「うーっす」
オーガ戦、翌日の昼。セントラルエリアの空港にて、飛行機を待つ荷物を抱えた大人数名の下に1人の中学生が手を挙げながらやって来る。
「イザヨイさん!」
「本当に見送りに!?」
「まぁな。約束は果たす男なんで」
十六夜の下に駆け寄る数人の男たち。彼らは先日までヘブンズガーデンにて工事の手伝いをしてくれた人たちである。
(と言ったけど、昨日の試合の反動のせいか普通に寝坊したんだよな)
諸々の代償を払い、その反動のせいで寝過ごした十六夜。涼しい顔をしているが、ここまで時を止め、空を走る暴挙をしていたりする。そのせいで明日も寝坊することになるのだが、今の彼は知らない。
「今回はありがとうございました。無理難題の数々、すみませんね」
「何を言ってるんだよ。アンタの頼みならこれくらいどうってことねぇよ」
「それよりあんなにご馳走になった上で、仕事分以外にこんなにサービスまでしてくれて」
手に持っていたのはこの島での土産の数々。彼らの家族への贈り物だが、そのあたりも十六夜が援助していたのだ。
「気にすんなよ。こんなことであんたらの家族が喜ぶならオレとしては満足だ。こっちとしては、事件が解決した直後に駆り出した罪悪感もあるんだから、遠慮せず貰ってくれ」
「何言ってるんだよ!アンタのお陰で家族も無事、久しぶりに嫌なプレッシャーなく働けた!」
「ほんと、これもイザヨイさんがガルシルドを追い払ってくれたお陰だよ」
「そうそう、ウチなんてイザヨイさんの手伝いをするって言ったら、行って来いって背中押されたくらいだぜ」
「アンタほどの英雄の下でこんな至れり尽くせり。ホワイト過ぎて感覚が狂いそうになる!」
「ちゃんと、最終額の支払いも確認できた。……改めて、これで契約完了だ、
「最高の働きだったよ、職人。凄い助かったわ」
「そう言ってもらえるなら良かった」
「また何かあったら頼むさ」
そう言って十六夜は彼らから貰った名刺を懐のカードケースから取り出す。
「ハハハッ、もちろん。出来る限り答えさせてもらうさ」
「アンタの依頼なら世界の裏側から駆けつけるぜ」
「それなら相応の対価を払わないとな。……もう次の仕事は入っているのか?」
「ああ。あのクソ野郎の後始末がたんまりと」
「おっと、それはそれは」
「……改めてありがとうな、イザヨイさん。アンタらのお陰で家族が平和に暮らせるよ」
「本当だよ!アンタとあの少女は救世主だよ!」
「今度は歴とした観光に来てくれよ!」
「俺たちが案内するぜ!」
「おう、もちろんだ」
そのまま他愛のない話を続ける。
「もうすぐ時間か」
「だな」
「そういや、気になったから聞いておくけどさ。次の試合、どっちを応援しているんだ?」
「そりゃ、もちろんブラジル代表、ザ・キングダム……って言いたいんだけどな。アンタのことも当然、応援している」
「そうそう。何かどっちも頑張れ、どっちも負けるなって感じだ」
「くぅ、応援したいチーム同士が戦うなんて……!」
「……そっか。そっちの国の代表、倒しちゃったらゴメンな」
「そのときは国を挙げてアンタを応援するさ!まっ、アンタとは言えザ・キングダムは一筋縄ではいかないだろうけどな」
「その方が燃えるだろ。相手は強ければ強いほど良い。強くねぇと面白くねぇだろ」
「ヒュー言うね、イザヨイさん!」
「これは次の試合、楽しみだな」
「ああ。純粋に楽しく見られそうだ」
「試合の日は仕事休んで見ないとな!」
「……じゃあ、またな。何かあればいつでも呼んでくれ」
「おう。アンタも困ったことがあれば遠慮するなよ」
「そうそう。まだ子どもなんだ。ちゃんと俺たち大人を頼れよ」
「この程度でアンタから貰った借りは返したとは思っていないからな」
一人一人と言葉を交わし、握手を交わす。再会を約束して別れると、彼らは搭乗ゲートへと姿を消す。
「さてと、オレもお仕事に行きますか」
彼らの飛行機が旅立つのを見届けると、十六夜は一人、目的地に向かって歩くのだった。
「はい、カットです!イナズマジャパンの皆さん、ありがとうございました!」
「「「ありがとうございました」」」
オーガ戦より2日が経過したそんな日、イナズマジャパンにはお客さんが来ていた。
「改めて本日はありがとうございました、久遠監督」
