アラサーニートエリちとキャリアウーマン亜里沙   作:桜川凛

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(※) 園田海未との飲み会編 01

 うみえりというのはラブライブにおける主要カップリングの一つらしい。

 

 園田海と絢瀬絵里の組み合わせで、他にも色々カップリングはあるらしいんだけれども、私としてはなぜ女の子同士ってカップリングを作らなければならないのか、いや、今の今まで処女であるから、男性と組み合わせるよりも女性と組み合わせた方が想像しやすいと言われたら、ぐうの音も出ないんだけれども。

 

 そんなことをなぜ唐突に思い出したのかと言うと、西木野真姫とを飲んでいる席で、隣にアマチュアクリエイターらしき絵描きさんがいて、あれってコスプレイヤーの人だよねみたいな話しをしていたのだ。

 

 陽気に酔っ払っていたコスプレイヤー(名前は西木野真姫さん)さんが、自分から彼女たちに話しかけに行ったのである。

 酒の席とはいえ、自身の会話をしている相手に割り込むように絡みに行くのは私にはできないなあと思った。

 数分後助けを求めるような彼女たちの視線を見て、はいはいわかったから処女は黙ってましょうねと言っておいた。

 

 周囲からシュプレヒコールが上がったけど、そんなに処女って喜ぶようコトだった?

 

 本日は園田海未を誘って飲み会を開く。

 最近、飲み過ぎではないかとちょっと思ったんだけれども、深刻そうな電話越し海未の声についつい何も考えずにわかった飲みに行きましょう! みたいに言ってしまった。

 

 体のお加減は大丈夫ですかと心配されてしまったけれども、豪胆な私は、なんにも心配はないわ! 人間ドックも受けてないし! と言っておいた。

 何の自慢にもなりませんよと海未が苦笑いしている様子がなんとなく想像できた。

 

 が、当然ニートである私には収入がまったくないので、お金は妹の亜里沙が出すことになる。

 何とかしてごまかそうかと思ったんだけれども、ついつい財布はどこにあるかなみたいなことを言ってしまい、敏い彼女にまた飲み会ですかと言われた。

 

 

「海未さんとですか? 構わないでしょう」

 

 何か思うことがあるのか、それとも深刻な声色をしていた海未の事情を把握している部分でもあるのか。

 それと同時に妹が何事か問いかけたい風であることを私は察した。

 

 どちらかといえば気に入らないことがあるとこちらの人権などを塵芥にしてしまう妹が妙に下手に出ているような気がするのだ。

 

「以前、ツバサさんと一緒にアイドルの指導をされたそうですね?」

「どこでその情報を知ったのかは知らないけれども、私たちは余計なことはしていないのよ?」

「彼女はだんだんストイックになってきましたね、本来ふたりでひとつのアンリアルであるのに、その方向からズレて行っています」

「でもあのグループは私、彼女の足かせになると思ってる……あ」

「姉さん?」

「ごめんなさい、確かに余計なことをしたのは確かだったわ、ついついね才能が埋もれているのを見て、調子に乗ってしまった」

「いえ、私も聞いた話ですから、それよりも海未さんとはどこに向かわれるんですか?」

 

 彼女の希望で遠出をしたいという話は聞いているから、普段は行かないような場所に向かいたいとは思っている。

 特定のどこかという話ではないんだけれども、場合によってはゆっくりサシで会話できるような静かな場所というのも考えている。

 

「仕方がありませんね、キャリアウーマンの私が顔が利く場所がありますので、姉をアゴで使っても構わないといいつつ、海未さんは丁寧に接客するように伝えておきましょう」

 

 私がアゴで使われるのは、私に問題があるから構わないのだけれども、アゴで使われていたら海未が調子を崩してしまうのではないか、いや別に、アゴで使われたくないわけじゃないのよ? あくまで、海未が本来の調子ではないようだから、そういうことを言っているだけで。

 

 脳内で言い訳を重ねつつ、妹から普段よりも多額の金額を頂いた。

 彼女の海未への好感度は相変わらず高い模様――ちょっと寂しい。

 

 

 

脳内に遠くへ行きたいのテーマを流しながら出かける。

 冬場の最中であるのでコートは手放せない、施設の中に入ればあったかくなるとはいえ、油断をしていると風邪を引いてしまう。

 

 風邪を引いてしまえば馬鹿でも風邪を引くんですね? みたいに亜里沙から嫌味を言われてしまいかねない。

 嫌みだけならともかく、検体の材料として提供しましょうか? などと言われれば私は熱で浮かされるだけではなく、震えなければいけない。

 

 海未からのリクエストで遠出をしたいということであるので、私は行き先をいくつかリストアップしておいた。

 それをそれぞれLINEで送っておいて、どの行き先がいいのか? そんな風に問いかけてみると、問いかけた彼女から、まるで新婚旅行の行き先のようですね? みたいに反応の困る返答が来たけれども、殊勝な私は苦笑いのスタンプを送るに留めておいた。

