アラサーニートエリちとキャリアウーマン亜里沙   作:桜川凛

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亜里沙ルート 第一話 15

 

 

 LOVELESS WORLDという曲がある。

 なんかこう真姫ちゃんの曲ってなんかアレ、上手く言えないんだけどさー

 という穂乃果のアバウト過ぎる指摘にお嬢様激おこ。

 すったもんだの末に作り上げたのが前述の曲ではあるんだけど、

 いざ歌詞を作成するとなった際に穂乃果がまたしても、

 海未ちゃんの歌詞っぽくない曲だよね! と言い放ち園田さん激おこ。

 その後通称ソルゲ組でネット放送をしたけど空気がダークブルー。

 怒りを抱えている二人のメンバーに右往左往する金髪が滑稽で、

 μ'sの放送で一番の再生回数を誇るけど、私は二度とあんな思いはしたくない。

 

 

 ちなみに歌詞は、μ'sのメンバーで誰が相応しいかオーディションをすることになり、

 園田海未監督の元、ああでもないこうでもないと試行錯誤の末決まらず、

 では曲に歌詞をつけてもらいましょうと、オトノキ生に募集をかけて、

 見事歌詞の作成権を勝ち取ったのは私の妹(オトノキ生じゃない)だった。

 ――後にも先にも、μ'sの面々が関わってないμ'sの曲はこれっきりである。

 

 

 NO EXIT ORIONの歌詞を作った際の花陽もそうなんだけど、

 キャラにない歌詞を作った時に反応に困るのは常に私。

 なんだかよく分からないうちに私に歌詞が届けられ、

 どうかな絵里ちゃんみたいに言われてしまうと、

 専門家でもない私は、まあ、良いんじゃないとしか言えない。

 

 あと、NO EXIT ORIONの歌詞を見た後に、

 希にこう、なんだかよく分からない歌詞よね?

 って言ったら、

 エリちは恋も知らんからなあとしたり顔で言われたけど。

 数年後、本当に恋をした東條希は

 「わからない、あなたの気持ちが」

 と小泉花陽に言ったのは私の中でどう反応すればいいの?

 

「千歌ちゃんいない?」

 

 おっかなびっくりと言った様子で部屋に入って来たのは穂乃果。

 キョロキョロとあたりを見渡しながら、むすーっとした表情を浮かべる。

 前の飲み会の時はそんなに邪険にしてなかったじゃないと問いかけると、

 希ちゃんの手前、あからさまに避けるわけにはいかなかったという返答。

 

「千歌は……そうですね、穂乃果さんのためなら地獄の果てまで付いてきますから」

 

 ダイヤさんのコメントに、

 なんとも言えない表情を浮かべる一同。

 少し向こうに行って欲しいというニュアンスでリクルート雑誌を頼んだら、

 3分もしないうちに帰ってきた際に、

 あ、これはダメかも分からないと穂乃果が思ったそうだけれど、

 なんというか、なんというかである。

 

「ええと……そうですね

 今回の、絢瀬絵里(笑)企画に賛同いただき、

 それどころか多くのμ'sの方々を巻き込んで頂いて、

 本当にどれほど感謝すれば良いか……」

 

 だんだん企画の説明がぞんざいになっている気がするけど?

 私を見世物にして笑おう企画ならもうちょっと小規模にしてほしいけれど、

 なんか私に好意的な人はやたら権力を持ってるから、

 自分としてはどう反応をして良いのかわからない、あなたの気持ちが。

 

「うん、あの。

 絵里ちゃんにはゴメンだけど

 私がμ'sに関わるのはこれっきり、ほんとう、これっきりだからさ」

 

 最後になにかしたいなって思って利用しちゃったテヘペロ。

 みたいに言われても、絢瀬絵里としては首を傾げざるを得ない。

 穂乃果と会ったりなんだりする時には、ほぼほぼμ'sの話題が出て、

 高校時代はあんなだったこんなだったというエピソードがたいてい出てくるけど、

 あ、もしかして、今流行りの(でもない)ツンデレってやつかしら?

