アラサーニートエリちとキャリアウーマン亜里沙   作:桜川凛

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改訂版 星空凛との飲み会編

 立春というのは春が立つなんて字面であり、

 立ち上がるという言葉を西木野真姫はよく、勃ち上がるに脳内変換されてしまうらしい。

 彼女は酒が入ると普段は自制している下ネタが露出してしまう傾向にあり、

 私は何度もキャラ作りであるとか、本当は真面目だからと説明を受けるんだけども、

 説得力がまるでないから困る、不真面目かと言われるとそうでもなく、

 キャラ作りである側面は理解できるんだけども、

 何から何まで演技して作っているかと言われると疑問である。

 おそらくではあるけど、下ネタは彼女が否定するほど嫌いではないだろうし、

 その結果私が通いたいなーって思っていた店から出禁を食らっているので、

 そろそろ損害賠償でも請求しなければならないだろうか。

 

 暦の上では春先と称される時期ではあれど、

 二月はまだまだ肌寒い。

 厚手のコートを着なければとても外出などできないし、

 油断をしているとすぐに風邪を引いてしまう、ひいてしまえば妹に

 バカでも風邪をひくんですね? 学会に論文でも提出しましょうか?

 とか言われてしまいかねない、私の恥が広まってしまうので勘弁願いたい。

 なお、本日は星空凛との飲み会の誘いの応えてのお出かけであり、

 私の意志ではなく亜里沙の意向が存分に反映されての結果である。

 お腹が痛いんです、ちょっと眠いんですと抵抗したものの、

 分かりました断るなら永眠させますとか言われたら這ってでも行かねばならない。

 できることならば妹のお願いは叶えたい姉心というものであり、

 別に弱みを握られているわけではない、その可能性は十二分に存在するけど。

 とりま否定しておく、とりまって最近聞かないよね。

 

 星空凛という少女は現在芸能活動に従事している。

 一時期本当に売れなくて、日がな海未の家でバイトをしていたり、

 絵里ちゃんちょっと料理を教えてよということで私の家にもいたりした。

 なお、私であるとか、ツバサあたりの料理万能なメンバーの指導を受けても、

 呪いでもかけられていたのか、一向に技術は向上せず、

 彼女の作る劇物処理に当たっていた被験者の小泉Hさんの嘆願も手伝い、

 滅多に料理の作成はなされなくなった。

 放送できないという理由で料理下手な芸能人が集う番組にも呼ばれない。

 料理技術の向上はなされなかったものの、花陽のアドバイスで

 某公共放送の番組のいちコンテンツであったたいそうのおねえさんのコーナーに出演し

 結果的に大ブレイクを果たし、一流芸能人の仲間入りをした。

 それ以降何かと彼女に馬鹿にされる機会が増えてしまったけれど、

 おそらく本心ではないと思うので、大きな心で許しておきたい、

 たまに聞いている真姫や花陽はキレるけど。

 毒舌キャラとして売りに出されている彼女の大半の毒舌が、

 私への罵倒の10分の1ほどの破壊力しかないので、

 もうちょっとテレビで放送できる範囲でいいからもうちょっと過激にしてもらいたい。

 私ほどでなくても良いので。私に対する言葉はテレビじゃ放送できない。

 

 凛の住んでいるマンションは私たち姉妹の住んでいるマンションよりも、

 おそらく矢澤にこが住んでいるマンションよりも、高くてでかい。

 芸能人御用達ということなので、セキュリティ面は過度とも言えるほどに施されており、

 私みたいなニートが足を踏み入れれば、電流でも流されて黒焦げの絢瀬絵里が誕生しそう。

 さすがに星空凛のお呼ばれであるから、警備員さんに取り囲まれるという経験もなかったし、

 気がついたらおまわりさんに尾行されているということもなかった。

 不審者を見るような目で見られている気はしたけど、気のせいであると願いたい。

 なお、私は無給だけど、凛は一時期のツバサと同格のお給金を頂いており、

 一万円と千円札ってそんなに変わらないよね、みたいな成金発言も噛ましていたけど、

 海未や穂乃果あたりの指導により金銭感覚は多少まともになった模様。

 暇だからとか言ってソシャゲに課金しまくって、

 おかげで仕事が増えたなーとか言ってたけど全く知らないゲームだから、

 私にネタの提供を求めてきた。

 アドバイスはしたけどコア過ぎてよくわからないということで、ブームは長く続かなかった模様。

 ツバサにはわかりやすくていい! って珍しく評価を頂いたのに。

 

