三十路ニートエリーチカの居酒屋飲み歩き日記   作:おうかわりん
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先に投稿された作品の説明と同じく、
現在更新中の絢瀬亜里沙ルートとの展開とは、
まったくこれっぽっちも繋がりはありませんのでご注意ください。


絢瀬亜里沙ルート番外編 フルリメイク 栗原陽向の憂鬱

「澤村さんにお手紙ですよ」

 

 そんな台詞を吐きながら朝日ちゃんが

 ピンク色をした可愛いデコレーションの入った封筒を渡してくる。

 自分に来る郵便物にしてはずいぶんとファンシーだ。

 ただ、差出人も書いてなければ、宛先もなければ、

 切手さえも貼っていない――手渡しで渡されたのだろうか?

 もしそうならば中身は果たし状、なわけないか。

 こんな可愛らしい封筒を使っている人間が、

 真剣を使って切りかかってくるとするならば、

 少なくとも私が対象じゃない、あるとすれば理亞さん。

 近年はあまり騒がれることはないけれど、

 郵便物を使っての爆発物投函とか、未知のウイルスを送りつけるとか、

 創作物でも自重しようみたいな空気があったし。

 二次元よりもよっぽど現実のほうが怖い、くわばらくわばら。

 先に話題に出した理亞さんは爆発物ではないけれど、

 とんでもない地雷エロゲーを引き当ててしまったらしく、

 プレイするとパソコン場面に齧りつき、

 いつまで経っても離れようもしないのに変だなーって思ったら、

 なるほどこれはそういうわけなんだなって判断した。

 傷心ではあるけれど誰かに構って欲しいらしく、

 かといって何か気に触るようなことを言えば、

 さんざっぱら罵倒されるので、誰一人相手にしてくれない。

 見事な鹿角理亞さんのジレンマ――ハリネズミの気持ちがわかるかも知れない。

 エロゲーを買ってきてすぐ、信じられないような美少女っぷりと

 同一人物かどうか疑わしい輝かしい笑顔で、

 このキャラは私の嫁になるから! もう誰にも渡さない!

 と言ってたのが忘れられない、

 90年代のアニメなら空に理亞さんの笑顔が浮かんでそう。

 

 

「ねえ、善子ちゃん?」

「なに、澤村さん」

 

 このリビングに居るのは私や理亞さんだけではなく、

 旧堕天使ヨハネこと、津島善子ちゃんもいたりする。

 元銀行員という肩書きに、統合後の高校で生徒会長を勤め上げた勤勉さ、

 何より私は文系だけど彼女は理系なので、

 細かい作業とか事務作業をやらせると

 善子ちゃんの右に出る人間はいないので、

 自分の仕事であるのは重々承知で些事を丸投げしている。

 朱音ちゃんは勉強好きだけど興味あることしかやらないし、

 エヴァちゃんは勉強はできるけど、澤村絵里にさほど興味ないし、

 朝日ちゃんは優秀なのに仕事が嫌いだから、

 結果善子ちゃんくらいしか私のアシスタントになれない。

 別に私に人望がないわけじゃないのよ? 

 ――違うからね?

 

「普通、名前だけしか書かれてない封筒を持ってきて渡すかな?」

「あの子は割とお嬢様だから」

 

 疑問に思ったことを問いかけてみると、

 これ以上無い的確かつ端的な答え。

 自分の身の回りでお嬢様と言うと真姫が思い浮かぶけど、

 彼女は優秀で賢いのにその才能を活かすつもりがないので、

 まったくこれぽっちも優秀に見えないかも知れないけど。

 声優という道に進んでからコミュニケーション能力も身につけ、

 愛嬌もたっぷりで人当たりもよく空気も読めるけど、

 同業者の友達が少ないっていうのが難点――。

 朝日ちゃんが真姫の方面へ進むことは、

 案外向いているのではないかと思うけれど。

 実力云々はニコが言ってるカリスマ性なる才能でカバーできる。

 私の身の回りではそうでもないけど、

 ハニワプロとか他の芸能事務所では抜群の評判の良さ。

 特に年下からは朝日ちゃんの言うことさえ聞いていればOK

 みたいな信仰があるらしい――

 なので私の言うことは信じてくれない。

 亜里沙と同じことを言ってるつもりなんだけど、

 どうしてだか信用の度合いが違うんだけどなんでかしら。

 