「いえいえ。選手たちも応援してくれている存在を自覚し、一層気を引き締めることが出来たでしょう。もう帰国なさるのですか?」
「そうですね、本日の最終便で日本に帰ろうかと。ここから編集してブラジル戦前日のイナズマジャパン応援特番に間に合わせないといけませんからね」
「そうでしたか。気を付けてお帰りください」
日本のテレビ局による取材。決勝トーナメントが延期されたことで、本来は予定していなかったイナズマジャパンを応援するための特別番組……その番組を行うための取材として1日、テレビ局のスタッフたちがイナズマジャパンについていたのだった。
「個別インタビューも快く承諾してくださり本当に感謝しています。……ただ」
そう言って少しだけ不満そうな顔をするスタッフ。
「十六夜綾人くん……彼だけ会うことすら叶わなかったのは少々残念ですね。イナズマジャパン副キャプテンにして、同年代での世界選手ランキング3位という快挙を達成している。日本でも注目度が高い選手を撮れなかったのは悔やまれますね」
「それに関しては申し訳ない。十六夜は、別件で仕事が入っていまして……」
「いえいえ!彼がそちらを優先するのは仕方ありません!彼の仕事も流れますし、その辺りはうまく編集しますよ!」
「それなら助かります」
十六夜綾人……イナズマジャパン関係者の中で唯一別件で席を外し、スタッフたちと一度も会うことさえなかった存在。
「日本のサポーターにとって、十六夜綾人という選手は良くも悪くも賛否両論激しい選手でしょう。今回の取材を受けられなかったことが否定派を過度に助長させてしまうことがないことを祈ります」
「そうですね……本戦のリーグ戦で敗北したときもですが、イナズマジャパンを否定するような声は少ないです。特に選手個人となれば尚更……もちろん、過去に少々目立ってしまった選手を非難する声も前はありはしましたが今はすっかりありません。そんな中ですが……」
「十六夜綾人は日本のプレーに合っていない。個人プレーが多すぎる。もっと協調して日本らしいプレーを……失点や1対1で負ければ非難が強まる。得点して活躍を見せてその場は盛り上がっても、あくまで個人での活躍だと後から色々と言われている。そんなところですね?」
「えぇ……どうしてもサポーターの多くはイナズマジャパンもそうですし、何よりキャプテンの円堂くんに惹かれている面がありますからね。十六夜くんの強さは認めていても、プレーを認めることが出来ない層がいるのは現実ですね……」
「ただ、十六夜のお陰で他の選手が個人で非難されることが少ない。私のような監督を責めるのは当然として受け入れますが、まだ中学生の彼らが個人で責められるのは見るに耐えられません。本来なら十六夜も過度に責められるいわれはないのですが……本人曰く、世界一という結果で黙らせるから好きに喋らせたらいいとのことです」
「彼は達観していますね。……くぅ、本当はエイリア学園のときも取材しそびれたから今度こそ彼に取材をしたかったのですが……仕方ないですね。十六夜くんには、世界一になったイナズマジャパンを特集する番組をするから、次こそは予定を空けておいてくださいとお伝えください」
「えぇ。伝えておきます」
そう言うと改めてお礼を告げて空港へと向かうスタッフたち。久遠監督は見届けると、宿舎に入っていく。
「皆、お疲れ様だ」
「監督!」
今日の取材の感想を交流していた面々は、監督が入ってきたことで一斉にそちらを向く。
「応援してくれている存在が身近に感じただろう。決勝トーナメントの再開が決まった以上、改めて気を引き締めていくぞ」
「「「はい!」」」
その声に張り切って答えるイナズマジャパンのメンバー。
「ところで……十六夜はどうしたんですか?昨日から姿が見えませんが……」
「結局、今日の取材中も1度も来なかったしな」
「それなんだが……時間的にちょうど良い。テレビをつけてくれないか?」
「は、はい」
監督の指示でテレビの電源をつける。そこには……
『さぁ本日から何と9戦!A、Bリーグ交流戦と称して、試合を行っていきます!実況はお馴染みのマクスター・ランド、解説はレビン・マードックとイナズマジャパンから十六夜綾人選手をお迎えしています!十六夜選手、本日からよろしくお願いします!』