 私には多くの宝物が存在するけれど、

 その中の一つがμ'sが終わった数年後に制作された痛パソコンである。

 なんかパソコンでも作りたいなと大学滞在時に思いつき、

 まとまったお金が入った(宝くじが当たったらしい)亜里沙の資金も手伝い、

 μ'sが9人集まってああでもないこうでもないと言いながら作り上げた。

 できるものかと思っていたし、途中は出来ないんじゃないかと思ったし、

 完成して動作した時には2年保たないじゃないかと思ったけど、

 今もなお現役、たびたび私の手でメンテナンスを繰り替えしながらも、

 頑張りながら駆動し続けている。

 前述のツバサにはさっさとよこせって言われているし、

 今回私を呼びつけた凛にもいらなくなったら欲しいって言われているけど、

 今のところまったくもって譲るつもりはない。

 が、妹には親の仇みたいに見られることもあるパソコンは、

 水をかけられて破壊させられかけることもたびたびある。

 ポーズだと後に言うこともあるけれど、あの時の目はかなり本気であり、

 私の寿命が尽きるか、パソコンがいつしか動かなくなるか、

 できるならば前者が先に来てほしいものである、精神安寧的に。

 

 高級感漂うマンションの前に凛がいたので、手を振りながら近づいてみると、

 一瞬だけ安堵した表情を見せた後に、絢瀬絵里の扱いを思い出したのか、

 道端に生えているドクダミでも見るみたいに表情を歪ませ、

 

「絵里ちゃんは若いね」

 

 とか言い出した。

 凛よりも2歳は年上だし、20代も後半に差し掛かってしばらく、

 四捨五入すると30に近づく年齢にもなり、若いとはとても言えなくなってきた。

 人生30代になってから本番だとツバサなんかは言うし、ニコも言うし、希も言うけど、

 私と同い年のメンバーで結婚するかみたいな話があるのはあんじゅだけであり、

 そろそろ恋人の一人でも作ったほうがいいじゃないかというネタになると、

 誰しもが決まって目をそらす。

 女性が仮に生む機械であるのならば、出会いの機会がそろそろ崩壊しつつあるのではないか、

 そんなふうに不安にもなる私である。

 

「絵里ちゃんが隣にいると、妹でも連れてるのかって言われるよ」

「それはまたでかい妹を連れていたものね」

「誰しもが高校時代の絢瀬絵里ちゃんと同一人物だって気づかないよね」

「知名度で成り下がってしまったから」

「そうじゃないよ、高校時代よりも若返ってるから同じ人だって分からないんだよ」

 

 建物の中に入りながら鏡に私の姿が映ったので、凛と比べながら見てみても

 年相応と言った感じで変なところは見受けられない、彼女が言う中高生にも見えるは

 あまり当てはまらないようにも思われた。

 私といちばん親しい仲であるツバサも高校時代と遜色ない顔をしているけど、

 そこらへんを突くと童顔かよ! とか殴りかかってくるので

 できれば外見の話はしたくない、アイツは何かと理由をつけて殴りかかってくる。

 

「ところでいつまでニートを続けるつもりなの?」

「そうね、太陽が昇ってから沈むまで」

「沈んでからもニートしてるじゃん」

「日が沈んだら自宅警備してるからいいだもん」

「日が出てる間もしてるじゃん」

「たまにお出かけするから警備がままならないけど、基本的に夜は自宅にいるし」

「口だけは回るよね、頭も回ればいいのに」

 

