東方人妖譚   作:カマンベールチーズ

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第2話

 この場所に来て早一週間が経った。

 一週間過ごす内に分かったことがある。といっても、少ししか分かっていないのだが。

 

 まず、何故突然ナイフが現れたのか。

 

 非常に不可解なことだが、俺が「ナイフが欲しい」と思ったらその場に現れるのである。今のところ、ナイフ以外も何か出来るのかと試してはみたが、結果はナイフ以外何も出来なかった。しかし、ナイフの刃渡りは調節出来る事が分かった。

 

 何故、ナイフが出来るのか。

 一体、どんな原理で出来ているのか。

 全く見当もつかない。

 

 次に分かったことは、俺の体についての事だ。

 俺の体は、あの化け物を食った時から様子がおかしい。

 傷ができてもすぐに治るし、体がいつもより数段軽く感じるのだ。あと、体の中から力が湧くような感じもある。

 

 以上の二点が、俺の体で起こっていることだ。…明らかに人間離れしている。やはりアレを食べたのは辞めた方が良かった。しかし、もう起こってしまったことなので、あまり考えないようにしよう。

 

 さて、とりあえずここ一週間過ごして分かったことはこれくらいだ……他にもここはどこだなど分かればいいんだが、人が近くにいないせいでそこら辺の事が全然分からない。さっさと町か、最悪民家を見つけたい。後そろそろ服がボロボロになって来たので、服も欲しい。

 

 ちなみにあれ以来化け物には合っていない。

 居るかどうかも分からないが、警戒した事に越したことはない。

 まあ、見た瞬間に逃げるのだが。

 

 そんな事を考えながら探索を続けていると、遠くの方から微かに人の声が聞こえた気がした。やっと人に会って話が聞けると思い、声が聞こえた方に向かって歩く事にした。

 

 声が聞こえた所に近づくにつれて、何やら錆びた鉄のような匂いが微かに臭ってきた。

 

 ……嫌な予感がして来た。

 

 辺りを警戒しながら声の方向に進んで行くと、匂いはより強くなっていく。

 そして声が聞こえた辺りの場所に辿り着くと、そこにはおびただしい量の血と、人間だったモノ(・・)があった。

 

 手や足は所々食い破られており、頭や腹などは殆ど残っておらず、最早性別すら分からない程ぐちゃぐちゃになっている。……恐らく化け物か熊などに食われたのだろう。幸い周囲に気配が無いので、どこかに移動したかと思う。

 

 とりあえず、情報収集が出来なくなってしまったので、周りに使えそうな物がないかを探す。

 奇跡的にソレ(・・)が持っていたであろう荷物は血が少し付いているだけで比較的無事だった。布のようなもので包まれていたので開いてみると、中には服が入っていた。

 しかし普通の服ではなく、教科書などに載っている服で、上下二部構成になっており、どちらも黒色だ。

 

 ……まあ、服が入ってるのは良いんだ。良いんだけれど少しおかしい。なんでこんな物なんだ。このご時世にこんな服着て街中を歩いている人を見た事が無い。しかし他に使えるものが見当たらず、服もこれしかない。

 

 …仕方ない。

 

 ▫️▫️▫️▫️▫️▫️▫️▫️▫️▫️▫️▫️▫️▫️▫️▫️▫️

 

 

 あれから2時間くらい山の中を歩いている。

 今太陽が大体頭の真上辺りにあることから時間は正午ぐらいだと思う。

 

 結局俺は、落ちていた服を着ている。奇跡的にサイズも合っていた。

 思っていたよりも動きやすく、着心地も思ったよりはいい。……見た目はあれだが、贅沢は言ってられない。一応前の服は落ちていた袋に入れて持ってきている。

 

 そう思いながら歩いていると、前方から微かに水の流れる音が聞こえた。その方向に歩いて行ってみると、川が流れていた。ちょうど良いと思い、少し休憩をする事にした。

 

 近くの石に腰を降ろして休んでいる時にふと川を覗いたら、偶然に魚がゆったりと泳いでいた。

 そろそろ腹が減ってきたので、俺は手にナイフを出して、魚目掛けてナイフをぶん投げた。

 ナイフはそのまま直線上に進み、バシャッと水飛沫を上げて川に入った。川の中を覗き込むと、そこにはナイフが頭に刺さって血を流している魚の姿があった。

 

