アラサーニートエリちとキャリアウーマン亜里沙   作:桜川凛

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園田海未ルート 番外編 01

 元パートナーであると呼称すると、

 まるで過去に恋人同士であったかのようではある。

 絵里があまりにも妹っぽい、放っておけないタイプと言っていたので、

 ついつい私も構いすぎてしまった過去はあるけれど。

 なんとも悲しいことに彼女はずいぶんと背が高くなってしまい、

 そんな意図はないにせよなんとなく見下されている感がする。

 能力の高低の差ならば断然私のほうが高いのに、

 背が低い私がそのことを告げると負け惜しみのようにも聞こえる。

 朝日ちゃんはそんなことはないんだろうけれども、

 本当にそうではないか疑わしい側面もないではないけれど、

 あまりに追求してしまうとチビの僻みとしてまとめブログに書かれてしまう――

 何がない三人組とは言わないけど、

 矢澤にこ、綺羅ツバサ、鹿角理亞の三名は色々足りない三人組として有名だった。

 絵里にそんなことを言えば、今は私もよ! というに違いないけど、

 その失言でニコさんに殴られないことを願いたい。

 ある人間にはない人間の気持ちがわからない――

 お金、美貌、様々なものを持ち合わせている人間は、

 ふとしたきっかけでない人間の逆鱗に触れることがある――

 

「うーん?」

 

 秋葉原駅前であんじゅと待ち合わせている。

 旦那を探しに行くとご結構な目的で私と袂を分かったけれど、

 気の置けない親友でもあり、非処女が確定している人でもある。

 絵里はμ'sで男性経験がないのが真姫と自分くらいで肩身が狭い――

 と言っていたけれど、絵里の周囲にいる人間で彼女への好意が激高な面々は

 たいてい処女で統一されている、処女厨もびっくり。

 唯一黒澤ダイヤさんだけが旦那がいるという話で、過去のループでは

 絵里と一緒に結婚式にも参列したことがある。

 A-RISEでは私だけが呼ばれ、後日にその時の写真をあんじゅに見せたら 

 この写真を絶対に英玲奈に見せるなと厳命された。

 確かに旦那というより、ダイヤさんの妹にも見える彼を英玲奈にお披露目したら、

 もしかしたら私の妹にしに行くと彼が寝取られていたかもしれない、くわばらくわばら。

 

「そういえば……朱音さんが私の弟を苦手にしていたわね?」

「トラウマを思い出すそうですよ? 詳しい経緯は聞けずしまいでしたが」

 

 あんじゅに彼氏がいたという事実は私にとって驚くに値しないけれど、

 英玲奈の元カレの話は私も絵里も知らない話のはず。

 あの妹バカである彼女に彼氏がいたという事実は自分にとって闇が深い案件だけど、

 りんぱなの元カレより闇の深い案件は恐らく存在しないと思われた。

 ネタにできるレベルの範疇を越えており、真姫さんが男なんて! という思考に至る要因でもあり、絵里でさえ口を滑らせない。

 そんな凛さんに結婚運が高まっているとつい口にしてしまった希さんが、

 彼女の評価が低いのは――まあ、私が触れる案件ではない。

 

 待ち合わせまで時間があったので、

 UTXのオーロラビジョンを見上げてみたりもする。

 ALSTROEMERIAの三人が過去の私達のように大々的に宣伝されており、

 披露されている楽曲のレベルはおおよそスクールアイドルレベルではない。

 彼女たちの歌っている曲が主に絵里が最終的にボツにした曲の流用であるのは、

 三人のクリエイターとしてのスキルのなさを表しているかもしれない。

 ただ、そんな絵里が大好きな三人もにこにこナースだけは歌いたくなかったのか、

 それとも歌っても披露できないのかはわからないけれど――

 おそらく過去と同じように彼女たちもSUNNY DAY SONGを引っさげ、

 Aqoursの前に立とうとするに違いない。

 あの時と違って目の前に絵里がいる可能性がある中、

 SUNNY DAY SONGを披露できるかは半々……いや、8割無理だと思われた。

 朱音さんは平気かもしれないけれど、少なくとも雪姫さんは

 μ'sの代替要員としてSUNNY DAY SONGを披露することは許せても、

 自身の楽曲としてあの曲を歌うのは絶対に許されないと考えるはず。

 エヴァリーナちゃんも何を考えているかわからないフシがあるけれど、

 雪姫ちゃんに同調すると思う、秋葉原でμ'sが起こしたイベントを模した際に

 絵里の許可を取って披露する可能性ならあるかもしれない。

 よほどAqoursが彼女たちの逆鱗に触れ、

 絶対に叩き潰してやるという強い意欲にでもかられない限りは、

 恐らく彼女たちはそれほど敵にはならないと思われる。

 雪菜がいる虹ヶ咲か、オトノキがスクールアイドルをやるとすればそちらの方が、

 よっぽど警戒するべき対象である。

 

