した彼らの初戦……おまけに相手は格下で本人たちのやる気の矛先が内側に向きすぎている。この矛先が上手く外側にも向ければもっとマシになると思うよ」

「そういうものなのね……」

「多分ね。だって、数合わせを抱えた状態で、監督が何もせず、5人が好き勝手やっているだけで勝ててしまう相手だもん。理想のサッカーをしろって方が無理無理」

 

 そのままハーフタイム終了が近付く。各々水分だけ補給するとポジションについた。キーパーは5人がジャンケンをして負けた人がやることになっていたが、6人はそんなことを一切感知せず相手ゴールを見据えていた。

 十六夜たちのキックオフで後半戦開始。ボールは星崎が持った。

 

「うーん、小さくまとまるな、か……うん、じゃあ、あややん手伝って」

「へーへー、何すればいい?」

「アタシたち2人で攻めようよ!」

 

 そう言って星崎は十六夜にパスを出す。そして、ちょいちょいと手でボールを渡すように要求する。

 

「やったことねぇけど……やってみるわ」

 

 そのまま十六夜は鋭いパスを出す。本来であれば、そんなあり得ない威力で出されたそれは相手選手の間を抜けて……

 

「ひゅー重いね☆」

 

 星崎の足にピタッと吸い付くように収まる。

 

「流石のトラップ技術だな」

「まぁね♪」

 

 そのままワントラップしてボールを十六夜に返す。

 

「星崎夏樹。元ダンス部にして、今はフリースタイルフットボールの道を極めさせている。どんなボールも吸い付くように止めてしまうトラップ技術とどんなリズムにもすぐさま乗れる対応力が武器のテクニシャン」

 

 十六夜がワンタッチで返したそれも彼女にとって受け止めるのは容易い。そのボールを軽くあげ、すぐさま地面に叩きつけると、自身は回転しつつ十六夜の走る先に出す。

 

「ただ、あの中で一番他人に依存している。引き出せる誰かが居ないと実力を発揮できなくなった問題児」

 

 十六夜は帰ってきたボールをトラップすると、そのまま相手選手にぶつかりに行く。ぶつかっている中で十六夜がボールを踵であげると……

 

「貰うぜ☆」

「はいよ」

 

 そのボールを空中でかっさらうとそのままパスを出す。その先に居るのは加々美で……

 

「そこだね」

 

 そのままダイレクトでゴール前へとボールをあげる。

 

「我のボールだな!」

「いや俺様だ!」

 

 そこに向かうは天王寺と犬塚。落下点は2人のちょうどぶつかる地点と性格が悪いパス。

 

「仕方あるまい……!」

 

 天王寺はそのパスの落下点から別方向へと走り始め跳躍。彼にしか許さない最高到達点からヘディングを放つ。

 

「クッ……!」

 

 それを素早く相手ディフェンダーがコースに割って入って弾く。慣れない形で撃ったそれの威力は足で撃つよりも遙かに劣っていた。

 

「ルーズボール!」

 

 ディフェンダーたちがその弾かれたボールに向かって走る。

 

「どけ!」

 

 そのボールに誰よりも先に到達したのは速水。その足でディフェンダーたちを追い越し、ボールに追いつくとダイレクトでシュートを放つ。

 

「これ以上点は……!」

 

 キーパーが反応し、ボールに向かって飛び込む。辛うじて手を伸ばしてそのボールを弾く。

 

「誰かクリア……!?」

「ほら来た!」

 

 その弾いた先に走り込むは犬塚。まるでそこにボールが来ることが分かっていたような動き、そしてダイレクトでそれを蹴り込むとボールはネットを揺らす。

 後半開始早々、1点を挙げた。

 

