ミニゲーム開始5分。
「何なんだこいつら……!」
「つ、強すぎる……!」
スコアは5対0と十六夜とフィディオのチームが圧倒していた。そして、
「行けっ!」
「クソっ!」
フィディオのシュートがゴールに刺さる。これで6対0だ。
私は考えが甘かったかもしれないと試合を見て痛感する。十六夜は人数的にも私が出ないのはおかしいと感じたはずだ。私が出ない理由としては至ってシンプル。十六夜の実力を試すためだ。相手が年上だとしても、人数的に不利だとしても、我々の元に来てさらにレベルを上げた十六夜ならば倒せると確信していたからだ。
だが現実はどうだ?確かに十六夜はあの者たちを圧倒するレベルにある。だが、十六夜と共に戦っているフィディオと比べると実力が天と地程の差があるのだ。わかりやすく言うなら出会った頃の私と十六夜くらい実力がかけ離れている。
「ナイスアシスト!アヤト」
「そっちこそ。ナイスシュート」
思考している間に7点目が入る。もう相手が可哀想に見えてくるが、ふっかけてきたのは相手側なので自業自得と言わざるを得ない。
恐らく……いや、断言出来るのは、あのフィディオが何者であれ、今の私やグランを含めたエイリア学園の選手は、誰もがあの男の足下にすら及んでいない。誇張しているように見えるが、少なくとも誰も勝てないという点では真実だろう。
しかし、私は1つだけ分からないことがあった。
「……何でお前はそんなに楽しそうなんだ…………」
何故そんな絶望的な実力差を見せつけられてお前はそんな好戦的な笑みを浮かべていられる。努力してあがいてそれでもまだ背中すら見えない壁を見ても何故お前は────
ピ、ピー
試合終了のホイッスル。最終的なスコアは20対0……?もうミニゲームのスコアじゃないだろ。
「ッチ。約束だ。引き上げるぞお前ら」
と、約束通り大人しく帰って行く……あ、そこは素直なのね。流石に武力行使はしなかったか。
「ふぅーお疲れアヤト」
「あぁ……って言うほど疲れてないだろ?」
スタミナ、スピード、テクニック、パワー……何を取ってもフィディオという選手はオレを遙かに超えている。特にテクニックという面ではそれが顕著に表れている。更に、まるでフィールド全てが見えているように感じるプレーの数々。
「あはは……」
「すげぇ!やっぱりフィディオはすげぇよ!」
「かっこよかったよ!」
子どもたちがフィディオに群がっている。すごい人気だな。
「流石、イタリアの白い流星と呼ばれるだけのことはある」
審判をしていたおっちゃんが気になることを言う。
「白い……流星?」
「おや、アンタは知らんのか?フィディオ・アルデナ。ヨーロッパ屈指のストライカーで、開催の噂がある中学サッカーの世界大会では間違いなくレギュラー入りされると言われている」
何か色々な情報が一気に流れ込んだが、間違いなく言えるのは、
「これが世界レベル……!」
「彼はイタリア……いや、世界でも有数のトッププレイヤーといえるだろうな」
オレはその言葉を聞いた瞬間心の底から熱くなるものを感じた。心の奥底からふつふつと湧き上がってくる感情……!