 ため息を吐きながら凛が言うけど、

 思わずため息を吐きたくなってしまったのは私の方である。

 芸能人関連から絶大な支持を受けているという星空凛は、

 残念ながら口と行動は別物であるみたい。

 営業活動で忙しいは彼女の言だけど、リリホワでも週イチで集まっているらしい

 たまに私も呼んで欲しい。

 

「ツバサさんのスネもかじり始めたんだって?」

「あいつのスネ丈夫そうだし」

「仕事しようよ、いいものだよ仕事って」

「おかしいわね、私の周囲で仕事が良いって言ってる人間は海未くらいしかいないわ」

「うちの事務所は人員募集中だよ、凛のサンドバックの」

「仕事に誘うのなら本音は隠して」

 

 A-RISEの面々にはツバサのサンドバックご苦労さまと言われるし、

 たまに会うこともある雪穂ちゃんには亜里沙のサンドバックご苦労さまと言われるし、

 穂乃果にはことりちゃんのサンドバックご苦労さまと労われる。

 ことりといい、凛といい、ツバサといい、素手で殴りつけるような罵倒を繰り返すけど、

 たまにはオブラートに包んで暴言は吐いてほしいものだ。

 

「そういえば、以前μ'sを特集する番組を観たわ」

「ん? 一人で?」

「ツバサがネタにしようぜ! とか言って二人で観た」

「仲いいね、感想は?」

「私すごいわね」

「穂乃果ちゃんをネタに出来ないから仕方ない」

 

 二年生組で露出しているのがデザイナーであることりくらいしかいないから、

 現在居酒屋従業員である穂乃果や自宅警備員(自称)海未はμ'sの発起人

 程度の扱いになっている。

 私にとってもμ'sというのは大事な存在ではあるけれど、

 周囲の人たちにもμ'sであった私たちは重要な存在にもなっている。

 ニコや凛は元μ'sじゃなかったら売れてなかったなんて言うし、

 希やことりもμ'sだから売れたのかなーと自虐に走ることもあるけれど、

 それを真姫に聞かれるとえらいことになる、あの子だけは元μ'sの評判で仕事してない。

 なお、私も一部作詞活動をしていたとナレーションが耳に入り、

 黒歴史を思い浮かべたけど、SUNNY DAY SONGは私は(ちょっとしか)関わってない。

 何故か秋葉原のイベントを主導したことになってるけど主導した覚えがない。

 

「ぶっちゃけてしまうけど、あの番組作った人左遷されたし」

「え、なんで、テレビが嘘つくことなんてよくあるでしょ」

「その発言がいかがなものかと思うけど、

 とある大物プロデューサーの逆鱗に触れてね、

 今は地方のテレビ局で営業やってるはず」

 

 生きていればの話だけど、という凛の独り言を聞かなかったことにし、

 私を生贄に捧げるように何もかもやったことにしてしまったプロデューサーに黙祷し、

 できれば死んでいることがないように願った。

 なお、その番組を視聴し終えた後に隣で寝っ転がっていたツバサは

 はぁーん? みたいな顔をして部屋から退場し、

 後日疲れた顔をした英玲奈にツバサのクビのリードはしっかり付けておけと忠告されたけど、

 彼女の飼い主になった覚えはない、繋ぐならあなたがやってほしい。

 

「あー、それと」

「それと?」

「ごめんね」

「凛に謝られるなんて、明日は豪雪ね……」

「謝意は素直に受け取っておいてくれたほうが良いんだよ

 今後のみんなの精神衛生上のためにも」

 

 とはいえ、星空凛に謝られる記憶など毛頭なく、

 首をひねりながら凛のお給金で豪奢に設えられた邸宅(マンション内です)に

 足を踏み入れ、その瞬間に感じた若いアイドルたちのキャッキャウフフ(死語)なオーラを感じ、

 凛が謝った理由を感じ、そうではないと分かっていつつも、

 うっわ、若い、若いアイドルの匂いがする、ツバサと違うわと感想を漏らし、

 凛は苦笑いをしてくれた。

 

 

