それでも彼は惰眠を貪る   作:夜無鷹

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犬派か猫派かよく聞かれますが、自分は両方です。
犬は狼タイプ。猫は変なフォルムじゃなければ。
いやけど、鳥も捨てがたい。


第十三訓 疲れた時は酸っぱいもの食って寝とけ

ただ何となくテレビを見ていると。

 

「あ、バカ皇子だ」

 

先日に来日したあの間抜け面が、新設の動物園を訪れたというニュースが流れた。

黒瀬は、相も変わらず懲りねェなと茶を啜る。

 

「ホントだ。銀さん銀さん、あのバカ皇子また来てたみたいですよ」

 

モップを片手に掃除をしていた新八が手を止めて言うが、銀時は開いたジャンプを顔に乗せイビキをかいていた。

 

「ちょっと………聞いてます?」

「放っとけ」

「ただいまヨ〜」

「あ、お帰り」

 

ちょうど買い出しに出ていた神楽が帰ってきた。

トイレットペーパーが無くなりそうになっていた為、神楽におつかいを頼んでいたのだが。

 

「はいヨ」

 

尋ねた新八に渡されたのは、一ロールのみ。

どこをどう見ても白いロールが単体。

 

「普通何ロールか入った奴買ってくるんじゃないの。これじゃあ、誰かお腹壊したら対応しきれないよ」

「ついて行きゃあ良かったか」

 

もしくは、あらかじめ何ロールか入った奴と言っておけば良かった。

だからと言ってまた買いに行くのも面倒。

 

「なに言ってるアルかアッキー!おつかいくらい、私一人でも行けるネ!」

「だったら、はじめてのおつかい的なミスしないでくれん?」

 

はじめてのおつかい適正年齢である五、六歳の子供だったらまだしも、それなりに知識の蓄えた………いや、不要な知識を詰め込んでしまったこのチャイナ少女には常識は通じないか。

 

「便所紙くらいでガタガタうるさいアル!姑かお前ら!」

「姑以外もガタガタ言うっての!そんだけ大事なんだよ!便所紙見くびんな!」

 

と、黒瀬はテレビから目を離し、神楽達の方へ向いた。

思考が停止する。

 

「世の中には、新聞紙をトイレットペーパーと呼んで暮らす貧しい侍だっているアル」

「そんな過激派いないよ!誰に聞いたの?」

「銀ちゃんが言ってたヨ」

 

新八と神楽は普通に会話をしているが、黒瀬は……いやもう一人、黒瀬と銀時は目を擦った。

確認するように目が合い、また新八と神楽の方へと向く。

 

「ダメだよ、あの人の言うこと信じちゃ……ん?ぎゃあああああ‼︎なにコレェェェ‼︎」

 

新八も気付いたようだ。

あまりにも気付かないで会話するものだから、あれはもしや夢かと思い始めていたのだが、安心した。

夢でも幻覚でもなかった。

 

「表に落ちてたアル。可愛いでしょ?」

 

神楽は得体の知れない生物、無駄にデカイ白い犬の顎を撫でた。

 

「落ちてたじゃねーよ。拾ってくんなら、せめて名称のわかるもん拾ってこいや」

「定春」

「今つけたろ!明らかに今つけたろ‼︎」

 

どうせ名称のわかるもの拾ってきたとして、それが生き物だったら養っていく余裕はない。

 

「これ……首輪に挟まってたヨ」

 

神楽が差し出した二つに折られた紙を、新八が受け取り読む。

 

「えーと……万事屋さんへ。申し訳ありませんが、ウチのペットもらってください」

「………それだけか?」

「“笑”と書いてあります」

「笑えるかァァァァァァ‼︎(怒)」

「うわっ‼︎」

 

ふざけた手紙に憤慨した銀時は、新八から手紙を奪い取りビリビリに破り捨てた。

人にペットを押し付けておいて(笑)なんて文末に付けられたら、それは激怒するのも分からなくはない。

 

「要は捨ててっただけだろ?そんなデケェ犬、飼えん」

「万事屋つったってなァ、ボランティアじゃねーんだよ‼︎」

『捨ててこい』

 

ただでさえ家計は火の車。

酢昆布と家中の食料をやたらめったら食う胃袋異次元娘が、火の車に油を掛けまくっている現状で、あからさまに燃焼を加速させるだろう犬を飼おうとは思えない。

どうねだられても、同情は出来ない。

 

「嫌アル‼︎こんな寒空の下放っぽいたら、死んでしまうヨ‼︎」

「大丈夫だよオメー、定春なら一人でもやっていけるさ」

「アンタ定春の何を知ってんの!?」

 

神楽は必至に訴えているが、同情だけで色んなものを拾っていては生活がままならない。

仕事もほとんどなく、ただただ預金残高が減っていく現状で、さらに何かを抱え込むのは………。

 

「そんだけ毛むくじゃらなら大丈夫だ。懐く前に捨てろ」

「アッキーも酷いアル!そんな薄情者だったなんて知らなかったネ!」

「はいはい」

 

神楽の嘆きを軽く流し、黒瀬は茶を啜る。

一方で銀時は、巨大犬に近付き手を伸ばしていた。

 

