アラサーニートエリちとキャリアウーマン亜里沙   作:桜川凛

30 / 199
園田海未ルート 番外編 02

 凛ちゃんや真姫ちゃんと一緒に淡島ホテルでμ'sの再結成会!

 何ていう話を穂乃果ちゃんが言って、

 トントン拍子に話が進んでいった時に、

 正直私は不安な気持ちでいっぱいになりました。

 μ'sが9人揃って集まる機会というのは好ましく思うのです。

 でもそれが、Aqoursのお膝元である静岡の淡島ホテルで行わなくても――

 なんて考えてしまいました。

 穂乃果ちゃんの知り合いが居てたまたまその場所で行うのなら、

 私もこんなふうには考えたりしません。

 でも、黒澤ダイヤちゃんとか、小原鞠莉ちゃんが

 淡島ホテルでμ'sの再活動を始めて欲しいとお願いしたのなら

 Aqoursのためにそのように活動をして頂きたいと懇願されたとするのが当然です。

 嫌だとも言い切れず、断る理由も思いつかなかった私は、

 凛ちゃんが”またμ'sが9人揃って活動ができて本当に嬉しい!”と、

 心底喜んでいる様子を見て、困ったように笑うことしかできなかったのです。

 ――思えば、その時に真姫ちゃんは確信を持って、

 私がもはや小泉花陽の体をしているだけの赤の他人であると気づいたのでしょう。

 いつからであったのか、

 そんなことは私自身でもわかりません、

 穂乃果ちゃんが元気を無くす様子を見て小泉花陽がもうすでにどこかしら

 精神に変調をきたしていたのは確実で――

 まだ機会はある、西園寺雪姫にも私が気づかれていない以上、

 大いなる意思のもと、あの方の希望するままに皆が過ごせる世界を作れるはず――

 

「真姫ちゃんはこの世界を地獄のようと言った

 でも、あの方の意思のままに生きることが地獄のはずがない

 間違っているのはあの子たち――

 

 ひとまず……さようなら花陽、あなたがもとに戻った時、

 あなたがあなた自身でいられる保証はないけれど、

 そこまで私が責任を持つ必要はない、あいつらは一人残らず地獄に落ちればいい」

 

 私自身が小泉花陽から離れる前に

 ほんの少しだけ過去の記憶を反芻してみます。

 どれほど自身が正しいか思索すると同時に、

 歪んでいる人達を見て笑いたい気分でもあるから――

 

 

 μ'sの一年生組が先鋒隊として淡島ホテルに到着し、

 歓迎されるのと同時に厄介事を押しつけられたなあという感想を抱きました。

 恐らく小泉花陽としては凛ちゃんと同じように、

 μ'sが9人揃って活動できて嬉しい! という気持ちもあるのでしょう。

 体面上は嬉しい気持ちを隠さずに居ますし、それを気取られるとすれば、

 もうすでに私の正体に気づき始めている真姫ちゃんだけ。

 彼女も確証を持てないであるのか、晒し上げる機会を待っているのか、

 それとも私に遠慮する気持ちもあるのか――

 記憶が戻った当初にサシで飲む機会を作るなら一番最初は絵里と、

 なんて言っていたのですぐに私たちとの関係を解消し、

 無理矢理にでも記憶を取り戻させて仲良く付き合うくらいのことはしそうではあったのに、

 μ'sの一年生組で一緒にいることを選択しました。

 元からこの世界では大いなる意思のもと、ある程度の記憶操作が行われ、

 平穏かつ皆が幸福に過ごしていけるような配慮がされました。

 この世界における人類と呼ばれる存在が

 ”何故こうであるのか”

 ”理由があるのではないか”

 ”意図があるのではないか”

 深く考えず意味よりも単語の力を強く尊重し、何も考えず生きていけるよう――

 人間は群れで集まった所で意味はなく、誰かの意思のもと飼い犬のように過ごしていけば

 なんら不自由なく過ごしていけるのです。

 そのような世界を作ったつもりであるのに。  

 大いなる意志の嘆きが聞こえるようです。

 

