「キラード博士。オーガです」
バンダナをつけた少年が通信機に向け話しかける。
『こちらも感知しています』
「俺もう行きます!」
「待て。カノン」
カノンと呼ばれた少年が行こうとするのを止める青髪の少年。
「何で止めるんだよ。レイ。早く行かないとひいじいちゃんたちが!」
「まだ準備が整ってねぇんだ。だろ?博士」
『その通りです。もう少しだけ待ってください』
「オレたちが今行ったところで何もできねぇ。だから――」
レイと呼ばれた少年は、空を仰ぎどこか疲れを感じてる十六夜に目を向け、
「――オレたちが行くまで耐えてくれよ」
で、なんとか復活したオレ。
突如として現れた王牙学園の面々……まぁ、オーガだな。奴らは、全員が軍服のような格好で統一されてる。おい、サッカーじゃないのか?いや、そういう系の学校?よくわかんねぇな。
とりあえず雷門のスターティングメンバーは全員整列しセンターライン付近でオーガと向き合う。円堂が一歩、向こうも一歩前に出て、
「俺は雷門中キャプテン――」
「円堂守だな」
「……あ、ああ」
早速こっちの自己紹介をぶった切ってくる向こうのキャプテンらしき人。
「そして、そこにいるのは十六夜綾人」
「……そうだけど。アンタ誰?」
「バダップ・スリード」
バダップというみたいだが…………え?本名?まぁ、それはいいか。外人だなきっと。
と思ったら他の奴らの名前も全員カタカナで日本人じゃないみたいだった。まぁ、何人でもいっか。サッカーをするわけだし関係ないか。
「いい試合にしよう。よろしくな」
手を差し出す円堂。が、
「下らない」
「え?」
バダップは応えようとはしなかった。
「戦場で敵と馴れ合おうとは」
「……戦場?」
「……ここが?」
戦場がまぁこのサッカーフィールドだとするなら敵はオレたちか。でも、なんか言い方がオーバー過ぎない?うーん……。
「戦闘準備」
と、バダップが手を上げ、声をかける。それに八人が気をつけのように姿勢を正す。
「散開せよ」
そして、下に伸ばしていた腕の両肘を、90度に曲げ手を握り、統一された動きでポジションに着いた。
「…………」
「え?サッカーやるんだよね?」
あまりのことに驚くオレと円堂。
「円堂。十六夜。ポジションにつくぞ」
「ああ……」
「お、おう」
鬼道に言われてポジションに着く。
FW 豪炎寺 染岡
MF 風丸 鬼道 一ノ瀬 マックス
DF 土門 壁山 十六夜 栗松
GK 円堂
とまぁ、決勝戦もいつも通りの感じなポジションである。
全員が各々のポジションにつくと、
「……了解。フェイズⅡ。スタート」
すると、軍服から一瞬で赤色ベースのユニフォームに早変わり。…………。
「はぁあああああああああ!?」
いやいやどうなってんの!?一瞬で服が変わったんだけど!オーバーテクノロジーじゃねぇか!少なくともあんな技術はもっと先に生まれるはずだろ!?なんでそんな現代技術を超えてるものを平然と使ってるんだこいつら!?
ピーー
と言うオレの(心の中の)ツッコミを完全無視して審判が試合開始の笛を吹く。アンタ驚いてないの?
で、雷門ボールでキックオフ。染岡がドリブルで上がっていく。が、バダップたちオーガは全くディフェンスしない。それどころか、動かない。
ボールは何も邪魔されることなく染岡から一ノ瀬、鬼道へと順調に渡っていく。
「どうして……?」
「こいつらは何故動かない……?」
しかし、オーガはこっちが攻めているにも関わらず誰も動こうとしない。
「だったら遠慮なく決めさせてもらうぜ!」
「ああ!決めろ染岡!」
そして、鬼道から染岡にボールが渡ろうとしたその時、オーガの6番、サンダユウが走りだす。ダイレクトでシュートを打とうと、足を振り上げていた染岡からボールを奪い去った。
『なっ!?』
「……おいおい」
あの動き見えなくはないが速い。速くて正確。タイミングとかも全て合理的で合致している。
やはり、こいつら強いな。だが、なぜそんなことをする?
そう考えているうちにボールはサンダユウがループでパスを出しミストレへ。
「貰った!」
ミストレがトラップした瞬間ボールを奪う風丸。そのままドリブルで上がっていくも、
「……おかしい」
オーガは誰一人動じることなく、再び動かない。
「皆!気にするな!攻め込んで行けー!」
「ああ!豪炎寺!いけぇ!」
風丸から豪炎寺へのパスを出そうとしたその時、オーガ7番ドラッヘが動き出し、シュートを打つ寸前でボールをカットする。そしてドラッヘは適当にエスカバへパス。それをカットし、攻める雷門。
「何かがおかしい……ちょっと行ってくる」
「ああ、頼んだぞ」
何度も何度も雷門が攻め切れない展開が続いたので前線へ行ってみる。
「一ノ瀬!」
「ああ!」
パスをもらい攻め上がる。やはり妙だ。何故こいつらは一切動かない。いやそれだけならまだいい。ボールをもらって分かったが、こいつらからボールを奪おうとする気が一切感じない。これは明らかに不自然だ。
そのままボールを持ち込み、ペナルティーエリア手前、
「…………っ!?」
シュートを打とうと足を上げた瞬間、一瞬で目の前にサンダユウが現れそのままとられてしまう。そしてボールは力のない感じで軽く前線へ。
「何やってんだあいつら!?」
「なんか、おかしいでやんす!」
「豪炎寺さんたち、何でシュートに行かないんスか?」
「違う。行かないんじゃない。いけないんだ」
戻ってきたオレはディフェンス陣に告げた。
「どういうことだ」
「これはオレよりあいつらの方が理解している。後10分もすれば前半が終わる。その時な」
傍目から見ればこっちが絶好のシュートチャンスを逃しているように見える。そう見えるだけ。実際は、そもそも前提が違う。あれはオレたちにとっての絶好のシュートチャンスなんかじゃない。意図的にオーガが仕組んでいる罠。
ただ、何故オーガはそんな一見無意味なことをする?こんなことに意味はあるのか?
(皆、攻め切れない事に苛立っている……オーガも何で攻め上がって来ないんだ?)
ピ、ピーー
『前半終了!得点は0ー0!試合は雷門ペースだったものの、一発のシュートも無し!まさかの試合展開になっております!』
何が狙いかは全く分からない。だが、このまま後半も終わるなんて微塵も思えない。
「何が狙いだ……一体」
疑問を抱えながらベンチに帰るのだった。
「なるほどねぇ。この戦法は確かに有効だ」
「って何のんきなこと言ってるんだよレイ!」
「のんきなことじゃねぇよ。奴らが本気を出していたらこっちの手はずが整う前にゲームセットだった。ひいじいちゃんたちには悪いがこの戦法でまだ助かってるんだよこっちは」
「くっ……」
「今は耐えて祈れ。そしていつでも動けるようにしろ。サッカーを、ひいじいちゃんを救いてぇならな」
そのレイの眼は何時になく真剣で、
「ぶっちゃけ、ひいじいちゃんがツッコミ死しないか心配なんだがな」
どことなく別のことを心配しているようだった。