 料理を作りに行くという凛を見送り、

 なにか補助しようかと既に逃亡したい心持ちで言ってみたら、

 凛の家の台所には金髪のロシア人は立てないということになっていると言われてしまい、

 (´・ω・`)みたいな顔をしてみんながワイワイするのを尻目に端っこの方に陣取り、

 とりあえず度数が強そうなお酒を何本かごっそりと抱えつつ、

 今の私を写メかなんかに撮られてTwitterとかにアップされたら、

 三十路女酒に逃げるとかタイトルが付けられてしまいそう、ネット怖い。

 

「絢瀬絵里さんですよね?」

 

 ツマミは持ってきた味噌という、武士は食わねど高楊枝を如実に表したスタイルで、

 集まったアイドルから、あの人誰みたいな扱いを受けている私に、

 話しかけてしまうという勇気ある挑戦者が現れた。

 高校時代に比べて――というより、以前交流した際に比べて

 多少大人びたというか、苦労をしているんだなって思った。

 身体はがっしりとしまっていて、オリンピック候補という過去は伊達ではないのだろうし、

 そういえばツバサも過去に水泳では勝てないとか言ってたっけ、陸上はいけるのか。

 

「そんなに私は外見が変わったかな?」

「若返ってません? 鞠莉ちゃんの妹だって言っても行けます」

「いや、さすがに亜里沙と同じ年の子の妹はちょっと」

「試してみましょう」

 

 お酒が入ってテンションでも高かったのか、そもそも私がそういう扱いを受けるべきだったのか、

 曜ちゃんは意気揚々(渡辺曜ちゃんだけに)と鞠莉ちゃんの写真を片手に

 様々なアイドル(およびタレント)にこの人とこの人どちらが姉に見える?

 みたいに聞き出した、どちらも知らない人もいれば、私が絢瀬絵里だって分かっている人もいて、

 申し訳なさそうに私を指す人もいたけれど、ほとんどが鞠莉ちゃんが姉だって言った、解せない。

 

「聖良ちゃんはどう思う?」

「ん……? ああ、曜さんですか、あら、そちらの方は……ええと、

 お、おは」

「絢瀬絵里です、よろしくおねがいします」

 

 私のことを小原鞠莉と呼ぼうとしたので、先んじて自分の名前を名乗ってみる。

 鹿角聖良さんはかつて私が交流を果たしたこともあるAqoursと同時期のスクールアイドルで、

 面識は確かなかったはずであるし、はじめましてと言おうとしたら

 

「あなたがっ! 絢瀬絵里! ここで逢ったが百年目です!」

 

 聖良さんはきっとこちらに強い目を向けて立ち上がり、

 持っていたカルピスサワーをこちらに向け、

 くれるのかなって思ったら、グイッと飲み干してみせた。

 すっかり第三者になってしまった渡辺曜ちゃんが仕方なさそうに拍手する。

 

「飲み比べをしましょう」

「え、ええ……」

 

 大丈夫なのかという目を曜ちゃんに向けてみると、dみたいな感じで親指を立てられる。

 サワーでもう既に泥酔しかけてしまっている彼女と飲み比べをするのは申し訳ないし、

 どう足掻いても自分が勝つ勝負を受けるのことには躊躇われた。

 

「私の憧れる綺羅ツバサ様は……とてもお酒が強いと聞きます」

「様?」

 

 そいつは別に様付けで呼ぶようなやつではないけれど、

 みたいな態度で軽く相槌を打つと、テメーなんざとツバサを比べるんじゃねえ

 と言いたげな恐ろしくすわった目を向ける聖良さんにちょっと恐怖を覚える。

 ただ、こっちを睨みつけるような仕草をしている割には足取りは覚束ないであるので

 怖いと言うより、可哀想という印象が強くてならない。

 

「いずれは私もアイドル界の頂点に立つ身です

 まずはあなたから、たらきつふへてみへます」

 

 3秒前までキリッとしていた聖良さんが、溶けるみたいに崩れ落ち、

 実にいい笑顔のまま眠りについているのを見て、

 夢の中で私に酒で勝利した場面でも空想しているのだろうと思った。

 デヘヘヘと言ってそうな笑みで寝ているので、このままにしておくのは悪いと思い、

 お姫様抱っこして運び上げ、目についた毛布をかけておいた。

 

