アラサーニートエリちとキャリアウーマン亜里沙   作:桜川凛

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A-RISEとの飲み会編 (飲み会まで行きません)

 過去には諍いもあったらしい三人だけれども、

 A-RISEが解散して以降三人の仲が微妙かっていうとそういうわけでもない。

 相変わらず仲がいいと私なんかは表現するではあるんだけれども、

 μ'sの9人の仲の良さに比べれば、

 私たちの仲の良さなんてお遊戯みたいなものだと

 綺羅ツバサはそんな風に自虐したりもする。

 

 付かず離れずといった雰囲気の三人がμ'sを買ってくれることに関して、

 大変申し訳ないんだけれども私達μ'sも誰かと誰かが縁遠くなるという現実が起こりうる。

 これから未来に誰かしらが欠けるケースだって存在するかもしれない。

 真っ先に欠けるとすれば私である可能性が随分と高いとは思うのだけれど、

 意外や意外にも穂乃果がその役回りになるシチュエーションもありうるかもしれない。

 

 私の想像はいつだって暗く情けなく、ネガティブなものであるけれども、

 どちらかといえばいつでも明るく振る舞い、

 ポジティブに生きている綺羅ツバサなんて人間の方が私からすれば変人であり、

 それを口にすればボッコボコに殴られるのがオチではあるんだけれども。

 

 だからこの度自業自得の側面が強いとはいえ

 A-RISEと絢瀬絵里という

 豪華なんだか豪華でないんだかわからないメンバーで飲み会を開くこととなった。

 ツバサとはよく飲むんだけれども、

 英玲奈やあんじゅとかとはあまり飲んだ経験がない。

 ツバサと飲み、流れでA-RISEのどちらかがメンバーとして参加しているケースが

 たびたび存在するばかりである。

 私は完全にアウェーであり、

 場合によっては英玲奈とツバサのうちのどちらかから

 ボッコボコに殴られる危険性はあるんだけれども、

 誰かが助けてくれる可能性は限りなく低いような気がした。

 

 

 薄暗い想像は自分自身の首を絞めるだけであり、

 それくらいならば明るく考えていた方がマシだとは思うのだけれども、

 なかなか自分の思考回路というものを改めることは難しい。

 自分自身が別の人格でも持ち合わせてしまえば、

 色々な考えができてちょうどいいかもわからない。

 今後の私にそんな展開が訪れるかといえば微妙であるし、訪れてもらっても困る。

 これからは私がどんな風になるであるか楽しみと言えば楽しみである。

 

 妹の亜里沙が朝からそわそわしていて

 ”私お姉ちゃんのことはまったくもって分かりませんけど

 今日すごく重要のイベントフラグをへし折りそうな気がする――

 

 そんなふうな態度をして上の空であったので、

 とりあえずご飯はちゃんと食べなさいと姉らしく忠告することにした。

 可愛げのある妹はきちんと頷いてくれて、ご飯をポロポロこぼしながら完食した。

 珍しく気の抜けた妹を見て、

 今日はお腹が痛いからA-RISEとの飲み会は延期するという台詞は吐けずじまいだった。

 

 春先にも近い、昼頃になれば厚手のコートもいらない時期。

 私は住んでいるマンションから抜け出し、

 誰かに監視などされてはいないな、

 そんなふうに思いつつ――ひとつ伸びをかますことにした。

 

 別に人と会う際にストレッチなどは必要ないのだけれども、

 特に意味もなく殴られる恐れがあるような気がしたので、

 アキレス腱など切らないように念入りに。

 30にも近い年齢になり、一つ大きな怪我をすれば一生の問題になりうるので、

 殊勝な私は気合を入れていためやすい部分を伸ばすことにした。

 

 今日の天気は快晴降水確率は0%

 おおよそ雨など降るはずもなく、 雨が降るとすれ自分の血の雨だな、

 そんなふうな嫌な想像をしてしまう。

 

 別に私が殴られるいわれなど何もないのだけれども、

 私自身殴られていた方が楽な人間ではあるので、

 彼女たちには申し訳ないと思いつつ、

 ストレスが溜まれば頬の一つでも差し出す心持ちである。

 

 まるで聖人君子のような人間だと園田海未なんかは褒めてくれるんだけれども、

 聖人君子であれば誰かしらが助けてくれるケースがほとんどであり、

 殴られるのをただ黙って見られてることは少ないように思われた。

 私が聖人君子ではないことの証左であり、

 殴られる理由が自業自得の側面が強いのだという証拠でもあるような気がした。

 

