施設内を捜すもやはりムーンの姿はない。
外に出るが奴がどこにいるかは分からないし、世界中から人を1人宛もなく捜すのは不可能。
だから──
「奴が行きそうな場所……それか行った場所か……」
最後の目撃情報……というと大袈裟だが、捜すのと並行して会ったメンバーたちに、ムーンを最後のいつ見たかというのを聞いていた。
ほとんどのメンバーが、食事の時が最後だったようであまり当てにならなかったが、普通のサッカーボールを持っている姿を見たという情報を得た。
つまり、ボールを持って消えた。すなわち、どこかに特訓しにいった可能性が高い。
「ただ……」
それが分かっただけ進歩……といいたいが、あの男だ。特訓をするのにサッカ-ゴールがある必要もましてや広いスペースも必要ない。極論、奴は個室ぐらいの限られたスペースさえあれば特訓ができる。
だから私と行ったことのないような新しい場所に行ったらお手上げだ。
「…………待てよ?」
ふと、最初に立ち聞きした、あの男たちの会話を思い出す。
ムーンに動きはないと言っていた。
動きはないという言葉があの男自身がおかしな動きを見せていないという意味かもしれない。ただ、あの聞こえた会話の流れからしたら、本当に動いていない。つまり、その場にずっととどまっている可能性がある。
「…………だとすると」
もし、後者なら一気に捜索範囲は狭まる。なぜなら、奴が公共の施設などの人目に付く場所や長時間滞在していた場合に問題が起きそうな場所にいないことになる。そんな場所にいれば奴らが、何かしらの方法で基地まで連れてくるはず。
「……つまり、山とかそういう自然の中……」
じゃあ、ムーンと自然で私が関連した場所…………あった。
「ダメ元で行ってみるか」
結論から言うとムーンを発見することは出来た。
前にムーンがペンギン使いとして覚醒するべく、滝行をしたことがあった。
あれ以来、たまにではあるがその滝に行っていると、何でも落ち着く場所だからと言っていた。
ムーンと自然に関連した場所。しかもここはあまり有名ではない。だからそんなに人がいなく、私の考えた条件を満たすのにピッタリの場所だった。
だが、問題はここからだったと私はムーンを見て知ることになる。
「……なんだこれは」
ムーンを中心に出来ているクレーター。その中心でムーンはうずくまるようにしている。
『待って!』
駆け寄ろうとする私。しかし、それを制止させるように小さな手が私を阻む。
「ペラー……」
ムーン……いや、十六夜の喚ぶ特殊なペンギンであるペラー。十六夜と意思疎通が可能で、私たちともコミュニケーションがとれる存在。
『今の綾人には近づかない方がいい』
前と同じく、どこからか取り出したホワイトボードとペンで筆談をしてくるペラー。
「……何が起きている?」
私はペラーに疑問をぶつける。
今の十六夜はただうずくまるようにしている……わけではない。胸の辺りから紫色の光が、そして背中……というより全身からドス黒いと言ったら言い過ぎだが、黒いオーラが出ている。
はっきり言って異常なのだ。
『オレにも詳しくは分からない。ただ、綾人は戦っていてそれを邪魔することは誰もできないんだ』
十六夜が戦っているのは分かる。でも、誰も邪魔できないのはどういうことだ?エイリア石にそんな力があるなんて話は聞かない。
「ペラー。分かる範囲でいい。あのドス黒い方のオーラはなんだ?」
『そうだね……オレは最初、思いの力……っていうと抽象的になっちゃうんだけど、そんな感じだと思っていた』
「思いの力……?」
『うん』
エイリア石には分かりやすく言えば人をパワーアップする力がある。
身体能力の向上、精神的な弱さの克服など、様々な強い
そして代償……というより、その強すぎる力は与えられた者の性格や思想をねじ曲げてしまう。
話によればエイリア石の光を間近で見るだけでもエイリア石から人間の心にある力への渇望や欲が増長され、手にした者は力と引き換えにそれらが満たされる。
私たちはその力を知っている。強さも何もかもを。ただ、お父様の計画では私たちはそれに頼ってはいけない。
理由……というより原理は単純なのだ。あくまで得られる力はあの石から与えられるもの。逆に考えるとあの石さえ取り上げれば力は失われる。決してあの石を手にした人間が強くなっているわけじゃない。あの石が手にした人間を強くしているだけなのだ。
だから、その石の力と十六夜の思いが目に見える形で戦っているのだろう。
「……待て」
ここで私はペラーの言った言葉を見る。
「そんな感じだと思っていただと?じゃあ、違うと思っているのか?」
『綾人の思いの塊だと思っていた……けど、もう1つ。あの力は綾人に近づかせないような不思議な力があるんだ』
そう言ってペラーは近くの石ころを投げ付ける。
「お、おい」
しかしその石ころは十六夜の近くまで行くと空中で急停止。そして地面へ叩きつけた。
「…………は?」
こう言ってはあれだが……理解が出来なかった。何が起きたんだ今?
