それと、タグ増やしました。
鉛色の空。
地上は赤黒く、無造作に転がるのは首と、死体と死体と死体。
もう動くことのないソレらが積まれた山の上で、黒い黒い誰かが雨の降り出しそうな空を見上げる。
手には鮮血の滴る刀。
戦意を喪失したかのように、刀の龍紋は地に伏すばかり。
『お前は、何が為に戦うのか』
転がった首が、乾いた眼球をギラつかせ問う。
黒は、その下に隠した紫光で睥睨し、首の額に刀を突き刺す。
「答える必要なんぞ、皆無」
刀を引き抜いて、血を振り払う。
歩けば何かが纏わりついて、ソレらを斬り払うたびに落ちている首が、散乱する死体が問い
『何が為に』
『誰が為に』
『
『
構わず歩く。
何処に向かうわけでもなく、当てもなく、ただ歩けるから歩く。
払っても斬り飛ばしても消えない何かは、黒に見向きされなくなっても問い続ける。
『いつまで引き摺るのか、ソレを』
『護る為の剣はとっくに………』
腐り落ちているというのに。
いつの間にか降り出した雨に、持っていた刀が徐々に錆び付いて砂塵へと変わる。
落ちないよう握り締めても、指の隙間から落ちていく。
『それでも何故、君は歩くのですか』
立ち止まった足元には、尚も問いを投げかけてくる首が一つ。
「………仕方ねェだろ」
開いた手の平には、幾ばくかの砂が残っていた。
■■■■■■■■■■
「………さん………黒瀬さん!」
名前を呼ばれ、薄らと瞼を開ける。
ぼんやりと霞がかっている視界と頭が、時間が経つにつれてはっきりとしてくる。
「オーイ、起きたか?お眠の時間はおしまいだよ~」
取り囲む天人達が嗤っている。
微かに漂う潮の匂い。クラブの天井とは打って変わって雲の少ない空。冷たい鉄の床。
船の甲板だろうか。
「………汚ェ絵面だな」
むさ苦しい海賊天人がゾロゾロと。
どうにか逃げようと足掻いたものの、結局はこの様か。
怪我はするし、捕まるし、踏んだり蹴ったりだ。
「神楽ちゃん‼︎」
隣で同じく拘束されている新八が、天人集団の先を見て叫んだ。
そこには、高台で今にも海に落とされそうになっている神楽の姿が。
眼鏡の天人が突き出す剣先に服を引っ掛けられ、脅しの為の人質だと見せびらかしているようだ。
「オジさんはねェ、不潔な奴と仕事の邪魔する奴が大嫌いなんだ。お前らの巣を教えろ。意地張るってんならコイツ、死ぬぞ」
「何の話だよ‼︎」
「とぼけんな。てめーが攘夷志士だってのはわかってる」
「はっ⁉︎」
捕まった理由はそれか。
勘違いされている。いや、厳密に言えば勘違いではないのだが、あの眼鏡天人が求めているものには当てはまらない。
何を聞かれても答えられる情報は持っていないし、どうせ用無しとなれば処分されるのは目に見えている。
「てめーらのアジト教えろって言ってんだよ‼︎桂の野郎は何処にいんだ‼︎」
何一つ答えないと見るや否や、天人の一人が新八の髪を鷲掴み力任せに聞き出そうとする。
「ガキに手ェ出してんじゃねェよ短気がッ‼︎」
苛立ちに駆られた黒瀬が、新八の髪を掴む天人の顔面に蹴りを食らわせた。
不意打ちでうつ伏せに倒れた天人の腕を踏み付け、黒瀬は吼える。
「逃亡企てた奴が、ただで捕まるわけねェだろ。足に風穴空いていようが、使おうと思えば使えんだよ」
踏んだ腕がミシミシと軋み、天人が呻く。
昏倒させられた時に
また抵抗されては困ると考えたか、人質にするには問題ないと放置されたか。どちらにせよ、手負いだと油断していたのだろう。
急な出来事に呆けていた天人達は、黒瀬を取り囲み銃を構える。
「なんだァ?海に沈めんで銃殺か?簡単には死なんぞ、俺は」
銃を構える天人一人一人を見据え、トリガーに掛けられた指の動きを注視する。
「ガキ共殺す真似すんならテメェら全員の首、噛み千切んぞ」
何が何でも………掴んだものは取り零したくはない。
得物が無い現状、形振り構ってはいられない。
時間稼ぎにはならないかもしれないが、海賊相手となるとどう転んでも結末は知れている。
冷静な判断ではないのは分かっている。しかし、無抵抗のままというのも腹立つ、単純に。
結論を言ってしまえば、頭に血が上って脳筋思考しか出来なくなっているのだ。