 

 綺羅ツバサ指定の待ち合わせ場所は秋葉原の駅前だということであったので、

 とりあえずツバサがその場所に行ってくるのであろうそんな想像をし、

 電車に乗り、

 昔懐かしい秋葉原の駅前に立っているとそんな私に向かって駆けてくるひとつの影が存在した。

 

 黒髪ロングの美少女が私に向かって駆けてくるという事実は、

 私を驚かせるに値するほどであったし、

 少し前に会う約束をして以降まるっきり放っておいてしまった――

 そんな私の罪状改めて確認する機会にもなった。

 殴ってくれるのならば、あの時の不良みたいに

 ゴロゴロそこら辺の地面を転がる用意はできている。

 

 彼女の名前は優木せつ菜と言ったはずだ。

 そういえば苗字がA-RISEの一員である優木あんじゅと同性である――

 そんなふうなことも考えてしまう。

 彼女は確かこの春からUTXに入学するという話でもあったので、

 秋葉原を指定したツバサの意図はこの人と会いたいみたいな

 そんなフシが存在するような気がした。

 

 小柄であり胸は結構前に突き抜けてるような気がして、

 以前に観た時よりも大きくなっているような気がした。

 

 私よりも干支一つぶんそれ以上歳が離れているものだから、

 成長期というのもありえるかもしれない。

 矢澤にこに胸の成長期が訪れなかったのはμ'sなら誰しもが知っている事実であり、

 彼女が年若く見えると言うと、

 誰しもからお前現実見ろよと言われてしまう絢瀬絵里の未来はどっちだ。

 

「ごめんなさいせつ菜ちゃん

 以前指導するという話をすっかりすっぽかしてしまって」

「大丈夫です――とある人から絵里さんは大変忙しく過ごしていたと聞きました。

 アイドルの指導も一度なされたということで、

 今回私への指導を厳しくしてくださると期待しています」

 

 コメントがまるで優等生である。

 過去の私もオトノキにおいて優等生と言われる人間ではあったのだけれども、

 こういう正真正銘の優等生を眺めてみると、

 私自身が優等生であったかと考えるとまるでそうでなかったとも思われた。

 

 音ノ木坂学院レベルの偏差値の高校などを全国に複数存在し、

 そこでたまたま成績が良かったからといって優等生である判断は

 今の私からすればおかしいと思う。

 勉強ができれば優等生であるということでもないし、

 いい大学に入ったからその人は優等生であった――

 そのような判断もおかしいと思われた。

 

 学校からすると学校から見て都合のいい存在が優等生であるとも思われる。

 そのように考えてしまう私が優等生であったかと言うとおそらくそうではないのだとは思う。

 

 そして優木せつ菜ちゃんは不思議なことを言った。

 確かに彼女に対して指導するという話は過去に存在し、

 その約束をすっぽかしてしまった私が何を言う権利もないのだけれども、

 私はこの場所において綺羅ツバサと待ち合わせをしている最中である。

 

 綺羅ツバサが他の女の子を優先するようなことを私に望むはずもなく、

 別に独占願望があるというわけでもないし、

 絢瀬絵里に対して、自分を優先して欲しいと願う傾向があるツバサが、

 他のとてつもない美少女である優木せつ菜ちゃんを優先するようなことを

 彼女が望むだろうかと少しだけ疑問に思った。

 

 優木せつ菜ちゃんが嘘をつく可能性は限りなく低いし、

 仮に嘘をつかれていたとしても彼女に騙されるのであれば仕方がない。

 彼女に対する心象は私にとって良く、

 仮に彼女が嘘をついているのであればすぐにわかるような気がした。

 

 嘘をつけるような女の子ではないことを私はよく知っているし、

 その辺りの信頼度は、

 度々特に意味もなくメールが来るエマ・ヴェルデちゃんの

 優木せつ菜に対する報告書からも察している。

 

 なんでそんなにせつ菜ちゃんのことに対して辛辣なのと問いかけてみると、

 彼女は、きっと自分が卑しいであるから優木せつ菜に対して、

 あまりいい印象を持っていないのかもしれませんと正直に言ってくれた。

 

