三十路ニートエリーチカの居酒屋飲み歩き日記   作:おうかわりん
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(※) 矢澤姉妹との飲み会編

 UTXの芸能科では、平日は午後にレッスンがはじまる。

 授業はどうするのかと伺ったところ、勉強面では期待されていないとのこと。

 その中で学力テストでもトップを勝ち取っていた綺羅ツバサ何ていうのは、化物だったのだ。

 土日は一日中レッスンが続き、講師も生徒もヘトヘトになるそうで――

 

 なので、にこはお酒の付き合いがあまり良くない。

 μ'sで飲むってことになれば参加はするけど、後日に響かないように調整している。

 ただ、私たちはお酒に弱いメンバー(筆頭が真姫)がいるので、その世話をしなければいけない。

 後日に疲れを残すか、酒を残すかで随分と逡巡していたのを覚えている。 

 

 そんなにこから、お酒でも飲みましょうというメールが届いた。

 なんでも、最初は真姫を誘ったそうだが、急な仕事が入りオジャンになったらしい。

 他のメンバーは随分と忙しいそうだものね、なんて、忙しい筆頭株が言うのだから笑えない。

 こういうときのために私はあえて働かないの、と亜里沙に言ったら凍えるような視線で見られた。

 

「ええと、にこはたしか引っ越したのよね」

 

 何をしているのか定かではない亜里沙とは違い、にこのお母さんはバリバリのキャリアウーマン。

 年齢を積み重ねてきたのと、娘達が働くようになったことによって仕事量も減り、家に帰れる日も増えたとか。

 ただねえ……仕事が好きっていうのがあまり理解できないのよねえ……そのせいで、何日も家を開けることもあるらしいし。

 私なんぞが家を開けようものなら、パソコンは内々に処理され、部屋に乱雑においてある書籍類も掃除されるに違いない。

 

「都内一等地……なんだか先日そんな場所に立っていたような……」

 

 しかも、凛が住んでいる場所と同じようなタワーマンション。

 つくづくお金持ちは高い所に住みたがるな、と思わずにはいられない。

 ちなみに私の家も高層階である、もちろん家賃はお安いけど。

 

 

 出迎えてきてくれたのは、にこの妹のこころちゃんだった。

 以前に見た時は、まだ中学生くらいだったから五年ぶりになる。

 ただ気になるのは、当時はノーメイクだった彼女だけど、今は微妙に濃くて露出度が高い。

 胸なんて先日知り合いになった鹿角聖良ちゃんと同じくらいはあるだろうか?

 ――にこはきっと、複雑な思いを抱いているわね。

 

「絵里お姉さま! 今日はようこそいらっしゃいました!」

 

 こころちゃんは私に距離を近づけて、その豊満な胸を押し付けるようにし腕を取る。

 ずいぶんと好感度が高いみたいだけど、私は何かをやったかしら……?

 

「ああ、ごめんなさい、いつもの癖で……」

「癖?」

「は、はい、職場での癖で」

 

 それはもしかしていかがわしい職場なのでは? と思ったけど、口には出さない。

 もしそうだった時が恐ろしすぎる。

 でもまさか、あのいい子一直線だったこころちゃんが、そんな職場では働かないでしょう。

 ここあちゃんだったらわからないけど……反抗期一直線で以前来た時に私をババアと呼んだ彼女なら……

 

「ご、ご安心ください! お客も従業員も女性です!」

「そ、そうなの……それは安心ね」

「は、はい! お客様は優しい方ばかりで、未成年だった時にお酒を勧められたことはありません!」

「こ、高級そうなお店ね?」

「はい、銀座にあります!」

 

 どういうコネで就職に至ったのかはわからないけど、とりあえず幸せに過ごしているようでよかった。

 

 

 それはともかく。

 

「にこはいないのね?」

「お姉さまは今食材とお酒を買いに行っています」

「そうなの……あら、このポスター」

 

 にこの家にはあらゆる場所にポスターが貼ってある。

 その横には数字が書かれた紙があり、上矢印とか、下矢印とかが書いてある。

 

「ああ、それはお姉さまが面倒を見ているグループのポスターです」

「へえ……この数字は?」

「UTXの学内ランキングとか、スクールアイドル公式サイトの順位とかですね」

 

 こう言っては失礼かもしれないが、身体は小さいけど面倒見のよさと器の大きさがあるにこ。

 結構小学校とかの教師に向いているのかなーなんて思ったことがあった。

 それが超有名校のUTXで講師を務めることになろうとは……回り道も人間するものなのね。

 

「では、絵里お姉さま、お姉さまが来るまで私がお相手しますね」

「お、お手柔らかに……」

「安心してください! 今日はお代金はいただきません、ノルマもありませんし」

「え、ええ、なんでもにこがお酒代も出すとか、お財布は持ってきたけど……」

「さささ、まずは一杯、お注ぎしますね?」

 

 そう言っている間でも、こころちゃんは私に体を寄せる。

 おかしい、女性だけを相手にしているならここまでのボディータッチは必要なんだろうか?

