三十路ニートエリーチカの居酒屋飲み歩き日記   作:おうかわりん
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(※) A-RISEとの飲み会編

 私がマスターをしているギルド、エゴスティックエリーは最初は四人のメンバーしかいなかった。

 必殺の聖騎士絢瀬絵里、暗黒の魔女吉沢美春、漆黒のスナイパー西条真琴、戦場の天使綺羅ツバサ。

 残っているのはツバサと私の二人だけど、美春や真琴とは今も年賀状のやり取りをしている。

 エゴエリは今や二〇人を超える大所帯で、専門誌でも味方に出来ればこれほど頼りになるプレイヤーはいないとされている。

 

TSUBASA:そういえばエリー

エリー:なあに?

TSUBASA:今度、飲みに行かない? 四人で

エリー:四人? 美春と真琴?

TSUBASA:違う違う、英玲奈とあんじゅよ

エリー:高校卒業してから会ってないメンツばかりだけど……

TSUBASA:安心して、私もA-RISEが解散してから会ってないから!

 

 どういう経緯でA-RISEが再集合し、しかも私なんかと飲むようになったのかはわからない。

 ただ、現在亜里沙はμ'sよりもA-RISEに夢中なようで、食事が一緒になるとA-RISEの話ばかりをする。

 やれ、素晴らしい曲ばかりだの、CDが100万売れただの。

 優木あんじゅの結婚によって解散した彼女たちだけど、未だに再結成が望まれており、よもやそのリーダーが

 オンラインゲーム上で伝説と呼ばれているギルドメンバーだということは、あまり知られていない(亜里沙も知らなかった)

 

「姉さん? 今月五回目の飲み会だね?」

「……そ、そうね! でも、ほら、たまには外に出ないと!」

「誰と飲みに行くの、まさか男の人じゃないよね?」

「あ、A-RISE……」

「A-RISE? A-RISEさん?」

「ち、違うわよ! 高校時代にラブライブ出場を争った、あのA-RISE!」

「……姉さん、妄想は大概にしてよ」

「妄想じゃないってば!?」

 

 ツバサと同じオンラインゲームをしていると告げると、亜里沙はハラショーとつぶやいた(5年ぶりに聞いた)

 亜里沙は私に10枚分の式紙を渡してきて、それぞれにサインをして欲しいと頼んできた。

 なお、私の上限課金金額も2000円増え、お小遣いも渡された、よっぽど嬉しかったらしい。

 

 

 吉祥寺まで足を伸ばす。

 お小遣いも渡されお財布がホクホクだったので、遠出がしたいと駄々をこねたら吉祥寺に集合ということになった。

 ツバサが言うには、美味しい飲み屋街があるらしい、その名もハーモニカ横丁。

 狭い路地に沢山の店が軒を連ねており、英玲奈はこの場所が大のお気に入りとのこと。

 

 今日は朝まで飲んでも文句の一つも言われない、パソコンの電源も切られない、さすがA-RISE。

 そしてなんと、はしご酒をしても良いとの許可ももらった。

 一つの大衆居酒屋の飲み放題でちびちびと酒を飲むなんてことは、今日はありえない。

 いやまあ、そういうのも嫌いじゃないんだけどね、ちびちび飲んでると大抵就職しないのって聞かれるから……。

 

「おや、絢瀬絵里じゃないか。早いな」

「英玲奈」

「ここに来るのが楽しみすぎて早く到着したと思ったが……」

「頼みたいことがあったからね」

 

 そう言いながら、かばんの中から式紙を10枚取り出す。

 

「まさか無礼講の飲み会でサインを書かせる気か?」

「さすがに妹のヒモのエリーとしては、願いは叶えたくて……」

「ほう、金に困ったからオークションにでも出品するのかと思った」

「……その手があったわね」

「ここで解散するぞ」

 

 ブツクサと文句は言いつつも、サインをすらスラスラと書いてくれる英玲奈。

 さすがは元大人気アイドルのA-RISE、サインを書くのも手慣れている。

 ありえないけど、サインくださいと言われたらどう書いて良いものかわからないエリーがここにいる。

 

「一応ネットで調べたけど、いい店がいっぱいあるみたいね」

「もちろんだ。正直な話、絵里が遠出がしたいと言ってくれてよかった、ここに連れてきたかったんだ」

「仲間思いないい子なこって」

「からかうんじゃない」

 

 英玲奈と会話をしていると、のんびりといった様子であんじゅがやって来た。

 

「エリー、早いのね。英玲奈は来てると思ったけど」

「頼みたいことがあるんだとさ」

 

