「マギアレコード」 Pueri et puellae magicis   作:ゆっくりff

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書き方を少し変更してみました。『』の前に名前を入れるのをやめました。
ピクシブのほうでそのほうがいいと書いてあり、また入れないことで
無駄に文字数を増やさず、それでいて文字数を程よく稼げるので
試しにこの書き方にしました。どちらがいいか意見貰えるとありがたいです。



ウワサの男1

朝方商店街

 

「待ってよフェリシアちゃーん!」

 

そういいながらおっせぞー!と男勝りな言葉でこっちに背を向けて手を振る

女の子を私二葉さなは追いかける。今日はみかづき荘のみんなで

いろいろ買い物をしようと先週から計画を練っていたのだが、

1日の始まりで重要な朝ごはんを忘れてしまったのだ。

今日に限って作り置きもなく仕方がないので、フェリシアちゃんと一緒に

ご飯を買いに来たということだ。

 

「早くしろよ~!肉冷めちまうだろ!」」

 

朝の商店街でご飯を買うとなると残念ながらコンビニしかない。

いつもいつもやちよさんといろはさんが作っているおいしいご飯を食べてい

るため、少し寂しい感じはあるが、まあそれは忘れた自分たちが悪い。

やちよさんに好きなものを買ってきなさいとそれなりのお金を貰って、

全員分のご飯を買ってきた。これからお出かけだというのに

お肉大好きのフェリシアちゃんは5つもファ〇チキを買っていた。

…なおこれでも少なくしたほうだ。さすがに私が自重しようよと止めた。

季節は秋。夏の熱い時期が終わったとはいえ、

まだまだ蒸し暑さは残っている。私もいまだに半袖だ。

 

「あッ…」

 

フェリシアちゃんを追いかけながら、今日の予定を脳内でシュミレートして

少し、気分が高揚していたせいか、角を曲がった時目の前から

出てくる人に気が付かなかった。私は何とかそれをよける。

しかしその拍子に袋から手を放してしまって、

ぶつかった人の近くまで飛ばされる。

 

「…………」

 

しかし、残念ながら彼はそれを見向きもしない。少し悲しい気持ちになるが

これは仕方のないことだった。これは私がキュウベイに臨んだ願い。

それは自分自身の存在の抹消。

学校でも、家族でも、自分の居場所がなくなり、なんでも叶えられる願い

という安易な道に進んだ結果、それがこれだ。

私は魔法少女以外から存在を認識されることは生涯ない。

もちろん、今の自分にはみかづき荘がある。だから寂しくはないし、

この道を選んでよかったとも思える。

ゆえに、横を通りすぎようとする彼が私に話しかけないのも、

手を貸さないのも当然のことだと言える。

 

「よく避けたな、これ落としたぞ」

 

「…………え?」

 

しかし、彼はそうではなかった。

彼は自分のすぐ近くに落ちてあるご飯の入った袋を持って私に差し出した。

 

「ん?どうした?これあんたのだろ?」

 

「え?は、はい…そうですけど…」

 

「ならなんで渋ってんだ?…ほら」

 

彼はそのまま私に袋を押し付けるように、渡してきた。

 

「じゃあな、人を探しているんだ。連絡もつかないし…どこにいるんだか」

 

そういって彼は気をつけろよ~と手を振りながら、歩き出してしまった。

当然といえば当然だが、私は袋を受け取ったまま茫然としていた。

不審に思ったフェリシアちゃんが戻ってきて、早くいこうぜ~と、

腕をぐいぐい引っ張ってきたが、私の中は朝ごはんよりも、

今日のみんなでの買い物の予定も消え失せ、一時的に彼のことで一杯になった

 

 

 

~みかづき荘リビング~

 

 

 

「さなを認識することのできる男…ねぇ」

 

やちよは口に含んだご飯を飲み込んでから首をかしげる。

コンビニの弁当をつついてみんなで買いそろえた

マグカップに温かいコーヒーを入れて、

少し遅めの朝食をとりながら私はみかづき荘のみんなに相談した。

もちろん相談の内容は今朝の男性の出来事。

認識できないはず私を認識し会話をしてきた謎の男性。

 

「私が現状考えられる可能性は3つ…

1つ、魔女。2つ、ウワサ。3つ、その他。

もちろん目的は不明だから現状男性がなぜさなを認識できるのか?