「しかし、UTXに綺羅ツバサがいるのに

 サインの一つもねだられないわね?」

「その絵里さんみたいな発言のせいじゃないですか?」

 

 UTX出身のスクールアイドルとして華々しい活躍を見せ、

 卒業以降はトップアイドルとして君臨し、

 誰もついて来れねえから! 実力が違うすぎるから!

 みたいな理由で半強制的に引退させられた。

 いつか絵里や理亞さんを伴って下剋上をしてもいいけれど、

 おまえの自由に絵里を巻き込むんじゃないみたいな理由で英玲奈にたしなめられるか、

 お願いだからやめて欲しいと亜里沙さんに言われるか。

 記憶が戻った彼女が絵里にどんな仕打ちをするのか楽しみだけれど、

 見てはいけないような気がしてヒナ共々置いてきてしまった、できれば生きていて欲しい。

 

「だって、綺羅ツバサなのよ?」

「アーサーなんだぜみたいな言い方やめてもらいます?」

 

 絵里が壁に叩きつけられてそのまま目を開けたまま事切れるのを、

 亜里沙さんが必死になって目を開けてください! 

 と言っているさまがありありと想像できる、殺ったのはあなただけど。

 先程まで絢瀬絵里っていういかにも日本語が不自由そうな人間が

 下ネタやエロネタで私と会話をしていたので近づき辛いのかと思いきや、

 朝日ちゃんが言うことにはスクールアイドル時代を含め、

 芸能活動をしていた私とはあまりに人格が違うため、

 同一人物だと思われていないのが原因であるものらしい。

 過去に絵里もなかなか自身のことを認識されないと悩んでいたけれど――

 

「仕方ない、サイン! 売るよ!」

「ガンダム売るみたいに言わないでくれます?」

「月は出ているか」

「残念なことに曜さんの知り合いに月なる人物はいないそうですよ?」

 

 絵里くらいしか反応してくれなさそうなネタまで

 朝日ちゃんはしっかりとフォローしてくれる。

 サラッと言われてしまったけど、静真高校の件はAqoursにとっても都合が悪いらしく、

 2割弱善子さんの意向が反映されているこの世界にもやはり存在しないものであるか。

 一体どこからどこまでラスボスちゃんが世界創造に関わっているかは不明だけど、

 絵里の胸が縮んだことを把握していなかったあたり、

 やっぱり他の誰かしらの意志が反映されての結果だと思われた。

 だいたい想像はつくし、未来組が口出ししてこないことを考えれば、

 そうであるんだろうなあ……胸の無さは彼女にとってのコンプレックスの一つだったのかも。

 ――私から見れば、贅沢な悩みだと思うし、

 なにより、彼女に失言かまして、次の世界にループしないことを願いたい。

 私がしなくても絵里がするであろうことは容易に想像つくけれど。

 

 

 絢瀬絵里という人間は誰かにとっての評価の高低の差が激しい人物でもある。

 当人は不当に低評価を続けており、その説得には困難を極める。

 私が過去のループにおいてアイドルをやっていた時代にも、

 μ'sというのは自分のあこがれであるとは常々言っていたし、

 その中でも絢瀬絵里っていうのはとんでもないやつでね?

