前半が終了して4ー1。
「なかなかじゃないか?」
「相変わらず手厳しい……」
ハーフタイム。オレはこの試合を見に来ていたウルビダとグランと話している。観客席まで来ているが……まぁいいか。
「オーバーヘッドペンギン。お前がこの前、何か掴んだって言ってたやつか」
「そうだよ」
ファイアブリザードと打ち合いになったあの時の感覚。それを実際に必殺技にしてみた……まぁムーンフォースに比べたら会得するのに時間はそんなにかからなかった。その分、お手軽だけど威力はお察しって感じだ。
「このチームがガイアとジェネシスの座を競っているチーム……惜しいね」
「何が惜しいんだ?グラン」
「このチームは間違いなくダイヤモンドダストにもプロミネンスにも勝っている。でも、俺たちガイアには勝てない。何でか分かるかい?」
「型の違いによる相性……じゃないのか?」
カオスは攻撃特化チーム。攻撃力は高いが、反面守備力は低めだ。決してディフェンス陣が弱いってわけではなく、はっきり言ってキーパーが弱い。キーパーに関してはあの2人はデザームと同じくらいの実力だ。いや、キーパー力という観点で見たらデザームに劣るかもしれない。
対してガイアはバランス型。若干攻撃に偏っているが、キーパーのネロはエイリア学園のキーパーの中で頭が1つも2つも飛び抜けている。その証拠ってわけじゃないがオレはアイツからだけは点を取ったことがない。
この2つのチームが戦った未来を想像する……ガイアが100%勝つとは言わないがカオスが勝てる可能性は限りなく低い。
「それもあるけどもう1つは君だよ。ムーン」
「…………オレ?」
「このチーム……まぁ、バックアップチームの様だけど……ここまで雷門を圧倒できているのは君の功績が大きい。それは誰の目から見ても明らかだ。しかし、君は本来我々ガイアの選手。つまり──」
「オレが貢献している状況では、カオスがジェネシスに選ばれることはない……ってとこか」
「──そういうこと」
「はっ。関係ないな。オレにとってはカオスが選ばれようがガイアが選ばれようがどうでもいい」
「ははっ。確かにそうだ。君にはどっちでもいいことか」
そんな称号よりオレは今燃えているんだ。アイツらとのサッカー、プレーの駆け引き。圧倒できているように見えてはいるが実際は危うい場面も多い。
雷門というチームは試合の中でも成長していく。だから後半もこのまま圧倒できるとは思っていない。
「じゃあ、行ってくるわ」
「行ってこい」
円堂……いや、雷門は敵に回すとこんなにも厄介で、こんなにも熱くしてくれるとは。
「最高だ」
オレはグラウンドへと向かい、作戦会議に加わるのだった。
一方の雷門ベンチ。
「前半が終了して4ー1。まだ逆転は狙える点差だな」
「アイツらのシュートは凄かった。でも、後半は絶対に止めてやる」
自分に渇を入れる円堂。4点取られたこの状況だが止めることを諦めてはいないらしい。
「勝つためには、やはり十六夜をなんとかするしかないだろうな」
「そうだね。彼が攻撃でも守備でも中心……要になっている」
「アイツのシュートすげぇな。福岡の時もだけどどんどん強くなっている」
「そもそもアイツ何者なん?ゴールキーパーの癖にドリブルからあんなシュートまで打って」
十六夜のことをよく知らない浦部が疑問に思う。木暮や綱海と言った面々もそれには同意している。
「アイツはオールラウンドプレイヤーだ。FWからGKまでこなせる、言わば万能で柔軟な選手。ただ、本職はDFだがな」
「改めて思うけど、全ポジションこなせるって化け物だよな」
「なぜかは分からないけど、彼のドリブルとかボールテクニックは、フットボールフロンティアの時とは比べ物にならないくらいうまくなっているよ」
「でもさ、必殺技が通用しなかったんだけど。あれはどうしてなの?」
