それでも彼は惰眠を貪る   作:夜無鷹

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銀魂、まだ終わりませんでしたね。
もうちょっとで終わるからーってこれ書き始めたのに、何してくれてんだ。
終わる終わる詐欺とか………


いいぞ、もっとやれ。やり続けろ。
それでこそ銀魂だ。



第十訓 くだらない約束でも案外覚えてるもんだ

テロ騒動の後日、テロリストの仲間だとされてしまった四人は、警察所にて三日間に渡る取り調べを受けた。

決め付けと脅迫に近い取り調べに、いつもの気怠いテンションで無罪を主張し、やっと解放されたのだ。

だが、そう簡単に帰らないのが二名。銀時と神楽である。

警察所の門前で看板に蹴りを入れるがそれでも苛立ちは治らないらしく、今度はゲロだの何だのと小さなテロを起こしていた。

 

「アンタらに構ってたら、何回捕まってもキリないよ!僕、先に帰ります!ちゃんと真っ直ぐ家帰れよバカ共‼︎」

 

ご立腹の新八はそんなセリフを残して、スタスタとこの場を離れて行ってしまった。

新八以上の常識人と呼べる人間がいない現状で、ただの眼鏡かけ機といえど欠けるのは些か辛いものがある。

 

「オイオイ、ツッコミがいなかったら、色々と成立しねーぞ」

「じゃあ、新八の次に常識人である俺がやらんといけんか」

「誰がいつオメーを常識人の枠にいれたよ」

 

どっちがツッコミをやるか口論していると、横で神楽がゲロを吐き出した。

 

「おまっ……どこにゲロ吐いて……」

「くっさ‼︎酢昆布ばっか食ってっから……」

 

神楽の吐瀉物に鼻をつまんで悶えていると、警察所敷地内の方から甲高い笛の音が鳴り響いた。

何かあったのか、と顔を上げると、そこには塀から飛び降りてくる人が。いい歳こいたオッサンである。

そのオッサンは銀時達の目の前に着地したが、滑って後頭部を強打。

丁度降り立った足下に、神楽の吐瀉物があったのだ。

 

「いだだだだだ‼︎それに臭っ‼︎」

 

起き上がり強打した後頭部を押さえるオッサン。

間髪入れず門からは数人の役人が現れ笛を吹く。

 

「オイ!そいつ止めてくれ‼︎脱獄犯だくさっ‼︎」

「はイ?」

「あ?脱獄……?」

 

追い掛けてきた役人を見たオッサンは舌打ちをし、瞬時に近くにいた神楽の首に腕を回し人質に取る。

 

「来るんじゃねェ‼︎このチャイナ娘がどーなってもいいのか‼︎」

「貴様‼︎」

 

如何にもな展開を挟みつつ、オッサンの視線は役人から呆然と状況を眺めている銀時と黒瀬に向く。

 

「オイそこのどっちか!免許持ってるか?」

「俺ァ普通免許持ってっけど」

 

いつもの調子で銀時が応えたのだった。

 

 

◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️

 

 

パトカーをパクり、運転を銀時が、後部座席には未だ神楽を人質にするオッサン、助手席には黒瀬が乗っていた。

神楽が呑気にヨダレを垂らし居眠りをしている中、オッサンの指示通りに車を走らせる。

 

「おじさーん、こんな事してホントに逃げ切れると思ってんの」

「いいから右曲がれ」

 

ハンドルを右に切る。

また犯罪の片棒を担がされているが、これは人質を取られているから仕方なく従っているのである。

不可抗力だ不可抗力。

 

「今時、脱獄完遂するなんぞ、徳川埋蔵金見付け出すくらい難しいんだかんな」

 

腕を組んだ黒瀬が呆れ気味に言う。

 

「逃げ切るつもりなんてねェ………今日一日だ。今日一日、自由になれればそれでいい」

 

脱獄してまで固執する理由。

 

「特別な日なんだ。今日は………」

 

