三十路ニートエリーチカの居酒屋飲み歩き日記   作:おうかわりん
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(※)星空凛との飲み会編

(凛との飲み会編)

 

 今度飲み会を開くので来てくださいと、凛からメールが届いたのは数日前のこと。

 サシで飲むと、ズバズバ心がえぐられてしまうので(あと、深夜に及ぶとパソコンの電源が落とされる)

 あまり長い時間は飲めないと断っておく、そうしたら――

 

【存分にお腹を空かせてから来てください】

 

 冷や汗が流れ落ちた。

 凛は最近料理にハマって、花陽を随分と泣かせているらしい。

 それは美味しい手料理を食べさせて感動させたのか、エビチリを超えた何かを作り上げたのか。

 

 凛はすっかり有名人になってしまったので、基本飲み屋では顔を出せない。

 だから必然的に宅飲みになる可能性が高いんだけど、お腹を空かせてくださいというのは初めて。

 後輩が作る美味しい手料理でもてなされ、自分は優雅にお酒を飲む。

 ――アレ? それって、家での日常と変わらなくないですか? もっとも肴を作るのは自分だけど。

 

 家でのことと言えば、以前オンラインゲームをしていて寝落ちをしたことがあった。

 1週間連続今月10度目の徹夜で体力が保たなかったせい、気がつくと水をなみなみに注いだバケツを持った亜里沙がいて

 

「今度徹夜して寝落ちしたら、これを掛けて起こします」

 

 と宣言された、私は肝を冷やした。

 そうなれば自作パソコン(40万円・亜里沙持ち)は完全に破壊され、生きがいを失う。

 このパソコンはμ'sで作った、私達の卒業後唯一の作品。

 みんなの写真が色んな所に貼り付けられた痛パソコンでもある。

 海未の写真を指差し、

 

「海未も手伝ったのよ! 亜里沙の憧れの!」

「知ってます、私も雪穂も手伝いましたから」

「だったら尚更このパソコンの価値は分かるはず、好事家が見れば100万はくだらないわ!」

「姉さんには重すぎますね?」

 

 ぐうの音も出なかった。

 

 

 閑話休題。

 

 凛から指定された住所にたどり着くと、彼女がまだ駆け出しだった頃に住んでた安アパートとはまるで違ってた。

 オートロック付きのタワーマンションで出口には監視カメラもついている。

 私なんかが入り込めば、ニートめ! 通報してやる! と宣言されてしまいそうな場違いにも見える場所。

 

 ハラショー……さすがに売れっ子タレントはレベルが違う。

 東京の一等地にこれだけの高いマンション、さぞ家賃もお高いんだろう。

 私達姉妹が住んでいる場所は8万円くらいだったから、二倍……三倍……下手したら一〇倍?

 一人悶々とお金の計算をしていると、背中越しに声をかけられた。

 

「絵里ちゃん!」

「凛!」

「いやあ、絵里ちゃんは高校時代と変わらないにゃあ……苦労してないから」

「え、凛、もう酔ってる?」

「素面だよ!」

 

 苦労していないとは失礼な、いつもオンラインゲームのギルド長として人間関係で苦労しているわよ。

 凛と一緒に高層階までエレベーターで登り、時折会話をしながら、最近の芸能事情を聞いていた。

 最近はスクールアイドル上がりのタレントが増えて、戦国時代を迎えているとか。

 その時勢を理解していない大物(笑)とかに説教をされる番組なんかも増えたみたいで、なんというか。

 凛も苦労しているんだなあと痛感した。

 

「でも随分ぶっちゃけるわねえ、そんな会話して平気なの?」

「ここは、芸能人御用達だから平気だよ」

「……私は随分場違いな場所に来てしまったみたいね」

「ニートなんてどこでも場違いにゃ」

 

 ぐうの音も(ry

 

 凛の部屋にたどり着くと、もうすでに先客がお酒を酌み交わしていた。

 その様子から察するに、凛はまだ手料理は作っていないみたい、テーブルに載せられた料理は順調に減ってる。

 しかしどの女の子も可愛い、そして若い、お酒を飲んでいることから察すると二〇以上なのは間違いないけど。

 

「じゃあ、主役は座ってて、凛、料理作ってくるから」

「主役て、周りが芸能人みたいに可愛い子ばかりで、どう過ごせと?」

「だいじょうぶだいじょうぶ、今日来たメンバーはみんなμ'sのファンだから」

 

 それは違う意味でだいじょうぶではない気がする。

 

「芸能人が嫌ならアスリートもいるよ、ほら、一番端に座ってるあの子」

「端に?」

「高飛び込みの選手で、オリンピック候補の渡辺曜ちゃん」

 

 何処かで見た顔だなというのと、名前を言われてはっと気づいた。

 彼女は確か、スクールアイドルAqoursのメンバー。

 凛は仕事でμ'sの再来と呼ばれた彼女たちにインタビューに行ったはずだ。

 その際に私とにこも同行して、練習風景を見たことがある。

 

「へえ……掛け持ちしているって言ってたけど、オリンピックに出るほどの選手なのね」

「その隣りにいるのは鹿角姉妹のお姉さんの方で、散らばっているのはあり……」

 

 あり?

