アラサーニートエリちとキャリアウーマン亜里沙   作:桜川凛

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亜里沙ルート 第三話 05

 ヒナも亜里沙さん経由で教わったと言うので、真実は闇の中ではあるし、

 その時のエピソードをμ'sのメンバーが誰一人明るく教えてくれない件であるから、

 私としても笑い話として披露するには心苦しい話がある。

 高校時代にその時のPVを観たときには、正直な話あまり印象に残らず、

 踊っている彼女たちと言うよりも、楽曲のセンスが秀でていたとある曲があったのだけれど。

 ――小泉花陽という少女がいる。

 人気投票をすれば下位の常連、運動センスもほぼ最下位、

 得意なことはアイドルへの愛とお米への……愛というか、あれはなんと言えば良いのだろう?

 以前顔を合わせたときも、だいたいタイムスケジュールがお米かアイドルで出来ていて、

 熱意を向けられる対象があるのは素晴らしいという印象を持ったものだ。

 絢瀬絵里はそんな彼女のことを、真面目で一生懸命で一途でとべた褒めだけど、

 小泉花陽さんは絢瀬絵里を語るときには、あー、絵里ちゃん、絵里ちゃんね?

 と、なぜだか含みのある反応が返ってくる。

 別に嫌っているとか、ネガティブな印象を持っているという話ではなく、

 無意識に凹まされるエピソードが山ほどあるので、

 明るく語る材料が不足しているのだと思われた。

 今回の件も、そんな絢瀬絵里の空気の読めなさ加減がわかるエピソードではある。

 

 

 Printempsが歌ってブームになった(UTXでも一部の学生がハマった)Love marginalという曲がある。

 今でも多感な女子高生がカラオケで歌う王道の曲らしく、

 自分のアイドルの後輩にもやけに上手に歌う人間が居たのは記憶していた。

 その曲をμ'sでPV化して、主役を務めたのが小泉花陽さんだったのだけれど、 

 いかんせん絵が地味ということで、なんとかして華やかにしようという工夫が講じられることとなった。

 ちなみに没PVで園田海未主役バージョンがあるけど、恋する乙女というより、

 ヤンデレてる乙女にしか見えないと私の中では評判。

 ちょっとアクセントが欲しいということで大きめのリボンをつけることとなり、

 南ことりちゃんの工夫の元で、画面にインパクトのある恋する乙女が誕生することとなり、

 確かに絵の強さは急激に増した。

 ストーリー染みたPVもそれなりに評判になり、成功かそうでないかを考えれば、

 おそらく成功した部類の作品であったと思う。

 問題はそのストーリーPVの後で、μ'sのメンバーが全員で踊る場面があるんだけれど、

 何故かとある金髪ポニーテールは主役である小泉花陽よりも大きなリボンで登場。

 やたら気合の入ったパフォーマンスで、確かにレベルとしては非常に高かった。

 しかしながら、金髪が画面に入ると他の面々がたいてい苦笑いをこらえるような表情になり、

 切なそうな表情をしているとネットで評判の小泉花陽は、

 たしかに切ない恋の歌のPVだから似合っているといえば似合っているのだけれど、

 あれは演技というより、もう本当に切なくってしょうがなかったんだと思う。

 

 

 大きなリボンが組み合わされると会議で決まった時、絢瀬絵里、東條希の二名は生徒会の仕事で欠席。

 なお、当時はすでに高坂穂乃果を中心とした3名が生徒会役員ではあったのだけれど、

 Printempsの二名が抜けてしまうと会議に支障が出るということで、彼女たちは代打で仕事していたらしい。

 希さんはその際のことを、

 ウチがちゃんと忠告していれば、あんな痛々しいPVには! 

