三十路ニートエリーチカの居酒屋飲み歩き日記   作:おうかわりん
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亜里沙ルート 第二話 06

 

 珍しく気落ちした様子のツバサさんや、

 海未ちゃんやことりちゃんといった、

 微妙に一緒になることがなかった面々と一緒に、

 千歌ちゃんたちが送るステージの様子を舞台袖から眺めていた。

 

 ことりちゃんや海未ちゃんは、彼女たちのライブを

 あんまり見たくない態度だったけれど、最後のお願いだからと言うと、

 渋々と言った感じで一緒にいてくれた。

 でも、彼女たちのデビュー曲は海未ちゃん作詞、真姫ちゃん作曲。

 μ'sで使われることのなかった曲の使い回しではなく、

 時間を作って作られたできたてホヤホヤの楽曲。

 海未ちゃんに言えば否定すると思うけど、ツンデレか何かかも知れない。

 私、高坂穂乃果は思ったりする。

 

「このステージなら、お金が取れるレベルね」

「海未ちゃんが作ってくれたんだもん、この程度はやってくれないと」

「真姫の曲にふさわしい動きではあると思います」

 

 動きが悪ければ散々罵倒を重ねる。

 なんて息巻いていたみんなだけれど、そうはならずに一安心。

 この前でステージを飾っていたのが一時的に復活したA-RISEだから、

 それはもちろん、比べてしまったら差異は歴然。

 

 ただそれは、ツバサさんやあんじゅさんや英玲奈さんが 

 人外めいているのであって、

 地味な小市民レベル(千歌ちゃん曰く)の元Aqoursの面々が、

 ステージを飾るにあたって、一般的なアイドルと比べて劣っているかなんて、

 そんな事があるわけがない。

 

 「これから」に始まり、各曲ともに素晴らしい出来。

 Aqoursのときよりもだんぜん輝いている彼女たちに、

 私自身は心の中でエールを送る。

 

「戻ってくるみたいだね」

「では、行きましょうか穂乃果」

「一声だけでも」

「ことりや真姫や私があの人達に協力する条件……

 忘れてなどいませんね?」

 

 高坂穂乃果はAqoursの面々に関わらない。

 もうすでに最後のお願いは聞いて貰っているから、

 無理強いはできない。

 

 後ろ髪を引かれるように退場し、

 入れ替わりにやってきた見たことも聞いたこともない芸人さんに挨拶し、

 ステージは休憩時間を迎える。

 

 控室にみんなで集まり、

 最後の作戦会議。

 

 アンリアルの二人や、A-RISEの面々も加わり、

 亜里沙ちゃんや南條さんと言った責任者も話し合う。

 絵里ちゃんが抜けた(それほど影響がなかった)ことも、

 特に大きな問題ともされず(見栄を張ってます)

 

「会場が盛り上がっているようですね」

 

 怪訝そうな声を上げる海未ちゃん。

 その動きにつられて画面を見ると、

 先ほどまで静まり返っていたステージが、

 かなり盛り上がっているように見える。

 

「急な代打の割には、盛り上がってますね」

「盛り上がりすぎてませんか? 亜里沙さん」

「ええ、あの方たちは、プログラムに書いてあった方の代理です

 どこの誰かと思いましたが……少々解せませんね」

 

 南條さんと亜里沙ちゃんの不穏な会話。

 芸能界に身を置いている凛ちゃんでさえ、

 あんな人たち見たことがないレベルだそうで。

 今まで興味すらなさそうに見ていた観客達が盛り上がるには、

 不自然な状況が多すぎる気もする。

 

 首を傾げてる私たちの元へ、

 ステージを終えたばかりの「はじまり。」の面々が来た。

 海未ちゃんとことりちゃんが私の前に立ち、

 まるで気分はファンから身を護るハリウッドスター。

 

「あの人たち……私たちの悪口ばっかり言ってます」

 

 精神的なダメージの大きい千歌ちゃんに代わり、

 梨子ちゃんがステージの状況を説明してくれた。

 

 自分たちと入れ替わるように現れた彼らは、

 レベルの低いステージご愁傷様でしたという挨拶から始まり、

 A-RISEや、アンリアルと言った面々をひたすら罵倒し始めたらしい。

 

 しかし会場は大ウケ。

 

「あの、私にこんな権限はないかも知れませんが……

 と、止められないのですか、プロデューサー」

「あの人達を連れてきたのは、大下さんでしたね?」

「はい、あの一派はアレがコレですから……」

「申し訳ありません梨子さん、私の力不足です。

 このステージを成功させるためにも、彼らには頑張って頂かなくては」

 

