アラサーニートエリちとキャリアウーマン亜里沙   作:桜川凛

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(※) 亜里沙ルート 第一話 04

 南條さんに見送られた私は、

 旅館でも有数の良いところなんだろうなあ、みたいな場所を通り抜け、

 襖を開けて中に入る。

 襖なんでノックはしなかったし、声もかけなかったけど、姉妹だから平気だよね?

 

「姉さん、上司ともなろう人間の部屋に入る時に声をかけないとは、

 いい度胸ですね? 社会人の基礎からやり直しましょうか?」

 

 平気じゃありませんでした。

 私は苦笑いをしながら数歩下がり、

 このままUターンをして、逃げ帰ってしまおうかと思ったけど。

 

 

「お、お姉さまに対して、か、隠し事をするような妹に育てた覚えはありません!」

「育てられてません、隠し事をしていたわけでもありません」

「へ、へら、減らず口を!」

「その三下の演技、必要以上にハマっているのでやめて貰えませんか?」

 

 妹がドSです。

 今も、冷徹かつ見上げているのに見下したような目をしながら、

 この絢瀬絵里を完全に掌握しようとしている。

 南條さんに殴り合いもなんて言われたけど、

 恐らく、というか確実に、私がフルボッコされるだけで終わりそう。

 

「はあ、座ってください、正座でいいですよ」

「すみません、せめて足を崩せませんか」

「まあ、許しましょう、お酒は何が良いですか? スピリタスとかありますよ」

 

 乾いた笑いを浮かべると、本当にスピリタスを持ってきたので、

 せめてビール、あ、発泡酒で

 と告げたところ、社会人のお約束アサヒスーパードライ(瓶)を持ってきた。

 

「では、乾杯しましょう」

「はい、社長!」

「プロデューサーです」

 

 コツンと合わされるコップ。

 

「良い飲みっぷりですね、今度健康診断に行きましょう」

「お酒の席でそういう世知辛いことを言うのはやめましょう」

「まあ、良いではないですか……では、そうですね、なにからお話すればいいか」

 

 ここではじめて、亜里沙が戸惑ったような、恥ずかしげな表情を見せる。

 最初からそういう表情を見せてくれれば、私だって必要以上に肝を冷やすことも

 あるような無いような、まあ、それはともかく。

 

 

「今の私の肩書きは、ハニワプロのプロデューサーで、この企画の責任者でもあります」

「ずいぶん大掛かりな企画を立ち上げたものね」

「前々からにこさんとか、色んな人に声をかけてはいたんですけどね」

「……え、なに? にこは仕掛け人なの?」

「もちろんです、でなければホイホイUTXでライブなど出来ませんから」

 

 以前こころちゃんを拾って、にこの家に来た時には

 もうすでに絢瀬絵里を巻き込んだ復活祭の企画は通されていて、

 それどころか、私がニートしていた時代から、

 ハニワプロは水面下で動いていたという恐ろしい事実を聞かされた。

 

 いかにして、ハニワプロで本人の許可無く絢瀬絵里という人間が

 持て囃されてきたのか聞かなければいけない気もしたけど、

 私の大学入学から今までずっと待ってたなんて言われれば

 申し訳無さで切腹しかねないのでやめることにした。

 

「一番協力を頂いたのは、希さんです」

「あいつ……」

「A-RISEの皆さんや、ヒナちゃん、ちーちゃん、歩夢、まあ、色んな人たちが

 この度の企画に賛同しました。

 絢瀬絵里という人間にそこまでの価値があるのかという古い方もいましたが」

「いや、それ、普通の価値観だと思うけど……」

 

 あと、ヒナちゃんというのは先の陽向さんだとして、ちーちゃんって誰だ。

 私の知り合いの可能性が高いけど、記憶にも引っかからないぞ?