 

「普段は気をつけてるんだけど、お酒が入るとどうしてもね」

 

 確かに、私と穂乃果が一緒にいる時にはだいたいお酒が入ってる。

 どんなに嫌おうとしても彼女の心にあるのはμ'sだということに、

 それが如何程ばかり苦しいのかは想像することしか出来ないけれど。

 

「あとその、亜里沙ちゃん……お金ありがとうございます」

「お金?」

 

 現在進行系で亜里沙の財布からお金が逃げている現状を目の当たりにし、

 いつか妹に全額まるっと支払うにはどれほど働けば良いの考えると、

 Re Starsのリーダーとしてセンター張るくらいでは足りないかもわからない。

 ここで未だに胸をワシワシしているお嬢様に取り入ればはした金だという事実に、

 なんとなく心躍る感がしなくもないけれど……。

 あと、亜里沙も穂乃果も、ダイヤさんが何食わぬ顔で私の胸を触ってるけどスルーなんだね?

 

「いえ、穂乃果さんに対する温情はお金では語れません。

 ……ですが、ツバサさんはアタッシュケースを用意したとか」

「とりあえず形から入ってみるのって言って

 1000万渡された時は、私はどう反応して良いのかわからなかったよ……

 ダイヤちゃん、ほんとうお世話になりました」

「私ができることなら何でもします、それが務めというものです」

 

 どうやら私の知りえない所で、穂乃果にお金が集まっているらしい。

 居酒屋の店員としてカリスマ性を発揮したけれど、

 今度は社長にでもなって天下を取る心持ちなのか――

 先が不安なアイドルより秘書にでもしてくれないかなとちょっと阿呆なことを考える。

 

「絵里ちゃん」

「ん?」

「私ね、外国に行くよ」

 

 ――ん?

 私はキョトンとして言葉が出ない。

 

「正確にはアメリカかな、

 たぶん、日本にはもう帰らない」

「帰らない?」

「いや、どのみちお金を返さなきゃいけないから、

 帰らないこともないんだけどさ。

 高坂穂乃果はアメリカでスターになります」

 

 コウサカホノカハアメリカデスターニナリマス。

 ……ええと、

 高坂穂乃果は

 アメリカで

 スターなります。

 

「ええ!?」

「ようやく穂乃果さんの言葉の意味を理解したみたいです」

「私の中で高校2年生の4月の初頭に会った絵里ちゃんと、

 今の絵里ちゃんが同一人物ではない説があるけど」

 

 失礼なと反論しようとしたら、

 誰ひとり私と目を合わせず、不憫そうにうつむくばかり。

 え、わりと私ってクールなタイプだと思うんだけれど違うの?

 

 私に対するぞんざいな扱いが、自己責任の範疇であるのか、

 それとも個人の資質によるものなのかはおいておいて。

 

「外国に行くって言うと……あ、ニューヨークだけに温泉街とか?」

「亜里沙ちゃん、ロシアの血が流れているというより

 ギャグおじさんの血が流れているような気がするんだけれど」

「アルコールの摂取のしすぎです、少し自重させます」

 

 とにかく頭が回らず。

 ただ不憫そうに三人から見られ、

 慌てる絢瀬絵里の未来はどちらか。

 

 先ほど来ことりが飲み散らかしていた飲み物を

 チューチューと飲みながら、

 少しばかり落ち着いてきた私。

 女王様にご奉仕とばかりにあらゆる場所をマッサージされているけど、

 どちらかと言えば、苦労してきたお年寄りに対する

 今までご苦労さまといった態度と言ったふうなのが少し気になる。

 あと、ダイヤさんはアレだね、そこはマッサージと言うより愛撫って言ったほうが近いからね?

 

「絵里ちゃん、

 想定外の状況にパニックになるのは分かるけど、

 私だって別にびっくりさせようとしていってるわけじゃないんだよ」

 

 もう今や懐かしき、高校時代のアメリカ公演。

 穂乃果が電車に乗り間違えて私たちとはぐれたことがある。

 園田海未が憤慨し、

 南ことりが黒くなり、

 警察に駆け込もうとした小泉花陽が図体のでかい相手にパニックになり、

 誰か助けてと叫ぼうとして射殺されかかった時のエピソード。

 アメリカの警察官はすぐに拳銃を抜くからおそロシア(真顔)

 

「たしかにね、μ'sは私にとって心地のいい場所だった。

 でも、もう、μ'sは終わり。

 今までの私はそのことから逃避し続けようとしてた――

 

 だから。

 私は。

 アメリカでスターになります」

 

 大コケする私。

 シリアスな話が始まるかと思いきや、

 その過程を見事にすっ飛ばし、結論を告げる。

 それが高坂穂乃果という人間だと言われれば、

 たしかにそう思わなくもないんだけれど。

 

「ええとですね姉さん。

 このまま、μ'sの高坂穂乃果で居るよりも、

 より有名な世界スターになってしまえと、つまりはそういうことです」

 

 頭の上に特大のはてなマーク浮かべながら、首をひねり。

 足りない脳みそでいかんばかりのことか考えてみる。

 確かに、μ'sの高坂穂乃果としての評判は消えるかも知れないけど、

 千歌さんみたいな信者を余計に増やすだけに終わるのでは?