『だからあの黒い方はよく分からない。けど、1つだけ言えるのは……綾人は今も戦っている。オレに出来るのは見守ることだけ……』
複雑な感情で十六夜の方を見るペラー。心なしかいつもよりも身体が透けて……!?
「お前!身体が……!」
『きっと綾人が負ければオレは消える。だってオレは綾人が生み出した存在だから』
…………私はどうすればいいんだ。
エイリア石の効力を知っている。これまでの十六夜の努力も知っている。
あの石があればアイツはきっと想像もできないくらい強くなれる。そしてそれはお父様の計画を進めるのに大きく役立つだろう。
でも、心のどこかでアイツがエイリア石に負けてしまうのが嫌な自分がいる。ペラーが消える消えないとかそういうのじゃない。
エイリア石に取り込まれれば…………いや、そんなのはなくてもアイツは強い…………でも……いや…………ダメだ。全然分からない。
……私は一体…………どうすればいいんだ?
「もう終わりか?」
目の前に立つ奴がボールを足で持ちながら倒れ込むオレを見下してくる。
「そうだろうな。いい加減力の差が分かっただろ?」
ボールの上に座り見下ろしてくる。
「くくっ。エイリア石の力は最高だ。力がドンドン溢れて来やがる……なぁ?いい加減負けを認めようぜ?十六夜綾人……いいや。もう1人のオレ」
目の前に見える男はオレとそっくり。少し目尻が上がって、髪が荒々しくなっているくらいで後は瓜二つ。
「ざけんなよ……!」
「なら、ボールを獲ってみろよ」
ニヤニヤとした感じで言ってくる。……腹立たしい。しかもオレが言って来ているあたりクソみたいに腹立たしい。
だが、さっきから何度も戦っているが一向にボールに触れることさえ出来ていない。もし、サッカーの能力がパラメーターで表示されるとすれば間違いなく目の前のオレは、少なくとも今のオレの上位互換だろう。
「オレはお前の中にいた。ずっと悔しかったんだぜ?どんなに努力したってウルビダには勝てねぇし、やっとアイツに本気出させたと思ったらフィディオに軽くあしらわれてよぉ」
推測だが……コイツはエイリア石に取り憑かれたオレ。ここで負ければきっと、表でもこっちのオレが出て来る……それだけは阻止しねぇと。
「円堂たちにしてもそうだ。アイツら、オレなんかよりも成長スピードが段違いだ。ドンドン強くなっていきやがる。ふざけんなって思わないか?お前の十何年分の努力を軽々超えてくるんだぜ?」
「だから?」
「おいおい。悔しくねぇのか?フットボールフロンティアでのこと思い出してみろよ。少なくとも雷門イレブンは数名を除くが間違いなく前の世界のオレより強いぜ?十何年やって来たオレよりピカピカのルーキーたちがだ」
確かにそうだ。少なくともこっちに来たばかりのオレよりは強い。それは認めよう。
「でもな?この力さえあれば、アイツらを簡単にねじ伏せる事ができる。ああ、円堂たちだけじゃねぇぞ?今まで散々やられ続けたウルビダ……八神を赤子の手をひねるくらいたやすくぶちのめせる。それだけじゃねぇ。軽くあしらわれたフィディオにだって勝てる!」
目の前のオレの力説は止まらない。どんどん熱が入っていく。
「いいか!よく聞きやがれ
ヒートアップしていくオレ。確かに聞いているとその甘い言葉に乗りそうになってしまう。
「……なぁ。それって楽しいか?」
そう以前までのオレだったらの話だったらであるが。
目の前のオレが熱くなっていくのと対照的にオレは冷めていった。なぜかは分からない。でも冷めていた。
「楽しいか?くくっ。楽しいに決まっているだろ?殲滅できるんだぜ?見下せるんだぜ?」
