ただひたすら息抜き回です。
朝の八時頃。居間のソファで、着流しを掛け布団代わりにし黒瀬は爆睡していた。
窓から差し込む陽の光が眩しく、眠気が吹っ飛びそうになるが、意地でも寝てやろうと寝返りを打ってうつ伏せになる。
しかし、何となく人の気配がして顔を上げると、髪がボサボサでパジャマ姿の神楽が立っていた。
「………何?」
寝起きのガラガラ声で問い掛けると、神楽は欠伸をする。
夜更かししたのかは知らないが、直後に空腹を知らせる音が部屋中に響いた。
「………お腹空いたアル」
「聞きゃあ分かる。つかうるせェ」
仮にも少女が出す音量じゃない。ただの少女ではない事を考えれば納得出来ないこともないが、それでも限度というものがある。
黒瀬は面倒くさいと思い顔を伏せ睡眠を試みる。
「アッキー、お腹空いたネ。なんか作ってヨ。ネェ、無視すんなヨ」
神楽は常に腹を鳴らしながら、黒瀬の頭を突つく。
どれだけ突こうと一向に起きる気配の無い事に痺れを切らした神楽は、強行手段を取る事にした。
意地でも起きようとしない黒瀬の腕を引っ張り、ソファからズレていっても反応を示さないため神楽は
すると、狸寝入りをきめていた黒瀬はそのまま顔面を床に強打した。
「イッタ‼︎お前、もうちょっと優しい起こし方ってモンを知らねェんか‼︎」
「起きないアッキーが悪いネ。これでも起きなかったら、一発かますところだったアル」
「一発かますって何⁉︎永久的に眠るヤツじゃねェよなソレ‼︎」
このまま無視を決め込んでいたら、何をされるかわからない。
そう判断した黒瀬は寝るのを諦め、鼻をさすりながら
しかし、寝起きでテンションが著しく低い為に、飯を作れと言われてもやる気が全く出ない。
どう言い逃れしようかと頭を掻き、もう一人のダメ人間が爆睡している和室を指差す。
「ほれ、アイツ。銀時に言えばいいだろ。意外とちゃんとしたもの作るし」
「なにメンドくさがってるアルか。だから、銀ちゃんもアッキーもいい歳こいてマダオなんだヨ」
「大の大人にそれはないんじゃないの?」
こんな子供に正面からマダオ(まるでダメなオッさん)認定されるとは。
というか、まだオッさん呼ばわりされるような歳ではない、多分。
なかなか動かない黒瀬に、神楽はトドメと言わんばかりにカレンダーを指差す。
それは、万事屋メンバーの名前を日毎に書いた飯炊き当番表でもあった。
「言い逃れは無駄アル。今日はアッキーの当番ネ」
神楽に言われ、黒瀬は目をこすりカレンダー兼当番表を凝視する。
「………あ、ホントだ」
当番なら仕方がない。
そう割り切り、神楽に催促されるがまま台所に向かった。
■■■■■■■■■■
テーブルを囲む銀時、神楽、黒瀬の三人。
机上に置かれた茶碗を訝し気に見つめ、銀時は呟いた。
「………何コレ」
「朝飯でごぜーます」
ふざけた口調で返す黒瀬。
朝飯と断言するだけあって銀時の疑問に何も思っていないらしく、平然とソレを食べていた。
神楽も同様に、食べられれば何でもいいのか、ソレを胃に流し込んでいた。
「何で食えんの?バカなの?味覚がバカなの?」
「お前に言われたかねェ」
議論の中心にあるソレとは………イチゴジャムをかけた白米である。
美味いものと美味いものを掛け合わせたら、もっと美味いものが出来上がるという単純思考でも、なかなか合わせようとは思わない食材である。
せっかくの食材をドブに捨てるようなものだ。
「甘党の俺でも、こんな暴挙には出ねェよ。ジャムは米じゃなくて、パンに乗せるもんだろーが」
「白米にあずきかけるのは暴挙じゃないんか」
俗にネコのエサと呼ばれている、あずきかけご飯。固有名称《宇治銀時丼》というのだが、あれもあれでどうかと思う。見た目的に。
「アッキー、ジャムもいいけど、ごはんにかけるなら゙ごはん◯すよ゙がいいアル」
「それがなァ………米とジャムと調味料しかなかったんだよ。工夫した結果だ」
「これのどこが工夫!?頭のネジ外れてもこの二つでフュージョンしねーよ‼」
一切悪びれる様子のない黒瀬。
