三十路ニートエリーチカの居酒屋飲み歩き日記   作:おうかわりん
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(※) 南ことりとの飲み会編 02

 

 

 

 池袋駅に着いた途端、理亞さんは嬉々とした笑みで電車を降りて何処かへと走り去った。

 先ほどまで死にそうなくらい顔が青かったはずなのに、若いというのはなんでもできるのだね……。

 

 私が本日向かうのは池袋駅の東口。

 ちょっと早めの到着になってしまったから、ことりはまだ来ていないはず。

 外国に行った影響もあるのかもしれないけど、彼女は割と時間にルーズになってしまったから。

 

 都内でも有数の人が多い駅なので、ちゃんと待ち合わせ場所を決めておいた。

 その場所は池袋東口交番。別になにか悪いことをして逮捕されに行くのではなく、

 キャッチセールスやら何やらに引っかかることが少なくなるらしい、とネットに書いてあった。

 

 ことりにLINEを送ると今起きたとの話だったので、もうしばらく時間がかかるだろう。

 手持ち無沙汰になってしまったけど、どこかに買い物に行くほどのお金もないのでスマホで時間をつぶす。

 

ほのっち:あれ、絵里ちゃん、また暇なの?

エリー:暇なのは否定しないけど

ほのっち:いいじゃんいいじゃん暇なのはいいことだよ。私もちょうど暇してたんだ

エリー:へえ、仕事大好き高坂さんにしては珍しい

ほのっち:ちょっとお店で食中毒起こしちゃってねえ……

 

 それは笑えない。

 

エリー:営業停止ってこと?

ほのっち:保健所の許可だったっけ、そういうのが降りるまで営業できないの

ほのっち:たまに別店舗に行くこともあるよ、あー、2日も働いてないと身体に根っこが生えそう

 

 大学卒業してから働いたことがない私に何か一言。

 

 

エリー:そういえば今日はことりと飲むことにしたの

ほのっち:いいなあ! ことりちゃんも私を誘ってくれればいいのに!

エリー:でも支度に時間がかかってるみたいで、いま池袋にいるわ

ほのっち:あー、明日神奈川に行くことがなければ行ったのに!

エリー:そういえば穂乃果はまともにお酒飲めるようになったの?

ほのっち:カルーアミルクなら……

エリー:もっとサワーとかカクテルに挑戦してみたら? ビールはもう手遅れ感があるけど

ほのっち:お酒の知識なら誰にも負けないのになあ……

エリー:今日行くお店はお酒が600種類あるらしいわ

ほのっち:私も連れて行ってよぉぉぉぉ!!

 

 穂乃果の醸し出す空気がだんだん悲痛になってきたので、苦笑のスタンプを送っておいた。

 これで勢いがちょっとは弱まると良いんだけど。

 

エリー:お、ことりが来た。相変わらずスタイル良いわねえ、おしゃれだし

ほのっち:おっさん臭いよ絵里ちゃん

エリー:え、今の文章のどこにおっさん臭さが……

ほのっち:おしゃれで可愛いでいいんだよ! スタイルまで見る必要はないの!

エリー:なん……だと……?

 

 ちょっとショックを受けたので、穂乃果とのLINEは打ち切り。

 

 久方ぶりに見ることりはスタ……おしゃれで可愛らしかった。とても私のひとつ下には見えない。

 10代と言っても通用するような若々しさに、おかしい、なぜ徹夜が続いてもあんなに元気なんだろうかと疑問に思う。

 

「ごめんね、ここ最近徹夜ばっかりで、寝坊しちゃった」

「仕事も程々にしないと体壊すわよ?」

「オンラインゲームも程々にしないと人生が壊れちゃうよ?」

 

 それは困る。

 

「そういえば海未ちゃんお見合いお断りするんだって」

「へえ? でもご両親が決めた人なんでしょう?」 

「んー、最終的には海未ちゃんの意思を尊重するって言ってたみたい」

「ご両親は寛大ね……」

 

 ウチと違って、という言葉は飲み込んだ。

 ことりを先導にして、Bar Lilyに向かう。

 ネットで見た感じだけど本当におしゃれな場所で、私は本当に通報されないのかと不安になった。

 

 ビルの6階にあるそのバーはかなり知る人ぞ知るって感じで、中に入ってもお客さんはまだらだった。

 時間的に早いというのもあるのかもしれない。

 

「マスター、こちら、絢瀬絵里さん」

「ん……そうか、きれいな人だな」

「どうも、絢瀬絵里です」

 

 その他特記事項なし。

 

「イメージが湧いてきた、待っててくれ、いまカクテルをつくる」

「絵里ちゃん苦手なものとか無いよね?」

「……そうね、この場所にあるものではないかも」

 

 このおしゃれなバーで海苔と梅干しを出されることはないと思う。

 前者はパスタにふりかけてある可能性はあるかもしれないけど……。

 

 

 カウンター席とテーブル席があったけど、ことりが選んだのはカウンターだった。

 こちらのほうが早く給仕されるからとのことで、お財布の中身に心配がある私は多少呻いた。

 

「それじゃあ、乾杯」

「ええ、何ていうか居酒屋と空気が違って緊張するわね……乾杯」

 

 お洒落なバーにあるおしゃれなグラスで飲むお酒は新鮮だった。

 柑橘系のカクテルのようで、何が入っているのかまでは分からないけど、とりあえず美味しかった。

 飲みきってしまうのが惜しかったので、3分の2ほど残してグラスを置く。

 しかしことりは水を飲んでいるかのような勢いでお酒を飲み干していた。

 