「凛ちゃんはお留守番なの?」

「ええ、過去のお話をするのに差し支えがあるでしょう?」

 

 この様子ならば星空凛という女の子が記憶が戻らない組に所属していることに

 まったく気づいていないのでしょう。

 いかに過去の話をしたところで夢物語としてしか判断しません、

 考慮が仇になるのは真姫ちゃんのダメなところでもあります。

 私が敵だと判断をしているのならば最初から消しにかかればいい、

 もうすでに小泉花陽としての意思が存在しない以上、遠慮する必要はないはず。

 人間の甘さと言えばそれまでですが、

 ゆえにやはり人間は管理されていかなければならない。

 

 ホテルのバーに向かい、

 VIP向けの個室にて私たちは対面しました。

 人払いでもされているのか、なにかに警戒でもしているのか。

 人間がどれほど集まった所で何ができるわけでもありませんが。

 警戒にあたっている方々にはご愁傷様という言葉を送っておきましょう。

 

「一つ確認するけれど、あなたは私の知っている小泉花陽であるの?」

 

 確信をしている風ではあるけれど、

 お酒の席ということで少しばかりアルコールが入り、

 耄碌した発言をしているとこちら側が判断してもいい。

 そのように発言をすれば違うと否定しつつも、

 花陽の意識が残っていると判断して矛を収める可能性もある。

 コトを荒立てることは本意ではないし、

 私も少しばかり憂慮をしてもいい立場ではあります。

 

「私が知っている花陽なら、

 私とサシで飲もうといえば全力で回避するでしょう?」

 

 黙っていると彼女が話題を進め始めました。

 過去においてもそうであったと言われてしまうと、

 意識としては花陽の分も多少存在していたから、

 小泉花陽が西木野真姫との飲み会を避けているという事実が知られるところになる。

 彼女がどれほど意識的にμ'sのメンバーからお酒での交流を避けられているのか

 知らないと思われる、知っていたら私を誘ったりなどしない。

 

「人は変われるものだよ

 だからね、真姫ちゃんもお酒に弱いのが治ったと思ったの」

 

 カクテルを提供されたため仕方なくそれを口に含み

 正直酒の味なんか分からないけれど、飲まないでいるのは不自然。

 真姫ちゃんが望む通りの反応ができたと自負しているし、

 さぞかし納得のいった顔を――

 

「まずひとつめ、私の知っている花陽ならば、

 お酒を口にした後に本音は吐かない。

 絵里の前で酒の力を使って本音を吐いた見えるのは、

 そうであると判断されたほうが相手によく伝わると分かっているから」

 

 自分の手が止まりました。

 なぜかは分からないけれど、私が知る以上に彼女は小泉花陽を把握している。

 

「ふたつめ、花陽は必要にかられない限りはポン酒しか飲まない

 私の前で遠慮をしてカクテルを飲むなんてことはしない

 私の知る花陽なら、分かってるでしょ真姫ちゃん――

 それくらいのことは遠慮せず言う。

 だって私たちは長い付き合いのある親友であるのよ?」

 

 どこまで私のことまで把握されている?

 ……いや、小泉花陽が変調を来たしている程度に受け止めている可能性がある。

 ループを重ねた末に人格が改められたり変化するのは

 彼女だって知っているはず。

 

「みっつめ、何故凛を止めなかったの?

 凛が辛い思いをするのであれば、花陽なら必ず彼女を止めたはずよ

 私の知る花陽は、私が想定する以上に誰のこともよく分かっている。

 自身が不幸になることを厭わずに、誰かの幸福を考えている女の子よ?

