「行こうか」
「そうね」
「で?どうやって乗り込む?」
時は少しだけ遡る。円堂のスーパーメガトンヘッドが放たれたのを見て、十六夜たちは観客席から立ち上がった。
「まずは外に出ましょうか」
背後で吹雪の狼が爆発を防ぐ中、十六夜とAとLの3人は、入ってきた場所から外に出る。
「じゃあ、十六夜綾人」
そして、3人は結界の上、フィールドの真上にあたる場所に立つ。
「はい、ボール」
「ああ、スカイウォーク」
十六夜は空を翔る。ただひたすら真っ直ぐ上へ飛んでいく。
「流石の熟練度。かなり速さも上がったね」
「そうね」
そして、反転すると……
「オラァッ!」
空中を蹴りながら急降下。その勢いを殺すことなく、ボールの下まで到達し、身体を上下反転させながら右足を思い切り叩きつける。
バリンッ!
ボールを中心に結界には亀裂が入り、結界の破片が一瞬宙に舞う。そして、その亀裂は勢いよく広がっていく。
「この結界は確かにかなりの強度を誇る。破壊不可能だと自負するのも頷ける。でもね」
ズゴォオオオオオオオン!
「バケモノを相手するには脆い」
ボールは勢いよくグラウンドに突き刺さる。ボールを中心に結界には穴が空き、その穴は少しずつ大きくなっていく。結界は無数の結晶となってフィールドに降り注ぐ。
「じゃあ、行ってくるわ」
「いってらっしゃい。ここで見ているわ」
そのまま降りていく十六夜綾人。それを見送ったLは、結界の一部を念動力で操り椅子を作り、Aはそこに腰掛ける。
「流石は歴代でも最強と語り継がれるセカンドステージチルドレン。さっきもだけど、たった一撃で壊しちゃった」
「そうね。最悪のセカンドステージチルドレン、十六夜綾人。彼が居れば世界征服なんて容易いでしょうね」
「……シスターのせいで俺たちの知る十六夜綾人よりも強くなっているような……」
「だって、そうしているもの。早く最強になってもらわないと、時間がなくなっちゃうからね」
「ところでいいの?今回は未来から現代に干渉させた。時空を超えた干渉が行われた以上、エルドラド側からいっそう警戒されるんじゃないの?」
「いいのよ、これで。エルドラドを釣るエサとしては十分な出来事。だから、彼らには警戒させてあげる。でも、干渉させてあげない。FFIが終わるまでは、あなたたちの介入は全部防がせてもらう」
「終わるまで……そのあとは?」
「ふふっ」
微笑むAと苦笑いするL。荒れる未来が訪れることを感じ取ったLはフィールドに居る彼らに同情の目を向けるのだった。
「こんなところで何する気だ?」
オーガとの試合終了後、ライオコット島の森林の奥地にオレは居た。
「十六夜綾人……シスター。これは計算通りのやつ?」
「…………」
「シスター?」
目の前にはメカ4体を並べてその前に立つAとLの2人がいる。
「……さっき、試合終わったばかりだよね?もしかして、すぐに俺たちを追いかけてきたの?」
「そうなるな」
試合終了のホイッスルが鳴った後、メカ4体が動きを止めて活動を停止した。そう思った次の瞬間、メカ4体は空へと舞い上がっていき……
「お前の念動力だろ?お前らの姿は探したけどなかったし……」
「そうだね。ところで、抜け出すときに何か言われなかった?追いかけてきて大丈夫だったの?」
「生憎、こちらには誰にも干渉されないように抜け出せる術があるからな」
「なるほど、スルタンタイムか……時を止めてしまえば、誰にも止められない。でも、いいの?今の君はエンディングを見ていない状態で来たようなもの……王牙とどうなったのか気にならないの?」
「興味ねぇよ。お前らがあの場から離れた時点で、あそこからもう一展開あると思えないし、狙いの片方はオレなんだ。何かあるならもう一度干渉に来るだろ。それに……」
「それに?」
「円堂のことだ。どうせ、アイツらを何だかんだで絆して、丸く収めるだろ」
「うわっ、凄い雑な信頼だ。そして言っていることが最低過ぎる」
雑な信頼と言うが、この前は戦い終わった後、天使を絆していたしな。その後も悪魔とも和解していたし……仮に絆すことが出来なかったとしても、あの試合に勝利したのはこちらな以上、大きな問題は起きないはずだ。ペラーを残してきたし、武力行使に出るつもりならすぐに分かる。そして、何か問題が起きるとすれば……
「……オーガより危険なのはお前らなんだよ。そのメカを使ってまだ何かするって言うなら――」
「心配しなくていいよ」
ここで止める……そう続きを言う前に、思案顔で今まで口を開いていなかったAが話に入ってくる。
「このメカはちゃんと元の場所に返してあげるだけ。オーガ側に回収されると取りに行くの面倒だからあのタイミングで連れ出した。それだけだよ」
「…………」
「ああでも、1つだけ嘘があった。正確には『喰って』から返すって感じかな?」
「喰って?」
「ブラザー」
「はいはい」
そう言うLの背中から黒い影が現れ……
ドクン――ドクン――
「……っ!?」
さっきの試合で感じた以上の何かが暴れ出す感覚が襲ってくる。
「ああ、やっぱり私たちの化身は共鳴するんだね」
Lだけではない、Aの背中からも黒い影が現れる。いや、それだけじゃない。オレの背中から何か暴れ出て……!
