原作読んでる方は、何の話か分かるかと思われます。
和風の庭で
その様子を神楽は興味深くじっと見ていた。
部屋には、今回の依頼人と向き合う銀時、新八、黒瀬の姿があった。
「ちょっと銀さん、しっかりしてくださいよ。だからあんま飲むなって………」
依頼人が依頼内容の経緯を話している間、新八は気が気でなかった。
銀時が二日酔いらしく、依頼人の話はおろか出された茶をこぼす始末。
「親の私が言うのもなんだが、キレイな娘だから何か良からぬ事に巻き込まれているのではないかと………」
どうやらそのキレイな娘が、最近帰って来ないらしい。
今までも二、三日家を空けることはあったのだが、それが今回は一週間経っているようで、さすがに心配になったと言う。
連絡は無し。娘の友人に聞いても、どこをほっつき歩いているのか何も知らないと返された。
依頼人から差し出された娘の写真を黒瀬が受け取る。
「え、コレ……キレイっつーか、ブ……」
言い掛けた瞬間、新八に口を塞がれる。
その拍子に手から写真が離れ、銀時の前に滑り落ちた。
「………そーっスねェ、何かこう巨大な……ハムを作る機械とかに巻き込まれている可能性がありますね」
二日酔いの頭で取った写真に写る娘の顔をガン見するが、どう頑張っても無理に着飾った黒豚にしか見えない。
いくらギャル代表チョリーッス的なポーズを決めていようと、一ミクロもその容姿はマシにはならない。
「いや、そういうんじゃなくて、事件とかに巻き込まれているんじゃないかと……」
「事件?あー、ハム事件とか?」
「どんな阿呆だろうと、こんな奴巻き込まん。出荷対象だとは思うが」
「出荷ってなんスか。折角きた仕事パーにするつもりかアンタら」
親の前で叩き出されるレベルの発言。
今回の仕事に意欲が湧いてこないようだ。
「でも、ホントコレ僕等でいいんですかね?警察に相談した方がいいんじゃないですか」
「そんな
警察に相談出来ない理由。それは、家柄にあるそうだ。
嫌にデカイ屋敷だが、見ての通りと言うべきだろう。金持ちではあるが、ただの金持ちではない。
幕府開府以来、徳川家に仕えてきた由緒正しき家柄。
そんな家の娘が夜な夜な出歩いていると知れたら………。
「………なんとか内密のうちに、連れ帰ってほしい」
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四人は依頼人の娘、ハム子(仮称)がよく訪れていたというクラブに来ていた。
天人と人が鼓膜を破りそうな爆音に踊り狂い、踊りに興味がない奴等はカウンターで酒を煽る。
鶏頭のバーテンダーにハム子の写真を見せ、いい加減なやり取りをしながら聞き込みをするのは神楽。
残りの三人は離れた場所の客席に座り、一切進展しないだろう神楽の聞き込みを見守っていた。
「銀さん……神楽ちゃんに任せてたら、永遠に仕事終わりませんよ」
「あーもういいんだよ。どーせ、どっかの男の家にでも転がり込んでんだろ」
探し人が不良娘なだけに、真剣に取り合おうとはしない。
二日酔いな上、やる気がない………のは元々か。
「ハム買って帰りゃ、あのオッさんも誤魔化せるだろ」
「誤魔化せるわけねーだろ!どれだけハムで引っ張るつもりだ‼︎」
「あのなァ銀時、受けた仕事は最後までやらんと。ハムであのオッさんが納得するわけねェだろ」
「黒瀬さん………」
店に来てからずっと居眠りをしていた黒瀬が、目を瞑ったまま至極真面目な声色で言った。
新八は、根っこは責任感のある常識人なのだと黒瀬を評価した、が。
「金持ちのお家柄なんだ。そこも考慮せんと………安値のスライスハムじゃなく、ボンレスハムにしろ」
「アンタもハム引っ張ってんじゃねーよ‼︎」
結局はどっちもアホらしい。
これでは仕事が終わらない。聞き込みの神楽はあの調子で、仕事に取り組むべきアホな大人二人はこの体たらく。
そもそもちゃんと探す気があるのか。いや、無いからこうなっているのだ。
思考が堂々巡りし収拾がつかなくなった新八は溜息をつく。
「ワリーけど、二日酔いで調子ワリーんだよ。適当にやっといて」