「か、桂さんの居場所なんて知らない‼︎神楽ちゃんを離せ‼︎ここは侍の国だぞ!お前らなんて出てけ‼︎」
緊張からかその声は震え、高台の眼鏡天人を睨む目には強い意思と少しばかりの怯えが浮かんでいた。
「侍だァ?そんなもん、もうこの国にゃいね………」
眼鏡天人が呆れた様に言葉を返した時、吊られている神楽がニカッと笑った。
その子供らしい視線を正面から受けた眼鏡天人。
「ほァちゃアアア‼︎」
神楽は眼鏡天人の顔面を蹴飛ばした。
「神楽‼︎」
「神楽ちゃ……‼︎」
天人の手からは離れたが、真下は海。
重力に従って落ちて行く神楽に、手を差し伸べられる者はいない。
「足手まといなるのは御免ヨ。バイバイ」
「待てェェェ‼待て待て待て待て待て待て待てェェェ‼」
同じ単語を連呼しながら、男が船体の斜面を駆け抜けていた。
伸ばした縄を左手のフックに引っ掛け、空いた右腕で落ちる神楽を受け止めるとそのまま甲板へ突っ込んできたのだが、その先には天人達に喧嘩を吹っ掛けている黒瀬の姿が。
「は?え?いや、ちょっまっ………」
避ける暇もなく黒瀬は、神楽を助けた男の飛び込みに巻き込まれ甲板端の壁にぶつかった。
「……いでで、傷口開いちゃったよ。あのォ、面接会場はここですか?」
「銀さん‼︎」
呑気に言いながら立ち上がる海賊コスプレの銀時。
「こんにちは、坂田銀時です。キャプテン志望してます。趣味は糖分摂取、特技は目ェ開けたまま寝られること………」
「じゃねェだろ腐れ天パァァァ‼」
巻き添えを食らった黒瀬が腹いせとばかりに銀時に頭突きをかまし、床に叩き伏せた。
銀時は頭を押さえ転げまわる。
「腹だけじゃなくて頭もパックリィィィ‼」
「頭パックリは俺の方だボケ!」
ヒーローは遅れてやって来るとは言うが、ふざけたコスプレ姿のヒーローは見たことがない。
頭突きを受けた頭を摩り起き上がった銀時は、怒り心頭の黒瀬を見て口を開く。
「お前それ……トマト祭りにでも参加してたの?」
「もう一回頭突き食らいたいんかテメェは‼︎」
騒いでいると、高台にいる眼鏡天人が銀時を視界に捉え冷や汗を流す。
「てめェ、生きてやがったのか」
直後、船内で爆音が響いた。
船員が眼鏡天人に船内で起こった異常を知らせようと、慌てて出てきた。
「
転生郷………おそらく、最近出回っていたという新種の違法薬物の名称だろう。
誰が爆弾を?と黒瀬が首を傾げ考えていると、聞き覚えのある声が眼鏡天人、陀絡よりも高い場所から降ってきた。
「俺の用は終わったぞ。後はお前の番だ、銀時。好きに暴れるがいい。邪魔する奴は俺が
「てめェは……桂‼︎」
「違〜う‼︎」
海賊コスプレの桂が高台から飛んだ。
「俺は、キャプテンカツーラだァァァ‼︎」
両手に持った球状の爆弾を、天人達に投げつけ蹴散らす。
天人達は逃げ惑うものの、狙っていた人物が姿を現したためその首を取ろうと駆け出す。
「ヅラも来てたんか。海賊相手に……あーあ……」
甲板の端で陀絡の手下達を相手に乱闘騒ぎ。
そのおかげで誰も突っ掛かって来ないのは好都合。
黒瀬は、気の抜けたようにその場へ座り込んだ。
「オイオイなんだ黒瀬。トマトぶつけられてへばってんのか?情けないね〜」
「んだとゴラァ。テメェも血だるまにすんぞ」
「まあまあ、そんな事言わずに……」
知らぬ間に側に来ていた新八が宥めに入る。
憎まれ口を叩く銀時がニタリと笑っていた。
腹立つ。心底腹立つ。
新八が止めに入ると分かっていたからこその憎まれ口だったのか。何にせよ、これ以上軽口を叩く気力は無い。
気が付けば銀時が抜刀し、天人達の
二人は幾つかの言葉を交わし、同時に駆ける。
辺り一帯に鳴り響いた金属音。すれ違った二人は、剣を持ったまま動かない。
「オイ」
陀絡が口を開く。
険しい表情ながらも、その口角は少し上がっていた。
「てめっ……便所で手ェ洗わねー割に、結構……キレイじゃねーか……」
陀絡は、受け身を取ることもなく倒れた。
一騎打ちの勝者、銀時は倒れた陀絡を振り返る事もなく、刀を鞘に納めた。
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船から降り手枷を外された三人と、途中参加の銀時と桂は港にいた。