 ハニワプロに入った経緯もニコのフォローあってのことらしく、

 亜里沙も、アイドルとして売れなくても指導する立場として

 とか抜群の評価されてるし、南條さんにも

 絵里さんも朝日さんくらい評価されればこちらとしても――

 なんていうどう反応していいか分からない評価されてる。

 ちなみに私の指導でUTXのトップになってる優木せつ菜と言う子がいるけど、 

 その話をするとみんな苦笑いしながら、現実を見ろみたいな目をするんだけど。

 ニコはUTXに通いたかったらしいけど、金銭面で都合がつかず。

 同期にはツバサとか英玲奈とかあんじゅとかもいたし、

 入ってもダメだったかもとか自虐するけど、

 彼女なら案外A-RISEの一員として活躍できていたかも知れない。 

 ただそうなればμ'sのメンバーは9人ではなく8人であったろうし、

 そもそもニコが居ないとアイドル研究部が存在しないわけで。

 いろいろと思い浮かぶことはあるけれど、

 自分の黒歴史も次々と思い浮かぶので

 思考を停止して前を向くことにした――さて、仕事仕事。

 

「封筒を開けるのなら協力するわ、暇だし」

「その作業を1時間やっても出来なかった私になにか一言」

 

 遠回しになぜこんな簡単なことも出来ないのかと、 

 脳のバグを疑われたような心持ちがしたけれど。

 善子ちゃんはそんな私をフォローするように、

 人間にはできることもあるしと言ってくれたけれど、

 絢瀬絵里は出来ないことのほうが多いのでは?

 なんて事実を思い立ってしまい。

 微妙にネガティブだな私、疲れてるのかも知れない。

 

「澤村さん、封を開ける時にはカッターの刃が仕込まれてないのかチェックするのよ」

「その旧時代の嫌がらせって今の若い人分かるの?」

 

 10年一昔と言うけれど、

 年齢が干支一回りくらい違うと、

 もう別の人種なんじゃないかなくらいに

 価値観が違うと思う時があるけど。

 ただそれでも、相手に効果的な嫌がらせというのは

 どの時代も共有されるらしいですよ、

 元堕天使ヨハネが言ってるんだからそれなりに信憑性があるんじゃないでしょうか。

 

 

 

 

 自室に戻り、一人で可愛らしい封筒を眺めながら。

 宛名と中身の文字を見る限りかなり達筆。

 字は人格が出るという話もあり、私もかなり気をつけているけど

 効果がどの程度あるのかはわからない。

 ツバサはもう、やばいくらい字がヘッタクソだし。

 ルビィちゃんは急いでいると象形文字レベル。

 妹には字だけは人格者に見えると評判の絢瀬絵里の明日はどっちだ。

 ――それはともかく。

 希にLINEを送ってみても、

 忙しいのかいつまで経っても既読にならないので早々に諦め、

 相手がUTXの生徒会長だったという文を見つけ、

 同じ高校出身の綺羅ツバサに連絡を取ってみることにした。

 太陽の日以降に仕事がまるっきりなくて、

 レッスンしているか暇しているくらいしか選択肢のない

 Re Starsの面々と違って、

 元トップアイドルの過去の活躍そのままに、

 バラエティから歌番組からトークまで何でもこなし、

 さらには暇な私の相手までしてくれる人格者。

 彼女が言うには、私くらいしか話が合わないという話だけど。

 私もそこまで話が合うとは思っていなかったり。

 それをこっそり英玲奈に言ってみたら、

 素のアイツとまともに話せる時点でどこかおかしい――

 と、褒めてくれたけど。

 いや、褒めてくれてるとは思ってないんだけど、

 英玲奈は褒めてるって言ってくれたんですよ?

 

 

TSUBASA:生徒会長?

 

 LINEはすぐに既読になり、あっという間に返信が来る。

 なんでも歌番組の収録中らしいけれど、

 ロシア出身の二人組がドタキャンしたって言って、

 てんやわんやで暇らしいけど、

 それは絢瀬姉妹だったっていうオチじゃないわよね?

 ドタキャンする仕事がないからありえないけれど。

 あ、でも妹は元気に仕事中です。

 

TSUBASA:へえ、ようやく行動に移したのね?

エリー:何その思わせぶりな台詞

TSUBASA:そいつのパーソナルデータを送ってあげるわ

TSUBASA:煮るなり焼くなり好きにすればいいと思う。

 

 別にどんな人物かくらいを教えてくれれば良いんだけど。

 そして送られてくるわくるわ、高校時代の経歴から、

 現在の職業まで――ヒナプロジェクト代表取締役?

 一つも聞いたことのない企業だけれど、

 なにかアイドルと関わりのあるところなんだろうか?