 絵里と花陽はよく似てる――そして今のあなたは、似てない」

 

 西木野真姫という人間が私を見ていることに気がついた。

 射抜くような視線を向けられて思わず怯えた。

 

「あなた、この世界はどう思う?」

 

 冷徹な視線を捨て、柔らかな表情と優しい声色。

 先程までの態度が演技であったかと疑ってしまうほど、

 仲のいい友人に問いかけるように尋ねられた。

 確かに慌てても仕方がない、私をどうこうできる存在は

 よもやこの場にいるとは思わない。

 ――そのとおりです。

 私に手出しができないのならば、冷静に対応するのが筋というものです。

 酒の席なら、彼女にお酒をすすめればそのまま沈むことでしょう。

 

「みんなが幸せになれる世界だと思うよ?

 だって実際に不幸なできごとって起こってないでしょう?」

「ええ、μ'sはラブライブに出場することは叶わなかったけど

 円満に終わらせることができた、穂乃果がトラウマを作ることもなかった」 

 

 彼女が大学入学当初に体験した有象無象の嫌がらせは、

 私が小泉花陽に介入するキッカケにもなりました。 

 誰しもが自身の不備を問うできごとでもあり、

 誰もが後悔をせずにはいられなかったという話でもあります。

 

「ことりちゃんや海未ちゃんも穂乃果ちゃんと要られて幸せそうだよね?」

「ええ、二人は穂乃果の危機に居合わせることができなかったのが、

 かなり根深いトラウマでもあった――海未が千歌を相手にしたのは、

 穂乃果を助けられなかった代替手段でもあったと思う、

 意識的であるのか、もうそこまで考えられる精神ではなかったのか」

 

 この世界に至る頃のμ'sのメンバーはどこかしらにそれぞれ精神に異常をきたしていた。

 彼女たちはついぞ気がつくことはなかったようではありますが、

 μ'sが幸福に至れなかった現実がAqoursを狂わせたのです。

 津島善子という少女が暴虐的に世界改変に臨んだのも、

 μ'sが至らなかった故の結果であることに気が付かないのは可哀想でもあります。

 

「真姫ちゃんは何が不満なの?」

「この世界は地獄よ」

 

 何を言っているのかと思いました。

 彼女はお酒を一気に飲み干し、熱い息を吐きながらこちらに目を向け。

 

「幸せになれる世界? 馬鹿なこと言わないで

 この世界は地獄よ。

 まるでプログラミングされたみたいに幸福だって思われる事象が起こる。

 絵里たちがあんな両親から愛されている世界が幸福?

 ニコちゃんがアイドルやらないで芸人やってる世界が幸福?

 海未が穂乃果のお母さんみたいに世話焼いている世界が?

 ことりが夢を捨てて穂乃果の近くにいるのが?

 希が両親に何不自由なく育てられてずーっと秋葉原で過ごしていた世界が?

 穂乃果が仮面を貼り付けたみたいに笑っている世界が――!

 

 確信したわ、あなた――あなたとあなたの背後にいる人達は私の敵」

「あなたごときに何ができるというの?

 あなたが相手にしようとしているのは、

 そうね、あなたに分かるように言うのならば、神よ?」

「だから何だって言うの? 気に入らない存在なら、

 神であろうが喧嘩を売るっていうのが人間のお約束でしょう?」

「そこまで自信を持てる理由が私にはわからないけれど」

 

 でも、愚かな人間に慈悲を与えるのも

 大いなる意思の願いでもある。

 この西木野真姫が意思のもとに消されていない時点で

 ある程度の反逆は考慮のもとでもあるのでしょう。

 

「私の妹がいずれ成長を重ね、あなたたちを潰す」

「あら? 結局は人任せ?」

「でも彼女は先鋒、あなた方の場所に案内させるためのメッセンジャー」

「ふふ、わかった、今はひとまず引いてあげましょう?

 小泉花陽は返してあげる、でも忘れないで?

 私がいたからこそ彼女は今の今まで生きてこられていたという事実に」

 

 埒が明かないと判断し、私は彼女に背を向けてバーから出ていく。

 花陽が目覚めた時にそこらで寝転がらせていてはかわいそうであるから――。


 ▲ページの一番上に飛ぶ
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。