 エマちゃんはとてもいい子だし、

 人を少しだけ悪く思ってしまう感情は誰にもあるものだ。

 今度もしも会う機会があれば、

 ああいう真面目な優等生の子を疎ましく思ってしまうのは誰しもあるものよと

 忠告しておくつもりである。

 仮に話を聞いてもらえないという可能性はあっても、

 私自身に不備があるので潔く受け入れようと思う。

 

 エマちゃんは私と干支一周くらい離れているような気もするけれども、

 こっちがあえて下手に出ることによって意見を聞いてもらおうという私の卑しい魂胆――

 おわかりになられたであろうか。

 

「元トップアイドルである綺羅ツバサさんが

 UTXでスクールアイドルに指導してくださるということで、

 そのイベントを見学しようと思ったのです。

 私はまだ中学3年生なので本当は参加する資格はないのですが、

 UTXは豪胆な場所なんですね――

 見学したいという意思表示をしたら

 見学しに来るぐらいだったら参加してしまえばいいよと言ってくださいました」

 

 UTXは懐の大きな高校であるものらしい。

 まあ元から校舎の大きさも大きなものであるし

 新進気鋭の高校であるという評判は私が高校生の頃から存在し

 現在においてもそうである。

 

 スクールアイドルはラブライブ出場をそれほど叶えられてはいないけれども、

 地元の強豪校として全国的に有名なものであるらしい。

 何ていう話をツバサがしていて、

 私たちの頃とはえらい違いだと言っていたけど、

 ラブライブ初代優勝者がそんな自虐ネタに走らないのと言ったら、

 お前が言うなみたいな顔をして黙ってしまった。

 おそらく図星を突かれてしまったので何も言えなかったものと思われる、

 お前が言うんじゃねえという意思表示ではなかったと祈りたい。

 

「ツバサが指導ね……なんの大災害の前触れかしら?」

「絵里さんはツバサさんのことをよくお分かりなのですね?」

「ずっと深く付き合っていた人間を一人挙げろと言われれば

 私は真っ先にツバサを挙げるようにしているわ

 お互いに腐れ縁だと言うつもりであるし、

 ツバサも私との縁は腐れ縁だって言うと思う」

 

 せつ菜ちゃんは苦笑いをしながら、

 元トップアイドルとガチニートである私との関係が確かなものであるのか

 疑っているような表情を見せた。

 ここでツバサもニートみたいなものだといえば

 UTXのお膝元でお膝元である秋葉原の駅前に絢瀬絵里の腐乱死体が完成してしまう。

 

 一方的に馬乗りになられメッタ刺しにされた後、放置されるという意味である。

 できれば早々に処理してもらいたい人通りもあるので。

 

 

 ツバサが指導するというUTXは人がまばらだった。

 元トップアイドルが来るのであるから、

 人が溢れていることが予測されたけれど、

 入場制限をせずにこうもいいとも簡単に入れてしまうというのは、

 ブームというものがすぐに廃れてしまうことを表しているような気もした。

 

 かつては若者の認識率100%を誇ったトップアイドルであっても、

 時間が過ぎれば多くの若者は別の対象に興味を向けるのだと思うと、

 自分自身がしてきたことは一体何なんだろうと思わないではない。

 

 ツバサ自身は何かを表情として出さなくても、

 心の中ではトップであった自分と今の自分を比べて臍を噛んでいるに違いない。

 悔しいという気持ちもないではないかもしれないが、

 彼女自身の心情を一番適切に表す言葉は寂しいである他ない。

 

 何だったのだろうかという寂寥感は私の中にも凄さの中にも多数存在し、

 今までやってきたことが何の意味もなさなかったような気もして、

 時の流れというのは残酷なものだといつも思う。

 

 ただ残念がっていても時間は勝手に過ぎていってしまうので、

 能天気な私としてはただあるがままに過ごしていくほかない。

 考えなしであるような猪突猛進という言葉が一番適切な

 そんな生き方になってしまうのは、

 穂乃果の考えなしの行動に強く惹かれたからであるのかもしれない。

 

 現在の穂乃果は決して考えなしに突き進むキャラではないけれど、

 根本的なところでは何も変わっていないと思う。

 もし仮に彼女が変わっているとすれば幼なじみであることりや

 海未が何を言ってこないのは不自然である。

 

 彼女たちが変わらない友情をなしている以上、

 過去のようにはなれないんだよと穂乃果が言ってもはいそうですかと頷くつもりはない。

 

 