「絵里さん怪力すぎじゃないですか?」

「よくね、酒を飲むと眠りこける子がいたのよ、人間慣れるものだし」

「いや、慣れる慣れないでお姫様抱っこは無理だと思うんですよ」

 

 そうだろうかと考えてみる。

 ただの一般人であるところの絢瀬絵里が成人女性をお姫様抱っこするシチュエーション。

 しかも相手は人気のアイドルユニットの片割れであるらしい(相方不在)

 ニートが活躍する冒険譚がないではないけれど、

 私なんぞが及びもつかないである給料が毎月振り込まれているアイドルをホイホイ持ち上げては、

 ニートが失礼なことやらかしてんじゃねえ! くらいのことは言われても当然か。

 

「曜ちゃんは……今は何をしているの?」

「何と言われると反応に困ります、

 マルチタレントという言葉が一番近いでしょうか?

 飛び込みの選手としてはもはや二流ですし」

「芸能人として仕事をしつつ、アスリートとして二流にとどまっているのなら、

 きっとあなたには才能があったのよ」

「なんで絵里さん私の欲しい言葉を吐けるんですか?」

「……なんでかしらね?」

「そこで本当に不思議そうに首を傾げられてしまうと評価がし辛いです」

 

 自身が身の丈に会わないほど不遇な評価を頂いているかと言えば疑問だし、

 かと言って正当に評価されているかと言えばこれもまた疑問。

 別に曜ちゃんのことを理解して、欲しい言葉を適切に吐いたわけではないから、

 すごいです絵里さん! と喜ばれても、あ、はい、みたいな反応に落ち着いてしまうし。

 自身のうかつな発言により、好感度は微増程度に留まったので、

 唐突な話題転換により、自分のペースを握ろうと思う。

 

「Aqoursについて尋ねても良い?」

「なにか特別な意図があっての話ですか?」

「私にそんな意図が含められる発言をすると思う?」

「たしかにそうですね」

 

 自身のポンコツさを担保に脳内の不備こそ指摘をされたものの、

 曜ちゃんの私とμ'sへの不信感はどうやら解消されたものであるらしい。

 私相手でなければ、そんな意図を含めた発言なんざ出来ないでしょ?

 と自虐ネタに走ったらフォローに走らなければいけないけど、

 絢瀬絵里なら手軽に罵倒できる、とてもすごいと思う(棒読み)

 

「Aqoursは浦の星の終幕と一緒に役目を終えました」

「え?」

「以前ダイヤちゃんに会ったんですよね? 言ってませんでした?」

「そういえばAqoursの話はまるっきり聞いてなかったわ」

「絵里さんに会えて舞い上がっちゃったんでしょうね

 おかしいですね、生徒会長っていうのはポンコツがお約束なんでしょうか」

 

 仮にダイヤちゃんがポンコツだとしても、高坂姉妹であるとか、

 他生徒会長様に迷惑がかかってしまうので、その印象は改めて頂きたい。

 特に妹の亜里沙に生徒会長はポンコツなどと言うと、

 絢瀬絵里だけです! と否定されてしまうに違いない、

 ラブライブに優勝できなかったことくらいしかダメな点がない雪穂ちゃんが生徒会長だったので、

 ラブライブ優勝したくらいしか良い点がない私に対してはかなり辛辣。

 妹にさえディスられる絢瀬絵里(笑)

 

「μ'sの方はたびたび連絡取っているじゃないですか」

「みんな忙しいけどね、私は暇だけどね」

「いえ、暇云々はともかく、みんながみんな仲良しってわけでもないんですよ」

「誰か連絡取れない子でもいるの?」

「なんで絵里さんは聞かれたくないことを聞いてしまうんですかね」

「ふふ、なんでかしら」

「ポンコツだからだと思います」

 