 と思わないでもない。

 

「穂乃果って英語できたっけ?」

「だいじょうぶ、ボディランゲージがあるから!」

 

 胸を張る穂乃果。

 やればできる子の彼女ではあるけれど、

 アメリカという未開の地(感想には個人差があります)で、

 パートナー一人付けずにハリウッド(想像)に挑戦するとは……。

 日本って忍者とか侍が歩いてるんでしょ?

 っていう米国で、穂乃果がひとり歩いていたら、

 ハラキリと叫んだアメリカ人にサインの一つでも求められるかも知れない。

 

「……秘書として絢瀬絵里を連れてくるつもりはない?」

「世界的なニートでも目指すの?」

「姉さんならありえますね」

「絵里さん、世界を目指すならば、まずは独立しましょう」

 

 寄ってたかってフルボッコ。

 あなたになんて連れて行った所で役立たずと言わんばかりの面々に、

 通訳くらいは出来ると叫びたいところではあるけれど。

 

「私もね、一人で挑戦するつもりじゃないんだよ。

 私を支えてくれるパートナーがいるからさ」

 

 と言って、その人の写真を見せる穂乃果。

 その写真を見た一同の反応は。

 

「声が高山みなみさんっぽいわね?」

「ええ、なんとなくコナンっぽい声がしそうな」

「コナンと言うか……ええ、まあ、それで」

 

 穂乃果が複雑そうな表情をしながら、

 なんで声も聞いていないのにイメージが湧くのかといったけど、

 そう思ってしまったのだから仕方ない。

 とにかく、穂乃果自身も名前も知らない相手と、

 アメリカに行ってスターになるという途方もない目標に対して、

 

「……そうね、やればいいと思うわ」

「止めない?」

「止めないわ、穂乃果ならできそうな気がする」

 

 もうすでにお金が3000万ほど集まってますからね、

 という、黒澤家の帝王の発言は華麗にスルー。

 別に私が、高坂穂乃果を邪険にするとか、

 遠ざけたいという意図があるとかそういうのではなく。

 

 ただ、なんとなく。

 穂乃果は日本云々というより、

 世界で羽ばたいていきそうな存在であるから。

 でも、

 それは私自身の買いかぶりであるのか、

 無責任さの表れであるのか。

 

「ワールドシリーズとかで始球式でもしてみて?

 そしたら現地駆けつけて応援するから」

「……その時に絵里ちゃんは飛行機代は誰に借りるのかな?」

「滞在費やその他経費……現実に考えて数十万は飛びますね?」

「Re Starsとして売れれば御の字、売れなければ妹の財布が軽くなります」

 

 格好良く決めたつもりなのに、

 現実的にそれは無理だろみたいな反応はやめて欲しい。

 あと、大谷くんが先発する時に始球式をするためにはどれほどかかるかとか

 生々しい計算をするのもやめて欲しい。

 

「いつ出発するの?」

「そうだね、とりあえずライブのあとかな?

 μ'sの誰かが来ると大変なことになるかもだし、

 見送りは良いから」

「寂しくない?」

「寂しくないよ、私はひとりじゃないから」

 

 まっすぐ私を見つめてくる穂乃果。

 

「絵里ちゃんゴメンね、μ'sのことはお任せします

 どう語るのも、どう料理するのも自由。

 必要とあらば、ARI'sみたいなグループも作っていいし」

 

 それ、私がわーるかったわねぇ? みたいに言ってるやつ?