「あ……ぐっ!?あがぁぁぁああああああっ!??」
「えっと……何か凄いことになってない?形が出来ていないのに、力だけ溢れ出たような……黒い影が十六夜綾人の背中から吹き出ているんだけど……」
「そうね……彼の中で押さえられていた化身……それが先の試合で呼び起こされた」
「それは、そうみたいだけど……」
「そして、相性の良い私たちの化身にあてられた。不完全に起きてしまったがために、十六夜綾人の中で留まることが出来ず、こうして無理やり外に出ようとして、暴走を起こしかけている」
「ちょっ、暴走を起こしかけているって……!?」
「私たちの化身は、十六夜綾人から受け継がれたモノ。だから、共鳴……互いの化身に及ぼす影響も、無関係の化身より遙かに強い。それはこうして、覚醒前の十六夜綾人から不完全な状態とは言え化身を無理やり引きずり出せるくらいに……」
「いやいやいや!?そんな冷静な感想を言っている場合じゃ……!」
「大丈夫よ。今の彼の化身は外側からの一時的な影響で目が覚めたに過ぎない。十六夜綾人も頑張って抑えこんでいるし、すぐに収まるわ」
「そ、それなら良いけど……」
「だけど、それだけじゃダメね。共鳴だけでは完全に覚醒出来ない。……やっぱり、カギが必要なのね」
何分経っただろうか?体感時間的には相当な時間を経過した頃、ようやく暴れていたものが落ち着いた。
「はぁ……はぁ……」
「落ち着いた?こっちの食事は既に終わっているけど?」
淡々とそう言うA。食事……
「Lの化身が……メカを飲み込んで……」
「うん」
「その割には……何も変化がないように見えるけど……」
「そうだね。喰らうのは物理的にじゃないよ。……俺の化身が喰らうのは『力』だからさ」
「力……」
「ちゃんと五体満足でメカは送り返す。ただ、送料くらいは貰おうかなって」
「ひでぇ話だ……勝手に奪って、勝手に使って、勝手に返品して……それで料金を取るとかどれだけ図々しいんだよ」
「これらのメカたちは別の世界線の私たちにとって厄介な存在になるからね。敵の力を有効に活用してあげたのだからとやかく言われる筋合いはないわ」
敵の力……AやLと敵対している存在ってことか?こいつらと敵対しているとかとんだ命知らずが居るものだ。命がいくつあっても足りないだろ。
「……じゃあ、別のことを聞くが……L。お前がその力で天使と悪魔から力を奪ったんだな」
「ああ、彼らに聞いたんだね。うん、そうだよ。彼らの天界と魔界の力を喰らったのは俺だよ」
「……魔王の力はオレが奪う予定だったんだけどな」
「ごめんごめん。そこは許してよ」
「……奪ったのがお前らならいいや。それに、奪うって言ったけど奪い方分からないし、普通なら奪えるものでもなさそうだしな」
「そう?それなら遠慮なく貰っておくよ」
「聞くが、何でわざわざ奪ったんだ?」
「そもそも、あの魔王たちにはシスターが力を与えていたんだよ。だから、その力を与えた代償に彼らの力を頂いた」
「そういうこと。ただ、それもお前らが勝手に力を与えて、勝手にその力とアイツらの力を回収したようにしか思えないが……」
「いいじゃない。だって、ブラザーが力を喰らったお陰で、彼らの長い戦いの歴史は幕を下ろした。魔王なんてものを2度と復活させる心配がないし、天界だの魔界だのの争いもなくなった。誰にとっても幸せな最適解でしょ?」
確かに彼らは力を失ったお陰でただの人間と変わらない存在になった。それに、悪魔とか天使とかの括りがなくなり、今では人間として手を取り合って生活している……もしも、寿命で彼らの命が尽きようとも、既に受け継がれていたものが消え失せたお陰で未来においても争いが起こるとも魔王が復活するとも思えない。幸せな最適解……やり方はともかく、そう言われると否定は出来ない。
「…………なぁ、A。前に言っていたよな。変えたい未来があるって……」
「言っていたわね」