 

 それにしても電車というのは便利である。

 乗っていれば目的地まで勝手に連れて行ってくれるし、ここ最近では車掌さんがいない自動運転なるものも存在するらしい。

 基本的にメカに弱い私は、どういう原理でどういうシステムになっているのだろうと首をかしげるのだけど、そんなふうに考えことをしていると、バカの考えは休みみたいですよと忠告されてばかりいたりする。

 

 何か考え事をしていると、そんなことをしているのは無駄だからとりあえず動いておけ、などと言われてばかりなんだけれども、こう見えても偏差値で結構優秀な大学を卒業しているんだけど? って反論すると、その頭を生かすことができなかったのね? と不憫なものを見るような扱いをされてしまう。

 

 駅前で石鹸を鳴らすみたいにガタガタと震えていると、海未がこちらに駆け寄ってきた。

 待ち合わせには時間厳守である彼女にしては珍しく、仕事が立て込みましてと謝りながらこちらに寄ってくるのはいいんだけれども、恋人同士にするみたいに恋人繋ぎを求めるのは――。

 

「相変わらず元気そうですね、問題を抱えていないというのは良い事ですよ絵里」

「褒められているのかよく分からないのだけれど、そういうあなたはいつもの覇気が感じられないわ」

「絵里は人を見ているのか見ていないのかわからないときがありますが、コト、μ'sに限っては鋭い洞察眼を発揮しますね」

 

 褒められているのか褒められていないのかはよくわからない、おそらく褒められていないのであろうことはなんとなく理解した。

 そんな風な嫌味を言う女の子ではないので、そのような精神状態に置かれているということである。

 

 それはとどのつまり、何かしらの問題発生を意味しており、私に会いたいのだと言ってきたのは理由があるのだと察した。

 

「なぜ問題を抱えたと思いますか?」

「そうね、私が予想するに、友人関係は選びなさいとご両親に忠告でもされた?」

 

 希のホームページの件――私がコスプレをさせられ、みんながコスプレをし、お酒を飲んで乱痴気騒ぎをしたエピソードがある。

 その中でしきりに、海未が嫁をするならコスプレが似合う人がいいですね! などと陽気に叫んでいたのをご両親が聞いていたのは知っている。

 

 私に意見を求めてきたということは、私に何らかの関わりがあるエピソードで問題が発生したことを意味しており、問題を解決するには私の意見なんか必要はないのだろうけれども、八つ当たりの一つはしたいものであったらしい。

 

「お見合いをするんです」

「それで元気がなかったのね」

「ええ、あまり気が進まなくて」

 

 海未の表情には陰がある。

 いい相手だと良いわねとか、相手の顔を見る前に断ってしまえばいいとか、

 同情するような言葉はいくらでも浮かんでくるんだけど。

 

「でも、どうして私? 言っておくけど、お見合いする相手に突きつけるような人生経験なんて積んでないわよ」

「もし結婚などということになれば、飲み会に参加することなど許されないことですから」

「あんじゅも言ってたわね……そんなこと」

 

 

 

 

 20代の後半ともなれば、人生に岐路に立つことも度々ある。

 女の子にとっては結婚もその一つだ。

 仕事をやめて家庭に入る人、両立する人、結婚なんてどうでもいいと開き直る人。

 ――そもそも相手がいない人というのはカウントしない。

 

「だから、一人ひとりに会いたかったんです、絵里、絵里は3番目ですよ」

「穂乃果、ことりと来て私か、責任感じちゃうわね」

「別にそういうことは……とにかく顔が見たかったんです」

 

 海未から私の好感度がさほど下がっていないことに驚きを感じつつも、明るく振る舞うことに決めた。

 お酒の席でしみったれた顔は似合わないというのもあるけど、海未は結構感情次第で悪酔いする。

 

「それじゃあ、電車に乗りましょうか」

「はい、案内はおまかせします、絵里」

「ええ、任せておいて、今日は楽しむことにしましょう」

 

 目的は先にA-RISEと一緒に飲んだ、吉祥寺のハモニカ横丁。

 

 

「そういえば、亜里沙に海未のサインを貰ってくるように厳命されたわ」

「私は別にサインを書くような人間ではありませんが……」

「当人がほしいと言うんだから、書いてあげて、というか」

「というか?」

「書いて貰わないと私が家に帰れない」

「……絵里には敵いませんね」 

 

 渾身の説得が効いたのか、海未はμ'sにいたときを彷彿とするスピードでサインを書き上げる。

 

「相手は……どんな男性なの?」

「年齢は私より一つ上、私の家の道場に通う道場生でもあります」

「すごい人なの?」

「手合わせは何度かしましたが、負けたことはありません」

 

 

 微妙……。

 海未が女の子離れした力を持っているとは言え、20代ともなれば性差も強くなる。

 もっとも、現在の彼女が吉田沙保里と同ランクであるなら話は別だけども……。

 