 そしてなぜスリーサイズから好物云々まで書いてあるのか、

 声が田村ゆかりさんに似てるとか死ぬほどどうでも良いんだけど、

 ――あ、本当に似てるんならちょっと言って欲しい台詞あるかも。

 

 

 リクエストする台詞を考えていると、

 ドアを控えめにコンコンと叩く音が聞こえてきて、

 どちらさま? と声をかけてみると、

 鹿角理亞さんらしき人が顔を出した。

 ――いや、紛れもなく鹿角理亞さんその人ではあるんだけれども、

 非常に申し訳なさそうに、小動物みたいに、

 キャラと違うと言いたいくらい儚げな雰囲気を漂わせながら。

 成功率3%くらいの難病を抱えているヒロインみたいに、

 触れたら壊れてしまいそうなくらい――

 やけに二次元方面にキャラ作りしているのを見て、

 やっぱりエロゲーって現実にはそぐわないなって思った。

 

「理亞さん、別に無理してキャラ作りしなくていいのよ?」

 

 ふるふると首を振り、甘えた目(ルビィちゃんとは雲泥の差)

 をしながら、こちらを見上げてくる理亞さん。

 荒ぶる肉食獣に求愛されてるみたいで、

 こちらとしては変な汗が出てきて、動悸がするんだけど、

 サーカスに知り合いがいる人がいないかしら?

 

「昼間にお前の顔なんか二度と見たくないって怒鳴りつけたの気にしてる?」

「ごめんなさい、絵里おねえちゃぁ」

 

 卒倒するかと思った。

 元から声が可愛くていらっしゃらない彼女が、

 相方のルビィちゃんの声真似をしながら謝罪する姿。 

 昔テレビに出た南ことりが

 高校時代はもっとちゅんちゅんした声じゃなかった?

 というクソみたいなフリに、邪神みたいな笑みを浮かべたのち、

 高校時代よりも可愛らしく甘ったるい声を出したのを

 見たのと同じ心持ちがしたね?

 なお、お酒の席で凛が披露する黒澤ルビィちゃんの声マネは

 びっくりするくらい似ていると私の中で評判。

 だから凛を師事すればいいと思う、

 銃で撃たれたゾンビみたいな声でおねえちゃぁって言われて

 本当震えるほど怖くて涙目になったのを

 バレないようにするの大変だから。

 

 

 

 

 

「あら、澤村さん、出かけるの?」

 

 手紙の主から示された再会指定日。

 相変わらず暇をしているRe Starsのメンバーの一人――

 つまり私と。

 

 

「うん、まあ、放っておくのも気分悪いし」

「……? 理亞も行くんだ」

 

 仕事は平均的にあるけど、今日はオフ。

 こういう日はたいてい、朝から一日中エロゲーにおもねる、

 そんな鹿角理亞さんではあるのだけど。 

 

「罪滅ぼしよ! 朱音は黙ってろ!」

 

 ちなみに、先日までの天使みたいな(見た目だけ)理亞さんは

 外見ばかりを取り繕って、口調と声色は元に戻ってる。

 呪いをかける魑魅魍魎みたいなロリ声でなくなったので、

 絢瀬絵里さん的にも妹の亜里沙的にも、

 まったくもって安心、安堵感漂う。

 

「またエロゲーでも買いに行くの? それとも知り合いのエロゲー声優にでも会いに行くの?」

「うっさい! 現役女子高生がエロゲーを連呼すんな! 炎上すっぞ!」

 

 ちなみにルビィちゃんを意識したと思しき声色は、

 エヴァちゃんの無理しないでください(真顔)が

 致命的なダメージとなり改められることとなった。

 亜里沙からも仕事に支障が出るとか、

 ルビィちゃんからもちょっとやばいんじゃない?

 と言われても改善する気がなかったのに。

 人に行動を改めさせる時には、優しい言葉を投げかけるのも大事。

 齢30手前にしてそんな気づきを得る。

 一生懸命誠心誠意謝罪の意を伝えるという理亞さんの目的は――

 ここ最近バイオハザードシリーズの夢を見る(未プレイ)私の

 睡眠時間の減少ぶりで判断して欲しい。

 でも、見た目は天使。

 一日かそこいらで外見も元に戻るかと思いきや、

 外見はルビィちゃんと一緒でロリロリしいという評判に、

 え、なに? 嫌がらせ? 

