万事屋の玄関外にキャサリンが立っていた。
お登勢の代理で家賃回収に来たらしく、締め切られた戸の前で粘り強く「開けて」だの「いるのはわかってる」だのと、説得の言葉を口にしていた。
一方で一向に立てこもりを続けている家賃滞納者質、銀時と新八、神楽はテーブルの下に隠れ、黒瀬はソファに寝そべり、各々キャサリンの動向を探っていた。
「いいか、絶対動くなよ。自然と一体になるんだ。お前は宇宙の一部であり、宇宙はお前の一部だ………」
と、隠密の持論を説く銀時。
これに過剰に反応した神楽は、興奮のあまり急に頭を上げてテーブルをガタガタと揺らした。
「宇宙は私の一部?スゴイや!小さな悩みなんてふっ飛んじゃうヨ!」
「うるせーよ静かにしろや!」
「アンタが一番うるさいよ!」
「お前ら全員うるせェ。つか小さな悩みに、家賃滞納と金欠は入っとらんだろうなァ………」
居留守をしているというのに、構わず騒ぎ立てる三人。
ふと銀時が玄関を見て耳をすませると、先程まで聞こえていたキャサリンの声がなくなっていることに気付いた。
「静かになったな。帰ったか?」
「ナンカ修学旅行ミタイデ、ドキドキスルネ」
すぐ傍で聞こえたキャサリンの声に、四人は状況が呑み込めず固まる。
そして、何が起こったのか理解すると、
『ぎゃああああああ‼』
声を揃えて絶叫したのだった。
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キャサリンによって捕獲された四人は、"スナックお登勢"に連行され店内清掃を強制的にさせられていた。
「キャサリンは、鍵開けが
カウンターでお登勢が満足げに頬杖ついていた。
確かに、(元)泥棒なだけあってその技術は一級品。それがスナック店員に必要なスキルかはさて置き、家賃滞納者達を引きずり出すには最適というもの。
しかし、家賃滞納者の代表銀時はなぜか勝ち誇ったような顔をしていた。
「金庫が開けられよーが、中身がカラじゃ仕方ねーだろ。ウチにはもうチクワと小銭しかねーぞ、さァどーする」
「お前がこれからの生活どーするんだァ‼」
毎日毎日、金欠、金欠、金欠………節約しようと安売りしているスーパー探して食糧調達するのだが、大食漢のチャイナ娘があれよあれよと胃袋に放り込んでいってしまう為、火に油状態である。
「とにかく、金がないなら働いて返してもらうよ」
そう言ってお登勢が煙草の煙を吐いた瞬間、床の雑巾がけをしていた神楽がテーブルに突っ込み、清掃とは名ばかりの破壊行動をしていた。
ワザとではないのはわかるが、無邪気に店内のものを壊されてはひとたまりもない。
「チャイナ娘ェェ‼お前は大人しくしてろォ‼バーさんのお願い!」
「そうだぞ神楽。あとで弁償請求されんとも限らんからな」
黒瀬は神楽が倒したテーブルを起こし、落ちた諸々の備品を片付ける。
「ソレガ終ワッタラ、私ノタバコ買ッテキナ」
「てめーも働けっつーの!」
しれっとサボるキャサリンの後頭部を、お登勢がスリッパで引っ叩く。
物理的なお叱りを受けたキャサリンは、モップを片手にいそいそと掃除を始める。
「しかしバーさん、アンタも物好きだねェ。更生でもさせるつもりか?」
前述の通り、キャサリンは(元)泥棒。店の金をレジごと盗んだ前科がある。
そんな恩知らずをまた雇ったのは、相当な物好きと言える。
「人手が足りなかっただけさね………」
お登勢は煙草を吹かす。
手癖が悪かっただけ、としか思っていないのだろうか。
「大丈夫さ。あの
何を根拠に。世の中には、口先だけの人間がごまんといるのだ。
その全てを信じていては、キリがないだろう。
厄介な性分だなと呟いた黒瀬は、片付けが一段落してお登勢の方を振り返ると、あることに気が付いた。
「なァ、ババア」
「なんだい、ゴミならそこに………」
「いや、そうじゃなくて。銀時に逃げられてっけど」
ついさっきまでお登勢の隣にいた銀時が、跡形もなくいなくなっていた。
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銀時に逃げられ取り残された新八、神楽、黒瀬の三人とキャサリンは、カラになった酒瓶を処分しに外へ出ていた。