オッサンは静かに、窓の外を眺めていた。

 

 

◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️

 

 

「皆さーん!今日はお通のライブに来てくれて、ありがとうきびウンコ‼︎」

『とうきびウンコォォォ‼︎』

「今日は皆んな浮世の事なんて忘れて、楽しんでいってネクロマンサー‼︎」

『ネクロマンサー‼︎』

「じゃあ一曲目、『お前の母ちゃん何人?』‼︎」

 

と、妙にノリノリな曲が始まる。

脱獄のオッサンと神楽はハイテンションで拳を振り上げ、そのノリについて行けない銀時と黒瀬はただ呆然としていた。

この場にいる人間が冴えない奴等ばかりで、それでもステージ上にいるアイドルに必至に盛り上がっているせいか、非常にむさ苦しい。ひたすらむさ苦しい。

 

「………なんだよコレ」

「今、人気沸騰中のアイドル、寺門通ちゃんの初ライブだ」

「てめェェェ人生を何だと思ってんだ‼︎」

 

ふざけた脱獄理由に、銀時はオッサンの脳天に渾身の踵落としを決める。

オッサンは威力に耐え切れず昏倒。

 

「一時の享楽の為に人生棒にふるつもりか。そんなんだからブタ箱にぶち込まれんだバカヤロー」

「………一瞬で人生を棒にふった俺だからこそ、見落としてならない大事な一瞬があることを知ってるのさ」

 

頭を摩り起き上がるオッサン。

歳食ってる分、経験から学んだ教訓も多いはず。

一瞬一瞬を大事になんて言っても、実際その言葉通りに過ごしている人間は一握りもいないだろう。

オッサンは立ち上がり、勢い良く両手を広げた。

 

「さぁ楽しもう‼︎L・O・V・E・お・つ・う‼︎L・O・V・E……」

 

再び周囲のドルオタ達に馴染むオッサン。

元々の熱気もさる事ながら、オッサンの声援もなかなかにイタイ。

ライブにも脱獄理由のくだらなさにも、銀時は呆れかえってしまった。

 

「やってらんねェ。帰るぞ」

「え〜、もうちょっと見たいんきんたむし」

「案外悪かねェぞあの歌。ちょっと聴いてミイデラゴミムシ」

「影響されてんじゃねェェェ‼︎」

 

神楽と同じく、黒瀬も何か惹かれるものがあったらしい。

歌詞はとことんふざけたものだが、分かる人には分かるというものだろう。

でなければ、ライブに人は集まらない。

まあそんな事、たかがアイドル如きにと思っている銀時にしてみれば、限りなくどうでも良い事なのだが。

 

「………オッサン、放っといてて構わんのか?」

「知るか。気になるなら、テメーが見てりゃあいいじゃねーか」

「いや、流石に脱獄犯と一緒ってのは………」

 

何やかんやでお通語から脱却した黒瀬。周囲と溶け込むほど、のめり込みはしなかったようだ。

出入り口を目指し客席脇の階段を上りながら、銀時はあたりを見回す。

 

「殆ど宗教じみてやがるな。なんか空気が暑くて臭い気がする」

「ドルオタってのは大抵そんなもんだろ」

 

会場の体感温度が上がるほど、熱狂的なファンが多いのだろう。

その時、ふと見知った顔が視界に入った。

 

「もっと大きい声で!!オイそこ何ボケっとしてんだ!!声張れェェェ!!」

「すんません隊長ォォォ‼︎」

 

”寺門通親衛隊”という法被を着て、普段の服装とは違うが、滲み出る地味さが拭えない眼鏡少年。新八が、同じ格好をした数十人を前に、妙に(たぎ)っていた。

 

「オイ、いつから隊長になったんだオメーは」

「俺は生まれた時から、お通ちゃんの親衛隊隊長………って、ギャアアアア‼︎銀さん⁉︎と、黒瀬さん⁉︎何でこんな所に⁉︎」

「こっちが聞きたいわ」

 

