三十路ニートエリーチカの居酒屋飲み歩き日記   作:おうかわりん
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鹿角理亞ルート 07

 理亞ちゃんと一緒にゆっくりと階段を降り、

 何を言ったか記憶に無いほどに慌てふためき、動揺を重ねたあげくに

 変なことを口走っていないかと考える余裕を持ってみると。

 それは毎度のことであるなと、頻りに省みた所で一向に成長しない自分に気が付き、

 肉体面の老化は著しく、精神面の成長は高校時代が全盛期。

 人生100年時代とか、平均寿命が延び続けていると言うけれど、

 100年生きるとか憂鬱すぎてならない。

 あと数十年こんなアホなことを考えたり失敗を繰り返したりするかと思えば、

 人間50年くらいで充分、戦国武将か。

 

「先輩」

「なあに?」

 

 精神的に追い込まれるのを繰り返した結果、

 それでもなお以前までのツンケンした彼女を見られないことに、

 一抹の寂しさを覚えつつ。

 冷静であるのか、弛緩しきった態度を見せているのか、

 多少、再会を果たした時と同じ風ではあるけれど、

 内心不安でたくさんだと思っている。

 私に呼びかけたは良いけれど、何を言おうか記憶から飛んでしまったみたいで、

 一通り声も出さずに口をパクパクと動かしたあとで、

 恥ずかしそうに俯いて私の服の袖をクイクイと引っ張るだけで終了。

 こう、か弱さ全開で不安を抱えている儚げな女の子が、

 身体を寄せながら自分を頼る素振りを見せられると、

 ついついなんとかしなきゃ! という気分になってくるんだけれど。

 ただ、自分を意のままに操る行動を取った時の綺羅ツバサさんも妙に思い出すから、

 自分は基本的に頼られると何とかしたくなってしまう人なんだと思う。

 誰かしらに上手く使われている人間だという自覚は放り投げる。

 

「安心して、理亞ちゃんに何かいう人が居たら盾になるわ」

「仮に亜里沙さんとかツバサさん……あ、凛さんからなにか言われても

 喜んで盾になってくれますか」

「骨は拾って」

 

 海未が対立行動を取るとすれば、

 それに準じてこちらを攻撃することが予測される星空凛のことを思い出し、

 凛がそのような選択をすれば小泉花陽も同調することが予測され、

 花陽が反応をすれば真姫もそれなりの態度を取り、

 真姫が動けば年齢不詳の毒舌メイドさんが喜んで罵倒をしてくるから、

 絢瀬絵里というシールドは保たないかも知れない。

 私のメンタル面が脆いのは仕方ないにしても、

 基本的に指摘される方に問題がある以上、言われっぱなしになるのは仕方ない。

 理亞ちゃんも自分と対立するのが関わりのある相手だとか、

 仲良く会話している相手だということを既に察知していて、

 おそらく自分の精神面が強固ではなかったという自覚も手伝い、

 私のことを頼ろうとはしてくれているんだろうけれど……いい姉にも、

 いい盾にもそれほどなれそうにもないと自嘲気味に笑った。

 元からいい姉であったか疑問だという内容については、天高く放り投げる。

 

「先輩の前で聖良姉さまの話をするのは――ためらいがあります」

「いいのよ――でも、それ楽しいお話?」

「優勝確実と言われて地区予選すら突破できずに終わり、

 二年に進級後、スクールアイドルを続けると宣言したにもかかわらず

 誘う友人も居なくて、結局姉さまとトレーニングを重ねる日々の話です」

 

 すごく楽しくなさそうという感想を抱いたものの、彼女がお話したいということは、

 心の中に抱えているには苦しいエピソードであるのでしょう。

 ラブライブの優勝は果たせなかったものの、

 能力値とスキルはスクールアイドルの中では抜きん出ていた理亞ちゃんは、

 頼りにしきっていた聖良さんを失ったのと、

 今度こそラブライブでの優勝を目指すとの強い意欲に反して、

 誰からも協力が得られない自分にふさぎ込んでいた日々。

 誘われない自分に理由があると笑う彼女も、

 自宅では聖良さんが居たために虚勢を張って通常通りでいたものの、

 校内ではやるせない気持ちに包まれて投げやりに過ごしており、

 周囲にも腫れ物を触るみたいに扱われていたと振り返る。

 心休まる時間はルビィちゃんとの交流とお風呂に入ってる時で、

 その中にもう一つ、とあるクラスメートとの時間をあげた。

 