「今のじゃまだ足りないな」

「えぇ~そうなの?」

「ああ。結局、各々が出来ることをしただけに過ぎない」

「つまり、仲間割れをしなくなっただけでそれ以上がないと」

「なるほどのう。だが、それならどうするんだ?」

「そうそう、何かアイデアあるのか?」

「それを今から考えるんだよ」

「えぇー難しいのは嫌いだぞ」

「うっせぇ。あんな連中にただ勝つだけなら余裕だ」

「確かに~コーチもノルマって言っていたしね~」

「それなら、このまま虐殺しても得られるものはありませんね」

「うむ。コーチの意図を考えるなら、今の我らだから出来ることをするわけか」

「今の僕ら、ねぇ。今までロクに連携も取ったことないんだけど?」

「よく分からねぇ!ゴール前にいるから任せたぞ!」

 

 6人がそんなことを話しながらポジションにつく。

 

「よし、星崎!我は面白いことを思いついたぞ」

「えーなになにきんぐ?」

「ああ。次のスローインで……」

 

 と、何やら2人が話している……が、

 

「え?またスローインするのか?」

「そうみたいだね」

「なら、速水。手伝え、さっさと舞台を用意するぞ」

「えぇ……今の僕フォワードだけど?」

「知らん」

 

 そのまま相手のキックオフで試合再開。ボールは相手選手によって前線へと進められるが、

 

「はい、ここまでご苦労様」

「またお前か……!」

「じゃあ、通行料回収しますね」

「取らせるか!」

 

 十六夜がブロックに向かうがあっさり抜かれてしまう。

 

「油断しすぎ……っ!」

「サクリファイス……時には大駒を犠牲にしてでも優位な状況に持って行く」

 

 その瞬間、ボールを奪う陰が1つ。

 

「来い、走者(ランナー)

「ここは僕の領域(テリトリー)なんでね!」

 

 そして、そのボールは速水から加々美に渡る。

 

「加々美!我の舞台を用意しろ!」

「やれやれ……仕方ないですね!」

 

 加々美の蹴り出されたボールは一直線に相手に向かう。

 

「……っ!?」

 

 そのまま相手選手にぶつかると、ラインを割った。

 

「後は任せた、王様(キング)

「良い働きだ、演出家」

 

 そして、天王寺がボールを持ってスローインの体勢に。

 

「オラァッ!」

 

 真っ直ぐゴールへと向かっていくキラースローイン。

 

「邪魔……!」

 

 犬塚を2人のディフェンダーがおさえ道を作る。そのボールは誰にも触れることなく飛んでいく。

 

「誰も触れなければノーゴールだ!」

 

 ルール上、誰にも触れずにゴールに入っても得点にはならない……が、

 

「重いね~」

「なっ!?」

 

 ゴールに入る寸前で現れたのは星崎。ワントラップでボールを軽く上げる。

 

「じゃ、ごちそーさま♪」

 

 そのまま跳び上がってオーバーヘッドキックを放つ。ボールはキーパーの顔面スレスレを通ってゴールに刺さった。

 

「うむ!」

「いぇい♪」

 

 7-0……後半始まって早々に2点を挙げてリードを広げる。

 

「凄い……内輪揉めしないとこんなにあっさり点が取れるのね」

「そりゃそうだろ。さっきまで得点が少ない原因はあの問題児どもがお互いに殴り合っていたから。休戦すれば点を取るなど容易い」

「しかも、彼らの連携は試行錯誤の手探り状態。今はまだ本人たちも実験段階って考えると……」

 

 そこから3点積み重ねるのにたいした時間はかからなかった。そして、点を取ってからの反省と次にやりたいことの共有。6人だけが圧倒し、他の選手たちはついていけないのが現状だった。

 しかも、この連携には大きな問題点があった。

 

「ご苦労」

「「なっ……!?」」

 

 十六夜がチームメイトを突き飛ばしながら対峙していた相手のボールを奪う。そのまま、天王寺へとパスを出す。

 

「邪魔」

「ぐっ……!?」

 

 天王寺がチームメイトを吹き飛ばしながら跳び上がりパスを受け取る。そして、そこそこの威力のパスを出す。

 彼ら6人は自分たち以外の残りの5人の存在を味方だと思っていない。時には都合の良いコマ、時にはただの邪魔者として扱っていた。必要があれば使って潰す。邪魔なら敵もろとも潰す。あまりにも扱いが酷すぎるが、誰もそれを止められない。何故か?