「実力だけで言うなら、もっとすごい方はたくさんいるでしょう、ですが、母が決めたことですから」

「身を固めてほしかったのかしら?」

「分かりません、ただ、自分でも遊び歩いている自覚はありましたから」

 

 遊んでばっかのニートに一言。

 

「仕方は……無いのかもしれませんね」

「……海未」

「どうしました?」

「今日は飲むわよ、飲んだらカラオケに行って、それから一日中遊ぶわ!」

「構いませんが、絵里の予算が心配です」

 

 ――海未の顔を見られなかった。

 

 

 まずは一軒目。

 もつ焼きが有名なお店。

 何軒か回るつもりなので、予算の面を考えても一品料理に秀でているお店に決めた。

 

「それでは、乾杯!」

「はい、乾杯です。絵里」

 

 一杯目はビールという規則みたいなものを決めたのは一体誰なのだろう?

 バレンタインと同じようなビール会社の陰謀?

 ともかくまあ、そんなことは気にせずに口につけたビールは美味しかった。

 

 

「すごいペースですね、絵里、これはジョッキですよ」

「ビールくらいなら何杯飲んでも酔わないからね」

「肝臓を壊す前に病院に行きましょう」

 

 フフ、と笑いながら海未も案外ペースが早い。

 穂乃果、ことり、海未の三人の中では海未が一番お酒が強い。

 だから今までは飲み足りなかったのかもわからなかった。

 

「ところで絵里」

「なあに?」

「その、やはり就職活動はするべきなのでは?」

「μ'sのメンバーと飲むと必ずその話題になるわね」

 

 μ'sのメンバーじゃないけど、こころちゃんあたりには本気で心配されているっぽい。

 まあ、姉と同い年の人間が定職にもつかずにフラフラしてたら誰でもそうなるか……。

 

「それと、そろそろゲームは控えめに」

「そこでやめなさいと言わないところは、海未も大人になったわね」

「亜里沙から聞きましたよ、絵里のやっているゲームは麻薬みたいなものだと」

 

 なんて話をしているんだ我が妹。

 

「そろそろゲーム専門外来を作るべきだと思うのです、依存症のものを」

「や、やめようと思えばいつでもやめられるもん……」

「ではやめる?」

「やめない!」

「亜里沙の苦労が偲ばれます……」

 

 私のビールは早くも三杯目、海未は惜しむようにしながら一杯目の最後の一口を飲み干す。

 

「働く働かないに関しては、私も強くは言えないのですが」

「……? どうして? 家業を継ぐ、立派な就職じゃない」

「私には姉が一人いるのですが、今は作画……アニメの作画をしています」

「んー?」

「私も好きなことを職業にできれば、苦しくても幸せなのかと思いまして」

 

 二杯目のゴーヤサワー(なんだそれ)を頼みながら、海未が言った。

 働くことが検討もつかない私だけど、好きなこともろくに見つからない自分ではあるけど、

 何を基準に幸福かそうでないかを決めるのは本当に難しい。

 お金を持っていたって幸福じゃない人はいくらでもいるし、その逆も然り。

 

「海未は、実家の仕事は嫌?」

「どうなのでしょう? 幼い頃から継ぐことを期待をされて、自分もそうならなければと思っていましたから」

「じゃあ、新しく趣味でも見つける? お姉さんみたいになりたい?」

「ふむ……それは違いますね」

 

 海未はゴーヤサワーを飲みながら苦そうな顔をした。言わんこっちゃない。

 

「海未は海未でいいと思うわ、それに」

「それに?」

「たぶんだけど、義務感だけじゃ続けられないわよ、好きじゃなきゃ」

「……そう、ですね」

「サラリーマンとかならともかく、ノルマがあるわけでもないんでしょう? 

言われるだけの仕事をするだけじゃない、海未が考えて仕事を決める必要がある

それはね、本当、やらされているんじゃなくて、やりたいからやるのよ」

 

 

 

 

 エリち、アルコール五杯目、現在ハイボール。

 

「絵里も」

「ん?」

「絵里もいつかそういう職業を見つけられるといいですね」

「できることは限られてくるけどね……とりあえず資格かしら?」

「まあ、今日は飲むことにしましょう。乾杯です、絵里」

 

 海未の様子が、先ほどとは違って元気になってきた。

 まったく、世話が焼けるんだから、もう。

 

 ――そして。

 

「歩けません……」

「タクシー呼ぶわ、私の家でいいわよね?」

「すみません絵里、まさか自分でもこれほど飲むとは……」

「言い訳は良いからしゃっきりする、お手洗いに行かなくても平気?」

「平気です、ですが、こんな醜態を亜里沙が見たら……」

「醜態は見慣れているから平気よ、さ、行くわよ!」

 

 海未との夜はまだまだ続く。

 


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