 と言って式紙をぷらぷらと見せる英玲奈。

 

「2年近く書いてないから、出来は期待しないでよ?」

 

 なんて言いつつも、サラサラと流れるようにサインを書いていくあんじゅ。

 

「これでツバサを待つばかりか」

「アイドルだった時は忙しくて、お酒を飲む暇もなかったわねえ……」

「そうだったの? 当時からツバサはネトゲ廃人だったけど」

「趣味と仕事に関しては化物よ、あの子は」

 

 呆れ半分、尊敬半分といった感じであんじゅが言う。

 私が今やってるゲームにハマり始めたのは、大学在学中。

 卒業と同時に大人気アイドルグループとなったツバサは、高校時代からプレイしていたらしい。

 最初に彼女と会った時、実は偶然だった。

 ゲームにハマりはじめて3日連続不眠で頑張っていた頃、私の周りに敵はいなかった。

 始めた時にたまたま強キャラと強武器に恵まれ、敵を蹂躙していた私に対し、ギルドに誘ってきたのがツバサ。

 当時の彼女のギルドと言えば、そういうのに疎い私でも知ってるほど有名で、人気だった。

 

 そんなギルドから誘われたのが嬉しくて、更に私は研鑽に励んでいた。

 しかしながら、唐突に当時のNo.2が新しいギルドを作ると宣言し、脱退。

 それに引きづられるようにしてどんどんと仲間が解散していき、最終的に残ったのが4人。

 エゴスティックエリーのメンバーたちである。

 

 今となって考えてみれば、単なる仲間割れだったのかもしれないけど――

 凹んだツバサがオフ会を開くって言って会ってはじめて知り合いだったことに気づいた。

 

 

「お、ツバサがやって来たぞ」

 

 昔のことに思いを馳せていると、駅前の方からスタスタとこちらに向かって歩いてくるツバサが見えた。

 しかし、顔が赤い。

 

「風邪でも引いているのかしら?」

「違うわ、あれは一杯引っ掛けてきたのよ」

「一杯で済んだかは怪しいがな」

 

 ちなみに待ち合わせ時間は17時。

 その前からお酒を引っ掛けてくるなんてツバサは大人だなあ(棒読み)

 

「全員揃っているのね、なんとなく絵里は遅れてくるもんだと思ってたわ」

「そ、そこまでダメ人間じゃないわよ!」

「随分年下の子に就職するように迫られたそうじゃない?」

「そ、それを英玲奈とあんじゅの前で言っちゃダメよ!」

 

 ちなみにだけど、私が妹の脛かじりをしていることは二人は知っている。

 できるだけ隠していたかったんだけどツバサが全部喋ってしまった。

 なんでも、隠しておくような話題ではないからということで。

 

「絵里は本当にヒモなのか?」

「恥ずかしながら」

「本当に恥ずかしいと思ってる?」

「恥ずかしながら」

「この場の会話を恥ずかしながらで済ませようと思ってない?」

「恥ずかしながら」

 

 この会話、ツバサは大ウケした。

 

 まずは一番最初ということで、立ち飲みの店に行くことにした。

 早速えらい勢いで注文をし始める英玲奈に、太るわよと進言するあんじゅ、ツバサはスマホゲー。

 届いたお酒で乾杯をしてから、雑談を始めた。

 

「いや、そうね。もし仮に妊娠なんてしたら、こうして飲み会なんて行けないじゃない?」

 

 結婚してアイドルを引退、専業主婦になったあんじゅはビールを飲みながら言った。

 私や真姫あたりとは縁遠い話題だけど、男性人気もあった英玲奈はウンウンと頷きながら

 

「そうだな、母親になって、子どもも小さいということになれば出かけるのもままならないだろう」

「出かけられないのは良いんだけど、お酒が飲めないのはねえ……だから、今のうちにしたいことはしようと思って」

「子供かあ、縁遠いわね絵里」

「経験のないツバサには縁遠いわね」

「お互い様じゃない」

 

 互いに自分が経験がないことを暴露していくスタイル。

 

「お前たち……未だに処女だったのか……?」

「高校時代はみんな処女だったじゃない!」

「μ'sもそうよ」

「あれー? アイドルと言えば男性人気が高くてよりどりみどりなイメージがするわー?」

 

 真姫はあまりに処女をこじらせて、15歳なのに彼氏いない歴17年と言ってしまったことがあるけど……

 まさか、25になっても恋人の一人すら出来ないとは予想もしていなかったに違いない。

 

