合宿も終え、ついに決勝戦は明日に控えたその夜。
「今日のメニューも終わりだな」
「だな」
木戸川清修の後から特訓を少しハードにしてもらった。だからと言って今までのように奴らのシュートを止めれる保証もなければ、ドリブルを止められる保証はない。
「十六夜。明日が試合本番だ。しっかり、疲れを残すなよ」
ストレッチをしながら話を聞いてる。
「今のお前は出会ったころに比べれば見違える程力をつけてる」
「お前のお陰だよ。八神」
「決勝戦。私は雷門に勝ってほしいとは思わない」
「へぇ。というか、今までもだろ」
「何だ。気付いていたのか」
八神は決して雷門の応援の為に、今までほぼ全試合を見に来たわけではない。何というか、実力を見定めてるようには見えたが、まぁ気のせいだろう。1番の目的は、
「オレがどういうプレーをするかを見に……だろ?」
「ああ。例え雷門が負けたとしてもお前のプレーが良ければいい。逆もだ。勝てても腑抜けていれば見限ることも視野に入れてた」
「はは。そりゃ厳しいことで」
なるほど。オレは見限られてた可能性もあったわけか。
「私は知ってる。お前の強さも弱さも。世宇子というのがどれ程の強さか知らんが、そこに負けるような特訓をさせたつもりはないし、お前なら負けない」
「わぁお。お墨付きを貰ったかな」
すると、オレの左胸に拳を当ててくる八神。
「正直に言おう。お前は最初はただの面白いプレイヤーだった。それ以上でもそれ以下でもない。だが今は違う」
そして、好戦的な笑みを浮かべる。
「少なくとも私の足元には及ぶ存在となった。この短期間での成長スピードは驚いてる」
「やれやれ。でも、まだ足元か……」
オレも応えるように好戦的な笑みを浮かべる。
「世宇子ぶっ倒したら、八神。次はお前を超えてやる。楽しみにしてな」
直観だがあのアフロディより、八神が本気を出した方が強い気がする。いつか。コイツの本気より強くなってやる。覚悟しな。
「やはり、お前は私の認めるサッカープレイヤーだ。なら、
「上等。オレは雷門の強さを知ってる。オレたちは負けない。勝ってやる」
ただの応援……というか若干上からの応援。だが、こっちの方がオレをやる気にさせてくれる。世宇子に勝てなきゃ八神に勝てねぇ。そんな気しかしねぇ。
「そうだ。決勝戦の後。会わないか?」
会う?まぁ、断る理由がないか。
「構わねぇよ」
「じゃあ、明日の夜。いつも通りの時間な。日中は流石に厳しいだろ?」
「まぁな。じゃあ帰るわ」
「…………頑張れよ」
「おう」
オレは1人去っていく。
「…………十六夜綾人。お前は私たちの敵として立ちはだかるか、それとも……」
最後の八神の呟きは、オレには届いていなかった。
フットボールフロンティアの会場についた雷門中サッカー部。しかし、閉鎖の2文字があり、会場内には柵のせいで入れない。
「誰もいないぞ」
「どうなってんだ」
人の気配はしない……と思っていると雷門の携帯電話の着信音が流れる。
「はい。そうです。…………え?どういうことですか?…………でも今更そんな!……はい。分かりました」
「誰からだ?」
「大会本部から」
「まさか、試合会場の変更か?」
「そのまさかよ。急遽、決勝戦の会場が変わったって」
「変わったってどこへ」
「それが」
そう言って見上げる雷門。釣られてオレたちも見上げると、
「何だあれ!?」
いや、本当に何だよアレ。何か浮いてるというか飛んでるというか。
「まさか、決勝戦のスタジアムというのは」
「え。あそこが?」
「マジで……?」
その後決勝戦……この試合の実行委員によって空飛ぶスタジアム。正式名称ゼウススタジアムに連れてこられたオレたち雷門サッカー部。中に入って、改めてそのスタジアムの凄まじさに絶句する。
影山の圧力……か。ここまで影響力があったのだと思うと恐ろしくもあり、少し疑問に残る。というか、何でわざわざ試合会場を変更したんだ?……と、ここで円堂がスタジアムを見下ろす影山を発見した。
「影山!」
豪炎寺と鬼道を始めとした面々が影山を睨む。
「円堂、話がある」
「は、はい」
ここで響木監督が円堂に声を掛け、その場で全員聞こえるように話を始める。
「大介さん……お前のおじいさんの死には影山が関わっているかもしれない」
皆一様に驚きを示したが、オレとしては刑事さんから話を聞いた時に、薄々感じ取ったことだ。だって、影山が円堂のおじいさんを怨まないわけがない。円堂のおじいさん率いる世代がいなければ影山のお父さんは消えなかっただろうから。
「じいちゃんが……影山に?」
「ああ」
円堂の呼吸が荒くなり、拳を強く握りこむ。唇を噛み締めながらも、何とか自分を取り戻そうとする。そんな中、豪炎寺が円堂の肩に手を置く。
そう。豪炎寺もまた影山の被害者なのだ。
それを思ってか円堂は深呼吸をする。
「円堂君」
「……円堂君」
「「「円堂!」」」
「「「キャプテン!」」」
「……円堂」
「監督、皆……こんなに俺を思ってくれる仲間、皆に会えたのはサッカーのおかげなんだ。影山は憎い!だけどそんな気持ちでプレーしたくない。サッカーは楽しくて、面白くて、ワクワクする。1つのボールに皆の気持ちをぶつける最高のスポーツなんだ!だからこの試合も俺はいつもの……俺たちのサッカーをする!皆と優勝を目指す!サッカーが好きだから!」
その言葉に皆頷く。
「らしいな。円堂……だが、それでこそお前だ」
「十六夜……ああ。俺は俺らしくやるだけだ」
「さぁ、試合の準備だ!」
「「「はい!」」」
響木監督の声に返事をして、オレたちは控え室に向かうのだった。