 って思ったんだけど、確かに見た目だけはロリロリしい。

 でも、そのうち見た目も夏休みの男子小学生みたいになると思う。

 田舎で虫取り網片手にカブトムシでも捕まえてそうな。

 

 

 エトワールから抜け出すと、

 天で煌々と輝く太陽から強烈な陽射しが降り注いだ。

 最近は酷暑日なる言葉も生まれ、

 歩くだけでカロリー消費を果たせそうな――

 そんな強烈な熱波に二人して襲われる。

 理亞さんは天使みたいな外見に見合わない、

 口をぽっかりと開いた間の抜けた顔を見せ、

 え、なんで自分こんな格好してますのん?

 なんて表情をしているけど、まだ外に出て5分。

 もうちょっと粘って欲しい。

 UTX最寄りの秋葉原までは電車で十数分、ここから駅までは

 同じくらい時間がかかる。

 しばらく歩けば理亞さんお気に入りのファミリマートがあるから、

 そこで給水を果たせばいい、マラソンランナーみたいに。

 津南でも霧島でもミネラルウォーターを買って――

 

「あなたって、オトノキの生徒会長だったんでしょ?」

 

 外見に見合う飲み物が欲しいと理亞さんが言うので、

 マックスコーヒーかいちごオレが良いと思って、

 どっちが良いかと問いかけたら。

 水分補給という目的を忘れないで(ロリ声)

 と言われて確かにその通りだったと思いだした。

 なお、見た目で常連の人だと気づいて貰えず。

 私に声を掛けてくれた方が、誰ですかその人と聞いたので、

 理亞さんにロリロリしい声を出してもらい、

 無事正体を把握して貰った。

 

「ええ、まあ、恥ずかしながらそうね」

 

 歩きながらペットボトルに口をつけるのは、

 ちょっとまあはしたないところもあるのだけど。

 でも、外聞よりもよっぽど命のほうが大事。

 

「生徒会長ってアホでもなれるの?」

 

 飲んでいた飲み物を吹き出すかと思った。

 なお、理亞さんの通っていた高校の生徒会長は、

 えらく優秀な人物だったらしく。

 ダイヤちゃんもその存在を把握していて、

 なんとかして自分の手駒にしたいからと理亞さんに紹介を頼んでいた過去あり。

 

「まるで私がアホみたいじゃない」

「あなたじゃない、あなたの後輩の方、あの人アホだったんでしょ?」

 

 高坂穂乃果がアメリカに旅立ってから数ヶ月。

 忙しく過ごしているのかと思いきや、

 たまにディ○ニーランドで○ッキーと一緒に撮影した

 そんな写真が送られてくることがある。

 ニューヨークのテーマパークの全制覇を目論み、

 せわしく動き回っている様子だけれど、

 亜里沙とかツバサから借りたお金を使っているわけじゃないよね?

 私たちμ's三年生組卒業以降――

 生徒数が大幅に増えたものの、人手は少なく。

 ことりはヒフミトリオという生贄を捧げて生徒会の仕事から手を引き、

 海未は最初のうちは受験生だからとか、生徒会の仕事が、

 と言ってスクールアイドル活動から手を引こうとしたものの、

 元の面倒見のいい性格からか、ダメな子ほど可愛いと思う――

 そんなアホ男に引っかかりそうな趣味趣向のせいであるのか。

 大幅に部員が増えたアイドル研究部ではあったけど、

 作詞できる人材が一人もいないという致命的な欠点もあり、

 海未に白羽の矢が建てられることと相成ったらしい。

 結果的に彼女と真姫の遺産でオトノキは全盛期を迎えるのだから、

 当時の理事長とすれば満足の結果であるんだろうけど。

 ただ、それを終わらせたのは誰からぬ高坂雪穂ちゃん。

 アイドル研究部部長にして生徒会長のポジションについた彼女は、

 自身が3年生になった時点で海未や真姫の遺産を使うことを拒み、

 自分たちの力でなんとかしようと声を掛け――

 結果、Aqoursに敗戦しオトノキでは微妙に立場がない。

 作詞作曲活動もこなし、かつ生徒会長として実績を残し、

 アイドル研究部部長としてラブライブ準優勝という結果。

 ひいては有名大学に合格と褒められる要素しかないと私も思うし、

 亜里沙もそのあたりだけは感情的になって、

 雪穂を悪く言う人間はバカですと辛辣だけど。

 

 

「その、不幸な事故が重なったのよ」

「浦の星の生徒会長もバカだったし……」

 

 生徒数の少ない高校とは言え、

 会長として仕事をすべて一人でこなしていたダイヤちゃん。

 私もまあ、似たようなものではあったのだけれど。

 東京でも指折りの偏差値の高い大学に合格し、

 学力に置いてもかなり優秀な側面がある。

 私生活でも高坂家はすごくお世話になっていたとかで、

 特にお父さんのダイヤちゃんの推しっぷりがやばい。

 彼の前でバカとか言ったら大変なことになるから、

 ちょっと周りを見回してしまった。

 なお、高校三年生時に鞠莉ちゃんと果南さんに

 あなたたちは生徒会の仕事してなかったの?

