三十路ニートエリーチカの居酒屋飲み歩き日記   作:おうかわりん
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(※) 高坂穂乃果との飲み会編 03

 

「そういえば、なんで二人は一緒だったの? 仕事じゃないよね?」

 

 レモンサワーをちびちびとまどろっこしく飲みながら、穂乃果が聞いてくる。

 

「私はエリーに呼び出されたの、ちょっと面貸せって」

「人聞きの悪いこと言わないで、見せてやろうと思ったのよ、昔取った杵柄というやつを」

 

 生ビール5杯目のツバサと、4杯目の私は多少の気分の昂揚を感じつつ

 

「ハニワプロって知ってる?」

「有名な芸能事務所だよね、まさかそこに行ったの? アポ無しで?」

「アポ無しで行ったのエリー」

 

 確かにアポなしで行きました。

 だけどまさか中にまで入れてくれるとはまったく思ってなかったんだもの!

 と言っても二人の視線は微妙に冷たかった。

 

「いえ、その、プロデューサーさんが外で呆然としている私に声をかけてくれて」

「まさかスカウト!?」

「エリーをスカウトしようとするなんて余程の天才か自惚れ屋ね」

 

 経緯を説明しているうちに、段々と二人の視線が困った人を見るような目になっていく。

 だって私だって、トントン拍子で中に入って踊れるとは思わなかったんだもの……。

 

「絵里ちゃん踊れるの?」

「正直踊れるとは思わなかったわ」

「何いってんの、ノリノリだったじゃない、最後には現役のアイドルたちと一緒に踊って歌って」

「絵里ちゃん、明日死ぬんじゃない? ニートの素行じゃないよ……」

「穂乃果もそう思う?」

 

 

 まあ死ぬ死なないは置いておいて、今日の私はどこかおかしかった気もする。

 と言うより何もかもが上手く行き過ぎた気がした。

 なんというか乗せられている感が満載で、自分でも上手に動けたとは思うけど、うーん?

 

「そういえばはじまりは希なのよ、亜里沙の仕事が知りたいならそこに行けって」

「え? でも亜里沙ちゃんって芸能関係の仕事じゃないんでしょ?」

「自称キャリアウーマンって話だものねえ……芸能関係はキャリアじゃないわねえ……」

 

 ツバサは6杯目に入る前にハイボールに切り替える。

 私も負けじと日本酒を頼むと店員さんに怪訝そうな表情をされた。

 そんなに似合わないかしら……?

 

「で、結局亜里沙ちゃんの仕事は分かったの?」

「さっぱり、何の情報も得られなかったわ!」

「じゃあ、エリーが楽しんできただけじゃない!?」

 

 そう言われてしまうと、ぐうの音も出ない。

 出てきた日本酒をちびりと飲みながら、辛口のお酒にふうとため息を付いた。

 

「ツバサさんは、なんで絵里ちゃんの誘いに?」

「見てみたかったのよ、私がいなくなった後のアイドルというものを」

「二人って案外似てるよね?」

 

 私たちはお互いに顔を見合わせ、首を傾げる。

 同じタイミングだった。

 

 

 てんやで一通り飲み散らかした後、まだ飲み足りないというツバサと

 甘いものを食べたいという穂乃果の要求を飲んで、ファミリーレストランに向かった。

 

「ファミレスでお酒を飲むとか、高校時代は思いつかなかったわねぇ……」

 

 思いつかれても困る。

 どんな店にも無難においてある中ジョッキを飲みながら、二人して遠い目をする。

 

「あの頃は楽しかったわねえ……」

「ええ、年を取れば取るほど、月日の感覚が無くなっていくわ……」

「……私もそう思うよ」

 

 おばあちゃん臭いとツッコミを入れられると思いきや、穂乃果の意外な同意にびっくりする。

 ツバサと顔を合わせ、地雷を踏んだのではないかとアイコンタクトで会話をする。

 

「μ'sを結成して、毎日練習して、穂むらでお手伝いをして、思えば高校時代が一番充実してたな……」

 

ツバサ:ちょっと、穂乃果さんが微妙にナーバスじゃない!