『はい、ご紹介に預かりました、イナズマジャパンの十六夜綾人です。自分は9戦全てを、この実況解説席からフィールドの選手たちの活躍をお2人とゲストと一緒にお届けしていきますので、よろしくお願いします』
「「「はぁ!?」」」
何かちゃっかり実況解説席に座っているヤツがいた。十六夜綾人、本人である。
『そして、本日のゲストはナイツ・オブ・クイーンよりエドガー・バルチナス選手です!エドガー選手も本日はよろしくお願いします!』
『ナイツ・オブ・クイーンよりやって参りました、エドガー・バルチナスです。このような立場で試合を見るのは初めてですが、精一杯務めさせて頂きますのでよろしくお願い致します』
『では早速、十六夜選手、エドガー選手。初戦アルゼンチン代表ジ・エンパイアVSフランス代表ローズグリフォンの試合ですが、注目ポイントは何処でしょう?』
『そうですね……ジ・エンパイアキャプテンのテレス・トルーエ選手の屈強な守備の堅牢さは当然として、ローズグリフォンキャプテンのピエール・ゴダン選手の美しい守備も一筋縄では堕ちないでしょう』
『相手の盾を前にお互いの矛をどのように通用させられるか。お互いが守備でリズムを整えてから試合をする……ある種似たチームと言えますね。だからこそ、1点の価値が非常に重い試合になるのではないでしょうか?』
『なるほど!それでは……』
と、テレビでは試合前のトークをエドガーと共に落ち着いた感じで回している様子が流れている。
「すげぇ慣れている……じゃなくて!監督!これは……」
「決勝トーナメントが約3週間後に決まった中、決勝トーナメントを盛り上げるため、ここから約2週間は決勝トーナメントに進出していない6チームによる試合が開催されることが決定した。実質的な4位以下の順位決定戦にも見えるが……期間が空きすぎてしまい、決勝トーナメント初戦に熱が入りきらないことを防ぐための運営の意向だ」
「そうだったんですか……って、じゃあどうして十六夜が?」
「あくまでここからの試合はエキシビションマッチ……運営としては決勝トーナメントへ繋げるための前哨戦の側面が強い。その変化をつけるためにも、実況解説席に選手側を増やすことで盛り上げることを意識した施策だ。そして、十六夜綾人を9戦固定枠としているのは、既に行われたランキングでアイツは個人として3位……分かりやすく言うのなら、世界中が注目している選手ということが数値で分かっているから起用したってところだ」
「え?1位や2位じゃダメだったんですか?」
「そもそも、今回の延期の原因となっているガルシルド・ベイハンの事件は、決勝トーナメントに進出した4チームすべてに大なり小なり影響を及ぼしている。比較的、影響が少ないのは我々イナズマジャパン。だから、影響が大きかった他のチームに迷惑をかけるわけには行かなかったという側面がある」
「なるほど……」
「予定では、エキシビションを戦う6チームのキャプテンはゲストとして出演は決まっている。残りの3試合分だが……一応、円堂。お前に打診が来ているぞ」
「えぇ!?そ、そうなんですか!?で、でも……」
そう言ってテレビを見る。画面では2チームの試合が流れ、音声として解説陣が試合に関わることを中心に話を回す。
「あ、あんな風に落ち着いて話出来るかな……?」
「そこは大人たちを信じろ。彼らはこの世界大会を任されるような紛れもないプロだ。それにあくまでお祭り的な側面が強いモノ。放送事故レベルの失言さえしなければ、軽いミスはフォローしてくれる。それに……」
「それに?」
「あれは十六夜とエドガーという2人だから落ち着いた会話で回っている。組み合わせが変われば、実況席の雰囲気も変わる。いつものお前で問題ない」
久遠監督の言葉で前向きな表情を見せる円堂。
この後、十六夜とエドガーは、ちゃんと仕事を果たしつつも、何故か2人の間で火花を散らしていた。
そして、最後は十六夜とエドガーがヒーローインタビューと称してテレスの下に行って、そこで三つ巴の言い合いをしていたが、何だか見覚えのある光景だと思ったのはまた別の話である。
「イザヨイアヤト選手。世界大会本戦でもゴール・アシスト数はDFとしては当然最多で、FWやMFにも引けを取っていない。そして、DFとして相手の決定機を潰した数も多い。……これがまず多くの観客が見ても分かる数値のデータですね」
