三十路ニートエリーチカの居酒屋飲み歩き日記   作:おうかわりん
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(※) 園田海未との飲み会編 01

(園田海未との飲み会編)

 

 私も後から知った話ではあるんだけど、"うみえり”と言うのは、

 ”ほのうみ”"ことほの”にこまき"”りんぱな"に並ぶ一大カップリングの一つらしい。

 そもそも女の子同士なのにカップリングとは何なのかと訪ねた所、真姫はどこか遠いところを見ながら

 

「エリー、世の中には、女の子が二人いればレズだと思う人種がいるのよ……」

 

 なんてことを思い出したのはどうしてかというと、海未に唐突に飲みませんかとの内容のメールが届いたからだ。

 μ'sのメンバーの中では、海未とはちょっとだけ疎遠になっていたから、その誘いに快く応じる。

 もっとも――

 

「姉さん、今月6回目の飲み会ですが、ご感想は?」

「は、ハラショー……」

「ごまかさないでください! 自宅でお酒を飲みましたよね? 飲んだらダメだと言いましたよね?」

「は、恥ずかしながら……」

 

 ドン! 亜里沙はテーブルに拳を叩きつける。

 以前、A-RISEと飲んだ時にサインを持ち帰ったときには、

 満面の笑みで「おねえちゃん♪」といってくれた亜里沙だったけど(一人で飲んでたらしい)

 今や鬼の形相でこちらを見ながら、お財布に手を突っ込んでいる。

 

「凛さんに聞きました」

「な、なんでしょう」

「理亞ち……いえ、アイドルの一人に酒席で絡まれたそうですね」

「論破してあげたわ!」

 

 

 

 

 ドン!(二回目

 

「口ばっかり達者になって、お姉ちゃんほんとうに寂しい!」

「ちょっと待って!」

「言い訳無用!」

「はい」

 

 立場的には亜里沙が姉でもまったく問題がないあたりが泣ける。

 もっとも就活をするつもりは一切ないんだけども。

 

「ところで、今日は誰と飲むの」

「そ、園田さんです」

 

 ドン!(3回目

 

「もう! もう! なんで姉さんは私が憧れている人と飲むの! 私なんて一度も飲んだこと無いのに!」

「そ、それは自宅に持ち帰り多分に検討する次第でして」

「いい! 失礼なことしないこと! それと! この式紙に亜里沙ちゃんへって書いてあるサインを貰ってくること!」

 

 その捨て台詞と1万円札と色紙をお供に、私は海未との飲み会に臨むのだった。

 

 

 海未ができれば遠出がしたいとのことだったので、

 お互いの家から近い駅で待ち合わせをしてから出かけることにした。

 先日は一人で電車に乗ったけど、今日は二人。

 二人で何かをするというのは大変久しぶりだ、亜里沙は私とまったく出かけてくれないし。

 飲みには行くけど遊びに行く機会は激減した、いやまあ、みんな忙しいから仕方ないね。

 

 

 

 

 駅前には物寂しそうにした海未がいた。

 声をかけるのに戸惑ってしまいそうなほど、儚く消えそうな彼女の姿に思わず息を呑んだ。

 唐突に飲みたいと言ってきた海未、お説教の一つや二つは覚悟をしていたんだけども。

 どうしたものか迷っていると、彼女の方からこちらに向かって来た。

 

「絵里」

「ああ、海未」

「どうしたんですか? 何か迷いが見えますよ」

「それは私の台詞よ海未、あなたこそいつもの覇気が感じられないわ」

 

 敵いませんね、と海未は言う。

 彼女は肩をすくめながら首を振ると、

 

「お見合いをするんです」

「それで元気がなかったのね」

「ええ、あまり気が進まなくて」

 

 海未の表情には陰がある。

 いい相手だと良いわねとか、相手の顔を見る前に断ってしまえばいいとか、

 同情するような言葉はいくらでも浮かんでくるんだけど。

 

「でも、どうして私? 言っておくけど、お見合いする相手に突きつけるような人生経験なんて積んでないわよ」

「もし結婚などということになれば、飲み会に参加することなど許されないことですから」

「あんじゅも言ってたわね……そんなこと」

 

 

 

 

 20代の後半ともなれば、人生に岐路に立つことも度々ある。

 女の子にとっては結婚もその一つだ。

 仕事をやめて家庭に入る人、両立する人、結婚なんてどうでもいいと開き直る人。

 ――そもそも相手がいない人というのはカウントしない。

 

「だから、一人ひとりに会いたかったんです、絵里、絵里は3番目ですよ」

「穂乃果、ことりと来て私か、責任感じちゃうわね」

「別にそういうことは……とにかく顔が見たかったんです」

 

 海未から私の好感度がさほど下がっていないことに驚きを感じつつも、明るく振る舞うことに決めた。

 お酒の席でしみったれた顔は似合わないというのもあるけど、海未は結構感情次第で悪酔いする。

 

「それじゃあ、電車に乗りましょうか」

「はい、案内はおまかせします、絵里」

「ええ、任せておいて、今日は楽しむことにしましょう」

 

 目的は先にA-RISEと一緒に飲んだ、吉祥寺のハモニカ横丁。

 

 

「そういえば、亜里沙に海未のサインを貰ってくるように厳命されたわ」

「私は別にサインを書くような人間ではありませんが……」

「当人がほしいと言うんだから、書いてあげて、というか」

「というか?」

「書いて貰わないと私が家に帰れない」

「……絵里には敵いませんね」 

 