 なんて問いかけたら。

 果南の前でそれは禁句とガチで怖い目を向けられ、

 小原家の白スーツのマフィアが日本でも有名との都市伝説を

 なんか身にしみて体験した気がしたな……。

 ただ、ちょっと興味本位で「はじまり。」の3人組の一人、

 高海千歌ちゃんに話を聞いてみたら、

 

「Aqoursに入る前の果南ちゃんは基本的に、 

 腕組んでるか、睨みつけてるか、怒ってるか、不機嫌かのどれかでした」

 

 アニメで嫌味な描写されてるなあって思ったけど、

 一部では真実を捉えていたみたい。

 

「……生徒会長って大変なのよ」

「な、何よ遠い目をして……それにアイツら、姉さまのこと泣かしたし」

「聖良さんが泣いたの?」

「私はあいつらを許さない……! ダガミチガァァ!!」

「おー、よちよち……」

 

 何かしら行き違いがあったのか、

 それとも一方的に理亞さんが憎悪を燃やしているのか。

 ともあれ彼女は悪いと思えば謝罪できる子だから、

 理不尽な恨みを重ねているということは無いと思う。

 過去に空港まで穂乃果を見送りに行った際の、

 とある女の子の迂闊な発言のせいで、

 海未とAqoursの関係は完璧に冷え切っていて氷河期そのもの。

 彼女がテレビに写ったりすると海未の表情が消える、怖い。

 理亞さんの頭を撫でていると、その外見だけを見るに

 女子小学生とかが活躍するラノベの主人公になった気分。

 将棋とかバスケットボールとかやれば女子小学生と仲良くなれたんですかね。

 

 

 UTXに向かう道中に過去にも来店したことがある

 スクールアイドルショップがあったのでお土産を買いに行くことにする。

 理亞さんは私にドナルド・トランプのマスクを被らせて、

 ロシア疑惑がなかったってやらせようとしたけど、

 その政治ネタは多分相手には通じないと思う、

 それと、ドナルド・トランプのマスクは微妙に似ているから、

 お土産としてはふさわしくない、

 私がロシアンクォーターだからそう思うんじゃない……と思うよ?

 店内でお客の女子中学生がワイワイ騒ぎながら、

 Aqoursと同時期にいた――せ、聖闘士星矢! 

 っていう渾身のギャグにウケた私が、

 悶絶するほど――腹痛起こしたみたいにお腹を抱えて笑っていたら

 隣にいたSaintSnowの一員さんが

 ラオウみたいな表情をして中学生を殴りかかろうとしたため、

 止めるのに一苦労した、店員さんも一緒になって止めてくれた。

 殺意の波動に目覚めた理亞さんに

 先の会話をしてた中学生の中で一人気がついたのは、

 天王寺璃奈ちゃんという女の子。

 理亞さんをジャギみたいな顔をしていると呼称し、

 私のことを絢瀬絵里そっくりと呼び、

 クールな面を持った無表情の子だと思ったら、

 内心かなりきゅーとな女の子であるらしい、よく分からない。

 

「感情を出すのが苦手?」

 

 そんな璃奈ちゃんと理亞さんとアラサーという組み合わせで

 中高生に人気のカフェとやらに来店することとなった。

 過去の記憶を反芻し、思いのほかμ'sの面々とは

 お茶なり何なりをした記憶が無いことに気づき、

 ちょっとだけブルーになりながら――

 

「そうなの。

 私はよく、人から何を考えているのかわからないとか

 クールに見えるけれど、そんなことないの」

 

 とりあえず先輩スクールアイドルを見て、 

 物おじしないどころか、だから何みたいな態度をとるのは

 クールではないということなのだろうか。

 虹ヶ咲学園の中等部に所属し、進学したらスクールアイドルとして

 華々しくデビューを飾りたいらしい。

 外見こそ黒澤ルビィちゃんとか、可愛さで売りに出せそうな

 天使みたいな顔をしているのに何故あだ名が鉄仮面で決まりそうな

 鉄面皮をしているのか解せない。

 血縁者にカロッゾ・ロナがいるのか、

 それとも親戚に加藤初さんでもいるのか。

 

