雷門中が沖縄にいるらしい。
らしいというのはこれまた人伝に聴いた話だからである。
どうにも沖縄に炎のストライカーがいるとかいないとか……うん。少し前のバーンたちとの練習は関係ないよな?関係していたら、オレにも責任の一端がある気がして成らない……いや、そうでもないか。悪いのはバーン。オレじゃない。
「…………」
ゴォォォオオオオオオオオオオオッッッ!
滝に打たれて精神を高めていく。
すべての感覚が研ぎ澄まされていくこの感じ……。
『…………』
隣でもペラーが似たような感じで滝に打たれている。
これ、端から見れば滝に打たれるペットと飼い主ってとこか?
『いや、ペンギンをペットにする人はいないでしょ』
それもそうか。
今は滝に入りながら休憩中。どうにも最近は最初に比べるとすぐに集中状態に入れるようになった。これも修行の成果か?…………まぁ、どの程度サッカーに生かされるかは知らんけど。
集中状態になればこの自然の全てと自分の感覚が一体となる。そんな錯覚と言ったらおしまいだが感覚になれる。
だからこそ──と言ったらアレだが、
「…………気付いているか?ペラー」
『…………当然』
だからこそ、さっきから3人ほど、陰からこちらを伺っている者の存在に目を閉じていても気づけるわけで。
「いい加減ご登場願おうか」
オレは横に置いてあったボールを手に取り、パントキックの要領で真上に蹴り上げる。ボールは水の流れに逆らい、滝を切り裂く勢いで空へ。そして、そのまま落ちてきたボールを……
「皇帝ペンギンOペンギンなしver!」
後ろ回し蹴りで3人の気配のする方へとシュートを放つ。
『……いや、ペンギンいないその技はただのシュートだから』
うるせぇ。お前ら出すと威力が高すぎて近くの木をへし折りかねない。
『いや、綾人単体でももう充分だよ?ほら』
目を開けてみるとへし折れている木が……そして、その倒れた木の傍らに立つ3人の男の影が……よし。狙い通りだな。
『絶対嘘だ!力の調節ミスったんでしょ!』
ああ、そうだよ!裸足だったから感覚狂ったんだよ!ついでに滝のせいでボール加速していたし!後、あんなに簡単に折れると思わなかったし!
…………でも、おかしいな?前の世界なんてどんな方法でシュート打っても木なんて折れたことないけどなぁ?
『…………絶対姉御の影響だ……そのうちコンクリート破壊しそう』
それはないない。
『と、1回オレは消えるね』
見ると、その3人の男がこちらに近づいてきている。
仕方ない。なんか見たことある顔だし。話くらい聞いてやろうか。
「十六夜綾人君。お話があります」
「お話……ねぇ」
「率直に言います。何故貴方はエイリア石を身に付けていないのですか?」
…………こいつらがエイリア学園の手の者っていうのは知っている。だが、なぜエイリア石を受け取ったことを知っている?……いや、答えなんてたった1つか。
「あーあれね。なくしたよ」
「研崎さんから渡された力を……いえ。でしたらもう1度授けるまでです」
そう言ってエイリア石を出してくるハゲ頭。ご丁寧に首からかけられるように加工されている。
「悪いけど、お断りさせていただくよ。オレには必要ない」
あの石を触ったとき、自分の中に力が流れてくる感覚がした。
まるで、強くしてやる。願いを叶えてやると、石が言っているみたいだった。
そして、それは拒絶を許さない程の力だった。
「いいえ。貴方はこれを身に付けなければならない。さもないと────豪炎寺夕香さんの安全は保証しませんよ」
「…………あ"ぁ"?」
「察しのいい貴方は気付いているはずだ。豪炎寺修也君が何故、雷門を離れているかを」
「テメェらなぁ……!自分たちの計画のために、子どもを人質にとって恥ずかしくはねぇのかよ!」
「いいんですか?どうなっても知りませんよ?」
…………オレは豪炎寺が妹を守るために雷門を離れたのを知っている。
妹を守るために雷門を離れる選択を取った豪炎寺を責めるつもりはねぇし、オレも尊重する。
だから──オレはこの脅しに屈するしかない。オレには1人でこの状況を打開する術を持ち合わせていないから。
「……分かった。だからあの子に手を出すな」
オレは本人に会った事があるわけじゃない。だが、豪炎寺があの子を大切に思っていることを知っている。だから、オレはアイツの思いを……!
「いい判断です」
そう言って首にかけられたエイリア石。
「くっ……!」
流れ込んでくる力。悪魔のような囁き。
前は、堕ちそうなところをペラーが間一髪のところで落としてくれたが、今回は期待できない。
こいつらのいる手前外すことなんてできないだろう。
「心配しなくていい。直に豪炎寺修也君も君の隣で我々に力を貸してくれる」
……はぁ?ということはおい。
「テメェら……!豪炎寺に手を出すつもりか……!」
「えぇ。約束通り、
ざけんなよ……!ふざけんなよクソやろうどもがぁ……!
「……潰す……!ぜってぇぶっ潰してやる……!」
「いい目だ。飲み込まれるのも時間の問題だな」
「精々その力を我々のために使ってくれよ」
「ではまた会おう。十六夜綾人君」
3人の男は消えた。
「ダメだ……!この力に飲み込まれたら……!」
きっとオレはオレでいられなくなる。そう思い、エイリア石を握り締め、破壊を試みるが、握りしめると同時に一層力がオレを支配しようとしてくる。
「クソがぁああああああああっ!」
ムーンが失踪した翌日。
「……ふむ」
今日、イプシロン改が雷門に試合を挑むようだ。そのために先ほど沖縄へと向かった。
ムーンの失踪──と言っても帰ってこなかっただけだと思っていたが──に関して、お父様の付き人である研崎が言うには、真の戦士となるために彼には特別な任務を与えた、とのことだが……
「……なんだ。この胸騒ぎは」
私の……いや。私たちの知らないところで、何かが動いている。そんな気がしてしまう。
「……ん?あれは?」
研崎と……その部下?何かを話している?
「十六夜…………様子は?」
十六夜だと?ムーンの事か?
「あれから動きはなく……」
「そうですか。愚かなことだ。力に逆らうなんて。まぁいい。あなたたちは豪炎寺の方を」
「はい」
立ち聞き……という形になってしまったが、動きはない?力に逆らう?……一体何のことだ?
「やれやれ。予想外ですね。まぁいいでしょう。計画に支障はありません」
計画だと?お父様の計画だったらいいが……
「何なんだこの胸騒ぎは……」
さっきから何かがある。何かおかしい。
「…………ムーンに会う必要がありそうだな」
そう思い、私はボールを片手にまずは施設の中を捜索するのだった。