「アイツの観察眼はかなりのものだ。大体の必殺技は見ただけで分析し攻略してしまう」
「味方の時は頼もしかったけどな……その観察眼」
改めて十六夜のやばさを実感している雷門イレブン。
ちなみに、十六夜のボールテクニックがうまくなっているのは、フィディオに負けてからそっち方面の強化を重点的に行っていたからだ、ということを彼らは知らない。
「だがアイツがキーパーなら好都合だ」
「好都合って……全然点を取れていないのに?」
「アイツは化け物ではあるが無敵じゃない。ディフェンス能力も高いが、決して突破できないわけじゃない。そしてそれは奴自身も理解しているはず」
「彼が前に出てくるときは、彼の中で点を取られるリスクが限りなくゼロに近いと思っているとき。だからそれを上回る策を練れば点が取れる……そうだね?」
あくまでキーパーに付いている以上、十六夜自身も無闇に攻め上がっているわけではない。前半の動きからそう察せられる。ただ、上手く十六夜がゴールから離れた状態で点を取れるかは別問題だが。
「ああ。もちろんそれもある。だから、それに関しても1つ策はある。もう1つ確実に言えるのはアイツはキーパーとして未熟。ある程度のシュートは止められるが威力が高い技は止められない。そのハードルはデザームより高くはないはずだ」
「つまり、連携技でも破れる可能性があるということ?」
「だから、円堂。チャンスがあれば攻め上がってくれ」
「でも、それはかなりのリスクを孕んでいる……この点差で行うのは危険じゃないかい?」
円堂は連携技の中心に居るケースが多い。ザ・フェニックスやイナズマブレイクが主であるが、それらの技でも十六夜から点を奪うことが可能だと鬼道は考える。
しかし、3点差のこの状況で、キーパーが上がるという状況を作るのは危険だとアフロディは告げる。
「危険……なのは承知の上だ。だが後半、間違いなく豪炎寺とアフロディはマークが厳しくなるだろう。点を取る手段は増やすに越したことはない。もっとも、円堂。お前が行けると思ったらでいい。無理はしなくていい」
「おう。分かった!」
リスクとリターン。
ノーリスクで点を取る手段が限られている以上、多少のリスクは目を瞑るしかないと考える。
ハーフタイムを終えて両チームがポジションに着いた。
『さぁ、カオスボールでまもなく後半戦開始です!果たして雷門は逆転し勝利を掴むことが出来るのでしょうか!』
相変わらず実況の角間は雷門よりだが致し方ない。
普通の試合ならともかく、エイリア学園との試合では多くの人が実況の立場にいても雷門贔屓になるだろう。
ピ──!
後半戦開始、バーンとガゼルが素早いパス回しで雷門陣地へと攻めていく。
「突き放すぞ!」
「分かってる!」
現状の3点差に甘んずる事なく徹底的に突き放そうとするカオス。
(流石に油断はしていないか……)
ゴール前に立つ十六夜の方を見て鬼道は内心で多少残念に思う。それもそうだ。3点差が付いているこの状況で油断してくれればそこが綻びとなる。そうすれば事は進みやすくなるが、生憎カオス側は何点差付いていても満足はしない。最後まで本気でやるというスタンスで行くようだ。
もっとも誰の影響かは火を見るより明らかだが。
ただ、それぐらいは計算通りである鬼道。だから後半最初、カオスボールで始まるこの時はある作戦を皆に伝えていた。
「ッチ。サイデン!」
「バレン!」
「ガゼル様!」
「レアン!」
『おおっと!雷門側徹底した全員守備だ!これではカオス攻めきれない!』
シュートを打たせなければ点を取られることはない。
ボールを持った選手には当然、前半で点を取っているガゼルとバーンには特に厳しくマークをつける。
目には目を歯には歯を。カオスが豪炎寺とアフロディを徹底的に抑えるのなら、雷門はガゼルとバーンを徹底的に抑える。
(さぁ……攻めてこい!十六夜!)
