アラサーニートエリちとキャリアウーマン亜里沙   作:桜川凛

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鹿角理亞ルート 05

 絢瀬亜里沙のお説教というものを経験したことのないツバサにとって

 ――人格を否定されるレベルで罵倒されたことがないという彼女にとって、

 なんとも幸運なことに、そして愚かなことに、

 雑巾を絞るみたいにキリキリと精神的に追い込んでいく妹キャラを見たのは、

 結構新感覚でいい経験だったらしい、ドMと呼称するべき?

 ドヤ顔でこうして問題点を指摘されるのもいいわねとか言うので、

 アレをいつも喰らっている私の身にもなってみたらと真剣に告げたら、

 それはそういう態度をされるあなたに問題があるんじゃないのと、

 ぐうの音も出ない正論をぶちかまされたため、

 頭をグリグリとウメボシをやったところ、

 きゃーきゃー言いながら犯されるーって叫んだため、

 包丁を置きに行き出て行ったはずの亜里沙が戻ってきて、

 まだいちゃつく余裕があったようですね、罵倒では足りませんでしたか?

 と、スチームクリーナーを構えたため、誠心誠意土下座させて頂いた。

 どこのいったい何を掃除しようというのか、疑問ではあったのだけれど、

 返答が絢瀬絵里自体をだ! みたいなのだったら夜も眠れないので、

 殊勝な私は問いを控えさせていただく。

 

 何事かストレスを抱えていたと思しき妹の精神状態も、

 おふざけによって落ち着きつつあったと思うので、

 なんでそんな土下座に慣れているの? 高校時代のクールさどこに行ったの?

 という綺羅ツバサのコメントもスルーすることにした、傷口はまだ浅い。

 なお、亜里沙の近くにはスチームクリーナーとアイスピックがあり、

 機嫌を損ねるようなことがあれば、誰かの体の一部分に発動されることが予測され、

 自分でないことを祈りたい、できれば隣にいて私の服を着てるヤツにして貰いたい。

 もっとまともな服持ってきてないのとか、少しは高い衣服を買えと

 さんざっぱら注意してくるので、

 だったらあなたが隣りにいて選んでと口を開いて言おうとしたら、

 雪姫ちゃんがやめてください! 死にたいんですか! 

 と、死人にあるまじきセリフを言ったので少々自重をしておく。

 妹はハニワプロのプロデューサーとして日々忙しく過ごしており、

 なにか目的があって此処に来訪されたことも予想できたため、

 それがきっと、私の苦労に繋がるんだろうなあと少々憂鬱ではあるんだけれども、

 妹のお金でさんざん飲み食いを重ねてきた報いだと言われれば、

 それもまた仕方なしかなとも思わないでもない。

 お仕事モードでクールに正対する亜里沙に対し、

 殊勝な態度で正座をする元トップアイドルと元ニートという組み合わせは、

 なんか不思議な縁を感じられた、空気が冷え込んでいるのは私のせいじゃない。

 

「作戦会議をしたいと思いまして」

「ええ、でも足を崩して良いかしら? こっちの金髪は慣れてるけど

 私はあいにく反省を促される経験が少なくて」

「仕方ありません。ツバサさんの頼みでは聞かざるを得ませんね、

 では今度なにか私から頼ませてください、反論は受け付けません」

 

 特大級の地雷を踏みつけて正座からの脱却に成功し、

 むしろ、正座をさせられていたほうが足が痺れるくらいで良かったのではないか、

 悠然とした顔をしているけれど、心の中では何を要求されているのか不安で仕方がないのだと思う、怯えたように私との距離が近くなった。

 私はクールに正座なんて平気ですよと言わんばかりに構えるけれど、

 反省を促されるサルみたいな態度をする必要もないと思って、

 

「私も足を崩していい? ほら、年を取ると膝が痛くなるから」

「ええ、分かりました、耳に入れておきます――

 ああ、そのままの姿勢でいてください? 

