三十路ニートエリーチカの居酒屋飲み歩き日記   作:おうかわりん
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亜里沙ルート 第三話 16

 ラスボス(笑)の息がかかっていた社長を中心とした経営陣が揃って放逐され、

 かと言って現場上がりの人間で、会社の運営や従業員(主にアイドル)のリーディングに

 向いている人間は他の事務所で仕事をしてしたため――

 業績の傾いたハニワプロはその歴史を終了することにあいなった。

 所属していた芸能人であるとか会社のスタッフは他の事務所に移ったり、

 別の職業に就いたり、手放しで大団円とは言えないけれど一通りの決着はついた。

 一概に旧経営陣の人間が悪いとも言えないし、私たちが善だったともはっきりとは言えないけれど、

 それでも自分たちは前を向いて歩いていかなければいけない、生きている限り。 

 

 Re Starsの面々も芸能活動を終了したり、他の職業に就くという人間がいた。

 私もそのひとりとして数えられたかったけれど、あいにくそう上手くは行かないらしい。

 アイドルとして活動を終わらせたのは朝日ちゃんで、

 自分であんまり能力は高くないんですけど、かといってやりたいこともできることもないんですよねえ、

 と相談され、今まで頑張ってきたからのんびりしてからしたいことを探せばとアドバイスを送ったら、

 もうちょっと具体的にお願いしますとダメ出しをされひねり出した答えが、

 子どもの頃にやりたかったことをすればいいのでは? だった。

 この答えは彼女にとって目からウロコだったらしく、目を輝かせながらさすがは腐ってもエリーチカですね、

 と、ディスってんのか、褒め称えているのか判断に困る答えを頂いた。

 朝日ちゃんと同様にアイドルとしての自分を終わらせたのは津島善子ちゃんだった。

 もともと、Aqoursを復活させたい、高海さんに戻ってきて欲しいという目的でアイドルを始めた彼女は、

 その目的は達成できたとして芸能活動に終止符を打つことにしたみたい。

 社会人として仕事が出来て、かつ優秀だった過去を活かして花丸ちゃんの芸能事務所に潜り込み、

 今は多くのアイドルたちや花丸ちゃんから仕事を任せられていて、あんたは先輩でしょ! と

 よしまるコンビが漫才する姿が芸能関係者に評判――でも、本当に花丸ちゃんは仕事ができない。

 統堂朱音ちゃんは英玲奈の希望や、真姫のアドバイスに従って高校卒業後には大学に進学し、

 芸能活動は一時休養することになった――ベルちゃんの協力でユッキとも再会を果たし、

 高飛車でワガママな性格も改められ素直でいい子に変貌したけれど、

 落ち着いた彼女は英玲奈の姉にしか見えない。

 迂闊な判断して困っている姉を朱音ちゃんが嗜めていたりアドバイスを送っているけれど、

 10も年上の姉を嗜める妹というのがどういった構図に見えるのか、

 嬉しそうな顔をして妹がしっかりした、素晴らしいと褒め称える英玲奈に分かって頂きたい。

 エヴァリーナちゃんことリリーちゃんはユッキとの再会を果たしたのち、

 自分にはやることがあるので、と説明していずこかへとふらりと消えてしまった。

 超常現象めいた不思議な力で皆の記憶から存在自体が抹消されたのか、

 彼女のことを覚えているのは私とユッキだけで、Re Starsも最初から4人グループとなっていたし、

 妹やツバサに彼女のことを話すと、不憫な人見る目で妄想は大概にして欲しいと言われてしまう。

 たまに私の枕元に置かれている手紙には、身体を大事に、そして友達と仲良くと言った旨が書かれていて、

 未来を予測するかのような内容が含まれていて――。

 