 

「ん、いい匂い、本当注ぎ方が上手ね」

「お褒めいただけて光栄です」

「甘い口当たり……これ、飲んだこと無いかも」

「ドンペリです」

 

 ――え?

 

「嘘です、これはシャンパンですよ、通販で取り寄せた一級品です」

 

 お、お姉さん、ちょっと肝が冷えちゃったなあ……

 

 

 美味しいお酒と、適度なおつまみを齧りながら、他愛もない会話をしているとにこが戻ってきた。

 両手にたくさんのビニール袋を持っていたので、慌てて立ち上がり、片付けを手伝う。

 

「エリー、案外気が利くところもあるのね」

「べ、別にこれくらい大したことじゃないわよ」

「ニートだって聞いていたから、何にもできないやつになったんじゃないかと思って」

「いやねえ、流石に手伝いくらいはできるわよ、料理もしているし」

「料理といえば、凛が料理を教えてくれって言ってきたわね、お互い忙しいから、なかなか都合がつかないけど」

 

 会話に花が咲き始める。

 お酒が入ればきっと仕事の愚痴とかしか聞くことはないだろうと見込んでいたから。

 

「ところでエリー」

「どうしたの?」

「働くつもりはないの?」

「難しい相談ね」

 

 私は眉をひそめる。

 働くことになったら、今やっているゲームはどれも中途半端になってしまう。

 当然交流はなくなってしまうだろうし、ギルドマスターもやめることになる。

 朝早い職場になればわからないけど、夜遅くとか働けば亜里沙にお弁当も作ってあげられない。

 

「いや、働くのはそう難しいことではないわよ」

「それはまあ、そうかもしれないけど」

「賢いエリーなら分かるでしょ、結婚する気もない、彼氏だっていたことがない、しかも働くつもりもない人の末路が」

 

 彼氏がいたことがないのはにこも同じでしょうに。

 

「確かに、いま亜里沙に捨てられたら野垂れ死ぬわね」

「私は嫌よ、エリーの別れがそんなのなんて」

 

 

「……じゃあ、にこは私がどんな職業についたら良いと思う?」

「そうね、働くことのブランクも長いけど、体力はありそうだから営業とか?」

「免許も持ってない人間には辛いんじゃない?」

「そうかしら? コミュ力おばけの穂乃果あたりとは違うけど、エリーは賢いから営業向いていると思うけど」

 

 と、就職についての話に盛り上がっていると、こころちゃんが割り込んできた。

 

「絵里お姉さまなら、スクールアイドルの講師も向いているのでは?」

「もう何年も踊ってないわよ」

「そうよこころ、それに私みたいなコネがアレばいいけど、未体験で就職できる職業じゃないわ」

「コネならばあるではありませんか」

 

 と言って、こころちゃんはにこを見る。

 その視線の意味に気づいたのか、にこは頭を抱えた。

 

「まだペーペーの講師にコネなんて無いわよ……」

「ムネもないけど、痛っ!?」

「ぶん殴るわよ」

「殴ってから言わないの」

 

 そう言っている間にも料理はどんどん完成されてく、

 思わず涎が出てきそうな料理から、カロリー控えめの健康的な料理まで。

 出来たものをテーブルにまで運び、こころちゃんが全員のコップにお酒を注いだ。

 

「次はエリーの就職祝いね」

「え、もうにこの料理味わえないの?」

「働きなさいって、いいもんよ、働くっていうのは」

「それにはお姉様と同意です」

 

 

「働くということは、動くことです。人生において停滞した者は必ず不幸になります」

「不幸かあ」

「別に、体を壊すほど働けとは言いません、ニート生活が長くなると、自然と動くことに恐怖を感じるようになります」

 

 こころちゃんは私を見ながら、お酒を少し飲み。

 

「恐怖は、人の心を壊します。壊れてからでは遅いのです」

「こころちゃん?」

「あ、ごめんなさい、せっかくの酒席に」

「ねえ、エリー? あなた好きなこととかってないの?」

 

 にこに唐突に問われる。

 私の好きなこと……そう考えてみると、義務的に過ごしてはいたけど、好きだからやるってことが少ない。

 オンラインゲームだって、スマホゲームだって、それに数少ない趣味の読書だって、

 そうしていないと悪い考えに取り憑かれてしまうから行っているにすぎない。

 

「ない、わね」

「そう、だったら。まずは好きなことを見つけることから始めましょうか」

「それは賛成です。些細な事でかまわないんですよ、絵里お姉さま」

「そ、そうね……」

 

 考えがあまりまとまらない。

 私は恐怖を覚えて、お酒をぐいっと飲み、料理に手を伸ばす。

 

「美味しいものや面白いものは好きかもしれないわね」

「なら、その線で行きましょうか、亜里沙ちゃんには私が連絡をとっておくわ」

「にこって、亜里沙と親しかったっけ?」

「社会人になってからね、色々とあるのよ」

 

 どこか遠いところを眺めながらにこが言う。

 珍しく、亜里沙がどんな場所で働いているのかが気になった。



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