 渾身の説得が効いたのか、海未はμ'sにいたときを彷彿とするスピードでサインを書き上げる。

 

「相手は……どんな男性なの?」

「年齢は私より一つ上、私の家の道場に通う道場生でもあります」

「すごい人なの?」

「手合わせは何度かしましたが、負けたことはありません」

 

 

 微妙……。

 海未が女の子離れした力を持っているとは言え、20代ともなれば性差も強くなる。

 もっとも、現在の彼女が吉田沙保里と同ランクであるなら話は別だけども……。

 

「実力だけで言うなら、もっとすごい方はたくさんいるでしょう、ですが、母が決めたことですから」

「身を固めてほしかったのかしら?」

「分かりません、ただ、自分でも遊び歩いている自覚はありましたから」

 

 遊んでばっかのニートに一言。

 

「仕方は……無いのかもしれませんね」

「……海未」

「どうしました?」

「今日は飲むわよ、飲んだらカラオケに行って、それから一日中遊ぶわ!」

「構いませんが、絵里の予算が心配です」

 

 ――海未の顔を見られなかった。

 

 

 まずは一軒目。

 もつ焼きが有名なお店。

 何軒か回るつもりなので、予算の面を考えても一品料理に秀でているお店に決めた。

 

「それでは、乾杯!」

「はい、乾杯です。絵里」

 

 一杯目はビールという規則みたいなものを決めたのは一体誰なのだろう?

 バレンタインと同じようなビール会社の陰謀?

 ともかくまあ、そんなことは気にせずに口につけたビールは美味しかった。

 

 

「すごいペースですね、絵里、これはジョッキですよ」

「ビールくらいなら何杯飲んでも酔わないからね」

「肝臓を壊す前に病院に行きましょう」

 

 フフ、と笑いながら海未も案外ペースが早い。

 穂乃果、ことり、海未の三人の中では海未が一番お酒が強い。

 だから今までは飲み足りなかったのかもわからなかった。

 

「ところで絵里」

「なあに?」

「その、やはり就職活動はするべきなのでは?」

「μ'sのメンバーと飲むと必ずその話題になるわね」

 

 μ'sのメンバーじゃないけど、こころちゃんあたりには本気で心配されているっぽい。

 まあ、姉と同い年の人間が定職にもつかずにフラフラしてたら誰でもそうなるか……。

 

「それと、そろそろゲームは控えめに」

「そこでやめなさいと言わないところは、海未も大人になったわね」

「亜里沙から聞きましたよ、絵里のやっているゲームは麻薬みたいなものだと」

 

 なんて話をしているんだ我が妹。

 

「そろそろゲーム専門外来を作るべきだと思うのです、依存症のものを」

「や、やめようと思えばいつでもやめられるもん……」

「ではやめる?」

「やめない!」

「亜里沙の苦労が偲ばれます……」

 

 私のビールは早くも三杯目、海未は惜しむようにしながら一杯目の最後の一口を飲み干す。

 

「働く働かないに関しては、私も強くは言えないのですが」

「……? どうして? 家業を継ぐ、立派な就職じゃない」

「私には姉が一人いるのですが、今は作画……アニメの作画をしています」

「んー?」

「私も好きなことを職業にできれば、苦しくても幸せなのかと思いまして」

 

 二杯目のゴーヤサワー(なんだそれ)を頼みながら、海未が言った。

 働くことが検討もつかない私だけど、好きなこともろくに見つからない自分ではあるけど、

 何を基準に幸福かそうでないかを決めるのは本当に難しい。

 お金を持っていたって幸福じゃない人はいくらでもいるし、その逆も然り。

 

「海未は、実家の仕事は嫌?」

「どうなのでしょう? 幼い頃から継ぐことを期待をされて、自分もそうならなければと思っていましたから」

「じゃあ、新しく趣味でも見つける? お姉さんみたいになりたい?」

「ふむ……それは違いますね」

 

 海未はゴーヤサワーを飲みながら苦そうな顔をした。言わんこっちゃない。

 

「海未は海未でいいと思うわ、それに」

「それに?」

「たぶんだけど、義務感だけじゃ続けられないわよ、好きじゃなきゃ」

「……そう、ですね」

「サラリーマンとかならともかく、ノルマがあるわけでもないんでしょう? 

言われるだけの仕事をするだけじゃない、海未が考えて仕事を決める必要がある

それはね、本当、やらされているんじゃなくて、やりたいからやるのよ」

 

 

 

 

 エリち、アルコール五杯目、現在ハイボール。

 

「絵里も」

「ん?」

「絵里もいつかそういう職業を見つけられるといいですね」

「できることは限られてくるけどね……とりあえず資格かしら?」

「まあ、今日は飲むことにしましょう。乾杯です、絵里」

 

 海未の様子が、先ほどとは違って元気になってきた。

 まったく、世話が焼けるんだから、もう。

 

 ――そして。

 

「歩けません……」

「タクシー呼ぶわ、私の家でいいわよね?」

「すみません絵里、まさか自分でもこれほど飲むとは……」

「言い訳は良いからしゃっきりする、お手洗いに行かなくても平気?」

「平気です、ですが、こんな醜態を亜里沙が見たら……」

「醜態は見慣れているから平気よ、さ、行くわよ!」

 

 海未との夜はまだまだ続く。

 



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