「そうみたいですね」
エキシビションマッチの間にある休み。十六夜綾人はホテルの食事処の個室にて、前も来ていたスカウトマンと向き合っていた。
「印象的なゴールはジ・エンパイア戦のアイアンウォール崩し、オルフェウス戦の単独ドリブルでのゴールでしょうか。イナズマジャパンの試合を振り返る中でも、この世界大会本戦全試合のゴールを振り返る中でも際立っています。前者は圧倒的なパワーを見せつけ、後者は圧倒的なテクニック。1人の選手がここまで違う決め方をしているのも驚きの1つです」
「あー……そんなに話題になっているんですか?」
「もちろん。この世界大会でテレス選手のアイアンウォールを正面から破ったのはイザヨイ選手ただ1人ですし、相手選手をキーパーまでドリブルで突破して決めた選手もほとんど居ない……世界大会全体の得点シーンの中でも評価の高いものだと思いますよ」
「って言っても、前者は死ぬ気で色々とぶつけた……数で攻めただけですし、後者はフロー状態に入ったから出来たことですよ。もう1度やれって言われても、前者は特に厳しいですね」
と言いつつ、実際はこの前の魔王戦で近いことをやったことはなかったように伏せておく。
「それでも、後者は再現できる。それだけで十分ですよ。あくまでフロー状態は出来ることが集約されるだけ……出来ないことがいきなり出来るわけではありません」
「もっとフローの仕組みを理解しないと武器にはなり得ないので努力しますよ」
「では、次のお話です。基礎スペックとして、秀でているのはキープ力と守備力、分析力あたりでしょうか。フィジカルやスピード、テクニック、パスセンス、攻撃力も上位……スペックは全体的に高くて極端に低い部分がない。言わば、万能型ですね」
「万能型……割と言われますね」
「そうでしょう。ただ、そうですね……そこまで高くないものをあげるとすれば、献身さや協調性でしょうか。意識として、イザヨイ選手は個人が強すぎる。その意識のせいで、あなたについて行ける選手以外との連携がどうしても出来ていない部分が多い……オルフェウス戦で見せた姿がその典型でしょう」
「そうですね……」
「ただ、そのくらいのマイナスは正直、あなたの圧倒的な個人能力でプラスにしているので、あくまでそういう選手って思った方がいいでしょうね。あなたの個人能力を切り捨ててまで、チームという枠に収めようとは思いません」
「それでも、もう少しは連携がとれるようにしたいですが……まぁ、ほんの少しですけど」
「そして、必殺技関連。大きくペンギン、空中歩行そして瞬間移動ないしは時間停止でしょうか?」
(ペンギンって1つのカテゴリーなのか?)
「十分強力なものですね。最後のは封印しているようですが、そんなことをとやかく言える人間は居ません」
「それなら良かったです」
こちらもまた直近の魔王戦を経て、凶悪な進化を遂げているのだが伏せておくことにする。
「ということで、我がクラブとの契約金として提示するのはこちらになります」
そう言って差し出されたものを見て十六夜は目を見開く。
「……桁間違えてません?」
「いいえ。合っています。寧ろ、こちらは最低額……この後控えている2戦次第では上乗せする気しかありませんよ」
「2戦……次のブラジル戦と、その後の決勝戦か3位決定戦ですね」
「えぇ。その2戦がどのようになろうと……例えば、イザヨイ選手が出場しなくてもこちらの額はお支払いします。下げることは一切考えておりません」
「……大丈夫ですか?」
「もちろん。オーナーも世界大会本戦やクドウ監督より頂いたアジア予選を観て、あなたの価値を認めています」
アジア予選と聞いて一瞬ヤバいと思う十六夜。だが、そんな心配は杞憂に終わり、価値を認めているという。ということは目の前の金額はあくまで予選も含めた金額と言うことになる。
「寧ろ、この金額で少なくないか?と心配されているほどです」
「いや、多いですけど?あれ?コレって、あの工事であなた方に頼んだ立替金の金額を差し引いてですよね?」
「もちろんです。あなたから提示された我がクラブに立て替えて欲しい金額。そこから我がクラブとして、あなたが払うべきと判断した部分を除いた金額になりますよ」