 自分の観たくないマイナス点を指摘されてしまうと、それが間違いない事実だと分かっていても、

 心臓にえらいダメージが行く。

 ぐはっと血を吐きそうなぐらい図星を突かれて、ケンシロウに秘孔を突かれた相手みたいに

 ひでぶっ! と爆散したいではあったけれども、なんとかダメージを最小限に抑え、

 会心の一撃を食らった程度の体を保つことにする。

 

「ラブライブ優勝以降、千歌ちゃんとは連絡が取れません」

「……疎遠になってしまったということ?」

「いえ、行方知れずなんです」

「まあ、そのうちひょっこり顔をだすこともあるでしょう?」

「絵里さんにとっての穂乃果さんが同じ立場にあっても

 そんなことが言えるんですか?」

 

 高海千歌ちゃんが行方知れずで”あった”のは、私も以前ダイヤちゃんから聞いている。

 行動観察は逐一しているという反応に困る表現で説明してくれたけれど、

 わりと元気に過ごしているとのことで、私もダイヤちゃんも心配はしてない。

 ただ二年生組以下のAqoursのメンバーには伏された情報であり、

 あいにく私がそれを知っていることすら秘密であるので、

 曜ちゃんには申し訳ないではあるけれど、私へのヘイトを集めてもらい、

 その事実は目を背けてもらうことにした。

 

「穂乃果って私にとっては妹みたいなものよ」

「心配はしていないということですか?」

「心配はする、ただ、困ったら私に相談をするだろうなっていう

 そんな信頼は私は彼女に抱いているの」

「……私たちはラブライブで優勝をしました」

 

 そうであったことくらいは知っている。

 μ'sだけではないけれど、元祖と呼ばれる私と同年代のスクールアイドルの活躍の結果、

 Aqoursがスクールアイドルとして活躍する頃にラブライブの参加者の規模は

 自分たちの頃と比べて何十倍といったほどになり、今は何百倍と言っても良い。

 あいにく私たちを持て囃す風潮は過去ほど積極的ではないけれど、

 真姫と道を歩いていると、元μ'sの西木野真姫さんですよね!

 と、有名声優である彼女は声を掛けられる。

 私はその人の添え物程度の扱いで、自分も元μ'sなんだけどみたいに言うと、

 ウソつけみたいな顔をされる、真姫はそれを観るとよく苦笑いしている。

 

「でも、私たちのしたことは意味がなかった」

「……」

「千歌ちゃんは、なにも変わらなかった結果を観て、

 自分たちのしたことが意味がないと感じて、

 ふらりとどこかに行ってしまいました”私たち”になにも告げず」

 

 曜ちゃんからすれば見捨てられた心持ちだったに違いない。

 自分の当てにならない記憶を頼りに考えると、

 Aqoursの中で高海千歌ちゃんという人物はセンターでありリーダーであり中心。

 何をするにも彼女の意志が尊重されるきらいがあり、

 それ故に千歌ちゃん自身がすべての責任を心に押し付けてパンクする可能性は充分ある。

 どんなに頑張ったところで、0から1になったところで、

 世の中が何も変わらないのであれば、

 多感な時期にネガティブな感情に包まれる可能性は十二分に存在する。

 

「頼りにされなかった自分を後悔しているの?」

「いえ、私は千歌ちゃんと一緒に何かがしたかったと思ってAqoursに入りました。

 ――できてなかったって、Aqoursが終わってから思いました」

「……」

「幼なじみで、友人で、Aqoursとして一緒に過ごして、 

 でも千歌ちゃんにとって私は、単なる幼なじみの一人で、

 単なるAqoursのメンバーの一人だった

 最初、私は彼女を恨みました、なんで私がこんなふうに思っているのにって

 

 でも違った――私が頼りにならなかったから

 千歌ちゃんは私を頼れなかった、私がもっと、もっと、

 すごい人であったなら、千歌ちゃん一人が責任を背負い込まなかった」

「強く想われているのね、あいにくそんな経験はないものだから、

 少し羨ましく思えてしまうわ」

「身勝手なんですよ、私は千歌ちゃんにいっぱいしてきたって、

 そんなふうに親切の押し売りして、好意的に思ってくれればいいって

 誰かへの親切って……その誰かが私にこうしてくれればいいって、

 そう思った時点でもうすでに親切じゃない、身勝手な欲望だって、

 