「当時の私と会話をしようなんて命知らずですね」

 

 そういって理亞ちゃんは微笑む。

 彼女が省みるほど、ツンケンしていた理亞ちゃんが不出来な人間とは思えない。

 多少頑張り過ぎのきらいはあったものの、

 それは自分自身が過去を振り返っても感じることであり、

 一生懸命思う気持ちが単純に空回りしたに過ぎないのだと、

 絢瀬絵里は生じた結果を考慮に入れずに思考する次第。

 

「名前は楠原雅。彼女もまた優秀すぎる姉を持って苦労していた人です」

 

 理亞ちゃんが語るほど聖良さんが完璧であるかは――

 私などが判断することではないとして。

 楠原さんというのは函館聖泉女子高等学院で生徒会長を務め、

 ダイヤさんが右腕として引っこ抜きたかった楠原静香さんの妹。

 お嬢様ばかりが揃う高校において、

 アイドル枠でもない一般生徒で生徒会長を務めたのは後にも先にも彼女一人で、

 SaintSnowが仮にラブライブで優勝できていたら、

 偉大な業績に傷がつかずに済んだんですけどと理亞ちゃんは語る。

 

「親近感というか……似てるなって思うと急に好感度上がりません?」

「過去の理亞ちゃんが漏れてる」

「……はっ!?」

 

 とにかくお互いに境遇が似ていると感じ、好意的な態度を持って交流を始め、

 趣味嗜好が似ていた(当時の理亞ちゃんの趣味はお菓子作り――出来はお察し)ため、

 スクールアイドルではμ'sを推していたことと、

 SaintSnowとして活動をしていた理亞ちゃんのことには触れないようにしながら、

 腹を割って話す仲であったみたい、北海道でその言葉はどうでしょうか?

 

「当時の私にとっては、μ'sのラブライブの優勝って解せないんです」

「私もそう思ってるから良いのよ」

 

 気まぐれな神様が起こしたご都合主義ではないかと問いかけたいほど、

 普段の実力以上にとんでもないパフォーマンスを見せたμ'sは、

 おそらく皆が皆、奇跡の中に居たのだと思う。

 当時の実力で同じパフォーマンスを見せろと言われれば、

 あまりの横暴に過去のことりだって助走をつけてぶん殴ってくるレベル。

 いまのことりはよく私を殴りかねる勢いで罵倒するけど。

 

「Aqoursが優勝した後でμ'sの話題っていうのはミーハーと言いますか、

 スクールアイドルにあまり興味のない人間でも彼女たちのことは知ってるみたいな」

「……そういえば、ルビィちゃんが理亞ちゃんが一年生の時

 お二人は去年すごい成績を残して地区予選を勝ち上が――」

「それ以上はいけません」

「理亞ちゃん留n――」

「気まぐれな神様はお話を作るときも整合性を考慮しないだけです」

 

 指摘するのも野暮な内容だったみたいで、私自身もなかったことにする。

 なかったコトにしたい黒歴史を抱えているのはみんな一緒。

 

「雅は単純なファンではなかったんです」

「どういうこと?」

「その……信者と呼ぶのも生ぬるい……心酔する信者……

 カルト教団の教祖みたいな、彼女にとってμ'sっていうのは、

 奇跡の体現者といいますか」

 

 自分の不出来さを責任転嫁する手段は数多くあるけれど、

 一番簡単なのは自分は悪くないと思うことである。

 いずれにせよ責任転嫁には様々な手段があり、数多くの人が――

 もちろん私自身を含めて責任を放棄することは常同行動であり、

 常に自分を律して生きていこうなどという行為は海未だって無理。

 自分は悪くないと開き直ることが出来ない人は、たいてい誰かにその責を押し付ける。

 自分の抱える問題は他の誰かが解決してくれる事象であり、

 雅さんという子が抱えているコンプレックスなり、問題点というのは

 μ'sが解決してくれるものであったのだと思う。

 いわば、お姫様に憧れる女の子がみんながみんなお姫様になりたいのではなく、

 お姫様になった誰かを見ることによって満足感を得られちゃうアレ。

 現実に問題を抱えていたとしてもμ'sが幸せなら私も幸せ――

 