 

「ほいっと♪」

 

 そのパスを受け取った星崎がボールを奪いに来た敵とチームメイトを纏めて躱すとゴール前へとラストパスを送る。

 彼ら5人は前半の内戦も後半の共闘も、どちらもボールを奪いに行こうとした。しかし、呆気なく躱され彼らがボールに触れることは叶わない。彼ら5人では、味方としても敵としても実力が足りていなかったのだ。

 

「ソラッ!」

 

 犬塚がラストパスを受けてシュートを放つ。ボールはあっさりゴールに突き刺さった。

 

「もう少しタイミングが早くても良かったかもしれないね」

「そうだな。犬ならワンテンポ早くても行けただろ」

「誰が犬だコラァ!」

「そうだね~ちょっと遊んじゃったかも♪」

「次は僕のスピードをもう少し生かせるプランで行かない?」

「うむ。それもいいかもしれんな」

 

 6人はポジションに戻りながら歩いて話をする。ゴールを決めるのは当たり前、残りの5人は完全無視で相手に対しては自分たちの実験台としか見ていない。

 

「クソ……何だよ……何なんだよこいつら……!」

「味方へのラフプレーも平然とやって……!」

「チームとしてもまとまってないのに……」

「こんなのサッカーじゃない!」

「「「…………」」」

 

 そんな彼らに思い思いの発言をする相手。そんな中、ピタッと足を止めた6人。

 

「ねぇね~君たち、何言ってんの?」

「そうだね。ちゃんとサッカーのルールに則っているだろう?」

「そうだ。現に我らは反則も不正もしていない。正々堂々戦っているだろ?」

「違うだろ!いくらお前たちが強くても、連携も何もない!そんなサッカーは本物じゃない!こんなの間違っている!」

「本物?よく分からないけど、俺様たちのサッカーが偽物ってことか?」

「そういうことじゃない?よく知らないけど」

「で?お前らがそんなことを言う理由は?」

「フォア・ザ・チーム……お前らにはサッカーにおける大切な精神が欠けてる。何より、お前たちのサッカーには相手への思いやりが感じられない!」

「「「はぁ……」」」

 

 相手選手のその言葉にため息をつく6人。聞き飽きた言葉をここでも聞かされて、うんざりしている気持ちを隠せなかった。

 

「な、何故ため息を……?」

「うんうん、君たちはそういう崇高な精神でサッカーをやっているんだね~うんうん、良いと思うよ♪」

「そうですね。えぇ、凄く純真で良いと思いますよ。とても素晴らしくて大切なものだと思いますよ」

「だ、だったら何故……」

「悪いが我らはそんなもの持ち合わせておらぬ。言うなればフォア・ザ・ウィン。勝利のため以外の精神はないな」

「そうだそうだ!サッカーで大事なのは勝利!それ以外はない!チームとか思いやりとかよく分からないことを言うな!」

「僕たちは自分の勝利のためなら誰でも使う。だけど、それの何が問題なのかな?勝つこと以上にそれらが大事な理由がよく分からないな」

「何を言って……」

 

 相手が困惑を隠せない。そんな彼らを見て十六夜が告げる。

 

「つぅかさ、敗者の戯れ言に価値なんてねぇよ。そういうの、オレらに勝ってから言えよ」

 

 そのまま十六夜が得点板を指さす。

 

「後半もまだまだ途中の現段階で11-0。フォア・ザ・チームだっけ?そういう理念を掲げて戦っている結果がこのざま。何で弱いヤツから自分たちの信念を押し付けられないといけないんだ?」