 UTXではかつてのブームほど翼の人気はないようだけれども、

 A-RISEというのは未だに復活が望まれており、

 ツバサと一緒に歩いていると指を刺されたりするのが断然チビでデコのセンターの方である。

 

  A-RISEが復活するようなことはもうないだろうけれども、

 綺羅ツバサか統堂英玲奈のどちらかは

 もしかしたらアイドルとして復帰するようなこともあるかもしれない。

 

 英玲奈はタレント業が好調であるから、

 アイドルとしての挟持は捨てきれていないにせよ、

 ステージの上に立つというのは難しいかもしれない。

 

 緊張しているとロボットのようにもなるという話ではあるけれど、

 そういう英玲奈の素を知っているのはA-RISEの面々だけ。

 μ'sの面々の中では彼女たちと仲がいいと思っているけれど、

 プライベートな面はなかなか見せてくれない。

 

 私が知っているのは恐ろしいと表現されるほどのシスコンだということである。

 ああ見えて可愛いものが好きで

 可愛いものの最たるものが妹だという話だ。

 

 お前に妹を見せるくらいなら死ぬと言われているので、

 妹さんとの交流はなされないものと思われる。

 人生何があるかわからないから、

 会う機会程度なら作ってもらっても構わないような気もする。

 

 

 隣に美少女の優木せつ菜さんを伴って、

 勝手知ったる土地でもあるUTXの校舎をつっかつっかと進み、

 ツバサがスクールアイドルを指導しているという現場まで向かう。

 

 彼女の指導力は私と似たり寄ったりで、

 仮に彼女が本気出して同じレベルのアイドルを作りたいと言うのであれば、

 虐待と疑われても仕方がないので全力で止めるつもりだ。

 

 まあ私が何を言ったところでツバサは止まってくれない時は止まってくれないのだけれども、

 自身に非があるときは殊勝に頷いてくれるのでそう信じたいところではある。

 

「絵里さんはツバサさんの指導どう思われますか?」

「実に適切だと思う、でもねなかなかその人にとって必要な物って

その人に認められないものが多いのよ

コンプレックスを指摘するって言うかどうしてもねその人のためを思うと

嫌われてしまう傾向があるのよツバサも私も」

「やはり絵里さんはツバサさんのことをよくおわかりです」

「どうしてかしらねせつ菜ちゃんもツバサのことをよくわかっているような気がする」

「そんなような気がするだけですよ」

「そうかも……なんでだかね分かっていることが分かるような気がして

 きっと疲れているのかもしれないわね?」

 

 自嘲するように笑うと、せつ菜ちゃんは思ったより私のことを心配してくれている風である。

 大丈夫ですかとも声をかけてくれたけれども、

 私の体調はいつだって大丈夫である。

 

 仮に大丈夫でなくても大丈夫と言っていれば大丈夫になるような気もする。

 世の中の問題は気の持ちようでなんとかなる。

 気の持ちようで何とかならない問題は絢瀬絵里には解決することは不可能である。

 

 困った問題はみんなで解決することが必要だけれども、

 私の人徳からしてなかなか皆が集まって問題を解決するというのは実に難しい。

 だから考えるまでもないというのは違う気がするんだけれども、

 とりあえず先送りをするくらいは許されても構わないんじゃないかと思う。

 

 日本の政治家が先送りしまくっている現実もそうであるし、

 困難な問題は未来の人間に任せてしまうのもまた正解なのかもしれない。

 これは現実逃避の手段であり決して正しいものではない、

 真面目な海未に聞かれれば

 もっとまともに成長させておけばよかったと嘆かれてしまうかもしれない

 ――園田海未に育てられた覚えはない。

 

 

 レッスン場の空気は和気あいあいとしていると思ったけれども、

 ツバサが真面目に指導するという話であり、

 そんな空気が存在するとはちょっとしか思ってなかったけれども、

 ちょっとだけ期待をしてしまっていた――面倒ごとは避けたい。

 

 泣きそうになっている生徒数名

 へとへとになって動けそうもない生徒が数名。

 ツバサのことを睨みつけるような気位の高い生徒は存在しないみたいだけれども、

 私がもしもここにいたとしたらもっと指導しろよくらいのことは言っていたかもしれない。

 