これでも、冷蔵庫を覗いてどうしようか迷ったのだ。卵があれば適当に卵かけご飯でも出そうかと考えていたのだが、少量の調味料とジャムしか入っていなかったのだ。
しかもジャムは賞味期限ギリギリで、食えるものは食わねばと試行錯誤したのだ。
捨てるのが勿体ないというのもあるが、単品ずつでは扱いに困るので白米に乗せてみた次第。
「おはようございまーす」
ジャム飯の賛否を議論していると、風呂敷に包まれた何かを携えた新八が出勤してきた。
居間に来た新八は、机上に置かれたジャムご飯を視界に捉え、表情を強張らせる。
「な、なんスかソレ………その組み合わせは考え物ですよ」
日頃、姉であるお妙が生成する黒焦げの焼けた卵を見ている新八でも、顔をしかめるほどの異物であるようだ。
「んだよ、お前ら食いもせんで文句ばっかか。俺だって好きで食ってるわけじゃねェんだよ」
「じゃあ何で作ったんだ。せめて別々にしろよ」
「別々にしたって食わんだろ」
苛立ちの含んだ声で、銀時は眼前の物体Xを手に取る。
どこからどう見ても、食欲のそそられるビジュアルをしていない。
「それにしても、神楽ちゃんと同じ事するなんて………黒瀬さんって料理出来ないんですか?」
「だから、食い物がなかったんだって。あったらこんな手抜き料理作らん」
「究極の手抜き料理出しといて、なにぬかしやがる。つーか、料理とも言えねーよこんなもん。銀さんはこんな勿体ないことしません」
銀時はジャム飯を机上に戻し、拗ねる子供のようにそっぽを向く。
それを見計らったように銀時の隣に座っている神楽が、横からジャム飯を掻っ攫い躊躇もなく胃に流し込んでいく。
作ったからと自分に言い聞かせながら嫌々完食した黒瀬は、カラになった茶碗をテーブルに置き目を細める。
腹立つ。非常に腹立つ。姑に毎日いびられている嫁並みに腹立つ。
「じゃあ何か?米、調味料、ジャムで主菜、副菜の揃ったものを作れとでも言うんか?どこぞの錬金術師でも無理だろうが‼等価交換の法則無視してんじゃねェぞ!!」
「お前ならやれるはずだ!諦めんな!」
「根性論でどうにかなる問題じゃあねェんだよ‼アホだろ腐れ天パ‼」
銀時と黒瀬が言い争っていると、見かねた新八が手に持っていたものをテーブルに置いた。
「あの、僕持ってきましたから。少ないけど、持ってきましたから」
新八の施しに、瞬時に目の色を変えた銀時と黒瀬が風呂敷に包まれたものに食いつく。
『金か‼』
「アンタらなんかに、びた一文も貸すわけないでしょ‼」
「じゃあ何持ってきたアルか。駄メガネのくせに勿体ぶってんじゃねーヨ、駄メガネのくせに」
「何で貶されなきゃいけないの!?そんなに言うんならやらねーぞバッキャロー‼」
と言いつつ、新八は風呂敷をほどいていくと、黒光りする四角い箱が姿を現した。
遠足やお花見などでよく見る、重箱の弁当だ。
しかし、重箱とは言え二段のもの。新八の言っていた通り、特別多いというわけではない。
「新八が作ったんか?」
「はい。姉上がアレなもんで………それに、少々多く買い溜めしてしまって、賞味期限までに消費しきれないからと、姉上と相談しまして」
食いっぱぐれているだろうという予想を立てて、ほぼお情けで持ってきたのか。
用意したのが姉上じゃなくて良かったと思う。
照れて頬を掻く新八を余所に、銀時と神楽は態度を一変させ重箱に手を伸ばしていた。
「なんだよォ新八君、そうならそうと早く言ってくれよ~」
「だからお前はいつまで経っても新八なんだヨ。だから料理の腕も上達しないんだヨ」
「ちょっそれどういう意味!?食べてから言ってよ、そういうことは‼」
味の良し悪しはこの際除外するとして、新八が作ったとなれば平々凡々ながらも、ジャム飯よりは何十倍もマシであることは確定事項。
食い気の権化神楽と、いびり屋銀時は表情に出さないものの、胸を躍らせながら一番上の蓋を取った。
『…………』
全員が、一瞬にして凍る。
それは新八も例外ではなかった。
「これさァ………
顔を引き攣らせた銀時が、確認する様に言う。