「お前らの正体はオーガの奴らみたいな未来人。今日の戦いで、未来では時空を超える技術があるってことが分かった。しかも、お前らはオーガよりも先の未来から来ていて、パラレルワールド……並行世界を渡る力まである」
「その通りね。こうして明言まではしていなかった気がするから認めるわ。私たちはあなたと生きる時代が違う。本来なら交わるはずがなかった存在よ」
「そうか。……これでお前らが未来を知っている理由にも説明がついた。そして、このまま進むとお前らにとって……誰かにとって不都合な未来が訪れる。お前らの目的は、それを変えたいってことなんだろ?」
「理解してくれたのね。……いきなり、私たちが未来から来たなんて言っても信じてくれないでしょう?」
「ああ。だけど、ここまで感じていた違和感とオーガを見れば全てが繋がった。いや、繋げさせられたと言うべきか?」
Aに対して知りすぎていると思えた感情と、オーガによって示された時空を超える技術。タイムトラベルが出来ると分かった以上、彼らの正体はすぐに察せられる。ただ、察せられたのは彼らの手引きによるものが大きいだろう。どこまでも彼らの手のひらの上だ。
「正直に話すが、お前らの変えたい未来より今は世界一になることが重要。何十……いや、何百年も先の話より、オレにとってはこの瞬間、目の前のことの方が大事だ。それは変わらないし、譲らない」
前に日本で聞いたときは3割理解出来ればと言ったが、今のオレなら7~8割くらい理解出来るようになっただろう。それだけの物を目の前で見てきた自信がある。
「それでいいよ。寧ろ、そうじゃなきゃ困る。私たちの問題に首を突っ込みながら世界一になる……そんな全てを達成する主人公みたいなことを言えるほどあなたは強くないし、相手も弱くない」
「主人公……ねぇ」
そう思うとやはり主人公にはなれないのだろう。不幸になる未来を回避するために、こうやって未来から来た彼らを見ても、自分のやりたいことを優先してしまう人間に主人公になんてなれやしないのだろう。
「そうだな。オレはやりたいことを叶える。そのために今を生きるし、そのためにお前たちを利用する」
「えぇ。私たちはお互いを利用する関係……そうでしょ?」
「ああ。ただ、やりたいことを叶えた後……世界一になったその後なら、お前たちのやりたいことを手伝う。……いや、正確にはそれを聞いてから考えるから敵対する可能性もあるけど……」
「心配しなくても大丈夫よ。……あなたのことはちゃんと巻き込んであげる。拒否権はない。選択肢なんて与えてあげない」
「ひでぇ傲慢っぷりだ」
「えぇ、だって私はあなたと同じで傲慢で自己中のバケモノだもの」
そう言ってメカたち4体とAとLの2人は光に包まれる。
「それじゃあ、返しに行ってくるわ」
「……こういうのが正しいか知らんけど、気を付けて行ってこいよ。A、L」
「アトスメナ」
「は?」
「Aって言われるの飽きた。今度からはアトスメナって呼んで」
「お、おう……?」
「じゃあ、俺はレモルガーって呼んでくれると嬉しいかな。改めてよろしくね、十六夜綾人」
「……分かったよ」
そう言って、そのまま何処かへ消えていく。
「……たく……アトスメナにレモルガー……ねぇ。飽きたって、お前らが勝手にそう名乗っていたんだろうが。つぅか、そっちもコードネーム感満載だが……」
相も変わらずのマイペースな2人……ただ、彼女たちの変えたいという未来……具体的に何が起きたのか分からないが……
「……大会が終わった後にやりたいことが増えたか」
ここまで散々巻き込まれたんだ。大会が終わった後は彼女たちの問題に自分から首を突っ込ませてもらおう。……と言っても相手が未来人な以上受け身ではあるんだが……
「……そう言えば」
この前見た夢は今日のことを予知していたのか……?正夢にしては精度が高過ぎるが……
「ん?でも、夢では1人で戦っていた気がしたが……」
そう思うと似ているだけで全然関係なかったか?よく考えなくても、未来のことを夢に見るとかそんなこと非現実的だろ。……でもガルシルド邸のときって……?