 それは見栄でしかないのだけれども、

 そういう見せかけの見栄やプライドというものを綺羅ツバサが好むことを私は知っている。

 だからこそ鹿角理亞さんのプライドを傷つける振りをして、

 熱心にトレーニングを重ねさせたのも私は目撃した(私もやらせました)

 

 元から彼女には才能があったと思うし、

 映像を見てみても本気を出しているようには見えなかった。

 それはおそらく過去のトラウマもあるのかもしれないし、

 本気になった結果、深く後悔するような行動をしたのかもしれない。

 

 人が成長を重ねていくにはトラウマは乗り越えないといけない、

 いつまでもトラウマがトラウマのままであったのならば人は成長できない。

 故に故に厳しいことも言わないといけない、

 辛いことを乗り越えるためにはさらに辛いことを成さねばならない。

 

 心理的なものだけではなく肉体的にもそう。

 彼女はコンプレックスが強くて負けん気も強いみたいだから、

 今ここで床に体を投げ出している生徒達みたいに、

 ツバサを満足させられないではいられないようだけれど

 ――それに巻き込まれる黒澤ルビィちゃんはちょっとかわいそうではある。

 

 もしかしたら鹿角理亞さんをそそのかしたことによって、

 黒澤ダイヤちゃんからお叱りの言葉を頂く可能性があるのだけれども、

 調子に乗らせたのは綺羅ツバサであるので私は責任を放棄したいと思います 。

 

「来たわね絵里」

「あなたが待ち合わせの場所に来ないからひどく心配してしまったわ

 歳若い子をいじめるなんてまるで老害みたいね」

「ひどいことを言うがねりニートのくせに

 でもまあできたと思うが年を取るとね若い子をいじめるくらいしか 

 娯楽がなくなるのよ。

 ――ご苦労さませつ菜さん」

「いいえ私はこういうことしかできませんから」

「体力だけは認めてあげる。

 でも動きはまだまだ絵里の足元にも及ばないわね?」

「ハードルを上げないでくれるツバサ

 でもいきなりやってきて、

 何もせずに帰るっていうのは絢瀬絵里としては

 なんとなくプライドが許さないではあるわね?」

「そこで倒れてるみんなそこの金髪ニートがお手本を見せてくれるそうよ」

 

 倒れている生徒はほとんどが私を見るような余裕がないようではあったけれども、

 ツバサからのリクエストは実力の違いを見せつけること。

 

 元トップアイドルで鍛錬を欠かしていない綺羅ツバサが、

 努力を重ねれば結果は出ると説いたところで、

 才能の違いがあるでしょと言い訳をしてしまうではあるけれども、

 私みたいに普段はニート生活をしているような人間が、

 破格の動きをすれば多少なりともつばさのメッセージは伝わると思う。

 

 しごきやいじめでこの状態になったのであれば、こんなことはしないと思う。

 辛いことをなしてスクールアイドル達の心をへし折ろうとした

 ――そう見られてもしょうがないのだけれども、

 ツバサがそんな心をへし折るようなことをする時は

 本当にガチで心をへし折りに来るので

 私はよくそんな目に遭っているので

 ――まだまだ彼女にも甘い心は残っていたのかもしれないとちょっとだけ安心してしまった。

 

 動きの違いを見せつけるには、同じことをするのが一番だと思う。

 才能というのは才能だけでは輝かせることはできない、

 成長するためには負けを認めることももちろん必要である。

 自分自身に足りないものを認め、

 初めて成長する素養ができるのである。

 

 成長するためにはもちろん余裕も必要である。

 余裕がなければ失敗しか招かない

 ――私が言うのであるから間違いない失敗ばかりの人生であった。

 

 ただツバサの指導でへこたれてしまう程度のスクールアイドル相手ならば、

 ニートの私は熱心に動けばある程度活躍は見せることができると思う。

 自分自身を卑下しているのか

 上から見下しているのかわからないけれども、

 昔取った杵柄ということで彼女たちにはちょっとばかり我慢してもらいたい。

 

 プライドを傷つけられるのは確かに痛いではあるんだけれども、

 人は痛みを抱えたぶんだけ強くなれるので我慢してもらいたい。

 

「高校時代の綺羅ツバサを目指して

 3年生の時に穂乃果が初めて見たって言うUTXで

 よく流れていたあの曲を踊ってみようかしらね?」

「お手本がここにいるからあなたのレベルの低さがみんなに伝わってしまうかもしれないわよ」

「あなたが本気になる前にへこたれてしまうスクールアイドルが相手だったら、

 私のレベルの低さでもびっくりされてしまうかもしれないじゃない?」

「言うわね絵里そんなに自分でハードルあげて大丈夫か?」

「大丈夫だ問題ない」

 