「ズルイヨ。銀ちゃん一人だけ逃げるなんて………おかげで私たち仕事量倍ネ」
「もう部屋は貸さないって、お登勢さん怒り狂ってたよ。僕らどうなるんだろ?」
「新八、お前は実家暮らしだろ。問題は俺と神楽だ。家が無くなるどうしよう」
本当にそう思っているのかと、疑問になるくらい淡々とした口調の黒瀬。
今の状況を軽視しているとしたら、頭がカラなアホである。
「コノダンボール、アゲマショーカ?」
「住めってか!ソレに住めってか!」
暗にホームレスライフを推奨してくるキャサリンが、手に持っていたダンボールを差し出してくる。
そんな古びたダンボールを横から掻っ攫ったのは、結構乗り気な神楽だった。
神楽はダンボールを頭から突き破り、子供が列車ごっこをするような格好になった。
「ふざけるなヨ!こんなものに住めるわけない!Lサイズにしてヨ‼︎」
「いいのかコレ⁉︎間違ってねーかコレ⁉︎」
「一切合切良くねェよ。早く脱ぎなさい、恥ずかしいでしょ」
黒瀬は子供を叱るお母さんのように、神楽の頭を軽く叩く。
「痛いヨ!何するネ、アッキー!」
「だから、ダンボール脱げっつってんの。何素直に享受しとるんか」
それでも脱ごうとしない神楽。
ダンボールは暖かいや色々使えるなど、完全にホームレス目線で訴えかけてくる。
何で順応してんの、と黒瀬は少々困惑気味である。
「お登勢サンニ迷惑カケル奴ハ、私許シマセン。オ前ラナンテ、ダンボールト一緒ニ廃品回収サレレバイイ」
「んだとォォォ!お前なんか、泥棒やってたじゃねーか‼︎その耳ちぎって、ただの団地妻にしてやろーかァァ‼︎」
キャサリンに噛み付く神楽。変わらずダンボールに乗車したままである。
喚き散らす二人を宥めようと割って入った新八だが、そのせいで神楽の矛先が方向転換してしまった。
言い合いが苛烈化し、殴り合いの喧嘩になった時。
「オゥオゥ、元気そーだなキャサリン!」
見ず知らずの男がキャサリンに声を掛けた。
頭に獣耳を生やしているところを見ると、キャサリンと同族のようだ。
気付いたキャサリンは表情を一変させ、名を呼んだ同族を振り返る。
「クッ、クリカン……」
キャサリンは、クリカンと呼んだ男と共に何処かへ行ってしまった。
またも取り残された三人は、ただ興味本位でバレないように後を追うのだった。
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「ヘェー、そうなんだ」
三人は《スナックお登勢》に戻り、新八が盗み聞いた話をお登勢にしていた。
しかし、話を聞いたお登勢は興味無さげに煙草の煙を吐く。
「お登勢さん!このままじゃキャサリン、また泥棒になっちゃいますよ‼︎」
キャサリンを尾行して聞いたのは、「また泥棒やろうぜ」という引き戻しの言葉だった。
かつてキャサリンは、クリカンとその他の仲間と共に泥棒集団《キャッツパンチ》の一員として銀河中を回り、知らない者はいない程の有名人だったらしい。
江戸で一山狙っているクリカンは、“鍵っ
一通り伝えたい事を伝えたクリカンはキャサリンを置いて、その場を去った。
脅迫とも取れる言葉と、「丑の刻、三丁目の工場裏」という合流の時刻と場所を言い残して。
「あれがどうするか分からんが、成るように成るさ」
「話聞いといて放任主義⁉︎」
例の如く黒瀬はソファに寝転がり、だらけきっている。
同じく神楽もカウンターの丸椅子に足を組んで座り、鼻をほじってだらけていた。
「ほっときゃいいんじゃね。いつかやると思ったヨ、俺ァ」
「銀さんだ。ちっちゃい銀さんだ」
銀時の言動を真似る神楽。なかなかにクオリティは高いが、そのまま遺伝しなければと思う。
その時店の戸が開かれ、あの憎たらしい銀髪が入ってきた。
掃除をエスケープした銀時が、どの面下げて戻ってきたのかと見ると、その腕には紙袋が抱えられていた。
「芯のない奴ァ、ほっといても折れていく。芯のある奴ァ、ほっといても真っ直ぐ歩いてくもんさ」
最もな事を言いながら、銀時は紙袋から取り出したものをカウンターに置く。
黒瀬も起き上がり、何だろうかとカウンターへ行く。