 

「ただ、一つだけお願い

 私にもし何かがあっても泣いたりしないで」

「ダメよ、亜里沙にお金を返してからじゃないと、そんなの許さないわ」

「姉さんはまず自分が私にお金を返すのが先じゃないですか?」

 

 シリアスが始まらない。

 

「絵里ちゃん。さよならはとっておくから

 もしもの時まで」

「……ええ、明日が、大事だものね?」

「私たちの、μ'sの一つの光は、

 一瞬の輝きだから

 今が最高だから、今が素敵だから。

 ただただ今を大事に

 今あるべき自分であろうって思うの」

 

 穂乃果はこちらを見ないようにして、くるりと振り返り。

 一歩足を踏み出そうとした所で、

 

「穂乃果さん、シリアスやっているところ悪いですが

 グループ名について考えていただきました?」

 

 大コケ。

 

「すみません、絵里さん、穂乃果さん

 千歌の出したグループ名案があんまりだったので……」

「あー、ダイヤちゃん良いの、私が言い出したことだしね」

「穂乃果が彼女たちのグループ名を決めるの?」

 

 もう関わりたくないって突っぱねるくらいでちょうどいいのに。

 

「これは、高坂穂乃果の十字架、呪い、戒め……なんでもいい。

 私ができる最大限の嫌がらせだよ?」

「協力しましょう?」

 

 姉さんは命名センスが無いとディスられたけど強い子だからスルー。

 あと、なんだかなあって顔をしつつ止めないダイヤさんも相当……。

 

「穂乃果が提案したとすれば、相手に拒否権がない以上。

 パッと見、悪い意味を込めていますというニュアンスがわかってしまっては

 何も面白くないものね?」

「おお、なんだか、まるで私が性格悪くなったように感じるよ

 そういえば亜里沙ちゃん、あの子たちのグループのコンセプトって?」

 

 亜里沙停止。

 彼女にしては珍しく、えっとー? みたいな顔をして、

 記憶になかったのか、記憶する気もなかったのか、

 隣りにいるダイヤさんを眺める。

 が、その見られた彼女の方も天井を見上げながら

 エアわしわしをしながら記憶を反芻し、

 

「……大事なのは今です、今が最高なんです」

「誰も覚える気がないのはわかったよ」

 

 意図とか目的とかはひとまずど返しし、

 千歌さんが好きそうな言葉を聞いてみる。

 

「ええと、そうですね……高校時代の彼女は

 奇跡とか、輝きとか……相手を明るく肯定する言葉が

 良いのではないでしょうか?」

 

 と言いつつ、電子辞書を引っ張り出してネガティブな単語ばかり、 

 そしてその単語の類語ばかり引っ張ってこちらに見せるのはどうして?

 

「チーム類人猿とか」

 

 ダイヤさん辛辣。

 どのあたりが相手を肯定している表現なのか。

 穂乃果ですら苦笑いしながら、自分はそこまで思ってないよと言ってるし、

 亜里沙は目をそらしながら、進化の途中ということですねというフォローを入れてる。

 特にコメントも出来ない私は、

 

「……じゃあ、これからとかどう?」

「これから?」

「うん、過去は上手く行かなかったかも知れない、

 じゃあ、上手く行かせるべきは、これからなんじゃないかって」

 

 穂乃果が私を見上げるようにして、

 亜里沙やダイヤさんと言ったメンツが、しょうがないなあみたいな顔をしている。

 

「……絵里ちゃんは、海未ちゃんの歌詞を知らないんだよね?」

「海未? これからのSomedayは知ってるけど」

「姉さんは数年に一度賢くなるようです」

「よもやその場に居合わせるとは、宝くじでも買いましょうか」

 

 ひそひそ話を始める私以外の人たち。

 いーれーてー! とか言えない私は時間が過ぎるのを待った。

 

「じゃあ、そっちは彼女たちのデビューシングルのタイトルとして」

「では穂乃果さん、絵里さんがここまでしてくれたのです。

 なんとかいい名前を」

「……はじまり。」

「はじまり?」

「うん、彼女たちのはじまり。

 自分の意志で、自分で立って、自分たちの物語を紡ぐはじまり。

 ……あ、句点入れてね?」

「そうですね、となればRe Starsともタッグを組めますし……」

 

 真剣な面持ちで話し合うメンバーの中で、

 一人だけ蚊帳の外にいた私は、数日後に迫ったライブを思った。

 とにかくまあ、全力で。

 高坂穂乃果の最後の舞台を演出し、

 少しでも背中を押すことができれば、

 私、絢瀬絵里も少しはこういうポジションで居ることも報われる――

 

 かもしれないし、そうでないやもしれない。


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