 Private Warsは私にとっても思い出の曲である。

 なぜだかそんなような気がする。

 私は生徒会役員としてだったか生徒会長としてだったか忘れてしまったけれども、

 この曲をどこかで誰かが歌っていたような気がするのである。

 それは私にとって大切な思い出でもあり、

 決して消し去りたい過去ではなかったはずなのだけれども、不思議と忘れてしまっている。

 

 

 だけどそのような事は今はどうでもいい話。

 私ができることはツバサが望むように

 彼女達とは違う別格の動きをすることだけ。

 まあこれでアキレス腱の一つでも切ってしまえば亜里沙あたりに罵られようと思う。

 年甲斐もなく無理をするなと言われれば、そんなことはツバサに言えと反応するつもり。

 

 感心するように目を細めたツバサはせつ菜ちゃんを手招きした。

 口で言うほど嫌ってはない様子。

 それどころか逆に帰り好意的なのではないかと思える。

 態度が私に対してと似ているのである。

 

 何事か話しかけている様子なのは分かるんだけれども、

 読心術持っていないので残念ながら何を言っているのかまではわからなかった。

 後で教えてと言った頃で絶対に教えてくれないので、

 いつか機会があれば死ぬ間際にでは教えてもらおうかと思う。

 少なくとも綺羅ツバサば私より長生きしない道理がない。

 

 μ'sにいた頃と比べて私の動きは多少なりとも進歩したとは思う。

 ツバサや英玲奈がおべっかや何かで一緒に活動したいと、そんな風には言わない。

 プロとしてプライドを持っている以上、

 相手は自分と同レベルでなければならない。

 その動きができる人材は私一人だと言ってくれたのである。

 ツバサの目的を果たさなければならない。

 それが友人としてできることであり、

 少しばかり恥ずかしいけれども親友としてできる唯一のことなのだと思う。

 

 私の動きは順調であった――

 いい時には悪い結果を招くことが多いというのだけれども、

 もうすぐサビに入るというところで

 視界の端に矢澤にこともう一人女性の姿が見えた。

 以前ニコにさんざっぱらいぢられてしまったので

 復讐したいではあるんだけれども、

 そんなことをしたら自分がどのような目にあうのかわからない。

 ここあちゃんの創作物で絢瀬絵里がどのように扱われるのか気になってしまいそう――

 

 ニコの隣にいる女性は私と背丈が同じくらいで、

 高めの身長私に見つからないように屈ませながら、

 それでも熱心に私のことを見ている様子。

 そんないじらしいというであるような、

 健気な態度を見て私の記憶の中に一人の女の子が出現した。

 

 見た記憶のない、会った記憶もないような、

 そんな140センチにも満たない身長の小さな女の子である。

 

 震える私の手を取り、励ましてくれ正しい方向に導いてくれた恩人。

 彼女は確か名前は栗原陽向と言ったはずだ。

 

 ヒナは小柄――芸能界に所属していたけれど、

 彼女自身も才能がないことはわかっていたみたい。

 アイドルとしては音痴という部分がネックでその部分だけは

 私やツバサが矯正を重ねたけれどもあまり結果はなされなかったみたい。

 少なくとも彼女に芸能界に所属するだけの実力はないと判断されてしまった。

 

 その時にはヒナと私は喧嘩別れをしてしまい、

 私はあまりにも辛くて、謝りたくても謝れなくて、

 自分自身の非を自分自身で何度も何度も責め立ててしまった。

 

 それからヒナのことを忘れていたはずなのにどうして今更思い出してしまったのか。

 動きが急停止した私を見てツバサが周囲を見回し、

 大きめの身長を隠しきれていない――そんなヒナを見つけ、目を吊り上げ。

 

 私はそんなツバサに駄目だと言おうとしたはずなのに、まるで声が出なくて。

 そしてそのまま私は昏倒するように倒れた。

 何かの呪いであるのか精神的に限界を迎えると倒れてしまうそんな習性でも持っているのか

 言いたいことはたくさんあったにも関わらず何も告げられず

 ――私は意識を手放すことにした。

 

「ごめんねヒナ、ごめん……あのとき謝れなくてごめんなさ……」


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