絵里:あなたの振った会話でしょ! あなたが責任持ちなさい!

ツバサ:そこは同じ学校だったよしみで、エリーが責任取るところでしょ!

絵里:嫌よ! 酒が入って絶対に愚痴コースだもの!

 

「はぁ……自分が嫌になるなあ……ああすればよかった、こうすればよかったばかりが思いつく……」

 

 穂乃果が凹んでいるけど、発言を聞いている私たちも微妙に突き刺さることを言われている。

 もしも自分が働いたら――

 

 などということはまったく考えたことがないので省略するとして。

 

「高校時代っていうのは、なんであんなにも楽しかったのかしらね」

「ツバサさんも楽しかったの?」

「もちろん、アイドル業も楽しかったけど……やっぱり、スクールアイドルっていうのは楽しいものなんだと思うわ」

 

 3人で顔を合わせ、あの時はこうだったとかこの時はなんて考えてたのとか話し合う。

 

「聞きづらいけど、ツバサさんは私たちに地区予選で負けたときどう思った?」

「2日はオンラインゲーム漬けになったわ」

「そこは燃え尽きて何もできなかったっていうところでしょ、元気じゃないの」

 

 仮に私が就職活動をして面接とかに落ちても同じ行動をすると思うけど。

 

「でも、3日目になった時、あんじゅや英玲奈とまた歌って踊りたいって思ったわ」

「なるほど」

「穂乃果さんはμ'sを解散することを決めた後、どうなった?」

「なんで時間は止まらないんだろうって思った、時を巻き戻してみるかいとか思った」

「……そんな歌詞も、あったかしらね」

 

 でもね、と穂乃果は続ける。

 

「もう一度μ'sって気にはなれなかった、当初は期待もされたけど……絵里ちゃんたちの卒業で区切りをつけないとって」

「そうね」

「スクールアイドルっていうのは、たぶん、気持ちのいい場所なんだと思うの、だからこれほど流行ってるし、これからも続くんだと思う」

「穂乃果さんの言うとおりだわ」

「でも、スクールだから卒業しないといけないんだよね、うぶ毛の小鳥たちもいつか空に羽ばたく大きな強い翼で……飛ぶ」

 

 そういえばこの歌詞を書いた時、海未は何を考えていたのだろう?

 ちょっと聞いてみたくなった。

 

「まあ、未だに羽ばたいてないエリーみたいな例外はいるけどね」

「殴るわよ?」

 

 ツバサと穂乃果との飲み会が終わってから2週間ほどが経過した。

 今まで怒涛の勢いでμ'sのメンバーとかA-RISEとかとお酒を飲んできたのが嘘のように誘いもない。

 あの日から亜里沙はテレビで芸能関係のチェックをするのをやめ、食事以外ではスマホをよくいじっている。

 テレビのチャンネルの選択権が戻って来たけど、この時間帯はやっぱりニュースしかやってないわねえ……

 

「ん? なんかテレビにツバサみたいな人が写ってるわ」

「ああ、もうニュースになってるんだ」

「……これ、ツバサじゃない?」

「だから綺羅ツバサさんだってば、テレビよく見て!」

 

 亜里沙に注意をされたので、用心深くテレビから流れる放送を見やる。

 記者から質問攻めにされているツバサは、とても400円の中ジョッキをうまいうまいと飲んでいた人物には見えない。

 テレビ越しに見ても彼女のオーラは華やかなものだった。

 

「もう一度アイドルをやりたくて、恥ずかしながら戻ってきてしまいました」

 

「一人というのは不安があります、でも、アイドルがとても楽しいってことを皆に伝えたいと思って」

 

「はい、以前いた事務所という選択肢もありましたが、もうA-RISEであることは忘れて心機一転、ハニワプロでお世話に……」

 

「だって可能性を感じたんだ そうだススメ――! 私の好きなスクールアイドルグループの曲の一部です」

 

「そうですね、ライバルは多いですが負けるつもりはありません、でも、雑用でもお茶汲みでも何でもします、お仕事ください(笑)」

 

「それから、マネージャーも募集中です、もちろん未経験可で」

 

 ふいに、ツバサと目が合った気がした。



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