「澤村さん、こういう子の面倒見るの得意でしょ?」

 

 ちなみに理亞さんは多少機嫌が治ってきたのか、

 金剛力士像みたいな感じから、

 視力検査で遠くを睨みつけてる人レベルに落ち着いている。

 パッと見強烈にガン付けている感はするけど、

 少なくとも顔を見ただけで子どもが泣き出すことはないと思う。

 ――被害者5名、うち1人は超大泣き。

 

「くすぐられてもそのままなの?」

「笑わないことには自信があるの」

 

 面白いと思った。

 相手をくすぐるなんて子どもっぽいし、

 いい年した大人(30手前)がやることじゃない。

 別に私が挑戦を受けたわけではないけれど、

 相手をくすぐるにはちょっとした自信がある。

 そんなことくらいしか自信がないということに、

 ちょっと自信をなくすべきではないかと頭に浮かんだけど、

 理亞さんも場の空気的に、思いっきりやったれ

 みたいに見てる、多分。

 

「衆人環視だから、足の裏は勘弁してあげるわ」

「挑戦的なの、でも、そういう人は嫌いじゃないの」

 

 そういって、私の眼前に向けて素足を差し出す。

 まるで足を舐めろと言っているようだけど、

 年上の人間に向けて敬意のないその態度を

 ちょーっと改めて貰うには良い機会かもしれない。

 あと、スカートなのでそんなに足を上げられると、

 周りの方に少しばかり迷惑なのでそれも自重してもらう。

 

「昔、くすぐりエリーと呼ばれた実力を目にもの見せてあげるわ!」

「最高にダサいあだ名なの」

 

 結果――。

 一つも表情を変えない璃奈ちゃんに、

 おかしいなあ、酔っ払った真姫は指を近づけただけで笑うのに、

 と言ったら、

 あなたはもしかして嫌われているのではないの?

 という考えたくない事実を告げられ、

 鉄仮面対策は見事延期。

 

「で、UTXの生徒会長ってどんな人?」

 

 璃奈ちゃんとお別れし、

 手で空中をわきわき動かしながらイメトレを重ねていると、

 理亞さんがそんなことを問いかけられる。

 比較的ダメージの出来事があったせいで、

 すっかり秋葉原に来た目的を忘れてしまったけど……。

 

「理亞さんヒナプロジェクトって知ってる?」

「ん? 知っているけど?」

「へえ、そこの代表取締役だって、フルネームは栗原陽向さん」

「元UTXの生徒会長で……ヒナプロジェクト……?」

 

 理亞さんは指を唇に当てて考え込む仕草を取る。

 そのまま首を傾げながら思考を続けたみたいだけれど、

 思い当たる節があるのか、

 それともちっとも思考がまとまらないのか、

 特にこれと言ってツッコミを入れることもなく、

 私たちは微妙に沈黙を重ねてUTXまで急いだ。

 

 

 太陽の日のライブ以降。

 突貫工事で会場の制作が行われたのち、

 やっぱり色々問題があったのか、立入禁止になりしばらく。

 ニコが言うには、物事には計画性が必要なのね?

 と、私の顔を覗き込まれながら言われたけれど。

 それを言うなら、ライブのひと月前くらいに種明かしせずに、

 もっと早く私の許可を取ってからイベントを進めればよかったのでは?

 と小首を傾げたら、

 姉さんのような勘のいい子は嫌いです――

 そんなふうに亜里沙に口を開くなと警告されてしまったので、

 殊勝な私はだんまりで俯き、

 言われるがままの刑を執行されるしか無いのです。

 手紙の主は書いた通りに劇場の前で待っていたそうだけど、

 関係者から邪魔者扱いをされた挙げ句に

 いずこかへと連れて行かれてしまったらしい。

 

 

 手紙からしたポンコツ臭は見事に的中し、

 他者から見た自分というのは、もしやこのように見えているのでは?

 なんて理亞さんに尋ねてみたら。

 天使みたいな笑顔をにっこり浮かべ、

 地獄から這い出た混沌みたいな声でおねえちゃぁとか言ったので、

 賢明な絢瀬絵里は口を閉ざして静かにするしかなかった。

 なにはともあれ、得る物の特に無さそうではあるので、

 帰宅の途に着こうとすると、

 理亞さんの声にビビった複数の生徒が教師を呼んだらしい。

 ドタバタとした調子でこちらに向かってくるのは――

 

「魑魅魍魎に殺されるって声を聞いたんだけれど……」

 

 困った顔をして私を見上げ、

 私の隣りにいてニッコニッコ笑みを浮かべている理亞さんを見ないようにし、

 原因を作ったのはお前かみたいな顔をしている。

 生憎だけど、隣りにいる子がロリロリしい声を出せないのは、

 まったくこれっぽっちも私には関係ない。

 ただ、何故この場所にいるのかを問われれば、

 原因の一端に自分が関わっているので。

 

「ああ、その人なら――ねえ、知ってる? 