 桜内梨子ちゃんが始めたお店にたまに行くと、

 だいたい元μ'sとか、元Aqoursの面々が働いていたりお酒を飲んだりしている。

 出会う確率が高いのは真姫だけど、なんでも私が来ることを事前に察知して真姫を呼んでいるらしく、

 七面倒臭いお嬢様のお世話は私の仕事だと認識している様子、どこが地味なタイプなのか問いかけたい。

 渡辺曜ちゃんはことりのパートナーとして、最初は支えられながら店長職なり仕事をこなしてきたけど、

 いつの間にかブランドのブレーンとして活躍を始めた。

 思いの外に地頭が良かったみたいとは彼女の談だけど、器用で優秀だった彼女が

 いつの間にかことりを蹴り落とさないことを祈りたい、いや、仮に蹴落とされてもことりはたくましく生きるだろうけれど。

 ダイヤちゃんは体面上の理由で結婚式を開き、私やツバサも出席したけれど、

 Aqoursとして一緒に活動していた面々で出席したのは妹のルビィちゃんだけで、

 何故なのか問いかけたら自分なりのけじめだと語ってくれた。

 箝口令が敷かれていて、ルビィちゃんや私も本当に口を滑らせなかったんだけれど、

 果南ちゃんと鞠莉ちゃんには後日に式で渡せなかったからとご祝儀袋を頂いたらしく、

 私はずいぶん疑われてしまった――来るたびに胸を揉んで帰るのはそういった理由らしい、改めていただきたい。

 果南ちゃんと鞠莉ちゃんの二人は休養ののちに世界中を飛び回り、

 オハラグループがいつの間にかにAmaz○nとかGo○gleとかと同列の世界的な企業へと成長したけれど、

 彼女たちの経営が優秀だったからだと思いたい。

 ゲームやってるだけでいいからとベルちゃんを連れているからではないのだ、たぶん。

 椎名伊織の策略に巻き込まれた高海さんは芸能活動を続けている。

 以前もラブライブで優勝することになった虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会(長い)のインタビューをしていて、

 理想のスクールアイドルは誰ですか? と優木せつ菜ちゃんに逆質問され、穂乃果の名前を出すかと思いきや、

 海未のことを語っていた。

 二人はひと悶着あったらしく、その現場にいた理亞さんがトラウマになるレベルで恐怖を感じたとかで

 海未が言うには分かって貰えないので言葉で本気出しただけだそうだけど、 

 作詞した曲が売れたCDシングルの数がそろそろギネスに載ることも考慮しなければいけないとネタにされる彼女が、

 言葉で本気出したらどうなるのか想像に難くない、理亞さんの気持ちもよく分かる。

 そうそう、聖良さんはそんな高海さんのサポーターとして、自身の芸能活動と並行して活動中。

 ただ、仕事でつまらないものですが、と渡してくるのが「岐阜の特別品 歩く夢」というお米。

 歩夢ちゃんを未だに操っている亜里沙の意のままに聖良さんも動いているらしく、

 そろそろ独り立ちして貰いたい、無理かな……。

 

 アメリカで活動している穂乃果は日本ではまったくニュースにならないけど、

 地元ではかなり評判のアイドル(アメリカでは高坂穂乃果を指すらしい)として、映画やテレビに出演を重ねている。

 ディーン・フジオカさんみたいに逆輸入アイドルとしてデビューしちゃおうかなーと冗談めかしてLINEを送ってきて、

 それを目撃した雪穂ちゃんが目を吊り上げて怒り散らしたのを絢瀬姉妹が止める羽目になった。

 実家のために経営の勉強や穂むらのサポートにあたっていた雪穂ちゃんは、

 高坂家のご両親の説得で親友関係にある亜里沙が立ち上げた……いや、まあ、表に立って起業したことになっているのは

 メグなんだけど、実質亜里沙の事務所みたいなものだから、姉は今も発言権がないから。

 それはともかく芸能事務所「ネームレス」のエグゼクティブアドバイザーとして活動中。

 穂むらは店を閉めることとなり、最後の日には姉妹揃って接客をする姿が周囲の涙を誘った。 

 この際のエピソードが矢澤ここあちゃんの一般文芸のデビュー作として披露され、

 私やツバサも映画(発売された時点で決まっていた)に出演することになっているけれど、

 何役なのかは聞いていない、当人として出るんじゃないかと言い合っているけれど詳細は伏せられている。

 なお、主演の高坂姉妹の片割れ雪穂ちゃんを演じるのは、なんだか知らないけれど本気だすと言って

 そのポテンシャルを発揮し始めた鹿角理亞さんが務める。

 当初ルビィちゃんと一緒に芸能活動を再開した彼女が、どういう経緯で独り立ちし、

 大好きだった聖良姉さまや、亜里沙のアドバイスすら借りずに成長を果たしたのかは知る由もないけれど、

 かなりストイックに活動しているとかで、なんとエロゲーもプレイしていないとか。

 また聞きの情報では、余暇を悠々と過ごしている時間はないと休日の設定すら断ったみたいで

 さすがに身体を壊すのでやめて欲しいと、私以外の人間がフォローに回ったとか。

 私も心配になって顔を見せたかったけれど、丁寧な文字で書かれた直筆の手紙で、

 いつか成長した自分と会って欲しいとやんわりと断られてしまった。

 