「雅が私に感じていた友情は、一般的な友情ではなく

 不出来な自分をごまかすための手段と言いますか――

 それでも私は良かった、居場所がない高校でも、気持ちを偽らなければならない家でも

 でも、あの子はルビィを手に掛けようとしたから」

「ん?」

 

 μ'sが当時においても仲が良いというのはかなり有名な話だったらしく、

 売れっ子になって全面に出ていたのはニコくらいで、

 凛はブレイク前、A-RISEも知名度がそこそこレベル、

 真姫はコスプレにハマっており、ことりも学業をこなし、

 希も一部でカルト的に人気があったに過ぎなかった。

 だからこそ案外μ'sが揃って集まる機会は数多く(ことりの欠席率は高めだけど)

 仲が良い模様をブログなりなんなりにアップしてコメントがあったのは知っている。

 ただ、その行動をμ'sはとても素晴らしい! 

 現実がうまくいかないけれどμ'sが上手く行っているなら構わない!

 という逃避の手段に用いられてしまうのは、ちょっと反応に困る。

 そしてなにより、穂乃果を中心に手放しで讃えられてしまうほど

 みんながみんな上手く行っていたかと言うと果てしなく疑問、特に穂乃果。

 

「雅にとって、自分が親近感が湧くような出来損ないが

 自分以上に仲が良い人間がいるという現実が許せなかったのでしょう」

 

 有り体に言えば、理亞ちゃんに裏切られた心持ちがしたのでしょう。

 それがまるで客観性のない逆恨みであれど、

 被害が及べば困るのは加害者ではなく被害者であり、

 仮に命が狙われてしまうほど危険が及ぶのであれば、

 国家権力を用いてでも行動は回避しなければならない。

 その子にとって不幸だったのは、黒澤家を掌握し始めていたダイヤちゃんが

 顔見知りにおまわりさんやら何やらお偉い方が居たということと。

 ルビィちゃんに被害が及べば多少の不利益はあった所で、

 加害者を消すくらいのことはやってのけるシスコンだったということ。

 なにより、雅さんの姉が行き過ぎた感情を抱いていたことを把握していたのも手伝い、

 ルビィちゃん殺害計画は実行以前に頓挫し、

 なによりルビィちゃんに知られることもなく問題は解決した。

 

「その時に私は思ったんです、自分の幸福はもう考えず

 誰かのために尽くして生きていこうと」

「聖良さんにどっぷりだったのはそういうこと?」

「ルビィにも、姉さまにもそうです――そしてこのたび

 その二人から距離を取られるという結果になったのですが

 

 私自身が……何か間違っていたんでしょうかね……」

 

 辛そうに俯く理亞ちゃんに、言い得ぬほどに母性を刺激されてしまった私は、

 据え膳美少女に迫られるハーレム主人公を思い出し、

 ああ、この気持ちが伊藤誠なり安芸倫也なり羽瀬川小鷹が抱いていた気持ちか、

 これならしょうがない、相手が同性だけど理亞ちゃんの可愛さなら世界を狙える――

 まったく、鹿角理亞ちゃんは最高だぜ! と思わず抱きしめてしまいそうになった瞬間

 

「スチームクリーナーの音……ッ!?」

 

 私がどこへ向かおうとしていたのか。

 リビングで真剣に会議を続けているはずの亜里沙やツバサが

 いつまでも戻ってこない私たちを心配し様子を見に来ることくらいは簡単に予測……!

 

「理亞。復帰したてのあなたに言うのは心苦しいですが

 リビングで話し合いが行われています」

「いえ、こんなところで挫けてなどいられません。

 これからは絵里先輩もいますから」

 

 輝く笑顔で亜里沙に言う理亞ちゃん。

 もう、エリちは理亞のもーの! と言わんばかりに所有権を主張(個人の妄想です)し、

 過去の女に喧嘩を売るみたいに(個人の妄想です)幸せ満載の微笑みで

 妹と絢瀬絵里も放り出し、ルンルン気分でリビングへと向かった。

 ――おそらく、絢瀬亜里沙の静かな怒りを直感で把握し、

 あえて現実を見ないようにして私を売ったんだと思う、哀れな被害者は一人で充分。

 はたしてこれからに絢瀬絵里が存在するのか、

 