 

 

「姉さん」

「なあに?」

「下世話な話で申し訳ありませんが、絢瀬絵里という人間は、私の経験上、お金になります」

「……まあ、そのお金で私はニートしていたわけだから、あえてツッコまないけど」

 

 価値とか、よく分からない指針よりよっぽどマシだと思うけ。

 なんていうか、自分という人間を見誤りすぎてやしないかと思わないでもない。

 

「そういえば、Re Starsのメンバーって、何を基準にして選んだの?」

「シェアハウスの面接で、絢瀬絵里を語ったメンバーです」

「……え、本当に?」

「私が面接するときには必ず、好きなアイドルの話をするように面接をします。

 熱意とか情熱とか、基準は色々あるのですが、

 こうなりたい、ああなりたいという目標を示して頂くんです」

 

 まあ、理亞ちゃんという例外はいますが、

 と苦笑いをしながら亜里沙が語った時、私は思い当たることがあった。

 そういえば、私自身も忘れがちだったけど、

 シェアハウスの住人は私の顔を知らない私のファンだったな?

 

「じゃあ、何故私の正体が気づかれなかったのか……」

「薄々は気づいているのではないですか? 私は正直今回の合宿で

 メンバーが減るものだと思ってました。

 誰一人も逃げず、へこたれず、それでも前を向いてここまで来ました

 恐らく彼女たちが頑張ったのは、理想の絢瀬絵里が、近くで自分たちとレッスンしてくれたから

 なのだと思いますよ」

 

 いやあ、でも、朝日ちゃんあたりはツバサに乗せられて私の悪口めっちゃ言ってたけどなあ……。

 ああでも、仮に正体を感づかれているのに、悪口を言われてるとなるとそれはそれで……。

 

 

「じゃあ、ちょっと、真面目な話をするけど」

「姉さんにできるんですか」

「亜里沙は、この企画が終わったら、どうするの?

 私をプロデュースして世界でも取るつもり?」

「アホなこと言わないでください」

 

 そもそも絢瀬絵里で世界は取れません

 とか、冷静なツッコミが返ってくるかと思いきや

 

「そもそも私はハニワプロのプロデューサー、ただの社員です

 明日からお前は営業と言われれば従わざるを得ません、

 仮に上が絢瀬絵里で世界を取れといえば、仕方なく従いますが

 そんなことはありえません、夢を見ないでください」

 

 なんか辛辣な言葉になって返ってきた。

 まあ、確かに、今までニートだった人間がいきなり世界レベルにアイドルになるとか

 本当に夢物語も良いところである。

 

「まあ、今の所、A-RISEの復活ライブでツバサさんを売り出すことも出来ますし

 アンリアルも今まで以上に売れることになると思います

 もうすでにCDの発売も決まってますし、イベントの予定もありますし、

 Re Starsのメンバーにはもっともっと血反吐を吐いて貰うことになるかと思いますが」

「せめて当人の許可を取ってから企画は通してちょうだい」

「いいんですよ、絢瀬絵里以外の許可は頂いてますから」

「え、私の人権は?」

 

 A-RISEのライブを踏み台にした自分たちのデビューイベントかと思いきや、

 やっぱり、綺羅ツバサや鹿角理亞や黒澤ルビィを推し出すことを考えている辺り、

 このプロデューサーには本当、敵いそうもない。

 

「本当にお姉ちゃんが、

 嫌だって言ってやめたいというのなら、

 今からでもやめられますよ?」

「ふざけたこと言わないでちょうだい」

「本当に?」

「別に私を乗せた人物や、この企画に賛同する人が路頭に迷っても

 私自身はどうでもいいけどね?

 でも、私はあなたのお姉ちゃんなんだから、

 姉が妹にすべきことは、妹のお願いをかなえることでしょ?」

「シスコンですね」

「……ごめんなさい、恐らくだけど、ハニワプロのスタッフのほぼ全員が

 私と亜里沙のどちらをシスコンかと問われれば、間違いなくあなたを指名するわ」

「ハラショー……」


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