この後、もやもやした気持ちを抱えながらも、何食わぬ顔でイナズマジャパン宿舎に戻ったら色々と詰められたことを記す。そして、部屋にはオーガ戦で置いていったおもりと『また明日の夜中から特訓ね』という書き置きがあった。
「浮かない顔だね。シスター」
メカたちを無事に返し終えたアトスメナとレモルガーの2人。
「そう?」
「そうだね。試合終了後、俺たちの前に十六夜綾人が現れてから不満そうというか不機嫌そうな感じがするよ」
「……そうね」
レモルガーの言葉に肯定を示すとため息を一つつく。
「私の予知夢が外れた」
「……シスターの予知夢が?」
「えぇ」
「でも、外れる……までは行かなくてもズレることは度々あるんじゃ……?」
「それは未来を知っている私が、予知夢で見たものと明らかに違う行動をしたときよ」
「なるほど……未来を知っている人間が意図的に行動を変えて、未来を変えた……ズレるじゃなくズラしている」
「そういうこと。……もちろん意図していない些細なズレはある。タイミングや言葉、周りの様子が少しだけ違うことは沢山ある……でも、大きくズレることはないわ」
「今日は何処まで夢で見ていたの?」
「こうやってメカを返し終えるまでよ」
「……つまり、夢ではあの場に十六夜綾人が現れることはなかったと?」
「えぇ」
「でも、こうやって俺たちが十六夜綾人に干渉していたから未来が変わったんじゃ……?」
「違うわ。予知夢でも、私たちは十六夜綾人と行動していた。彼らとの試合に乗り込むまでほとんど一緒だった。試合が終了するまで、予知夢は大きく外れていない」
「……つまり、シスターが見た夢の通りに物事は進んでいって、俺たちは夢の通りに行動して……それでも夢から外れる出来事が起きてしまった」
「その通り……もう何年も毎日、予知夢を見ている……私の未来予知が外れるなんてあり得ない」
「それは……そうだね」
「……でも、前も……天空の使徒と魔界軍団Zが襲来したあの日。十六夜綾人が天空の使徒に捕まったのも、私の予知夢ではなかったこと……」
「そう言えばいつになく狼狽えていたっけ…………つまり、十六夜綾人がシスターの予知夢とは異なる行動を取っている……と?」
「分からない。こんなことあり得ない……偶然だと思いたいわ」
「だけど、偶然が続くならそれは必然と言っていい……か」
「……そうね」
「十六夜綾人が関わるときは、予知夢に頼り過ぎない方がいいかもね」
「ああほんと……私の視る未来は絶対なのに、それを変えるかもしれないとか、最悪のラスボスね」
そう言って、アトスメナの右目から緑のオーラが溢れ出る。
「戻るわよブラザー」
「何が視えたの?」
「このまま十六夜綾人の時代に行くと、フェーダから救援要請が来て連れ戻されるわ。その前にこちらから行ってさっさと片付けるわよ」
「おっと、救援要請が……それは先に片付けようか」
そして、そのまま彼女たちの住む時代へと戻っていくのだった。
オーガの世界線は未来において人類が弱体化したらしいが、十六夜のせいで弱体化しているのは事実では?と思ってしまうバグ。そして、アトスメナとレモルガーのせいで、オーガの世界線だけが弱体化していて他はそんなことなくね?と思ってしまいますね。
なお、裏では映画並みの和解をみせる円堂とバダップたち。多分、十六夜が居たら和解出来なかったんだろうなぁと思うと、実は動きとしては最適だったり?