(明らかに誘ってるなぁ……)
そうすればカオスは自ずと十六夜が攻め上がるしか点を取る手段がない。それが鬼道の作戦だと分かっている十六夜。
「分かってるけど……やるしかねぇな!」
罠だと分かっているが敢えて正面から崩しに行こうと考える十六夜。ゴール前から前線へと攻め上がる。
「へい!」
「ムーン!」
ボニトナからパスを貰う十六夜。
「ここでボールを奪う!」
マークに付いたのは鬼道、一ノ瀬、アフロディの3人。
「さすがに突破はきついよな……サトス!」
サトスにバックパスをする十六夜。
「来るぞ!円堂!」
サトスはそのまま大きくボールをあげる。
「行くぜ!オーバーヘッドペンギン!」
少し距離のあるシュートを放つ十六夜。
「止める!正義の鉄拳!」
シュートと拳がぶつかり合う。そんな中、着地と同時に
「おっしゃあ!」
「まだだ!」
勝ったのは円堂。しかし、その弾かれたボールに食らいつこうと再び跳躍する十六夜。
前半ラストと似たシチュエーションとなる。
「頼むぞ!豪炎寺!壁山!」
だが、鬼道の指示で大きく下がっていた豪炎寺と壁山の2人も十六夜に続いて跳び上がる。
「行くぞ!」
「はいッス!」
壁山は空中で腹を上に向け、豪炎寺が踏み台にし、速くそして高く跳躍する。
「イナズマ落としか!」
空中で豪炎寺たちのしようとしていることに気付いた十六夜。
ボールに先に到達するのが豪炎寺だと判断すると、ペラーを呼び出し、シュートコースに居座ることにする。
「悪いがフェイクだ……綱海!」
空中からオーバーヘッドキックの要領で下にいる綱海へとパスを出す。
「おう!」
受け取った綱海。すると背後から大波が現れて……。
「ツナミブースト!」
そこをボールをサーフィンボードに見立て乗りこなす綱海。そのままオーバーヘッドキックを放ち、ボールはゴールへと飛んでいく。
鬼道の作戦、それは十六夜を前線へと釣りだし、綱海のロングシュートで点を取るというもの。ロングシュートを打てるのは十六夜だけではない。しかも、綱海のことを十六夜はよく知らない。
だから、鬼道は放たれたシュートを見て、点が入ると
「よっしゃぁ!これで1点や!」
そう。
「まだだ!」
空中にいる十六夜はまだだと叫ぶ。ペラーに乗りシュートを追う十六夜。誰の目から見ても先にゴールに到達するのはシュートだろう。
しかし、十六夜は諦めていなかった。むしろ口角上がっており、このギリギリの状況に楽しんでいるとさえ思えた。
ピ──!
「ミサイルペンギン!」
突如、センターサークル内に現れた十数のペンギン。一斉にシュートへと向かい、少しずつだが威力とスピードを削っていく。
そして、
「オラァ!」
ペナルティーエリア前でシュートに追い付いた十六夜は、踵落としをボールに叩き込み勢いを完全に殺した。
そう、普通のキーパーならもう諦め案件かもしれないが、十六夜はDFであり、ペンギンを色々な形で使える選手。ペンギンを使ったブロック技を身につけている可能性云々以前に、そもそもシュートをペナルティーエリア内で止めるという考えを持っていない。
手を使わなくても止められる。今までも発想と本人の能力で止めてきていた男だ。
「……アレに追いつくなんてね」
「アイツの判断が早かった。あの場で豪炎寺と打ち合う方に行ってくれれば、間に合わなくて点が取れた可能性があっただろうに」
十六夜に止められて同時に鬼道は思う。
(本気で勝ちに来ているな……やはり、点を取るにはアイツを正面から破るのは絶対か)
小細工が通用しない以上正面から崩すしかない。
後半戦も始まったばかり、試合はどうなっていくのか……。