「そうだよね~と言うか、相手への思いやりだっけ?だったら、アタシたちに思いやりを持って欲しいよ~」

「な、何を……」

「えぇ。正直、あなた方とのサッカーは飽き飽きしています。余りにも弱くてつまらないですね。相手として不足しているんですよ」

「そうだな。お前さんたちが言う相手への思いやりを持って、我らに謝って欲しいくらいだ。退屈させてごめんなさい、って」

「そーそー。お前らが弱いからこいつらでも簡単に点を取れている!俺様が気持ち良く点を取れないのはお前らのせいだ!」

「気持ちよくないのは確かだね。お前たちが強くなさ過ぎて、正直、僕たちで力を合わせて戦う必要ないし」

「て、テメ……」

「やめろ」

「何で止める!?だって……」

「違う。こいつら俺たちのことなんて見ていないんだ。……一切、眼中にないんだよ」

「はぁ……?」

 

 自分たちとはまるで違う世界の住人たちの言葉に理解出来ない。そして、彼らの視界には自分たちのことなどまるで入っていないことに気付いてしまった。

 

「お前らは所詮路傍の石。必要があったから対峙しているだけで、オレたちの敵になり得ないんだよ。自分は崇高な意思を、正しい考えを持っているといるという肥大した自負心と生温い価値観に浸って、自分の都合の良いものしか見なくていいゲロ甘な環境で腐り果てろ」

 

 十六夜の言葉を最後に歩き出す6人。

 

「あーあ、なんか冷めたな。もう試合終わりってことでいいんじゃね?勝敗は決まったし、あんなのとまだ戦わないといけないの?」

「あややんまでとーるみたいなこと言って!一応、最後まで戦ってあげようよ!そうじゃないとかわいそうだよ!」

「私はもう動く気ないですよ?今のやり取りで完全にスイッチが切れてしまいました。どうせ、動かなくても試合には勝てます。ノルマは達成できますからね」

「まったく……お前さんたちは少しくらいやる気を見せて欲しいものだ」

「そうだそうだ!俺様だってこんなつまらない相手に頑張っているんだぞ!」

「お前はゴールが欲しいだけだろ……僕も足のケアでもしていようかな?こんな相手に怪我したくないし」

「んじゃ、オレは勉強でもしているわ。失点はさせないから適当に頑張ってくれ」

「私1人減っても構いませんよね?ゆったりと端で絵の構想でも考えていますね」

「1、2、3、4……僕はクールダウンしているから勝手にやっといて」

「あーもう!3人ともちゃんと立つ!アタシたちが何もしなくても勝てるとしてもダメだって!2人からも言ってやってよ!」

「よぉし!じゃあ、俺様が残りの点を全部取ってくるからお前たちは何もしないでいいぞ!そこで大人しく俺様のゴールを眺めていろ!」

「何を言うか。この程度の相手、我1人でも虐殺は余裕だ。お前さんのゴール劇よりも我が愚民を圧倒する展開の方が見応えがあるだろう」

「何を!?俺様1人でも余裕だっての!だったら勝負するか!?」

「望むところだ。どっちが多く点を取れるか勝負しようじゃないか!」

「やる気はあるけどちょっと違う!何でこんなにバラバラなの!一応最後まで戦ってあげようよ!ほら、目指せ20点差!これならやる気出るでしょ!」

「君たち!あまり度が過ぎると……!」

 

 そう言って審判が6人のもとに駆け寄る。胸ポケットに手をやって……

 

「ふむ、もしかして、我ら全員レッドカードで退場ってことか?」

「予想外の戦略ですね。まさか、それでこちらの強制敗北という訳ですか」

「えぇ!?俺様たちの負けになるのか!?何で!?」

「さっきまでの僕らの発言が相手への侮辱行為に受け取られたんだろ。知らんけど」

「えぇっ!?アタシたち思ったこと言っただけなのに!?それでダメなの!?」

「何でも良いけど、それなら向こう側の審判さんよ。もし、カードを出すならアイツらにも同じカード出してくれない?先に暴言吐いてきたのあっちだろ?」

「は?暴言……?」

「アンタらが先に吹っ掛けてきたんだぜ?吹っ掛けられたから、オレたちは言い返した。それなのにアイツらにお咎めがなく、こっちだけ咎められるとかおかしいだろ?アイツらがオレたちを侮辱するような暴言を言ったからこうなった、違う?」

「……っ!」

 