で絞って考えているわよ」

 

やちよさんは立てた指を1つ1つ折り曲げながら確認するようにゆっくりと話す。

まあ、妥当な考えだといったところだろうか。現状魔法少女に干渉できる

大きな存在魔女とウワサを1つの括りとして考えて残りはまとめる。

魔法少女についてまだ何もわからない以上仕方がない。

 

「でもししょー!私その選択肢にもう一つ加えてもいいと思うよ」

 

朝からチャーハンを頬張る鶴乃は元気よく手を挙げてブンブンと左右に振る。

 

「ほら今巷で話題の魔法少女を助けてくれる謎の男性の話だよ」

 

「…なるほど、確かにそうね。失念していたわ。先日関わったばかりだったのにね」

 

つまりは第4の選択肢に魔法少女の間に流れている噂を組み込む。

3のその他に合わせても問題ないと思うが、

今現状その存在は確かに確認されている。

しかしそれはUMAのようなものだ。そこにいた、活動をしていたという

結果だけが残り、姿を見たものはほとんどいない。

その男性と同一人物でない可能性も考えられるが、本来絶対に話に上がらない

男性が話題になっているのだ。選択肢に入れてもおかしくはない。

 

「私も前からそれなり聞いたことあります。」

 

みかづき荘のリーダーいろはもウワサを調べていく過程でその男の噂について

耳にしてきた、広範囲で調べものをしているおかげで、あちこちで

ささやかれている噂を一まとめにして詳しい情報にすることが可能だ。

 

「活動の時間は不明、どこからともなく現れて、必要な事だけをして

帰っていく…そして必ずと言っていいほど何かしらの見返りを要求する。

黒いパーカーが特徴的で声を聴いた人はあれは男で間違いない…って

言っているみたいです。助ける方法としてやっぱり一番目を引くのは

グリーフシードを渡すって所ですね。」

 

「いろは随分詳しく調べてんなー」

 

「さっすがみかづき荘のリーダーだね!」

 

説明をいったん区切った隙にフェリシラと鶴乃はいろはを持ち上げる

 

「ま、まぐれだよ…それに本命のウワサについては何もわからなかったし。

それで私が聞いただけでもすでに渡したグリーフシードの数はすでに30越え。

その男の人が集めているのか不明だけど多分魔法少女の仲間がいるのかなって

私は思っているの」

 

「それでも、自身の分を確保しなきゃいけないって考えるとかなりの

ハイスペースでグリーフシードを集める必要があるわね。見返りを要求される

とはいえグリーフシードを戦い以外で入手できるのはそれはとても魅力的な事。

需要は計り知れないわ」

 

1人が1か月に消費するグリーフシードの量は精神状態、魔女狩り、

魔法少女同士の争いなどで人それぞれ異なる。強敵と戦えばそれだけ

多く必要になるし、精神が安定していて戦いに一切不参加を決め込めば、

1月に1個で済む。ここ神原市では魔女が多く存在するため、

グリーフシードの入手については困らないが、それだけ事故も起こる。

いくらあっても困らないだろう。そういう意味ではここでの需要も

魔女多しといえど高い。

 

「それでいろは、彼の件はどうするつもりなの?」

 

いろははうーん…と首をかしげる

 

「現状…放置でも大丈夫だと思います。特に何か悪さしているわけでも

ないですし…それにこれはマギウスと戦う上でもいい方面に

進むんじゃないかな~…なんて」

 

「そうね…私も同意見だわ。手口をこの手で見たのだけれど、

まああんまり褒められたやり方ではないとはいえ、害はないんじゃないかしら」

 

「ええ?やちよさんその人に会ったんですか?」

 

「すっげえな、どんな人だったんだ?」

 

みかづき荘のみんなが驚きわいわいと盛り上がっている中で

言葉足らずだったわねと、少々顔を赤らめてやちよが訂正をする。

 

「姿は見ていないけれど、ももこ達が彼からグリーフシードを購入したのよ

その際私も同席して支払い方法を確認したの」

 

「購入したってなら姿見たんじゃねーのかよ?」

 

フェリシラの疑問はもっともと言えるだろう。

ももこからかえでの事は聞いてはいるが、

まあ、むやみに教えて不安をあおる必要もないだろう。何とかみんなが

納得いくように適当にごまかしておいた。

 

「それじゃあこの話はとりあえず終了ね。食器洗いは私がやっといてあげるから

準備してきなさい」

 

「よっしゃ!待ってました!」

 

「あ、ししょー!私は手伝うよ。ここに来るときに準備終わってるからさ!」

 