「ちょっ、銀さん‼︎」
そう言い残し銀時はどこかへ行ってしまった。
新八は引き止めようと立ち上がったがその時、通りがかった天人に肩がぶつかってしまう。
「あ、スンマセン」
「……小僧、どこに目ェつけて歩いてんだ」
睨みを効かせる長耳眼鏡の天人。
急に手を伸ばされ、新八は肩を震わせ一歩引く。
「肩にゴミなんぞ乗せて………少しは身嗜みに気を配りやがれ」
天人は新八の肩についていたホコリを取り、息を吹いて飛ばした。
恐ろしく感じたが、ちょっとしたゴミで凄むくらいの潔癖症であったからのようだ。
「新八〜!アッキ〜!」
過ぎ去った天人の背中を眺め困惑しつつも、新八は神楽の方を向く。
「もう面倒くさいから、これで誤魔化すことにしたヨ」
「そうだな。日サロで焼いて焼豚にしとかんと、バレっかもしれんがな」
「じゃあすぐ焼きに行くアル!」
「仕事をなんだと思ってんだチクショー!」
神楽が連れてきたデブ男を身代わりにする方向で話が進んでいた。
黒い大人が余計な口を挟むばかりで、一向に進展しないし、依頼を完了する気もないのだろう。
「大体、これで誤魔化せるわけないだろ。ハム子じゃなくてハム男じゃねーか!」
「ハムなんか、どれ食ったって同じじゃねーかクソが」
「何?反抗期!?」
曇りのない澄んだ目で舌打ちし毒を吐く神楽。
反抗期もあるのだろうが、普段の周囲にいる大人達の悪影響も一役買っているせいだ。
「あのさァ、さっきから気になっとったんだが………」
「黒瀬さん?」
黒瀬が何かを確かめるように、ハム男の顔の前に手をかざしヒラヒラと振っていた。
店内の雰囲気もさることながら、何かが怪しいと。
今のところただの勘でしかない。
いくら目の前で手を振っても頬を叩いても反応のないハム男。
何かしら確信に似たものを得た黒瀬は、振っていた手を
「ハム男ォォォ‼」
「オイぃぃぃ、駄キャラが無駄にシーン使ってんじゃねーよ‼」
ハム男が何の前触れもなく倒れた。
「ハム男、あんなに飲むからヨ!」
慌てた神楽が倒れたハム男を起こそうと、肩に手をかけひっくり返した。
虚ろな目。不気味に漏れる笑い声。緩んだ口から流れる泡と唾液。
酔っぱらっているわけではない。
この異常性に神楽は気づかなかったが、新八は気付いたようだ。
確認する様に黒瀬を見た新八の目には、疑念と困惑の色が滲んでいた。
そこへ、先程まで神楽が聞き込みを行っていた鶏頭のバーテンダーが駆け寄ってきた。
「あーもういいから。あと俺やるから、お客さんはあっち行ってて」
鶏頭バーテンダーは倒れたハム男の脇下に手を入れ、運び出そうとする。
「………ったく、仕方ねーな。どいつもこいつもシャブシャブシャブシャブ………」
「シャブ?」
何気ない呟きに新八が反応した。
シャブとは、一時的な快楽を得られる違法薬物のことである。広く知られている違法薬物の影響と言えば、幻覚や幻聴、使えば使うほど増す依存性。ただ
「この辺でな、最近新種の
バーテンは三人に注意すると、そのままハム男を引きずり何処かへ行ってしまった。
三人はバーテンを見送ると、考え込むようにソファに座った。
「ハム男つれてかれちゃったネ………どうするアルか?」
「………」
「アッキー?」
ハム子の身代わりがいなくなってしまったことに神楽は残念そうにしているが、その向かいに座っている黒瀬はそれどころではなかった。
流行り物に若者は乗っかりやすい。それが良いものでも悪いものでも、誰かから誘われたり金を持っていたりしたら、手を出してしまう。
新種ともなれば、尚更。
「………たかが不良娘かと思ったが、ホントのクソガキかも知れんなァ」
「それってどういう………?」
隣にいた新八が首を傾げる。
「金持ちのバカ娘は一週間行方知れず。最近出回り始めた新種の違法薬物。ただの憶測だが最悪の場合ハム子は………」
「そんな………!」
思わず新八は立ち上がる。
もしハム子が
もしくは………。
しかし、捜索の依頼を受けた身としては、時すでに遅しと伝えるのは………。