「分かってくれるよな。定は……」

 

触ろうとしたのだろうがそんな意思に反して定春は、銀時の頭を口の中に収めてしまうのだった。

 

 

◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️

 

 

「定春ぅ〜‼︎こっち来るアルよ〜‼︎ウフフフフフ‼︎」

 

と、ペットとの楽しい時間を過ごす神楽。

犬相手に公園を駆けずり回る光景は普通なはずなのだが、何かがおかしい。

そうだ、犬がおかしい。なぜか。

一見しただけで分かるくらい、デカすぎるのだ犬が。

 

「……スッカリ懐いちゃって。微笑ましい限りだね」

「そーっスね。女の子にはやっぱり、大きな犬が似合いますよ、銀さん」

「巨大犬が似合う女子ってなんだよ。そんなん女子じゃねェ。つか俺が認めん」

 

神楽が定春と追いかけっこをしている様子を、所々包帯を巻いた三人がベンチに座って見ていた。

どうして負傷しているか。それは、定春に咥えられてしまった銀時の救出と、公園に着くまで追いかけっこという名のデスマッチを繰り広げていたからである。

 

「僕らにはなんで懐かないんだろうか新八君」

「なんとか捨てようとしているのが、野生の勘でわかるんですよ」

 

満身創痍寸前の三人の前で、定春のやんちゃぶりをものともせず年相応にはしゃぐ神楽。

悪態をつきたくなるくらい微笑ましい限りである。

 

「なんでアイツには懐くんだろう新八君」

「懐いてはいませんよ」

 

仲良く遊ぶ神楽と定春。

しかし、明らかに仲良いとは言えない攻防が紛れ混んでいる。

現に定春が牙を剥き出しにし神楽に襲いかかっているが、当の神楽はそれを笑顔の上、片手で受け止めているのだ。

 

「襲われてるけど、神楽ちゃんがものともしてないんです」

「なるほど、そーなのか」

「前言撤回だな。お似合いだよホントに」

 

体格差はともかく、パワーバランスは丁度いいようだ。

そこへ、ひとしきりはしゃいだ神楽が駆け寄って来て、ベンチに座り一息つく。

 

「楽しそーだなオイ」

「うん。私、動物好きネ。女の子はみんなカワイイもの好きヨ」

「……アレ、カワイイか?」

「カワイイヨ!こんなに動物に懐かれたの始めて!」

 

直後、猛進してきた定春によって轢かれ飛んで行く神楽。

銀時、新八、黒瀬の三人は察知して退いていたおかげで影響はなかったが、鈍感な神楽に呆れる。

 

「神楽ちゃん、いい加減気付いたら?」

 

彼方へ飛ばされたはずの神楽が、すぐさま姿を現し定春へ蹴りをお見舞いする。

 

「私、昔ペット飼ってたアル。定春一号、ごっさ可愛かった。ある日、私どーしても一緒に寝たくて、親に内緒で抱いて眠ったネ。そしたら思いのほか寝苦しくて………起きたら定春、カッチコッチになってたアル」

 

涙ぐむ神楽。

三人はどう反応すればいいのか迷った。

同情して泣けばいいのか、それとも笑い飛ばしてやればいいのか。

 

「それから私、動物に触れるの自ら禁じたネ。力のコントロール下手な私じゃ、皆不幸にしてしまう」

 

神楽の微妙な悲嘆話はさて置き、それなりに考えていたのだろう。

傍目から見てもバランスは取れているとは思う。

問題はそれ以外という話。

 

「でも、この定春なら私とでも釣り合いが取れるかもしれない………神様のプレゼントアル、きっと………」

 

と、定春を撫でながら言った。

あの楽しげな表情も、今の言葉も本心だ。

定春に突き飛ばされながらも笑顔で遊んでいたのは、神楽自身バランスが取れていると思えた故の喜びからであったようだ。

 

「あ、酢昆布きれてるの忘れてたネ。ちょっと買ってくるヨ。定春のことヨロシクアル」

「神楽!お前居らんとこの犬……」

「オイちょっと、まっ……」

 

二人の訴えも聞かずに、神楽は駆け足気味で公園を出て行ってしまった。

取り残された銀時、新八、黒瀬の三人の背後には、遊び盛りな定春が今か今かとスタンバイしていた。

 

 

◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️

 

 

「……白いのに何であんな血気盛んなんだよ。やってられん」

 

定春のターゲットから一時的に外れた黒瀬は、追い掛け回される銀時と新八を傍観しながら木陰で休憩していた。

巨大犬相手に終わりのない鬼ごっこをし、捕まったら噛まれるわ、突進されるわ、凄まじい威力の犬パンチを食らうわで、遊びのはずなのに生傷が絶えない。

 

「はぁーあ………あ?」

 

本格的な運動をした疲労から深い溜息をつくと、定春とサドンデスを繰り広げていた銀時と新八が塀を乗り越えようとしていた。

 

「アイツら、公園の外はすぐ道路だって覚えとらんのか」

 