 と、確かに身分不相応に高い評価を下していたかもしれない。

 ただ、そんな私自身のすごい人という評価よりも、

 綺羅ツバサなんぞと付き合いがあるμ'sの絢瀬絵里は超人――

 という英玲奈やあんじゅの評価の方が信憑性を高く謳われていた気がする。

 

「あー、直接すごいというよりも

 アイツはすごいんだなって結果を示したほうが分かりやすいじゃないですか」

「別に私自身の信頼度が低い結果ではないのね?」

「申し訳ありませんがそれもあります」

 

 英玲奈やあんじゅが周囲の芸能関係者から評価が高く、

 実際食いっぱぐれることがないのだから、リーダーとしては喜んでおきたい。

 リーダーはメンバーを尊重してこそ輝きを放つものである。

 

「亜里沙さんからの評価も高いじゃないですか

 ただのシスコンが過剰に評価してた疑惑がありますけど」

「うん、一部分聞かなかったことにしておくわ?」

 

 あまりにも的確かつ、

 あまりにも真実を捉えている気もする。

 彼女の妹である亜里沙さんは、

 Re Starsであるとか、絢瀬絵里当人のプロデュース業では

 感情が先走ってしまうのか失敗ばかりではあったけど。

 なんであんな人がというハニワプロのアイドルがたまに出てくると

 亜里沙さんが口を出していたりするので、芸能関係者は常にヤキモキしていた。

 最初のうちは亜里沙さんの発言を聞いて殊勝な態度を取るアイドルたちも、

 売れ始めてくると反発するのが常のパターンであり、

 仲良しの月島の方の歩夢さんであったり、聖良さんであったり、理亞さんであったりが、

 売れている街道を進んでいったのは、ちゃんと彼女の言を聞きつつ、

 聞かないべきところをきちんと自身で考えてわきまえていたからである。

 亜里沙さんは調子に乗り始めるとアイドルの絢瀬絵里化を目指すようになり、

 ハイハイ分かりましたと流せる人じゃないとそもそも付き合いが長続きしない。

 SaintMoonの二人の引退を早めたのが妹さん疑惑が私の中であるけれど、

 とりあえずその考えは墓場まで持っていくことにする。

 そういえば、今更ながらに彼女は略すと”SM”なんだけども、

 聖良さんがMなんだなって――月島のMoonだと思ってたんだけど……。

 

「凛さんも本人の前では低評価を謳ってましたね?」

「複雑な乙女心なのよ……」

「あの界隈女の子が女の子を推してばっかりですね?」

「妹が姉を推し……あ、なんでもない」

 

 凛さんが絵里をイマイチ評価していないふうであるのは、

 彼女が一番に推す園田海未さんが輪にかけて絵里を押しているせい。

 実際とばっちりではあるんだけども、

 私からすれば星空凛から観た絢瀬絵里評は実に的確だと思われる。

 売れっ子タレントとしての人生経験上として考える趣もあるけれど、

 彼女の影の支配者にしてパートナーの小泉花陽さんの意思が強い可能性もある。

 過去に真姫さんがブチ切れた”絵里をうまく使おうとすると使えない”

 との発言は実に的確であったと思うんだけどな……。

 

「ニコ……朝日ちゃんはニコさんとの付き合いは?」

「そうですね……先生との付き合いはあまり

 売れっ子というのもありますし、幸せな環境で記憶が戻るのも悪いですし」

「お父さんがあんなにイケメンだとは……」

 

 UTX出身のスクールアイドルの実力の底上げに一役買っていたニコさんは、

 いかんせん指導した人間が多すぎて外れたり当たったりするケースが有るのか、

 正当に評価を受けているケースが少なかった人。

 μ'sの面々の中でもトップクラスに成功している人なのに、

 自分は出落ちみたいなものだからと自己評価もそれほど高くない。

 その点においては絢瀬絵里と矢澤にこさんはよく似ている。

 今では家族揃ってテレビにも出演をしていたり、

 美人姉妹(長女除く)みたいな評判もなくはないけれど、

 芸人をしているという点ではプラスになっていると思う。

 長女除くもあれだけど、一番下は弟であるという事実が、

 どれほど浸透しているか怪しい。

 

「ことりさんは……怖くないですよね?」

「……あくまでもぴゅあぴゅあ」

 

 過去には絢瀬絵里だけではなく、

 私や理亞さん、はてには絢瀬亜里沙さんやメンバーの同士である希さんまで

 鬼! 悪魔! ことり! ――あの事務員さんって別に課金要求しないよね?