 スチームクリーナーを片手に姉を掃除する妹言う絵面が、

 R-18Gに該当しないかどうか戦々恐々としながら私は天井を見上げ、

 ハーレム系主人公は得てして報復を食らうことを思い出し、ちょっと泣きそうになった。

 

 

 スチームクリーナーを片手に私に抱きつくように近づき、

 あ、これは死刑執行だ! と思った亜里沙がいつまで経っても刑を施さないので

 どうしたんだろうと思って顔を覗き込んでみると、

 思いのほか真剣な面持ちで理亞ちゃんの姿を見送り、

 その姿が確認できなくなった時にようやく身体を離す。

 

「彼女は実力はありますが、メンタルは脆いですからね」

「……そんなに私と二人きりになりたかった?」

「か、勘違いしないでよね! 9割がたスチームクリーナーでアバロンのダニを

 掃除しようとしただけなんだからね!」

 

 ――そんなツンデレ嫌だ。

 ともあれ刑が執行されないのなら一安心。

 心の中で安堵をしつつ、理亞ちゃんに関しては絢瀬姉妹の琴線に触れる

 か弱さとほっとけなさを持ち合わせているみたいで、

 私と同じように亜里沙も何事かの強い感情は抱いているみたい、恋多き女みたい。

 妹は一息ため息を吐き、

 

「ツバサさんと、エトワールのみんなともう一度ECHOのアイドルを洗い直しましたが

 海未さんがこだわりを見せるような子は見当たりません」

「となると、やっぱり高海さんやルビィちゃん辺りに注目をしているのかしら?」

「正直、理亞へのライバル意識が高まって移籍を決意したルビィさんと、

 そもそも何を考えているのか分からない高海さんに対して

 対策を施そうとするだけ無駄である気がします」

 

 これが私もよく知っているμ'sの子が対立行動を取るとすれば、

 ある程度、困った時にはどのように動くかは見当を付けられるけれど。

 どのみち、ツバサとかニコとか凛クラスの芸能界で一流クラスの実績を残しているとか、

 花陽みたいにサポーターとして的確な才能を発揮している人間が相手なら、

 対策を講じて警戒に当たるだけの理由が思いつこうものだけれど。

 相手の実力がそもそも未知数なだけに、

 華々しくデビューさせてから機会を設けて会議するのも手かもしれない。

 ただ、デビューした時には既に大売れするレールになど乗っかられたりすると、

 こちら側が顔を売るには困難になり、ハニワプロよりもエニワプロかな?

 みたいな評価になってしまい、挽回は不可能になってしまいかねない。

 理亞ちゃんを支えると決意した以上、ルビィちゃんとかに彼女が負けるようではダメなのだ。

 

「油断をする理由もないけれど、

 必要以上に警戒をする理由もない――なにより」

「私たちは負けられないのです。

 どんな理由があれど、海未さんがこちらに対立をしてまで

 成し遂げたい何かがあるというのであれば」

「……お姉ちゃんの台詞を取らないで」

 

 決意は高らかに。

 妹が面白そうなものを見たと言わんばかりにクスクスと笑い、

 私は本当にもうしょうがないわねって顔をしてみていると思う。

 かつての姉妹間の交友のようなほのぼのとした時間が、

 いつまでも続けばいいのにと思いつつ、

 私たちは作戦会議が行われているリビングへと舞い戻った。

 

 ――というに。

 

「ど、どうしました……?」

 

 冷徹なプロデューサーモードから一転。

 素に近い亜里沙としての姿で戻って来、

 姉妹揃ってなにか異常はないかな? あるべくもないかな?

 と、和やかにリビングに入ると。

 緊張しきった表情でツバサがこちらを見、

 エトワールのみんなが何故こんなことと言わんばかりに表情を曇らせ、

 中心にいる理亞ちゃんが頭を抱えている。

 そのようにしなければならない事実が判明してしまい、

 問題発生と言わんばかりに気落ちした態度を見せられてしまうと、

 私としては現状を改めるために高らかにギャグの一つでも披露しようと決意し、

 中にいる雪姫ちゃんに一度前に出ても良いですかと問われた。

 要は、迂闊に口を滑らせてカーリングの人たちみたいに「そだねー」

 の一つで会話などされないように矢面に立ってくれるということ。

 絢瀬絵里のアイデンティティの一つである、脆いシールドとしての役目は放棄し、

 優秀で強固なまとめ役としての側面を見せましょう! とのことだけれど。

 見せてもらおうか、西園寺雪姫の実力というものを! 