 と、恐ろしく後悔しているものの、

 当事者の金髪ポニーテールはもっと大きなリボンにすればよかった、

 とノーダメージなのが痛々しい。

 ストーリーPVを先、後日メンバーの踊るPVが撮影されたのだけれど、

 ぴょこぴょこ揺れるようなリボンがやけにお気に召したらしいとある金髪ポニーテールは、

 ハラショーハラショーと小泉花陽を褒め称え、

 可愛い可愛いと言われて幸せだったんです、あの時までは――

 と思いつめた表情で当時のことを語る花陽さんがえらく印象的。

 とにかくまあ、リボンがお気に召したらしいポニーテールは、妹である亜里沙さんに、

 大きなリボンをしてみたいなーという話をして、それを伝えられた栗原陽向の根回しで、

 とある風車みたいなリボンが彼女に届けられることとなる。

 なお、高校2年生になった際に絢瀬亜里沙さんは、武勇伝のように話した姉のエピソードを後悔し、

 小泉花陽さんにとあるお米アイドルのコンサートのチケットを送って死ぬほど謝ったとか。

 ――朝日さんへ小柄で低めの身長をフォローするためにリボンをしてみてはどうか、

 などという津島善子さんのアドバイスを、 

 やめて! 金髪ポニーテールが復帰した時に何するかわからないから! 

 と、悲鳴をあげるような声で止めている西木野真姫さんを観ながら思い出した話だった。

 

 

 真姫さんが歌唱トレーニングをする前には、

 私や絵里に指導を受けて自信があると語ったヒナが顔を出し、

 今まで培ったノウハウを根本に教えに熱が入ったのを覚えている。

 歌は歌えば歌うほど上手くなるものである――

 とりあえず大きな声を出せば音程は二の次――

 私も頷ける所はあったし、実際ヒナはそういう指導でカラオケの点数が25点くらい上がってるから、

 効果はあるんだろうと踏んでの指導だった。

 きちんとした声の出し方から指導が始まり、足つぼマッサージや、エロ台詞(喘ぎ声をあげる)指導で

 高らかに声を上げる鍛錬を見に来た統堂英玲奈が私やヒナに回し蹴りを食らわし、

 鬼みたいな顔をした英玲奈が痛みで悶絶する私たちに言い放ったのが、

 お前らに人の指導は向かないだった。

 なお、その際の指導は統堂朱音さんにはガッチリハマったらしく、

 18禁ゲーム声優の西木野真姫さんの指導の元、18歳に満たない彼女が

 とある同人ゲームのサブキャラクター(Hシーンあり)の声に抜擢されることとなったのは、

 姉である統堂英玲奈には伝えられていない。

 ただ、現役女子高生である彼女が学校で

「喘ぐと歌も演技も上手になる!」

 とか言って停学を喰らわないか心配なので、エヴァリーナちゃんには

 本当に気をつけてくれと言ったけれど、どこまで伝わっているかどうか。

 

 

 意外(失礼)に理論派な西木野真姫さん指導の元、

 元Re Starsの面々は更に成長をしたように思える。

 目標にしていたのが絢瀬絵里で、その絢瀬絵里がトップに立ってトレーニングを指導したのだから、

 またたく間に成長を重ねたのは事実。

 元から成長を見込まれての採用ではあったので、

 無難に実力を発揮し始めたと言われればそれまでなのだけれど。

 ただ、協調性に限っては――

 他の事務所から再デビューを果たすにはセンターポジションで加わる誰かが欲しい。

 このアクの強すぎる面々を統括するには、大きな力を持った誰かが必要なのだ。

 まあ、絵里が復帰するまでは私が入っても良いんだけれど、

 基本的に一番輝かなければいけない若い面々が絢瀬絵里じゃないとやる気出さないから、

 早く彼女には飛び起きてもらわねば困る。

 そうそう、そろそろ海未さん作詞、真姫さん作曲の新作が完成し、

 スタジオで収録して動画投稿サイトにアップロードしようかみたいな話も膨らんでいる。

 覆面でのデビューということになるけれど、

 今、芸能界でトップに出てきているアイドルのレベルを考えれば、

 風向きが変わることは私自身体感している。

 コンサートやイベントで引っ張りだこだった(トークのレベルが低くてテレビに呼ばれないけど)

 月島歩夢は太陽の日以降は実家に帰って、野菜づくりって面白い! とインスタグラムに投稿し、

 ハニワプロの多くのアイドルは私を含めて引退か、それに近い状況になっている。

 上役には亜里沙さんがプロデューサーを退職をしても困らないみたいな考えがあったそうだけれど、

 彼女が身を引いたのち、それに追随するように多くの仕事をこなしてきたアイドルやプロデューサーが離反。

 亜里沙さん自身の力も去ることながら、何食わぬ顔して追従していた南條さんが居なくなったのも大きく、

 新しく全権を握り始めた社長も実力不足は明らか、確か名前は貝塚……とか言ったっけ?