完全に親衛隊隊長モードになっていた新八は、周りが見えていなかったらしい。

 

「あの眼鏡が、こんなモンに傾倒してたんか……お前の姉ちゃんに何て言えばいいんだ」

「僕が何しようと勝手だろ‼︎ガキじゃねーんだよ‼︎」

「つーか、てめーも人の事言えねェだろーが」

 

「あんコラ」と凄む新八だが、服装が服装なだけに怖気づくほどの威圧は感じられない。しかし、アイドル一人のためにここまで性格が豹変したと考えると、驚くというよりちょっと引く。

 

「ちょっと、そこの貴方達」

 

突然、声がかかった。

声のした方へ顔を向けると、腕を組んだ眼鏡の女性が迷惑そうにこちらを睨んでいた。

強い口調ながらその容姿からも、なかなかにキツイ性格なのだろうと察する。

 

「ライブ中にフラフラ歩かないで下さい。他のお客様のご迷惑になります」

「スンマセン、マネージャーさん。俺が締め出しとくんで」

「あぁ、親衛隊の方?お願いするわ」

 

マネージャーと呼ばれた女性は、眼鏡をクイッと上げる。

 

「………今日はあの()の初ライブなんだから。必ず成功させなくては………」

 

ふと客席を見るマネージャー。

ある人物を視界に入れた途端、その表情が一変する。

 

「………‼アナタ………?」

 

マネージャー半信半疑でそう呼びかけたのは、一際大きな声でラブコールを送り続けるオッサンだった。

 

 

■■■■■■■■■■

 

 

その後、マネージャーとオッサンは会場の外へと場所を移し、話をしていた。

盗み聞いた話を要約すると。

二人は、アイドル寺門通の両親。父親のオッサンは殺人罪で服役しており、母であるマネージャーは寺門通を側で支え続けてきたという。

罪や家族の心情を考えず脱獄しライブに来たオッサンに対し、現在マネージャーは怒り心頭のご様子。

一通り言いたいこと言ったマネージャーは、気は済んだとは言えないもののその場を去った。

 

「………ガム食べる?」

 

横から差し出されたガム。

オッサンの隣には銀時が座っていた。

 

「んなガキみてーなもん食えるか」

「そんじゃ俺が貰う」

 

後ろから黒瀬がガムを取り、二人とは逆の方向を向いて長椅子に座った。

 

「人生を楽しく生きるコツは、童心を忘れねーことだよ」

「つっても娘の為に脱獄なんぞ、ガキかバカしかやらんだろ」

「そんなんじゃねェバカヤロー………約束しちまったんだよ」

 

■■■■■■■■■■

 

しゃもじをマイク代わりに、歌う少女がいた。

ずれた音程はお世辞にも上手いとは言えず、誰が聞いても音痴と答えそうなほどであった。

そんな歌とは言えない歌を、傍らで爆笑しながら聞く男がいた。

 

「やっぱりお前も俺の娘だな!音痴にも程があるぞ!」

 

バカにされた少女は眉間にしわを寄せる。

 

「フン、今に見てな。練習してうまくなって、いつか絶対、歌手になってやる!」

「お前が歌手になれるなら、キリギリスでも歌手になれるわ」

「うるさいわボケ!なるっつったら、なるって言ってんだろ!」

 

少女の強気な言葉に、男は顎に手を当てまだ見ぬ未来に思いをはせるように言った、

 

「もし、お前が歌手になれたらよォ、百万本のバラ持って俺がいの一番に見に行ってやるよ」

「絶対だな」

「あぁ、約束だ」

 

そうやって二人は、いつ果たせるかもわからない約束を交わした。

 

 

■■■■■■■■■■

 

 

「覚えてるわけねーよな。十三年も前の話だ。………いや、覚えてても思い出したくねーわな」

 

募るのは後悔ばかり。

 

