アラサーニートエリちとキャリアウーマン亜里沙   作:桜川凛

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(※) 東條希との飲み会編 01

 亜里沙との食事の最中、おずおずと妹が聞いてくる。

 

「姉さん、私の仕事はわかりましたか?」

「さすがにノーヒントで答えをつかむのは無理よ、無理よ、そんなの無理」

「そ、それならばそれでいいんです! いいですか、人の仕事を興味本位で覗こうなど……恥を知るのです!」

 

 ビシィ! と指差す私の妹。

 

「い、いや、でも、ほら? ……指を他の人さしてはいけないのよ?」

「もちろん外ではこんなことしません、姉さんがあまりにも情けないから……! 後ろ指ばかりさされているから!」

 

 見えないからわからないし! 後ろに目なんてついてないから!

 というのと同時に、エリーはとある作戦を思いついた。

 

「情けない姉でごめんなさいね……」

「ね、ねえさ……お、お姉ちゃん?」

「そうよね、後ろ指さされちゃうわよね、外になんて出たらいけないわよね?」

「い、いや、そこまでは……」

「希には悪いけど今日は断って――」

「姉さん?」

「希は忙しいからなかなか機会もなくて……残念だけど……」

「ああもう! もう! 分かりました! 行ってきて構いません!」

「本当!? じゃあ! お小遣いも!」

「最近ご無沙汰でしたもんね、構いません。ただ」

「ただ?」

「今度はありません、同情を誘うような作戦を今度したら……」

 

 自害させます。

 ――は、ハラショー、怖いわぁ……

 

 

 希は顔出しをしている有名人でもあるので、基本的に飲み屋はNG。

 だから宅飲みをする予定ではあるんだけど……

 

「ええと、確か希の指定した住所は……」

 

 神奈川の箱根。

 つまりは温泉街。

 カッポーンという音が脳内で鳴った。

 

 うん、たまには大きなお風呂というのもいい。

 高校時代は穂乃果の紹介で銭湯にも入ったことがあるし。

 ただやたら周りのお婆ちゃま方から、何か別の人種の人を見るような目で見られて――

 

 まあ、たしかにロシアンクォーターエリチカとしては外国の人扱いも慣れてはいたけど。

 でもお婆ちゃま方、私は近所のお祭りにも参加していたし、イベントにも出てたんですよ?

 

「ううん、今日は嫌な思い出を振り切って――!」

「何が嫌な思い出なのよ」

 

 振り返ると真姫がいた。

 帽子をかぶり、目元にはサングラス、ついでにマスクまで。

 芸能人気取りかしらマッキー……。

 

「どうして?」

「どうしてって、今日はμ'sのみんなで宴会でしょ? 聞いてないの?」

「聞いてないわ……」

 

 

 何でも今日は旅館を借り切っての宴会が執り行われるらしい。

 らしいというのは、真姫も来たは良いけど詳細は知らされていないみたいで。

 

「エリー、就職は?」

「ぶっぶーですわ!」

 

 最近LINEを交換するに至ったルビィちゃんから教えてもらった、お姉さんの口癖。

 その人はなんでも実家で絶大な権力を発揮して――ルビィちゃんのスポンサーとして活躍しているらしい。

 それは職権乱用では……?

 

「え、候補すらないの?」

「ありませんわ」

「何その口調……」

「私のファンだっていうお嬢様が喜ぶと思って……」

「喜ばせてヒモにでもなる気?」

 

 それは今の生活と全く変わりがないというか、今よりたちが悪くなってませんか?

 

「エリー、良い声しているから歌手とかさ」

「買いかぶるというか、好感度高すぎじゃない?」

「だ、誰がハーレム系小説の3番手ヒロインよ!」

 

 誰もそんなことは言ってませんわ……。

 

 

「何話してるのー?」

「あ、花陽じゃない!」

「エリーがまた馬鹿な想像をしていたから注意してたのよ」

「真姫ちゃんほどほどにね」

「エリーが!」

 

 花陽は以前よりも少しスマートになったというか、やつれ気味?

 

「花陽……その、就活上手に行ってない?」

「本当は今日も説明会って嘘ついちゃった、いけない子だね、私」

「ここに絶望的に駄目な人がいるから良いのよ」

 

 マッキーさっきから私に恨みでもある?

 

「ネットで見たよ、絵里ちゃんツバサさんからマネージャーにならないかって誘われてるんでしょ」

「丁重に五回もお断りしたわ」

「同じ地元の元スクールアイドルで、現在は就職する気もない子を誘っているって、やほーニュースでみたもん」

「本当に? 良い就職先じゃない? エリーにはもったいなさ過ぎるけど」

 

 身の程を知っている私としては、いきなり超トップアイドルのマネージャーとか

 漫画の主人公じゃあるまいし、そんなことができるはずもないのだけど。

 

 以前もツバサに――

 

 

「エリー! お願い! 私、エリーじゃなきゃ嫌なの!」

「えー……あなたなら敏腕マネージャーなんかいくらでも選び放題じゃない」

「金髪で胸が大きくて元スクールアイドルで外国語堪能でμ'sのメンバーなんてエリーしか当てはまらない!」

「それはマネージャーの必須条件じゃないわよ! というか私を選んでるじゃないの!」

「エリー、案外みんなからの好感度高いのよ? 人を引きつける魅力……とでも言うのだろうか」

「英玲奈のマネじゃない!」

「ま、今のは冗談よ。でも、ほら、ハニワプロの子からは大人気よ? アイドル仲間からも評判いいし」

「なんで私の噂が広まっているのよ……誰が広めたのよ」

「それはあり……」

 

 あり?

 

「ありえないスピードで広がっているのよ、バイオハザードね」

「だからなんで私なのよ、あのねえ自分で言うのもなんだけど、私かなりダメ人間よ?」

「別に私も慈善事業であなたを就職させたいというわけではないのよ?」

「芸能界にも興味ないし、何より未経験、マネージャーのことも何も知らない……本当なんでなの?」

「興味があるのよ、社会復帰をしたあなたに」

「べ、別に……大したもんじゃないわよ……」

「ニート時代でも誰からの評価も変わらなかった、それどころか評価はうなぎのぼり、普通なら見捨てられて生き倒れてるわよ?」

「そ、それは」

「絢瀬絵里という人間はするしないでは何も変わらなかった、おそらく、あなたは何も変わらない」

「買いかぶりすぎよ」

「あなたはきっとこの世の中を、運命を、変える人間だわ」

 

 なお自宅。

 亜里沙は気まずいのか部屋から一歩も出てこなかったけど。


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