 何故こんな事が出来るかというと、アレ(・・)を食べた時から俺の視覚、聴覚、嗅覚が敏感になり、些細な物音や魚の動き程度なら見えるのだ。単純な筋力も上昇している。……最初の頃は全然当たらなかったが。ナイフを目標に当てるために何十回何百回と投げた。野宿にもある程度慣れ、今は時間は掛かるが火も起こせるようになった。……前にサバイバルガイドを一度だけ読んだ事があったが、見様見真似でよく出来るものだ。

 

 そんな訳で、川の中からさっさと魚を回収して火を起こし、今は魚を焼き終わった辺りだった。とりあえず一口食べてみた……まあ、まずまずといったところか。食えるだけ有難いと思い、そのまま全部食べた。

 

 ……さてこれからどうしよう。あれからかなり歩いたはずだが、人っ子一人見当たらない。ただ考え無しに歩き回っても体力を消耗するだけで何も見つからないと思う。川を辿っていけば何か見つかると思うが、それで何も見つからなかったらどうしようもない。

 

 そんな時にふと、足音が聞こえた。

 俺は咄嗟に足音の方向に身体を向け、ナイフを構えた。

 まだ距離はあると思うが、だんだんとこちらに近づいて来ている。

 俺は周囲の警戒しながら目の前を注意深く見ている。

 そして、もうすぐそこまで来たというところで、

 

「おーい、誰かいるのかーい?」

 

 と、聞こえてきた。

 声の高さから考えて、若い男だということが分かった。

 俺は警戒を解いてナイフを消し──ナイフは消す事も自由にできる──声の方向へ向かった。

 

 草むらを超えた先には、やはり若い男がいた。

 年齢は20代前半で身長は160㎝前後、服装は俺と同じ服で上が白色、下が黄土色となっている。背中にはランドセルより一回りくらい大きい籠を背負っている。

 

「はい、ここにいます」

 

 俺はとりあえず男に声を掛けることにした。

 

「おお、さっき空を見上げたら煙が上がっていたからな。ちょうど近くにいて、来てみたんだ」

「お気遣いありがとうございます」

「ところで、こんな場所で何をしているんだい?」

「はい、先程魚を焼いて、食べていたところです」

「そっか……でも山の中は危ないな。いつ妖怪に襲われるか分からないからな」

「……妖怪ですか?」

 

 妖怪……さっき目の前の男は妖怪と言ったか? あのよく漫画やアニメで出てくる架空の? 冗談で言ってるのか? それとも頭がおかしいのか? 

 

「ああ、うちの村では被害はまだ無いが、他の村だと畑を荒らされたり、家畜を食べられたりしているらしいぞ」

「そうなんですか」

 

 どうやら冗談でも頭がおかしくもないらしい。本当に妖怪がいるようだ。としたら…俺が最初に出会って殺したアレも妖怪なのか?食べてしまったが、体に害はあるのだろうか? 

 

「そういえば見ない顔だけど、どこの村の人だい?」

 

 そう考えている時、ふと男性から声が掛かった。

 

「ここから遠い村から来まして、現在旅をしているものです。山の中に入って迷ってしまい、ここがどこかも分からない状況となっています」

「そういうことか。だったら俺の家に来るといい。旅で疲れたろうし、野宿は危険だからな」

「よろしいのですか?」

「ああ、別に問題はないだろう」

 

 これは運がいい。いい加減野宿はキツかったし、最近まともに寝てないし、まともに飯さえ食べていない。それにここの情報も聞けるので、断る理由が無い。

 

「ありがとうございます。お言葉に甘えてさせて頂きます」

「ああ…そうそう、あんたの名前はなんだい? そういやまだ聞いていなかったな」

「そうでしたね。名乗り遅れて申し訳ありません。私は橘優(たちばなゆう)と申します。よろしくお願いします」

「…珍しい名前してるだな。俺は甚平(じんぺい)って言うんだ。よろしくな」

 

 

 

 

 

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