一応様子見にと腰を上げた直後、急ブレーキの引き攣る音と何かが衝突する鈍い音が鳴り響いた。

まさか、と思うより、やりやがったなと胸中を過ぎる。

どうせアイツらの事だから死にはしない。

近付くうちに事故った車が見えてくる。それに乗車していた人物も。

 

(ん?なんか見た事が……)

 

焦っている事故った側の人物達。

あの触角と間抜け面ハタ………いや、バカ皇子だ。と、その側には血色の悪い年寄りの同族。

バカ皇子が「じぃ」と叫んでいるのが微かに聞こえた。

しかし、それよりも。

 

「………」

 

触角星人の二人は人身事故を起こしておきながら詫びもなく、警察も呼ばず、いそいそと縄を用意して倒れた定春を運んでいた。

 

()せねェな………」

 

足が早くなる。

別に何の為だとか明確な理由はないが、定春があのまま連れ去られたことを想像すると、その次に神楽の天真爛漫な笑顔が浮かんで────消えない。

定春がいなくなったら、あの笑顔が寂しげなものに変わってしまうのかと思うと、胸糞悪い。

触角星人の二人が車に乗り込みエンジンが掛かる。

黒瀬が縄を掴み屋根に飛び乗ろうとした瞬間、車が発進する。

 

(浮き足立ってんのか?気付かんなんてな)

 

しがみ付いて飛び乗ったはいいものの、得物は持っていない。これでは定春の即時解放は出来ない。

窓ガラス割って脅すか?地道に縄を解くか?

走る車の屋根で、落ちない様うつ伏せで悩んでいると。

 

「よォ、オメーも来てたか」

「………銀時」

 

定春を隔てて、同じくうつ伏せになりニヤけている銀時がいた。

 

「さすが生命力ゴキさん並みなだけはある」

「Gと一緒にしないでくんない?」

 

車に轢かれて無傷同然とは、本当に心配いらなかったらしい。

事故の犠牲は新八だけで済んだか。未だに道路上で転がっているであろう新八を、後で拾いに行かなければならないか。

ともあれ、今は定春だ。

 

「白髪、お前バカ共に説教垂れてろ。その間にこの縄、どうにかしてやる」

「………」

 

銀時は面倒そうに頭を掻くと、フロントガラスにへばり付いた。

 

「ギャアアアアアア‼ゾンビだァァァァァ‼」

 

車内で叫んでいる。じぃと呼ばれていた触角星人だろう。

 

「オーイ、車止めろボケ。こいつは勘弁したってくれや。アイツ、相当気に入ってるみてーなんだ」

「何を訳の分からんことを………どけェ‼前見えねーんだよチクショッ‼」

 

じぃの運転が荒くなる。

振り落とそうと速度を上げ蛇行しているのだ。

しかし車の後ろから、雄たけびが聞こえてきた。

じぃが窓を開け後方を確認すると、

 

「チャイナ娘がもの凄いスピードで………‼」

「定春返せェェェェ‼」

「誰だ定春って!?]

 

鬼の形相で爆走してくるチャイナ娘、神楽。

じぃは拳銃を構えるが。

 

「ほァちゃアアアアア‼」

 

神楽が振るった番傘の薙ぎ払いによって、車体は呆気なく吹っ飛び川へと落ちていく。

その光景を見、神楽はふと思い出す。

 

(定春乗ってたの……忘れてたヨ………)

 

定春が連れ攫われたことで頭に血が上って冷静さを欠いた結果、助けることも車を止めることもせず、ただ力を振るっただけだった。

後悔してもしきれない。後悔したって、戻ってこない。

 

(私………また、同じこと繰り返してしまったヨ)

 

泣き崩れる。膝をついて、手をついて、落ちた涙が土に滲む。

 

「お嬢さん。何がそんなに悲しいんだィ」

 

降ってきた声に顔を上げると、そこには枝に座る定春と、定春に手を噛まれている銀時の姿が。

 

「銀ちゃん!定春!」

「あー………ギリギリだった………」

 

側には、柵の上に屈んで項垂れている黒瀬がいた。

 

「アッキー!」

 

無事だったことに舞い上がった神楽は、降りてきた定春に抱き着いた。

 

「定春ゥゥゥ!ホントよかったヨ‼でも、銀ちゃん、アッキー、飼うの反対してたのに何で………」

 

枝から飛び降りた銀時は、一度も神楽たちの方を向かずに家へと足を進めていた。

 

「俺ァ知らねーよ。面倒見んならてめーで見な。オメーの給料からそいつのエサ代、キッチリ引いとくからな」

「……銀ちゃん」

 

銀時が立ち去ると、その背を眺めていた黒瀬も追うように足を動かした。

 

「アッキー。アッキーはなんで………」

 

神楽に呼ばれ足を止める。

身体は向けず見やると、青い瞳が真っすぐに己を見つめていた。

 

「………知らん。ただの、気紛れだ」

 

そうぶっきらぼうに言った。

以降は何も言わず、神楽は遠ざかっていく白と黒の背を見て呟く。

 

「………アリガト」

 

沈む夕日が、一段と綺麗に見えた。

 




和菓子食いたいなーと思う今日この頃。
んー……団子かな。
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