 

「な、なんでもない、とにかくアイドルとかタレントさん、コミュニケーション能力があるから大丈夫だよ」

「料理をつくるなら私も手伝うわよ」

「残念ながら、ロシアの血が入っていると、凛の家の台所には立てない呪いがかけられてるんだよ」

「呪いなんて、そんな非現実的なものあるわけないじゃない」

「希ちゃんがかけたから、たぶん、本当だよ」

 

 希はちなみに現代に蘇った安倍晴明とも密かに呼ばれている。

 

 

 凛と別れた私は、できるだけ目立たないように部屋の端っこに腰を下ろす。

 どうやら気づかれた様子はなく、私は安堵しながらスマホを覗き始めた。

 しかし――

 

「あの、絢瀬絵里さんですよね……?」

「人違いです」

「ひ、人違いでしたか……」

 

 女の子はおずおずと引き下がる。

 にこみたいなツインテールをしたとても可愛い女の子だ。

 気弱そうで、実際おどおどとした態度をしながら、こちらを伺っている。

 ちょっとかわいそうなことをした、きっと彼女なら絢瀬絵里と告げてもひどい騒ぎにはならない。

 

「ごめんなさい、嘘です」

「やっぱり、絢瀬絵里さんですよね! お姉ちゃんが大ファンなんです!」

「そ、そうなの……私のファンなんていたのね……」

 

 そりゃあ高校時代には出待ちだって、モデルのスカウトだってされたこともあるけれど。

 

「そんな! μ'sのメンバーの中でも絵里さんは人気が高いです!」

「ほ、褒められるのは嬉しいけれど、ほら、もう、落ちぶれてしまっているし……」

「今はただ本気を出していないだけなんですよね……?」

 

 純真そうな瞳でこちらを射抜いてくる、お姉さんがファンだという少女。

 正直やりづらくてしょうがない、以前までの亜里沙を思い出すものだから。

 

「絵里さんは今でもY字開脚とか、一八〇度開脚とか、できるんですか?」

「で、できるけど」

「すごい! 私の高校時代にやってもらって、すごく憧れたんです。自分はほら、身体が硬かったので……」

 

 す、すごいかしら……?

 

 

「柔軟はほら、毎日の積み重ねだから」

「ですよね! 毎日ちゃんと努力をなさっているんですよね!」

 

 その努力は主にオンラインゲームで長時間の同じ姿勢に耐えるためなんだけど。

 白状してしまえば、彼女の尊敬の視線が一気に落胆に変わってしまう。

 そんなこんなで、黒澤ルビィちゃん(芸名・Ruby)は私に特に絡んできた、すると――

 

「ルビィ、その人に近づいてはダメよ、その人はすっかりダメ人間なんだから」

「り、理亞ちゃん……!」

「はじめまして、鹿角理亞です。どうぞよろしく、ダメ人間さん?」

 

 おお……真正面からの敵意は久しぶり……。

 これが凛の誘いを迂闊にも受けてしまった報いなんだろうか……。

 

「μ'sが、スクールアイドルの番組で紹介されない理由を知ってますか?」

「それは、テレビに出るのが嫌いな、ことりや海未がいるから」

「違います、有名デザイナーになった南ことりや、自営業を営む園田海未が理由ではありません」

「随分と詳しいのね?」

「本来なら、テレビ番組のプロデューサーも伝説のスクールアイドルグループμ'sのその後を追いたい……」

 

 これは噂で聞いた話だけど、μ'sのその後というのはタブーに近い存在だって。

 以前オンラインゲームをしていた時に、その話で盛り上がったことがあるからよく覚えている。

 

「あなたのせいです、絢瀬絵里」

「私の?」

「あなたがもしもニートでなければ、μ'sは今でも伝説として語り継がれたことでしょう」

「……そう、それは良かったわ」

「負け惜しみですか」

「違うわね、μ'sは何も伝説として称されるほどのグループじゃない、ただ個人が願いを持って生まれただけのグループ

 別に神格化される必要も、伝説となって語り継がれる必要もない、A-RISEとは違うのよ」

 

 

 

「さすが絵里ちゃん、賢いにゃ」

「遅いわよ凛」

「ちょっとドライカレースープを作ってたものだから」

 

 何その壮絶にミスマッチそうなスープは。

 

「理亞ちゃんも主賓に逆らっちゃダメにゃ」

「ご、ごめんなさい」

「それがたとえダメニートのダメ人間だったとしても最低限の誇りはあるにゃ」

 

 毒凛語炸裂。

 

「オンライン上でしか存在を必要とされない、妹の脛かじりでも、両親から見放されても」

「ちょっと待って」

「働く気もない、就職意欲もない、飲み会にばっか行ってても、絵里ちゃんはすごいんだよ?」

 

 待って待って! 凄さをまったく感じさせないから!

 仮にその言葉の後にフォローが入ったとしても彼女たち納得してくれないから!

 

「ちょっとこのスープ飲んでみて」

「え? 飲めばいいの?」

「うん、凛特製のスープだから」

「……辛い! 燃えるような辛さよ!?」

 

 喉がやられる。

 

「すごい……」

 

 と、ここで理亞ちゃんとルビィちゃんがこちらを見て尊敬の念を抱いたような視線を向ける。

 

「「凛さんの手料理食べてる……」」

 

 その後、誰も手を付けようとしない凛の料理を一人で処理することになった。

 アイドルやタレントの子たちから尊敬の視線で見られるようになった。



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