 絵里が夢で魘されている現場を観たことが数度あるし、

 怖い人疑惑は私の中で未だに拭えない。

 が、ことりさんをよく知る海未さんからすると、

 パリで付き合っていたデザイナーの知り合いが、

 性格がブラックだったせいで生き残るためにはその影響を受けざるを得なかった

 のが正解であるらしい。

 メイドさんを連れて授業に取り組み、学院をたいそう優秀な成績で卒業し、

 誰もが知る有名デザイナーとして私も名前だけは良く知っている。

 外見的にあまり露出できないとは聞いているけれど、声はあんじゅに似ているらしい。

 そんなことりさんもなんやかんや言って絵里の評価は高く、

 海未さんや穂乃果さんが高く買っているから私は評価しないというツンデレ――

 な側面もなくはないけれど、本人に伝わらないように本人を評価している。

 なお、朝日さんが怖がっているのは、

 私とタッグを組んでアイドルとして活躍し始めた時に、

 衣装を提供してくれたんだけど、名前が気に食わないって言って

 多少辛辣な態度を取られたから。

 

「真姫さんは……今大学生なんだっけ?」

「そのようですね、てっきりもう声優になっているかと」

「コスプレもオタク趣味も控えているみたいね、

 元から真面目であった疑惑は無いこともないけれど」

 

 絵里に評価高くいたいがために自身の感情をど返しして

 キャラを演じる面々というのがμ'sには存在する。

 希さんなんかもそうであるし、海未さんもそう。

 真姫さんも明るくおちゃらけた下ネタオーケーキャラを演じ、

 それ故に絵里からの信頼度も抜群だった。

 ただ彼女にとって迷惑をかけられない妹的な立場であることも手伝い、

 それがお嬢様にとってはたいそう不満であった模様。

 未来組からマザーって呼ばれている事実と、

 過去において絵里になにかあって命を落としたりすると、

 絢瀬絵里を作り出そうとすることから、

 絵里があまり迷惑をかけないようにしたいという思いは的確。

 ただ、絵里に何かあれば絵里みたいなアンドロイド作ろうとするから交流は避けろ

 なんて口が避けても言えない。

 西木野真姫さん当人は自己評価があまり高くなく、

 人気もそんなにないしなーみたいな言い方をすることがあるけれど、

 彼女の強烈なシンパである桜坂しずくさんは影響を色濃く受け、

 弟のことを粗チンと呼んだりするケースもしばしば。

 どこまでが演技だかわからないあたり深窓のご令嬢のストレスの闇は深い。

 

「まあ、絵里を持ち上げると絵里は疑うからそこそこでいいのよ」

「ツバサさんとかがソコソコ具合に持ち上げているかと言うと、

 私はつねづね疑……あ、なんでもないです」

 

 ついつい表情が険しくなってしまったみたい。

 アイドルというのは笑顔が大事だとニコさんも言っていたし、

 作り笑いする技術は絵里共々学んでおかないと。

 

「……なに?」

「本当に絵里さんのこと大好きですよね」

「ばっ、違うし、ちょっと気になるだけだし!」

 

 腐れ縁具合を考えれば、ちょっと気になるの範疇は軽く越えている。

 朝日ちゃんはニヨニヨと言った感じの――とても不愉快な、

 恐ろしく気持ち悪いと評しても良い笑みを浮かべながら、

 いやいや分かってますよみたいな態度を取る。

 今まで英玲奈であるとか、あんじゅであるとか、

 私と仲が良い面々が絵里のことを考えてる私を見た時に

 あー、もう、みたいな笑みを浮かべることがしばしば。

 とても不愉快で残念ではあるけれど、

 絢瀬絵里も脳内で高確率で私のことをネタにしているらしく、

 いい加減結婚でもして同性婚の前例を作れと英玲奈には脅されている。

 同性かつ妹と婚約したいドシスコンはそんな無茶ぶりを振ってくるけれど、

 恐らく遠い未来でも妹と結婚できる法は作られないと思われた。

 

「この天才綺羅ツバサと対等に付き合えるのが

 絢瀬絵里しかいないから仕方なく付き合っているの」

「絵里さんくらいしかツバサさんと付き合ってくれないし、

 互いにそうだから傷の舐め合いしているだけですよね?」

 