「……ちげぇよアホ。その力を手に入れてのサッカー……楽しいか?」
勝負をしていて、コイツから一切サッカーに熱意を楽しさを感じなかった。
「あぁ、そういうことか。楽しいとか楽しくないとかどうでもいい。勝てれば、圧倒的力を見せ付ければそれでいいに決まってるだろ」
…………ああ。そういうこと。大きすぎる力に取り憑かれたから、単純なことを忘れているのか。
「……お前は弱い」
「……今、なんて言った?テメェ」
「……お前は弱いって言った。文句あるか?」
「はははっ!この期に及んで戯れ言言ってんじゃねぇよ!今倒れているのは誰だよ!テメェが弱く負けているからだろうが!」
「……オレが弱いのは知っている……というかお前。この声が聞こえていないのか?」
「声だと?」
「八神が負けるなって言ってくれている。ペラーが頑張れと言ってくれている」
「ハハハッ!ついにそんな幻聴が聞こえ始めたかおい!滑稽だな!まぁ、雑魚共がなんと言おうがオレは興味がねぇがな!」
オレは立ち上がり目の前のオレを見る。
「お前は忘れている。サッカーはチームでやるものだ」
「だからどうした!」
「オレ1人が最強になれるだと?ざけんなよクソが。仲間と共に最強になるんだろうが!」
オレは口元に指をやる。
「勘違い野郎に絶対負けるかよ!」
ピ──!
出て来るペンギン。その数は十を越え百、千、万……。
「お、おい……!何だよそれは!ふざけてんじゃねぇぞ!」
「ふざける?テメェはさっきオレの大切な仲間たちをバカにした」
八神はずっともがいている。アイツのお父様の計画の為にすべてを犠牲にし努力をしている。
ペラーは、オレの大切な相棒だ。謎に包まれてはいるがアイツは歴としたオレのパートナーだ。
そんな大切な仲間たちをコイツは雑魚と呼んだ。
「忘れてねぇかもう1人のオレ?オレは沸点が低いぜ?…………仲間がバカにされた時はな」
この感情は怒りだ。サッカーを冒涜された怒り。仲間をバカにされた怒り。
「ま、待て!いいのか!オレに任せれば強大な力で──」
「いらねぇっつてんだろうが!そんなのがなくてもオレには仲間がいる!」
そして、こんな自分が心の中に今もなお居るという現状に対する怒り。
「オレの中から消えろ
「ほ、本当にいいのか!オレをこのまま消すのは絶対に後悔するぞ!力を手に入れられる絶好の──」
目の前の奴の戯れ言を無視し、手を挙げて、
「じゃあな……ミサイルペンギン!」
振り下ろす。同時に無数のペンギンがもう1人のオレに突撃した。
「くっ……十六夜……!」
私はどうすればいいか分からなかった。ただ、十六夜に負けてほしくなかった。だから……
『姉御も無茶するよ……ほんと』
「何言ってるか分からんがお前もだろ……ペラー」
だから私は十六夜の肩に手を置き呼びかけ続けていた。
ただ、何やら私を弾き飛ばそうとする力が働いているみたいで、気を抜けば吹き飛ばされてしまうだろう。
『いい加減帰ってきてよ!綾人!』
呼びかけ続けること何分か。ついに動きが見られた。
「……なんだこれは?」
黒い力がエイリア石の光を飲み込んだのだ。
「ふぅ……ようやく終わった気がする」
そして、黒い力が霧散すると同時に十六夜が起き上がる。
その胸にあるエイリア石は黒褐色に染まり粉々に砕けた。
「ただいま。2人とも」
「十六夜!」
『綾人!』
「ありがとな」
起き上がった十六夜の顔はどこか晴れ晴れとしていた気がした。
もし、十六夜が負けていたらダークエンペラーズ行きでしたね。
あ、ちなみに十六夜が単体であれだけのペンギンを呼び出したのはあくまで精神世界だからなので現実ではあんなに呼び出せません。