 どうにも、亜里沙ちゃんでも頭が上がらないレベルの大人の都合で、

 そして何かしらの後ろ盾があって彼らのステージは盛り上がっているみたい。

 

「……亜里沙ちゃん」

「穂乃果さん?」

「もし、もし何かあったら、私がなんとかするから。

 何にもならなくても、たとえ、私自身になにかあっても、

 だから。

 絶対に止めないで」

「それは……姉に叱られます、穂乃果さんを一人、

 生贄に捧げるような真似は」

 

 亜里沙ちゃんが泣きそうな顔をして私を見上げる。

 絵里ちゃんがいないので、かなり素に近い状態。

 

 奇跡なんて起こらない。

 誰にも期待なんてされてない。

 認められない。

 努力は受け入れられない。

 

 絶対に上手くいかない。

 

「海未ちゃん、ことりちゃん、ツバサさん……ステージに立つ皆さま……

 高坂穂乃果に力を下さい。

 ――そして、奇跡を起こしましょう」

 

 でも、亜里沙ちゃんは私たちを見送った。

 絶対に何かは言いたかったはず、言いたくても、

 何にもならないことは分かっているから。

 

 だから。

 

 だから絶対に私は頑張る。

 

 たくさんのスタッフのため。

 たくさんの裏方の人達のため。

 そして、ステージに立つ私たちのため。

 

 なにより、頑張りすぎちゃったどこぞの絢瀬絵里ちゃんのために。

 

 

 

「私は絶対にそれを許さない!」

 

 感情が昂ぶって。

 どうにも自分の気持ちが抑えられなくて。

 ステージの上に立つ人間が、

 絶対にやってはいけないようなことを私はやった。

 

 叫んだ。

 どうしようもなくて叫んだ。

 

 こんなことをされるいわれはないって、

 こんな扱いをされることはないって、

 みんなが、そう思っていたから。

 

 どんどん膨らんでくる悪意が、

 ブーイングという私たちの力不足による答えが、

 心が、

 壊れそうになるのを感じながら――

 

「ひどい……ひどいよ……」

 

 ひざまずいてしまいたかった。

 泣き出してしまいたかった。

 子どもみたいに、大きな声で泣き叫んで、

 疲れ果てて寝ちゃって悪い夢だったって言いたかった。

 

 海未ちゃんが7人がかりくらいで抑えられているのが見えた。

 見たこともないような顔で、泣きながら叫んでいるのが見える。

 聞いたこともないような乱暴な言葉で――

 

「あしおと?」

 

 騒がしい状況のはずなのに、誰かの足音が聞こえる。

 

「……えりちゃん?」

 

 真姫ちゃんのお手伝いさんが、絵里ちゃんと一緒に歩いてくる。

 身体を支えられてはいるけれど、青白くて、今にもどこかに行ってしまいそうで、

 見るからに病人ですと言わんばかりの態度で。

 

「穂乃果、マイクを」

「嫌だ……このマイクを渡したら、絵里ちゃんが……絵里ちゃんが……!」

「仕方ない子ね。ま、私が言えた義理じゃないか」

 

 抱きかかえるように持っていたマイクが、なんだかよく分からない力で

 私自身が全然分からないうちに絵里ちゃんの手に渡る。

 

 お別れ。

 私が絵里ちゃんを見て、

 集まってくるRe Starsの面々を見て、

 真っ先に思った感想はそれだった。

 

 逝ってしまう。

 絵里ちゃんが、その生涯を終えて、

 どこか遠くへ、逝ってしまう。

 

 私が行こうとした外国なんかと比べ物にならないくらい遠くへ――

 

「穂乃果」

「海未ちゃん?」

「踊らなければいけません、これがもし、μ'sとして活動できる

 本当に最後の機会だったとしたら」

「……わかった!」

 

 

「μ's! ミュージックスタート!!!」

「Aqours! サンシャイン!!!!!」

「A-RISE! エターナルライブ!!!!」

 

 多くのかけ声。

 みんなが、ステージに立つみんなが、

 力を取り戻し――

 

 歌って。

 踊って。

 すべてを、

 生涯をかけて、

 

 歌うというより叫んでいたかも知れない、

 踊ると言うより、トレーニングだったかも知れない。

 

 そして、奇跡は起こった。

 

「UTX高校所属! ナンバーワンスクールアイドル! 優木せつ菜!

 義によって! 皆様のステージに加わります!」

 

 一人の学生の声。

 徐々に大きくなっていく応援の声。

 

 一つも盛り上がらなかったステージが。

 拍手と歓声と大きな盛り上がりと一緒に幕を閉じた。

 

 

 大きすぎる犠牲と一緒に。



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