 私を含めてだけど、A-RISEの3人はお酒が強かった。

 3軒目に突入するというのに千鳥足になることもない。

 英玲奈おすすめの店の料理はどれも美味しくて、いくらでも食べられる気がする。

 中でもツバサは大食い選手権にでも出られそうな勢いでひたすら食べてた。

 

「でも、ツバサが会ってくれて良かったわ、正直円満解散ではなかったしね」

「ツバサはやっとネトゲに夢中になれるって喜んでたがな」

「……ツバサ、今働いてるの?」

「あんじゅ、お酒がまずくなるわ」

「まさかとは思うけど、エリーもツバサもヒキニート?」

 

 ちなみにだけど、ツバサはさり気なく働いている。

 私みたいに完璧なニートとは違って、彼女はゲーム雑誌のライターとしてデビューした。

 ただ、英玲奈もあんじゅもゲームはみんな同じに見えるっていうくらい疎いから、

 ツバサが案外苦労していると言っても、あんまり信じてもらえないかもしれない。

 

「失礼な、ヒキニートなのは絵里だけよ」

「引きこもってないし」

「飲み会くらいでしか外出てないんでしょ?」

「買い物では外出てるわよ」

「ツバサはUTXの仕事を断ったらしいな、もう、アイドルは嫌なのか?」

 

 英玲奈はにこと同じ、UTXの講師としての仕事を持っている。

 その仕事も忙しいはずなのに、時折テレビにタレントとしても出ているのだから頭が下がる。

 ツバサはぐいっと酒を一気飲みして、

 

「嫌になるわけないじゃない、ただね」

「ただ?」

「……ごめんなさい、なんでもないわ」

 

 ツバサは遠い目をしながら、お酒の注文をした。

 後日、この時何を言おうとしたのか訪ねたところ。

 

 ――私は、一生三人で歌って踊っていたかったのよ。

 

 飲み会は六軒目に突入しても勢いが増すばかりだった。

 深夜になるに連れてテンションも上がっていく、あんじゅと英玲奈。

 今ははじめて彼氏ができた時ののろけ話で盛り上がっている。

 

「そ、そんなに経験がないのって恥ずかしいかしら?」

「20超えたらそうかもしれないわね……」

「男性の中では素人童貞という言葉があるそうじゃない、だったら女性でも、素人処女って」

「それは処女なのかしらね……?」 

 

 ツバサと私は、次第に度数の強い酒を飲みはじめて現実逃避しだした。

 

「絵里」

「なあに?」

「私はライターだけど、結構面白い職業だと思ってるわ」

「あなた英語できるんだから、翻訳でもなんでもできたんじゃない?」

「ロシア語も案外需要があるものよ?」

「残念ながらロシア文学はそれほど日本受けしないのよ……」

 

 日本酒をちびちびと飲みながら、お刺身を食べる。

 もっと幼かった頃には、油が多いものを食べていたけど……。

 最近はすっかり、マグロと日本酒だ。

 真姫お気に入りの、穂乃果の店には刺し身はないんだけど。

 

「ほら、なろうってあるじゃない?」

「小説家になろうだっけ、やたらめったら書籍化しているところよね」

「あそこにμ'sの話とか書いたら受けると思うんだけどなあ……」

「受けるかしらね? チートとか異世界転生とか魔王とか出てこないわよ?」

「A-RISEを魔王にしてしまえばいいじゃない」

「流石に気がひけるわ」

 

 

 10軒目の会場はカラオケボックスだった。

 ここで朝まで歌う! お酒を飲みながら! と宣言したツバサは作曲一曲目から自分の歌を歌う。

 

「英玲奈は歌わないの?」

「カラオケのマイクを握ると人格が替わるんだ」

「そうなのよ、本当マイクを離さなくて……困ったものよね」

 

 そんな会話をしながらも、3人は仲良く歌を歌っている。

 案外私はアウェーだ。

 ただ、この時間をもし亜里沙が過ごしていたら、感涙してハラショーって言ってばかりなんだろうなって思った。

 

「ほら、絵里も歌いなさい! 襟裳岬よ!」

「せめてμ'sの曲にしてよ……」

 

 流れ出る森進一の映像にコロッケの歌を思い出しながら、4人で笑う。

 ちなみに誰ひとりとして歌える人はいなかった、なぜ入れたツバサ。

 

「しかしいつも思うんだけど」

「なあに?」

「歌手には一銭も入らないのよね、カラオケって」

「……ツバサ、世知辛いわ」

 

 

 帰りがけ、就職したら会いましょうと念押しされ、若干引きつった顔で応じるしかなかった私は、とあるサイトを開いた。

 

「――物書きか」

 



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