 私はこめかみ辺りに感じる頭痛を指で抑えながら押し黙る。

 栗原姉妹ともなんやかんや言って長い付き合いではあるけれど、

 この二人はヒトの耳に入れたくない、目にしたくない事実を伝えてくる。

 ロリ化したヒナは情に厚い性格をしているせいか、

 そういう側面はないのだけれど。

 絵里が栗原姉妹を性格が良くて優しいと言っているけれど、

 私は常々、いい性格している姉妹だなって思っている。

 

「Aqoursは大丈夫ですか? 千歌さん歪んでません?」

「見た目はね。

 感じた限りでは記憶が戻ることそうでない子がいそう」

「善子さんの意志ではなさそうですね?」

「そうね、黒澤家のお姉さんがもう既に絵里を怪しい目で見ている以上――

 というより、三年生組はもう既にだいたい把握しているよね?」

「ダイヤさんは素晴らしい演技者ですね、旦那さんの影響でしょうか」

「あの子の旦那って妹みたいに可愛い子よね?」

「え、あ、ツバサさんあの人のこと知らないんですか? 

 だって英玲奈さんの元カレですよね?」

 

 恐ろしく驚いたと思う。

 あまりに驚きすぎて自分自身が驚いたという感覚がないくらい。

 統堂英玲奈に彼氏がいたという事実は私も知るところではある。

 しかしながら、園田海未さん、東條希さんと言った面々が

 彼氏がいると嘘をついていたため、

 あのドシスコンが男性に抱かれることなんて無いから、どうせ処女なんだろう、

 とばかり考えていた。

 朱音さんが私の弟に拒否反応を示すのは幼なじみで昔付き合いがあった――

 というわけではなく。

 

「英玲奈の元カレって……朱音さんと同じ格好させられてた人でしょ?」

「……ダイヤさんの旦那様は亜里沙さんと同じ年でしたね?」

「英玲奈が彼氏がいるって言ったのはハタチ前だから……あ、うん」

 

 まだ小学生で幼かった朱音さんが、自身に優しくしてくれたお兄さんの格好が、

 自分自身と同じであったことがかなり恋愛方面でのトラウマになっている模様。

 そりゃ、優木せつ菜化した弟に拒否反応も示すのも分かる。

 しかしながら、英玲奈とその彼氏さんとの付き合いは半年くらい続いたので、

 絵里に熱烈な愛情を向けるダイヤさんと付き合うくらいは訳がなさそう。

 朱音さんには菓子折りを送って、ダイヤさんには彼氏との生活を聞いておこう。

 

「千歌さんは……おそらく、歪んだキッカケが起こりえないので

 大丈夫なんじゃないですか?」

「キッカケ? Aqoursが廃校を回避できなかったからじゃないの?」

「え? だって聖良さん知ってましたよ?」

「いやに聖良さんが千歌さんをドライに見捨ててるなとは思ったけど……」

「言っておきますけど、その理由、ルビィさんが絵里さん嫌ってるとか

 そんなのが甘っちろく感じる理由ですからね?」

 

 過去の絵里はルビィさんに苦手にされても可愛い妹であったらしく、

 二回殺されているにも関わらず、そしてどのループでも常に苦手にされていたのに、

 まあ、しょうがないわねで済ませている。

 行き違いがあったせいで理亞さんにも一回殺されているのに強い信頼をしているから、

 どこかしらおかしな部分はあるんだと思う、絵里も私も。

 ルビィさんが絵里を苦手にしている理由は、ダイヤさんも把握している通り

 嫉妬と逆恨みが主成分として含まれる。

 言い表すなら自分より努力をしていない(ように見える)絵里が、

 ダイヤさんとか善子さん、千歌さん以外のAqoursやμ'sのメンバーとかから

 強い信頼と友好的な感情を抱かれていることが気に食わないであるみたい。

 幼い頃からシスコンのお姉さんから大事にされすぎたせいで、

 自分自身より愛されている存在に関して敏感に反応を示すんだと思う。

 絵里は人間でものそういうこともあるわで済ませたけど、

 理亞さんは二度と日の目を見れないようにしてやろうかとブチギレた、そりゃそうだ。

 ただ、ルビィさんの過去のループにおいての行動は、

 彼女を煽って甘い汁を吸おうとしていた人間がいたこともあるし、

 そいつは善子さんにアイツだけは許さないと逆鱗に触れて以降どうなったかわからない。

 私達が元の世界に還ってくる時に姿がなかったから、

 絵里にすら見捨てられた可能性がある、ご愁傷様。

 