 幼なじみの千歌ちゃんを失って、Aqoursが無くなって、

 私にとっては高い授業料でした」

「もうだめなの? もう一度一緒にって」

「……私が行動を起こすだけでは

 千歌ちゃんがもう一度立ち上がってくれないと、きっと」

「わかった、安請け合いって言われるかもしれないけれど、

 ちょっと人探しが得意な人がいるから上手いことやってみる」

 

 ダイヤちゃんには怒られるかもしれないけれど、

 ちょっと希をいじって高海千歌ちゃんに会いに行くベントでも企画しようかと思う。

 私にとっては”妹”分なAqoursにスクールアイドルに関してネガティブな感情を持って欲しくないものだし。

 上手くは行かなかったかもしれない、結果は残せなかったかもしれない。

 自分たちの居場所を失ってしまったかもしれないけれど。 

 それでも私たちはまだ生きている、生きているのならば前に進まなきゃいけない。

 上手く行かなかった過去は置いていかないといけない。

 

 曜ちゃんは期待していませんからと笑い、

 その痛々しいとも表現できるような切ない表情を観て、

 きっと高海千歌ちゃんも、渡辺曜ちゃんも、我慢を重ねてきたのだろうな、

 そんな感慨を抱くのである。

 

 

 曜ちゃんが離れていってしまったので、

 寝ている聖良さんの面倒を見つつ、苦しそうにしていれば濡れタオルで顔を拭き、

 苦しいと言えば衣服をちょっと緩め、嬉しそうにすれば頭を撫でる。

 酔っぱらいの介護は西木野真姫で何度も体感済み、

 同じ対応をしていることがバレれば彼女に罵られる可能性があるけど、

 星空凛は他のアイドルの相手している、料理は頓挫した模様。

 

「あの……」

 

 しょうがないなあといった感じで聖良さんの面倒を見ていると、

 背後から気弱であるような、大人しげと表現すれば良いのか、

 声質が高校時代からまったく変わってない黒澤ルビィちゃん――

 

 ダイヤちゃんが何度も目に入れても痛くないと称し、

 まったく不出来なと語りながらデレデレと自慢するそんな妹キャラ。

 しかしながら私に話しかけてくれたのは良いんだけど、微妙に頬が引きつってるのはなぜ?

 

「ルビィちゃんよね? 先日はダイヤちゃんにお世話になりました」

「お姉ちゃんなにか言ってませんでした? その、私のこととか」

「……ごめんなさい、それは内密にと言われているの」

「わ、悪口とか……」

「とても申し訳ないのだけれど、ダイヤちゃんがルビィちゃんの悪口を言うとしたら

 きっと、誰かしらに強制されてのことでしょうね……」

 

 不安そうに俯くルビィちゃんには実に申し訳ないんだけれども、

 掃いて捨てるほど悪口言う要素がある私なんぞと違い、

 ルビィちゃんは悪く言う点を探すほうが難しい、

 そして悪い点を指摘するやつの感情はだいたいやっかみ。

 やっかまんでも悪口を言えてしまう絢瀬絵里の未来はどっちだ。

 

「絵里さんの評判はアイドルの中でもすごいです!」

「ああ、そういえばルビィちゃんはアンリアルだっけ? 鹿角理亞さんとユニットを組んで」

 

 以前花陽と一緒にダイヤちゃんにお世話になった際、

 ルビィちゃんが花陽を推しているという話になり、

 そっかぁ、あんないい子に推されて幸せねーダイヤちゃんは誰推しだったの?