「あれ、絵里ちゃん調子悪いの?」

「い、いや、飲むのが惜しくて、こういうのめったに飲まないし」

「いいんだよ、絵里ちゃんのペースで、こうーぐいっと!」

「マスターさんのペースもあるだろうし……」

 

 と、私は心配になったのだけど、ちょっとすると二杯目の飲み物がことりのそばに置かれていた。

 

「絢瀬絵里クン、心配はしなくてもかまわない。ここはお酒を嗜む場所だからな」

「では、遠慮せずに頂きますね、本当は飲み干したいくらい美味しかったので」

「うむ、その勢いだ」

 

 ぐいっと煽り、一気に飲み干す。

 そのペースは10杯目くらいまで続き、やがて少し顔が赤くなったことりがおずおずと切り出した。

 

「絵里ちゃん、私、赤ちゃんが欲しくて……」

 

 飲んでいたお酒を吹き出すところだった。

 

「ことり、知ってるとは思うけど、赤ん坊を産むには……その、仕込み作業が」

「う、うん、もちろん知ってるよ……でも、私結婚とか興味ないし、男の人と付き合いもないし……」

「赤ちゃんがとりあえず欲しいの?」

「子どもがね、欲しいの。もう私たちアラサーって呼ばれて久しいじゃない、ヒフミちゃんたちも名字が変わって子どももいて」

「羨ましくなってしまったの?」

「うん……このままずっと仕事をしたままでいいのかなって、楽しいし、生きがいだけど、女の子としてはどうなのかって」

「そう、ね……」

 

 就職希望もなければ、結婚願望もない(ついでに経験もない)私ではあるけれど、たまに子どもを見たりすると

 私もいつか妊娠をして子育てというものをしてみたいなと思う時がある。

 それは母性本能と呼ばれるものなのか、子どもの可愛さが余っての行動までかはわからないけど。

 

「でもねことり、先のことばかり考えていても仕方ないわ」

「わかってるつもりではいるんだけど」

「現実的に考えて、今結婚して子どもを作ったら働ける?」

「そう、だね……無理かも」

 

 仕事と子育てを両天秤にかけたとき、恐らくことりは前者に比重が多くかかってる。

 デザイナーはずっと追いかけてきた夢ではあったろうし、子どもがほしいという気持ちも一時的かもしれない。

 もちろんそんなことを考えずに子どもを作る親はいるかもしれないけど……

 

「そ、そういえばことりは、経験はあるの?」

「絵里ちゃんそのトーク好きだね、自爆するだけなのに……」

 

 トロンとした目のまま、ことりは頷く。

 そうか……これで聞いた限りは未だに経験はないのは私と真姫だけか……

 誰かが嘘をついている可能性もあるけど、酒の席で嘘をつくと後悔が大きい。

 

「パリにいるとき?」

「掘り下げるね絵里ちゃん、だいぶセクハラだよ」

 

 と言いつつも、ことりは素早く首を振る。

 酔っ払っていることも手伝ってか、ことりは大変素直だ。

 

「私の両親も国際結婚だったし、もしかしたら自分もと思うのよ……」

「絵里ちゃん、まずは相手を見つけないと」

「子どもか……たまにすごく子持ちの親を見ると羨ましいって思うのよねえ……」

 

 ちょっと泣きそうな気分。

 

「なに、子どもを作って育てるだけが女の人生ではないさ」

「マスターさん」

「ことりのように夢を追いかけるのもまた人生、好きに生きれば良いのさ」

 

 なんか言外にニートはやばいと言われているような気がしてならない。

 

「だから絢瀬絵里クン、もし君がその気なら、ここで働かないか?」

「え?」

「聞けば英語もロシア語もできるそうじゃないか、その語学力を発揮しつつお酒も飲める、いいとこだぞ、ここは」

 

 ことりを見る。

 何とも言えない表情をしたまま彼女は目をそらした。

 

 

 ことりが今日悩みを聞いてくれたお礼にということで自宅に招待してくれた。

 穂乃果や海未でさえも滅多に入れないというアトリエでは、たくさんのデザインや洋服が置かれていて

 なんというか、自分に創作意欲なるものがあれば刺激されたことだろう。

 

「今日は本当に助かったよ、子どもが欲しいなんて、穂乃果ちゃんたちには言えなかったし……」

「そう? 結構親身になって答えてくれるかもよ?」

「ううん、穂乃果ちゃんは完璧に仕事脳だし、海未ちゃんもどちらかと言えば子どもより仕事なタイプだから」

「あんまり、意欲的な回答とはいえなかったと思うけど……」

「言えるだけでいいんだよ、悩みなんて、まあ、申し訳なく思ってるなら、お願い聞いてほしいんだ」

「お願い? まあ、叶えられる範囲でいいなら構わないけど」

 

 絵里ちゃんの処女をちょうだいとか言われたら全力で逃げるけど。

 

「スリーサイズ測らせて!」

「そんなのでいいの?」

「あれ、絵里ちゃん恥ずかしくないの?」

「別に高校時代からそんなに変わってないから、面白くないと思うけど……」

「嘘だぁ、とくにここ、変わったよ!」 

 

 と、胸をグイッと指さされる。

 それはあなたでしょうことり……。

 

「私の見立てによると、90は超えたね」

「まさか、逆に小さくなっているんじゃない?」

「そんなことない、ブラのサイズが合ってないってきっと胸が泣いてるよ!」

「そ、そこまで鈍感じゃないわよ!」

「じゃあ、測ってみよう! 本当に高校時代と変わらないかどうか!」

 

 彼女の勢いに押され、私は下着姿にされた。

 そして隅々までサイズを測られた後でことりが

 

「なんで水の中なのに息ができるの? 多分さっき飲んだ熱いお茶のせいかな?」

 

 ――壊れる。

 



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