 そのまま審判の胸ポケットからレッドカードが見えたそのときだった。

 

「やめろ、ガキども」

 

 コーチが声をかける。それを見て動きを止める審判と静かになる6人。

 

「まったく、テメェらは……このまま適当にやってれば大勝出来る試合だってのに何でそんな負け筋生み出すんだよ。ほんと、仕方ねぇコマどもだ」

 

 ガシガシと頭を掻きながら立ち上がるコーチ。そのまま相手ベンチへと歩いて行く。

 

「交渉のターンと行こうか。降参しろ」

「「「は?」」」

 

 コーチが相手ベンチの前に腕を組んで立つとそんなことを言う。

 

「このままじゃ遅かれ早かれレッドカード6枚貰って強制敗北だ。だからその前に降参しろ」

「な、何を言って……」

「降参しない場合、オレはこの試験を辞退する」

「試験……?」

 

 その言葉にざわめきが起きる。

 

「この試合はオレのコーチとしての実力を計る試験。オレがどんな選手を育て上げたかを見せつける試験だったんだよ。ちゃんと言う通り、無名も無名なただの高校生6人の実力だ。どいつもこいつも他のユースチームは愚か、強豪校にすら所属していない。下手すればサッカー部にすら所属してない。サッカーをやる上ではあんたらより酷い環境を生き抜いている、あんたらが見つけられなかった奴らだ。……オレの指導に従い、ついてこられればこの程度の実力者は量産できる。弱小ユースチームを強豪の仲間入りに出来る」

 

 ざわざわと観客や選手たちが話し始める中、6人はコーチのもとへと歩いて行く。

 

「こいつらは初代作品どもだ。ちょっと性格に難があるが、それでもあんたらのとこの審判みたく、身内贔屓しているヤツでなければカードも出ない程度。1人1人が勝つためのプレーをする。その為なら他人をも利用する。フォア・ザ・チーム?馬鹿言え、勝つためにが大前提だ。チームなんざその後に来るんだよ。チームのために戦うなんて馬鹿馬鹿しい。勝つために戦え。勝利のために戦え」

「そ、それではこのユースの理念が……」

「知るか。オレが入る以上、不必要なものは全部壊す。規律?伝統?……そんなんでこの弱小が這い上がれるわけねぇだろ。這い上がるためなら全てを壊す覚悟をしろ、全てを投げ捨てる覚悟を持て。それがねぇなら、ぬくぬく今の生易しくて気持ち悪い現状で満足していろ。生者の生け贄として、屍のまま地面を這いつくばって勝者の養分になっていろ」

 

 コーチの発言に目を閉じ黙る相手のトップ。どちらが試されているが分からない。あまりのことに試合が止まっている中……

 

「…………降参だ」

「良いんですか!?」

 

 重々しく口を開いた相手のトップ。

 

「年々、このチームの経営は苦しくなっている。有望株は他のユースに流れ、育っても残らず離れてしまう。セレクションを受ける者も減少しレベルも低下……這い上がるためには、彼のような劇薬が必要……だから声をかけたんだ」

「利口な判断だ」

「……このチームを救ってくれるか?」

「知らねぇな。オレはお前らのような腐ったサッカーが気に食わない。お前らのような上っ面のきれい事を押し付け、才能を食い潰す奴らが気に食わない。……全部壊す。オレの理念が正しいと証明してやる。オレの思想で気に入らないものを全て潰す。その土台になれ」

「悪魔との契約か……トップになるか死ぬか。いいだろう」

 

 そのまま試合は強制中断。あまりのことに選手たちも観客も騒然とする中、話が進んでいく。

 

「それでそこの6人はここに来てくれるのか?」

「はぁ?やるわけねぇだろ」

「え?」

「こいつらはオレの所有物だ。少なくとも、こんなところで腐らせるつもりはねぇよ」

 

 コーチが6人を守るように立つ。

 

「せ、せめて1人でも……」

「こいつら以外の残りが欲しければくれてやる。どうでもいいからな」

「くっ……」

「んじゃ、ご苦労。また連絡する、今日は解散だ」

 