 と、思いつつ、お試しな感じで入れ替わってみる。

 

「亜里沙、みんなが焦燥にくれているときこそ

 プロデューサーとしてまとめ役にならなければダメよ?」

 

 常に前面に立って慌てふためいて後ろから蹴り飛ばされる私と違い、

 動揺が走っている面々に対して肩の力を抜いてと言わんばかりにウインクの一つをし、

 この場で一番統率力がある亜里沙を立てて自分は一歩引く。

 確かに外見は自分であって、ちょっと頑張ればこれくらいできそう!

 とは思うのだけれど、今までちょっと頑張ったところで頼れるお姉さんは演じられなかったので、

 なるほど、こうやってみれば良いんだな? と胸の内に沁みるよう

 常に比較対象を観察しながら次に活かせるように心がける。

 ただ、中の人が小学校高学年っていうのは、

 国民的アニメの声優の年齢層は高いのと似てる? 違うかな?

 

「は、はい! どうしました?」

「二人共ちょっと来て欲しいの。見た目は普通なんだけど

 理亞さんがこの人がルビィさんの近くにいるのかって聞いてきて」

 

 自分はあくまで控えめな二番目として妹に追随し、

 事情を聞けば必ずしもそういう反応をすると言わんばかりの事実を、

 緊張した感じでツバサが披露する。

 雪姫ちゃんはその言葉を静かに目を閉じながら聞きながら、

 中にいる絢瀬絵里は驚嘆で慌てふためいているのに、

 理亞ちゃんにそうと決まったわけではないからとフォローをして、

 ツバサにも――もっとしっかりして私をからかうみたいにしてよ、

 と、おちゃらけながら言っている。

 外見上は絢瀬絵里が言っているだけに、

 変なもの食べたんじゃないかみたいなことは、ツバサも考えてはいるだろうけれど、

 雪姫ちゃんが全面に出てきたときの自分の強キャラ感が異常。

 これほどのスペックを自分が持ち合わせていたのか、

 今どきの小学校高学年はこれほど老成しているのかは判断つかないけれど。

 

「何を目的にして雅がECHOの一員として潜り込んでいるのか。

 純真にアイドルとして頑張りたいからであるならば」

「理亞ちゃん落ち着いて。

 冷静ではない時にいくら考えても出てくる結論は見当違いであることが多いから」

 

 冷静でないくらいは見て取れるけれど、

 落ち着くようにアドバイスをする姿は私から見ても違和感がある。

 これがもし、数十分後くらいに私がもとに戻った時に

 同じことをして欲しいと願われてしまったらどうしたら良いだろうと思う。

 この場における暗澹とした空気は取り払われ、

 一度様子を見て誰かしらには情報を伝えることを結論づけ、

 でも、誰から情報を流せばいいだろう? とポンコツな私でさえも疑問になり、

 ただ、それはあっけらかんとした雪姫ちゃんの言葉ですぐに解決した。

 

「花陽に伝えてみましょう」

「絵里、あなた冴えてるけれど、え、亜里沙さん掃除でもした? 

 ハードディスクとか交換した?」

「いいえ、もしかしたらスチームクリーナーで

 根詰まりを起こす要因となっていたゴミが取れたのかも知れません……」

「すごいわね……ジャパネ○トで宣伝するべきよ」

 

 感嘆する様子で妹と友人が会話するのを、

 このまま彼女に入れ替わってもらっていれば、問題は解決するのではないか?

 と、ちらりと考えてしまったけれど――。

 改めて自分の能力の低さが思い至り、改善するためにはどうすれば良いのかと

 益体のつかないことを考えてみて。

 少しずつでも協力してもらって成長を重ねていこうと思った。

 もう亡くなってしまった彼女がなぜか私なんぞに憑いて、

 最善の方法を提案してみんなをまとめているから。

 

「花陽さんなら仮に相手がどのような手段を用いて

 楠原雅という子を事務所に入れたかを把握できるはずよ」

「はい。仮に事務所側が把握していなくても、ツテで情報は入ってくるはずです」

 

 二人の中で花陽の評価が高いので、

 そんなに真面目で一生懸命な姿が好感を覚えるのかな? 