「千歌さんがああなった理由を善子さんに告げていれば、

 もっと仲良くみんなで過ごせる時間が増えたかもしれませんね……」

「……どのみちああなったのよ、あなたが責任を感じる必要はない」

「大好きだったんですよねえ……善子さんのこと……」

 

 恩義を感じている千歌さんをなんとかしたい、

 というのがキッカケだったとは思う。

 桜内梨子さんが人実に取られたからとか、ダイヤさんが脅迫されたからとか、

 仕方ない部分はあったにせよ、結論づけたのは千歌さんへの低評価。

 全人類の敵に回ろうともその願いが叶わないことに動揺した彼女が、

 花陽さんや理亞さんにせっつかれて

 μ'sのメンバーを消し去ろうとしたのを思いとどまってくれた。

 絵里や希さんに関してはそうせざるを得なかったのでしょうがない。

 ただ、もう既に退場させられていた私であるとか朝日ちゃんもそう、

 あんじゅとか雪穂さんとか月島の方の歩夢さんもそう。

 私やあんじゅや絵里が世界から存在しなくなって弟がどれほど落ち込んだかを考えると、

 確かに彼女を許せなく思う側面はあったりもする。

 朝日ちゃんが言う通り、私も善子さんを好ましく思う部分があったし、

 絵里も善子さんへは守りたい人扱いをしていた。

 ただ彼女のチョンボは世界から退場させ存在を抹消させられるけど、

 元には戻せないという点であり、

 朱音さんがなんとかしなかったら私は退場させられた面々と

 仲良く酒を飲んでいた可能性がある。

 天国みたいな場所だったんですよ?

 

「千歌さんがああなったのは――

 高坂穂乃果さんが幸福な状況でなかったからですね」

「え? だって、それは」

「Aqoursの活躍によって穂乃果さんが問題を抱えたのは知っています

 千歌さん自身も精神的にパンクして、それでも最後に

 憧れてた穂乃果さんが幸せならば――

 もう、その時点で彼女がどうかしていたんだと思います」

「まさか、”あの時”の穂乃果さんを見てしまったの?」

「……ツバサさんは知っていたんですか?」

「あ、ごめんなさい、私も人づてにしか聞いたことがないの

 誰もが、あの時穂乃果さんを助けておけばって――そんな後悔をしてしまう、

 そんな状況に陥った穂乃果さんを見たって」

「絵里さんは――」

「観たであろうとは推測している

 ただ、観たという記憶を既に持っていない、

 おそらく、そんな状況に陥った穂乃果さんを観たら、

 絵里はもうどうにかなってしまって――」

 

 いや?

 もしかしたら私の認識する絢瀬絵里という人間は―― 

 もうすでにどうにかなってしまっているのでは?

 

「ちょっと考えさせて」

 

 朝日ちゃんに告げる。

 あの時、ルビィちゃんに背中刺されて死んだ後のループで、

 いやぁ、また殺されちゃったなあとサラッと言ってた。

 あの時のニュアンスとしては黒澤ルビィさんに殺されるのが二回目ではあったはず。

 でも、以前のループで西園寺雪姫ちゃんがルビィさんに関してはそこまで警戒していなかった。

 どちらかと言えば、理亞さんや千歌さんの二人を気にしていたはず。

 理亞さんに関しては絵里の意思を曲げてまで入れ替わり好感度を上げ、

 聖良さんとの交流は歩夢さん退場後に彼女が接触するまで控えられた。

 絵里が聖良さんのような態度で理亞さんの好感度を上げようとすると、

 特大の死亡フラグが立ってしまうし。

 そういえば絵里がきれいと称する彼女になったのは、記憶にある限り以前が最初。

 完璧に美少女化するまで多少の変遷はあったけど、

 絵里のことを何でも許してしまうところまでは行っていなかった――

 

「……あんじゅさん、ツバサさんいつ気が付きますかね?」

「背中にセミでもくっつけておきましょ」

 

 なんだ? 誰かではない何かの意思――

 それが私にも、絵里にも、理亞さんにも――

 もしかしたら人類の誰しもが

 何者かの都合の良いような世界を作り出すために

 こうしてループを重ねている?

 絵里が未来に進むためではなく、その誰かの意思によってループが?

 なら私は――


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