 聞くか聞かないかは私の意志次第です、耳に入れましたが聞く耳は持ちません」

 

 などといいつつ、正座する私の太ももに辞書みたいな本を乗っけた。

 まるで古来の拷問のようね……と黄昏れた表情で言ってみると、

 近くのツバサがあなた強いわねと関心した風だった。

 強くなりたくて強くなったわけではありません――。

 昨日まで、もうちょっと甘えたがりの妹だったはずで、

 結構親しく交流できていたような気がするけれど、

 恋する乙女というのは感情の変動が激しいみたい、お前のせいだろ

 みたいなツッコミは右から左へ受け流すのでよろしくお願いします。

 

「と、失礼しました。電話ですね……

 二人はきちんと反省してくださいね? 特にお姉ちゃん!

 今度はダンベルだからね!」

 

 可愛らしい口調でとんでもないことを抜かす妹が、

 バタバタと自室から抜け出て、ふうとため息をついたツバサがこちらを見て、

 ダンベルって何キロか問うので、以前は5キロを乗せられたと言ったら、

 何故乗せられたのか問われたから、

 あなたから預けられた成人向け同人誌を妹に観られたからと告げると、

 何故ちゃんとベッドの下に隠しておかないのかと怒られてしまった。

 別に性的な欲求不満でそういう同人誌を二人して見るわけではないんだけれど、

 自分を題材にしたナマモノ系をみたりすると、あまりのギャップに笑えてくるのよね。

 あくまでも、ラブライブ! っていうアニメを題材にしたやつだから、

 実際問題現実の絢瀬絵里ではないんだけどね? でも、外見自分だから、

 複雑ながらも面白くてついつい読んじゃうのよね? 当人経験ないのに

 ビッチキャラみたいな感じで男性と交流していると、妄想たくましい! って

 関心してしまうし、あの時見つけられたのが、亜里沙のやつだったから

 なおさら破壊力が高かったのかもね? あの子アニメ出てないのにね!

 どこで調べ上げて絢瀬亜里沙の同人誌を書いたのか、

 そして何故それを綺羅ツバサが持っていたのか疑問は尽きないけれどスルー。 

 

「以前、μ'sの同人誌を観たことがあるの」

「ナマモノ?」

 

 コクリと頷くツバサ。

 芸能人関係はご法度というケースも多いけれど、

 スクールアイドルはそのへんが緩いのか当人に知られないように

 という基本的原則はあるみたいだけれど、私達μ'sの場合は

 仮に見つかってもアニメのやつ! と主張できるので人気があるらしい。

 結局エロ同人を売るために都合のいい材料を探してるだけじゃないか!

 と言いたい気持ちも確かにあるけれど、案外好んでそういうのを見てしまう手前、

 話題に出すのはそういうのが平気な面々だけ、真姫とか。

 あの子は自分の出演している同人誌を大人買いする人間だからね?

 まあ、真姫以外は怒るけれど、筆頭は凛とことり、

 作者じゃなくて私にキレるのはどうしてなんだろうと今でも疑問、

 絢瀬絵里って実はμ'sのサンドバッグだったのかしら。

 

「なかなか9人揃って出演するっていうのは少ないんだけど

 BiBi編っていうのがあったのよ」

「lily whiteとかPrintempsはあったのかしら……」

 

 しかもシリーズものなんだ。

 なんでもご奉仕系のイチャラブ同人誌だったらしく、

 作者はツバサが所属していた事務所のアイドルだった(現在は引退)よう。

 かなり私を推していた作者だったみたいで、

 過去にはうみえり、絵里オンリーと書いていて、満を持してのBiBiVer。

 

「あなたの出番1ページしかなかった」

「あれ、おかしいわね? それってBiBiじゃなくてにこまき同人誌じゃないの?」

「現実のにこまきはさほど仲が良くないけれど、やっぱアニメで注目されたからなのかしら?」

 

 不仲というわけではないけれど、やたら百合率と3P率が跳ね上がる二人は

 実際、二人でなにかした経験は3年生組の高校卒業後では片手で数えられるほど。

 特に、真姫がお酒を飲めるようになって以降はBiBiだけで集まった事自体がなく、

 そのことを同人誌描いている人にネタにすると、

 妄想を裏切るな! と怒られるので要注意、イミワカンナイ!

 

「ええと、亜里沙さんは何故此処に来たのかしら?