「払うべき?」
久遠監督に呼ばれ、セインと十六夜が話し合った3時間で何があったか。まず、ヘブンズガーデンの工事に関しては決まっていたので、十六夜は何人かに電話を掛けていた。
まずは一連の騒動で繋がりがあった、ブラジルの建設業者。そこに現在の状況を細かく伝えた上で、割引とか一切抜きで本来ならいくら必要かを聞き出していた。見積額が分かると一旦電話を切る。
そこから、財前総理に電話をして、前々から言われていたガルシルド逮捕による謝礼金に関する相談をした。そこから現時点で決まっていた十六夜綾人に支払う最低金額を教えてもらい、謝礼金を財前総理を経由してもらうことを条件に総理からお金を借りることは出来るかと聞き、特例として承諾してもらう。具体的な金額を後ほど伝えると言って次に電話をかける。
そして、目の前の人には、自分と契約するときの契約金、そして、将来貰うお金をつぎ込んでいいから多額のお金を前借りしたいと伝える。用途や相手を伝え、いくらならすぐに動かせるかを確認し、期間を設ければいくらまで出せるかを確認。
後は再び建設業者と契約、前金としていくら必要かを確認し、再び電話を切る。そして、クラブにそのお金を支払ってもらうように頼み、不足分をガルシルド逮捕の謝礼金から前借りで出すことにしていた。このやりとりをしている間、セインは飛び交う金額の大きさと、その割にトントン拍子に進んでいく工事の契約に戦慄。久遠監督はこれが一中学生のやることか?と内心頭を抱えていた。
そのまま残りの時間を建設業者とオンラインでの打合せ、自分たち素人に何が出来るか、具体的なプラン設計を迅速に進めていたのだ。
「あなたがブラジルでどのような活躍をなさったかは、工事を担当した彼らから聞きました。一選手とは思えないご活躍……ガルシルド・ベイハン氏の逮捕の多大なる貢献者とお聞きしていましたが、それでも中々の驚きです。本来一個人じゃすぐに用意できない額を、前借りとはいえ中学生が用意できてしまったのも納得ですよ」
「あ、あはは……」
「私たちとしては今回の件は一種のPRにも繋がると考えたわけです。あなたのやりたいことを全力でバックアップする……我がクラブはあなたを全面的にサポートする。あなたは我がクラブの言わば広告塔であり、この先の中心になる存在とする。今回の件もサッカー大国ブラジルとのコネクションが出来たのは今後を見据えると圧倒的なプラス。こんな機会、我がクラブには一生まわってこないものでしたからね」
「なるほど……アンタたちの金稼ぎ筆頭になる。今後を見据えた金銭面のプラスを考えると、今回のこれは必要経費だと」
「そういうことです。ご不満でしょうか?」
「いいえ。あなたたちのやりたいこととオレのやりたいことが噛み合うのなら問題ないです」
そう言うと十六夜は背もたれに背をつけて上を向く。そして、思考を終えると再び向き合う。
「2ついいですか?」
「何でしょう?」
「1つ。もし、イナズマジャパンが優勝しなければ、これの桁、1つ減らしていいです」
「……よろしいのですか?……こうは言ってはアレなんですが……私の見立てでは、イナズマジャパンが優勝できる可能性はかなり低いです」
「…………」
「次に当たるブラジルが強いのはもちろんです。ガルシルドの悪影響があったようですが、彼らはそれを抜きにしても間違いなく優勝候補……そして、そんな彼らに勝てたとしても、その次に当たるのがイタリアであれコトアールであれ厳しい戦いになるのは必然です」
「…………」
「あなたは通用するでしょう。ですが、イナズマジャパンというチームが通用するかは未知数……言い方が気に障るかもしれませんが、あまりにも勝算の低いギャンブルでは?」
「ギャンブル……ですか。でも1つ計算違いがあります」
「何でしょう?」
「オレが勝たせます。アイツらの強さは知っている……十分通用する、最低限そのレベルまでこの期間で上げてくると信じています。それでも足りないなら、オレが引っ張ります。オレがイナズマジャパンを頂点にする」
「……本気ですね」
「えぇ」
「……分かりました。では交換条件です。あなたが宣言を達成したのなら……イナズマジャパンが優勝したのなら、こちらの額以上のものは嫌でも受け取ってもらいます。いいですね?」