「絵里さんはいつだって罪作りです」

 

 手紙を渡してくれたのは他ならぬルビィちゃんだったけれど。

 その際に、実は私のことが苦手だったことを吐露して、今はって尋ねたら

 尊敬している気持ちと嫌いだっていう気持ちが同居していると説明してくれた。

 複雑な感情を抱かれるいきさつは私には分からないけれど、

 誰も彼もから好意を寄せられることは、私には過ぎたモノであるから文句が言えるはずもない。

 はっきりと言ってしまえば、私の中ではルビィちゃんの好感度はダイヤちゃんよりも圧倒的に高い、

 常々黒澤姉妹の二人には伝わるように言っているんだけど、逆に姉の方からのアプローチが強くなった。

 引けば引くほど追いかけたくなるらしく、選択肢を誤ったのではないかと後悔しつつある。

 

 そして私――の前に。

 今日は久しぶりのオフなので、ちょっとのんびりしたいなー

 何をしようかなー! ちらっちら! と、誰も遊ぶ相手がいないアピールを事務所でしてたら、

 同じくオフ(コンビで活動しているから当然)のツバサが、仕方ないわねぇみたいな顔をして

 

「飲みに」

「あ、ツバサさん!」

 

 先日まで事務所所属のアイドルの仕事のブッキングに励み、

 社長(仮)のメグと一緒に北海道まで遠征していたはずの妹が、

 何食わぬ顔をして疲れ切った表情をした社長(笑)と一緒に事務所に現れた。

 最近の深夜バスというのは優秀ですね、ほぼ定刻通りに都内に到着しますと

 聞かれてもいない感想を漏らし、ツバサはズルズルと亜里沙に引きずられて行った。

 なにか口にしようとするとユッキがダメです! と止めるので賢明な私はノーコメントを貫いた。

 次の仕事が妹たちの結婚式でないことを祈りたい。

 

「絵里さん、暇なら仕事しませんか」

「……あれ、オフって聞いたんだけどな、おかしいな」

「奇遇ですね。私は今10何連勤の途中です」

 

 芸能事務所は労働者じゃないから労働基準法は適応されない――!

 アイドルみたいな活動をしている傍ら、メグにはパシリに使われ、

 プロデューサーの亜里沙にも顎で使われ、雪穂ちゃんにも手下として扱われ、

 ツバサには部下として認識され、事務所の後輩には自分をオフにしたい時の代打要員の私が、

 一番偉い人に逆らえるはずもなく。

 

 過去に理亞さんとお茶して以来行っていない、エトワールにもほど近いクローシェは

 相も変わらず人で溢れていた。

 ここでネームレスに引っ張り込みたいらしい子たちをスカウティングするとかで、

 失敗したら分かってますね? という脅迫も手伝って微妙に私は緊張をしていた。

 私とは顔見知りの二人だけれど、

 どうせなら同じグループにいた優木せつ菜ちゃんをスカウトすればいいのに

 と言ったら、余計なことを言って話が頓挫しないことを祈ると言われちゃった。

 

「ええと、確か……一番奥の席に」

 

 店内に入り忙しそうに働いている従業員さんを横目で見ながら、

 相席しているのにひとっつも目を合わせない、微妙過ぎる距離感を保っている二人を見つけた。

 虹ヶ咲学園にいた頃から同じ年なのに基本的に相容れない二人は、

 卒業後数年経っても似たような関係だったらしく、私が近づいても自分の世界に没頭し

 スカウトをしに来ているはずの私がスルーされる事態に泣きそうになったけれど。

 

「ええと、桜坂しずくさん、中須かすみさん。おはようございます、絢瀬絵里です」

「え、今昼ですけど」

「かすかす、知らないんですか? 業界での挨拶は丁寧語のおはようございますを使うのが普通なんですよ?」

 