鶴乃はみかづき荘のチームには入っているけれど、ここには住んでいない。

実家は中華料理店で、ことあるごとに中華料理を差し入れしてくれる。

先ほど話していた少し重い雰囲気はすでに無くなり、楽しそうに会話をしながら

いろは達は階段を上がっていく。

 

「ふう…鶴乃は準備はいいのかしら?終わってるって言っても髪のセットとか

したほうがいいんじゃない?」

 

「大丈夫だよ。ししょーこそ、いいの?モデルさんだし身だしなみには

気を遣わないといけないんじゃないの?」

 

「問題ないわ。フェリシアたちが買い物している間にすでに

終わらせているもの。あとはあそこに置いてあるバッグを持てば準備完了よ」

 

そういって洗い物をしながらちらっとリビングに置いてあるソファーを見る。

鶴乃の赤いをベースにしたバックとやちよの青いバックが置いてある。

 

「さすがだねししょー!」

 

「あなたもそばにいたでしょうに…」

 

軽口をたたきながら鶴乃とやちよは洗い物を進める。とはいっても

ここで家事を主に担当するやちよといろはは優秀だ。昨日の洗い物なんかは

1つも残っていないので、洗うのは今日の朝に出た洗い物のみ。

コンビニで済ませた朝食はおかず等を入れる皿を使っていないため

せいぜい洗うのはマグカップくらいである。

なので2人もいればあっという間に終わる。ほかにやることもないため、

2人はソファーに座ってスマホをいじりながら3人の準備が終わるのを

待っていた。

 

「ねえ師匠…どう思う?」

 

「あの噂の男の話かしら?」

 

「そうだよ。師匠がいろはちゃんに任せっきりなんてありえない。

きっと自分でも細かく調べているんじゃないかなって。」

 

ウワサでもそうだったが彼女は誰よりも早くそして誰よりも詳しく

事件について調べていた。どんなに大変な事件が起きようとも、

率先して調べて事態を解決に導くために最善を尽くしてきた。

魔法少女に干渉できる男性…前代未聞だ。私もそれなりに

長く魔法少女をやってきたが、男性のだの字も見たことない。

やちよさんが動くには十分すぎる。

 

「そうね…実を言うといろは以上にしっかりと調べ上げたわ

でも…せっかくリーダーシップとっているのだからいろはに最後まで

やらせてもいいんじゃないかなって」

 

「ほぇ…じゃあその男性についての危険度はもう把握してるの?」

 

「ええ、私も調べ上げた結果放置でいいんじゃないかしらと考えたわ」

 

そうなんだ…と鶴乃はそれ以上は聞かなくなった。

知っているといっただけで、特に詮索もせず信じてくれる。

それほど信頼してくれるということだろうか…

まあ、それは素直にありがたい。

 

 

 

~神浜市新西区住宅地~

 

人通りの少なくなった夜の住宅地、5人の少女たちは

両手いっぱいに買い物袋を持っている。服、小物、食べ物…

そのどれもが5人で話し合って決めたものだ。

 

「はぁ…ステーキ、うまかったなぁ」

 

「はい、また食べに行きたいですね」

 

思えば本当に久しぶりだった。5人が集まった当初はウワサや

マギウスなどに振り回されるし、それがなくとも

私たちは全員学生だ。全員の予定があっていて揃って仲良く

買い物というのは本当に久しぶりだったのだ。

今日は朝から晩御飯まで楽しく過ごすことができた。

 

「久しぶりに気分転換ができた気がします。」

 

「そうね。マギウスの一件がひと段落付いたとはいえ、まだまだ

ウワサの駆除とかで忙しいものね」

 

お昼の生暖かい風とは違って、秋を感じさせる

涼しい風が優しく全身を撫でて、高揚した気分を程よく覚ましてくれる

その風を感じながら、やちよといろはは、食後で買った紅茶を

楽しむ。先のほうを歩いている3人は買ったものをどうするかとか、

次の買い物のことなどを楽しそうに話している。

 

「いろいろあったけれど、こうしてまた皆で暮らせて本当によかったわ」

 

「やちよさんが過去を乗り越えて頑張ってくれたおかげですよ」

 

いろははこちらを見ながら笑顔を向けてくれる。

彼女は無自覚に優しさを振りまいてくれる。もちろんいい意味でだ。

確かに私は最後の最後で自分で戦うと決めた。仲間を守ると誓った。

けれどそれは些細な事、自分がどうしてトラウマを乗り越えたか、

やちよは知っている。

 