 コーチがそのまま向こうの大人たちの下へ行く。取り残された面々がぽかんとしている中、6人はさっさと自分たちのベンチに行くと靴を履き替え、荷物を纏めていた。そういう行動に慣れているような感じだ。

 

「じゃあ、我らも帰るか」

「そーだな」

「また今度ですね」

「ああ。僕も帰るよ」

「んじゃ、オレも」

「あ、皆ちょっと待って。連絡先教えてよ☆」

「連絡先?」

「そーそー。ほら、今後も集まるってなったとき便利でしょ?どーせ、お互いに知らないんだし。はい、全員スマホ出して、アタシに教える」

 

 星崎が指揮を取って5人が面倒くさそうにスマホを取り出す。

 

「うわっ、あややん交換している人少なっ」

「うるせぇ。他の奴らも大差ねぇだろ」

「まぁね♪あ、後でなーちゃんとゆっきーのも教えてね♪」

「あいあい」

 

 そして、十六夜はササッと終わらせると陽向と美空の下へ行く。

 

「帰るぞ、2人とも」

「いいの?彼らと一緒じゃなくて」

「別にいい。アイツらとはまたどっかで会うだろうし」

「そう?ならいいけど」

 

 そのまま並んで歩く3人。

 

「そういや、星崎のヤツがお前らの連絡先も教えてって言ったけど」

「れ、連絡先!?も、もちろんいいけど……」

「別に構わないわ」

「そう。送っておくわ」

 

 スマホを取り出して操作する十六夜。すると、すぐさま返信が帰ってきた。

 

「はやっ」

「あ、こっちも」

「私も……早いわね」

 

 立て続けに陽向と美空のもとにも連絡が来る。

 

「取り敢えず帰りながら反省会だな」

「綾人さんは強い駒を使い慣れていないね。あの5体の怪物をまるで操れていない。あの程度じゃ、彼らの真価を引き出せていない」

「……すみませんでした」

「あなたって何というか……神奈ちゃんには頭上がってないわよね?」

「言うな」

「だから、ある意味次のステップかもしれないね。綾人さんが出来るようになったのは底辺のコマを最低限戦えるレベルに引き上げること。何も出来ないコマを何か出来るようにすること。……彼らはキミと同等以上。どれもコマとしては優秀で、真っ当な指揮官が居なくても暴れ回り、戦果を得ることが出来る。だけど、まだまだ才能ゴリ押し、個々のパワーゴリ押しに過ぎない。それだと、キミたちと同格以上が相手に数人居るだけで試合には負けてしまう」

「はい」

「でも、キミたちにはまとまることを求められていない。必要なのは、掛け合わせ……キミたちが各々のやりたいことを掛け合わせていく。各々がベストパフォーマンスを発揮した上で、各々のプレーを連動させる。今はレベルを下げ、お互いに合わせることしか出来ないのが現状。そんなチームプレー擬きじゃダメだ。現にキミは合わせるためにバケモノから人間になっている」

「一応、綾人は種族が人間のはずなんだけど……」

「いい?キミたちは制御不可能なモンスター……だけど、各々が暴れ回るだけならこの先に居る相手には簡単に殺されてしまう。1が11居て、好き勝手している戦い方はすぐに限界が来る。上のレベルで戦いたいなら、1同士が繋がり、1だけじゃ生み出せないものを作る必要がある。全員のやりたいことを積み重ね、連動させ、混ぜ合わせること……バケモノとバケモノによる共鳴。それがキミたちの目指す姿でキミたちなりのチームプレーになっていくと思うよ」

「……難しいな。だが、出来ないと、オレたちは上の戦場で戦えない。それが当たり前に出来る場所で通用しない。……今日戦って分かったんだ」

「何を?」

「オレはまだまだ弱い。オレのレベルはまだ低い。前半の乱戦で点がストップしてしまったのは、オレがアイツらを圧倒できなかったからだ。オレが上手く誘導していれば、オレの能力値が高ければ、もっと点を取れた。後半も結局オレたちだから出来るプレーを生み出せなかった。……今のオレが見えている程度じゃアイツらを上手く動かせない。そう痛感したよ」