「人を殺めちまったヤクザな親父のことなんかよォ、顔も見たくねーはずだ」

 

身の上話を終えたオッサンが立ち上がる。

 

「………帰るわ。バラ買ってくんのも忘れちまったし………迷惑かけたな」

「銀ちゃーん‼アッキー‼」

 

会場から出てきた神楽が走ってきた。

 

「どした?」

「お客さんの一人が暴れ出してポドン発射」

「普通に喋れ。訳わかんねーよ!」

「既にオタ芸やらなんやらで暴れとらんかったかーネルサンダース」

 

再びお通語を発症した黒瀬は、青筋を浮かべた銀時に頭を叩かれた。

神楽の話によると、会場にいた天人が突然暴れ出したという。

その天人というのが食恋族………興奮すると好きな相手を捕食するという種族で、今回捕食対象になってしまったのが初ライブで張り切っている、寺門通だった。

 

一方会場では、腹部の大口を開けた食恋族に、客は逃げまどっていた。

ステージ上でマネージャーがお通の手を引き逃げようと促すが、当のお通は突然の出来事に腰を抜かし動けないでいた。

 

「お通ちゃ~ん‼」

 

迫り寄る食恋族が、お通に手を伸ばす。

しかしその手がお通を捕らえることはなかった。

動けないお通を押しのけ、奇妙な格好をした男が伸ばされた食恋族の手を受け止めたからだ。

ビニール袋に覆面のような穴を開け被った男。

 

「お通ぅぅぅ‼早く逃げろォォォ‼」

 

だが奮闘むなしく、食恋族の平手によって男は打倒されてしまう。

 

「いけェェェェ‼僕らもお通ちゃんを護れェ‼」

 

親衛隊の責務を果たそうと、メンバー全員が腰に差した木刀を片手に、一斉に駆け出す。

 

「しっかり、しっかりしてください‼」

 

ステージ上で倒れた男の側に寄り声をかけるお通。

男は目を覚ます。

 

「あ、気が付いた」

「無茶するねェアンタ。こんなバカな真似して………何者だい?」

 

男は起き上がり頭を擦る。

 

「………ただのファンさ。あんたの」

 

その時、暴れまわっていた食恋族が凄まじい音を立て倒れた。

親衛隊と隊長新八、駆け付けた銀時と神楽によって一件は収拾した。

 

「オッサン」

 

打倒に参加していなかった黒瀬が、客席からステージのビニール袋男、オッサンに向け何かを投げた。

オッサンが受け取ったもの。それは、約束のバラとは程遠い、三本のたんぽぽだった。

 

「上等なもんは用意できんかった。あとは自分で何とかしろ」

 

オッサンはたんぽぽを眺め、お通へ渡す。

約束通り、とは言えない。お通が覚えているとも限らない。

それでも自分は覚えている。覚えているから、絶対と言われてしまったから、約束だと答えてしまったから。

娘が、夢を叶えてしまったから。

自分はそれに、どんな形であれ応えなければならない。それが、約束だから。

振り返らず去ろうと扉を開けたオッサンに、声がかかる。

 

「………今度はちゃんと、バラ、持ってきてよね。舞台でずっと待ってるからさ。父ちゃん‼」

 

お通の言葉にオッサンは何も答えず、扉は閉められた。

 

「よォ、涙のお別れは済んだか?」

 

扉の外には銀時と黒瀬がいた。

オッサンは被っていたビニール袋を握り締め、大人げなく涙を流していた。

 

「バカヤロー、お別れなんかじゃねェ。また、必ず会いに来るさ………今度は、胸張ってな」

「急繕いだったが、今のアンタには百万本のバラより、あの花が丁度良かったらしい。次はちゃんと、約束護らんとな」

 

黒瀬はずっと噛んでいたガムを風船のように膨らませ、オッサンから目を離した時、ガムがパチンと弾けたのだった。




この話書いてる最中、コンポタ食ってました。
コンポタ美味いわー。
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