箱の中には、異質なオーラを放つ真っ黒な物体が入っていた。
添え物としてパセリも入っているが、そんなもので相殺されるほど
「新八。お前もやっぱ弟だな。こんなモン平然と出すお前の気が知れん」
「ジャム飯出したアンタに言われたくないよ!に、二段目!二段目なら大丈夫ですよ‼」
新八に促されるまま残る二段目に希望を見出し、
『…………』
異質なオーラを放つ黒い物体。添え物は、シソの葉。
「デジャヴぅぅぅぅ‼何なのコレ!何したいのコレ!添え物変えたってなァ、何も変わんねーんだよ‼どこまでいっても暗黒物質は暗黒物質なんだよ‼焼けた卵のままなんだよ‼」
食えるものと言えば添え物しかない。しかし、普段なら葉っぱとしか見ないその添え物のパセリとシソも、神楽によって即座に片付けられてしまった。
「ちゃ、ちゃんと詰めたはずなのになんで………いや、姉上が原因なのは分かりますけど………」
「逆にお前の姉上以外、考えられんだろコレ………」
新八は頭を抱えて困惑する。
中身が丸焦げになったのか、丸焦げのものとすり替えられたのか。
この際どっちでもいいが、食えたものではないのは確か。
黒瀬はため息をついて買い出しに行くかと考えていると、重箱の下に紙が差し込まれていることに気付いた。
メモ用紙のようで、引っ張り出し読んでみる。
「“新ちゃん、私も作ったので入れておきます”………確信犯じゃねェか」
「姉上ェェェェ‼入れておくっていうか、丸々入れ替えちゃってますけどォォォ!?」
「銀ちゃん、コレ食べないと死ぬアルか」
「食っても死ぬ。天国への片道切符だよコレ」
「空腹で変な気起こすなよ。ホントに昇天しても知らんからな」
おそらく、残したらお妙が………とでも考えているのだろう。
本人がいない間に処分すればいい話なのだが。
とにかく、
勿体無い。非常に勿体無い。黒焦げにされた卵達がいたたまれないがゴミ箱へ投げ入れ、カラの重箱を積み直し風呂敷で包む。
黒瀬はそれを元凶の弟たる新八へ渡す。
「まず、これで全部チャラだ。新八、あとは頼んだ」
「いや、中身捨てて振り出しに戻っただけなんですけど。姉上また仕込むと思うんですけど」
眼前の焼けた卵が無くなり気が晴れたのか、銀時は鼻をほじって鼻くそを飛ばす。
「だったらそのたびに捨てりゃあいいだろ。バレなきゃいいんだよ、バレなきゃ」
「悪い大人だ。悪い大人がいる」
捨てるしか対処法がないのも確かなのだが。
「それより黒瀬。昼はちゃんと作れよ?あんな家畜の餌、俺ァ食いたくねぇ」
「腹立つ、めっちゃ腹立つ。その鼻へし折ってやりてェくらいに腹立つ」
黒瀬は立ち上がってソファに掛けていた着流しを羽織り、カラの茶碗三つを片付ける。
「テメェら見てろよ!文句言えんくらいのモン作ってやっからな‼︎」
台所に向かう黒瀬を三人はあっけらかんと見つめ、しばらく経ってから玄関の戸が開閉する音が聞こえた。
黒瀬が戻って来ないあたり、出て行ったのは彼だ。
「あの、いいんですか銀さん」
「何が?」
「アッキー、半ギレだったヨ?」
「………いいんだよ。いつものこった」
そうぶっきらぼうに言った銀時は、傍にあったジャンプを手に取り何事もなく読み始めたのだった。
■■■■■■■■■■
黒瀬の宣言通りその日の昼は、朝のジャム飯とは打って変わってちゃんと主菜、副菜の揃ったザ和食だった。
足りない食材をわざわざ買いに行っていたらしい。
言ったからには、という行動の表れだったのだろう。
しかしそれ以降、ふりかけやお茶漬け、卵かけご飯などの手抜き飯しか出ていない。
銀時曰く、「黒瀬はああやって挑発でもしないと、面倒くさがってあり合わせで変なものを作る」とのこと。
理由を聞いた新八は、「他人のこと言えないのでは?」と思ったが口には出さなかった。
栄養バランス度外視は日常。
それを裏付けるかのように今日も眼前には、顔が引き攣る取り合わせの珍妙飯が置かれている。
次は原作の話に戻ります。
オリジナルは息抜きがてら余裕があるときに、また書こうと思います。いつになるかわかりませんが………。
それでは、また次回。