 別に私達を注意するためでは――もちろん無いのよね?」

「そこまで暇じゃないわ、仕事と私事は分けるし」

 

 成人向け同人誌でニコがにこにこにーやらされる率について

 真姫と真剣に話し合っていたところ、あろうことか当人にそれを知られてしまい、

 慌てた私達はそういうのシタことあるのと、つい口を滑らせて、

 んなわけあるか! じゃああんたはハラショー! ってイカされた時に言うのか! 

 と反論をされて経験自体がない! と二人して言ったら場の空気がお通夜になった。

 なんて言おうと思ったんだけど、話題は軌道修正される。 

 

「あなたに言ったような言わなかったような気がするんだけれど、

 エニワプロというのがあってね」

「聞いたような聞かなかったような気がするけれど、

 確か……斜陽化して一大プロジェクトに賭けるんだっけ?」

 

 業績の回復のためにルビィちゃんを引っこ抜いたというのをどこかで耳にしたような。

 夢の中で逢った、ような……気はするんだけど、ひとまず棚に上げる。

 

「承知の通り――か、どうかは置いておいて、

 元Aqoursの二人がデビューするってことになってる、

 社運を賭けているから結構華々しく出てくると思うわ」

「ルビィちゃんと高海さんだっけ? ルビィちゃんはともかく、

 高海さんってアイドルできるの?」

「聞いた限りでは、一流レベルで仕事はこなせるみたい。

 ただ、問題はそこじゃないの」

 

 何故芸能関係の仕事を今までアイドルとして活動をしてこなかった彼女が、

 ツバサに評価されるレベルでこなせるのかはスルーしてもいいとして、

 警戒に値するのはアイドルとして出てくる二人ではないみたい。

 

「人員がいないせいで海未さんがフォローに当たってる」

「……海未? 冗談でしょ?

 海未のAqoursの苦手の仕方はネタにできないレベルよ?」

「私もそう認識していたのよ、そうであったはずなの。

 でも、ルビィさんと同様に最初からそうだったみたいに、

 海未さんと千歌さんは揃って行動している、優れた動きをしたとは言え、

 コネもなにもない千歌さんが事務所に潜り込めたのは、海未さんの功績だし」

 

 A-RISEがニコの芸能界引退後に出てくる際に、

 ソルゲ組で曲を提供したことがあり、ミリオンセラーに近いレベルでヒット、

 芸能関係者のメンツを叩き潰した経験がある。

 未だに園田海未作詞なら誰が歌っても行けるという信仰に近い評価もあり、

 そこを交渉の材料にすれば多少の無理は引っ込む。

 真姫やことり、希や凛あたりの協力を得られると考慮すれば、

 優れた人材が喉から手が出るほど欲しい斜陽事務所が動くのも分かる。

 特に凛は海未を花陽と同じレベルで慕っているし(だから私に冷たい)

 アイドル関係者にも顔が広いおかげで、デビューしたてのグループを推すならば、

 こんなにうってつけの人物も居ない、凛なら海未が言えば断らないはずだし。

 

「梨子さんや曜さんも動いているの?」

「水面下では分からないけれど、μ'sもAqoursも――もちろんA-RISEも動いてない」

「……海未が行動しているのに、μ'sが動かないの?」

 

 曜さんはアスリート兼タレントとして抜群の知名度があるし、凛との交流もある。

 梨子さんは銀座の胡蝶として人員を導入すれば、

 売れないアイドルだろうが多少は行ける。

 高海さんとその二人は仲が良いと認識していたけれど、アテが外れたかしら?

 ルビィちゃんが動いていることにより、ダイヤちゃんあたりも協力に励むかと思ったけれど、

 彼女が動けば自然とマリーや果南ちゃんも動き出すから、いや……

 そういえば、マリーは海を観ていると書いていたけど、もしかして園田海未ってこと?

 ともすればダイヤちゃんも協力に動くはずだから、難敵であるのは確実。

 ただ、亜里沙がその動きを認識していないはずはないから、

 先回りして釘を刺すくらいは無難にこなしそうではある。

 

「いくら高海さんが穂乃果から評価が低くて、

 希しかフォローしてないのは知っているけれど……」

「海未さんが困っているなら絵里も彼女に協力するの?」

「ええ、あいにくだけど断言するわ」

「……ふふ、まあ、絵里ならそう言うと思った。

 あなたって本当に甘っちょろいもの、海未さんも困ったらあなたを頼るでしょうね?