「謙遜はよしなさい、いろは。全部あなたのおかげよ。

フェリシラも、さなも鶴乃も、そして私も、皆あなたが

つないでくれたのよ、その優しさとそして、確固たる意志で」

 

「ええ?そんなことないですよ…」

 

想像していた通りの反応に私は苦笑いをする。彼女はもう少し、

貪欲になってもいいと思う。それほどまでに、いろはの力は強いのだ。

その意志力だけは7年魔法少女をやってきた私でも身に着ける

ことができなかったものだ。神浜のリーダーにふさわしいのは

本当はいろはのほうなのかもしれない。

もちろん…弱音を言うつもりはない。彼女に無くて私に在るものも

ある。

 

「ちょ、ちょっと早いよ~」

 

照れ隠しのためか、先を歩いている彼女たちを呼び止めるいろは

まだまだ子供ね。とやちよは心の中で思いながら、顔を見上げる。

所々に輝く小さな星の間に佇む居待月…すでに

夕日は沈んでいて、空を照らすものは人口光のみ。夜の訪れだ。

 

「ッ!?」

 

月を見上げていたやちよは突如として、体をピクッと揺らす。

そして目を細めながら裏路地のほうをにらみつける。

いろは達を見てみると彼女たちもおおむね似たような反応

を示していた。先ほどの明るい雰囲気は消え去り、

静寂があたりを支配する。

 

「感じましたか?やちよさん」

 

「ええ、この感じ…新種かしら?今まで感じたことのない

魔力のパターンね。しかも数が2つある」

 

やちよの言葉を聞き一同に緊張が走る。つまり今から起こる

戦いが長期戦になることを意味する。魔女を2体相手する

だけでもそれなりに危険だというのに、その2体は

戦い方も、弱点もわからない新種と来た。

 

「やちよさんどうしましょう…」

 

「やることは変わらないわ。フェリシラと私で前衛、鶴乃と

さなが中衛で状況を見て動いてちょうだい。

そしていろは、あなたは後衛よ。敵の動きをよく観察して、

危ないと思ったら遠慮なく指示を飛ばしてくれて構わないわ」

 

いろはがリーダーとはいえ、戦闘経験はまだ浅い、

それに比べてやちよは7年という確かな実数と実績を

兼ね備えている。いまだに戦闘では頼ることが多かった。

 

「はい!頑張ります」

 

グッと拳を握りしめて決意を現しつつ、彼女の体が光に包まれる。

光が収まるとそこには今日着ていた可愛らしい私服姿ではなく、

白とピンクの線が特徴の大きなローブにピンクの可愛らしい

ミニスカートに薄い茶色の少しきつめの服、膝まである

大きな黒いブーツ。そして左手にはピンク色のクロスボウを

彷彿とさせる装置が装着されていた。

これがいろはの魔法少女としての姿だ。

ほかの4人も順々に魔法少女に変身して、

それぞれの得物を手に納める。

 

「よっしゃ!俺に任せろ!」

 

「フェリシアちゃんやちよさんといろはさんの指示聞かないと

だめですよ?」

 

「むー!バカにするなよ。それくらい大丈夫だって。」

 

「あはは、フェリシアは前科もちだからね~」

 

「だ、大丈夫ですよ。フェリシアちゃん最近

ちゃんと指示聞いてますし…」

 

「ほら~!いろはだってだって大丈夫っていってるだろ?」

 

強敵を前にして変わらずに接する彼女たちを見て

苦笑しながらいつの間にか固まっていた体を楽させる。

慢心はまで行くのはよくないが、ある程度は気持ちに余裕を

持たせるべきだろう。

 

(もっとも、彼女たちは自覚はないのでしょうね)

 

信頼できる友がいる。背中を預けられる仲間がいる。

その事実だけで、ずいぶんと気持ちが楽になるものだ。

 

「ほら、そこまでにして。気を引き締めていくわよ」

 

やちよはいまだに、はしゃいでいる彼女たちに声を

かける。目の前には空間がゆがみ、奥には言葉にできない

異常な空間が広がっている。魔女の結界だ。

ここから先は戦場、しかも待ち受けるは強敵。

仲間たちはうなずきあって、結界に足を踏み入れる。

ずっしりと重みのあるその群青色の槍を握り閉めて

何があっても仲間は守るとそう誓って。




ちなみに私にあの名状しがたい魔女を考える力はありませんでした。
なんか似たような生物を例えにして魔女とさせてもらいます。
次回はいよいよ戦闘シーンです。

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