負傷している黒瀬は軽い応急処置を受け、少し離れた場所でおんぶや抱っことせがむ新八と神楽に対し、何だかんだと言い返す銀時。
そんな親子の様で親子とは言いがたいやり取りを、黒瀬はただ黙って眺めていた。
「時に黒瀬」
「あ?」
コンテナの上に座り、眼帯を指でクルクルと回している桂が唐突に口を開いた。
「昔の夢でも見たのか?」
「何を急に………」
話が見えない。
何がどうなってこうなったのか、全く見当もつかない訳だが、いつもこんな感じだった気がする。
「先程、新八君から言われてな。お前が気絶している間、
「あー……なんだそういう事……」
拘束されている時、隣には新八がいた。
なぜ名前を呼んでいたのかと思い、その時は状況が状況だからと自己解決していたが、そういう意味もあったのかと今納得する。
桂を通したのは、何かしらの配慮か、それとも単純に直接は聞き辛かったか。
「んー………何て言ったらいいんか……」
「安心しろ。お前が本音を言ったところで、あの二人には伝えん。だからと言って、素直に話すとも思えんがな」
「じゃあ、聞かんでくれん?」
無駄な事だと分かっているなら初めからやるな。夢については殆どあやふやで、どう言えばいいのか返答に困るのだ。
それを見越して桂は聞いてきたのだろうが、新八が気にしていた事に変わりは無い。
いずれ直接言われる時が来る。その時は………どうするのだろう。
黒瀬は目頭を押さえて、思い出したように煙の上がる船体を見る。
「それにしても、派手に喧嘩吹っ掛けたなァ。お前も銀時も、仕返しされたって知らんぞ」
「それはお前も同じだろう?」
「あ?何で?」
要因を考えてみるが、何一つ浮かばない。
桂のように爆弾持って船を爆破してはいないし、銀時のように斬り合いもしていない。
ただ海賊天人の一人の顔面を蹴り飛ばして、少し脅し返しただけだ。派手に暴れ回った訳ではない。
これのどこが、顔を覚えられる一因となるのか。
「手負いなうえ両手の使えない状況下にも関わらず、天人一人をねじ伏せ逆に脅したとなれば、仕返しとはいかないまでも目は付けられるだろう」
「え?いやいや、そんな訳ねェって。あんくらい見逃すはずだって」
顔が引きつる。
確かに抵抗らしい抵抗はしたが、それは隙を与えたあちらの落ち度というもので。
油断と隙を突いて何が悪いのか。
それくらい、普通の一般人だって考えるはずだ。
「はぁ………とにかく、気を付けることだな。お前に自覚がなくとも、奴等には関係ない」
コンテナから飛び降り、桂は腕を組む。
「最後に、一つだけ訊く」
「なんだ?手短にしろよ、眠いんだ」
黒瀬がわざと欠伸をして見せると、桂は呆れたように息を吐く。
「何故、
「………誰が言うか」
無愛想な答えが返ってくるとわかっていたのか、桂は鼻で笑って目を瞑る。
桂の反応に黒瀬は眉間に
「帰る。さっさと捕まっちまえ、ヅラ」
「ヅラじゃない、桂だ」
黒瀬はヒラヒラと手を振って、随分と先に行ってしまった銀時達を追う。
水平線に沈んでいく夕陽を見ながら、駆け足ではなく歩いて、歩く。
視線を落として何もない手の平を数秒見つめた後、握り締めて小指を立てる。
何年経っても、忘れないものの一つくらいはある。
形は無くて、ただ口先だけのものだが、どうしてだろうか脳裏にこびり付いて落ちない。
開いた手には、何も無い。しかし顔を上げれば、絶対に掴んでおきたいものがある。
取りこぼしたくないものがある。
『何故、歩くのですか?』
………仕方ねェだろ。覚えてんだよ。
先を行く三人が夕陽の中に立ち止まって、こちらを振り向いていた。
早く来いと名前を呼んでいる。
『何故、歩くのですか?』
今そこに
思わず、口角が上がる。
合流すると、子供二人を抱えた銀髪が「なんだ気持ち悪ィ顔しやがって」と悪態を吐く。
悪態には悪態を。
お前こそ、ダッセェ海賊コスプレなんぞしやがって。
『何故、歩くのですか?』
今そこに
—————約束を。
今回は挿絵あります。
【挿絵表示】
実は、本来挿絵は別なものを用意していました。
ただ完成してから、そういえばちゃんと笑ってるやつ描いてねーな、と思い至り急遽変更。今回のイメージ挿絵になりました。
悪党面は描いて載せてたんですがね以前に。
それでは、また次回。