 つまりは、そうしないということをμ'sのみんなが把握しているから、

 きっと、彼女たちが動いていないんだわ」

 

 助けてと言わないでも、穂乃果や凛や花陽と言った、

 仕事をよりも私情を断然優先する面々が動かないのは不自然だけれど、

 よもや頼られても支援しないという選択肢は取らないであろうから、

 海未の意志を尊重して動向を見守っているとするのが正しいのかも。

 

「海未さんが困ってたら、あなたはどちらにつくの?」

「亜里沙やあなたを取るか、海未を取るかってこと?」

「いずれ決めなければいけないかも知れない、だから聞いておきたいの」

 

 暗に敵に回るなら先に言え、ということ。

 μ'sとして過ごしてきた日々は私にとって本当に幸せな時間だった。

 客観的に観れば幸せなことばかりではないんだけれど、

 それでも、高校時代を振り返ってほほえましい気分になってしまうのは、

 あの時に良い青春を送ることが出来たから。

 でも――過去に幸福だからといって、現実の生活まで損なってもいいのかしら?

 μ'sが大事だから今は不幸であっても仕方ないというのは、

 何かが違う気がしてならない、それは誰一人望んでいないと思うし。

 

「ごめんなさい、海未が困っていたら、私は彼女を取る」

「覚悟の上なのね」

「ほんとうにごめんなさい」

「……いいのよ、私も英玲奈やあんじゅが頼ってきたら、

 あなたを捨てるわ、A-RISEで活動できるんならそっちを優先するもの

 えと、こんなこと言ってしまうと嘘だと思われてしまうかもだけれど、 

 私は絵里を親友だと思ってるから」

「恥ずかしいこと言わないでよ。

 仮に対立することになっても、ツバサを親友じゃないとか思えないじゃない」

 

 おそらく賢い選択とは言えない。

 そもそも亜里沙を裏切るとして海未を助けに入ったところで、

 なんにも役に立たない可能性があるし、明日にも食べられなくなる危険すらある。

 無収入のニートが後ろ盾もなく協力すると言った所で、たぶん意味はない。

 意味はないのだけれど、道理でもないのだ。

 海未だけじゃなく、ニコや凛とかことりの私に辛辣なら面々が困っていたら、

 罵倒されたって協力して助けに入ると思う。

 人を助けたいと思うのは、道理や常識では語れない側面がある。

 

「もしかしたら、海未さんは無意識下に絵里に……」

「ん?」

「ううん、仮定だから言わないわ、あなたを惑わせるだけだから。

 でも、私はそれでいいと思うんだけれど、

 ハニワプロのプロデューサーとしての妹さんはあなたの意見をどう思うのかしら?」

「……先程からスチームクリーナーの音がするかと思ったら」

 

 迂闊にも亜里沙が戻ってきたことに気が付かず。

 妹よりも海未を取る! 宣言も聞かれてしまい。

 せっかくコネで就職に至ったとはいえ、それを自ら投げ出す所業に、

 注意散漫にも程があるなと自嘲するため息をついた。

 

「どこでも好きに洗浄なさい」

「良い度胸です、おしりが良いですか」

「……それはやはり側面ということよね?」

「有り体に言えば大腸ということになるでしょうか、

 ノズルが付いていますから、入りますよね? 穴があるんだから」

「成人向け同人誌みたいな感じではいけないと思うの」

「安心してください、無理を通せば道理は引っ込みます――ツバサさん、逃亡禁止」

「なんで!? 絵里のうかつな発言でしょう!?」

「乗せたのはツバサさんですよね、だいじょうぶ、安心してください

 おしりじゃなくて前の方に入れます」

「純潔がスチームクリーナーに犯されるのはイヤァ!?」

 

 うん、スチームクリーナーさんも

 そういうところを洗浄するのがゴメンだと思う。

 あと、先程から下ネタ豊富な会話を聞いている雪姫ちゃんには

 ちょっとだけ申し訳ないと思うんだけど、もう手遅れよね?


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