 栗原陽向って名乗ってて、あんな有名人がここに来るわけないって

 みんなから言われてるのよ」

 

 そのように言われてしまい頭に特大の疑問符を浮かべたのは、

 むしろ私の方で――

 理亞さんはごまかすつもりだったらしいけど、ニコが語るところによれば。

 ダイヤモンドプリンセスワークスを作成した同人サークルを母体とした、

 エロゲーブランドの主催にして、代表取締役。

 近年は成人向けゲームの地位向上のためにあちこちを駆けずり回り、

 ラブライブ運営や、UTX上層部にも顔が利くらしい。

 芸能関係者の評判も高く、彼女が企画に参加すれば半分勝ったみたいなもの。

 ――なぜか所々の評判が妹を彷彿とさせるのだけれど。

 

「ニコ、多分その人、本物の栗原陽向だと思うわ」

「冗談は善子ちゃんよ、絵里」

「ヨハネよ! じゃなくて、ほらこれ、ツバサからのLINE」

「……ぴやぁぁぁぁああああ!?」

 

 花陽みたいな声を上げたニコが全力ダッシュでどこかへと消え、

 残された二人組とすれば――

 

「ダイヤモンドプリンセスワークスって、あれよね? μ'sを元にした」

「――隠すべきかと思ったけど、一番最初の同人作品。

 アレには亜里沙さんと、歩夢さんが関わってる」

「……は?」

 

 栗原陽向という人間と絢瀬絵里――

 関係性は残念ながら靄がかかったように、

 全く記憶をたどることは出来ないんだけれど。

 過去に友人関係にあった私たちは、不幸な行き違いもあり、

 親密な間柄は解消されることとなる。

 ただ、妹の亜里沙とは仲が継続され、その付き合いは現在も続き、

 数年前に一度鍋も囲んだことがあるらしい。

 栗原陽向制作のダイヤモンドプリンセスワークスは、

 原画、音楽、声優――あらゆる何もかもが個人制作の、

 売れる気配のまったくない一本のソフトだった。

 妹が高校一年生時にプロデュースを初めてした月島歩夢が

 優れた演技力をさらに向上させるため、

 声優を買って出たのは、まあ、偶然やフラグみたいなものもあって。

 そういう経緯があってもダイプリは、

 シナリオで光る部分があった売れない同人作品でしかなかった。

 しかし運命はわからない。

 その後、月島歩夢が売れっ子街道を驀進し、

 売れない時代に書いたブログで紹介された

 ダイヤモンドプリンセスワークスにプレミアが付き、注文が殺到し、

 リメイク化にあたっては有名イラストレーターの参加(海未のお姉さん)もあり、

 めでたく完成した暁には売れ始めていたA-RISEの綺羅ツバサも売り子として参加し、

 現在、リメイク化されたものでさえ数万はくだらない超プレミア作品。

 その後18禁化やヒナプロジェクトの商業化もなされ、

 グッズやその他諸々の収入で――もう、なんていうか、すごい金額を稼いだとか。

 

 

「ごめんなさい、あなたのこと全く覚えてなくて」

 

 顔合わせをした時にそんなふうに頭を下げる。

 ただ、その反応は予想通りであったのか、

 気分を害した様子もなく、淡々と。

 

「いずれ思い出すでしょう――ただ、希の暗示はほんとう、

 強力極まりないですけどね」

 

 友人の東條希とも関係が深いらしく、

 どのような経緯で仲が深まったかまでは教えて貰えなかったけど、

 今回会う件も許可を得るのに相当骨が折れたらしい。

 なお、この場には理亞さんやニコも同席している。

 最初この二名は、席を外したほうが良いのでは?

 と申告してくれたんだけれど、 

 せっかくここまで来て貰ったのだからと言うことで理亞さんが、

 まだ何人かに疑われているということでニコが参加している。

 

「……いや、待って? あなた確か、もっとちっちゃくなかった?」

「そうね、確かに140センチに満たない身長でした」

 

 ニコが嘘!? みたいな顔をして、

 理亞さんが目をそらす。

 記憶の端に引っかかる栗原陽向――ではなく、

 たしか――ヒナ?