「なぁ、フィディオ」
オレはその感情を抑えられない。
「何かな?アヤト」
「オレと勝負してくれないか?」
無茶苦茶だとは思う。相手はヨーロッパでも有名なストライカー。対してこっちは無名の日本人プレイヤーで、さっき一緒に戦ってとてつもない実力差があることは痛いほど分かっている。
「いいよ。俺も君には興味がわいた。さぁ、やろうか」
話し合いの結果(と言っても一言二言で終わったが)先攻後攻に分かれ先に5点決めた方の勝ちとなった。
「じゃあ、俺から行かせてもらうよ」
さっきのミニゲームで分かったこと。それは、今のオレでは絶対に止められないこと。じゃあ、諦めるのか?…………いいや違うな。
「…………っ!だが……!」
「ならば……!」
フェイントにも素早く対応する……が、さらにフェイントを重ねられ呆気なく抜かれてしまう。
「次はオレの番だな」
ドリブルを始める…………が、ッチ。ストライカーとは言えそこら辺のやつよりはディフェンスが上手い。ダメだ。突破できるビジョンが見えない。
「そこだ!」
「しまっ……!」
敗北のビジョンが影をさしたその一瞬を付いて呆気なく取られてしまう。
「次は俺の番だな」
「ああ、来い!」
結果から言うと十六夜は完敗した。1点も取ることが出来ずストレート負けをした。
フィディオと再戦の約束をして別れたものの、そこから一切言葉を発しない。
私は今の彼にどう言葉をかけていいか分からなかった。
いつものような感じで言えばいいのか、慰めるようなそんな感じで言えばいいのか、どう言えばいいのか分からなかった。
「なぁ、八神」
夕日が傾き始め、もうすぐこちらの時間では夜になるそんな中、遂に沈黙は破られた。
「なんだ?」
「世界レベルは凄いな」
……それは見ていて思った。十六夜は間違いなくマスターランクチームに恥じない実力を身につけ始めている。だが、それでもほとんど通用しなかった。
「今のオレでは一切届いていない。全く相手にならないんだな」
不思議とその言葉には悲しみというか負の感情を一切感じなかった。むしろ、
「お前……ニヤついていて引くぞ」
「表情に出ているか?」
「もの凄く」
「あはははは!」
むしろ、プラスの感情しか感じなかった。
意味が分からない。この男は、あれだけ辛い特訓をして、強くなって、それでも歯が立たなかった相手が目の前に現れた。それなのに、どうして笑っていられるんだ?
「お前は……悔しくないのか?」
私は少なくとも悔しい。
きっとあの男には私たちがアレを使っても敵わない。私たちは最強だと思っていたのに、実際はそうでないことに気付いてしまった。気付かされてしまったことに凄い悔しさを覚える。
「悔しいさ。滅茶苦茶悔しい」
十六夜は笑うのを止め、真剣な表情で答えた。
「なら、何でお前はそんなに楽しそうなんだ」
「楽しいだろ?だって、必殺技がチートだったからとか、そんなクソみたいな言い訳が出来ない。純粋にオレなんかより凄く強い同年代に会えたんだ。そして、それはフィディオだけじゃない。他の国にももっとそういう純粋に凄い奴らはいる」
上には上がいる。それを理解した上での発言だ。
「オレはまだまだ強くなれる。そして、そういう奴らと渡り合いたい」
「渡り合いたい?」
「ああ。だからさ」
そう言うと彼は私の方を見て笑顔を見せる。
「これからもよろしくな」
その彼の笑顔を見ると何故か頬が熱くなっていく感じがする。いや、おかしいのは頬だけじゃない。心臓の鼓動が心なしかいつもより早くなり、いても立ってもいられなくなる。
──ダメだ。その笑顔を見続けたら私の中で何かが起こる。
「じゃあ、帰ったら早速特訓だな」
私は逃げるようにして彼から顔を背けてスタスタと歩き出す。
おかしい。声がいつもより震えてそれをごまかすために早口になっている気がする。
「分かってるよ」
「大体、純粋なテクニック面もそうだが、今回は必殺技禁止の一種の縛りプレイだったんだ。必殺技の練度向上もそうだが、まずお前の場合はペラーを介さずにペンギンを呼ぶところから始めるぞ」
「ちょ、何でそんな早足で早口なんだよ!?」
「お前が遅いだけだ!」
「凄い理不尽!?え、あ、お土産とかまだ見てないだろ!?」
「ほら行くぞ!」
「オレ疲れてるんですけど!?後、迷子になるぞ」
「知るか!」
私がこの気持ちの正体に気付くのはまだまだ先の話。