 と問いかけたら雰囲気がお通夜になってみんな黙ってしまったのを思い出す。

 ほのぼのとした空気を崩壊してしまったことを察した私は、

 ルビィちゃんの活躍する映像はない? とシスコンお姉さんにお願いし、

 やってきた津島さんと一緒にアンリアル品評会が開かれた。

 

「以前映像を見させて貰ったけど、理亞さんお腹でも痛かったの?」

「え? ステージの前はいつも元気ですけど」

「そう? あの子の実力あんなものじゃないでしょ?」

 

 首を傾げながら問いかけると目の前にいるルビィちゃんも首を傾げる。

 二人して対面しながら首を傾げるという構図に少しだけ疑問を持ち始めた時、

 

「あー、そうそう、ツバサの若い頃に似てるわ、売れてない時期の」

「理亞ちゃんがですか?」

「うん、私と飲み歩いて憂さ晴らしばっかりしてて仕事がなかった時期」

 

 いつも飄々としていて、大きく表情を変えることが少ない彼女も、

 自身が最大限努力をしているのに報われないという状況は気持ちを荒ませるにいたったよう。

 なんで売れないのかという話題は尽きなかったし、

 観ている相手が悪いのではないかという話にもなった。

 正直な話、当時ツバサ以上に動けるアイドルなんていやしなかったし、

 同格と言っても英玲奈やあんじゅが頑張ってるかなくらいで、

 私も人気が出ないという理由が見当もつかなかったりもした。

 

「相方さん居るの? いるんだったら、ちょっと――」

「さすがにニートをしているとあって、

 机上の空論で他人にマウントを取るのが得意みたいですね?」

 

 ちょっとツンの強い、怒りとも違う、喜びを含んだであるような、

 楽しそうな声色を必死に抑えつつこちらに喧嘩を売る発言をする女の子。

 鹿角理亞さん――髪型をツインテールにし、目つきは野良犬と同レベルの鋭さ。

 ドーベルマンと理亞さんどっちが目つきが怖いって言ったらイーブンに持ち込めそう。

 寝不足であるのか多少充血しているものの、テンションだけはやたら高そう。

 

「芸能界最高のアイドルと謳われる綺羅ツバサさん

 その実力がニートに分かるとでも?」

「まあ、確かにニートしている人にはわからないかも知れないけど、

 私はツバサの親友名乗ってもいいくらいだからね

 友だちのことって、よく分かるものでしょう?」

「ならばあなたの目が節穴なんです、私は彼女には及びもつかない」

「そんなことはないわね」

 

 私が彼女の言葉を否定すると、気分を害したであるのか、

 目つきがさらに凶悪になり、肩に力が入って、こちらに敵意を向けたみたい。

 空気の読めなさに定評がある絢瀬絵里ではあれど、

 ツバサが自分よりも劣ってる相手ばっかりでアイドルやってても面白くない

 とかふざけたこと抜かしているから、理亞さんにはぜひ

 そんな綺羅ツバサの鼻をへし折ってもらいたい。

 

「何に遠慮しているの? 聖良さん? それともルビィちゃん?」

「私は遠慮などしていません」

「じゃあなんでステージの上で手加減をするの?

 あなた達のパフォーマンスを観に来たファンに失礼よ」 

「その節穴の目を持ち、思い込みも激しい、救いようがありませんね」

「わかった、説得力をつける、

 私の言葉が信用できないのなら、ツバサの言葉ならどうかしら?」

 

 なお、理亞さんのとなりにいるルビィちゃんがオタオタとして、

 紫色の湯気が沸いている料理を持ってきた凛も他所でやってくれよみたいな顔をしている。

 

「凛、どっか広い場所ない?」

「差し入れでこれ持ってってよ、みんな食べないんだよね」

「それは何のスープ? 赤い色をしているけど」

「なんだろう? 野菜を入れたけど」

 

 野菜を入れればとりあえず赤くなるならばケチャップなど必要ないであろうし、

 着色やら何やらも必要なくなってしまう。

 料理を持っていくのが面倒ではあるし、

 LINEを送った瞬間、わかった今から行くとか言って返信がすぐに来たので、

 暇だから凛の料理でも食べることにしよう。

 

 ――どのみち私が食べないと誰も手を付けないし、

 なにより、スープの臭気で寝ている聖良さんが気分悪そう。


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