 来て早々ディスりあいが始まる。

 お互いに違う方向を見ながら罵り合いが始まり、お店の人から騒がしいのでなんとかしろ

 みたいな目で見られたのでまあまあ、となだめて、とりあえず落ち着いて二人両並びで席についてもらった。

 窓際がいい、廊下側がいいで喧嘩することになったけど、デザートを一品奢るの言葉で静かになってもらう。

 

「まず、中須かすみさん。ネームレスではあなたのアイドルとしての資質を高く評価しています」

「優木せつ菜よりもですか」

「当然です」

 

 これは紛れもなく本当。

 完璧で近づきがたい印象すらする優木せつ菜ちゃんと違って、

 親しみを込めた同じ目線で応援できるアイドルとして彼女は高く評価されている。

 もう少しおべっかを使うなら、矢澤にこや栗原朝日ちゃんも行けるんじゃないかみたいなことを言っているので

 いざとなれば沢山の人の評価の声で押すつもりだ。

 

「次に桜坂しずくさん。ネームレスで推す女優枠一号としてあなたには期待をかけています」

「優木せつ菜さんよりもですか」

「はい」

 

 スクールアイドルとして過去に前例がないレベルで評価されている優木せつ菜ちゃんは、

 高校卒業後に芸能界へのスカウトを全て断り、今は勉学に励んでいるらしい。

 しかしながら、彼女の押し倒された回数校内最多というのはまだ頷けるんだけど、

 胸ぐらをつかみあげられた回数校内最多、ラッキースケベ率校内最多という評価はなんなんだ。

 ええと、演技力でも類稀なる才能を発揮したせつ菜ちゃんではあるけれど、

 いかんせんお高く止まって見えるので高級感溢れる彼女はお呼びではないらしい、

 事務所で受付とかお茶汲みでもやってくれれば癒やされると主張したら、

 じゃあお前が囲ってろみたいな目でみんなから見られたので渋々意見は取り下げた。

 

「桜坂さんが校内で披露したロミオとジュリエットはとても素晴らしかったです。

 私がやったときとは雲泥の差でした」

「演技ですか?」

「いいえ、人に与える印象が。共演した優木せつ菜さんも上手でしたが、

 桜坂さんのほうが断然輝いていましたし」

 

 ツバサと一緒に見に行った際には、ロミオ役が桜坂さん、ジュリエット役がせつ菜ちゃんで。

 舞台を見上げながら、え、逆じゃないの? みたいなことを漏らしたツバサに、

 適役じゃないと言ったら、あなたにはそう見えるのねと特大のため息を吐かれてしまった。

 

「こうしてお二人を同時にスカウトしに来ましたが、コンビとして組んで頂く必要はありません」

「聞きたいんですが、仮に私がアイドルではなく女優としてもやりたいと言えば、対応してくれるんですか?」

「ネームレスでは一番発言力があるのは事務所に所属する芸能人です」

 

 私? 口を開くとだいたい静かにしてって言われるけど?

 

「かすかすが女優として成功するなんてありえないです、私がアイドルをやったほうがまだまし」

「優木せつ菜を背負投げして放り投げた挙げ句、膝蹴りを腹に入れたあなたがアイドル? 寝言は寝て言って」

「一週間に三回回し蹴りを背中に入れていたあなたが女優とかありえません、プロレスラーに転向してください」

「このフラれんぼ!」

「あなただって同じでしょう!」

 

 今度ばかりはなかなか静かになってもらうのに時間がかかってしまったので、

 頭痛を感じながら、何か食べたいものとか欲しいものはありますか? と問いかけたら

 二人同時して高級焼肉! といい笑顔で言って

 よもや私はからかわれているのでは無いかと疑問を浮かべ始めてしまったけれど。

 ともあれ、私の財布は軽くなってしまいそうだけれど、スカウトには無事成功したものであるらしい。

 今度事務所に顔を出してくれることを約束してくれた両名とお別れし――

 

「ん?」

 

 ぐにゃり。

 目の前の風景がねじ曲がる。

 粘土を手で工作するみたいに視界がぐにゃぐにゃになり、

 最近仕事しすぎだからちょっと疲れてるのかも、エヴァちゃんにも身体に気をつけるように言われていたし。

 どのみち、今度目を覚ます時には病院で点滴でも打って貰ってるかな――?

 

「絵里お姉さん、安心してください。次は――私もいますから」

 

~絢瀬亜里沙ルート Fin(?)~

 

 

 =鹿角理亞ルートが選択されました=

 



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