「構いませんよ。オレは世界一になりたい。あなた方のオファーはオレの目標じゃない。オレの目標は強いヤツに勝ってトップに立つ、それだけですよ」
「……ははっ」
「どうしましたか?」
「いえ、あなたはまるで戦士だなと。戦場の中でしか生きれない。常に戦場を求めている。戦って勝つこと以外に何もいらないとさえ思っている」
「ハッ、どっちかというと
「それで構いません。我がクラブが強くなるには、あなたのような劇薬……全てを変えてしまうような存在が必要です。更地にする覚悟……私たちの国のサッカーを、今の環境を、全てをゼロにする覚悟はあります。その覚悟がないのなら、あなたを中心に据えることなどしませんよ」
「そうですか……」
十六夜は嬉しそうに口元を緩める。
(この人は本気で、クラブの在り方さえ変えてでも、勝つためのチームを作る覚悟がある。……いい人と巡り会えたようだな)
「それで?もう1つは何でしょうか?」
「えぇ。イナズマジャパンが優勝して、正式にあなたのチームに入ってやりたいことがあるんです」
「何でしょう?」
「イナズマジャパンと戦わせてください」
「……ほう?」
「イナズマジャパンはオレが潰す。世界一になったチームを、真正面から叩き潰したい。そのための助力をしてほしいです」
「なるほど。キャプテンであるエンドウマモル選手……彼とあなたの思想は正反対」
「気付かれていましたか」
「えぇ。世界から見たイナズマジャパンは、エンドウ選手中心の調和の光と、イザヨイ選手個人という絶対的な闇が対立している。そんな光と闇が入り混じるチームです」
「なんて言われようだ」
「何も知らない人が聞いたら普通は驚くでしょう。自分の所属していたチームを潰したいなんて、恨みか何かあるのではと勘ぐりを受ける。……でも、あなたは純粋に、エンドウ選手が中心の光一色のチームと戦いたい」
「……そうですね。円堂の思想は分かり合えない……だから向き合ってみたいんですよ。アイツを倒すべき敵として、アイツらを倒すべき敵として見据えて戦い……勝つ」
「ある意味日本という国と戦おうとしている……そんな覚悟があり、それでも叶えたい野望がある。本当にあなたと言う選手は我がクラブの……いえ、我が国のサッカーを丸ごと変えてしまいそうな劇薬だ。ただ、申し訳ありませんがその願いをすぐに叶えることは難しいかと」
「構いません。どのみち、オレが認める奴らとしかこの野望は果たす気がありません。適当な数合わせなんていらない。そんなノイズは邪魔ですから。だから、仲間集めから時間がかかるでしょうね」
「……いいでしょう。であれば、そんな選手たちを見つけることも私の仕事です。あなたが叩き潰したくなる選手たち集め……私たちクラブが総出をあげて手伝うと約束しましょう。幸い、あなたの名が売れてくれればそういう選手を集めるときにも役に立ちますからね」
「助かります」
「いえいえ。これは我がクラブ……ひいては我が国のサッカーのレベル向上に繋がる大きな仕事です。言うなれば抜本的な改革……この先来るであろうサッカーのビッグウェイブに乗り遅れるわけには行きません。今はまだ後方かもしれませんが最前線に躍り出て、そのまま走るつもりで行きますよ」
「そうですか。レベルが上がれば今より強い奴らと戦える……楽しみにしていますよ」
「えぇ、楽しみにしてください。あなたが飽きてしまうことがないようなフィールドを用意してみせます」
そう言って立ち上がる十六夜。
「オーナーにも渡しておいてください。興味があれば将来、あなたのクラブが飼うことになるバケモノを見に来てください、と」
「……良いのですか?」
「えぇ。これは今受けているお仕事のご褒美みたいなものですから」
「ありがたく、スタジアムで見させて頂きますよ」
十六夜の手から渡されたのはイナズマジャパンVSザ・キングダム戦の観戦チケット。その日付は2週間後になっていた。
ここでお知らせですが、次回までしばらく空くことが予想されます。今年中に帰ってくるといいなと思いますが未定です。また唐突に投稿を再開すると思いますので、気長にお待ちください。
というか、今見返したら昨年の5月から毎週投稿していたのか……5月の時点では天使悪魔終わったら途切れると予想していたのに、オーガまで進むとは……