 薄暗い照明に照らされた過去の記憶が、

 本当に少しだけ自分の中に浮かび上がってくる。

 

 

 過去に生徒会に所属していた私。

 なぜ生徒会にいたかは思い出せないけれど、 

 その先輩方に連れられてUTXに行ったことがあった。

 自分が迂闊であったのか、何かのトラブルでもあったのか。

 UTXで一人ぽつんと置いていかれ、誰も頼ることも出来なかった私に――

 

「ヒナは……私の手を引いてくれたわね」

「ええ、あなた身長高いのに小さい子どもみたいに不安そうで

 ひとっつも放っておけなかった」 

 

 出会いから3日くらい。

 再び出会った私たちは面白いくらいに馬が合った。

 クールなふりをしていた私も会話相手に飢えていたのか、

 ――とは言いつつ、当時積極的に会話を振ってきた希はスルーしているので、

 そのあたりはヒナの会話スキルが高かったのかも知れない。

 とにかく積極的に交流を深め、それを通じて亜里沙とも仲良くなり、

 ついでにまあ、希と腐れ縁を得るキッカケにもなった。

 そんなある時事件が起こった。

 

「酷いことをしたのよ、漠然とそんな記憶がある」

「確かにまあ、あんな目にはもう二度と遭いたくありませんが

 何も悪い思い出ばかりとも限らないんですよ?」

 

 ヒナは芸能科に所属していたけれど、

 残念ながらアイドルとしての才能はまったくなかった。

 いや、当人がそういうのだからそうだとしか言いようがないけど。

 音痴という致命的な欠点は努力によりある程度改善を見せたらしい、だが。

 

「芸能科にはもう席は残ってなかった、

 あなたや、亜里沙、希――多くの人の協力は意味をなさなかった。

 そのかわり、その時の出会いが私の才能を目覚めさせたんですが」

「それはもしかして、生徒会長としての?」

 

 ニコが問いかけてヒナが頷く。

 芸能科から普通科に移ったヒナは手始めに学業に従事した。

 彼女が言うには勉強は簡単すぎてやる気が出ないそうで。

 そこで芸能科で燻っていた生徒に声を掛け、

 プロデューサーとして手腕を発揮し始めた。

 上手に行くことばかりではなかったそうだし、

 結局A-RISEの牙城は崩せなかったそうであるけれど。

 多くの生徒から推薦をされ生徒会長として仕事を始め、

 μ'sや音ノ木坂学院の連覇のおかげで結果としては微妙だそうだけど、

 UTX出身の元スクールアイドルが多く芸能事務所から重宝され、

 ヒナ自身も知名度を上げただけでなく、ダイプリのリメイクの際には

 多くの人の協力を得ることが出来たとか。

 なお、絢瀬絵里との再会は数年前の一度のみ。

 私が来ると思って企画したイベントに現れたのが、

 代替わりした高坂穂乃果を中心としたμ'sの二年生組で、

 顔をちらっと見れればいいと願った彼女はずいぶんがっかりしたらしいけれど。

 

「ヒナ、ごめんなさい、まだ完全には思い出せないけれど」

「安心してエリー、今は無事顔合わせが出来ただけで充分。

 ――まあ、何かあれば希に怒られるのは私」

 

 ヒナの儚げそうな笑顔を見た瞬間、

 私の身体に身が裂けてしまうような痛みが走った。

 全身がガクガクと震え始め、真夏であるのに

 極寒の冷凍庫の中に放り込まれたように寒くてしかたがない。

 心が沈殿するように、感情の一欠片たちがどんどんと色を失っていき、

 ぼんやりと天井を見た瞬間、私の身体は力を失ったように崩落ちた。

 

 

 

 

 身体を起こすと――

 

「目は覚めましたか?」

 

 亜里沙が顔を覗き込んでいた。

 彼女一人ではなく、Re Starsや元μ'sの面々――

 この場に来られる人たちが揃ったと言わんばかりに、

 絢瀬絵里の現在の自室に人がぎっちり詰まっていた。

 

「ええと……たしか私、ヒナと」

「――ヒナと会いました、それ以上は考えないように」

「いや、でも、なにか大事な――」

「よろしいですか、理亞に延々とロリ声を出させますよ、

 苦しまぬよう、録音してイヤホン越しに」

「はい」

 

 色々と解せないこともあるけれど、

 ヒナと再会を果たした。

 また機会があれば顔を見せてくれると言うので、

 私としてはその日を心待ちにしたい。

 かつての友人の笑みを思い浮かべながら、私は天井を見上げた。



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