 後輩から絶大な信頼を置かれていた(ただ、その評判はだいたいルビィちゃんの影響)アンリアルも、

 芸能界から身を引いてしまい、あの人達が居ないならやめるとアイドル候補生も9割居なくなった。

 UTXで絶大な人気を誇っていた(解せない)私の弟の優木せつ菜も虹ヶ咲学園へと転入し、

 教鞭を振るっていた統堂英玲奈や矢澤にこの二名も退職して、

 おそらく数年はUTXのスクールアイドルが活躍することはないと思われた。

 私たちに吹いていた逆風はそれほど寒くは感じなくなりつつある。

 だから本当、未だに眠り続けている絢瀬絵里にはそろそろ目を覚ましてもらいたい。

 

 

 太陽の日以降に高坂穂乃果さんは海を渡り、

 友人であり幼なじみでもある海未さんやことりさんは、滅多に連絡がつかないと嘆いていたけど。

 まだ……いや、もうすぐひと月になるのか。

 彼女たちにもそろそろ幼なじみ立ちをして貰いたい。

 絵里が欠席のせいでμ'sの面々の面倒を見るのが、なぜか私になっているのだけれど。

 さすがに金髪ポニーテールが意味もなく出来ていたことまで私に求められても困る。

 海未さんの無茶振りは激しく、いや、絵里ならできると思ってと私に言われても――

 園田道場で門下生の指導に当たる傍ら、作詞活動も再開し、

 星空凛さんの嘆願のもと凛さんが所属する事務所のトレーニングコーチも務めている。

 内容はえらく厳しいらしいけれど……まあ、アイドルやタレントが逃げ出さないことを願いたい。

 その星空凛さんはハニワプロのアイドルたちの離反の後で、

 歌も演技もトークも無難にこなせるスーパータレントとして仕事が増えている。

 絵里ちゃんのせいで忙しいとは彼女の口癖だけれど、

 以前よりも数倍明るい表情で仕事をこなしているのは良かったと安堵している。

 友人である小泉花陽さんがお手伝いさんとしてメンタル面で凛さんを支えているから、

 よほど何かない限り彼女に関しては問題は起こりえないだろう。

 問題は――はじまり。としてデビューし、ハニワプロ所属のアイドルとして、

 一番テレビに出ているのが高海千歌さん。

 桜内梨子さんと渡辺曜さんは太陽の日以降から芸能活動を引退し、

 小さなスナックバーのママさんとして、

 あるいは、南ことりさんプロデュースのアンテナショップの雇われ店長として、

 それぞれ活躍を果たし始めている。

 梨子さんのスナックでは銀座の高嶺の花だった矢澤こころさんや、

 妙にオカマさんに人気のあるトークをする矢澤にこさんがえらく人気で、

 ママを相手にして欲しいと梨子さんの愚痴がダイヤちゃん経由で届く。

 南ことりさんと無事和解を果たした渡辺曜さんも、当初はデザイナーとしてタッグを組んだものの、

 当人いわく才能の差を感じて他の仕事をさせて欲しいとお願いをしたそう。

 今は自身の知名度と人当たりの良さを活かして、店の売上を伸ばし続けているというのを、

 ことりさんが嬉しそうに言ったのを覚えている。

 千歌さんは今のハニワプロの上層部に気に入られたらしく、アイドルとしての仕事の傍ら、

 結婚秒読みというアキバレポーターさん(お世話になりました)の二代目としてもデビュー。

 正直寝ているのかっていうくらい仕事をこなしているので、

 私としても少々心配になるのだけれど。

 ――でも、綺羅ツバサとしては高海千歌さんが頑張っているのが、

 他の面々とは違う理由であるのは分かりきっているので、心配はしつつもアドバイスはしない。

 

「高坂穂乃果さんが何を目指しているのか……あの子も分かってくれるといいのにね……」

 

 一生懸命にトレーニングする彼女たちに聞こえないように、私は小さく呟いた。


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