「結野アナのフィギュアだ。俺の宝物よ。これで何とか手を打ってくれ」
黒瀬は反射的に結野アナのフィギュアを手に取り、外に出て振りかぶる。
しかし、何をするのか察した銀時に背後から両腕を拘束された。
「ちょっと待って!待ってよ黒瀬君!俺が悪かったって!一回置こう?ね?ね⁉︎」
「悪かったで済んだらなァ、苦労しねェんだよ。フィギュア買う前に、金欠打開だろうが」
宝物と言うだけに、止め方が必死そのもの。
フィギュア一体でいくらするのか知らないが、趣味に回せる金があるなら貯金してほしい。
「こうしてさ、一大決心して持って来たんだよ俺!それに結野アナに罪はねーだろ!聞いてる⁉︎」
「是非もなし」
「どこの第六天魔王だオメーは‼︎」
黒瀬は結野アナのフィギュアを落とすと、銀時に拾われる前に踏み砕いた。
無残にも粉々にされてしまったフィギュアを前に、項垂れる銀時。
結局、黒瀬もお登勢に投げ飛ばされ、強制退去扱いになってしまうのだった。
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三丁目の工場裏。クリカンの指定した時間よりも少し早い時間。
お登勢に強制退去を食らった銀時と黒瀬の二人は、立てられた土管の裏に隠れていた。
「ったく………なんで俺がこんなメンドくせェことしなきゃなんねーんだ」
無造作にガシガシと頭を掻く銀時。
土管の向こう側にはすでにクリカンと仲間であろう二人の姿があり、キャサリンを待っているようであった。
「ここであのババアに貸しの一つでも作っとかんと、ホームレス生活待ったなしなんだよ」
「ホームレスになろーが、俺の結野アナは戻ってこねーんだよ!フィギュアも俺も粉々なんだよ!」
「家無くなるってェのに能天気だなお前は!」
コソコソと話していると、人の気配が一人増えていた。
土管の脇から覗き見るとそこには、仁王立ちするクリカンの前で土下座しているキャサリンの姿があった。
もう盗みはしないと、もう恩人を裏切るマネはしたくないと。
自分はどうなってもいいから、お登勢には手を出さないでほしいと懇願するキャサリンの姿があった。
「………何処で聞いたか知らんが、元々そのつもりだったんだろお前」
「何の話だ。俺ァただ、結野アナのフィギュアをだな………結野アナぁぁぁ!」
「いい加減にしろよ腐れ天パ‼」
土管の向こうでは、キャサリンの行動が意外だったのか、クリカンの態度が過激になっていた。
一切抵抗しないキャサリンを殴る蹴るなど、端から見てわかるほどの八つ当たりである。
「はぁ………ちゃんとやれよ」
「………わーってるよ」
音も無く飛び出した黒瀬は、仲間二人を黙らせたところで土管に放り込み、銀時はキャサリンの耳を斬ろうと刀を要求したクリカンに木刀を叩きこんだ。
「類は友を呼ぶとはよく言ったもんだね。お前、ロクな人生送ってきてねーだろ?」
呆気なく伸びているクリカンとその仲間を見ながら、銀時は顎に手を当てる。
「俺達も、
銀時とキャサリンのもとへ欠伸をする黒瀬が合流した。
「人様に胸張れるよーな人生送っちゃいねぇ。真っ直ぐ走ってきたつもりが、いつの間にか泥だらけだ。それでも、一心不乱に突っ走ってりゃいつか泥も乾いて落ちんだろ」
堅気に戻って必至に生きていれば、いつかはその努力が報われる。
過去のことは無かったことには出来ないが、過去を教訓に変わることは出来る。
キャサリンは立ち上がり、着物についてしまった土を払う。
「ソンナコト言ウタメニ、キタンデスカ。アナタ達、本当にアホデスネ」
「いやよォ、ババアに家追い出されて、今日は土管で寝ようと思ったんだが………キャサリン、助けてやったんだから口ききしてくんねーか?」
「アホってのは否定しねェんか。まァ、いいけど」
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その後、キャサリンの口利きのおかげか家賃一ヶ月分が免除となり、退去の話も無かった事にしてもらえた。
トントン拍子で話が進んだ気もするが、一先ずホームレスの仲間入りは免れたと安堵した。
次はオリジナルかと思われます。
それでは、また次回。