「まァ座れ、腐れ眼鏡。まだそうとは決まっとらん。ある程度最悪な状況を想定しとかねェと………」
それ以上、言葉は続けられなかった。
ただでさえ不安がっている二人が、“続き”を聞けばさらに不安が募るだろう。
その危惧が現実となる前にさっさと退散したいのだが、あの白髪天パが戻って来ない。
いや、退散するには遅すぎたか。腕を組んだ黒瀬は目だけを動かし、周囲の様子を窺う。
客……の割には物騒な空気を纏う天人がやけにうろついている。
「遅いな……銀さん」
新八が周囲を見回しながら呟いた。
ハム男の一件といい、新八は薄々怪しいとは勘付いているようだ。
「どうも嫌な感じがするんだ、この店………早く出た方がいいよ」
「悪いが新八、それは………」
「私、銀ちゃん捜してくるヨ」
痺れを切らした神楽が立ち上がろうとした時、その頰に拳銃が突き付けられた。
「てめーらか、コソコソ嗅ぎ回ってる奴等ってのは」
天人の集団。
銃を構えているのは一人だが、周りには嫌な空気を醸し出す仲間がゾロゾロと。
「なっ……何だアンタら!」
「とぼけんじゃねーよ。最近ずっと俺達の事嗅ぎ回ってたじゃねーか、ん?そんなに知りたきゃ教えてやるよ。宇宙海賊“春雨”の恐ろしさをな!」
天人は勝ち誇ったように、ニヤリと笑った。
「海賊……じゃあ、ただで捕まるにはいかんなッ‼︎」
黙って天人の集団を睨んでいた黒瀬が拳銃を蹴り飛ばし、新八と神楽を担いで駆ける。
「貴様ァァァ‼︎」
天人の集団が後ろで叫び追ってくる。
黒瀬は二人を抱えたままテーブルとソファの背もたれを足場にして、出口までの経路を跳ぶ。
「アッキー!動けたアルか!寝不足根暗なくせに意外ネ!」
「海賊共のど真ん中に放り込むぞクソガキッ‼︎」
テーブルに着地するたび、客が悲鳴を上げる。
その上、店内に轟く爆音で近くの声以外は聞き取れない。
「く、黒瀬さん!前、前来てますよ!」
「黙ってろポンコツ眼鏡!舌噛んでも知らんぞ!」
三人を捕まえようと躍り出て来た天人を、邪魔だと吐き捨て蹴り倒す。
人数的に不利なのは目に見えて分かってはいるが、何とかして、何がなんでも二人だけは逃さなければ。
何処かにいった白髪は一人でもどうにかなるとして、子供二人をどうやって逃せば良いのか。
黒瀬は奥歯を噛み締める。
こういう戦いは、慣れていない。
「……ッ!」
ソファの背もたれに降りた瞬間、急に体勢を崩し床に倒れてしまう。
直前に新八と神楽を出口方面へ投げたが、二人はすぐに起き上がって心配そうに黒瀬へ駆け寄る。
「アッキー!どうしたアルか!」
「は、早くしないとアイツらが……!」
「……うるせェ……黙れ……!」
分かっている。そんな事、分かっている。
苛立ちを口にして歯を噛み締める。
立ち上がろうとするが、意に反して片足が膝をついまま上がらない。
「ッ……黒瀬さん……足が……!」
新八は瞠目する。
床に落ちた赤が広がっている。
店内の爆音に紛れた銃声に気付かず、放たれた弾丸が黒瀬の足を貫通していたのだ。
「お前ら邪魔だ‼︎いいから逃げ……」
「おっと、そうはいかねーなァ」
スッと紫眼が鋭くなる。
粘り着くような嫌な声に顔を上げれば、新八と神楽が抵抗虚しく追い付いた天人達に捕まっていた。
首に腕を回され、頭に銃を突き付けられた状態で。
「抵抗したらコイツら……どーなるか分かってんだろーな」
黒瀬は舌打ちをしてゆっくりと立ち上がり、両手を上げる。
斬り殺せればどれだけ簡単だったか、と思いながら。
天人達は抵抗の意思がない事を確認すると、新八と神楽に銃を突きつけたまま手枷を付ける。
「……クソったれ共が」
「そう睨むんじゃねーよ。テメーもアイツらとご一緒すんだからさァッ‼︎」
頭に横から強い衝撃が走る。
意識が朦朧として立っていられず、受け身も取れないまま重力に従って倒れた。
霞む視界の中で、天人に連れて行かれる子供二人が振り返り何かを叫んでいる。
「……周りが煩くて……何も聞こえん……だろ……が………」
意識が落ちていく。
瞼の裏に、涙を滲ませた子供二人の姿を焼き付けながら。
次も海賊春雨回です。
それでは、また次回。