「そうだね。満足したら成長が止まる……ちゃんとそれが分かっているならよかったよ」

「もう少し具体的に詰めよう。お前が操るとしたらどうした?お前には何が見えた?」

「そうだね、例えばボクなら……」

 

 2人の反省会は続く。

 

「まったく、この2人は……ほら、前見て歩く。人とぶつかるわよ。綾人、荷物邪魔になっている。神奈ちゃん、前段差あるよ」

「うぎゃ!?」

「と、危ないな」

「だから言ったのに……」

 

 注意したすぐそばで段差に躓いた陽向とすぐさま支える十六夜。美空はそんな彼らを見て呆れながら提案する。

 

「適当な店に入りましょう。危なっかしいわ」

「流石、自称優等生。気配りが出来てる」

「誰が自称よ、満場一致の問題児」

「オイコラ」

「な、なるべく入りやすくて落ち着くところを……」

「分かっているわ。陰キャでぼっちで卑屈な神奈ちゃんも入りやすい店を探すわ」

「こ、言葉のトゲが……言葉のトゲがぁ……」

「もしかして、構ってもらえなくて寂しかったとか?」

「別にそんなんじゃ……」

 

 この後、店に入った彼らが反省会を再開しているを尻目に、美空は勉強をしてしたのだった。




十六夜綾人(あややん)
中学はサッカー部から実質帰宅部。他5人と比較すると、5人の得意分野だと負けるが、それ以外だと勝てる万能型。なお、6人の中で一番頭は良い。
無自覚なところが多すぎる。


天王寺将馬(きんぐ)
中学はラグビー部に所属し、恵まれた体格と圧倒的なパワーを持ち、将来有望視されていた。フィジカル特化型でパワーが関わることは負け知らず。
無意識のセーブがかかり過ぎる節があり、全力を出し切れない。


加々美(かがみ)(とおる)(とーる)
中学は弓道部に所属し、現在は美術部で書いた絵で賞も貰っている実力者。コントロール特化型のパサー気質の選手でボールコントロール技術は6人の中でトップ。
やる気にムラがあり、やる気がないときとあるときの差が激しすぎる。


速水(はやみ)俊一(しゅんいち)(いっちー)
中学は陸上部に所属し、長距離のランナーとして全国大会にも出た実績がある。無尽蔵のスタミナと足の速さが武器で、走ることに関してはこの中でも頭一つ抜ける。
誰よりも連携を苦手とする。


犬塚(いぬつか)直人(なおと)(ぽち)
中学はバレー部に所属し、リベロとして活躍。どんなボールにも反応して拾い上げることでチームに貢献。ボールへの反応速度とゴールへの絶対的な嗅覚が武器である。
頭を使うことが苦手である。


星崎(ほしざき)夏樹(なつき)
中学はダンス部、現在はフリースタイルフットボールを極めている実力者。ちなみにリフティングの動画投稿をしている。トラップ技術とテクニックに置いては他の5人を超えている。
引き出せる誰かをあてにしているところがある。


コーチ
初代作品たちは問題児ばかりだが大概この男のせいである。興味のないものは何も見えない。だが、相手を見る力は優れているため、本人たちの適性やあれこれを見抜けるという何ともいえない男。指導者としては優秀だが人間としてはかなりマズい。
ついにこの男が本格的に動き出した。もう下手しなくても敵側のラスボスチームを率いる監督ムーブである。間違いなく、イナズマイレブンの世界にやって来たら主人公たちと対立する側の監督である(ただし、悪事は働かないので差別化されるが……)。


陽向神奈(なーちゃん)
十六夜以外の5人に関して、名前を聞いて調べたときにどんな経歴かを大体調べてある。十六夜と同等以上のクセ者の集まりだが、彼女のクセも負けていない辺り、彼らが生み出された人工のやばいヤツなら、こっちは天然物のやばいヤツである。


美空雪(ゆっきー)
まともなの私だけ?
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