 と、思っていたら雪姫ちゃんが全てではないですがと言っていろいろと教えてくれた。

 凛をたいそうのおねえさんのオーディションに送り出したのは知っているし、

 スクールアイドルやアイドルに匿名で手紙を送って激励やアドバイスを送っているのは、

 ちらりと聞いたことがあったりするけど。

 そもそも、亜里沙にハニワプロの存在を教えたのは花陽であるみたい。

 お母さんが元々ハニワプロのアイドル候補生で、父親さんと出会ってなければ

 テレビで踊っていたかもなんて話もあったらしく。

 結局ニコが引退するまでA-RISEはトップアイドルとして君臨できなかったけれど、

 デビューしてからしばらく本当に売れなくて、

 私とのカラオケ代すら四苦八苦していた頃からアドバイスと激励の言葉を送り続け。

 当初は認められなかったことを少しずつ実行していた結果A-RISEがどのようになったか、

 もう言わなくても分かるよね? 若者の認識率100%叩き出したスーパーアイドルだよ? 

 Aqoursがラブライブの本戦に出場する前に雪穂ちゃんや亜里沙がアドバイスを送り、

 結果的にオトノキの4連覇を阻むことになるけれど、

 その際の致命的な弱点を最初に看破したのも花陽らしい。

 それだけではなく、

 高坂姉妹が窮地に陥った際に、手助けしたいと申し出たAqours3年生組と

 穂乃果と雪穂ちゃんの間に入って仲を取り持ったのも花陽。

 真姫がオタク活動にハマるきっかけとなったアニメの原作漫画を彼女に貸したのも花陽。

 ニコがアイドルを引退した際にUTXに情報を流したのも花陽、

 2次元に傾倒した結果コスプレに懐疑的だった真姫に、

 そんなことないよ、とりあえずやってみたら気持ちがわかるかもよ?

 と、教えた結果西木野真姫が現在あやせうさぎ(裏名)になってるのはご存知ですね?

 私にはなにかないの? と冗談半分に聞いてみると。

 高校卒業後、希と交流が途絶えて再会するまでに時間を要したんだけれど、

 その際に彼女は素の自分を見せて受け入れて貰おうと決意し、

 女磨きを重ねに重ね、今の理亞ちゃんみたいな感じで完全美少女となり、

 ここまで頑張ったんだから受け入れて貰えなかったら

 強制的に自分のものにしよう――な、希を止めてくれたのも花陽。

 あれおかしいな、ヤンデレ(デレ0%)みたいな希を

 どこかで見たような記憶があるんだけど、その恐怖が簡単にわかっちゃうんだけど。

 ともあれ、絢瀬絵里は花陽に足を向けて眠れない、今度お米を届けよう、なにがいいかな。

 

「花陽には……できれば知り合いではない人がいいわ、

 彼女が知らないで、ちょっと気軽に裏情報代わりを提供できそうな」

「私がやります」

 

 と、言って挙手したのはエヴァちゃん。

 なんにも聞いていない風を装いつつ、常に私の数十センチ横に陣取り、

 空気と水を摂取するみたいに新栄養素エリチカの吸収に励み、

 信頼度が急激に上昇したと言わんばかりな私でも、

 全ては分かってますと言わんばかりに悠々とした態度で。

 

「見た目何を考えているのか分かりませんし、

 ちょっと事務所が漏らしたくない情報を提供するのならば、

 自分が的確だと思います」

 

 この中の面々で一番花陽と関わりがないのは、

 朱音ちゃん、朝日ちゃん、理亞ちゃん、よっちゃんとエヴァちゃんの5人。

 スクールアイドルをやっていたよっちゃん以下朝日ちゃん理亞ちゃんは

 花陽がどのような人間かを把握しているみたい、どういう情報網? 

 あの子を引っ張り込んで味方にするほうが先じゃない?

 

「エヴァさん……そんな、裏切らせるようなマネを」

「構いません」

「亜里沙、彼女がそう言っているのだから、

 プロデューサーとして送り出してから、

 戻ってきた時にちゃんと面倒を見てあげなさい。

 成功は私が保証するから。私の保証じゃ信用出来ないかも知れないけれど」

 

 などと絢瀬絵里が言うさまを

 何より自分が眺めながら、やっぱり最初から入れ替わってもらったほうが、

 案外何もかもうまく行くのではないか疑惑が抜けないエリーチカでした。



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